プログラム
特別講演
「社会的養護と親子関係」
講師 山縣 文治 氏
(関西大学 教授)
ミニシンポジウム
「NICUから支える子どもの心とからだ」
医師の立場から
「新生児科医として何ができたか?」
大橋 敦 氏
(関西医科大学こども看護学領域 教授)
看護師の立場から
「家族の歩みに寄り添って」
三浦 智子 氏
(関西医科大学附属病院総合周産期母子医療センター産科病棟 副師長)
ご家族の立場から
「小さく生まれた子どもを育てて」
石橋 真由美 氏
一般演題 (21演題)
口頭発表 13演題
ポスター発表 8演題
※ポスター発表はオンライン配信はしません。
ミニワークショップ(講義&体験)
「ココロとカラダをつなぐヨガ」
講師 平塚 梓 氏
(関西医科大学総合医療センター小児科 非常勤
/hanae yoga studioヘルスケア事業部)
共催セミナー
「神経発達症と睡眠障害」
講師 山内 順子 氏
(一般社団法人 大阪総合医学・教育研究会附属親と子の診療所所長 )
会長講演
“はじまり”を支える実践
-周産期医療と専門職養成課程の現場で考えていること-
大会長 長濵 輝代
(大阪公立大学生活科学研究科 准教授
/ 関西医科大学小児科 非常勤)
特別講演
「社会的養護と親子関係」
講師 山縣 文治 氏
(関西大学 教授)
2010年代の半ばから、社会的養護の分野では、子どもの権利・人権視点での改革が進んでいます。たとえば、2016年の児童福祉法改正では、子どもには権利が存すると、その権利は子どもの権利条約の精神に基づくものであることが明記されました。2022年にはこども基本法が制定され、そこでも同様の規定が設けられました。
一連の動きのなかで、社会的養護の分野では、改めて「パーマネンシー保障」の重要性を確認するとともに、社会的養護推進の基本として、①できるだけ親子分離を避ける、②分離をしたとしても短期的かつ一時的なものとする、③分離後の生活は家庭養護(里親、ファミリーホーム)をまず考える、④施設は小規模、小集団の家庭養護体制とする、⑤新たな親子を構築する(同居する、個々に相応しい心理的距離を保って生きる、養親縁組を考える等)、という緩やかな順序も法律に明記することとなりました。
大人はこのように考えましたが、社会的養護のもとで育った子どもたちはどのようにどのように考えているのでしょうか。「何をしても叩くんなら、今日の分は早く終わらせてほしい」、「心と身体を切り離して、虐待が終わるのを待っているんです」、「身体だけそこに置いでおいて、心はよそに置き、それを見ている私がいるんです」、「(養子縁組、里親、施設などの)形なんかどうでもいい。そこにいい大人がいるかどうかがすべてです」。10年近く続けている月刊誌のインタビューで出会ったケアリーバーの声です。
社会的養護のもとで育ったものの多くは、親との関係を整理し、生き続けなければなりません。完全に距離を置いている関係、葛藤の中でも親子関係の維持を考えている関係、親が虐待するのは自分に責任があるとの認識にとらわれている関係、養育者(里親・養親等)にも気を遣いつつ暮らしている関係。多様な関係を意識しつつ、新たな人生の始まりに向けて、一人ひとりの最善の利益を考慮しつつ社会は支援しなければなりません。
【ご略歴】
大阪市立大学教授を経て2012年より関西大学教授。専門分野は子ども家庭福祉。
主たる社会活動:
日本子ども虐待防止学会、日本こども社会学会理事。公益社団法人家庭養護促進協会理事長、全国社会福祉協議会理事。こども家庭庁こども家庭審議会委員(児童虐待防止対策部会、社会的養育・家庭支援部会各部会長)。
主たる著書:
『子どもの人権をどう守るか:福祉政策と実践を学ぶ』放送大学教育振興会,2021(単著) 『保育者のための子ども虐待 Q and A:予防のためも知っておきたいこと』みらい、2021(単著)『My Voice, My Life 届け! 社会的養護当事者の語り』全国社会福祉協議会、2022(編集代表)
ミニシンポジウム
「NICUから支える子どもの心とからだ」
医師の立場から「新生児科医として何ができたか?」 大橋 敦 氏
私は22年間新生児医療に携わってきて、沢山のことを赤ちゃんとご両親から学ばせて頂きました。若い頃は“治療”することに精一杯で、NICUから無事に退院することで安心していたように思います。しかし、担当した児を引き続き外来でフォローさせて頂く機会を得てから、NICUを退院してからが本当に大切であることに気づかされました。近年、医療的ケアを必要とする状況でNICUを退院する児が増えていますが、何らかの疾患を有する児を病院外で見守る環境は徐々によくなってきていると感じています。しかし、まだまだ不十分な点も多く、今回のシンポジウムでNICU退院後の課題の解決策が少しでも明らかにできればと考えています。
【ご略歴】
平成6年3月 関西医科大学卒業
平成6年5月 関西医科大学附属病院小児科 研修医
平成8年4月 関西医科大学附属香里病院小児科 医員
平成10年4月 東京女子医科大学母子総合医療センター新生児部門 助手
平成11年4月 関西医科大学附属病院小児科 医員
平成18年1月 関西医科大学小児科 助手
平成23年4月 関西医科大学小児科 講師
平成27年4月 関西医科大学附属枚方病院 病院准教授
