実話物語

■第1話「あみちゃんの物語」

■第1話「あみちゃんの物語」


第一章『突然の知らせ』


突然、携帯に電話が入った。「娘が何かどうしても御話したいことがあるといっています」 最近様子がおかしいと言う~。


胸騒ぎがした。彼女は、幼いときから関わってきた。洋服のモデルにもなったことがあるかわいいおじょうさん。昨年6月、若者4人が乗った車が、S次型カーブを曲りきれずに高いところから、下の川へ転落。危うく命を落とすところだった。


一週間くらい前も事故があり、その方は亡くなった。彼らの事故の後も死亡事故が続いた。


警察が「4人とも助かったのは奇跡だよ」と言われたそうだ。


彼女は、「落ちて行く時は、スローモーションのようだった」と言っていた。怖くてもう死ぬんだとあきらめようとした時、男の人の低い声がして「しっかりして!」と叫んだそうだ。


河原に落ちて気がついた。周りを見ると、車の中には誰もいない。みんなガラスを割って外に放り出された。車は逆さになって、血だらけの足が挟まれ、身体が動かない。「どうしょう~?」車がジィジィと音がして、今にも爆発しそう… 


~ きっとんとん~助けてぇ


第二章『奇跡』


やっとの想いで、割れたガラスのドアから抜け出すことができた。


まだ夜明けなので薄暗い。 必死で友達の名前を呼んだ。「オーイ、ここだぁ~」とどこかで声がする。血だらけになりながらも、足をひきずってボーイフレンドのそばまで辿り着いた。


「死ぬかと思った。死んだばあちゃんが俺の名前を呼んだんだ!そのとき、目を開けたら俺、生きてたんだ。」と力をふり絞って話した。


「本当?私も誰かわからないけど声がして、助けられたの」「俺、首が痛くて動かない、助けてくれ~」他の二人も怪我をしている。


「そうだ!警察に電話しなくっちゃ!みんなを助けなくっちゃ!」


痛い足をひきずって、またも携帯電話を探しに車まで歩いた。


なんと運が良いことに、車は燃えていなかった。あせりを感じながら、自分に「落ち着いて、落ち着いて~」と言い聞かせた。「あったぁ」やっと携帯電話を見つけると、119番に連絡した。


どこに落ちたのか詳しいことはわからないが、とにかく冷静に質問に答えた。自分でも不思議なくらいに、落ち着いて話せたことに驚いた。


そして、「何て運が良いんだろう」としみじみ思った。


ふと川を見るとしばらく雨が降っていなかったので、水が少なくて河原が広がっていたのだ。


もし、雨が降っていたら、全員が川の中で助からなかっただろう。急に怖くなってブルブル震え出した。救急車を待っていてもなかなか来ない。


「あっ、来たぁ~ここだよー、ここ」と大声で叫んで手を振っても、ついに気づかず消え去った。


「やばい!俺が上に上がって叫ぶよ」頭を怪我しているもう一人の男の子がはい上がっていった。おもわずみんなで「頑張って!」と手を振った。


後ろも見ずに上がって行った。しばらくして、4人とも助けられ病院に運ばれた。


こうして、一年が過ぎ、やっと、身体に傷跡を残しながらも生き残った。しかし、またもや、彼女に大きな辛い試練が襲ってきたのである。 


きっとんとん、やれやれ<<o(>_<)o>>。


第三章『最高のプレゼント』


土曜日の晩、お母さんの運転で兄も妹の事を心配して、一緒に来てくれた。


その兄は、学生時代は、次々に問題を起こし、お母さんはふらふら。SOSを出して、ミニバラと関わってた。一言で表せないほど、すごかった。


ただどんな子供も愛しい…(o^-')b 事件を起こし、はらはらドキドキの連続だったがかわいくて憎めないところがある。


「もう、本当に、どこまでお母さんを心配させるの!」と言って首根っこを掴んで、地面に土下座させて謝らせたこともある。


謝った後、そのあまりにかわいい顔に、ハグしてホッペにチューをした。(^з^)-☆Chu!!「何するんだよぉ~。キモイー」と怒鳴ったけれど、その目は笑ってた。さっきまで青ざめていたお母さんもおもわず笑い出した。


離婚をして、一生懸命働いて、ぎりぎりの生活をしているのに、お母さんの携帯電話を使いまくり、一か月7万円近くの使用料!空いた口がふさがらない。真剣に叱った。


5才から可愛がってきたが、今では、私の背より高くなっていた。地面に土下座させる時は、飛び上がって、首を掴んだ。


今から思うと、自分ながら、あの時のあのすごいパワーはどこから出たのかわからない。多分この子を何とかしたいという想いだったのだろう。それだけ、彼のことを真剣に、本気で想っていたのだろう。


帰る時、車の窓を開け、「ミニバラ最高…!」と叫びながら、去っていった。


こうして、彼の中学時代を思い出していた。


20才になったとき、母の日に、「俺、刑務所に入らなくて済んだのは、先生のお蔭だよ」と言って、カーネーションをくれた。うーん~感激!「あんたは、ワルかもしれないけど、いい男だわ~女心を掴んだね。モテモテ男になるわぁ~」


この仕事をしていて、この瞬間が嬉しい!


心が相手なので、お互いの心が通じるまでに、時間が必要。だが心が通じあった時、お金にかえがたい感動をいただける。だから、何年も続けてこれたのだろう~ありがたや、ありがたや♪


まじめな中学生だった妹が、こうした兄の影響を受けて、日に日に変わっていった。中学2年生になってここに現れた時には、その姿に唖然とした。


きっとんとん、びっくりこっこあっ\(◎o◎)/!


第四章『彼女の変身ぶり』


彼女が中学生になってから、会っていなかったので、私の記憶の中では、小学生のまじめなかわいい女の子。


♪( ^o^)\(^-^ )♪ミニバラのクリスマス会に、兄と友達と一緒にやってきたのだった。彼女の兄は、ワルぶってはいるものの、本物ワルにはなりきれない。ただ服装やヘアスタイルは、はではでルックだった。


妹とその友達も中学生とは思えないほど、背も高く、化粧をしているのに驚いた。見違えてしまうほどの変貌ぶりだ。


宿題をしっかりやり、予習までしていたというのに~。(^-^)/~出て来た言葉は、「勉強なんておもしろくない。あんなのやったからってどうなるの?つまんないよ。遊び友達がいっぱいできたよ。学校は給食食べたら帰るんだぁ」


あまり学校へは行っていないようだ


「どうしたの?」と聞いたら「あの家には、幽霊がでるの。だから夜怖くて眠れないの。私を助けて{{{{(+_+)}}}}」と私の耳元に囁いた。


「えっ、ゆ、ゆ、幽霊」


きっとんとん(=_=)ビクビクぶるぶる~


第五章『引越しそして』


私は、基本的に、子供たちの話を全面的に信じている。


今の若者たちは、感性がとても鋭い。若者が私の周りに寄って来なくなった時が、私の引き際と決めている。


怖がって、話してくれたので「よし、わかった。あなたの家に行くわね~」と答えた。すぐにお母さんに連絡し、それからチョクチョク訪れることになった。


なるほど、空気が澱んでいて、気が重い。特に、彼女の部屋は、風通しも悪い。「うん、わかったよ。確かに幽霊が出るかもしれないねぇ~お母さんに、頑張って働いてもらって、引っ越ししようよ。」


二人とも大喜び!「わぁい、嬉しいな。俺もここは落ち着かないよ」と兄も言う。以前は、新しい大きな家に住んでいたのだが、離婚によって環境が変わり、借家に住んでいたのだった。


お母さんに事情を話したら、「何とか頑張って給料の良いところに変わりたいと思っていたところだったんです」と答えられた。


♪きっとよくなる、きっとんとん♪と心の中で唱えながら帰った。


それから、数年後、お母さんは、その言葉通り転職し、賃貸マンションへと引っ越しした。それからしばらくは幽霊は出なかった。


彼女は19才に成長した。すっかり大人になった彼女 が私にどうしても話したいと言って、ミニバラにやってきたという訳である。


車からやっと降りてきたと思ったら、私の顔を見た途端「ワァー」と泣き出した。私より大きな彼女を支えながら、部屋に入れた。


そこから、また新しいドラマが始まった。


きっとんとん、ポロポロ(*_*)(-.-)y-~~~


第六章『魔法使いになるよ』


まずは、ベットを用意をして、毛布をかけ、暖かくする。


暖かい飲み物を出してから、バスタオル、タオルを…。そして、暖かい言葉ね!


何より良く利くお薬は、何といっても愛!


大事に大事にする気持ちが伝わってゆく。「愛してるよ」と口でいわなくても、ある時は、まなざしからまたある時は手のぬくもりから、自然に伝わってゆく。


「あみちゃん、さあ、いっぱい泣いていいよ。よく我慢してきたね。もう大丈夫。あなたの力になるからね。じゃぁ、魔法使いになる心の準備してくるからね。お母さんと、お兄ちゃんは帰ってもらうよ。安心して、思う存分泣いていいよ。はい!タオルよ」と言った。


しずかにしくしく泣き出した。私は、心を清らかにするために、席をはなれた。


きっとんとん、しくしく|||(-_-;)||||||



第七章『フラッシュバック』


あみちゃんとその兄ゆき君の物語が続いてきた。


兄の影響は大きなものである。例えば、上の子が不登校になると、下の子も不登校になるケースもある。このケースも兄ゆき君の影響は大きなものだった。


ゆき君が中学生になって荒れ出してから、お母さんは彼に振り回された。


あみちゃんは、おとなしくて手がかからなかったので、お母さんはゆき君の方に目が向いてしまったのだ。彼女は小さいながらに、働く母に心配かけたくなかった。精一杯我慢していたのだろう。


しくしく泣き続けたすすり声が止んだ。「落ち着いた?涙は全部出ちゃったかな?無理して話さなくていいんだよ」タオルで涙を拭きながら、ぼつぼつと話し始めた。


ミニバラの部屋に入ってから、やがて一時間が過ぎようとしていた。


彼女は19才。恋の季節が訪れても不思議ではない。恋の話なのだろうか?恋愛、それとも失恋かしら?


「夜、眠れないの。去年、崖から数十メートル下に車ごと転落した場面がフラッシュバックで襲ってくるの。家で眠れなかったから、友達の家で泊めてもらったの」


「そうだったの。大変だったね。それから~」


「そこだったら、ぐっすり眠れると思ったのに、夜中にまた、幽霊 を見たの。ピンク色だったの」


「まあ、大変また出て来たの。あなたは優しすぎるから、つかれちゃうんだねぇ~よし、追っ払ってあげよう。」


ちょっとおまじないをした。少しづつ笑顔が出てくるようになっていた。


「うん、うん、それから~?」


「好きな男の子ができたの。」


私は、「ホォー、よかったねぇ~」と喜んだ。


「それが良くないの。お母さんがこういう人を好きになっちゃいけないと言った人を好きになってしまったの」


「あらら、大変だぁ~それは、どんな人なの?」と真剣な顔で聞いた。


きっとんとん~しんみり。。。。(〃_ _)σ∥


第八章『薬物そして別れ』


あみちゃんは、目をつむったまま話した。


友達の彼氏の友人を好きになってしまった。


ところが、彼は薬物に手を出し、止めようとしても、誘惑に負けてしまっていたのだ。


何とか抜け出そうとするのだが、何度も失敗を繰り返していた。それだけではなかった。暴走族のメンバーでもあった。好きになったらいけないと思えば思うほど、恋の虜になってしまった。


友達にも協力してもらってシンナーを隠してしまったのだが、彼は半狂乱となってあばれだした。そして、見つけるとにやりと笑っておとなしくなる。彼と付き合ってゆくうちに、薬物の恐ろしさが身に染みてくる。


何とか止めさせようともがいてみたが、どうにもならなくて、ついに病院にいくことを進めた。


薬物をやっても、運転をする。何ども何ども怖い思いをした。このままでは、身体を蝕まれ、苦しい思いをしなければならないだろう。


掻き立てられる思いを彼にぶつけた。けんかになった。彼は怒り、メールも携帯電話も繋がらなくなってしまった。


数後、携帯がなった。「別れよう」たった一言で切れた。


彼を薬物から抜け出させようと頑張ってきたあの日々は、一体何だったんだろう。私は、彼にとって何だったんだろう。突然、むなしさに襲われたという…★


きっとんとん、がっくりこっこ~


第九章『失恋』


彼のために一生懸命になり、エネルギーを使い果たしてしまったため、そのショックからなかなか立ち直れなかった。


兄のゆき君は、妹の様子はただごとではないと察していた。


あみちゃんは、自分の苦しみをお母さんには話せないでいた。母親の心配した通りになった自分を悔いていたのだった。


「別れた方が良い」 とわかっていても、なかなか心が決まらなかった。 向こうから 「別れよう」 と言われて、連絡がとれなくなってしまってみて初めて自分がどれだけ彼のことが好きだったかを思い知らされた。


涙が次々と溢れ出て来た。 苦しみから逃れるために友達の家に泊まり歩いた。 自分を見失ってしまった。


そんなあみちゃんに、誘惑の魔の手が忍び寄った。


失恋の辛さを忘れる為についにシンナーに手を出してしまった。


あれほどの思いをして薬物から離れて欲しいと、彼のことを思ってきたはずだったのに~。すべてがもうどうでもよくなってしまった。 ミイラとりがミイラになってしまった。


きっとんとん~あれれぇ<<<o(>_<)o>>


第十章『絆』


さてさてやっと涙の訳と車から降りて来る時のあのふらふらの訳がわかった。なるほど、それでわかった。


「まあ、よく話してくれたね。あのねぇ~誰にも話せなくて、自分だけの胸にしまっておくとね、眠れないし、そのうち笑えなくなっちゃうよ。何日もそんな日が続くとね、心の病にかかってしまうのよ。いったん、心の病にかかると治るまでに時間がかかるのよ。薬物に侵されたら、もっと辛いことになるよ。いつからシンナーに手を出したの?正直に話してくれるかな?」 と目を見て、祈るような気持ちで話してみた。


「うん、先生にだったら話せるよ」


「そう、よかった。」 涙を拭きながら 「3日前から」 と答えた。


「わかった。もう大丈夫だよ。なぜここに来ようと思ったの?」 と聞いた。


「すごく苦しくなった時に、先生の顔が浮かんだから~」


「まあ、そういう時に私のことを思い出すんだね」


彼女の背中や頭をなでながら、歌を歌った。女神様を呼ぶ歌を((( ^^)爻(^^ )))


幽霊を見たり、崖から転落した交通事故を経験したり、暴走族の人を助けようとしたり、シンナーを体験したり、また失恋の経験までも~数々のこうした体験は誰もができるわけではない。


彼女の優しさ、弱さ、感性の鋭さからだろうか?高校はいっていないけれど、こうした経験の中から、働くことにより身体ごとぶつかりながら学んでゆくのだろう。


私もこうした若者たちから学ぶことが多い。そして、一緒に泣いたり笑う中で、信頼という深い絆で結ばれる。女神様を呼ぶ歌を歌っていたら、急に笑い出した。


さっきまで泣いていた子が笑い出した。 私も彼女を抱き締めながら、一緒に笑った。


きっとんとん~にっこりこっこ(;^^)人(^^;)


第十一章『家族の絆』


私の元に来てから、ずいぶん時間が過ぎた。やっと涙を出しきって、心の膿みも出し切ったようだった。


かわいい笑顔が見えたので、私もほっとして、お母さんと兄のゆき君を呼んだ。彼女には車の中で待つように言った。


「お母さんとお兄ちゃんにあなたのこと話して助けてもらおうね。家族だから~いいね。わかった?」 と言ったらうなづいてくれた。


二人に大体のことを話して協力してもらうことにした。


兄は「俺もシンナーやめれたから、妹も大丈夫だよ」 とにっこり~


「経験者は語るだね。頼もしき兄貴頼んだぜ~任したよ。兄貴に妹の運命がかかっているよ」 と念を押した。


お母さんは心配そうだった。「お母さん、大丈夫よ。あなたの二人の子供はちょいとワルガキだけど、心は腐っていなくて、ピカピカよ。素晴らしいよ。私は二人ともかわいいよ。私達長生きして、この子達のこと楽しみにしようね」


やっとお母さんがにっこり


兄のゆき君が目で私に 「任せて」 と合図をした。


翌日、あみちゃんから嬉しいメールがはいった。それはそれは長いメールだった。


『昨日は本当にありがとうございました。 先生に会ってから、ほんとに不思議なことですごい笑えるようになりました。 人の話もだんだん頭に入ってくるようになりました。 ボォーとすることも減りました。先生の力はすごいなぁと、ますます思いました。 前向きに頑張ろうと思えるようになりました。 先生がくれたブレスレット大事に宝物にします。 私の為にいろいろしていただいて…………これからクヨクヨしないでいろんなこと頑張ります。……。』


また、今日も楽しくてときめきメールが届きました。


悲しい涙君さようなら~あみちゃんばんさぁい~素敵なあなたにきっと素敵な星の王子様がやってくるよ☆ きっとんとん~失恋っていいな~人を好きになるってほんといいな~涙の海は愛の海いいな、いいな若いっていいな(^_-)db(-_^)


お☆し☆ま☆い☆ やっとこの巻完結。


最後まで読んでくださった方に感謝します。


きっとんとんφ(_ _)。o○グゥ


★『あみちゃんからのメール』★


実話物語あみちゃんからメールが来ましたので紹介。


○こんばんは☆ あみです。


昨日はいろいろと ほんとにあリがとうございましたm(__)m 先生に会ッてカラ、 ほんとに不思議な事で すごい笑えるように なリました☆


人の話もだんだん 頭にはいッてくるように なリました。 ボーッとする事も減リました(^O^)


先生の力はすごいなあッてますます思いました(^O^)


前向きにがんばろうと 思えるようになリました ☆ほんとにあリがとうございましたm(__)m


先生がくれたの大事に手につけてます☆ 宝物です(^O^) あたしの為にいろいろしていただいてすみませんm(__)m また悩んだときは,先生の顔がでてくると思うのでお世話になるとおもいますがお願いしますm(__)m 先生はあたしの神様です(^O^)


これカラクヨクヨしずにいろんな事頑張ります(^O^) また会いに行かせてもらいます(^O^) あリがとうございましたm(__)m



○あみちゃん、こちらこそありがとうね。



○おかあさんからのメールです。


あみママです。先日はありがとうございました。


あみに笑顔が戻ってきました。 先生がいなかったら今頃どうなっていたか? 先生はさすがすごいです!! 先生が居てくれて本当によかったです。 みんな先生に会うと癒されて元気になれます本当に有難うございました。ありがとうございます。


本、楽しみにしてます。私も子供を信じて見守ります。 まだまだ、二人とも大変ですが頑張ります。


先生も、とっても忙しい毎日なので無理をしないよう体に気をつけて頑張って下さい。

■第2話「さんちゃんの物語」

■第2話「さんちゃんの物語」


第一章『恋のはじまり』


さんちゃんは、新しい地域に引っ越ししたばかりの新一年生。


誰も友達がいなくて、小学校の入学式は、最初から緊張していた。


右を見ても、左を見ても知らない子ばかりだ。出席番号順に並んでいた。先生が 「さあ、お隣りの人と仲良く手をつないで~」 と言われた。ドキドキしながら隣に並んだ女の子をみると、メッチャかわいい!


「どうしょう、こんなにかわいい子見たことない…手なんてどうやってつなぐの。ああどうしょう~」 はらはらしながら、手はもじもじ!


女の子は、清水さんと呼ばれていた。彼女は、にっこりして、サッとさんちゃんの手を握った。


彼は、恥ずかしくて、顔も見ずに、並んで手をつないでの入学式だった。 なんと席も隣どうし。 毎日が楽しくて嬉しくて学校が大好きになった。運動会も、パン作りもいつも一緒の班になった。


2年生になった時、女の子どうしがおしゃべりしていた。「私は、◯◯ちゃんが一番好き、二番目は◯◯ちゃんよ、清水さんは誰が好き?」 と聞かれていた。


さんちゃんは、その会話が聞こえてきたので気になってしかたがない。さんちゃんは、清水さんのことが、大好きだった。でも自分に自信がない。 思い切って聞いてみた。


「誰がすきなの?教えて、教えてぇ~」 というと 「いやだぁ~」 と走り出した。


さんちゃんは 「いいじゃん、教えて~」 と追いかけっこになってしまった。ついに清水さんは教えてくれた。「あのね、最初に付く字だけよ。あのね、さの付くひとが好きな人よ」


「あっ、わかった!佐藤君なんでしょ~」


一緒のクラスのさのつく人は佐藤君とぼくだけ~えっ!まさか? あっ\(◎o◎)/!


きっとんとん~えっ、うっそぉ-ほんと♪(o^-')


第二章『バレンタインチョコの恋』


佐藤君は格好いいので、きっと彼のこと好きなんだろうと思った。


さんちゃんは 「佐藤君なんでしょ、一緒のクラスだもん」 とムキになって走りながら言った。清水さんは、さんちゃんの方を振り向きながら 「違うよ。」 と答えた。


「いいなぁ~佐藤くん」 と思わず言ってしまった。


走っていたのに彼女は急に止まった。 さんちゃんも驚いて、止まり、二人は黙ってお互いの顔をみた。清水さんは 「違う、違う、さんちゃんのことが好き」 と言った。


突然、思いもしなかったことを言われ、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分!さんちゃんは、急にてれくさくなって駆け出した。


清水さんは、さんちゃんの後を追いかけながら、「さんちゃんが好きなんだってぇ~」 と叫ぶ。「ぼくっ?ちがうでしょ?うそだってぇ~」 と答えながら、恥ずかしくて、てれくさくって走り回った。


かわいくてチャーミングな女の子に好きだと言われ、小学校2年生までは絶好調♪ でも幸せは長く続かなかった。


父親の仕事の為に、転校することとなり、淡い初恋が終わった。


やがて、新しいところで中学生に成長した。


男の子、女の子誰にでも、恥ずかしがらずに話せるようになっていた。好きになった女の子は、友達の彼女だったことを知り、告白もできないうちに、片思いで終わってしまった。


強くて怖そうな♪女の子とも、普通に話していたので、やばいことになってしまったのだ。女番長が、さんちゃんが自分に気があると思い込んでしまった。


ある日のこと。学校から帰ろうとしたら、後からついてくる。 毎日つけられ、なんとか逃げた。


ところが家に電話が入り 「どうしても渡したいものがあるから出て来て!」 と言われたので会いに行った。 「はい!」 とプレゼントをさんちゃんに渡すとさっと消えた。


ドキドキしながら中を開けると手作りの見たこともないおいしそうな、チョコが入っている。 嬉しかった。 チョコがもらえなかった友達にきびだんごのように分けてあげる。


きっとんとん♪もてもてバレンタイン:♪( ^o^)\(^-^ )♪(^_-)db(-_^)


第三章『鯉に恋した』


中学生くらいになると、お母さんが 「今日何かあった?」と聞くと「別に~」 の一言で終わってしまうことが多い。


さんちゃんのお母さんも、うちの子は、女の子にもてないタイプだと思い込んでいたようだ。


ところがわからないものである。


女番長に好きと告白されてから、いろいろな子に好き好きといわれるようになってきていた。中学3年生になって、背も高くなり、鼻筋もとおってなかなかのハンサムさんである。


この頃になると女の子よりも魚が大好きという男の子になっていた。


桜並木の美しい境川の近くの中学校だった。そこにはいっぱい鯉がいた。さんちゃんは鯉に恋してしまった。鯉が大好きになり、鯉のために 「給食委員長」 に立候補した。


誰もやる人がなく、すんなりと委員長になれた。さんちゃんは、大喜び。これで綺麗な鯉に、どっさりパンをあげれる!もう嬉しくてたまらない。


きっとんとん~色恋が色鯉とんとん\(`o'") こら-っ


第四章『受験生の不安』


給食委員長になってから、毎日のように、残ったパンをどっさり持って、橋の上に立った。 気配を感じた魚達がうわぁーと集まってくる。


休んだ人のパンや残した人の分をいろいろな色をした鯉達にあげた。 あっという間に食べてしまう魚達の様子を見ているのがおもしろかった。


たまには、残ったバターも投げてみた。なんとバターまで食べてしまった。 「しまったぁ-。ごめん!コレステロールが上がるかもしれないよ」 と言いながら、休み時間を過ごした。楽しい日々があっという間に過ぎ去った。


私がデンマークから帰国した途端、携帯がなった。さんちゃんからだった。


「夏休みいっぱい遊んで楽しかったけれど、急に受験のことが心配になったので会いたい」 ということだった。 「今、日本に帰ってきたばかりなので、時差ぼけになると思うから、2.3日後だったらいいよ」 と答えた。


その数日後、彼に会いに家まで行った。 いつものさんちゃんではなく、暗く沈んでいた。


「どうしたの?そんな顔をして」 と聞いた。


「ぼく、何んだかすべてに自信をなくしてしまった。高校受験も合格できないかもしれない」 と言う。


人間誰しも、春と秋に落ち込む人が多いが、さんちゃんは秋が苦手なのかもしれない。 私はゆっくり話を聞いてから3つのことをやるように言った。


一つ目は合格を信じて毎日祈ること。


二つ目は、お爺ちゃん、お婆ちゃん、お父さん、お母さんに「ありがとう」と言うこと。


三つ目は、シャキッとして、姿勢を良くしてあるくこと。


この三つのことを伝えた。 その後で、背中を擦りながらおまじないの歌を歌った。 毎日、素直な気持ちで実行してくれた。


やがて希望校合格の連絡を受けて、共に喜びをかみ締めることが出来た。まず受験戦争という一つのハードルを一つ潜り抜けた。


家族の人達と喜びを分かち合った ☆☆☆☆☆ きっとんとん:やれやれ万歳~ヽ('ー`)ノ~


第五章『恋を逃がしちゃった』


中学生の時、鯉に恋してから魚釣りに夢中になっていった。


高校生になって、お母さんもほっとしたのか、あまりさんちゃんにうるさく言わなくなっていた。男友達3.4人でそこらじゅうの川を自転車で走って釣りを楽しんだ。


女の子に「好き、好き」と言われたけれど、その時は女の子よりブラックバス、あまご、鱒の方が好きだった。


その頃つきあっていた女の子から 「どこかへ連れてってよ」 と言われた。 「じゃあ、一緒に釣りに行こうよ」 と言って川へ誘った。彼女は退屈して 「なんで釣りなの?」 とご機嫌斜めになってしまった。 それから、しばらくして失恋してしまった。


女の子の気持ちを考えずに魚の魅力に取りつかれた結果だった。男友達と自然の中を駆け巡り、日焼けした顔に野性的なたくましさが加わり、グングン身長も伸びていった。 やがて大学受験の季節を迎えた。


きっとんとん~女の子はぷんぷんo(゜へ゜)○☆ドカッ☆


第六章『大学編ラブストーリー』


高校受験の時は、初めてのことで、緊張して不安だったが、大学受験は、精神的にもたくましくなっていた。


遊ぶ時は、思いっきり遊んだが、勉強する時には勉強した。けじめをうまくつけれるように成長していた。


大学選びも、自分の将来を心に描きながら、的を絞った。希望していた大学の合格通知が届いた。


まずこれで二つ目のハードルをうまく飛び越すことができた。ヤッタァ(^-^)vこれで家から離れられる。落ち着いてから、名古屋で下宿することにした。


やっと、待ち望んでた大学生活がはじまった。


一年目「あなたと授業が一緒だよ。 「携帯教えて!」 と後から、大きな声で声をかけられた。それから友達になり、男の子5人、女の子5人が仲良くなっていった。


たびたび鍋パーティをやった。


その中の一人の女の子に関心を持つようになり、みんなで一緒に遊んでいても、二人きりになりたいと思うようになってきた。彼女のことで頭がいっぱいになり、何をしていても、彼女のことを想えて仕方なかった。


