シンチレーターについて

放射線計測の手法は様々でありますが、代表的な手法のひとつにシンチレーターを用いた放射線計測法があげられます。シンチレーターとはα線やX・γ線等の放射線を可視光に変換する蛍光材料の一つです。シンチレーターが放出した光を光電子増倍管やフォトダイオード等の光検出器によって光を電気信号に変換することで放射線の検出が可能となります。シンチレーターを搭載した放射線検出器の応用先は多岐にわたり、レントゲン検査やX線CT検査をはじめとする医療分野や空港手荷物検査をはじめとするセキュリティ分野等の様々な分野で活用されております。

応用先によってシンチレーターの要求特性は様々であり、代表的な要求特性としては製造コストが低い、高い発光量(放射線のエネルギーに対して可視光へ変換する効率が高い)、高い透光性、非潮解性、高い放射線耐性、検出したい放射線の種類に応じた適切な実効原子番号を有しているがあげられますが、上記すべての特性を有するシンチレーターは存在せず、応用先に応じた要求特性を有するシンチレーターの開発が求められております。

α線検出用シンチレーターの開発

α線検出用シンチレーターはX・γ線との弁別が可能で中性子に感度を持つ元素(Li,B等)を組成に有さない化合物が用いられております。特に要求される実効原子番号は中程度(10-30)であり、周期表でいう2-4周期の元素で構成されるシンチレーターが求められております。現在、α線検出用シンチレーターは半導体材料であるAg添加ZnSが用いられており、この化合物がα線検出に適切な実効原子番号に加えて、高い発光量を有することから長らくα線検出器として用いられてきました。しかしながら、実応用においてこの材料は不透明体が用いられており、変換された可視光が光検出器に届きづらいことから、エネルギー分解能が悪く、結果として異なるα線源を区別できないという欠点がありました。そのため、α線検出用シンチレーターにおいて、高い透光性を有する形状での合成が可能な代替材料の開発が切望されております。

私はα線検出器向けに単結晶や透光性セラミックスの作製が可能な半導体材料であるZnOやβ-Ga2O3やレーザー材料であるTi添加α-Al2O3のシンチレーション特性に関する研究を行っております。特に透光性セラミックスはシンチレーター分野において新規の材料形態であり、近年注目されております。私はβ-Ga2O3透光性セラミックスの作製を行い、作製したセラミックスを大気圧下でアニール処理を行うことで発光中心となる格子欠陥の制御を行い、発光量の向上を目指しました。結果として、アニール処理を行ったサンプルの内、最も高い発光量を示したサンプルのエネルギー分解能がα線検出用シンチレーターとしては非常に優れたものであったことが明らかになっております。

α線検出用透光性セラミックスシンチレーター

α線検出用単結晶シンチレーター

X・γ線検出用シンチレーターの開発

シンチレーターの応用先で最も市場規模が大きいのがX・γ線検出用シンチレーターです。X・γ線検出用シンチレーターは大きい実効原子番号、高密度、高い発光量、短い減衰時定数等が求められます。X・γ線検出用シンチレーション検出器は陽電子放出断層撮影(PET)装置等のフォトンカウンティング型検出器、レントゲン検査や空港手荷物検査等の積分型検出器に分けられますが、フォトンカウンティング型検出器は特に短い減衰時定数が求められ、今日においてTl+イオンによるns2-nsnp遷移発光やEu2+イオンやCe3+イオンによる5d-4f遷移の発光を有するシンチレーターが主に用いられてきました。一方、積分型検出器においては減衰時定数がそこまで重要ではなく、上記以外の発光を有するシンチレーターも検討されております。また光検出器において以前は光電子増倍管が用いられておりましたが、近年、フォトダイオードを用いた放射線検出器の需要も増えてきており、特に積分型検出器の多くはフォトダイオードを用いたシンチレーション検出器が用いられております。

私は現在X・γ線検出器向けEu3+やSm3+イオンの発光を利用した新規単結晶シンチレーターの開発を行っております。これらの発光は遅い減衰時定数を示すものの、フォトダイオードの高感度域に強い発光を示すことから積分型X・γ線用シンチレーション検出器に適していると考えられます。私はEu3+やSm3+イオンによる4f-4f遷移の発光に着目し、化学的安定性を有するガーネット構造を有するY3Al5O12やGd3(Al,Ga)5O12単結晶のシンチレーション特性の評価行っております。特に作製したEu3+添加ガーネット材料については既製品に匹敵する高い発光量を示すことが明らかになっております。

X・γ線検出用単結晶シンチレーター