うれしたのし物語
ペガサスボーイ
第一話「赤ちゃん誕生」
80歳になったおばあちゃんは、ペガサスボーイが大好きです。
おばあちゃんは、少しヨボヨボしていますが、心はアルプスの少女ハイジです。自分のことを「ハイジばあちゃん」と呼んでいます。
ハイジばあちゃんは、ある晩、夢を見ました。
空からペガサスが飛んできて、おばあちゃんのお腹の中に入ってきました。
びっくりして、隣に寝ているおじいちゃんを、叩き起こしました。
「大変だぁ、私に赤ちゃんができたの。どうしよう❓こんな年で生んだら赤ちゃんが可哀想だわ」と話しました。
おじいちゃんは、目を擦りながら「お前はアホか?そんな歳になって赤ちゃんができるはずがない!」
そう言って、またグーグーとイビキをかきながら、寝てしまいました。
あくる朝「昨夜の夢は何だろう?」と、ふと思い出しました。おじいちゃんが、笑いながら「息子の家に赤ちゃんが生まれるのかもしれないな」と、ポツンと呟きました。
東京から遊びに来ていたお嫁さんが「おかあさん、私もしかしたら赤ちゃんができたかもしれません」と、そっと教えてくれました。
「まあ❗️おめでとう。嬉しいねぇ」と答えました。
「あのペガサスボーイは、お嫁さんの所へ飛んで行ったんだわ」
「きっと賢い赤ちゃんに違いない!一度私の所に降りてきて、間違えたことに気付いたんだわ」
あの夢の事を思い出しながら、クスクス笑いました。
「パワーボール」を持っているかと思うほど、元気な赤ちゃんが生まれました。普通の赤ちゃんは、お乳やミルクを飲むとぐっすり眠ります。
ところが、お腹が膨れてもあまり寝ない赤ちゃんです。「ピーピー、わぁわぁ、オギャーオギャー」と泣くのです。
パパもママも大変です。
初めての赤ちゃんに、朝から晩まで振り回されて、クタクタになってしまいました。
疲れ果てたパパは、その時ピンと閃きました。赤ちゃんを抱っこしながら、宇宙飛行士の事を思いつきました。「これなら泣き止むかもしれない❗️」
月面着陸した宇宙飛行士の歩き方を真似して、赤ちゃんをあやしました。
すると、不思議な事に、赤ちゃんは、泣き止んで、じっとパパの顔を見ていました。温かい愛を感じたのでしょう。安心して静かに眠りました。パパは大喜び❗️
そんな様子を見ていたハイジおばあちゃんは、にっこり❣️
「確かにこの子は、宇宙から降りてきたペガサスボーイだわ。間違いない❗️」
それからパパは、ママとおばあちゃんに、「宇宙抱っこ」の特訓を始めました。
赤ちゃんを抱いて、ゆっくり、スローモーションのように歩くのです。
ママは、勘も良くて、すぐに覚えました。流石ペガサスボーイのママです。
とてもうまく「宇宙抱っこ」ができるようになりました。
おばあちゃんは、何度も「宇宙抱っこ」の練習をしながら、赤ちゃんを抱きしめました。
「生まれてきてくれてありがとう❗️あなたがあのペガサスボーイだったのね。これからどうぞよろしく」と、赤ちゃんに語りかけました。
ペガサスボーイ
第二話「ぽかぽかのおもてなし」
赤ちゃんがすくすく育って幼稚園に行くようになってきました。
おばあちゃんは、ペガサスボーイに会うと歳を忘れて、子供の心に戻ります。
おばあちゃんは、何もかも忘れて、ペガサスの背中に乗って空を飛びます。だから、会うたびに元気になって行きました。
新幹線で東京に向かっている時です。お嫁さんから動画が送られてきました。
スマホのラインを開くと、ペガサスボーイが歌いながら、踊っていました。
「おばあちゃんくるのがまちきれなぁい🎵おばあちゃんくるのがまちきれなぁい🎵」とリズムに乗って踊っているのです。嬉しくて思わず、笑ってしまいました。
新幹線が止まると、お嫁さんが「おかあさーん❣️」と手を振っています。そちらの方向を見ると、ペガサスボーイは、まだ夢中になって踊っていました。