2年生の夏、テストの前に告白しようと決心した。


さてさてどうなることやら~~~



第七章『失恋でダウン』


1年生の9月に 「携帯教えて~」 と声をかけられた女の子が好きになってしまっていた。 しかし、月日が流れても自分の気持ちを伝えれなかった。


2年生の夏が過ぎ、テストが始まるのに、勉強が手に付かない。彼女に 「話があるから~」 と電話して時間を作ってもらった。


告白するのは、初めての経験なので、緊張していた。


「忙しい時期なのにごめんね。~」 と言って、名古屋駅の近くのタワーズの展望台へと向かった。その前にスパゲッティのおいしいお店で食事を済ませた。


どう伝えたら良いか迷っていた。


ずっと聞いている曲が、さんちゃんのその時の心境にぴったりだった。ラグフェアの歌だったので、ウォークマンを渡して、「この曲聞いて~」 と彼女に言った。「…♪友達のままじゃ辛いんだ♪…」 という内容のものだった。


「どう?この曲~」 と聞いたら 「ふーん」 の一言で終わってしまった。


「えっ、にぶーいなぁ~僕の気持ちわかってないのだぁ~」 やっとの思いで好きだと伝えたが 「いい友達だけど、異性としてつきあえないな…」 と言われてしまった。


駅で別れたがどうやって下宿まで帰ったのか思い出せない。血の気がサァーと引いて頭が真っ白になってしまった。


それから3日間家に引きこもり、電話も出ず、ご飯も喉に通らなくなっていた。友達が連絡取れなくなってしまった彼のことを心配して助けに来てくれた。


「おーい!さんちゃん、生きてるかぁ~?」


きっとんとん~ノックダウン☆彡☆彡☆彡☆彡


第八章『信じられない出来事』


私はいつも若者達に言っている。


「あのね、失恋は山ほどするといいよ。すればするほどいい男になるし、いい女になるねぇ。そうするとね。勉強や仕事ほど簡単なものはないと思えるよ。だってそれらは、自分さえ頑張ればなんとかなるんだものねぇ~でもね、恋愛や結婚は相手がいるもんねぇ~。自分がいくら好きでも、相手が好きになってくれなきゃブーだよ。愛し愛されなきゃピンポーンが鳴らないよ。振られるとね、他人に優しくなれるし、心磨きができるよ。告白して一秒で振られてもいいから恋愛するんだよ」 と口癖のように言っている。


もうひとつは 「結婚っていいよ。結婚って面白いよ。結婚してね。」 とも言う。


今、本当にそう思っているから、言ってるだけ~。私の独り言を聞いてどんどん結婚し、赤ちゃんが生まれている。 赤ちゃんを連れてまた来てくれるのがまた楽しヽ(*^‐^)人(^-^*)ノ


今年もカップルが出来ている。来月31日にも横浜まで結婚式に行く予定。


さんちゃんも子供の頃から関わってきたので、彼の頭の隅っこに私の独り言が染み込んでいるかもしれない。


ありがたいことに、さんちゃんは友達に救われた。心配してやって来た友人に失恋したこと、食べれないこと、眠れないことを語った。黙って聞いてくれ、励ましてくれた。


話したら少し楽になり、次の日からテストが受けれた。


だが月曜日に受けたテストはボロボロでさんざんの結果だった。「なんで、僕はテスト前になると、急に部屋の掃除をしたり、好きだと告白したくなるんだろう?」と頭を傾げた。「馬鹿みたいだぁ~そんなことテストが終わってからにすれば、こんな悲惨な結果にならなかった。しまった~」悔しさと共に、失恋の痛手を負った。


そんな辛さを味わいながらも、月日が流れ、大学3年の5月を迎えた。


桜の季節も終わり、鯉のぼりが青空に泳いでいた。 さんちゃんの携帯に女の子から電話が入った。 信じられないことが起きた。 その声は、忘れもしない失恋したはずの女の子!


心臓の音が聞こえてくるほどドキドキしてる。一体何が起きているのか、頭が混乱した。


「ねぇ、今度どこか一緒にいかなぁい?」


突然のこの誘いにどう答えてよいかわからない~


「ねぇ、ってば…」


やっとのことで 「うん」 とだけ声が出た。


電話を切って 「今のは夢かな」 と思い、着信歴を確かめた。


きっとんとん~夢か幻か|||(-_-;)|||


第九章『時代の変化』


今日は、バレンタインディ。日本中のどこかで恋のドラマが始まっているにちがいない。


私の携帯にもチョコ物語メールが入った。


昨日は、中学1年生のくるみちゃんから~。隣りのクラスに好きな男の子がいて、手作りのクッキーチョコを直接渡せたということだった。初対面で話したこともない男の子だという。私はくるみちゃんの勇気に拍手を送った。


時代の変化が興味深い。


幼い恋もさんちゃんの恋も女の子が積極的!幸せをゲットするには、勇気が必要になる。淡くせつない恋物語は、幾つになっても感動がある。


さんちゃんは、胸の高鳴りを押さえながら、着信歴を確かめた。


「あっ、間違いない!」


昨年の失恋相手が何の話があるのだろうか?その頃の彼は、スラリとした長い足、優しさの中にもちょっぴり男らしさを感じる顔立ちになっていた。


突然の電話で再会した。


☆☆☆きっとんとん~ビミョウだなρ(..、)ヾ(^-^;)


第十章『複雑な気持ち』


久しぶりに二人だけのデートなので、緊張して何から話して良いかわからなかった。


彼女の方から話しかけてきた。「あれから一度も電話くれなかったね。友達だと思ってたのに…連絡取れなくなってからさんちゃんのこと好きだと気付いたの~」


「おいおいあの時思いっきり振っておいて、それはないでしょ~」 と心の中で思っていた。


彼女の話が続いた。「去年聞かせてくれたあの曲あれから何回も聞いたら、あなたの気持ちが伝わってきたの…」


「信じられないなぁ~あれから8ヶ月も過ぎてるよぉ~何て鈍いのさ…あの夜景の中でロマンチックなキスシーンを…あーあ映画のようにはいかないなぁ…タイミングが合わないよぉ~」心が勝手に叫んでいる。


遊園地で遊んだ帰り道の車の中のことだった。運転しながら、返事に困っていた。


彼女の家まで送って、「じゃあね」と言って帰ろうとしたら「どうすんの?まだ返事聞いてないよ」と突っ込まれた。


かわいい顔して、きついなぁ~今のぼくの複雑な気持ちを理解してよね…どう答えたら良いかと車のブレーキを踏んだ。


きっとんとん~うれしやかなしや(^_-)db(-_^)


第十一章『ラブ♪( ^o^)\(^-^ ) ♪ラブ』


恋とは不思議なもの…恋愛とは摩訶不思議世界…結婚とは「この世でこの人しかいない☆」と思い込む錯覚愛の世界かもしれない~。


キューピットが高い空からしびれ薬をつけて放った矢に当たってしまうのかもしれない。 たくさんの恋の話、失恋、結婚、離婚、また映画顔負け大恋愛~聞き役に徹する私がいる。韓国映画より興味深い。


なぜならそこには、命が息づき、真実が存在し、人生を葛藤しながら生きる生のそして旬の物語が展開されるからだ。


ネバーエンディングストーリー…♪まだまだ主人公が未来に向かって羽ばたいて行くのだから~未来へと続く物語なのだ。ああ、長生きしたくなったなぁ~


さて、ブレーキを踏んで答えなければならないさんちゃんがそこにいた。 本当だったら嬉しくて天にも登る気持ちなのに、素直に喜べない自分がいることに気付いた。


去年の彼女の一言に傷付いた心の痛みが完全に癒えていないのだろうか…?人間の心の複雑さをしみじみと味わった。


心の葛藤の結果、変な男の意地を捨て、後で後悔しない選択をした。


また、彼女がさんちゃんの顔を見て「どうすんの?」と心配そうに言った。


「うん、じゃあ、付き合おう」と車の窓から手を差し出した。


彼女は、にっこり微笑んで握手をして「じゃあね、また明日、おやすみなさい」と手を振った。


ハンドルを握る自分の手が汗ばんで熱くなってきた。握手した時のうれしそうな彼女の笑顔と手の温もりがハートの愛の扉をノックしている。


去年好きだと告白し、一度は失恋したけどその女の子から、今晩好きだと告白されたんだぁ~やっと頭の中が少しづつ整理され、霧が晴れて遥か彼方に微かに虹の光が近付いて来るようだった。 ボォーとしていて、信号が赤になったことに初めて気がついた。


「おっとと!僕は運転中なんだ。落ち着いて落ち着いて~」


恋のキューピットに当てられた矢のしびれ薬が効き過ぎて、危く信号無視するところだった。さんちゃんは、フーゥっと溜息をついた。


恋がやっと成立することになって、わくわくした。だが、翌日から、お嬢様の彼女に振り回されることになった。


きっとんとん~はぁはぁフーゥフーゥ☆(*^)(*^o^*)チュッ


第十二章『恋はタイミング』


さんちゃんの淡く切ない恋の物語は、だんだん熱く燃え始めていた。お互いの気持ちを確かめ合って、益々愛し合えるはずだった。


ところが、タイミングが悪かった。大学3年になって、彼は将来のことを真剣に考えてダブルスクールの道を選んだ。


大学が終わると、もう一つの法律の専門学校へと足を運ぶ。最初は、週3回だったのが、週5回通うようになった。おまけに、宿題がどっさり出され、大学の勉強と法律そして、不動産の勉強と毎日が大変だった。デートの回数もどんどん減っていった。


彼女は「毎日デートがしたいのに…」と不満そうな顔をする。


さんちゃんは「どうして?大学で毎日一緒に授業受けてるじゃん~」と思っていた。彼女は、「今、会いたいの」って言ったらすぐに会いにきてほしいと言う女の子。


「えっ~それは無理だよ。こっちにだって都合があるし-…」


やっとの思いで都合をつけて会いにいった。車でどこかへ連れていってあげようとしたら、隣りで眠いって寝てしまう。


友達でいる時「わがままそうな女の子だなぁ」と思っていたけど、付き合ってゆくうちに、想像を遥かに超えていることに気付いた。


天真爛漫なところがかわいいのだが、今のさんちゃんには、彼女に合わせる余裕がなかった。時間的にも、精神的にも彼女の要求に応えれるさんちゃんではなかった。毎日の忙しさにクタクタになってしまった。毎日会えない彼女はイライラしていた。


さんちゃんはついに決心した。


「嫌いじゃないけど、今の僕は忙しくて会えない。このまま付き合うのは無理だから別れよう」 と彼女に伝えた。


自然体で愛らしい彼女と別れるのは辛いけど、このままだと喧嘩別れになってしまう。 それはいやだった。 お互いに傷付け合うのは、避けたかった。


彼女は、友達に「忙しくて遊んでくれないから別れた」と言ったらしい。大学生の恋もあっけなくビリョウドを打った。


勉学に励んだお陰で見事就職が決まった。嬉しかった!


彼女のことは、今でも好きだけど今年の4月から東京に行くことになる。彼女の方は、地元に就職が決まったようである。


お互いに離れ離れになるけれど、10人の仲良しメンバーの友情は、これからも続く。 それぞれが別々に人生を歩むことになったが社会人になってもまた会いたい仲間があることは幸せである。


きっとんとん~恋愛♪友情ばんざいヽ('ー'#)/


★『さんちゃんメッセージ』★


さんちゃんから嬉しいメールが届いた。


先生、こんにちは。僕、さんちゃんです。


千夜一夜物語、気付くとニヤケ顔の自分がいます。引き込まれています。(笑)


高校受験の時、教えていただいたおまじない「合格できましたのでありがとうございました」を連呼していたのが懐かしいです。先生のお陰です。合格ありがとうございました。


先生のブログアクセス増えているんですか?微力ながらお役に立てると思うとちょっぴり嬉しいです。楽しみにしています。


コツコツと続けてきたことが、こうしてさんちゃんの心の中に生きていることを知り、涙がでるほど感動した。


このブログを読んで下さった方の心に暖かい春風を少しでも届けることができたらいいなぁ~♪


また、恋を逃がした彼に結婚式を楽しみにしているとメールしたら、次のようなメッセージが送られてきた。


夜、遅くにすみません。はぁーい。僕の結婚式には是非来て下さい。でもいつになるやら~~~。物語の女の子は振り向いてくれそうにないですし…(笑) おばあちゃんは、大都会の女の人はコワいから、大都会の人とは結婚したらダメ!って言うし……(笑・笑・笑)大変です。


若い人の話を聞いていると、この子が世界一幸せになってほしいとつい思ってしまう。


私は、夜空の星に名前をつけている。関わってきた子の名前をつけて、空に向かって右手を差し出し、星を手の中に入れる。そして、胸に持って来てその子の幸せを祈る。 今まで何人の子を祈ってきたのだろう~。数えきれない数…☆これからも私が命有る限り、この世の子供達の幸せを祈ってゆく。 私は、そのために生きている。


さんちゃん、私にロマンをありがとう~グッドラック きっとんとん~

さんちゃんの巻おしまい(^-^)v

■第3話「るなちゃんの物語」

■第3話「るなちゃんの物語」


第一章『山っ子・川っ子』


家の前には、澄んだ川が流れ、その周りには、緑の山々が美しさを競い合っていた。 豊かな自然が子供達を包み、恵みを与えていた。夏休みの子供達は、カブト虫を探し、山に入り、メダカやあまごを掴まえようと川に入った。


その中にこの物語の主人公るなちゃんがいた。


色が白くおさげ髪のかわいい女の子。キャピキャピしてて、足が早くて負けず嫌いなところがある。


長良川の上流なので夏でも水は冷たい。裸足で川に入ると、足が鏡に写したようにきれいに見える。


ふと足下を見ると、メダカもあまごもいっぱいいる。るなちゃんは興奮しながら大声で叫んだ。「しんちゃーん、大変だぁ~早くきて-魚がぐちゃぐちゃいるよ。こっちこっち」右手を高くあげて呼んだ。


二人は幼馴染みで大の仲良し。学校が終わると毎日一緒に遊ぶ。


しんちゃんは 「だめだよ。そんな大きな声をしたら、魚が逃げちゃうよ。動かないで!」


二人が夢中になって、魚を掴まえていたら、まさ君が山の方へ走っていった。


「お兄ちゃん、どこへ行ったんだろう?」 るなちゃんは不思議に思っていた。


しばらくすると、まさ君がハアハア言いながら、草をいっぱい持って来て石に挟んだ。


「何してるの?お兄ちゃん」


「こうやっておくとあまごがいっぱい掴まえれるんだよ」


るなちゃん達は、その日はすごいたくさんの魚がとれた。みんなで数を数え、けんかしないように分けた。


ある日のこと、中学生一年生がボスで山にのぼった。るなちゃんもしんちゃんも小学三年生だった。全部で7人が家の近くの山に登った。


随分歩いて、ふと木を見上げると何とそこには野生の猿がいるではありませんか! びっくりしたら向こうもびっくりしてるなちゃんの目と合ってしまった。 じっとこちらを見ている。 「わぁー!猿の大群だぁ~」 とみんなが叫び出した~~~!


きっとんとん~助けてぇ!\(`O´θ/


第二章『頼もしいボス』


突然猿の大群に出会ってしまった仲良しギャング達はびっくりこっこ!


どうしていいかわからない~ボスが落ち着いて言った。

「あわてるんじゃあねぇ-菓子は持ってないだろう」


「うん、もってない」…


「よし、じゃあ大丈夫さ。何も悪い事しなきゃ、やつらもしないさ」


ボスにそう言われてみんなも落ち着いた。るなちゃんも冷静になって猿達を見ると、小猿から大きな猿までいろいろいる。数を数えると10匹以上~あらら、すごい!こんなにたくさんの野生の猿をみたのは生まれて始めてのこと~!かわいいと思う余裕がなく、胸がドキドキしていた。


「みんな慌てるんじゃあねぇぞ。 静かに山を降りるぞぉ~小さい子、 女の子は前へ行け」 るなちゃんは、一番前に行く。危ないから、しん、るなの前を歩け! いいかぁ、俺が一番後ろを歩くから、 泣くんじゃないぞ. 猿がびっくりするからな」


みんなは恐る恐る山を降り始めた。ボスが守ってくれる。るなちゃんは嬉しかった。みんなもボスの言うとおりにした。きっとあの猿達にもボスがいてみんなを守ったんだろう。 ふと後ろを振返るとさるの大群は消えていた。(^-^)vボスってすごいな!


きっとんとん~きゃースッゴイ\(^O^)人(^O^)/


第三章『お父さんときもだめし』


ボスのけい君のお陰でみんな無事に家に着いた。


毎日、山を駆け巡り、川で魚と遊んだ。春が来て、冷たい水が少し温くなって来た頃、あちこちにおたまじゃくしが見られるようになった。


子供達はおおはしゃぎ!えみちゃんちは、大きなおうちでお庭もとっても広い~敷地が余りにも広い為、草はボウボウ~だけど小さなかわいい池があった。


そこにおたまじゃくしがいっばいいたので、掴まえてバケツに入れて 「早くかえるになぁれ~♪おたまじゃくしはかえるの子♪ナマズの孫ではありません♪ それが何より証拠には、やがて手が出る、足が出る♪…」 かえるになるのを見たくてみんなは歌を歌いだした。だんだん楽しくなって来た。「わぁーい、かえるだぁ」 誰も学習塾に行っていないのでたっぷり遊ぶ時間がある。


るなちゃんだけは、ピアノを習っていた。おばあちゃんがピアノの先生だったので教えてもらっていた。一緒に住んでいなかったので、わざわざ家まで来てくれていたのだった。


遊びに夢中になってしまい、時々ピアノのことを忘れ、 おばあちゃんに叱られた。「るなっ!遊んでばかりいると大きくなると困ることになるよ!」


帰って来ない時は、ビアノを教えるのをあきらめて家に帰った時もあった。るなちゃんのお父さんは、遠距離の大きなトラックの運転手さん。仕事の都合でなかなか子供と一緒に遊べない。でも地域の地蔵祭りの時は機嫌がいい。朝からにこにこ顔。


「るな!こんばんの祭りに肝試しやるぞぉ~」 とおおはりきり!


御祭りにはみんなかわいい浴衣姿。男の子も女の子もわらべうたに出て来るような顔になっている。山の上に懐中電灯をもったお父さんが立っている。真っ暗な山道を二人づつベアになって登って行く はらはらドキドキタイムの始まりだった!


きっとんとん~こわいブルブル{{{{(+_+)}}}}


第四章『父と娘の心』


二人づつで真っ暗な山道を歩くのは、スリル満点。るなちゃんはこわがりなのに、怖い話が大好き!小さい頃から、お父さんが怖い話をしてくれた。最初は「お父さん、怖いからやめて~やめてよぉ~」 と泣きそうな顔をして言うと、お父さんは面白がって余計に話すことをやめない。


お母さんがその様子を見ていて「お父さん、るなが嫌がることはやめて下さい」 と言った。 しかし、不思議なことにだんだん怖い話が面白くなってゆく。


小学生になった時 「お父さん、あの怖い話をしてよ」 とせがむようになった。姉ののんちゃんもお父さんの話は面白いと言う。兄のまさ君は、怖い話を聞くと怖くて一人でトイレに行けなくなる。肝試しの日は、るなちゃんは、ブルブル震えながらも頂上を目指していた。暗いので風が吹いて、葉っぱが揺れてもオバケに見えてくる。


「きゃーきゃー、助けてぇ~」 と言いながらも、えみちゃんと手を繋いで、お父さんが立っている山の上まで登った。


「るな!さすが父さんの娘だな。度胸あるなぁ~」娘のことをめったに褒めない父に認められたるなちゃんは、嬉しくて嬉しくてたまらない…♪ さっきまであんなに怖くて震えていたのが嘘のよう…。


姉ののんちゃんも3年生の妹が山の上まで登れたことに驚いた。「るな!すごいじゃん。やったねぇ~」 と肩をポンと叩いた。 「お父さん、るなが来れたのに、6年生のマサがまだ来ない」 と心配そうだった。


のんちゃんは長女でしっかり者。「マサは怖くなって、下に降りているのかもしれない。 みんなよく頑張ったな。さあ、降りるぞぉ~ついて来い!」


登る時は、あんなに震えていたのに、お父さんの後をついてゆく子供達は、やり遂げた満足感からか、足取りは軽やかだった。 いつも仕事で疲れて怒鳴るお父さんは嫌いだったけど、 「今日のお父さんっていいな!お父さん大好き…♪」 とるなちゃんは、心の中で呟いた。


兄のまさ君は、やはり怖くて途中で引き返していた。お父さんは、何も言わずに背中をポンと叩いた。地蔵祭りのこの日は、よそのお父さんやお母さん達も一緒に遊んでくれる。子供達にとって楽しい夢の一日がこうして終わった。


きっとんとん~夢のようヽ(*^‐^)人(^-^*)ノ~


第五章『夫婦げんか』


子供達は学習塾に行くことも無く、男の子も女の子も一緒に遊んで元気いっぱいだった。


ところが、るなちゃんが小学校6年生になった頃、お父さんとお母さんが毎日のようにけんかするようになっていた。 3人の子供達は、両親の顔色を伺うようになった。 そして、びくびくするようになっていた。


お母さんが夕ご飯の準備している時に、突然お父さんが怒り出した。


とっさにおかあさんはフライパンを持って高く振り上げ、「なんでそんなにイライラして、切れるの? 怒鳴ったり、わめいたり~もう、 あんたなんかとやっていけんわぁ~」 とかん高い声でヒステリーぎみになってしまった。二人は取っ組み合いのけんかをしている。


るなちゃんは、すごいけんまくでいきなり怒り出すお父さんが怖くなってしまった。そのうちにお母さんは泣き出し、夕ご飯の準備どころではなくなった。


あっけに取られた姉ののんちゃんが、お母さんがやりかけた天ぷらを揚げ始めた。「ほら、るな、お皿持ってきて!」 ハッとしたるなちゃんは、慌てておねえちゃんのお手伝いをした。


揚げたての天ぷらを 「あー、腹減った!いいかげんにしてくれよなぁ~」 と言いながら、兄のまさ君は食べ始めた。「子供の前でけんかするのは、やめてよぉ~」 と不機嫌そうな顔をしている。


2.3日するとお父さんとお母さんは普通に話している。「うちは、仲が良いのか悪いのかわからない。離婚したらどうしょう~」 と毎日不安になってしまった。それから・・・ あの活溌だったるなちゃんが、誰にも 心を開かなくなってしまった。


きっとんとん~ションボリ|||(-_-;)||||||


第六章『小学校から中学校へ』


るなちゃんは小さい頃はあまりお父さんに怒られたことが無かった。末っ子だったので、おじいちゃんやおばあちゃんもかわいくて甘かった。誰からも可愛がられ、自然の中で遊び回っていたるなちゃんだったが、何か風向きが変わって来たように感じていた。


お姉ちゃんやお兄ちゃんはあまり怒られないのに、なぜか自分ばかり叱られているような気がしていた。


特にお父さんの厳しさが怖かった。箸の持ち方、歩き方、姿勢から服装までうるさかった。 「人前に出た時に、恥ずかしくないようにしろ~」特に楽しいはずの夕ご飯の時に、ガミガミレッスンが始まる。


るなちゃんも反抗期に入ったのか素直に聞けなくなっていた。 「なんだ!その目つきは!」 何も答えないで食事をサッサと済ませると自分の部屋に入ってしまった。


こういう状況の中で、小学校を卒業して中学校へ通うこととなった。


中学校は家の目の前にある。2階建ての家には、かわいい柴犬のクッキーが御留守番をしている。 後ろに緑が鮮やかな山、すぐ前が澄みきった水が流れる川、その向こう側に中学校と大きな体育館が並んでいる。始まりのチャイムが鳴っているうちに、走れば学校に着くくらいの距離だ。


入学してからは、毎日毎日疲れて帰ってきた。


慣れない中学校生活、勉強、部活、友達関係。まだまだ心が幼いるなちゃんは、環境の変化についていけなかった。周わりのみんなはどんどん変わってゆく。制服を着たらみんな大人に見えてくる。


知らないうちにみんなグループを組んで行動していた。気がついたらひとりぼっちになっていた。


だんだん学校がつまらなくなってきた。まわりの子たちに無視され、口を聞いてもらえないというサイレントイジメにあっていた。るなちゃんは、そのことを誰にも言えず絶えていた。しかし、時々学校を休みたいと思うようになっていた。


でも頑張った。進度が早い勉強の方も何とか頑張っていた。


るなちゃんは中学2年生になり、部活はバレー部に入っていた。中体連の試合が近付くにつれメンバーの中でぎくしゃくするようになり、なかなかまとまらなかった。るなちゃんは一生懸命練習していたのだが、その問題の渦に巻き込まれることになった・・・・・


きっとんとん~ぎくしゃ<<o(>_<)o>>。



第七章『あこがれの先輩』


中学に入学して気付いたことは、規則が厳しいことだ。


小学校は、自然児のように伸び伸びと生活できた。るなちゃんは、どうしたらよいのか混乱していた。 そして、すべての面で自信を無くしていった。


そんな時、優しい言葉をかけてくれた先輩に助けられた。背が高くてたくましいけれど優しい男の子だった。顔はスマップのキムタクに似ていた。女の子の人気投票で一番だ。そんな彼が、るなちゃんによく話しかけてくれたのだった。


体育祭で選手に選ばれたのだが、急に腰と足がガクッときて、走れなくなってしまった。 ショックだった。彼は、るなちゃんと同じ赤組で、応援団長だった。


「るなちゃん、大丈夫?体育祭には出れるかなぁ~頑張って!」と優しい言葉をかけてくれた。応援の仕方を丁寧に、親切に教えてくれた。


「ありがとう。でも無理かもしれない」と下を向いて小声で呟いた。病院に通っていたので、みんなより遅れていたからだ。


中学生になって、初めて優しい言葉をかけてもらえた。胸がドキドキして、顔が真っ赤になった。 残念ながら、足が治らなくてリレー選手には出られなかった。


団長は「がっかりしないで、しっかり応援頼むよ」と言ってくれた。


心にぽっと小さな恋の花が咲いたようだった~。(^_-)db(-_^) でも、るなちゃんが2年生になった時、彼は卒業して中学校から姿を消した。 レモン味の初恋が片思いで終わった。 あ


部活の方は大変だった。いつもぎくしゃくしていた。キャプテンがイライラして、ミスをした子を睨みつけ罵倒した。「何でそんなへまをするの!馬鹿じゃない~」キャプテンのイライラが、るなちゃんにも当たる。


試合の結果はみじめなものだった。そして、相変わらず友達からも無視され、学校生活は楽しくない。


中学2年生の3学期。インフルエンザにかかってしまい、何日も学校を休むことになってしまった。


きっとんとん~ゴホンゴホン(*'o'*)


第八章『学校へ行けない』


るなちゃんは、インフルエンザにかかって、しばらく学校から離れた。


ずっとずっと我慢していた身体と心が、火山が爆発したかのように壊れた。風邪は治ったはずなのに、身体はだるいし、やる気が 出て来ない。夜になるといろいろ考え、 辛かったことを思いだし、涙が 突然出てきて 止まらない。


シカトしたクラスの子達の顔が、次々に浮かんできて夢の中で うなされる。


2階の自分の部屋で寝ていたら、1階で お父さんとお母さんが、大声で言い争っているのが、聞こえてきた。「お前が甘やかすから、風邪が治っても、るなが学校へ行かないんだ」 と父の声。「何言ってるの、あなたは怒鳴りちらすだけで、子供達の気持ちをわかっていないわ」 と母の甲高い声がする。


そのうちに母が泣いて 「もうすぐ中学3年生、大事な受験の年だわ。このまま不登校になってしまったら、どうしよう」 と呟いている。


田舎で静かなので、二人の声が響いてくる。「また、私のことでお父さんとお母さんがけんかしている。 私なんかいない方がいいんだ」 そう思うとすべてが空しくなる。これから私はどうなるのだろう。長い間休んでしまったので勉強も遅れてしまった。


学校を休んでいても 心が休まることはなかった。目の前が学校だから、チャイムの音も、 中学生の声も そのまま聞こえてくる。布団の中で、「早くこの村を出て都会か外国へ出ていきたい」と思うようになっていった。


きっとんとん~フラフラ。。。。(〃_ _)σ∥


第九章『はじめての出会い』


るなちゃんは、ついに昼夜逆転の生活になってしまい不登校になった。お父さんが怒ろうと、お母さんが焦ろうと、学校へ行けなくなってしまったのだ。


「あんなに元気で明るい子だったのに~何があったのだろうか?何を聞いても、本当のことは話してくれないし~」 家族全員が心配していた。


お母さんは困って、信頼できる友人に話を聞いてもらった。そのことがきっかけとなり、ミニバラに関わることとなった。


初めての日は、コラージュセラピーを受けてもらった。


お母さんと一緒に音楽を聴きながら、おやつを食べる。手は雑誌をビリビリ破り、ノリで貼り付ける。 母と娘が楽しそうに笑いながら、作品を作っている。


お母さんが 「久しぶりに笑えました。こんなに楽しいのは、何か月ぶりかしら?」 メガネがよく似合い年齢よりも若くみえるお母さんだ。


るなちゃんは色白で目がぱっちりしていて、 笑顔がチャーミングな女の子だった。


息子しかいない私は、つい 「こんなに可愛い子が娘だったらいいなぁ~」と独り言を言った。


「私、娘になりたいな。母のことお母さんって言うから、先生のことママって言ってもいい?」


「えー、嬉しい!お母さん、いいですか?」 と聞く私に、お母さんはにっこりうなずいた。


コラージュをみると、明るくて活発な子であることがわかった。歌ったり、踊ったりすれば良い。


「私の講演会に出演してみる?」


「うん、ママ」とにっこり。

学校には行けないけどここには来れた。


アフリカの太鼓ジャンベを一緒に習ったり、カラオケに行ったりした。少しづつ勉強も始め、イギリスに留学していたきれいなお姉さん先生をつけた。姉妹のように仲良しになっていった。英語の発音がどんどんきれいになっていくのも嬉しかった。


るなちゃんの閉ざされた 心がほんの少し開きそうになってきた。


きっとんとん~ルンルン((( ^^)爻(^^ )))るなちゃんの巻つづく


第十章『兄妹の絆』


るなちゃんは楽しいことが大好き。スポットを浴びることが大好きな女の子だということが、だんだんわかってきた。


だがそれを伝えることが苦手だった。


何を聞いてもニコッとして 「うーん」と首を傾げる。


「あなたは、リズム感があるし、顔も可愛いからたくさんの人の前で歌ったらどうかしら?」 と言っても 「うーん」 の一言だけ…。


私も「うーん」と言いながら、頭の中は一休さんを思い浮かべる。一休さんが座って、両手をあげると 「チーン」 という音がする。あの場面だ!


