ホンダワラ類の密生地帯はガラモ場と称され,小型甲殻類や巻貝類,稚魚などの生息場となります.ガラモ場には多様な葉上動物群集が形成され,特に小型無脊椎動物は分解者や他の消費者の餌料として重要な役割を果たします.本研究では日本海側の中心に位置する能登半島において,優占種であるヨコエビを中心とした小型無脊椎動物に焦点を当てその季節動態について明らかにしていきます.また,2024年1月1日に発生した能登半島地震により,能登半島は津波や土砂の流入,海底地形の撹乱など甚大な被害が出ました.この地震により沿岸域に繁茂するホンダワラ類の葉上動物群集にも大きな影響が生じていると予想されます.本研究では自然災害が海洋生態系に与える影響をより正確に捉えることを可能にし,どのような生態系の回復/変化プロセスを経て群集構造が遷移するかモニタリングすることも可能にします.本研究から得られた生態群集データは,今後長きに渡り日本海側の中心に位置する能登半島沿岸域の小型無脊椎動物相を議論する上で重要な知見になると考えられます.
甲殻類が体サイズを大きくするには脱皮が不可欠です.一般に,エビやカニなど多くの甲殻類は生涯の脱皮回数に制限がなく,脱皮と産卵周期が同調しています.その一方で,ズワイガニなどのクモガニ上科では,一生の脱皮回数が決まっており,ズワイガニの雄は稚ガニから10–13回目の脱皮が最終脱皮となります.しかし,この最終脱皮のメカニズムがどのように規定されているのか,その遺伝的・環境的要因は未解明です.この原因は,本種の最終脱皮に近い成熟個体の脱皮頻度が1–1.5年に一度となるため,実験計画の立案が困難なことにあります.そこで本研究では同じクモガニ上科に属するオオヨツハモガニに着目しました.本種は温帯性の小型種で,国内に広く分布しています.ズワイガニ同様に最終脱皮後に鉗脚が大型化するだけではなく,本種の寿命は約1年と短く,磯場で容易に採集可能であるなど実験動物として優れた形質を示します.また,オオヨツハモガニとズワイガニの最終脱皮機構において内分泌因子を中心にいくつかの類似点があることから,本研究ではオオヨツハモガニをモデルに最終脱皮の生理機能の解明に挑み,その成果をズワイガニに外挿することを目指します.
日本は南北に長く様々な環境が存在することから多種多様な生物が生息します.従来より太平洋側の生物相は調査が進んでいますが,日本海側はまだまだ情報不足です.そこで本研究では日本海側において,能登半島を中心に動植物相の解明を目指しています.また,調査地を沿岸域に絞らず陸域や深海域まで広げ,扱う生物種も限定しないことで,生物相について幅広く網羅したいと考えています.本研究は生物多様性や生物保全を議論する上で,大変重要な知見になると考えられます.