「あっ❗️おばあちゃんだ」
嬉しそうに駆け寄ってきました。おばあちゃんは、ペガサスボーイを抱きしめました。
家に着いて部屋の前に案内されました。「おばあちゃん、ようこそ❗️ゆっくりあそぼうね」と貼り紙がしてありました。とても可愛い文字が並んでいます。
「えっ、文字が書けれるようになったの❓」おばあちゃんは、びっくりしました。
じっと、ドアの文字を見ながら「なんてあったかいおもてなしなんでしょう❗️」おばあちゃんの心は、ぽかぽか熱くなっていきました。
ペガサスボーイ
第三話「嫁姑のちょっぴり奇跡」
おばあちゃんは、「ちょっぴり」という言葉が大好きです。
「ちょっぴり楽しい、ちょっぴり嬉しい、ちょっぴりセレブ、ちょっぴり感動、ちょっぴり美味しい、ちょっぴり人生」
こんなちょっぴり人生を歩んできました。どんな時でも、「ちょっぴり、ちょっぴり、ちょっぴり」と独り言を呟いています。
そうすると、鳥の鳴き声も犬の鳴き声も、猫の鳴き声も、聞こえるようになるのです。鳴き声が日本語に聞こえてくるのです。
「きっとよくなる、きっとんとん、とんとんびょうし」という言葉も、天から降ってきた言葉です。
「ちょっぴり、ちょっぴり❗️」って声に出すと、思わず笑えてくるのです。悩みが、みんな消えてしまうからです。
欲張らなければ、みんな「ありがとう」という気持ちに変わってしまうという事に気付きました。
だから、おばあちゃんは、いつもにこにこしています。
ちょっぴり楽しい小さな奇跡が、毎日起きてくるのです。だからね。嬉しくてたまりません。
「ここがお母さんの部屋ですよ。お母さんセットをここに置きましたよ」
「えっ❗️お母さんセット?」
ペガサスボーイの部屋に、おかあさんセットが置いてありました。中身は「バスタオル、洗面用具、パジャマ、フェイスタオル」
ふかふかの温かい布団と、かわいい枕。天井を見ると三機のおもちゃの飛行機が、気持ち良さそうに飛んでいます。
「まあ❗️最高だわ。何だか夢のお部屋だわ」
おばあちゃんの大好きなキャラクターのぬいぐるみもいっぱい並んでいました。
お嫁さんがにこにこ話しかけてくれます。
「お母さん、もっとたくさん泊まって、ゆっくりされてはいかがですか?」
「えっ❗️あなたと私は、嫁姑なんだけど❗️」と驚いてこの一言が飛び出しました。
「何日いて下さっても大丈夫ですよ。子供も遊んでもらえるから、私も助かります」
嫁姑戦争は、どこの国にもどこの家庭でも起きています。お嫁さんの一言に驚き「嫁姑ちょっぴり奇跡」が起きていることを、ふと感じました。ちょっぴり嬉しくて涙が溢れそうでした。
ペガサスボーイ
第四話「風のようにサッと動くパパ」
おばあちゃんは、新幹線に乗って品川駅に降りました。毎月のように東京の孫に会いに行きました。
こうして、遠くに住んでいる孫にも、近くに住んでいる孫にも会える喜びを味わっています。
何て便利な世の中になったのだろう。こんなおばあさんになっても、スマホひとつあれば、何処にでも出かけられる。誰とでも会える。ありがたや❗️
毎朝、太陽に向かって手を合わせ、毎晩、空を見上げて、月や星々に手を合わせています。おばあちゃんは、手を合わせて、毎日感謝することを日課としています。
ペガサスボーイは、パパとママと一緒にホームで待っていてくれました。
パパは「こんなに重いバックを持ってきたの?僕について来て❗️」と、サッと風のような速さで、おばあちゃんのカバンを肩にかけました。
デパートに入って行って「これでいいかい?今日の服の色に合わせるとこれだね」
パッとカードを出して、ピッと精算しました。
おばあちゃんのカバンの中の物を、キャリーバッグに詰め替えました。