「そうだ。いいこと思いついた!」


るなちゃんはニコニコして「なあに?ママ」 と聞いてきた。


「あのね、あなたのお姉ちゃんとお兄ちゃんも誘ってカラオケに行こう!」 と答えた。


意外なことに大喜び! メールして二人の都合を聞いてその日を決めた。彼女は無邪気に 「キャーキャー♪」 と言って喜んだのだ。


いよいよカラオケに行く日がやってきた。


兄のまさくんは、はやみもこみち君のようにかっこいい高校3年生。


姉ののんちゃんは短大を卒業して立派な社会人となっていた。テキパキして気持ちがいい。 4人が車で市内のカラオケへ向かった。るなちゃん自慢のお姉ちゃんとお兄ちゃんに、会うことができた。3人が並ぶドラマとなった。


きっとんとん♪( ^o^)\(^-^ )♪歌う


第十一章『家族っていいなー』


兄妹っていいな~けんかしてもすぐに仲直り。


家族っていいな~いざとなったら助け合い。


夫婦っていいな~すさまじいケンカの後に、一緒にお風呂に入って仲直り。


るなちゃんが不登校になって、みんながゆらゆら揺れたり、ケンケンしたり、家族は大変だったけど、悪いことばかりではなかった。


これをきっかけに会話が増えた。この日も、るなちゃんのことを思い、姉と兄が時間を作り、一緒にカラオケに付き合ってくれた。


二人が楽しそうにオレンジレンジの曲をデュエットした。その様子をじっとみていた、るなちゃんもマイクを持って歌い出した。るなちゃんは天使のように澄んだ声をしていた。


なんて素敵な兄妹なんでしようか?


歌は心を和らげ、心を溶かす妙薬だった。


ある小学校から頼まれた講演会は、子供、保護者、先生、全員でおよそ千人だった。 何とその前で、彼女は堂々と歌えた。見事に責任を果たしたのだった。


それから、いろいろ大きな講演会にも出れるようになっていった。


ある時は、ミニトーク。 またある時は、歌手。 ♪また、ある時はアフリカンダンス! だんだん幼い時の元気で、活発なるなちゃんを取り戻していった。


きっとんとん~シャントシャント!♪( ^o^)\(^-^ )♪


第十二章『お母さんからの差入れ』


るなちゃんの様子もだんだん変化がみられるようになってきた。


問題が解決に向かう時は、まわりの大人達に信頼関係が出来て心が繋がった時だ! 学校の先生と親、親と私、私と学校の先生というように少しづつ深い信頼関係が結ばれた時、子供が、大人を安心して信頼できるようになる。


るなちゃんの場合もそうだった。


お母さんから始まり、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、校長先生、担任の先生、保健の先生、というように次々に私は会っていった。




15年間の環境から今現在の状況が現象となっているから、焦りは禁物。焦れば焦るほど子供を追い込み、悪循環となる。


長い経験の中から感じたことだ。


私は可能性があることは何でもやってみる。損得勘定抜き!ただただ子供達を愛しているからだと思う。


だがこれを実現するには、お母さん、お父さんどちらでもいいが、子供を何とか幸せにしたいという情熱があること。私だけ燃えても、限界があることをつくづく感じた。


親御さんは、特効薬を求め涙を流して一日でも早く学校へと……☆


私は注射も出来ないし、薬も出せない。


ただ出せるのは、子供の未来を思う気持ちだけだ。子供がこの日本に生まれてきて良かったと思える人になってほしい。生まれてきて良かったと~。




私の4男は小さい頃から病弱でした。


高校の卒業式の前日も風邪をひいたので、学校まで送って行った。車から降りた彼は「お母さん、僕を生んでくれてありがとう。お母さんの子で良かった」 と一言呟いた。


私は、学校から家まで45分間涙が止まらなかった。


信号の色が見えないほど、涙が止めどもなく流れたことを昨日のように思い出す。そして、家に着いた時 「これで授かった4人の息子の子育てが終わったんだ」と卒業証書をもらった気分だった。


それから本格的に今の活動に入ることとなった。




みんなが子育てに参加して、子供達がこの国の宝だということを思い出そう。




高校2年生のるなちゃんが、お母さんからの手紙を届けてくれた。おとといの晩のこと。


「るなは、すごく明るくなり、嬉しいばかりです。イヤなこと、落ち込むことがあっても、以前のようにふて寝する事もなく、自然にもとに戻っています。


学校が休みの日は、洗濯、掃除よくやってくれるので、私は助かっています。夕食の準備も、何も言わなくても、手伝ってくれるので嬉しいです。私が疲れていると思うと後片付けもやってくれ、優しさが伝わってきます。 成長して大人になったことを実感しています。これも先生のお陰です。ありがとうございます。


そして、実話物語、毎日読ませてもらっています。


この物語をみた人達が、前向きになれる事を祈っています。 これからも毎日見させていただきます。 これからもよろしくお願い致します。」


いえいえこちらこそお願い致します。私じゃあなく、お母さんのるなちゃんを思う情熱が、彼女をここまで成長させたのよ。そして何よりもるなちゃんを真剣に叱ったお父さんの愛が彼女の心を溶かしたのね。お母さん、お父さんの気持ちわかってあげてね。


そして、子供達の前でけんかしないでね。ねっ、ねっ、お願いね。お父さんとアツアツになってべたべたしてちょうだいね。ラブラブを思い出してちょうだいね。


私の夢はね。世界一仲の良い夫婦になれることなの。( ^o^)ρ(^O^ )アーン。お母さんの愛の込もったロールキャベツありがとう。


恋愛と仕事で悩んでここにやって来た若い女の子と、ロールキャベツを一緒にいただきました。「おいしーい!」 と言ってパクパク食べてくれましたよ。彼女は元気に帰って行きました。


こうして他人が家族のようになってゆくのね。これが私たちの未来なのよ。


「ドリームファミリーρ(..、)ヾ(^-^;)」


お母さんの差入れでまた一人ミニバラ娘が増えたよ。ありがとう!


きっとんとん~おいしーいヽ('ー'#)/


第十三章『出て行けぇ~!』


るなちゃんは高校1年の時が超大変だった。


中学2年生から不登校となったので受験期は、親子共々苦しい毎日が続いた。


そんな中、体育祭、文化祭には出れるようにと、本人も頑張っていた。私もお母さんと一緒に、るなちゃんの応援に行った。担任の先生と最初はうまくいかなかったが、だんだん心を開いていくようになっていった。


ミニバラのイベントにも担任の先生が出席して、るなちゃんの姿を見にきてくださった。 保健の先生までも心配して参加された。すごくラッキーな女の子!こんなにいろいろな人から愛されるなんて!


だが本人は気付いていない。


そして、悩みながらも、何とか希望の高校にも入れた。


しかし、昨年夏の出来事だった。

進路で親子がもめた。大変もめた。


るなちゃんは、お姉さん先生に個人レッスンを受けて、ぐんぐん英語力がついてきた。 東京かドイツで勉強したいと思うようになってきた。


花火を見てから、家に帰って来た日のことだった。留学したいことや都会で勉強したいことを話した。


お父さんもお母さんもびっくり!


末っ子で一番心配している娘から、聞いた言葉に、うろたえた。


お父さんは、いつものように大声で怒鳴った。 「何をいってんだ!親に心配ばかりかけておいて、またそんなことを言うのか!そんなお金はどこにもないぞ★出ていけ!」


仕事で疲れていたのかいつもよりイライラしていたのかもしれない。


タイミングが悪かった。頭ごなしに怒られ 「もういい!」 と泣きながら階段を上がり、カッターで手首を切ろうとした。


るなちゃんの後を追いかけてきたお母さんは、「るな!何しているの!」 とカッターを取り上げようとした。


「ほおっといて!生きていたって仕方ないから~死ぬ~」


そこへお父さんが入ってきた。 カッターを取り上げ 「ばかやろう~そんな娘に育てた覚えはない!どこへでも出ていけ!」


泣きながら私に携帯で電話してきた。


電話の向こうから、怒鳴り声、泣き声、叫び声が聞こえてくる。


「何するの!」 お父さんにお腹を蹴られ、携帯を落としてしまった。


「出ていけ…!」 「きゃー!」 という叫び声を残して電話が切れた。


きっとんとん~きゃ-\(`o'") こら-っ


第十四章『どこにいるの?』


私は胸がドキドキした。


あの泣き方は、いつもと違うし何が起きたのかわからなかった。叫び声と怒鳴り声、倒れる音で、電話が切れてしまったからだ。


夜中だったので主人はもうベットの中グーグー。


しばらくして、また、るなちゃんから電話がかかった。「ウェーン~エーン~ヒックヒック…」


「泣いてたらわからないよ。どうしたの?」 と聞いた。


「お父さんにケリを入れられ、家からほおり出された…」


「えっ!今、どこ?こんな夜中に高校生が山にいたら、危ないじゃないの!動かないで待ってるんだよ。探しに行くから~」


「ワァー!」


安心したのかすさまじい泣き声が私の耳に届く。


時計を見ると、午前12時40分。 「あーあ、こんな時間に山奥に入ってゆくのはコワーイ!ああ、どうしょう~」


ぐっすり眠っている主人を起こして、「るなちゃんの一大事だよ。一緒に探して!」 と叫んだ。私の大声でびっくりして飛び起きた。


「パジャマのままでいいから、車に乗って~」


主人は慌てて訳も分からず車に乗り込んだ。


彼女が中学の修学旅行に行けなかったので、日本海へ友達つれて、プチ修学旅行をしたこともあった。その時、主人に協力してもらって運転を頼んだ。それから、るなちゃんは主人のことを 「パパさん」 と呼ぶようになった。


私は運転しながら、よからぬことばかり想像している自分に気付いた。「川へ飛び込んだかもしれない、山奥に入ってしまって見つからなかったら、どうしょう?」


また携帯がなった。お母さんからだった。「るなが家を飛び出し、どこへ行ったかわからない」と泣いて、オロオロしている様子が伝わってきた。


「お母さん、落ちついて!今、そちらに向かっているから~」


そういう自分もオロオロしていた。 暗くて今、どこを走っているのか、全く分からなくなってしまった。


きっとんとん~ブーブー走って.....((((*^o^)ノノ


第十五章『ごめんなさい』


やっと連絡がついた。


「どこにいるの?」と聞くと


「山の下の体育館に隠れている」


「早く出てきなさい。お母さんも、心配して探してるよ」と携帯電話で話した。


「すぐに車から降りて探して来い」と主人に言われ、体育館の方へ走った。


やっと見つけた。


私は思わず「よかったぁ~無事だった」と彼女を抱き締めた。


お母さんに見つかったことを連絡した。


すぐにお母さんが現れた。 「☆…」胸が詰まって何も言えない。


「お父さんも心配してるよ。さあ。帰ろう…」


「いやだ!あんなお父さんの家には帰らない」


主人が、「今夜はうちで泊まれ」と一言。


お母さんは、「助かります。お父さんが落ち着いたら話し合いましょう」 と言い、私達にお礼を言われた。


泣き顔のるなちゃんを連れて帰り、ふとんを並べて寝た。


「ごめんなさい」と小声で私達にあやまった。


「お父さんやお母さんにもあやまるのよ」と背中をさすりながら、話した。


「うん~」と答えてから、家を飛び出した訳を話し始めた。


きっとんとん~みっけ!ρ(..、)ヾ(^-^;)


第十六章『消えたバレンタインチョコ』


お父さんとのバトルで家に帰りづらくなったるなちゃんは、ミニバラの家に一泊した。


家に着いて、布団に入ったのは、午前2時半を回ろうとしていた。主人が「るな!今晩は、疲れただろう~早く寝ろ」と自分の娘に言うように、話しかけていた。


不思議なことに主人の言葉はきついが、子供達がみんななついてくる。この日も会社が終わってから、るなちゃんを長良川の花火に連れて行った。そして、楽しい気分で帰ってきたその晩の出来事だった。


こうして、30年近く何人の若者を面倒見て来たのだろうか? 私一人だったらこんなに長く、活動出来なかっただろう。 主人のこうした心からの協力のお陰でたくさんの悩める青少年をサポートできた。


あーあ~ありがたや☆ありがたやヽ(*^‐^)人(^-^*)ノ


電気を消して布団に入ったら、るなちゃんは、それまでこらえていた気持ちを吐き出していった。次から次へと話はつきない。家を飛び出すまでのことを、いっぱい話してくれた。


夜が明けた。るなちゃんの闇の心にも朝日が昇り始めた。


私は彼女の話を全部聞いた上で、お父さんの気持ちを伝え、お母さんの気持ちを代弁した。「私、家に帰って、お父さんに謝るわ、心配かけたから~」 と、るなちゃんが言った。


「そう、良かった。『はい』『ごめんなさい』『ありがとう』この三つのことばが素直に言えるようになったら、あなたは大恋愛をして、素敵な彼氏をゲットできるよ。よっしゃ!結婚式楽しみにしてるよ」 と言ったら 「まだ、男の子と付き合ったこともないよぉ~」と笑い出した。


私は、この瞬間がたまらなく好きだ!


さっきまで泣いていた子が笑い出す。


さっきまで「お父さんなんか大嫌い」と言っていた子が「お父さん、大好き」と言う。


さっきまで死にたいと言っていた子が、希望に満ちて生きたいと言う。


若いって何て素敵なんでしょう。若いって何て可能性に溢れているのでしょう。若いって何て夢があるのでしょう。


それから家族は和気あいあいとなった。


今年の2月の出来事。るなちゃんは好きな男の子ができた。恥ずかしくてまだ告白出来ていなかった。片思いのようだ。でも密かにバレンタインの日にチョコを渡そうと決心していた。


そして、その日の為に一生懸命チョコクッキーを作っていた。


そこへお父さんがやって来て「るな、父さんの為に作ってくれたんだなぁ、どれ、味をみてやろう」 と、パクパク食べ始めた。 「えっ、それは~」 と言いかけたが声にならなかった。


プレゼント用にキレイに出来たチョコクッキーが、テーブルから消えた~!


「あーあ、お父さん…」


るなちゃんは残り物のチョコクッキーをバレンタインが過ぎても、カバンの中に入れたまま今日もまた学校に通っている。


いつかきっと手作りのチョコを本命の男の子に渡せる日が来るにちがいない。いつかきっと!きっとよくなる、きっとんとん、とんとんびょうし。


きっとんとん~チョコあっ\(◎o◎)/! るなちゃんの巻おしまい


★『るなちゃんからのメール』★


小さい頃の話を読んで、楽しくて羽が生えたように自由で温かかった気持ちを思い出し、思わず笑っちゃいました(≧艸≦)


自分達のことなのに、すごく可愛くて純粋で良いなって羨ましいです(笑)


中学の頃私の中で大きかったのは、やっぱり家族でしたね。特にお父さんは怖くて、毎日ビクビクしながら過ごしてました。周りは真っ暗で何もみえなかったですね。


今思うと、周りを見ようとしなかったんですね。すごく自分に甘くて逃げることが上手だったかな(>_<)。今は、いろんな人に支えられながら、逃げないようにがんばってるつもりです。ありがとぉ。


ママやミニバラで出会った方達には、大切なことたくさん学びましたおかげで家族の笑顔が倍に増えた気がします。たくさん助けてもらいました。 ありがとうございました。これからもよろしくお願いします! あんまり語っちゃうと長くなるのでこのへんで(笑)

■第4話「ひできくんの物語」

■第4話「ひできくんの物語」


第一章『名前のことだま』


ある日、ミニバラの塾生が「友達が悩んでいるから、力になってほしい」と言ってきた。


「いいよ。本人と直接会わないとわからないよ」と答えた。


数日後、彼は友人を連れて来た。


背が高くハンサムでスポーツマン、誠実そうで好印象な青年だった。初めて会ったのは大学生の時だった。


どうしても自分に自信が持てなくて、女の子にも緊張して話せないと言う。


「初めてだから、あなたのこと私は何もわからないわ。コラージュしてみる?」 と聞いた。


「はい、お願いします」 とペコンと頭を下げた。


今どき珍しく、礼儀正しい若者である。私は心の中で「よし、この若者を素敵な紳士に育てよう」と呟いた。


2007年3月に、黒赤ちゃんとしてメジャーデビューする乾英明君も、コラージュセラビーを受けてくれた若者の一人だった。高校2年生で進路で迷っていたので、その作品をみて、歌手になることを進めた。本人も家族もびっくりだった。7年間東京で、勉強を続けた。家族の愛に支えられ、幸運にも恵まれ、いよいよ今月デビューだ。これまで支えてきたお父さん、お母さんの喜びはいかばかりであろうか~。 私も、陰ながらこれからもこの若者達にエールを送り続けたい。


これから登場する主人公は「ひでき」といい、友達からは「ひでくん」と呼ばれている。


(^-^)/~サッカーの中田英寿さん、野球の松井秀喜さん、野茂英雄さん、音楽の小室哲哉さん、これからメジャーデビューする黒赤ちゃんの乾英明君 このように「ヒデ」が付く人はその道で有名人が多い。



●名前の言霊(ことだま)では

ひ:太陽(日)、火、開く

で:て(技術)専門技術

き:木、森林浴、気、 決める、人材 「て」に濁点がつき、「で」になっているので、「て」の働きが更に強くなると言われている。


音の響きなので、漢字はネームメッセージでは関係ない。


まわりの人々に夢や希望を与え、専門技術を活かし、人のお役に立てる人材となる使命を持っている。


決める働きを持っている。 きっとんとん('O')/ハイ!


さあ、これから始まる「ひできくんの巻」(-.-)y-~~~自信がなくて、自分は要領が悪いという彼の成長物語。事実に基づきながら、綴っていきますね。


きっとんとん~はじまり、はじまり/(.^.)\


第二章『サザエさんブルー』


ひできくんは大学を昨年卒業し、就職が決まり社会人一年生となった。


電気、機械を専門に学んできたので、製造業の関係の会社に決まった。最初は胸をふくらませて出社した。


しかし、入社してから2ヶ月くらいした頃から、 夜眠れなくなってしまったと言って電話が入るようになった。


日曜日のサザエさんを見る時間になると、胸がドキドキして、仕事のことを考えると気分が沈んでいってしまうという。


サザエさんブルーだ。


明日は苦手な月曜日。仕事が分からないので上司に尋ねると、忙しいので「教育係に聞け」と言われた。教育係のところへ行くと「担当者に聞け」と言われ、そこへ行けば「自分で調べて考えろ!」と怒鳴られた。


手からジワーと汗が出て、怒鳴られたことによって、 どうしてよいかわからなくなってしまった。初めての仕事で、あまりたくさんある部品に驚いてしまった。


覚えようとしても、なかなか覚えることができない。「こんなことに何時間かかってやっているんだ」と叱られるが、教えてもらえない。時間をかけてやったことも「こんなふうではない!」とみんなの前で怒鳴られた。


「僕は、なんて要領が悪いのだろう!僕は何て役立たずなんだろう」プライドがズタズタに引き裂かれてゆく気がした。


家にかえって、母に話したら「何、甘えているの。 あんたは、学生じゃないの。甘えているんじゃあない!」と冷たくあしらわれてしまった。


あーあ~更に落ち込んだ~。


きっとんとん~出るは溜め息w(☆o◎)wガーン


第三章『純情な少年』


今日は女の子の節句ヾ(*'-'*) どこの家庭もお祝いムード♪( ^o^)\(^-^ )♪ミニバラも塾生と共にひな祭りの歌を歌って、お祝いをした。どの子の顔も笑顔に溢れていた。


男の子は、女性が求める男性像になってゆくようだ。かっこいい男の子、優しくて、おもしろくて遊び上手な男の子。女の子はいっぱい条件をつけてくる。


幼稚園、小学生の女の子達が話しているのを聞いて思わず吹き出したこともあった。


「あのね。休み時間に翔君が、机に持たれて寝てたけど、その寝顔がすごくかわいかったよ」


「うん、うん」


「あのね、ブランコのとこで健君にチューしたら、赤い顔して逃げてったよ」


「かわいいね」


黙って聞いていると、まるで大人の会話みたい。


ひできくんのような純情少年には、今どき女の子になかなか自分の気持ちを伝えることができない。


幼稚園の時は、ゆきちゃんの雰囲気が好きになり、小学校は明るいあやのちゃん、高校はギャル系まゆみちゃん。きれいだったので憧れ、アクシデントがあって話すことができたが、遊んでる子だったので、ついていけなかった。


中学生の時は、女の子の誰をみても恥ずかしくて、声をかけれなかった。やっと、大学生になってはじけた。そして、女の子にも少し話せるようになってきた。


バイト先で、かわいい女の子が見つかった。「何と言って声をかけたらいいんだろう~」胸がドキドキし、時々、自分の心臓の音が聞こえるような気がした。


きっとんとん~ドッキューン☆(*^)(*^o^*)チュッ


第四章『初めての恋愛』


それまで女の子にあこがれたり片思いしたりしていたのだが、付き合ったことは一度もなかった。友達は彼女がいるので、「いいなぁ~」といつも思っていた。


大学生になってバイトをしたり、新しい友達が出来て、何だか自分が変わってゆくような気がした。


バイトに行くのが楽しみになってきた。今日もまた、かわいいかおりちゃんに会えると思うだけで元気になれる。鏡をみると、そこにはイキイキしている自分が写っていた。


先輩に「ひでき!お前、かおりちゃんに気があるのか?」と聞かれた。


思わず「はい」と答えた。


「よし、俺も狙っている女の子がいるから、一緒に遊びに行こう」と誘われた。


友人9人で遊園地とアウトレットに行くことになった。車3台で行くことになり、先輩が気を使ってくれたので、お目当てのかおりちゃんと一緒の車だった。


隣りにかおりちゃんが座り、話しかけてきた。 胸があつくなり、何から話したら良いか分からなくて、だんだん緊張してきた。


「母親から、あまり褒められたことがないから、肝心なときになると自信が持てなくなってしまう」と彼は言う。


きっとんとん~ハラハラドキドキ<<<o(>_<)o>>。


第五章『母の言葉』


これまでのあらすじ ひできくんは、社会人一年生。就職はしたけれど人間関係が上手くいかなくて、夜が眠れない。女の子も苦手。だが、初めて、好きになった子と話すチャンスができた。


社会人一年生となり、本来だったら入社できて嬉しくってたまらないはずなのに、人間関係が上手くいかない。何故だろう?


