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研究内容
我々の研究室では、宇宙の基本構成要素である素粒子の理論的研究を行っています。この世界は何から出来ているのか。それらはどのように相互作用しているのか。それらの背後にある法則は何か。この法則のもとで宇宙はどのように進化しているのか。この様な「究極の疑問」に答えるべく、これまでの理論的・実験的研究を基に、より基本的な自然法則を見出そうというのが、素粒子理論の研究です。
場の量子論
場の量子論の方程式は、無限個の変数を含む非線形方程式であり、物理的に興味のある系に対してその厳密解を求めることは通常不可能です。場の量子論の系統的近似法としては、場をさざ波の重ね合わせで近似する「摂動論」が代表的なもので、場の量子論の摂動論的定式化はよく理解されています。また、この摂動論的量子化の立場からは、素粒子の存在が自然に導かれます。
一方、強い相互作用におけるカイラル対称性の自発的破れやトンネル効果など、自然界にはこの「摂動論」では、理解できない現象が確かに存在することも知られています。こうした「非摂動論」的な現象を第一原理から研究するには、場の量子論の非摂動論的定式化とそれに基づいた解析が必要です。
実は、驚くべきことに、素粒子標準模型自身、その非摂動論的定式化は知られておらず、標準模型の非摂動論的定式化を見出すことは素粒子理論の大きな課題になっています。この問題は、量子効果によって古典力学の対称性が破れるアノマリーという現象と深く関連しています。また、従来の素粒子模型は、摂動論的な描像に基づくものが主でしたが、今後は場の量子論の非摂動論的ダイナミクスを本質的に用いた素粒子模型が重要になる可能性も大いにあります。こうした、場の量子論の新しい可能性、未踏の地を切り開くような理論的・数値的研究を精力的に行っています。
標準模型を超える物理
現在、実験的に検証されている限りで最も基本的な物理理論は標準模型と呼ばれるものであり、約10のマイナス18乗メートル(原子核の1000分の1)の大きさまでの物理を正しく記述します。2012年にはヒッグス粒子が発見され、LHC実験の最先端はヒッグス粒子の精密検証のフェーズへと移っています。一方で、実験・観測の進展により標準模型を超えたさまざまな現象が見つかってきています。なかでもニュートリノがゼロでない微小質量をもつことや暗黒物質の存在することは疑いないものとなっており、その起源を明らかにすることがますます重要になってきています。
特に我々は標準模型において全ての粒子の質量の起源となっている「電弱対称性の破れ」がどのように実現されているのかに興味を持って研究しています。 標準模型においてヒッグス粒子の質量はパラメタですが、発見されたヒッグス粒子の質量は理論的に``自然な''値ではありません。この標準模型に内包された問題が電弱対称性の破れの起源に強く結びついていると考えられています。我々はそのような物理が何であるかについて想像を巡らし、それを実験や観測からどのように検証すればよいのかを考察しています。また比較的新しい考え方である、超高エネルギーでの境界条件による理解など新しい可能性についても模索しています。
ニュートリノ研究は日本が世界をリードする分野ですが、ニュートリノの質量の起源は未だに明らかとなっていません。大統一理論や暗黒物質との関係を含めてさまざまな可能性が議論されています。また、暗黒物質の検出を目指す実験が多数行われていますが、より強い制限が更新され続けており、これまでに想定していなかった新しいタイプの暗黒物質が注目を集めてきています。
超弦理論に基づく素粒子現象論・宇宙論
自然界で観測されている4つの力(重力・電磁気力・強い力・弱い力)を量子論的に記述する統一理論の最有力候補が「超弦理論」です。超弦理論は、素粒子ではなく「弦」を基本要素とする理論で、我々が認識している4次元(空間3次元+時間1次元)に加えて6次元の余剰次元空間を予言します。この余剰次元空間は観測されない程度に小さくコンパクト化されていると考え、我々は直接認識できません。超弦理論の誕生後36年以上、カラビ-ヤウ多様体をはじめとする膨大な数の6次元コンパクト空間が調べられてきましたが、未だコンパクト化のルールの全貌は不明であり、素粒子標準模型の導出には至っていません。
6次元コンパクト空間の幾何学量や幾何学的対称性は、素粒子の世代数、世代構造、結合の強さ、CP対称性の破れ等を決定します。我々は、6次元コンパクト空間の持つ豊かな幾何学的構造に注目し、超弦理論に基づく素粒子現象論を研究しています。また、超弦理論に現れる6次元コンパクト空間とその真空構造の探索手法として、近年発展が著しい機械学習・深層学習等を用いた研究も行っています。
特別研究
4年生の特別研究は、1年を通じて場の理論、超弦理論や素粒子物理学の入門的な本の輪講を行うのを通例としています。 テキストは、年によっていろいろな本が取り上げられています。
場の理論や素粒子理論の計算がきちんと行えるためには、 解析力学、量子力学、統計力学、特殊相対性理論、物理数学など物理学の基幹的な科目について、 十分な理解が必要です。 素粒子理論を研究したい人は、これらの科目をきちんと勉強しておきましょう。
過去に輪講に用いた本
2023: 素粒子物理学 (M. E. ペスキン), 現代的な視点からの場の量子論 (V. P. ナイア)
2022: 素粒子標準模型入門 (W. N. コッティンガム, D. A. グリーンウッド),
2021: 素粒子標準模型入門 (W. N. コッティンガム, D. A. グリーンウッド), An Introduction to Quantum Field Theory (M. Peskin, D. V. Schroeder)
2020: 素粒子標準模型入門 (W. N. コッティンガム, D. A. グリーンウッド), Quantum Field Theory (M. Srednicki)
2019: ゲージ場の量子論 (九後汰一郎)
2018: A First Course in General Relativity (B. Schutz) & An Introduction to Black Holes, Information and the String Theory Revolution (L. Susskind and J. Lindesay)
2017: Quantum Field Theory (M. Srednicki)
2016: A First Course in String Theory (B. Zwiebach)
2015: A First Course in String Theory (B. Zwiebach)
2014: Quantum Field Theory (M. Srednicki)
2013: A First Course in String Theory (B. Zwiebach)
大学院を目指す方に
大学院に入学して最初の一年は、ほぼ場の量子論の勉強に費やされます。 通常、M1のゼミでは場の量子論の標準的なテキストを用いて、素粒子標準模型の理解を目標とします。 M1の終わり頃、各人の興味にしたがって研究内容を選びます。 素粒子理論の分野の研究は高度に技術的なので、修士論文は必ずしもオリジナルな研究である必要はないのですが、最近は最先端の研究を自分で行った修士論文も多いです。
日常的な研究活動としては、他大学から講師を招いて講演をして頂く「セミナー」、 最近の興味深い文献を研究室のメンバーが紹介する「文献紹介」などが行われています。 その他にも、特定のテーマについて興味を持った人たちが集まって自主的なゼミをしたり、研究のための議論を日常的にしています。
修士課程修了時の就職状況は良好で、希望職種に順調に就職しています。博士課程では、博士号を取得後、さらに研究者への道を志すこともできますし、最近では企業や官公庁への就職状況も良好です。