平成30年4月 関西医科大学看護学部・看護学研究科 准教授、関西医科大学小児科 准教授(併任)
令和4年4月 関西医科大学看護学部・看護学研究科こども看護学領域 教授
<所属学会等>日本小児科学会(指導医、専門医)、日本周産期・新生児医学会(新生児専門医)、日本新生児成育医学会(評議員)、新生児蘇生法講習会インストラクター、出生前コンサルト小児科医
看護師の立場から「家族の歩みに寄り添って」 三浦 智子 氏
新生児医療では、家族も子どものケアに関わるチームの一員であり、子どものケアや治療・ケア方針の意思決定に参加することが重要視されています。このように家族と医療者のパートナーシップを基盤としたケアを行うためのアプローチをファミリセンタードケア(FCC)と呼びます。子どもの病気と向き合う家族の気持ちの変化に留意し、FCCを基盤とした子どもの成長支援を行い、退院後の生活に繋げていく必要があります。
私は関西医科大学附属病院の消化器内科勤務などを経てNICU病棟で12年、その後小児科外来で3年勤務し、再びNICU病棟に異動となりました。外来勤務を経験したことで、これまで大切にしてきたFCCの在り方、支援することの多様性、繋げていく看護の難しさを改めて実感しました。今回「“はじまり”から支える子どもの心とからだ」というテーマで皆さんにお話する機会を頂き、私自身の経験や思いをもとに子どもを中心に成長を支えていくことが、少しでもみなさんに伝わればと思い、現在までを振り返り、お話したいと思います。
【ご略歴】
平成11年3月 関西医科大学附属看護専門学校卒業
平成11年 関西医科大学附属病院消化器内科
平成11年 関西医科大学附属病院総合周産期母子医療センターNICU病棟
平成24年 関西医科大学附属病院小児科外来
平成28年 関西医科大学附属病院総合周産期母子医療センターNICU病棟 副師長
令和4年 関西医科大学附属病院総合周産期母子医療センター産科病棟 副師長
ミニワークショップ
「ココロとカラダをつなぐヨガ 」
講師 平塚 梓 氏
ヨガというと「若い女性がするもの」、「ダイエットや美容のため」、「体が柔らかい人しかできない」といったイメージを持たれるかもしれません。しかしヨガの本来の目的は、呼吸、姿勢、瞑想を組み合わせて心身の緊張をほぐし、心の安定を得ることとされています。
ヨガの語源には「つなぐ」という意味があり、心とからだのつながりを大前提とするヨガの考え方には、心身症領域の臨床と通ずるものがあると感じています。私たちが日々の臨床で出会う子どもたちも、そして私たち自身も、体調がイマイチなときは心もふさぎがちになるし、不安やイライラ、心に不調があるときはからだもしんどくなるものです。私はこれまで心理師(士)として、そういった心身の不調に対して、カウンセリングを通して「ココロ」からアプローチしてきました。それでもカウンセリングでは「頭が痛い」「息苦しい」「なかなか寝付けない」とからだの不調が多く語られます。それなら「カラダ」からアプローチする方法も習得すれば、心身両面からアプローチできるのではと、一昨年ヨガインストラクターの資格を取得しました。
今回のミニワークショップでは、ヨガの歴史や考え方を簡単にお伝えした後、皆さまに実際にヨガを体験していただきます。日々の臨床で即実践していただけるポーズや、日々忙しく過ごされておられる皆さまのセルフケアに役立てていただけるストレッチ(腰痛や肩こり対策など)もご紹介予定です。年齢や性別に関係なく、また妊娠中の方や、からだが硬いという方にも安心してご参加していただける内容を考えております。ヨガを通して、ご自身の「ココロ」と「カラダ」に意識を集中することの心地よさを体感していただければ幸いです。ぜひ動きやすい服装でご参加ください。
会長講演
大会長 長濵 輝代
(大阪公立大学生活科学研究科 准教授 / 関西医科大学小児科 非常勤)
今回、地方会をお引き受けするにあたって、テーマを“はじまり”にしようと決めました。
その理由のひとつには、私自身がNICUで心理臨床実践を行っているということがあります。周産期は、親と子が出会い関係性を育むこころのあけぼのの時期であり、大事に柔らかくしっかりと守られないといけないこころのはじまりの時期です。その一方で母親や新生児にとって、死や障害といったリスクを内包する時期でもあり、心身に大きな影響を及ぼす時期でもあります。さらに、赤ちゃんのNICU入院という出来事は家族にも大きな影響を与えます。私はこのNICUという場所のことを、当時小児科でお会いしていた小学生のきょうだいから教えてもらいました。その後、縁あってNICUに入ることとなり、そこから手探りでのNICU臨床実践がはじまりました。
また私は、大学の教員として心理専門職の“はじまり”にも関わっています。目の前の人やこころを正しく畏れ、目の前の人に学ぶ。このことは、心理専門職に限らずどの臨床家にも必要かつ重要な姿勢だと考えていますが、大事なことほど教えることはできず、自ら学ぶ(学び続ける)しかない、と痛感しています。とすると果たして自分にできることはなにか、と考えた時、「学び続ける仕掛けづくり」ならできるのではないかと思いつきました。
当日は、周産期と心理専門職養成課程という2つの“はじまり”の現場のなかで経験してきたことを整理し、現在取り組んでいることなどをお話ししたいと思います。