そこで、子供の頃からのことを思い出し、「心のくせ」を探すことにした。すると、どうも女の子が苦手なことが分かった。そして、父親より母親が苦手だった。母の言葉は、いつもガミガミ言葉。出てくるのはネガティブな言葉ばかりだった。長男なので、母が一生懸命だったのは分かるが、いつも弟と比較されたのがいやだった。


顔を見れば「何してるの?早く勉強しなさい。」「なんでそんなに要領が悪いの。そんな風ではこれから困ることになるよ」 「弟は、サッサと出来るのになんで兄なのにそんなことができないの!」


大きくなるにしたがって、母親の言葉が頭にくるようになってきた。弟とは年子で、いつも母親が弟をかわいがっているような気がした。


幼稚園の時もそうだった。幼稚園のイベントの時、母は、弟に付きっきりで僕はひとりぼっちだったという。


年中の弟は、いつも母に守られ、年長の自分は、いつも守られなくて、不安だった。周りをみるとみんなお母さんと一緒にいる。どうして僕ばかりほおっておかれるの?寂しかった。


高校生の頃、ふとそのことを母に言ったら 「何を今更そんなことを言ってるの。ばかばかしい~!」と、謝ってくれるどころか、ヒステリックに怒られてしまったのだ。この時から、自分のことを受け入れてくれない母親に対して、不信感を覚えるようになっていた。


きっとんとん~寂しいなぁ( ..)φ


第六章『おかあとのバトル』


前回のあらすじ 肝心な時にどうも自信が持てない。


母親は年子の弟にばかり優しく、自分には厳しく褒めてくれた事がないと、ひできくんは思っていた。


母親は、兄である自分ばかり怒るような気がしていた。高校受験の時もそうだった。 僕にはやたらうるさく「勉強しなさい!」と言ってきた。何をやっても、怒られた。


合格した時も、特別喜んでくれなかった。母親は「落ちやへんと思ったから~」と一言だけ。 もう少し嬉しそうな顔して欲しかった。


弟の受験の時は、全然うるさくなかった。僕が「弟は、勉強してないのに、なんで言わんの?」と聞いたら 「そんな勉強せんでも落ちやへん~」と言う。


「おかあは、弟びいきだぁ!この前も弟だけ屋台のラーメン食わしたじゃん」と、 むかついて言った。


「そんなことあらへん」とだんだん怒り出した。


僕は、それまで我慢していた事を母親にぶつけた。腹が立つと「おかあ」が「あんた」になってくる。 「あんたは、弟だけに優しい。何だかんだと言いながらも、弟の世話をする!」とつい怒鳴ってしまった。


「何、言ってるの。あんたのことだってやってるわ!」


「昨日も、弟にそれくらいのこと自分でやれって言いながら、結局あんたがやってたじゃあないか。」 母は、二人に同じようにしていると言うけど、僕は全然感じられない。 弟が、要領よく立ち回るので、あまり怒られたことがない。


おかあは、時々、一人でぶつぶつ怒っている。 「おとうの考えていることは、よくわからん。家事は全然手伝ってくれないし~」 母親は、おとうと僕とは気が合わないのかもしれない。 弟とは、僕とするようなバトルはしないのだ。


何故なんだろう?


この母親との関係を何とかしないと、好きな女の子が出来ても上手くいかないような気がしてきた。


きっとんとん~なぜw(☆o◎)wガーン



第七章『初めての告白』


ひできくんは母親との関係が、あまりしっくりいっていなかった。もっと褒めて欲しかった。もっと認めて欲しかった。ちゃんと見てて欲しかった。


好きな女の子がいても、そのことを話せないでいた。先輩が気をきかせて遊びに誘ってくれてから、かおりちゃんとは何となくいい感じになってきた。バイトで毎日一緒にいられるので、嬉しくてたまらなかった。


「僕のことをどう思っているのだろう?」と心の中でいつも気になっていた。「聞きたい、でも、自信がない、どうしよう」迷って、先輩に聞いたら「本人から聞いてみよ」と言われた。


チャンスを待って告白したら、信じられない言葉が返ってきた。断られると思いながらもドキドキした。


しばらく沈黙が続いた。


かおりちゃんは、にっこりほほ笑んで 「いいよ、その言葉を待ってたの」


「うっそぉ!ほんと」と叫びながら、夢心地になっていった。


自分から告白するのは初めてだった。嬉しくて舞い上がりそうな気持ちなのに、母親には話せなかった。その日も「お帰りなさい」とひとこと言っただけで、何も気付いてくれそうもなかった。


こんなにハッピーな気持ちなのに~誰かにこの感動を伝えたいのに、家族はいつもと変わりなく夕食を済ませてテレビを見ていた。


「おかあ、ちょっと話があるんやけど~」 とやっとのことで言った。


「今、忙しいから後にして!」 と言い、茶碗を洗い出した。 しばらくしてから「用事って何なの?」 と聞いたので 「もう、いい。別に大した事でもないから~」 と答えた。


母親は 「ふーん~」 と気にもしないように、寝室に入って行ってしまった。せっかく話そうと思ったけど、タイミングが合わなくて話せなかった。 その晩は嬉しさを誰にも言えなくて、自分の胸の内に秘めて布団にもぐった。


きっとんとん~ジィーン☆ヽ(~-~(・_・ )ゝ


第八章『あっという間に失恋』


かおりちゃんと付き合うようになって、楽しい毎日が続いた。デートに着ていく服も気にするようになったし、鏡を見て髪をとくようにもなった。何だか今までの自分と違ったように思えた。


それまでは母親の言葉が、いちいち気になって仕方がなかったが、この頃から流せるようになり、腹が立たなくなってきた。自分も少し大人になってきたのだろうか?


大学4年生になり、就職活動で忙しくなってきた。


そんなある日、彼女からメールが入った。「話したいことがあるので、会ってほしい」というものだった。この文字を見た時、いやな予感がした。


最近、忙しくてあまり会っていなかったし、会っても話が弾まなかった。盛り上げようとすると緊張して、上手くしゃべれなかった。どうやったら、女の子が喜んでくれるのかわからなかった。話題に困った。 かおりちゃんのことは、好きなのに会うと疲れるようになってきていた。


将来に対する不安も静かな足音と共に、忍び寄って来ていたのだ。自分は、どんな仕事に向いているのだろうか?何が出来るのだろうか?将来について真剣に考えるようになっていた。


あの告白した頃の、うきうき感がどこかに消えてしまったような気がする。「もしかしたら~?」 彼女と会った。言いにくそうに、もじもじしていた。「どうしたの?」とどきどきする胸を押さえながら聞いた。


「うん、あのう~」 下を向いて話すかおりちゃんは、愛しかった。(+.+)(-.-)(_ _)… 次の言葉が怖かった。


「あなたは、いい人なんだけど、好きは好きなんだけど~何ていうのか…恋人というより、友達として~。だから、別れてほしいの…」


言葉が出なかった。w(☆o◎)wガーン 頭が真っ白け!目の前が真っ黒け!心の準備はしていたつもりなのに、ショックが予想していたより遥かに大きかった。


「これからバイトだけど、別れても一緒になるけど、気まずかったら私バイト辞めてもいいよ」と言った。


首を横に振って「ううん、辞めなくていいよ」と一言だけやっと言えた。そして、別れた。


その日もバイトの日!まだそれまでに時間があった。店に着いて「バイトの時間まで、漫画読んでていいですか?」と聞いた。


「いいよ、でもどうかしたのか?」と先輩に聞かれた。


「いいえ、何でもありません」と、下を向いて答えた。


じわじわと「彼女と別れたのだ」という実感が押し寄せてきた。バイトの時間に彼女がやって来て、目が合った!あっ\(◎o◎)/! 気まずさと何て声をかけてよいかわからず会釈した。


向こうも何も言わず頭を下げた。


何とも言えない気持ちだった。


きっとんとん~<<o(>_<)o>>。


第九章『人間関係で悩んで』


女の子の気持ちって複雑でなかなか掴めなかった。弟と二人兄弟なので、女の子と話すのがどうも苦手なような気がした。


失恋してから、しばらく元気が出なかった。夢のような短い恋愛が失恋という結果で終止符が打たれた。 悲しんでいる暇もなく、就職が決まった。


社会人一年生となり、緊張しながらも現実世界で鍛えられた。分からないから、聞いても親切に教えてもらえるどころか怒鳴られた。安藤というおっさん(40代の上司)は、くせものだった。


聞いても「自分で考えろ」と大勢の前で叫ぶように怒る。


言っていることは、ベテランだから正しいとは思うが、怒り方が普通ではない。


「お前!仕事っていうのは、担当から聞かなあかんやろ!…カッカッ…


ある現場のリーダーが「あいつは、頭がおかしいから近付くな!すぐ怒るのは、教える能力が無いからさ」「新人でわからんのに怒鳴るばっかり~」 みんなは、彼が怒鳴ると「安藤パニックだ」と言っていた。


だが、ユーザーから電話が入ると、コロッと態度が変わり 「はいはい…」と電話を手にペコペコしている。 何だかだんだん気が重くなってきた。


家に帰って母親に呟いた。「いいなあ~おかあは…。 会社でわずらわしい人間関係やってるより、家事やってた方がいいなぁ」


「馬鹿らしい~そんなはずはない!会社へ行って給料もらってた方がどんだけいいかわからん!主婦は日曜日も休めないんだ!」 会社で怒鳴られ、帰って来た家でも怒鳴られた。 ひできくんは、ますますへこんでいった。


きっとんとん~ガックリd(-_-)


第十章『自分を見つめて決心』


会社が面白くなくなったことを両親に話すと 「学生じゃあないんだから、どこでも楽な仕事はない。仕事ってものは、そんなもんだ」と言われた。


確かにそうかもしれないと思ったが、だんだん夜が眠れなくなってしまった。夢の中まで会社が出てきた。 自分にとって最悪の事態が起きている夢だった。目が覚めると、寝汗をかいていた。「やばい!このままだとうつ病になってしまう」と思った。


じっくり考えてみると、自分がこの会社に合わないことに気付いた。部品管理が出来ていないし、聞いてもよく教えてもらえないこと。休日が決まっていないし、突然出張命令が出ること。予定も立てれないので友達とも遊べないし、デートだって出来ない。 この他にも色々あるが、3ヶ月の研修期間が終わって、心密かにこの会社を止めることを決心した。


うまくいかないと「おかあのそのネガティブな考え方のせいだ…。育て方が悪いんだ」と母親のせいにしていたが、そうではないようだ。物事を深く考えるようになって、気付いてきた。「ぼくのことを心配しすぎて、ガミガミ言っていたんだ。」と思ったら、妙にスッキリした。


10月まで勤めて会社を退職した。ミニバラで自己表現力をつけることを決めて、母親のせいにしないで、自分の人生を自分で切り開く事を決意した。


新しい仕事を探し、入社できた。自己変革をしながら、休日は武道に打ち込んでいる。 前の会社で経験した苦い経験を今回の就職に活かした。商品の管理がしっかりしているし、祭日もきちんとしている。多少の不安はあるが、この会社だったらがんばるぞう! 就職が決まってみんなも喜んでくれた☆ 生きがいを求めて、自己実現ができるようになろう。


きっとんとん~がんばるぞうヽ(*^-^)人 ひできくんの巻:おしまい


★『ひできくんのメッセージ』★


長屋こと、ひできです。


千夜一夜物語、ありがとうございます。


自分の事が大勢の人に見られると言うのは 不思議な感じですね。僕の、物心ついた頃からこれまでを 見つめた感じです。 改めて今の僕の考え方は、まだまだ子供だなぁと思いました。


今迄生きてきて、「自分の過去って何て暗い印象なんだろう」 って常に思っていました。 やはり今も自分に自信が無くて、 将来に漠然と不安を抱えている毎日です。こうやって、「今」も暗い過去になってしまうのでしょう。 でも、先生と出会って、文字通り少しずつ光が見えてきたと思います。


過去は過去として割り切れる様になって、 仕事に、自分に、すべてに自信をもって活き活きとして、笑って生きていける、そんな自分を見つける旅はこれからですね。


また、今年、出場を断念した中国武術の大会は、 来年は出場をして、大勢の前で堂々と振舞っていきたいです。 先生に良い成績をご報告できるように。


がんばれひでき、きっとんとん

■第5話「ふみこママの物語」

■第5話「ふみこママの物語」


第一章『集中豪雨の中で』


ふみこママは、7才のみーちゃんと4才のたっくんのお母さん。二人の育児の真っ最中である。彼女は、コラージュセラピーと言霊(ことだま)レッスンでミニバラと関わっている。ある保育園から依頼された講演会がきっかけで出会った人で、明るくて勉強家である。


ふみこママは懐かしそうに、自分の子供の頃の話を語り出した。


ある日のこと、突然、大雨が降って来て、みるみる床上浸水となった。激しく雨が叩き付け、次々に家財道具を飲み込んでいった。


「大丈夫だよ。みんな、怖がらなくていいよ。お父さんがボートを持ってくるから、ここで待っていなさい」と父親は言い残して、姿を消した。


母親は小学校へ避難する準備をしていた。


すぐに父親が帰ってきた。「ふみこはお父さんに、よしくんはおかあさんにおぶってもらいなさい。」と大きな声で言った。お父さんは180cmもあるので、大きな背中は安心だった。おかあさんにおんぶしてもらった弟は、なぜか鯖の缶詰を握っていた。


母親は、こんな非常事態なのにパチパチ写真を撮っていた。


しばらくすると小学校も危険ということで、それぞれが親戚の家に行くことになった。


「お父さん、おうちが泥水の中!どうなっちゃうの?」と、子どものふみこちゃんは心配そうに聞いた。


「大丈夫だよ。どうもない、どうもない。水なんかすぐなくなっちゃうよ」


お母さんが「お父さんどうするの?」と聞くと、父親は「ばあちゃんちへ行こう」とてきぱき答えた。


「これからどうなっちゃうの?」と大きな父親の背中から、ふみこちゃんは聞いた。


父親は「大丈夫だよ。ばあちゃんちから帰ってきたら、もう水はひいてなくなってるよ。」と答えた。


大変な集中豪雨だったのに、その時の写真は皆ニコニコしている。この写真を撮ってくれた母親は、数年前交通事故で亡くなったが、ふみこママのアルバムの中で永遠に生きている。


何か困った時には、「大丈夫だよ」という父親の言葉が飛び出し励ましてくれる。


きっとんとん~どんぶらこっこ_/_/_/_/_/_/_/_/


第二章『遊べない子供達』


水浸しになった我が家が住めるようになるまで、ばあちゃんちで生活させてもらった。


集中豪雨で怖い思いをしたけれど、お父さんの頼もしさとお母さんの楽しさと、おばあちゃんの優しさを感じた出来事だった。家族が危険を脱出する時の団結力はすごいものだった。特にお父さんのテキパキした行動力は、大人になってもふみこママの脳裏に焼き付いている。


小学校の時は市内から田舎へ引っ越しして、学校も転校した。5年生の時だった。


それまでは、先生に「真面目すぎるくらい真面目」と言われていたが、転校してからが、ハチャメチャになった。水を得た魚のように、山や川で遊びまくった。どこまでも、自転車で走り回り、山を駆け巡った。


ふみこママは自分の子供の頃を思い出しながら、今の子はつくづくかわいそうだと言う。子供が「川へ行く」と言うと「やめて!足をとられたら危ないよ。行かないで!」とつい心配して親が止めてしまうことが多い。


川で子供達が遊んでいるのを見つけると「◯川で◯◯の子が遊んでいました」と通報する大人もあった。学校から各家庭に電話が入り、注意された。きっと近所の人が事故を心配して通報されたのだろう。


田舎でも色々な恐ろしい事件が起きているので、子供達を開放的に思う存分遊ばせてあげることが出来ないと嘆いた。


きっとんとん~あぶない\(`o'") こら-っ


第三章『先生の思い出』


ふみこママは、自分の子供の頃と今の子供の時代を照らし合わせ考えていた。


子供がもらってきた成績表を見て驚いた。パソコンで入力してあって、無難な言葉が並んでいる。 印刷した紙が貼ってあるだけ。 何だか寂しい気がする。


ふみこママの時代には、手書きで良いことも悪いことも枠から飛び出すほどいっぱい書いてあった。先生によって字が違うがそこにはぬくもりを感じることができた。


小学校5年、6年の時の水谷先生は、みんなの人気者。 38才で男の先生なのに、卒業式は大泣きだった。何だか今でも先生の泣いた顔が、忘れられない。


ふみこママ達が中学校へ進学したら、水谷先生まで中学校に変わった。同じ中学校にはなれなかったが、いつも教え子のことを心配してハガキが届いた。


ある日、中学生になったふみこママの手元に、一枚のハガキが届いた。良く見ると、大好きな水谷先生からだった。どきどきしながら読んだ。


きっとんとん~うれしや、うれしヽ('ー'#)/


第四章『一枚のハガキ』


前回までのあらすじ ふみこママは、幼い時に集中豪雨で怖い体験をしたが、父親の背中から頼もしさを感じ、母親から父親をたてる姿を学んだ。


小学校で素晴らしい先生との出会いがあった。


中学校は、4つの小学校が集まったマンモス校。ふみこママは、青いセーラー服が良く似合う少女に成長した。学校へ行くと門のあたりには、茶髪のワルがウジャウジャいた。悪い中学校として有名だった。


こんなこともあった。


修学旅行でディズニーランドへ行った時、ミッキィマウスのぬいぐるみを着たお兄さんを、ワル達が押して池の中に落としてしまったのだ!


大変な事件を起こしてしまい、悪い伝説が出来て、更に中学校が有名になってしまった。評判を聞いていた水谷先生は、教え子が感化されることが心配で、自分も中学校へ変わることにしたということを、後から聞いた。


これほど生徒達のことを思ってくれる先生がいるということは、あまり知られていない。マスコミは事件を起こす先生や問題になる先生ばかり記事にするから、残念だという。実際にはこういう素晴らしい先生がいることも、子供達に安心と希望を与えることとなる。


何だか良くない生徒の名前の中に、ふみこママの名前が入っていた。そこで、心配になった水谷先生がふみこママに一枚のハガキを出したのだった。


「学校が違っても、先生も中学校に勤めているから、色々な良くない噂話が耳に入ってくるよ。でもね、先生はふみこのことを信用しているからね…」と書かれていた。


ふみこママは、「何のことだろう?問題も起こしてないし~」 色々思い出してみたら心当たりがあった。


その頃、いっぱい友達が出来て有頂天になっていた。昔友達、部活友達、放課後友達、おうち友達というように、どんどん友達が増えていた。


授業中におしゃべりしていて、先生に教科書で叩かれたこともあった。「あっ!そうだ、私おしゃべり友達の一人だ…」


そういえば小学校の時は成績良かったのに、どんどん下がっている最中だった。この一枚のハガキで、ふみこママは、初めて気がついた。叱る言葉は、ひとつもなかったけれど、先生が生徒のことを想う愛の言葉が、光っていた。


きっとんとん~あっ\(◎o◎)/!


第五章『良い友達ができた』


ふみこママは、この中学3年間で親友を見つけて楽しい学校生活を送りたかった。 初めはバスケだったのに、途中からバレ-部活に変更。


それからが大変だったが、友達がいっぱいできた。まきちゃん、みかちゃんとバレ-を通して素晴らしい親友になれた。勉強もよくできたので「すごい!」と思った。


ふみこママが「どうやったら、頭が良くなるの?」と聞くと「基礎さえわかれば大丈夫だよ」と教えてくれた。それを聞いて頑張った。 成績が上がってきた(^-^)v。


また、しばらくしてから水谷先生から、一枚のハガキが届いた。「やっぱり良かったなぁ。ふみこを信用しとったぞ…。」 そのハガキを読んだ時、胸がジーンとしてしまった。そして、ハガキの中に先生の顔が浮かんできて、涙がポトリと落ちた。


きっとんとん(^-^)v よしよしヽ('ー'#)/


第六章『おかあとのバトル』


ふみこママのおしゃべりが、恋の話になった。


その時の顔はお母さんではなく、一人の可憐な娘さんになっていた。話が弾んで楽しくなって来た。恋の話は幾つになってもドキドキするものだ。


小学校の時は、まことくんが好きだった。ところがふみこママの友達もまことくんが好きだった。


バレンタインの日の出来事でした。誰にあげるかでもめた。


「えー!じゃあ、じゃんけんで決めようよ」


ドキドキしながら「ジャンケンポン」 勝った人は、まことくん、負けた人はかずくんと決めた。


運良くじぁんけんで勝って、初恋のまことくんに甘いチョコを渡すことが出来た。中学2年生から何となく好意を持っていた男の子は、10年間電話だけで終わってしまった。


タイミングが全く合わなかった。


彼の方から「付き合って」と言われた時は、そんな気持ちはなく、ただの友達と思っていた。でも自分の気持ちに気付いて電話を待った時もあった。ドッキリ!もういちどあの言葉を待った。ところが、w(☆o◎)wガーン


「僕、結婚することにしたよ。◯◯さんと~」


「うっそぉ~!」と心の中ではパニックになっているのに、平然と「あっ、そう、おめでとう♪」 自分ながら驚いた。女心は摩訶不思議?告白する事もなく、ただの友達のまま、恋が終わってしまったのだった。


「アーア、私ってなんで素直になれないんだろう~?」と切なく寂しく溜め息をついた。


きっとんとん~アーアいやんなっちゃった<<o(>_<)o>>。



第七章『まあくん大好き』


社会人になってからも、 ふみこママは高校からの4人組の友達にいつも助けられていた。


ちかこちゃん、ゆきちゃん、かおりちゃん。


まあくんとの出会いも作ってくれた。


その時、ふみこママは25才。まあくんは30才だった。


その年の5月と6月にみんなでご飯を食べた。7月に、初めてデートに誘われた。いやな人だと一分もたない。 まあくんは一分もった。1時間もった。1日もった。半年もった。


半年後のクリスマスの日「もう、そろそろ仕事やめてくれない?」と突然言った。


「はぁ?」と私。「何のこっちゃ?仕事やめる?まさか?プロポーズ?」ふみこママの心は混乱した。


映画の名場面の名セリフをプロポーズだと思っていたのだか、何とも自然の会話。 「うん、やめるわ」


友よ、ありがとう~♪ まあくんは、真の髄まで優しい人~ まあくんは、家族を最も愛してくれる人~ まあくんは、いい男。


結婚して、8年たったけど大好きよ。友よありがとう。出会いをありがとう♪初めての子を身ごもった。まあくんも、お母さんも一緒に大喜び~


だけど一瞬にして、一緒に喜んでくれた母を失ってしまった。


「ふみちゃん、あかちゃんの為に準備したものがあるから取りにおいで!待ってるからね。」 この電話が、母からの最後のメッセージとなった。


用事で出かけた母をトラックがはねた。赤ちゃんとの出会いを指折り数え、待ってた母の命が儚くこの地上から消えてしまった。


弟から「姉さん、大変、母さんが交通事故にあった!姉さん、大変…」と電話が入った。「うっそぉ~さっき電話があって、これから私、母さんのとこへいくの。うそでしょ~うそよね~」ふみこママは、自分の耳を疑った。


きっとんとん~うそ、ほんと?<<o(>_<)o>>。


第八章『初めてのお産』


弟からの電話が切れたあと、受話器を持ったままボンヤリしていた。


「あっ、母さんのところへ行かなきゃ!」


あまりのショックで、何をしたらよいのか途方にくれた。


電話がなった。お父さんからだった。「お前は、お腹に赤ちゃんがいる身なんだから来なくていいよ。あのアホが~ふみこには、電話するなといっておいたのに~」と怒った口調で言った。


母は、帰らぬ人となった。


あまりに突然のことだったので、涙が凍りついたようで、出なかった。


しばらくすると、じわじわと母がいなくたってしまったことを実感した。涙が溢れて、とめどもなく流れるようになった。


あまりに寂しくなると、外へ出て、月に話しかけた。


「お母さん、赤ちゃんもうすぐ生まれるの。どうしたらいいの。誰に助けてもらったらいいの?」と話しかけた。


「ふみこ泣かないで!まあくんがいるよ。お母さんは、いつもあなたのそばにいるよ」と母の声が聞こえてくるような気がした。


本当にまあくんが会社を休んで家事をやり、お産に立ち会ってくれた。


まあくんのお母さんは、身体が弱くて手伝ってもらえないことはわかっていた。


まあくんの手をしっかり握りしめて、初めてのお産を頑張った。元気な赤ちゃん誕生 (^-^)v かわいい女の子でみーちゃんと呼んだ。


「お母さんの生まれ変わりのようだわ」ふみこママは、ポツリと呟いた。


きっとんとん~オギャア、オギャア( ^o^)ρ


第九章『人間関係で悩んで』


ふみこママは実母が、亡くなってから心細かった。でも、一生懸命赤ちゃんの世話に明け暮れた。


3年後、2人目の出産の時、預かってくれるはずの母がこの世にもういない。義母がみかねて「みーちゃんを預かってあげるよ」と言って下さったが、とても無理な状態だった。身体が弱くて、自分のことだけで精一杯だった。


まあくんが「大丈夫だよ。どうにかなる」と言ってくれた。「土、日を挟んで3日休めば、みーちゃんをみながら、家事、仕事も出来る。金曜日の朝に生まれてくれよなぁ~」と言いながら、ふみこママのお腹をさすった。


まあくんは母親が若い頃から病弱だったので、料理・掃除・洗濯何でも出来た。実母を亡くしたふみこママにとって、超ラッキ-な旦那様だった。


まあくんが、いつも「大丈夫だよ~」と言ってくれたので、安心して生むことが出来た。 いつも穏やかで怒らないまあくんに、支えられ、無事、男の子を出産した。


大きな声で泣く、元気な赤ちゃんを「たっくん」と呼んだ。


なんと不思議なことに、まあくんの望みどうり金曜日に生まれたのだった。お母さんが、ふみこママとまあくんが困らないように、天国から手配をしてくれたのでしょうか?


きっとんとん~すべてはうまくいっている~♪( ^o^)\(^-^ )♪


第十章『おかあさん、ありがとう』


夫婦が力を合わせて子育てに励んだ。まあくんは誠実で長年同じ会社で働いているので、緊急の時は会社に事情を言えば休ませていただけた。それは、ふみこママの心に「安心」を運んでくれた。


みーちゃんは小学一年生。たっくんは保育園の年少になった。子供達が少し大きくなったので、ふみこママはパートで働くようになった。


ある日の出来事。みーちゃんは公開授業があった。だけど、手を上げれないので来て欲しくないと言った。ふみこママは、その気持ちを組んで仕事を入れてしまった。


その日の朝、「えー、来ないの?」とみーちゃんは、びっくり顔!


「いやだって言ったから、行くのをやめたのよ」と答えたのだが、心の中では「あっ、しまった!本当は来て欲しかったんだぁ~」


「いいよ、お母さん」


「みーちゃん、ごめんね、お母さん、お仕事で行けないけど頑張ってね」と書いたメモを筆箱に入れた。


たっくんは、4才だけど食欲旺盛だ。


あまり、たくさん夕ご飯を食べるので 「給食、食べれなかったの?」 「うん、食べれなかった」と言った。


保育園の先生に聞いたら「えー!給食ちゃんと食べておかわりしましたよ!」 w(☆o◎)wガーン。なんてよく食べる子なんでしょう~。


先日のこと。 2人を寝かせていた時「「みーちゃんね、お母さんがいて、お父さんがいて、いつもね。心の中でありがとうって、思ってるの」 子供達の寝顔を見ていたふみこママは、何だか幸せ気分に包まれていた。


「お母さん、ありがとう、私を生んで下さって、本当にありがとうございました」と心の中で呟いた。


きっとんとん~ここまで読んで下さってありがとう(o^-')ふみこママの巻おしまい


★『ふみこママのメッセージ』★


色んなことが重なってふみこママのブログ…今日やっと読ませて頂くことができました~


恥ずかしくなっちゃったり、思い出しちゃったり、最後は涙がいっぱいでした。


私の今までが走馬燈みたいにグルグル…先生の暖かい言葉の装飾でいっぱいでした。こんな記念…思ってもみなかったことに大感激でした。本当に本当にありがとうございました。


まだやや熱っぽく…慌ててのメールでのお返事…申し訳ございません。

■第6話「とまとちゃんの物語

■第6話「とまとちゃんの物語」


第一章『おじいちゃんって!』


今日から、いよいよかわいい「とまとちゃんの巻」に入る。


ここで、まず、とまとちゃんの家族構成を紹介しよう。


頑固といわれているおじいちゃん、おばあちゃん。仕事熱心のお父さんとお母さんと弟の6人家族である。


物語は、おじいちゃんとおばあちゃんの想い出から始まる。


お父さんとお母さんが自営業で仕事が忙しがった為、おじいちゃんとおばあちゃんが子供達の世話をしていた。


おじいちゃんは出かけることが大好きで、そこらじゅうに孫を連れて行った。


ある日のこと。公園にあるプールに連れて行ってくれたのだが、その日は運悪くプールがお休みだった。とまとちゃんは小学2年生。弟のヨン君は幼稚園に行ってた頃のこと。


おじいちゃんは昔の人なので、一度決めたら何が何でもやってしまう人だった。「今日は、お前達を泳がせるためにここに来たんだ。さあ、泳げ~」と言った。


「えー、プールお休みなのに、どこでおよぐの?」


「この噴水の中で泳げ、さあ、裸になって準備しろ!」と大きな声でせかせた。


ヨン君は、「わぁい~噴水で泳げるぅ~」と大喜び。


とまとちゃんは、おったまげた! もう、小学生になっていたので、そんな所で泳ぐなんて恥ずかしかった。でも、おじいちゃんには逆らえないので、渋々入った。


入ってしまったら、楽しくてたまらなかった。噴水の水と遊んだ記憶が今でも瞼に浮かんで来る。恥ずかしさを忘れさせてくれるほど、時間を忘れてしまうほど、弟と2人ではしゃいだ。水が冷たかったのを今でも覚えている。


きっとんとん~おじいちゃんってもう~!