何と手早いこと❗️あっという間に、カバンまで畳んで、キャリーバッグの中に入れてしまいました。全体が黒色で、ピンク色のチャックが付いていて、とても可愛いキャリーバッグ❗️
「はい、おばあちゃんのキャリーバッグをお前が運ぶんだよ」と、ペガサスボーイに手渡しました。彼は、にっこりして「うん、僕が運ぶよ」と嬉しそうに、キャリーバッグを押して走って行きます。
幼稚園になったので、キャリーバッグを運ぶことができるようになりました。
「ありがとうね。助かるねぇ」おばあちゃんも大きくなった孫を見て、嬉しくなってきました。
息子は、何でも「ポッ」と考え「パッ」と行動し「ピッ」とカードでお金を払ってくれます。その高速行動にびっくりしてしまいます。
幼い頃は、行動が遅くて、一番ゆっくりした子でした。
その息子が、風のような「ピッポッパッ❣️パパ👨」に成長していました。
田舎で育った子が、東京で揉まれ、仕事の世界で鍛えられているのでしょう。
こんな大都市での子育てはきっと大変に違いない❗️
おばあちゃんは、しみじみと感じました。
新しい時代の新しい風に乗って生活を楽しむしかないね。
田舎のおばあちゃんの心にも、春風が吹いてきて、何だか楽しくなってきました。
ペガサスボーイ
第五話「セミがこわーい❗️」
ペガサスボーイは、小学1年生になりました。
東京の少学校に通っているので、とても忙しい毎日です。宿題も沢山出るし、塾にも通っています。
パパは、田舎で生まれ、自然に囲まれて育ちました。セミやバッタを捕まえたり、泥遊びや雪合戦もできました。
ところが、東京で生まれたペガサスボーイは、虫を怖がります。公園でセミを見つけても捕まえることができません。
パパは、セミくらいは何とか触れるようになってほしいと思い、公園に連れて行きました。
「セミなんか怖くないよ。噛まないし、何にもしないから」と説明しました。
「だって、急に飛ぶし、オシッコをかけるんだもの」
「ほら、パパ、セミがいるよ」と言いながら、たも網でやっと捕まえました。嬉しそうに「捕まえた❗️」と叫びました。
「すごいじゃん❗️よく頑張ったな」パパは大喜び❗️
その後、たも網から出して虫かごに入れなければなりません。
「怖いよ、パパ。触れないよ」
「せっかく捕まえられたのに、まだ怖いのか?仕方ないなぁ。こうやってセミを虫かごに入れるんだよ」と
触り方を教えました。
「うん、わかったよ」
と頷きましたが、まだまだセミには触れませんでした。田舎育ちのパパは「うーん」と頭を捻りました。
ペガサスボーイ
第六話「田舎でトノサマバッタと遊ぶ」
ペガサスボーイは、小学生になりましたが、いまだにセミを怖がる少年でした。
パパは、何とか虫を怖がる息子を成長させたいと思っていました。
「よし❗️田舎に連れて行って虫と遊ばせてみよう」
毎年、家族一緒に、お盆とお正月に田舎に帰ってきます。パパの実家には、小学生のスポーツ大好き少女と虫大好き少年がいます。従兄弟ですが、姉弟のようにとても仲良しです。
パパは「これは良いアイデアだな」そう感じていました。
夏に実家に帰ってきた時のことです。近くの畑で、従兄弟の虫博士君が、トノサマバッタを見つけました。草がいっぱい生えている中で、3人は嬉しくて走り回っています。
会えた時は、嬉しくて一緒に遊び、東京に帰るときは、寂しくて涙を流します。田舎の従兄弟も泣きながら、手を振って見送ります。「また、遊びに来てね」と大声で叫ぶのです。
お盆とお正月は、子供達にとって特別の思い出ができます。
女の子は、走ることが大好きなので、ランちゃんと呼ばれています。ランちゃんは小学5年生、虫博士君は小学2年生、ペガサスボーイは、小学1年生です。
3人が集まると、キャアキャアワイワイとても賑やかです。
「ほら、トノサマバッタだよ。こうやって捕まえて、虫かごに入れるんだよ」と虫博士君は分かりやすく説明しています。
