真社会性や群体性に見られるコロニーや高度な共生現象では、個体や生物種同士が分業することで、あたかもひとつの個体のように振る舞い「超個体」と呼ばれます。高度な分業制の成立やその多様化の過程で生じた発生学・生理学的な変化とその分子機構の解明を目指して研究しています。
真社会性動物の繁殖分業・カースト分化機構とその進化過程の解明
ミツバチやシロアリなどの真社会性動物では、生物の生存原則である「繁殖」を放棄して他者のために働く不妊個体(ワーカー)が集団の大部分を占めます。女王や王などの繁殖カーストと不妊カーストが分化する繁殖分業の仕組みについては、多くの研究者を魅了してきましたが、未解明な点が多具残されています。私は雌雄が共存してコロニーを作るシロアリについて、巣内で王や女王が失われたときに、本来は労働のみに従事するワーカーが二次女王や二次王へと分化する性質に着目し、カースト分化のメカニズムを追求しています。これまでに二次女王分化を促進する個体間コミュニケーションや、カースト分化を制御する内分泌因子(幼若ホルモン・脱皮ホルモン・インスリンなど)の作用、さらにカースト特異的・部位特異的な形態形成を駆動するHox遺伝子の役割など、多角的な研究テーマに取り組んでいます。
群体性動物における群体組織化メカニズムの解明
無性生殖により増殖した個体(個虫)同士が密接に繋がりながら生活する群体性は、刺胞動物・外肛動物・内肛動物・尾索動物など様々な動物門に見られる現象ですが、個体の境界も不明瞭で複雑なコロニーを作ります。特に刺胞動物門のクダクラゲやギンカクラゲなどに見られる群体は、多数の個体が分業することで、あたかもひとつの個体のように振る舞うため「超個体」と呼ばれます。超個体の進化過程では、コロニー全体が個体のように振る舞う一方で、各個体は形態や機能が特殊化し、個体らしさを喪失することが知られています。動物にとって個体とは何か?群体性動物を対象に、個虫における個体性の喪失と群体の組織化のメカニズムの解明を目指しています。
動物における必須内部共生微生物の機能と共生進化機構の解明
昆虫をはじめ、多くの動物では微生物と体内共生することで、新規機能の獲得を可能とし、様々な環境への適応放散を可能としてきました。このような共生関係では、動物個体は共生微生物なしでは生存繁殖することができず、また共生微生物も宿主なしでは生きることが出来ないほど進化してきました。昆虫だけでなく、海産無脊椎動物における共生微生物の役割や共生の仕組みを明らかにするとともに、このような共生関係がどのような仕組みで進化してきたのか追求しています。
海洋表層における無脊椎動物生態系の解明
海の表面は、上空の大気と水との間で海洋の皮膚のような役割を果たし、この環境特有な生態系を保持しています。特に水面を生息地とするプリューストン生物(カツオノエボシやアオミノウミウシ)に着目し、彼らの謎に包まれた生活史や生態を解明すべく、水族館やビーチコーミングなどの市民活動の協力のもと研究を進めています。