第二章『孫はどこへ消えた!』


おじいちゃんは毎日毎日、孫を連れてお出かけした。とまとちゃんは楽しくてたまらなかった。家にいるより外に出かけるのがだんだん好きになっていった。


夏休みが大好きなとまとちゃん~。


おじいちゃんは、さてさて今度はどこへ連れて行こうかと考えていた。


おばあちゃんは、おじいちゃんの言う通りにしていた。


「よし、今度は、海に連れてゆくぞぉ~」 とまとちゃんも、弟のヨン君もスイミングスクールに通っているので、泳ぐのは得意だった。


「わぁい、嬉しいな、海に行けるんだぁ~」


お母さんは心配そうに「溺れないようにね」と言った。


越前の海は、海水浴で賑わっていた。とまとちゃんもヨン君もワクワクして早く泳ぎたくてそわそわしていた。おばあちゃんは、「たくさんの人がいるから、迷子にならないでよ!」とポンと肩を叩いた。


海に入ったら嬉しくて、お母さんに言われたことも、おばあちゃんに言われたことも、全部忘れてしまった。まだ2人共小学生なのに、泳ぎに夢中になってどんどん沖の方に行ってしまった。


おじいちゃんは孫たちの姿を見失ってしまった。「ばあさん、大変だぁ!孫が消えたぞぉ~おーい!とまとぉ~ヨーン~o(・o・;)o」 おじいちゃんは、あわてて服を脱いで、パンツいっちょうになって「あぶないぞぉ~どこにいるぅ~」と大声で叫びながら沖の方へ泳いだ。


おばあちゃんは、スカートを胸までめくり上げて、必死で孫を探した。


2人共、オロオロして焦った。沖の方でやっと見つかった。おじいちゃんとおばあちゃんからすごく叱られたのだが、大事にされ、愛を感じたという。


きっとんとん~ああ、良かったぁ、孫にマゴマゴ\(`o'") こら-っ


第三章『「御宅の娘さんは~」びっくり電話』


おじいちゃんとおばあちゃんは孫に対して、トロトロに甘くて、メッチャかわいがってもらったという。


だが、どこでもそうかもしれないが、嫁に対してはかなり厳しかった。


どこの家庭でもありがちな嫁舅問題は、どちらも賢く切り抜けた。孫が大きな役目を果たしていた。おじいちゃんとおばあちゃんは、一緒に外出して孫との蜜月の時間を堪能した。


いつも自営業で仕事に追われ、夕ご飯も子供達と一緒に食べれない両親はせっせと貯金をしていた。いつか子供達を連れて海外旅行する為に~。自営業でサービス業なので、連絡付く所にいたら飛んで帰らなくてはならない。とまとちゃんのお母さんは、色々作戦を練っていた。


とまとちゃんは中学1年生になるまで、真ん丸お顔でポチャポチャ少女だった。身体が重くて早く走れない。特に短距離は大の苦手!お父さんは車大好き人間だし、お母さんは運動音痴人間だ。


とまとちゃんは「これはやばい!」と思っていた。このまま遺伝で勝負しては、ことごとく絶望的だと思った。


「よし!努力で頑張れるものを見つけよう~」と心の中で決めた。


それから部活を頑張った。 この頃には、すでに「キャビンアテンダント」になりたいと思っていたのだった。2年生になって体重がムチャクチャ減って、一気に痩せた。10kgは減っていた。


学校から病院で精密検査を受けるように言われて、検査をしてもらった。


病院から電話が入り、「御宅の娘さんは、白血病です…★」と言われてしまった。


お父さんはパニックになり、言葉を失ってしまった。お母さんは驚いたが、頭は冷静だった。そこへ、とまとちゃんが「ただいまぁ~」と学校から帰ってきた。


きっとんとん~まあ大変!<<o(>_<)o>>ぶるる


第四章『えっ、信じられない!』


学校から元気良く帰ってきた娘に、「とまと、今晩は、何が食べたい?お母さんにおいしいものを作ってもらって、みんなで一緒に夕ご飯食べよう!」とお父さんは言った。


お母さんは、心配そうに「今日は、身体えらくなかった?」といつもより優しい声で話しかけてきた。 普段、二人共仕事が忙しくてこんなふうに言われたことがなかったので、不思議な気がした。


とまとちゃんは何だか変だと思い、「どうしたの?何かあったの?」と聞いた。


両親は、お互いに顔を見合わせた。お母さんが「心配せんでいいよ。さっき、病院から検査の結果が分かったと電話があったの。詳しいことがわからないから、明日、仕事休んでちゃんて聞いてくるからね」と言った。


お父さんは黙っていたけど、いつもよりウンと優しかった。とっても大事にされているような気がした。お母さんはバタバタとせわしく動き出した。


心配していても仕方がないと思い、東京の癌センターにも電話をし切符の手配もしていた。詳しいことを聞いたら、信じられない出来事が起きていたのだ。


病院の事務の女性が、名前が似ていた為に、間違えて電話をしてしまったのだった。苗字が同じで名前が一字だけ違っていただけだったので、勘違いしたということだった。あとから分かったことだが、この人が親戚の方だったので素直に喜ぶことは出来なかったそうだ。


この出来事ごとを、後日聞いてほっとして、また夢に挑戦する勇気が湧いて来た。


きっとんとん~やれやれ助かったぁ(^-^)/~


第五章『王様気分でお買い物~♪』


とまとちゃんの家の周りは豊かな自然に囲まれ、子供達は退屈することはなかった。 友達も多くて、小さい頃から、あまり家にはいなかった。お菓子を持って友達の家に一足飛び!良く遊ぶ女の子だった。


家が自営業なので、お父さんもお母さんも毎日仕事に追われていた。お母さんは子供達がかわいそうだと思い、お金を貯めて家族の海外を計画し、次々に実行した。


ハワイ、グアム、中国、アメリカ、オーストラリアというように、どんどん外国の世界へと出かけることになった。


いつもは夕ご飯の時まで仕事の話なので、子供達はおもしろくなかった。


しかし、こうして外国の世界へと出かけると、子供達ばかりでなく大人も元気になっていったのだ!


インドネシアは、その頃、まだそんなにリゾート地ではなかった。弟のヨン君もとまとちゃんも、3000円づつ、おこずかいをもらった。それをルピーに変えたら、円高だったこともあって、ものすごいお金になった。


欲しい手作りおもちゃが何でも手に入り、最高気分~! まるで二人とも王様気分になっていった。日本にいるより楽しいな!給料もらって世界旅行なんて素敵だなぁ~


飛行機の中のかっこいいスチュワーデスさんが、とまとちゃんの心に焼き付いた。


きっとんとん~いいな、外国って素敵だなぁ~ヽ('ー'#)/


第六章『師を見つけて』


丸顔のかわいい中学生のとまとちゃんは、コラージュセラピーを受けにやって来た。 にこにこ笑顔で作成したコラージュを差し出した。


それは大変個性的で大胆な作品だった。青い空が印象的で「強い意思力で目的を達成するでしょう…」とコメントをした。


そこには、エールを送る師が必要だった。


「誰か尊敬できる先生がいる?」と聞くと 「今、行ってる塾のお髭先生!」と答えた。


詳しく話を聞いたら本当に素晴らしい方だった。こういうコラージュを作る子に、ぴったりの男の先生だった。


中学に入って苦手だった科目にも取り組み、ぐんぐん成績が伸びていった。高い高い夢がほんの少し近付いてくるような気がした。


きっとんとん~夢の中で~(^-^)v



第七章『絶望から希望へ』


高校3年間、勉強も生徒会活動も頑張った。そして大学受験もベストを尽くした。


ところが予期せぬ結果だった。


受験した大学すべて不合格!


「まさか~?」


母子ともども呆然とした。だが父親は優しかった。涙を出しきったら浪人をして、再度挑戦する勇気と希望が出て来た。


そして、高校で交際していた彼氏とも別れ、家を出る決意をした。


下宿をして街に出て受験勉強すると決め、大学も的を決めて戦うことにした。


予備校に通うようになった。毎日が緊張の連続だった。


ある日、一人の男の子が授業に遅刻して入ってきた。


「超かっこいい!」


とまとちゃんの目が点になり、ビリビリッと全身に電気が走った!


きっとんとん~あっ\(◎o◎)/!


第八章『浪人生の恋』


遅刻してきた男の子は、みんなから、「自由人」と呼ばれていた。


やりたいことをどんどんやってゆくタイプだった。


とまとちゃんは、山と川の美しい田舎育ちだったので、全てが新鮮な刺激だったのだ。地元の高校は生温かったので、目標を持って、熱くなっている浪人生活は、いっぱい楽しい思い出ができた。


みんなで野球チームを作り、ユニフォームまで作って中部地区大会まで出場した。初戦で負けてしまったが、楽しくてみんなで燃えた。


その中に自由人君もいた。だんだんお互いに気になる存在となっていった。


ロフトの下のドトールでしゃべっていて「屋上に上がってみよう」と言われて、一緒に上がった。だんだん暗くなってきて夜景がきれいだった。


彼は、突然「昨日、彼女と別れてきたので、付き合って欲しい」と言った。


とまとちゃんは驚いた。心の中で「昨日、彼女と別れ、今日つきあってくれって、どういう人なんだろう?」と思っていた。


「俺、好きになった人ができたから、別れてくれ~」って彼女に言ったら「そんなのいやだぁ~」って泣かれたんだ。そんなことまで、ペラペラしゃべり出した。呆れながらも、彼に心惹かれていたので「喜んで」と言ってしまった。


そう答えたら、すぐに彼はとまとちゃんの手を握ろうとしたので、慌ててその手を振り払った。 「ごめん!」と素直に謝ってくれた。


ある日、彼の家に遊びに行った時に、彼の妹さんから「ななえちゃん~」と言って話しかけられ、びっくり!それは、前の彼女の名前だった。


きっとんとん~(`ε´)ぶー★


第九章『お父さんってなんて優しい人!』


予備校は辛いところだと思っていたが、そんなところではなかった。 彼氏もできて、夢も見つかって、予備校は楽しかった。


親元からも離れたので、ちょっぴり大人の気分だった。


離れてみて、初めて父や母の優しさが身にしみた。彼氏は尊敬できるところがいっぱいあって、けんかしながらも受験勉強の励みとなった。


家から離れてみて、特にお父さんの超優しいところを感じるようになった。


希望大学が受かったときのことを、弟のヨンくんが教えてくれた。「あのね、ねえちゃんが大学受かった時に、猫に『ミュー、知ってるか?ねえちゃんな、大学受かったよ』 って何回も話かけていたんだよ」 弟がお風呂のところで聞いていたのを、父親は知らなかった。


きっとんとん~ニャー★


第十章『バイトで心身を鍛える』


大学に入って、夢を実現するためにどうしたら良いかを考えていた。まず語学力をつけなければならない。バイトで留学資金を作る為に、いろいろな仕事をした。いろいろな情報を集めて大学に通いながらバイトをし、語学学校にも通っていた。


とまとちゃんの顔はニコニコ美人顔なのに、どこにそんなエネルギーが秘められているのでしょうか? 明るくて、よく笑う。


こんなにきれいな女の子が、大阪に飛び立ったのだから、特に父親は心配していた。母親は娘を信じながらも、危ない目に会わないように手を打ってあった。彼氏に頼んで、アッシー君やらオムカエ君になってくれるよう頼んであった。


彼氏もまた大阪の大学に合格していた。


春休み、夏休み、冬休みにとまとちゃんの帰るのを、首を長くして待っている人がいた。 猫のミューと一緒に寝ている父だった。


「ミュー、お姉ちゃんが今度の休みに帰ってくるよ、ミュー、わかったか、ミュー!」と言うと、あくびをしながら、「ミャー~」と猫が返事をしていた。


こんなに待っているのにとまとちゃんが帰ってくると、「おっ、帰ったんかぁ~」とさりげなく言う父親。だけどそういう日は、早々と仕事を終えて帰ってくるのだった。


子供の頃は、仕事ばっかりしている父親があまり好きではなかったが、今の父は「すごくかわいい」と言っている。


サンダーバードでバイトをしたり、飲食店で、またオシャレなカフェでと、いろいろな所でバイトをして、留学資金を稼ぐようになっていった。深夜のバイトは、彼氏が迎えに来てくれたりした。怖い思いをしないで、みんなに見守られながら、高い空を飛ぶ夢へと向かっていったのだった。


きっとんとん~エンヤコラ夢に向かって~


第十一章『経験は財産』


サンダーバードは、かっこいい特急。 ここに乗車してくるお客様は、とってもフレンドリーで、気持ちよく働けた。 優しいおじいさんが「ご苦労様だね」とにこにこしながら冷凍みかんをくれた。


とまとちゃんは小さい頃、おばあちゃん、おじいちゃんに育てられたので、お年寄りが大好きなのだ。


大都会の大阪の牛丼やさんで、夜の10時~早朝6時まで半年働いた。時給1500円なので、週3回バイトを入れた。夜勤なので大変だったが、根性で頑張った。


大都会の夜は、昼間の世界と全く違う。浮浪者の人や、可哀相な境遇の人達が、夜中に牛丼を食べに来る。自分のことしかしゃべらなくって、暗い人が多かった。


「なべを洗え!」と言われて、洗剤をつけてきれいに洗っていたら、怒鳴られた。「何やってるんだ!水でシャッと流して干しときゃいいんだ!」と大声で叱られた。


「ワッ、この店では食べられない~」きれいにしようとするたび、叱られたこの飲食店の裏を知ると、恐くなった。


何とか、頑張って留学資金ができた。 そして、大学を休学してニュージーランドへ飛び立った!


きっとんとん~やったぁ(^-^)v


第十二章『留学を決心してついに実行』


いろいろな所で冷たい社会の風に揉まれながら、心身共に鍛えられた。そして、大学を1年間休学して留学することに決めた。


父親は、とまとちゃんに「あのなぁ、お父さんはな、猫2匹とカメが1匹いるからさみしゅうないぞ~ミャーは、おっとりしていて父さんの気持ちを、全てをわかってくれるし、グチを言っても、ただ黙って聞いてくれる。ミャーって返事もしてくれるしなぁ~そば屋の前で、どしゃぶりの雨の中でとまとが拾ってきた猫だよ。ミューはミャーほど返事はしないが、口答えをしないからかわいいのさ。母さんも仕事が忙しいし、ヨンも東京の大学に行ってしまった。なぁ~ミャー~ 」先日は、鳩の傷を治してやってから、空に返してあげていた。


父親の口癖は「思い出だけで生きていける。笑って暮らしていける。今が一番」だ。


とまとちゃんの心配は、留学中の両親のことだった。二人共、口では強がりいっているけど、心配していることが切々と伝わってくる。「早苗ちゃん、私ね、実は父さんと母さんのことが心配なの。お願いね。」と私に呟いた。


「よし、よし。私に任していいよ。心配しなくていいよ。1年なんてあっという間だよ」と言って、握手をしてからハグをした。とまとちゃんはニッコリして「ありがとう~」とペコンと頭を下げた。


私は心の中で「この娘なら、世界のどの国に降りてもやっていける」と確信した。


彼女のお母さんが私のことを「早苗ちゃん」と呼ぶので、同じように、私の名前を呼んでくれる。とまとちゃんと話していると、同じ年齢になった気分になるから不思議だ。


こうして、とまとちゃんは、大きな夢を抱いて、外国に旅立っていった。


きっとんとん~大きく羽ばたいて♪( ^o^)\(^-^ )♪


第十三章『えっ、そんなことってあるの?』


外国に行ってしまったとまとちゃんに自由人の彼は、毎日メールをした。


趣味が多いので退屈はしなかったが、寂しくなると、とまとちゃんのお母さんと一緒にご飯を食べた。


1年間の留学を終えて、とまとちゃんが帰国し大学に戻った。再び会えて嬉しいはずなのに、何だか二人の間にけんかが増えてきた。


ある日、彼の下宿先を尋ねたら、そこで女性と鉢合わせ!とまとちゃんの頭は真っ白~!


自由人の彼は「誤解だよ、何でもないよ。ごめんな…」とあやまった。


相手の女性はバツが悪くなり、慌てて帰って行った。


とまとちゃんは「ワァー」と泣き出した。悔しさのあまり、大声で泣き続けた。


今まで6年間、何をやっても楽しくて、二人一緒にいるだけで楽しくて~ 今までの楽しかった思い出の数々が瞼に浮かんできたら、またまた涙がダムのように溢れ出した。


目を開けると、そこには彼の携帯が~ 目の前には彼の携帯が~この携帯で連絡をとったんだ~ 急に悔しさと憎しみが襲った! 泣きじゃくりながら、とっさに、彼の携帯を手にして力一杯「ボキッ!」と折ってしまった。


きっとんとん~悔しい、ほんと悔しい\(`o'") こら-っ~


第十四章『キャビンアテンダントに合格通知』


とまとちゃんが何を言っても、彼は「ごめんな~」というだけだった。


頭の中では「別れ」の文字がよぎった。でも、ここまで頑張れたのも、彼の応援があったから~~~。しばらくの間、色々と考え込んだ。


キャビンアテンダントの試験が近付いてきていた。


「彼だけが悪いんじゃない~きっと私も悪いところがあったかも~」と自分と向き合い、自分の心と対面した。将来はまだ未知の世界だからわからない。でも、今の彼は、とまとちゃんにとって大切な存在だと気付いた。


しばらくしてから仲直りをして、「鉢合わせ事件」も笑い話となった。


それから、キャビンアテンダントの厳しい試験がスタートした。


まず書類審査から始まり、第一次、第二次、第三次、大四次試験と続く。英語での面接、日本語での面接。面接だけでも4回あった。次々に難関を突破していった。


体力審査もあった。


握力検査平均値14のところをとまとちゃんの握力は、何と34。 腹筋力平均値14のところをとまとちゃんの腹筋力は何と39だった。


野山で鍛えた田舎暮しと、バイトで鍛えた根性と家族や周りから与えられた愛が見事融合してエネルギーとなって、とまとちゃんオーラが放たれた。


とまとちゃんオーラは、次々襲いかかる厚い壁を高速の光を放ちながら、通り抜けた。


両親も手に汗を握り、息を潜めて合格通知を待った。


私は彼女に幸運の女神様が微笑んで下さるよう祈るのみ…☆ 長い長いトンネルを抜けてやっと、幸運の女神様が微笑んで下さった。


私の携帯に合格通知が飛び込んだ! 嬉しかった。ここにまた、ミニバラに関わってくれた子が、夜空の星のように輝いた。


お父さん、お母さん~本当におめでとうございます☆見事大きな愛の花が咲きましたね。とまとちゃん、嬉しい虹色ニュースをありがとう。これからも、ずっと空に向かってあなたの安全祈るよね☆「ど根性かえる」があなたの帰るのを待ってるよ!


世界の旅を楽しんでね。ヽ('ー'#)/ きっとんとん~大空を楽しんでね~ヽ('ー`)ノ~


とまとちゃんの巻おしまい~最後まで見て下さってありがとうm(_ _)m

■第7話「サッカー少年神官くんの物語

■第7話「サッカー少年神官くんの物語」


第一章『神の子誕生』


桜の花が美しい4月11日に、色の白い美しい男の赤ちゃんが産声をあげた。


1才半の長男に続いて2人目も男の子だった。


長男は丸顔でお母さんに似ていた。


次男は面長でお父さんに似ているようだ。


家族は、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、そして、男の子2人の6人家族。この家はお店屋さんで大人達は毎日忙しく働いていた。


上の子は生まれた時から、おばあちゃんにかわいがられていた。長男だからと、初孫を母親から取り上げるようにしてかわいがった。


その分お母さんは、寂しかった。


2人目の赤ちゃんはお店をやりながらでも、自分のそばで育てたいと強く思った。聞き分けがよく、やんちゃも言わずスクスクとと育った。お店をやっているお母さんを困らせたことが一度もなかった。


お母さんは、神の子のようだと思って「神官さん」と呼んだ。


きっとんとん~オギァ神の子誕生☆ヽ(~-~(・_・ )ゝ


第二章『姿が見えない~どこに?』


赤ちゃんは夜泣きをしたり、病気をしたりして、育児が大変なはずなのに神官くんは、とってもおりこうさんだった。


長男は、おばあちゃんっ子で成長していた。


弟が出来てからは、二人が仲良く遊ぶようになってきた。お母さんは二人が一緒に遊んでいると思って、安心してお店に出ていた。


夕方になって部屋が静かになっていることに気付き、胸騒ぎがした。


「神官くーん~」と大声で叫んでも、返事がない。まだ3才になったばかりなので、そんなに遠くに行くはずがない。お母さんは、胸がドキドキしてきた。お客さんと話しているうちに、神官くんの姿が消えてしまったのだ。家の前は、道路で車がいっぱい走っていた。


長男の名前は、しょうごくん。


もしかしら、おばあちゃんが二人をみてるのかもしれないと思い、部屋に行ってみると、そこには、しょうくんしかいなかった。


「おかあさん、神官知りませんか?」と聞いた。


「私は知らんよ!あの子は、おまはんが見てたんやろ~」と強い口調で言われた。


しょうくんは楽しそうにおばあちゃんと遊んでいた。お母さんは複雑な気持ちだった。 おじいちゃんに聞いても「知らない」と言われた。お母さんが心配のあまり泣きそうになって、神官くんを探していたら、みんなも一緒に探し始めた。


家の中で呼んでも、返事がなかったので外ばかり探した。あきらめかけて、ふと仏間に入った。お母さんの目に、黙って一心に本を読んでいる神官くんの姿が飛び込んだ。


思わず「いたぁ」と叫び、思いっきり神官くんを抱き締めた。


お母さんの目からは涙がこぼれ落ちた。


「ずっと、本を読んでいたの?」と聞くと「うん」と答えた。


3才でも本が大好きなので、文字も全部読めた。きっと夢中に読んでいたので、名前を呼ばれても聞こえなかったのだろう。仏間の片隅でチョコンと座っていたのだった。


「おまはんが、ちゃんと見とらんから、こんなことになるんやな!」と姑に叱られた。


神官くんは、お母さんがおばあちゃんに叱られたので、急に泣き出した。


きっとんとん~やれやれ☆(*^)(*^o^*)チュッ~


第三章『長男と次男』


お店を持っているお父さんとお母さんは、毎日忙しかった。


子供心にお母さんを困らせたらいけないと神官くんは、思っていたようだ。姑は昔の考え方なので、長男はこの家の跡取りだからと言って、大事に大事に手を掛けていた。


しょうくんは家族の愛をいっぱい受けて、伸び伸びと成長していた。顔もかわいくて美少年。性格も明るく、勉強もよく出来て、みんなの人気者だった。


姑は、「おまはんが、わしの息子を取ったんやから、おまはんの大事な息子をわしが取って育てるでな。大きくなったら、おまはんとこに戻るからな」と言う。


それを聞いたら、「結婚して大切な息子を取られてしまったんだ。寂しくてたまらないんだ!」というやるせない姑の気持ちが伝わってきた。


長男が愛しくてたまらないが、姑がサッとしょうくんだけ連れていってしまう毎日が続いた。


ある日の食事の時間の出来事だった。


お母さんは、お店と家事でてんてこまい!みんなのご飯をつけてあげたのに、姑のご飯はまだだった。「わしのご飯がない!おまはんは、よう忘れるんやな~」と、怒った口調で言った。


小学校一年生になっていた神官くんは、「おばあちゃんだってわすれることあるよ~」とポツリと呟いた。その言葉を聞いた姑は「わしが何を忘れたというんや!」と神官くんの顔を睨み付けて怒った。お母さんをかばったのだった。その気持ちがかえって姑の機嫌を損ねてしまったのだ。


食事中に重い雰囲気になってしまったので「すみませんでした~」とお母さんはあやまった。べちゃんこに押さえられた神官くんは、二度とおばあちゃんに口答えしなくなった。


きっとんとん~ドキドキな毎日だ~\(`o'") こら-っ~


第四章『サッカー大好き少年』


神官くんは、いつも弱い人の味方だった。お母さんを励まし、心の支えとなっていた。 静かな雰囲気をもった子だったけど、サッカーボールで遊ぶようになって、活発で元気な少年へと成長していった。小学校低学年からスポーツ少年団に入り、身体を動かし、大きな声を出すようになった。


友達も増え、陽気なサッカー少年に変わった。


神官くんは小さい頃から、たくさんの本を読んでいたので、お父さんとも、ちゃんと話ができた。要領も良かったので、叱られることも、ほとんどなかった。


オレンジ色のユニフォームがとてもよく似合っていた。運動神経も良く、監督に見込まれてゴールキーパーになった。


5年生までは、明るく楽しい学校生活だった。友達も楽しい仲間だった。特に、よっちゃとひでちゃと仲良しだった。5年生までの担任の先生は、そんな彼らを認め長所として伸ばす指導だった。ギターを持ってきて、一緒に歌ってくれた先生もいた。


クラスも仲良く、休み時間もみんなでサッカーをして遊んだ。学校が楽しくてたまらなかった。ところが、6年生になって担任が変わり、楽しかった学校がおもしろくなくなってしまった。


きっとんとん~アーア、つまんない!w(☆o◎)wガーン~


第五章『サッカー少年から野球少年へ』


神官くんは6年生までスポーツが大好きで、お店の子らしく誰からも好かれた。元気でエネルギッシュな小学校生活だった。


ところが6年生になって、少し様子が変わった。そして、ミニバラと関わることになる。


うちの3男と同級生で、家も近くで大の仲良しだった。勉強も一緒にやったり、遊んだりしていた。女の子とも仲良くできるので「あなたは学校の先生になるといいね。教育の方に進んでくれない?」と言ったら「うん。いいよ。僕、先生になるよ」と答えてくれた。


ところが、6年生になって担任が変わった。


この神官くん、よっちゃん、ひでちゃの元気な仲間達が、担任の先生の目についてしまった。男の先生でカチカチ頭だった。授業中にユーモアを交えて答えると叱られ、立たされた。5年生までの先生は一緒に笑ってくれたのに、この先生には怒られた。