「うん、分かったよ。やってみる」
捕まえようとすると、バッタはピョンと飛んで逃げてしまいます。なかなか捕まえることができません。
その時、優しいランちゃんが「大丈夫だよ。きっとできるよ。見ててあげるから頑張ってね」と励ましています。
「うん、ぼく、がんばる❗️」にこにこしながらバッタを追いかけました。
「捕まえた❗️ヤッター」とみんなで大喜びしています。さあ、今度は虫かごに入れなければなりません。怖くて何度も失敗しましたがついに「ヤッター、成功❗️」と叫びました。
パパもみんなも大喜び。
「すごーい❗️よく捕まえたな」と思わず拍手しました。ペガサスボーイは、嬉しくて畑の中で、バッタのようにピョンピョン飛び跳ねました。
そのうちに、ランちゃんも虫博士君も、彼を追いかけて、また次のバッタを探しています。
パパは、虫と遊べるようになった息子の笑顔を見て、安心しました。
ペガサスボーイ
第七話「愛してるよ」
おばあちゃんは、ペガサスボーイのお陰でいつもわくわくしています。
彼の一言は、おばあちゃんの心を「アルプスの少女ハイジ」に戻してくれます。
アルプスの少女ハイジは、車椅子のクララちゃんと大の仲良しでした。
ハイジのお陰で、クララちゃんは、一人で歩けるようになりました。
おばあちゃんは、クララちゃんを勇気づけたハイジに感動しました。困っている人がいると、何とかその人の役に立ちたいと思っていたからです。
その想いが実現して、沢山の人々の人生相談を行っていました。悩みが解決したり、泣いていた人が笑顔になったりすると、嬉しくて幸せいっぱいの気持ちになります。その都度、クララちゃんの顔を思い出します。
おばあちゃんは、こんな物語を書ける人になりたいと呟いていました。そう思いながらも「でも、私には書けそうもないわ」と半分諦めかけていました。
ペガサスボーイのベットで一緒に本を読んでいました。「おばあちゃん、この本おもしろいよ。こんな本を書いてね。いつから書くの?」と突然聞かれました。
「そうだね、もうそろそろ書かないと、書けなくなっちゃうね」と答えました。
その時「はっ」としました。彼は、おばあちゃんの呟きをちゃんと聞いていたのです。
「おばあちゃん、長生きしてね。僕が大学生になったら、おばあちゃんのアプリを作って有名にしてあげるよ」と一言。「そうだね、頑張らなくっちゃ❗️」と孫に励まされ、にっこりしました。
一瞬、ふと思い出しました。ペガサスボーイが五歳の頃の事でした。いつもパパとママと一緒に、品川駅でお見送りしてくれます。
会う時はとても嬉しいのですが、おばあちゃんと別れる時は、二人とも悲しくなります。
「ではまたね」と手を振りながら別れました。新幹線乗り場は、沢山の人で溢れていました。人混みの中から「愛してるよ、おばあちゃーん、愛してるよー❗️」という澄んだ美しい声が聞こえてきました。
おばあちゃんは、ふと立ち止まり、後ろを振り返りました。すると「愛してるよー❗️」と、大きな声で叫んでいるペガサスボーイの姿が、目に飛び込んできました。
その姿があまりに可愛くて、涙が溢れそうになりました。
「またね」と手を振りながら、ホームに向かいました。
新幹線の中では、ずっと「愛してるよ」という言葉が、頭の上でクルクルと回っていました。おばあちゃんの心は、ぽかぽかと温かくなってきました。
おじいちゃんが、田舎の駅に迎えに来てくれていました。
「あのね、孫が愛してるって言ってくれたの。嬉しくて嬉しくて❗️」と、東京での出来事を、おじいちゃんに話しました。
「良かったなぁ」と笑顔で、おばあちゃんの話を聞きました。
「ペガサスボーイが大学生になるまで長生きしましょうね」と言うと、おじいちゃんも「うん」と頷きました。 完