授業を担当している学生さんからの要望をお受けして、いくつか研究を深化させるうえで役に立った本や影響を受けた本を紹介します。
マリアナ・マッツカート『企業家としての国家』『国家の逆襲』
新自由主義や小さい政府論がはやりつつありますが、イノベーションの源は政府による成長への投資だ!!というのが彼女の主張です。また、価値の創造へ向けてはリスクを背負ってでも政府は国債を発行して投資すべきとのこと。実際、iPhoneに使われている技術のほとんどはAppleではなく、政府による投資によって生み出されたとか(スティーブ・ジョブズは0→1の天才というよりも、5×20の天才なんですね)。なぜ日本にはGAFAが生まれなくてアメリカには生まれたのか?という問いは政府の科学技術研究への投資額の差と答えられそうです。
野生動物管理においても同様に、被害防除柵の維持管理、持続的な捕獲体制とジビエ供給システム整備には国債を発行してでも投資してもらえれば、獣害やそれに起因する離農の抑止、ジビエ産業やスポーツハンティング産業の発展といった価値創造によるリターンが見込めると考えています。また、新たな対策技術やイノベーティブな政策アイデアの創出には研究開発が欠かせないので、これは教育国債制度とか作って増やしてほしい。
中野剛志『政策の哲学』
主流派マクロ経済学批判と経済ナショナリズムやケインズ主義で有名な現役経産官僚の中野先生の代表作。まあ完全市場なんて存在しないですし彼の主張は結構正しいと思います。科学哲学の徹底的な渉猟と検証によって「科学」とは何か?といった問いに答えつつ、これまで生じてこなかった(しかし、潜在的に生じる可能性がある)問題へ対応するため、政治家や官僚、研究者などの政策立案にかかわるアクターはよりプラクティカルに社会構造をとらえるべきだと主張されています。例えば、コロナ対応なんか見ても、これまで存在してこなかった問題な上にエビデンスは無いので、政策立案者が体得したプラクティカルな感性は必要不可欠なんですよね。
ちなみに内容は激ムズなので、私は有給を3日とってこの本の解読に捧げました。それだけの価値はあるかと思いますし、野生動物管理においても科学原理主義に陥らず、プラクティカルな知性へのまなざしが必要だと考えます。