元気仲間達は、次第に学校がつまらなくなってしまった。


特にひでちゃが、よく叱られた。それを神官くんが、かばったので担任の先生に目をつけられ、毎日が嫌な日々となってしまった。あれほど元気なサッカー少年が風船がしぼむ様におとなしくなってしまった。


心配したお母さんは、「あと5ヶ月、あと4ヶ月、あと3ヶ月~」と言って励ました。


やっと小学校を卒業し、中学校の入学式。今までは中学に入学すると、毎年、式が終わると嬉しくて、中学校の制服姿を小学校6年生の担任に見せに行くのだった。だが、この年は誰も担任の先生の所へは走らなかった。


中学校に入学して部活を迷っていたが、お父さんの進めもあって野球部に入った。


きっとんとん~やっと中学生ヽ('ー'#)/~


第六章『中学生から高校生へ』


野球部に入り、はじめは頑張っていたのだが、だんだんやる気をなくしていった。あれほど大声で活発だった神官くんは、物静かで考えこむ中学生になっていた。


小学校の時の保健の先生が、そのまま中学校に赴任し、神官くんのことを気遣ってくれた。いつも、保健の先生が話しかけてくれた。学校へいくと保健の先生が、お母さんにも学校の様子を話して下さった。


お母さんが神官くんに「どうしたの?あまり元気がないって、保健の先生が心配していらしたよ」


「うん、高校になったら、サッカーやってもいい?」と聞いた。


「そうだったの?本当はサッカーやりたかっの~」


「うん~」とにっこりほほ笑んだ。


サッカー少年は、野球少年に変身したのだが、どうもしっくりいかなかった。そして、いつの間にか、文学少年へと成長してゆくのだった。


きっとんとん~楽しみね~ヽ('ー'#)/~



第七章『甦ったサッカー少年』


中学校生活は、静かでおとなしい男の子になった。野球に夢中になることはなく、よく読書をするようになっていた。先生も母親も心配するくらいおとなしい中学生だった。


ある日のこと。 期末テストの結果が返って来た。それは、行きたい高校の平均レベルを超えた合計点だった。 神官くんは、にっこりして「岐阜市の高校へ行ってもいい?」と母親に聞いた。


その頃、兄は野球の名門校で野球部に入り、頑張っていた。


兄とは違う高校を希望していた。


「高校に合格したら、もういちどサッカーやりたいんだ」と目を輝かせていった。


久しぶりに明かるい笑顔をみせた。この一言を呟いてから、勉強も部活も頑張るようになった。成績も安定し、心も安定していった。整った顔立ちに光が差し込み、ハンサムでかっこいい少年となった。


子供達は目標が見つかると頑張り、秘めていた力をどんどん出してくる。神官くんも、目標に向かって走り出した。


希望校に見事合格。


みんなに祝福され、胸をときめかせて入学した。そして、念願のサッカー部に入部できた。それからの神官くんは水を得た魚のように甦った。


朝早く起きて、自転車で45分かかる高校へ一目散に走った。朝練に参加して勉強する。その後、部活をやり、自転車で家に帰り、また勉強する。


お母さんは彼のことを心配して、 「お兄ちゃんは部活もやり、ガールフレンドも出来て、楽しそうだよ。あんたは女の子の友達いないの?」 とニコニコしながら聞いた。


すると、神官くんは真面目な顔をして「そんな時間はないよ。進学校だから、勉強もしないといかんし~。母さん、僕が大学落ちてもいいの?」と答えた。


その後、お母さんは何も言えなかった。


「高校の教師になりたいから、東京へ行かせて欲しい」とペコンと頭を下げた。


「この子だったら生徒の気持ちがわかる素晴らしい教師になるに違いない」


お母さんは、こんなに誠実で一途な息子を持てたことを誇りに思えた。「うん、分かったよ。じゃあ、母さんも応援するよ」と言うと「ヤッタァ!」と嬉しそうに自分の部屋に入っていった。


サッカーも頑張って活躍し、友達も増え、先生にも可愛がられて、成績もぐんぐん伸びた。ついに、校内10番以内に入り、廊下に神官くんの名前が張り出された。


きっとんとん~すごいぞ頑張れ(^-^)v~


第八章『夢実現』


高校3年間は、部活、勉強に身を入れて頑張った。彼は充実した高校生活を送っていた。 神官くんをかわいがってくれた先生の出身大学を受験して、合格した。努力が実って、地元の国立大学も合格していたが、希望していた東京の大学に決めた。


東京の大学で4年間、国文学を学んだ後、更に一年間、神道学科で学んだ。


大学でも、サッカーに打ち込み、Jリーグの警備員もやっていた。 高校、大学に行っている時も、家に帰ってくると、ミニバラに来てくれた。


中学生や高校生の塾生の勉強を見てくれた。子供達に上手に教えてくれた。「あなたは、子供達に好かれるし、面倒見がいいから、教師に向いてるよ」と私は言いました。


「高校教師はなかなか、難しいんです」と彼は答えた。


私が「あなたなら、大丈夫だよ」というと、嬉しそうだった。その後、大学と神道学科を卒業し、高校教師となった。子供の頃からの夢がやっと実現した。


きっとんとん~夢実現うれしやうれしヽ('ー'#)/


第九章『高校教師になって』


初めて赴任した高校は家から通えた。私立高校なので、特に大学受験に力をいれていた。


サッカーを指導しながら国語を担当していた。一人一人を大切にし、生徒の心に響く言葉をかけていた。論文は一枚一枚を何回も読み返し、丁寧に赤ペンで指導する先生だった。進学校だった為、どこか味気無い高校生活をしていた生徒の心も魅了した。


爽やかで男らしく、大きな声で生徒を励まし続けた。若い先生ということもあって、男の子にも女の子にも人気者の先生だった。


次に赴任した所は県立高校だった。遠かったので家から通えなくて下宿した。


私立高校とは少し雰囲気が違っていた。どことなくおおらかだった。最初は古典の授業に興味を持てない生徒が多かったが、神官先生が担当してから変わってきた。


「古典が他の教科より楽しい」という生徒が増えてきた。


神官先生は、正式に神官さんの資格も持っていたので、地元の春祭りは大忙し。ご祈とうやそれに関わる仕事に追われた。お祭りの時は、神官先生を一目見ようと「追っかけ」が出たそうだ!ヽ('ー'#)/


県立高校での人気はすごいものだった。サッカーの熱心な指導に生徒達の力もつき、試合もどんどん勝ち進めるようになってきた。


きっとんとん~すごいよヽ(*^‐^)人(^-^*)ノ~


第十章『神官くんは神の国へ』


神官くんは、明治神宮、伊勢神宮、護国神社など数々の神社で修行をして、ぐんぐん力をつけていった。祭りごともきちんと責任を果たしていた。


人格も優れ、小さい頃からこの生まれ育った町の未来も真剣に考える子であった。擦れ違った人にもちゃんと挨拶ができ、友達想いでもあった。


地元では、昔から続いている川祭りがある。8月にあるお祭りで、毎年盛大に行われていた。彼は青年部でお祭りを盛り上げ、みんなを楽しませる「お祭り男♪」でもあった。


明るくて、楽しくて、何でも情熱を持って取り組み実現してゆく爽やかな高校教師。生徒に楽しい授業をし、一人一人を大切にする優しい高校教師。 サッカーを最も愛し、生徒を愛し、神に仕えた高校教師。


そんな素晴らしい彼が何故~?


そんな愛に満ちた彼が何故~?


25歳という若さで何故~?


梅雨空でどしゃぶりの雨の為に、車がセンターラインを越え横滑りをして、対向車と衝突!全身を強く打ち亡くなってしまった~。


お父さんは「僕達には、もったいないくらいよく出来た息子でした」と一言。


お母さんは「今でも亡くなった気がしない。この辺にいるような気がする。お祭りのたびに、思い出してもらえるあの子は幸せものです。たくさんの生徒さんの心にもあの子が生きているような気がします」と涙を拭われた。


葬儀には生徒さんを含め1000人以上の人々が、神官先生をお見送りした。そして、神官先生は本物の神様になって、あの澄み切った青空から私達を見守ってくれていることでしょう♪


もうすぐ神官先生の誕生日♪4月11日が神官先生の誕生日♪ 今日も神官先生の部屋の前の川の藪から、鶯が美しい声で鳴いていた。


ホーホケキョ♪ホーホケキョ♪


僕のこと忘れないで♪僕はここにいるよと鳴いていた~。忘れないよ♪と私は鶯に答えて手を振ったヽ(*^‐^)人(^-^*)ノ∵・∴・★


きっとんとん~ありがとうρ(..、)ヾ(^-^;)~サッカー少年神官くんの巻おしまい

■第8話「桜姫の物語」

■第8話「桜姫の物語」


第一章『あかちゃん誕生日』


家族全員が働き者のお家に女の子が生まれた。元気の良い赤ちゃんだった。


数年後、もうひとり、赤ちゃんが生まれた。


お店も家も大喜びでした。ほとんど女性がお客さまで、誰もが喜んでくださった。豊かな自然と豊かな経済の中で、二人の女の子はスクスク育っていった。近くの川には、美しい桜が咲いた。


きっとんとん~(o^-')b


第二章『男の子と遊ぶ桜姫』


お茶目な桜姫は女の子と遊ぶより、男の子と一緒に遊ぶ方が楽しかった。


小学校も中学校も、男の子と一緒に楽しく遊んでいた。女の子は、ぐちぐち友達の悪口を言うので、それが嫌だった。


男の子とバスケをやったり、おしゃべりをした。男の子とよく遊んでいたら、女の子達から無視されたり、仲間外れされるようになった。


背がどんどん伸びて、足も長くなってきたので、男の子に負けないくらいだった。スラリとして、170cmくらいになった。活発な雰囲気で明るくて、友達を驚かすことが大好きな女の子になっていった。


お父さんとお母さんは、お店の経営者だったので、忙しかった。 この頃は、おばあちゃんがお稽古ごとや塾に送っていた。お母さん代わりをしていた。


きっとんとん~楽しいね(^-^)v


第三章『出会い』


明るくて元気な桜姫だったが、人間関係では悩むこともあった。


おばあちゃんは、長年経営者としていろいろな方々とまじわってきている。


ある時、大きなホールで私の講演会が企画された。中学生の彼女がおばあちゃんと一緒に来ていたそうだ。その時、舞台にたって私を見て「困ったらこの人の所へ行こう」と思ったという。


桜姫は感性がよく、人の気持ちを察する優しさがあったので、学校へ行くとヘトヘトに疲れてしまうのだった。


長野県に出張していたら、携帯に電話が鳴った。「もしもし~」と答えたら「わぁ~」と泣き出した。


きっとんとん~えーん<<o(>_<)o>>。


第四章『想像と現実』


中学校までは、時々えらくなって、苦しい時もあったが学校には行けた。 仲間外れになったり、無視されたこともあったが、なるべく気にしないように学校生活を送っていた。


そのうちに仲良くしてくれる友達も出来て、少し楽しくなってきた。


希望高が合格し、すべてがうまくいっているかのようにみえた。


この私立高校は、名門で大学受験に力をそそいでいる学校だった。桜姫はバスケが大好きで、本当はバスケット部に入りたかった。だが、バスケの上手な女の子が県外からも集まってきていた。部活のレベルも高かったのだ。


やっと高校受験が終わって、「さあ高校生活を楽しもう~」と思ったのに、すでに現実には大学受験が始まっていたのだった。


1時間目の前に、0時間目という時間割が用意されていた。部活を楽しんでいる余裕などどこにもなかった。想像していた高校生活と、現実とは、あまりにも違いすぎた。 高校2年生で、ついに学校に行けなくなってしまった。


桜姫のおばあちゃんが女性企業家で、ある会の会長をされていたこと。また、おじいちゃんも企業家で地域の役員もされていたことから、私が講演会を依頼された。このようなご縁から、桜姫がミニバラと関わることになった。


きっとんとん~またね('O')/ハイ!~


第五章『空に蛍の光が~』


高校生活になじめず、中退することになった。


そして、桜姫から私の携帯に「会いたい」と連絡が入った。電話が入って、お父さんと一緒にミニバラに訪れた。最初に受けた電話では泣き声だったが、会ってみると明るくてお茶目な女の子だった。


今まで、たくさんの不登校の子達と関わってきたのだが、全く違うタイプだった。何でも話してくれるし、勉強もよくできていた。本当によく笑うし、楽しい話をいっぱいしてくれた。


彼女が話し出すと、涙を出して笑えてしまう。とってもオシャレで背が高くて、スタイルは抜群☆


この子が不登校?と不思議な気持ちになった。


まるでファッション雑誌からぬけでてきたような女の子だった。テンションが高い時は、どこにでもついてきてくれた。講演会には、ミニトークで出演してくれた。自分のことを大勢の前でも、明るく話してくれたのだった。


男の子達ともバスケをやったり、カラオケにも一緒に行った。私の車に若者を乗せて走った。一緒に食べたり、遊んだり、歌ったりしているうちに心が溶け合ってゆく。


初めて会う子は最初、様子を伺いながら黙っているが、そのうちに仲間に入ってゆく。 桜姫が、その雰囲気作りをうまくやってくれた。彼女が話始めると笑い声が絶えなかった。お茶目な不思議世界を持った女の子だった。ある日、彼女は「夜空に飛ぶ蛍の光が見たい」と言った。


きっとんとん~ワッハハ、ウフフo(^o^)o~


第六章『おちゃめさんから涙姫へ』


どういう訳か不登校になってしまった桜姫。


ご両親も熱心で、家族の会話も楽しそうだった。彼女と一緒に担任の先生、副担任の先生にもお目にかかった。心ある先生方だったし、学校の雰囲気も職員室の雰囲気も感じが良かった。


彼女の住んでいる家にも、ご両親のお店にも訪れた。


おじいちゃん、おばあちゃんにも会えてお話を伺った。


どこから見ても恵まれた環境だった。「うーん!」と私は腕を組んだ。


そういえば、桜姫は夜空を飛んでいる蛍が好きだった。一緒に暗い夜道を歩いたこともあった。家族で蛍を見に来ていただいたこともあった。


星の光の中を飛んでいる蛍をみて「急に消えたくなることがあるの。突然不安に襲われ、消えてしまいたくなるの。こんなに恵まれているのに、私の心の中で幸せになっちゃいけないと思ってるの。家族にこんなに愛されているのに、心配ばかりかけている自分がいやだ……」ボツりポツリと心の闇の部分を語った。


あの元気でお茶目な桜姫が消えて、涙姫となって蛍の光に包まれた。


きっとんとん~うーん?{{{{(+_+)}}}}



第七章『別れと出会い』


高校学校をやめたが、大学には行きたいと思っていた。そこで予備校のような高校に入った。


同じような状況の子たちたがきていたので、友達も出来るようになった。女の子の友達もでき、ボーイフレンドも出来た。


ところが、精神的なえらさが急に襲ってくることもあった。過呼吸になって突然倒れたこともあった。そんなにデリケートな桜姫をボーイフレンドも支えきれず、けんかになることが多かった。


そして、いつものようにけんかして、ついに別れることになってしまった。桜姫はショックだった。しばらく体調をくずした。


別れの辛さを味わいながも、大学生となった。受験という高いハードルを越えることができ、家族も安心だった。 そこには新しい出会いが待っていた。


きっとんとん~出会いを大切に~


第八章『人間不信』


大学は両親のお店を継ぐために、経済と経営学を学べる大学を選んだ。


彼とは高校から1年半付き合っていたけど、体調が良くないこともあって心が擦れ違ってきていた。 そんな時、よりにもよって桜姫の友達と付き合っているという噂が耳に入ってきた。


「桜姫は、強いから大丈夫」「俺は、彼女に振り回されただけ」「俺は、彼女に尽くしてきた」本当に彼がそう言ったかどうかはわからないが、友達が「そういっていたよ」と話した。


別れ話をした時「体調が良くなるのを待っているから~」と言っていたのに~。何を信じていいのかわからなくなってしまった。


友達は「あなたは、強いから一人でも大丈夫よ。私は、彼がいないとだめなの」と言った。彼と友達と一緒に失った。「喪失感」が雪崩のように押し寄せた。


大学になって一人暮しをしている桜姫は、ひとりぼっちになってしまった。明るくお茶目だった桜姫は、人間不信と孤独な世界へと突き落とされた。


きっとんとん~あれぇ~w(☆o◎)wガーン~


第九章『私はだあれ?』


大学でも突然倒れてしまって、友達が寝ずに看病してくれた。リストカットをしたり、過呼吸になったりして、大変な苦しみを味わった。


ことばでは言いあらわせない。心療内科にもかかっていて、いろいろな薬を試されたが、吐いてしまって効かなかった。


身体中の力が抜けてゆき、意識がかすんでゆく。大量の薬を飲んでしまったときも、ただただ暗闇の中で、右も左も前も後もわからないからこわかった。


しかし、あるところを通り越してしまうと何も感じなかった。


大学1年生の時に、自分で自分がわからなくなり自殺未遂をした。


ちょうどお母さんが、下宿に来ていた時だった。すぐに指を突っ込んで吐かせたが、うまくいかなくて救急車を呼んだ。


「肝臓と腎臓はもとにもどれないかもしれません」と医者に説明された。だが、幸運にも奇跡的に回復していった。しかし、11月、12月、3月と大量に薬を飲んでしまった。ご両親は、心配のあまり、家に桜姫を呼び戻した。


きっとんとん~ρ(..、)ヾ(・-・;)


第十章『不思議な世界に』


ある日のこと、かかりつけの医者から「なかなか薬が効かないなぁ~おかしいなぁ~すぐには治らないかもしれないけど、気長に治療してゆこうね」と言われた。


この苦しみは誰にも分かってもらえないんだ。これは、きっと薬では治らないかも~。あまり両親に心配かけたくなかったので、普段は明るく振る舞っていた。


そこには作っている自分がいた。心配かけないために笑顔を振りまいた。どうにもならない心の闇に悩まされていた。


何人かの人物が、自分に話しかけてくる。それに従って動こうとすると、また違う人物が引き止めようとする。自分であって自分ではない。奇妙で不思議な世界だった。


何年も病院にかかっていても治るようにみえなかったので、親戚の人が霊が見えて、霊をとってくれるという人の所を紹介してくれた。


「怪しげなところは嫌だなぁ」と思ったけど、この苦しみから、一日でも早く解放されたかった。信頼できる親戚だったので、両親がそこへ連れて行ってくれた。


家族が必死に自分を治そうとしてくれていた。いろいろな人の力を借りた。見えない力が拒絶した。だが、一方で安心している心があった。 年齢はわからないが、みてくれた人は男の人だった。


いきなり「7人の霊がついている」と言われた。「一度にとると、あなたの命が危ない、一人づつとっていきましょう~」と言われた。


「そんなぁ~?」と少し不思議な気持ちになった。


それから、桜姫に憑いている7人の霊をとってもらうことになった。


(o^-')b きっとんとん~うそっ?ほんと?~o(^o^)o~


第十一章『桜姫が倒れた』


不思議な所へ通ったが、すぐには良くならなかった。


桜姫は、チョコチョコミニバラの活動も手伝ってくれた。講演会の時には、体験談や寸劇にも出演してくれた。話も上手で劇をやるときは、その役になりきってやってくれるので、聞いている人々に感動を与えた。


講演会が終わって、みんなでお茶を飲んでいた。


桜姫はお手洗いに行ったはずなのになかなか帰って来なかった。


胸騒ぎがして、見に行ったら入口で倒れていた。慌てて、みんなで抱き抱えて車に寝かした。身体が冷たくなり、唇は紫色だった。


すぐに救急車を呼ぼうとしたが、まずお父さんに電話した。


桜姫の様子を伝えると落ち着いて「大丈夫です。救急車を呼ばないでください。これからそちらに向かいますから、娘を頼みます」と言われた。すぐにといっても、1時間くらいかかってしまう。自分に「落ち着いて!」と言い聞かせながら、彼女の手当てをした。気を失っているようなので、呼吸がえらそうだった。息が今にも止まりそうだったので、袋をかぶせ声をかけた。手がだるくなったががんばるしかなかった。


やっとお父さんが到着。歩けないのでみんなで桜姫を移動させた。彼女の苦しむ様子を目の当たりにした。一日も早く、お茶目な桜姫に戻れる日がくるように祈った。


ρ(..、)ヾ(^-^;) きっとんとん~まあ、大変!~<<o(>_<)o>>。


第十二章『闇からの脱出』


病院の薬を飲んでいても良くならなかったので、親戚の紹介によって、ある先生のもとに訪れた。 最初は、「うさんくさいなぁ」と思っていたけど、言われることが的中していたので、素直に指示に従った。


両親がちゃんと調べて連れてきてくれたのだから、信じてみようと思った。


「あなたと同じくらいの年齢で、誰か自殺していないかなぁ?最近で友達かもしれない~」と言われた。


「ドキッ」とした。少し前に、予備校で友達になった女の子がある日、突然、自殺で亡くなった。


「その女の子の霊がついているよ。まず最初にその子から~」と言われた。


言われることが、そのとおりだったので驚いた。先生を信じることにした。7人の霊をとってもらった時は、もう大学2年生になっていた。


それからは、それまでの長い苦しみから解放され、すっかり元気になった。以前の明るいお茶目な桜姫に蘇った。それは、新しいボーイフレンドとの出会いの幕開けだった。


きっとんとん~ああ、良かったぁ(^-^)v


第十三章『新しい出会い』


桜姫は子供の頃から苦しんできた、得体の知れない闇からやっと抜け出すことができた。暗いトンネルを抜けた時、楽しい大学生活が待っていた。


7人の霊が桜姫から去った時、身体が軽くなり笑顔が戻った。その先生はドクターの勉強もされ、霊の世界も学ばれた人だった。


半信半疑であったが、それからは、あの闇の苦しみが襲ってくることはなかった。 桜姫は、ふつうの大学生になった。


そして、友達の紹介で東京に彼氏ができた。


東京から夜行バスで名古屋まで会いに来てくれた。桜姫も夜行バスで東京まで走る。メール、携帯、夜行バスで恋の回路が繋った。


会うと「今日どこへいく?」「八景島パラダイスへ行きたい」「OK、行こう」とうまく気が合うのだが、目的地に着いたら、閉館でアウト。おまけにどしゃぶり!


長島のプールに行った時も、水着に着替えて荷物を置いて「さあ、泳ごう」と言った途端、またもやどしゃぶりに雷が来た。「うっそぉ~!」もう二人共、顔を見合わせてどしゃぶりの中で、笑いながら泳いだ。


喫茶店に入った時、彼が気付かないうちに、ホットケーキについてきたハチミツと、自分が飲んでいた残りのジュースを彼のコーヒーの中に入れた。それでも、彼は桜姫の悪戯を怒らなかった。


お茶目な桜姫にぴったりの彼氏が見つかった。ひとつ年下だが、とっても楽しいカップル!


先日、主人と私は桜姫のおのろけ話を聞きながら、長良川河畔の夜桜を見てきました。そして、彼女と一緒に写真を撮ってきました。苦しみの長いトンネルを抜けたお祝いをして、乾杯をしました。桜姫の未来に乾杯!♪( ^o^)\(^-^ )♪


きっとんとん~めでたし、めでたし~お茶目な桜姫おしまい(^-^)/~

■第9話「ボアちゃんの物語」

■第9話「ボアちゃんの物語」


第一章『教育熱心ママ』


若いママは、教育熱心だった。


パパは真面目なサラリーマン。仕事が終わるときちんとまっしぐらに帰宅する。浮気をする訳でもなく、ギャンブルにのめりこむこともなく、妻を愛し子供を愛する平凡な父親だった。


恋愛結婚で喧嘩する訳でもなく、仲良く生活して二人のかわいい娘にも恵まれた。


どこからみても幸せな家庭だった。


若いママは教育方針がしっかりしていて、入れたい幼稚園があった。でも私立であり毎日通うには遠すぎた。片道およそ1時間かかった。そこに決めれば母親は毎日送り迎えしなければならない。


パパは「なぜそこまでしなければならないの?ふつうの幼稚園でいいよ」という。ママは「ここの幼稚園は他の幼稚園とはちがうの」と言い切った。結局、ママの選んだ幼稚園になった。熱心な幼稚園なので親も参加する機会が多かった。子供は喜んでいったが、母親は想像を超えて忙しかった。


(^-^)/((((((●~* きっとんとん~


第二章『ある日突然に』


幼稚園も決まり慌ただしい生活だった。


パパは仕事が終わったら、休みには子供たちを連れて遊びにいってくれた。その間に家事をすることができた。


「遊びに連れていってくれるパパだったら好きだけど、ちょっとしたことで怒るときのパパは怖い」と子供達は言ってた


今日も元気よく「行ってきます」と会社にでかけた。ママは幼稚園の送り迎えで大変だった。


丁度、家にいる時に電話がかかってきた。


「ご主人が、お亡くなりになられました。すぐ来てください」


最初は聞きまちがえたと思った あんなに元気に、朝出かけた人なのに~。


電話で話を聞いているうちに「やはり、うちの人だ!」と思った時には、涙が溢れて目の前が真っ白になってしまった。持っている電話が小刻みに震えだした。 「どうしょう、どうしょう?」ママは泣き出した。


きっとんとん~わぁん~


第三章『冷たい現実』


家に帰る途中に、持病の心臓病が出たのかもしれない。何も言わず、あの世に旅立ってしまった。


小さな二人の子供を抱えて、若いママは泣き続けた。


10年住んで慣れた社宅を出なければならなかった。子供たちも転校しなければならない。パパがいなくなったことでママが働かなければならない。慌ただしく葬儀を終えたら、現実が押し寄せてきた。


夫の姉達は、「あなたは長男の嫁なんだから、ちゃんと父親、母親の面倒を見てもらわなあかんでね!」


夫を突然亡くした二人の幼い子供と母親のことを、心配してくれる親戚は一人もいなかった。もう頼る人が、いなくなってしまったんだ。途方にくれる娘と小さな孫を心配して、

実家の両親が「うちにきたら?」と助け船を出してくれた。


住むところが決まってほっとしたら、またまた涙が溢れ出した。


ママが泣いている姿を見て、ボアちゃんもしほちゃんも「ウェーン」と泣き出した。このあどけない二人の孫を見て、実家の両親は涙をこらえて、この3人と一緒に住むことを決意した。


きっとんとん~頑張ってρ(..、)ヾ(^-^;)


第四章『悲しみから笑顔に』


小学生のボアちゃんと幼稚園のしほちゃんはいつまでも、泣いているわけにいかないと小さいなりにわかっているようだった。


ママは実家に助けられ、少しづつ元気になってきた。


それまでは自分を責める日が続いた。 なぜ、異変に気付いてあげれなかったのか!何かそれまでにできることはなかったんだろうか!大切にしていたのだろうか!頭の中で自分を責める言葉がくるくる回る~。


仕事は真面目で、家では愚痴を言ったことがない人だった。 几帳面でドアや引きだしがきちんとしまってないと、「なんでちゃんと閉めないんだ、ばか!」「そんなことができないのか、アホ!」「電気を付けっ放しにするな、ばかやろう!」と言う。


親や兄妹にも「ばか!」って言われことがなかったので、言葉の悪さに驚いた!


