番外シリーズは徒歩巡りコースではなく各々単箇所の紹介になります。
番外1 借景庭園を訪ねる
庭園を造る時に背景に自然の山の姿を借景として取り入れたりする。京都では概ね東山、嵐山、比叡山の何れかが多いようだ。ここでは借景や背景との一体化が楽しめる場所を訪ねてみる。
(1)鹿王院(ろくおういん)
嵐電・鹿王院駅そば。枯山水の庭の一角に舎利殿があり、その背後に嵐山が望める。ちょっと距離があるので余り明確な借景ではないかも知れないが、本殿の縁側に座ってしばし眺めるのは落ちつく。
(2)大河内山荘(おおこうちさんそう)
大河内山荘自体が嵯峨野の自然風景なので借景というわけではないかもしれないが、それでも保津川を挟んだ対岸の嵐山の風景と自分の所の植栽は一体化して、見事な借景となっている(1枚目写真)。また、展望台からは保津川を隔てて、嵐山の千光寺の本殿や鐘の音が楽しめる(2枚目写真)。
(3)天龍寺
世界遺産の天龍寺では中心となる池の背後に嵐山が取り入れられている。ここでも途中に保津川があることを全く意識させず、遠近一体となった景観を醸しだしている。いつも人が多いので静かに味わうには程遠いのが残念。
(4)永観堂・禅林寺
東山を借景にというよりは自らが東山の風景の一部を構成していると言った方が適切だろう。寺院や庭園の背後に広がる東山の風景との一体化は見事だ。光線の具合にもよるが東山のモコモコとした木が面白い。シーズン中は池の回りに人出が多いが、開設される茶席に座って眺めるのが良い(ま、それも混んでいるが)
(5)無鄰菴(むりんあん)
南禅寺近くの岡崎の掘割の横にある邸宅・庭園。邸宅の前に回遊式の庭園が作られ、その奥の方に控えめに東山が借景として望める。どこでも水音が耳に心地よい庭園だが、一つ問題は近くの京都動物園から動物の奇声が時折響き渡ることである。なお、入場に当たっては予約制等の制限あるので注意。
(6)実相院(じっそういん)
叡山電鉄・岩倉駅から徒歩20分程度(バス便もある)。東向きの「心のお庭」と呼ばれる石庭の背景に遠く奥比叡が借景として望める。そんなに人は多くないので、静かな観賞が出来るが、残念なのは手前に電線や現在の家屋が入り込んでしまうこと。
(7)正伝寺(しょうでんじ)
ちょっと不便な場所にあるので地下鉄・北大路駅からタクシーが便利。「獅子の児渡し庭園」は比叡山を借景にして見事な様を見せている。いかにも借景の代表みたいな場所だ。それほど人は多くないので、縁側に座ってゆっくり観賞できる。
(8)白龍園(はくりゅうえん)
叡山電鉄・二の瀬駅の近く。ここは丁寧に作られた庭園である。一部の風景は谷を隔てた対岸の山肌の木々に映える。その山はこの園の物ではないだろうが、ごく自然に調和している様は素晴らしい。開園期間や予約などの制約あるので注意。
(9)宝泉院 (ほうせんいん)
大原・三千院の近隣の小寺。座敷に座って庭を眺める。庭の範囲は並んでいる竹の所までだろうが、視線はその先の風景に伸びている。そのあたりは寺の土地ではなく、農村風景の一端なのだと思うが、上の白龍園と同様、借景ということではないだろうが、地域の自然とのつながりが美しい。三千院に近く、そこから回ってくる観光客も多いので、ややざわつくこともあるが、付いてくる抹茶と共にゆっくりと観賞するのが良い。
(10)実光院(じっこういん)
大原・三千院の近傍の小寺。入口や建物は狭いが、庭は広く花々が豊富。ここも背景の山とスムーズに景色がつながっている。山の南面が見えているので天気が良い場合は明るく爽やかな借景となる。
(11)正法寺 (しょうほうじ)
近隣の駅からタクシー利用が効率的(バス便もあることはある)。本殿の先に室生殿という座敷があり、その東側に「鳥獣の石庭」がある。この庭の中に立つ一本の紅枝垂桜が有名だが、庭の先には遠く東山の山並みが借景として捉えられている。