でも、もう誰も何もいってくれない!寂しくなってまた涙が込み上げてきた。そんなとき、ボアちゃんは、ママに「かっこいい男の子がいるの、私ね、その子のこと好きなの」といった。小学三年生がそんなことを、楽しそうに話してくれるようになった。ママもつられて笑顔になった。


きっとんとん~決-めた♪


第五章『ドキドキときめき』


「ねえ、ママ~たかくんって、すごくもてるんだよ~友達のとこちゃんと一緒にラブレター書くの」


「えっ、一緒に?」ママは、驚いた顔をしながらけらけら笑いだした。「ライバルなのに一緒に書くなんておもしろいねぇ~」


「おかしいの?どうして?」と聞くボアちゃんに


「ママだったら恥ずかしいから、ラブレターなんて、小学生の時には書いたことないわ」


「ふーん」とボアちゃんは不思議そうな顔をした。


次の日、学校から帰って来てから、とこちゃんと一緒にたかくんにラブレターを書いた。いろいろな言葉を考えたけど「たかくんのことが好きだよ」と書いて自分の名前を書いた。


とこちゃんも好きだと書いて自分の名前を書いた。そして、友達にラブレターを、たかくんに渡してもらった。


たかくんはクールで真面目で恥ずかしがりやだから、あまり女の子としゃべらない。てれやさんのところが何ともかわいいという。


ボアちゃんと、とこちゃんがラブレター出してから、

「私も~」「私も」とみんながたかくんにラブレターを書いて、モテモテになってしまった。


たかくんのことは、あきらめて、ボアちゃんと、とこちゃんは、今度はあっくんにラブレターを書いて友達に渡してもらった。今度は「すきでーす!かっこいいでーす」と書いた。


でも、恥ずかしかったのか返事は来なかった。 クラスは一緒になったことはないけど、やっぱり最初に好きになった、たかくんが今でも好きだという。


でも、まだバレンタインチョコを作って渡す勇気が出ないとタメ息をついた。


きっとんとん~はぁ、恋のため息~(o^-')b


第六章『ママがイライラ』


パパが亡くなって、ママの実家に住むことになった。


おじいちゃん、おばあちゃんがいてくれたので、ママがお仕事に出れるようになった。でも、慣れない仕事で疲れてしまい、家に変えるとプンプン、イライラよく怒った。


ボアちゃんは学校へ行こうとすると気持ち悪くなったり、おなかが痛くなったりするようになった。お母さんが心配してくれた。「ごめんね。ママがイライラしたからかなぁ?大丈夫?」ママは、ボアちゃんにあやまった。


「ううん、ママに怒られたからじゃあないよ。おうちが変わったし、お友達も変わったから、まだ慣れないからね」 ママは「しほは幼稚園でまだよくわかってないけど、ボアちゃんはもう小学生だから私の気持ちもわかるのかもしれない~」と思った。


いつまでも、実家で世話になるのは申し訳がないから、いずれは自立しなければならないと考えるようになっていた。


きっとんとん~ママはイライラ(^ヘ^)v~


第七章『歌って踊って』


ママのストレスがそのままボアちゃんのストレスになった。


しばらく体調が良くなかったが、だんだん回復して休まずに学校へ行けれるようになった。ママも子供たちの様子を見ながら、仕事に取り組んだ。はじめてのボーナスは、すずめの涙だった。だが自分で稼いだので嬉しくてたまらなかった。


ママは不安になると子供に当たってしまうので、定期的にミニバラのコラージュセラピーを予約し、情緒を安定させるようにした。ママの深い悲しみと、育児、仕事の具体的悩みと付き合いながら、暗いトンネルからの脱出をいつも考えた。


ママの心が安定してきたら、家庭の中に歌声が聞こえ、みんなの心ははずんだ。ボアちゃんが「七色のあした」を歌ってくれた。振付もうまく、身体全体で歌って踊ってくれた。私は思わず「すごい!歌手みたい!」と、拍手をした。ボアちゃんは輝いた!


きっとんとん~歌手みたい!


第八章『自立する』


その様子をおじいちゃんとおばあちゃんは、嬉しそうに見守っていた。


ある日のこと。


おばあちゃんは、ママに「いつまでもあなたたちをここに住まわせることはできないよ。そろそろ自立することを考えてね」と優しく話してくれた。仕事もするようになったので、いつまでも親に甘えていてはいけないと思っていたところだった。


ママは「ありがとう、お母さん、住む所を探してみるわ」と答えた。


それからママは、仕事をしながら部屋探しをした。パパを突然亡くし途方にくれていた自分が、こうして社会の中に飛び込み、現実にチャレンジしていけれるようになれたことに感謝した。


両親、親族、会社の人々、友人~。ここまで支えて下さった方々の顔を一人一人瞼に浮かべたら、ありがたくて涙がポトポトこぼれ落ちて来た。そんな気持ちでいっぱいになっていた時、電話がなった。


「ご主人の幼馴染みなんですが、奥様とお子様にお目にかかってお話したいことがあります。ぼくは、東京に住んでいます。また、後日連絡させていただきます」と言って電話が切れた。 ママは会ったこともない人だったので「何かしら?」と不思議に思い、受話器を持ったまま、しばらくボォーとしていた。


きっとんとん~ボォーとして(*'o'*)


第九章『パパのお友達』

電話の声は、優しそうな声の男の人だった。4月にお墓参りに伺いたいという内容だった。


「子供たちが、新学期を迎え落ち着いてからでしたら~」とママは答えた。そして、いよいよその日が近付いて来た。ママは「話があるって、一体どんなことなんだろう?」とドキドキしていた。


「もしもし、主人のお友達が子供たちに会いたいと言われるんですけど~」と、ママから私に電話が入った。


「初めてで会ったこともない人が東京からみえるんですが、どうしたら、よいのでしょうか?」と不安そうな声だった。


「ボァちゃんが中学校入学したから、パパの代わりに「入学祝」を持ってみえるのかもしれないよ。お祝いをいただいたら遠慮しないでありがとうって素直に喜ぶといいよ」と私は、にこにこしながら答えた。


「まさかぁ~そんなことはないと思いますけど~」


「いやいや、それは会ってみないとわからないよ。初めてお目にかかるんだから、子供と一緒にクッキ-でも焼いてプレゼントしたら、どうかしら?」と提案した。


「東京からわざわざきていただくんだから、何かと思っていました。それはいいですね。感謝の気持ちを込めて作ります」と、はずんだ声で答えた。お墓参りをしてからレストランへ行った。


久しぶりのお出かけで中学一年のボアちゃんも、小学3年のしほちゃんもワクワクした。東京の社長さんだとママから聞いていたので、キリッとしてピリッとしている男の人を想像していた。想像と全く違っていて、優しそうな普通のおじさんだった。


ボアちゃんとしほちゃんは、スパゲッティとお子様うどんを注文した。子供達は嬉しそうだったが、ママは、とっても緊張していた。ママは、男の人の方を見て「お話ってなんでしょう?」と思い切って尋ねた。男の人は「はい、実は~」と話し始めた。


きっとんとん~ドキドキ何かしら?~


第十章『学生時代の思い出』


ママは緊張していた。


パパのお友達は「実は、ご主人には子供の頃から色々と相談にのってもらい、支えられてきました。川や山が大好きで良く一緒に遊びました。今日ここに来る前に、思い出の場所に行ってきました。丁度彼が亡くなったのは4月で、山の方はまだ桜が咲いている頃でしたね。ぼくは、川にたたずんで、彼と一緒にみた桜の木に話しかけてきました~」と次々に話し始めました。あたかも溜っていた水が、一気に流れ始めたダムのようでした。


ママの知らない世界が、目の前に広がっていきました。結婚する前の事、子供が生まれた時のパパの喜んだ様子を語り始めた。懐かしそうに思い出しながら、ぽつりぽつりと話された。


「なぜ、東京からわざわざ会いにきたのか不思議に思われたでしょう?」と言われたので、「はい」とママは頷いた。


「実は、何度もご主人の夢を見たからです。きっと、残してきた奥さんと、子供達のことを僕に頼みたかったんでしょうね。4年過ぎても夢の中に出てきたんですからね。これは、ボアちゃんの入学祝だよ。しほちゃんもほんの気持ちプレゼントだよ」と小さな包みを差し出した。子供達は、思わず「わぁー」と喜んだ。


他の人が、この光景を見たら、本当の親子に見えるかもしれない。パパのお友達の真心が嬉しくてママの目から、涙がこぼれ落ちた。二人の娘達は初めて会う人なのに、パパのことを良く知っている友人にすぐなついた。


「僕は結婚していますが、子供はいないんです。子供ってかわいいですねぇ~」としみじみと呟くのだった。「また、会わせて下さいね。東京にきたら、おじさんに連絡して下さいね」とボアちゃんに話しかけた。「うん」と嬉しそうに頷いた。その様子を見て、ママは、いつしか緊張感が安堵感に変わってゆくのを感じていた。


きっとんとん~ありがたや、ありがたや~(^-^)v


第十一章『明日に向かって』


娘達もすっかりパパの友人になつき、話がはずんだ。 ママもやっと緊張がほぐれて楽しい気分になってきた。


「あのう・・・、大した物ではありませんが、私と娘達と一緒に作ったクッキ-です。どうぞ奥様とご一緒に召し上がって下さいね」とかわいいラッピングしたクッキ-を手渡した。


「ありがとうございます。いただきます。会社を立ち上げたばかりで、社長として慣れない事ばかりでした。その時もずいぶん、力になってもらいました」と話された。


「学生時代の思い出の場所へ行ってきたら、何だかスッキリしました。奥さんも気持ちの整理が出来たら、その時にご案内しますよ」とニッコリほほ笑んだ。


パパの突然の死によって人生が予期せぬ方向へ動いた。世界一不幸だと思い込んだ日もあったけれど、子供がいてくれたので無我夢中で働いた。


「人生って捨てたもんじゃあないわ。わざわざ東京から娘のお祝いをして下さるなんて!パパがいつも私達を見守ってくれているんだわ」と胸がいっぱいになった。楽しい一日が過ぎた。


ボアちゃんの中学生活も始まっていた。音楽が大好きなので吹奏楽部に入部し、新しい生活がスタートした。


しほちゃんも小学3年生となり、友達もたくさん出来て、ランドセルを背負って「ママ、行ってきまぁす!」と元気よく出かけた。


ママもスズメの涙のボーナスから、昇進したので、自立して生活が出来るようになってきた。ママも泣いていた顔が笑顔となり「もうそろそろ、素敵な方が現れないかなぁ~」と冗談が口から飛び出すようになってきた。


私も、この家族の幸せを願いながら、これからも応援していこうと思っている。さあさあ、縁結びの神様を探しにでかけようっと!


きっとんとん~縁はどこにo(^o^)o~ボアちゃんの巻おしまい(^-^)/~ 最後まで見て下さってありがとうね(^-^)v

■第10話「個性的なよっちゃんの物語」

■第10話「個性的なよっちゃんの物語」


第一章『男の子誕生』


26年間子供の数が減り続けている。今日の子供の日の新聞に、15歳未満の子供の数は1738万人と掲載されていた。新聞は少子化の進行に歯止めがかからない状況だと伝えていた。


このような社会情勢にも関わらず、我が家は4人の子供を授かった。


この物語に登場してくる子は、水谷家の三男としてこの世に誕生した。たくさんの雪が降って、辺り一面が銀世界だった。雪が止んで、裏の山から眩しい光と共に太陽が昇り始めた。


私のお腹は陣痛が始まっていた。「あなた!家の前の道の雪かきをして欲しいの。早く!急いでね~」と私は慌てていた。目の前の国道は、除雪車が活躍して、車が走っていた。


だが、家の前の小径は、40cmくらいの雪が積もっていて、車が出れそうではなかった。私は焦っていた。


長男こうじ(3歳半)と次男なおゆき(1歳10ヶ月)の二人を実家の母に預けに行ってから、病院で3人目を出産する予定だった。だから私は、はらはらしていた。


パパは落ち着いていた。「大丈夫だよ。急ぐから~お前は子供達の準備と、入院の準備をしろ!」と大声で叫んだ。


痛いお腹を擦りながら、子供達に話しかけた。


「こうちゃん、なっちゃん、もうすぐ赤ちゃんが生まれるのよ。あなた達はお兄ちゃんになるのよ。ママが病院にいる間、パパはお仕事だから、おばあちゃんちでお世話になるのよ。おりこうして、おじいちゃんとおばあちゃんの言うこと聞いてね。わかった?~」と聞くと、二人とも「うん」と頷いた。


パパは、寒い中、外で雪かきを頑張っていた。汗を拭きながら、一時間くらいで道を開けてくれた。「さあ、みんないそげ!ママが大変だからな~」と言いながら車のエンジンをかけた。


その日の夕方6時58分病院で産声をあげた。体重3250g、身長50cm、胸囲32cmの元気な男の子が誕生した。


きっとんとん~オギャァ、オギャァ~(^-^)v~


第二章『賑やか家族』


お兄ちゃん達が赤ちゃんをかまって、目が話せなかった。


自分達がお菓子を食べていると「赤ちゃんにもあげる」と言って口の中に入れようとした。「赤ちゃんってかわいい~かわいい」と、小さな身体で抱っこしようとした。二人ともまだ小さいので、手が掛かるし赤ちゃんの世話でいっぱいだった。


母乳だったので、夜中に何回も授乳しなければならなかった。


子育ての時期は睡眠不足が続いた。 パパは仕事の関係で出張して、家を開けることが多かった。 ご近所は自営業が多く、夏は海に冬はスキーにと、みんなで子供達を連れて旅行に出かけた。


母子家庭のような我が家は、とてもその仲間にいれていただけるような状態ではなかった。


こうちゃんとなっちゃんが「てっちゃんちも、やっくんちも、ゆかちゃんちも、海や山に行くのに、どうしてうちは行けないの?」と、私に聞いた。


「ごめんね。パパがお仕事でいないから、行けないわ。ママだけでは、赤ちゃん連れて行くことができないの」と答えた。


家の中ばかりでは、男の子のエネルギーが発散できない。何か良い考えはないだろうか? 子供達に淋しい想いをさせたくなかった。


「そうだ!前の川で泳がせ、裏の山でスキーをさせよう~」困ったことが起きると、私は「一休さんポーズ」をして座った。


頭の中で「チーン」と閃くとそれを実行した。よちよち歩きができるようになると、川へ連れて行き、思いっきり遊ばせた。3人とも、自然の中で、太陽の光をいっぱい受けて遊んだ。


きっとんとん~わぁーい、川だぁ~


第三章『よっちゃんがいない』


2人のお兄ちゃん達に鍛えられて、優しくて物静かだけれども強い意思を持っていた。よっちゃんが、もうすぐ3歳になろうとする時、同じ1月にもう一人男の子が産声をあげた。4人とも男の子ばかりということで、家の中はまるで保育園のようになってきた。


それぞれの子が友達を連れて来るので、右を見ても左を見ても子供達でいっぱいだった。


主人が会社を経営しているので、子供達が寝てからは経理の仕事をしなければならなかった。


ある日、4男のあきちゃんをおんぶして、3人の子供達の手を引いてデパートで買い物をした。


ちょっと目を離したスキに、一人の姿が消えた。


長男のこうちゃんが「ママ、大変だぁ~よっちゃんがいない!どこかに消えちゃった!」と大きな声で叫んだ。 私は「どうしょう~誘拐されたんだったらどうしょう~!」と焦った。 みんなで、探し回った。「ああ、どうしょう」 背中の赤ちゃんが、泣き出した。


きっとんとん~はらはら、ドキドキ~


第四章『ウルトラCで額から噴水』


私は心配で心臓が破裂しそうだった。


必死に3男を探したがなかなか見つからなかった。「どうしよう?落ち着いて、落ち着いて~」と自分自身に言い聞かせた。もういちど、最初のところに戻った。


「あっ!」とピーンと来た。物静かな子だけど、遊びが大好きでみんなをびっくりさせる事が好きだという事を思い出した。


目の前にきれいな洋服を着て立っているマネキンのスカートをめくった。スカートの中ですくんで座っているよっちゃんの姿を見つけた。


嬉しさと共に心配から大声で怒ってしまった。「何をしてるの!急にいなくなったら、ダメじゃないの!」と怒鳴ってしまった。


遊んでるつもりだったよっちゃんは、私に叱られて「ママ~ごめんなさい~エーンエーン」と泣き出した。


弟を探していた兄達が、泣き声を聞きつけて走ってきた。


こうちゃんは「ママ、よかったね」と言いながら、よっちゃんの手を引いた。


なっちゃんは、笑いながら「なぁんだ、かくれんぼしてたんかぁ~」と言った。「そうなんだ、まだ3歳だから、嬉しくてかくれんぼだったんだ」と私も気付いた。急に怒鳴ってしまったことを後悔した。


背中で赤ちゃんが泣き、目の前でよっちゃんが泣いている。私も泣きたい気分だった。周りの人達もこちらを向いている。「さあ、もう泣かないでね。かくれんぼしてたのね。ママが怒鳴ちゃってごめんね」


よっちゃんは涙を拭きながら「うん」と言った。


それからも、ますます活発になり「ウルトラC、シュワッチ!」といってベッドに飛び込んだ。その時、角の木に思いっきり頭を打ってしまった。額から噴水のように血が飛び出してきた。あわてて近くにあったタオルて、吹き出している所に当てた。突然のことでまたもやドッキリ!パパはいつものように出張でいなかった。 4人を車にのせて、病院に走った。夜の出来事だった。


きっとんとん~またまたドッキリ!


第五章『踊りが大好き』


噴水のように額から飛び出した血にドキドキしながら、女医さんに開いた口を縫ってもらった。 かかりつけの女医さんだったので、診療時間が過ぎていたにも拘わらず助けていただけた。


「男の子が、怪我するのは元気な証拠だね」と、サッと白衣に着替えて手早く治療された。怪我をするような子なので我慢強かった。「さあ、おしまい!痛い目にあうからこれからは、気をつけてね」とにこにこしながら、3男の頭を撫でて下さった。


パパがいない時ばかりに、子供達が病気をしたり、怪我をするので私はふらふらだった。4人も子供がいるので、大きな病院ではなく、近くにホームドクターを持っていたことが幸いした。 大人になった今でも、額には怪我の跡が残っているはずだ。この後も、みんなで夢中で遊んでいる時に、遊具にぶつかって前歯が折れた。すぐに、口から吹き出る血を拭きながら、近くの歯医者に飛び込んだ。こうして、4人の男の子を育てているうちに、だんだん腹が座ってきた。


泣いたり、怒ったり、笑ったりしているうちに、「育児」は「育自」と思うようになった。


この子達のお陰で私自身が、少しづつ「お母さん」にならせてもらえることに気付いた。はらはら,おろおろしていた私が、いつの間にか「肝っ玉かあさん」になれるような気がした。


よっちゃんは、音楽が好きで、踊りが大好きだった。幼稚園の発表会で舞台に上がると、ほれぼれするようなお遊戯をするのだった。音楽の世界に溶け込み、身体がリズムに乗って、妖精のように楽しく舞った。私は舞台で夢中に舞いをしている、よっちゃんの姿にうっとりした。


きっとんとん~うっとり~♪( ^o^)\(^-^ )♪~


第六章『会場はシーン』


よっちゃんは幼稚園が大好きで、とくにイベントやお祭りを楽しみにしていた。年長になって七夕会には合奏があり、かなり難しい曲も入っていた。指揮者に選ばれたと大喜び。ハミングをしながら、鉛筆をもって練習をしていた。


いよいよ、本番の日となった。


「ちゃんと練習してたから、大丈夫よ。頑張ってね」「うん。ママ見に来るでしょ、早く来てね」というので「いいよ。できるだけ早く行くからね」と言いながら、幼稚園バスを見送った。急いで準備をして幼稚園に向かった。幼稚園生活最後の良い思い出になるように願っていた。


4男のあきちゃんは、年少のプログラムなので早く出番を迎えた。まだ小さいので舞台の真ん中で、始めから終わりまで泣いていた男の子もいた。大勢の前で緊張し、怖くなってしまったのかもしれない。担任の先生がなだめているうちに、泣いて終わってしまった。


年少の子たちはちゃんとできなくても、舞台に立った姿だけでも愛しい。


あきちゃんは泣かずに、何とか演技ができた。やれやれ終わった。 最後は、いよいよ年長の子供達の合奏だ。全員が舞台に登場した。最後のプログラムなので、お母さん達もほっとしたのかガヤガヤしていた。


楽器の準備も出来て「さあ、始まる」と思ったが、よっちゃんの指揮棒がなかなか上がらない。私は「どうしたんだろう?緊張して手が上がらないのだろうか?それとも、忘れてしまったのだろうか?」と心臓がドキドキしていた。


まだ指揮棒が上がらない~えっ何故!どうして?だんだん血圧が上がってきそうだった。ガヤガヤしていたお母さん達も「どうしたんだろう?」と静かになった。先生達もお母さん達も園児達もシーンとなった。会場全体が静まり、シーンとなった。


そのとき、よっちゃんの手の指揮棒がサッと上がった。


卒園児全員の心がひとつに溶け合い、美しい音色の楽器を奏でた。舞台と会場が心地よい音楽に包まれた。演奏が終わって全員が礼をした時、歓声と割れんばかりの拍手だった。園長先生は「さすが年長さんでした。素晴らしい演奏でした。皆さん、もういちど拍手を~」と褒められました。大きな拍手の中で、どの子もこぼれんばかりの笑顔でした。よっちゃんも嬉しそうだった。私も胸を撫で下ろした。


きっとんとん~シーンいつ始まる?~


第七章『助けてくれる子』


幼稚園の七夕会が終わって、私はよっちゃんに聞いた。


「なぜ、サッと指揮を始めなかったの?」


「あのね、ママ~先生が練習の時に、みんながちゃんと揃うまで、始めちゃだめ!って言ってたよ」と答えた。


「誰か出来てなかったの?」と聞いたら「うん、たくちゃんの手がブラブラ動いていたから、動かなくなるまで待ってたの」


「あら、そうだったの。ちゃんと先生に言われたことを守ったのね、すごいね」と言ったら、にっこりして「外で遊んでくる」と言って駆け出した。


ある日のこと。次男のなっちゃんが「突然耳が痛い」と泣いたので、慌てて耳鼻科に走った。一人が悪いだけでも4人を乗せて、岐阜市まで行かなければならなかった。


小さな子供を残しては行けないので、「早く、すぐに車に乗って!」と言うのだった。


いつも、ゆっくりよっちゃんは、最後に乗った。30分くらい運転して、もうすぐ病院に着く時、私は大声で叫んだ。 「キャー、お財布を玄関の下駄箱の上に忘れてきたぁ~どうしょう」とハンドルを握りながら叫んだ。


子供達は、私の叫び声にびっくり~!


すると、よっちゃんが、にこにこしながら「ママ、大丈夫だよ。ママはあわてんぼうだから、ぼくのお金ポケットに入れてきたよ」


しばらくして、病院に着いた。よっちゃんは、ポケットからきちんと小さく折り畳んだ千円札を一枚手渡した。 「はい、ママお金貸してあげる。お年玉使わなかったの」と言った。 「すごいね。ママを助けてくれてありがとうね」と頭を撫でてお礼を言った。


まだ幼稚園なのに、なんて落ち着いているのだろう。ドジママを守る為に生まれて来てくれたのかもしれない。帰りに「今日は782円です」と言われ、治療費を支払う事が出来た。帰りの車の中で、二人のお兄ちゃん達が「すげえなぁ~よしひとは頭いいなぁ」としきりに褒めていた。子供に助けられた一日でした。


きっとんとん~キャーお財布がない~


第八章『読書感想文』


おとなしい子ではあったが活発に動きまわった幼稚園を卒園し、小学校に入学した。


初めての夏休みに読書感想文が宿題に出された。これがなかなか書けない。ひらがなは読めて書けるようになっていたのだが、感想文が書けないという。


「何か面白いこと、感じたことを書けばいいよ」と言っても「何も思わなかった」と答えた。課題図書があったが、確かにそんなに面白い内容ではなかった。夏休みの間に、他の宿題は出来ていたが、まだ読書感想文が残っていた。


長男も次男も、宿題は早く終わって遊んでいた。


次男のなっちゃんが「よしひと!そんなに難しく考えんとけ!サッと書けばいいよ」と教えてくれたのに「書けない~」という。


長男のこうちゃんが「僕が代わりに書こうか?」と言ってくれた。


よっちゃんは、鉛筆を持ったまま「ううん、僕が書く」と首を振った。


明日から学校が始まるという日なのに、まだ書けない。


二人の兄達は「おやすみなさい」と言い、布団にもぐった。 よっちゃんは、まだ原稿用紙とにらめっこ。やっと一枚目の半分くらいまで書けた時、「○をつけ忘れた」と言って、また全部消してしまった。時計の針がドンドン進み、12時を回り深夜になってしまった。


適当に私が教えて書かせようとしても、ガンとして「いやだ!自分でやる」と言って聞かなかった。そのうちに涙がポロポロ出てきた。左手で涙を拭きながら、頑張っている。まだ一年生になったばかりの子供に、読書感想文3枚というのは無理だと思った。やがて時計が1時を回ろうとした時「出来た!」と大声で叫んだ。母親の力も借りないで、一人で泣きながらやり遂げたこの時の経験が、よっちゃんの財産となった。


原稿用紙をみると、それはそれは、きちんと書けていた。6年生の時、青少年の主張大会で見事「最優秀賞」に輝いた。あの大粒の悔しい涙が喜びの涙に変わった一瞬だった。よっちゃんは、この時、大きなトロフィ-を手に入れた。


きっとんとん~涙ポロポロ~


第九章『飛行機に乗って』


兄達が空手とサッカーをやり始めたので、よっちゃんも同じようにやりたがった。


2人送り迎えしても3人しても同じなので、一緒に習わせた。


ところが、下へいくほど要領が良くて、負けず嫌いだった。


サッカーはそれぞれ学年でチームが別だったので、問題はなかった。ところが空手が大変だった。個人競技だったので、学年は関係なく昇段試験があった。三男は兄達よりうんと小さいのに同じように、進級してしまった。


私は嬉しい反面、困っていた。兄達にもプライドがあるからだ。長男はおっとりしていて、あまり闘争心がある方ではなかった。総領の甚六なのだろうか? いつも、マイペースだった。小学校6年生長男、5年生次男、3年生三男が、同時に初段の試験を受けなければならなかった。


内心「どうしょう、もし、弟が合格してしまったら~兄が合格して弟が落ちても仕方ないのだが~」と本当に複雑な心境だった。


結果は心配していたことが起きてしまった。長男が不合格で、次男、三男が初段に合格し、黒帯を手に入れてしまった。ショックを受けている兄を見て、弟達も素直に喜べなかった。主人も私も、長男の気持ちを考え、お祝いするのは延期した。


長男は随分落ち込み、しばらくの間、黙ったままだった。 翌日、「弟達に、おめでとうって言えない。ごめんなさい」とポツリと言った。「いいよ。悔しい気持ちはわかるけど、次の試験に頑張ろうね」と言ったら「うん」と頷いた。


半年遅れて、やっと初段に合格して、黒帯を手に入れた。私は、ほっとして嬉しかった。


その後、3人とも初段になれたので、ヨーロッパ親善試合に行くことになった。最年少のよっちゃんも、飛行機に乗ってヨーロッパに旅立った。


きっとんとん~飛行機で大空へ~


第十章『新しい試練』


空手の「昇段試験」を受ける前に、私は指導していただいている師範に相談をしていた。


「3人一緒に受けないで、弟達を後に受けさせていただけないでしょうか?」とお願いすると「長男は、合格出来ると思うけど、二人の弟達は、一回では受からないと思うから、次の昇段試験に合格する為に今回受けさせてやってほしい」と言われました。


年々、審査基準が厳しくなってきているので、初めから合格は期待しないで欲しいこと。普段の練習で「大丈夫だ」と思っていた子が、当日力を出し切れずに、落ちてしまったこともあること。「三男は、まず合格できないので、おまけとして受けさせて下さい」と、思いがけないことを頼まれてしまった。「合格、不合格が問題ではなく、どんな結果になったとしても、試練だと思って、精神力をつけさせる」と説明された。


私自身も納得できたので、師範に言われたことを心に刻み、3人分の昇段試験を申し込んだ。 しかし、試験の結果は師範の予想を遥かに超えてしまった。


長男は、いつも仕事でいない主人の代わりに、よく弟達の面倒をみてくれた。私は会社の仕事をしていたので、長男を頼りにしていた。突然、大雨が降ってきて大きな雷がなった時も、小学生の長男が3人の弟達が怖がらないように遊んでくれていた。慌てて会社から戻ってきて「大丈夫だった?」と聞くと、「あきひさとよしひとが怖がって泣いたので、僕となおゆきで遊んでやったんだよ」と、はっきりと答えた。


師範に言われた通り、挫折や失敗を試練ととらえることにした。挫折すれば精神力がつき、悔しさは他の人を思いやる優しさに変わることを学んだ。この時、空手で味わった屈辱は、長男を大きく成長させた。そして、ヨーロッパ9か国の親善試合の厳しい試練が、たった9歳のよっちゃんの未来の基礎となった。


きっとんとん~未来へ翔ぶ~


第十一章『家族の幸せ』


ヨーロッパ9か国の旅から帰ってきた息子達は、新しい経験と感動を胸に帰国し幸せいっぱいだった。


そんな中、一番下の一年生になったばかりの4男が急病になった。 主人と共に仕事で名古屋から福岡に移動した晩、電話がなった。 「あきちゃんの様子がおかしいよ。風邪薬を飲ませても効かないから、他の病気かもしれない。いつも元気なのに、だるいと言って寝ているよ~」と母の心配そうな声がした。 「明日、帰る予定だから安心してね。学校は休ませてほしいの」と頼んだ。


翌日、家に帰って早速大きな病院に連れて行った。すぐ入院だった。


腎臓の病気になっていて、その晩から絶対安静だった。2.3日は付き添えたが、後は子供だけの入院となった。子供の専門の病院だったので、日曜日,2時間くらいしか面会が許されなかった。毎週欠かさず面会に行った。会える時は嬉しかったが、すぐに帰らなければならない時間になってしまった。時間がアッという間に過ぎ去ってしまう。帰る時は、玄関のガラスの戸に、顔をピッタリくっつけて「ママ-~ママ-帰らないで~!」って泣き続けた。あきちゃんは、その時まだ6歳だった。


「また、来週来るから~」と言っても「いやだぁ~帰らないでぇ-」と泣き叫んだ。今でも目を閉じると、その時の光景が鮮やかに蘇る。初めて、「後ろ髪を引かれる想い」を経験した。


病気の説明をお医者さんから聞いた時、私は溢れる涙をこらえることが出来なかった。 家族全員で揃って夕ご飯が食べれることが、如何に幸せなことであったのかを痛感した。何でもない普通の生活が、奇跡的なことだと知った。 よっちゃんは「いつになったら、あきちゃん家に帰ってくるの?」と毎日のように聞いた。弟が家にいなくなって初めて、子供達は、賑やかな家族が幸せだったことに気付いた。


きっとんとん~ある日突然に~


第十二章『運命』


幸福は準備をしたり努力をしたりして訪れてくるが、不幸はある日、突然やってくる。


足音も無く、突然襲いかかってくる。そして一つだけでなく、次々と不幸の波が押し寄せる。静かに、それらの波が去るのをじっと待つしかない。ジタバタしないで、できるだけ静かに~☆


この年は我が家にとって、厳しい試練の年となった。


4男の病気だけでなく義兄が急病で入院となり、治療中に42歳の若さで亡くなってしまった。社長だった義兄が天国に旅立った為、主人が会社を継ぐことになった。突然の運命により会社の経営者として、たくさんの社員の生活を預かることになってしまった。主人は、まだ若かったので、その時の心労は大変だった。


4男が病気になった。そして、私まで会社の健康診断で、胃癌の疑いがあると言われた。この頃、幼い二人の子供をこの世に残して、癌で友人が亡くなった。私は、義兄、友人を次々に失った時だったので覚悟した。万が一のことを考えた。


ある晩、外泊を許されて帰ってきたあきちゃんをおんぶして外に出た。


「ママ、長生きしてね。パパは出張でおうちにいないから、ママが頼りなの」と背中で呟いた。


この一言が私の心に響いた。


丁度、その晩は満月で星も美しく輝いていた。私は星に願いをかけた。「どうか、この子が18歳になるまで私に命を下さい。それまで命をいただけたら、ミニバラの活動で若者の力になれるような存在になります」と誓った。


幸いにも、ポリープは良性だった。この時の決意が今の活動に繋がった。 あきちゃんの外泊により家の中がパッと明るくなった。よっちゃんは「あきちゃん、あそぼ!」と言って、一緒にゲームをやり出した。兄達が、この時の気持ちを作文に書いた。弟を思いやる優しい気持ちが伝わってきた。いつになったら、この闇から脱出できるのだろうと思っていた。この時、味わった悲しみ、苦しみが、今の私の人生観を作り出した。


きっとんとん~闇からの脱出~


第十三章『元気が一番』


私は疲れきった時も、子供達の寝顔に救われた。一年間の長い入院生活から、やっと開放されて4男が退院した。


4人が枕を並べて眠っている寝顔を見つめていたら、すべての欲が次々と消えてゆくのだった。それまで教育ママだった自分を反省した。私は、「この子達が元気なだけで幸せ」としみじみ思うのだった。あきちゃんの病気が段々良くなって、我が家も少しづつ明るさを取り戻していった。


主人も慣れない社長業に一生懸命取り組んだ。この時ほど、何でもない一日が最高の幸せであることを感じたことはない。平穏な毎日が続いた。


よっちゃんが中学生になってほっとしていたある日、学校から電話が入った。宿泊研修に3男が問題を起こしたということだった。担任の先生から電話をいただいても、私は耳を疑った。あんなにおとなしくて素直でにこにこしている子が、先生に叱られたということだった。


先生は「あれだけ、お菓子を持ってきたらいけないと説明してあったのに、よしひと君はガムを持って来て、みんなに配ったんですよ!」と声を荒げて説明された。熱心な若い方で、子供も私も大好きな先生だった。


「まさか、よしひとががそんなことをするなんて!」先生も私も驚いた。先生が注意をしてガムを食べた子全員を叱り正座させようとしたら、よしひとが食ってかかってきたという。


「僕だけを叱って下さい!僕が悪いんで、みんなは悪くない。僕があげたガムをみんなは食べただけだ!」その顔は、真剣で闘志をあらわにした。小学生では決して見せなかった顔が、中学一年生になった途端に個性的な顔を見せるようになってきた。これが、反抗期の始まりだった。


きっとんとん~元気が一番~


第十四章『反省文を書いて』


四人もいると、学校の役員も当たる。子供の人数が多いので大役が回ってきた。もう、私だけの力ではこなせなくなってきた。


会社の仕事も大切なことはわかるけど、父親としての役目もあるはず~。会社の仕事、地域の行事、家事、育児、ミニバラの活動など~。私はすべてに疲れてしまっていた。


四男は、退院はできたもののまだ通院生活は続いていた。色々重なって私は、へとへとになっていた。よっちゃんは小学生の時は良い子してたけど、中学生になって次々に校則を破っていった。外国へ親善試合に行ったり、ホ~ムスティを経験していたので、自由に伸び伸び育っていた。特に細かく決められた校則に反発した。「なんでこんなところまで学校が決めなきゃあかんのや!」と言った。


よっちゃんは、漫画の本を持って行って見つかった。友達から違反のズボンをもらってはいていって、見つかった。髪の毛を茶色に染めて見つかった。先生もよく見つけて下さるものだと感心した。


中学一年生の時の担任の先生が、再び三年生も担任となった。この子が心配でまた担任になって下さったのかしら?


また電話がなった。「勉強の方は何も言いませんが、またやりましたよ」「えっ、なんでしょうか?」 「お母さん、気付いていないんですか?」 「はい、何かよしひとが?」と心配しながら答えた。


「僕の数学の時間に、窓から太陽の光が差し込み、よしひと君の髪の毛にあたったんです。茶色いんですよ!」


「ええ、あの子はオシャレで毎日ドライヤーを使いますので茶色になっています。もともと黒い髪の毛ではないんで~」


「違うんですよ。あれは明らかに染めていますよ」と私も叱られた。


「家に帰ったら、詳しいことを聞いてみて下さい」


「すみませんでした。良く聞いてみます」と電話を切った。


早速、聞いてみると、 「うん、友達の家が美容院だから、そこで面白そうなのでみんなで、染めてみたんだよ。かっこいいでしょ」とにこっと笑った。全く、校則違反を悪いと思っていなかった。


主人に話したら「弾けているから、怒っても効果がない。反省文を書かせて、床屋に行かせて五厘にして、つるつる頭にさせよ!」と言った。


よっちゃんは反省文を書いて「それだけはいやだ~そんな頭で恥ずかしくて学校へ行けない。ごめんなさい~もう二度としません。校則を破りません」と泣いて謝った。


「悪いことをしたら謝れば済むなんて思うな!態度で責任をとれ!お前は何度も校則を破った。勉強ができたとしても、行いが悪ければ何にもならん。人として恥ずかしい生き方をするな!明日、床屋へ行け!」 よっちゃんが、泣こうがわめこうが主人は、言ったことは取り消さなかった。その時、他の子供達も耳をすませて、息を潜めてじっと聞いていた。


きっとんとん~しまった!


第十五章『覚悟』


よっちゃんの心は揺れた。髪の毛を全部無くすということは、彼にとっては想像もしていなかった。「なんでみんなは、日曜日に私服で映画を見に行くのにうちはいけないの?なんでみんなは、夜遊びをしているのにうちはいけないの?なんでみんなは大晦日も自由に友達と出かけるのに、うちは家族全員で初詣に行くの?~???なんでうちはこんなに厳しいの?」


「自由なあなたにとっては厳しいかもしれないけど、これは普通の事だよ。あなたが何と言おうが、あなたは水谷家に生まれたの。ここに生まれて来たんだから、お父さんの言う事を聞きなさい。納得が出来なかったらお父さんに言いなさい」と毅然とした態度で彼に接した。


「わかった!僕が悪かった。明日学校でみんなに笑われても、仕方がない。僕が校則を破ってきたんだから~お父さんに恥ずかしい思いをさせたんだし~じゃあ、床屋へ行ってくるからね」 と自転車に飛び乗った。


その時、主人は中学校のPTA会長だった。私は、よっちゃんの後姿を見送りながら、この中学生活3年間を思い起こした。次々に私を困らせ、次々に私を驚かせ、エネルギーを爆発させてきた。


長男、次男は生徒会長になり活動したが、彼は「僕は違うタイプなんで、応援団長になって勝つ」と言い切った。中学一年の時から、面白いコマーシャルがあると録画して研究した。三年生になった時、応援団長となり、今までにない振付を考え団員に徹底的に教えた。休み時間も、放課後も頑張った。本番で全員が頑張って、見事な応援で観衆に感動を与え、勝った!あの時、全員が感動で涙を流した。よっちゃんが輝いた一瞬だった。


終わったら「母さん、ぼくね、あの笑っていいとものテレビに、いつか出るから楽しみにしていて!」と言った。


私には、想像も出来ないことばかり言ってくる。「母さん、僕、田舎に生まれたけど田舎では住まないからね。都会が好きだから、学校も都会へいくから、よろしく頼むね」と私の肩をポンと叩いた。


自分の意思が通らないと反抗的で刺すような目付きをしたが、時々無邪気でかわいいよっちゃんになるから、本当に不思議な子だと思った。言ったことは、とことんやり抜き、やり通す意志の強さを持っていた。


「僕は、名古屋の高校に行くよ、よろしくね」とにこっと笑った。


「えっ~そんな有名な高校?名古屋の私学は難関だよ!倍率が岐阜とは違うよ」と思わず言ってしまった。


主人に話したら「やらせてみよ。田舎の坊主が挑戦するんだから、お前も協力してやれ!5厘のくりくり坊主に耐えたくらいだから、やるかもしれんぞ~楽しみにしていたらいい」とほほ笑んだ。


子供がたくさんいるということは、スリル満点。家族は運命共同体なのだ。私も覚悟した。


子供達が何を言い出しても対応出来る母親に成長させてもらえることに気付いた。 よっちゃんは、見事難関を突破して、名古屋の有名な男子校に合格した。


きっとんとん~やったぁ~


第十六章『巣立ち』


よっちゃんは、中学一年生の頃から「僕に勉強しろと言わないで欲しい。言われてもやれるものではないし、自分で決めていくから何も言わないで!」と言った。


「なるほど~」とは思うものの、実行はなかなか難しいことだった。


テレビを見てケラケラ笑っていたり、ゲームを何時間もやっているとつい「いつまでゲームやっているの。いい加減にしなさい!」と、怒鳴りそうになった。


「いやいや、ここで怒ってみても何の効果もない。辛抱~辛抱~」と自分の心との戦いだった。「待つ、ただただ待つこと」と自分で自分に言い聞かせ、心のバランスをとるようにした。


そのうちに、数学の難しい問題に取り組むようになった。問題が解けないと座り込んで考えている。新聞のチラシの裏に懸命に計算をして、問題が解けるまでやっている。


「夕ご飯ができたよ~」と言っても返事がない。見に行くと数学の問題とにらめっこ~あまりにも、真剣なその目は、小学校一年生の時に、読書感想文を完成させた時のあの目だった。自分の力の限界に挑んでいく子だと確信した。


受験をする前には、そこの学校に通っている河村君に電話して色々聞いていた。河村君は、その後、東大理三(医学部)に現役で合格して「日本の天才」という本にも掲載された素晴らしい高校生だった。私の友人の息子だった。


「もしもし、ぼくよしひとだけど教えて欲しい事があります。ヘアスタイルは?靴はどんな色?鞄は?校則は厳しいの?」と詳しいことを、次々に質問していた。


「あっ、よっちゃん~心配しなくていいよ。やるべきことをきちんとやれば校則は大したことないよ。男ばかりでおもしろいよ!」と一時間以上も、楽しそうに話をしていた。


この電話のあとで「決めた!僕が行きたい高校が見つかった!名古屋に行きたい」と言った。家族で話し合いをした。みんなの意見を聞いてみた。兄達は口々に「よしひとは、校則の厳しいところだと合わない」と言った。主人は「本人の希望するところに行かせよ」と一言。 こうして「合格」という切符を見事に手に入れ、この家から巣立ち、名古屋へと向かうことになった。田舎のよっちゃんが都会へと飛び立った!


きっとんとん~ばいばい(^-^)/~ ~


第十七章『自分で自分をほめる』


田舎生まれのよっちゃんは、生まれて初めてよその家で生活するようになった。賄い付きの下宿生活が始まった。


この時初めて、父親に感謝できたと言った。大家さんが親の役目をして下さった。ある日、よっちゃんから電話が入った。


「もしもし、母さん?今月は、電気代がただになったよ」


「えっ、どうして?」


「僕さぁ、電気付けっ放しで、お父さんによく怒られていたので、廊下の電気やトイレの電気をこまめに消していたの」


「そうだったの。お父さんは、いちいち細かい事をうるせいなぁ!と言ってたよね」と私は答えた。


「うん、あの時は、叱られてばっかりやったから、むかついたよ」と言った。「それがさぁ、大家さんに褒められたんだよ。水谷君のお陰で、電気代が節約出来たから、今月はただでいいよだって!」声が弾んで明るかった。「それからね。僕が、大家さんに、いつも挨拶してたら,えらい!って褒められたんだよ」


「まあ、うちでは、お父さんからもお母さんからも、怒られてばっかりいたよっちゃんが、褒められてばっかりいるんだねぇ~」と言ったら、「よく怒ってくれてありがとう!家から離れてみて、やっと家族っていいなぁと思えるようになったよ。」


高校の校風が彼には合っていたらしく、伸び伸びと楽しくて過ごすことができた。


ある時、懇談会の為に高校へ出かけた。その前に下宿へ行き、掃除をする為によっちゃんの部屋に入った。窓ガラスに各教科の得点が書いてあって、その横に太い字で「よっちゃん☆50番以内おめでとう!よくやった!次回は30番以内を目指せ☆」と書いてあった。


その文字を何回も読んでいたら、涙がこぼれ落ちた。田舎の学校から運良く合格できたけど、勉強がついていけるのだろうかと心配していた。学年で50番以内だなんて、私は考えた事もなかった。きっとその喜びを伝えたくても、下宿に帰っても家族がいないので、自分で自分を褒めていたのだろう。多分一生懸命勉強して、机にもたれたまま寝てしまう事もあっただろう。


ガラス窓にそんな彼の姿が写し出され、私はしばらくそのまま立ちつくした。家から離れて生活するということが、果たして良かったのかどうか自問した。何だかかわいそうだと思ってしまった。涙を拭いて高校へ行ったら、よっちゃんが友達と楽しそうに話していたので、ほっとした。


私を見つけて「ヨォッ!」と右手をあげてにっこりしたので、私も思わず手を振った。


きっとんとん~びっくりこっこ~


第十八章『女の子』


三者懇談会で、学校での様子を伺った。


先生は「やるべきことをきちんとやっているから、心配はいりませんよ。友達も出来ていますよ」と言われた。


「先生、うちの子はヘアスタイルにこだわって、自分でデザインして栄の美容院へ行っているようです。あんな富士山のような頭をしていますがよろしいんでしょうか?」とこわごわ尋ねた。


「アッハッハ!お母さんそれくらいは、許してやってください。この学校は勉強がきついんで、楽しませてやってください。うちの生徒達は、誇りを持っています。大丈夫です。息子さんを信じてあげてください」と言われた。


私は嬉しかった。


この高校の校庭を歩きながら、「私が手を焼いてきた大事な息子を入学させていただいてありがとうございました。無事卒業させてやって下さい」と深く校門に頭を下げた。


「よく頑張っているんだね。あなたにぴったりの高校だね。母さん、安心したから家に帰るね。風邪ひかないようにね」と言った。


「よしよし、母さんも頑張れよな!」と言って、私をハグしてくれた。


あれほど私の心を振り回したよっちゃんは、この高校三年間で見事に大きく成長した。自分に合った居場所探しが、とっても大切だと気づいた。私よりうんと背が高いので、たくましく思えた。


お正月の元旦には家族全員が集まり、主人の実家と私の実家に、行くことになっている。


その時、よっちゃんはおばあちゃんをハグし、頭をなでながら、「おばあちゃん、長生きしてね。また来るからね」と言う。若い孫に抱き締められた母は一瞬で、幸せそうな笑顔に変わる。83歳になった母は、いつもハグされるたびに「また、来年まで生きたいな」と呟く。


大人になったよっちゃんは、今でもおばあちゃんをハグする。この子はちょっと日本人離れしていると思った。


夏休みに家に帰ってきたとき時に彼の友達から電話がかかった。


「何かあったの?」ときくと「友達が女の子と付き合う事になったんだけど、どんな話題で話したらいいか聞いてきたんだよ」と答えた。


「えっ!女の子と話したことがないの?」と驚いて聞いた。


「そうだよ。僕は高校受験で入ったんだけど、他の子は中学校からこの学校に来てるの。だから、女の子と話したことがない子がいっぱいいるよ」


「そうだったねぇ~男子校だものね。あなたは何て答えたの?」と聞いたら「別に女の子って、特別に意識しないで、普通に話せばいいよと言ったよ」と答えた。


「なるほどねぇ~」と言うと「母さんがミニバラやっててくれて助かったよ。塾に女の子がいっぱい来るから、僕は女の子と普通に話せるようになってたよ。ありがとう」と頭をペコンと下げた。 そう言われてみると、男の子ばかり4人なのに、塾生はかわいい女の子が多かった。英語が中心の塾だったからかもしれない。


きっとんとん~ドキドキ~


第十九章『夢実現』


よく遊び、よく学んだ3年間が瞬く間に過ぎ、希望の大学に入学出来て大喜びだった。


よっちゃんは田舎で生まれたのだが、大都会が好きだった。岐阜から名古屋へ、そして今度は、更に翼を広げ東京へ翔んだ。次男が既に東京の大学に行っていたので、一緒に住むことになった。大都会が水に合ってるのかますます元気になっていった。


時々、下宿に尋ねて行くと、部屋はちゃんと片付いていた。


そしてメモが残されていた。「ようこそ!僕の部屋を勝手に掃除しないで下さい。この前、母さんが掃除してくれた時に、小さいアクセサリーが無くなってしまい、困りました。母さんがゴミだと思っても、僕にとっては宝物なんです。よろしく頼みます」


どうやら「こんなもの!」と私が思っても、大切なものらしい。


せっかく、下宿に行ったのに会えない日もあった。研究室で泊まってやらなければならない事があったようだ。次男も大学が終わるとバイトがあって、なかなかゆっくり話せなかった。


その頃、長男は大学が名古屋の方だった。よっちゃんは高校生の時は長男の下宿に泊まって、学校に行った事もあった。


今度は、次男と一緒に生活することになった。男同士なので、あっさりしているので、一緒に住んでいても「今日、お兄ちゃん、何時に帰ってくるの?」と聞いても「知らないよ」と言った。


女の子の姉妹とは違うんだと思った。私には、二人の妹がいるが何でもお互いに話してきた。 それぞれが、こうして大人になってきたので、親として願うことはただひとつだった。兄弟仲良くして、困った時には、助け合ってほしい~ そして、それぞれのパートナーが仲良くしてくれることを願うのみだった。


きっとんとん~あっ、ない~


第二十章『愛を形に』


人は愛を学ぶ為に生きていると思う。4人の息子達が「素敵な愛」に恵まれるように育ててきたつもり~。


ある時はぶつかりながら、またある時は悩みながら、子供達と向き合ってきた。そのつど真剣だったから、泣きながら怒ってしまった事もある。おもしろいもので母親より背が高くなってくると、時には子供扱いされてしまう。


言い争ったあとは「さなえちゃん、すねてるの?こんなことで怒るなんて、大人げないよ…」と言われた。そんな事言われると思わず吹き出してしまった。こうしてあっと言う間に、子育てが終わった。


あと根気よくやらねばならないと思ったこと。どうしたら女の子に「魅力的ね(o^-')b」と言われるのか? もうひとつは、「女の子を追いかけるのではなく、追いかけられる男になるといいな」と思った。


まずは電話作戦から始めた。 「もしもし、よっちゃん、今日は一体何の日でしょう?お答えください。はぁい。そうです。今日はお母さんの誕生日でした。お祝いの品を今か今か今かと待っています」と、留守電に入れておいた。 しばらくすると電話があった。留守電がしゃべり始めた。「はい。おめでとうございます!元気なよっちゃんからの「声だけのプレゼント」と~。 私は留守電を聞いてあっけにとられた。よっちゃんの愛は、「元気な声」という形無きプレゼントだった。


きっとんとん~プレゼントだよ~


第二十一章『有言実行』


社会人になるまで、私に「元気な声だけプレゼント」として「おめでとう」という電話をくれた。健康で元気が一番幸せなことだと、教えられた。離れて暮らしていると、色々心配なことばかり。「ちゃんと食事はしているのかしら~?」「ちゃんと大学に行っているのかしら?」 心配すればきりがないので、お守りを渡そうとした。


「僕は、大丈夫だよ。お守りはいらないよ。自分の力で生きてゆくんだから~僕の分は祈らなくっていいよ」と断られてしまった。


「そうだわ。この子は理数系の頭だから、こういうものは必要じゃあないんだわ」と私もそう思うことにした。


ある日のこと。朝から何だかよっちゃんのことが気になって仕方がない。


「東京に電話してみようかしら?」「でも、別に用事もないし~」迷っていたが、やはり、胸騒ぎがして電話してみた。


「何で電話したの?」と聞いたので「別に用事は無いけど、朝から何だか良くない胸騒ぎがしたから、大丈夫かな?って思って電話したの」と答えた。


「えー、びっくりだなぁ~。大丈夫だじゃあないんだよ。今、困っていたところなんだ…」と溜め息をついた。


「何かあったの?」と聞くと財布の入ったカバンを盗まれてしまったとの事。生活費を銀行から下ろして、そっくりそのまま取られたそうだ。カードも貴重な物も全部取られたとショックを受けていた。


「母さん、やっばり僕の分も祈ってね。お守りももらうよ」と言った。


(10年後の昨年、彼の部屋を尋ねたら、婚約者の藍ちゃんが「よしひとさんの大切なコーナーです」と言って、開いてくれた所に、お守りが大切に飾ってあった。胸にジーンときた。この時の苦い経験が財産となったのかもしれない。 )


その後「今、アルタで予選が通ったので、テレビに出るから見て!」と嬉しそうな電話の声だった。


「なんていう番組なの?」と聞いたら「笑っていいともだよ」


そういえば、中学一年生の時に、そんなことを言っていた。テレビのスイッチを入れたら、本当にタモリさんと並んで映っていた。


きっとんとん~あっ、よっちゃんがテレビに!


第二十二章『テレビに出る』


中学生の時に「笑っていいともに出るから、楽しみにしてて」と言われたことを思い出した。


いつも、よっちゃんは、私の想像を遥かに超えた所で生きてゆくんだなぁと思っている。


「何でテレビに出れたんだろう」と思いながら、テレビを見ていた。その頃、サッカーで大活躍していた「中田英寿のそっくりさん」として出演できたのだった。


そういえば中田さんが調子良くて、活躍している時は「頑張っているね」と言われるが、悪い時は、電車に乗った時も叱られたそうだ。「僕、中田英寿ではありません。水谷です」と言っても信じてもらえなかったと言った。


東京だけでなくイタリアへ旅行した時も、中田さんのファンに取り囲まれたそうだ。彼は外国でも人気者だった。


「僕が中田の真似をしているんじゃあないよ。僕の方が彼より、一年早く生まれているんだから~」と私に言っていた。何が幸いするがわからないものだ。「中田英寿」に似ていることで、困っていたのに、そのことでタモリさんの番組に出るという夢が叶った。


テレビの中のよっちゃんは、とっても嬉しそうだった。 それから社会人となって、お金を貯めてニューヨークの専門学校に入った。そこでも運良くアメリカのテレビに出れたそうだ。


ニューヨークの専門学校に入るのは、「9.11ニューヨークテロ事件」があったばかりだったので私は反対した。


「お金も出来たし、僕の夢を叶えさせてほしい~。迷惑かけるようなことはしないから~。死ぬ時は、どこにいても死ぬんだから~」私がどれだけ反対しても聞いてくれなかった。


主人は「もう大人なんだから、信じてやれ」と一言だけ~。母親の気持ちというのは、やっかいなもの~。分かっていても心配してしまう。私の反対なんか関係なく、よっちゃんは、またもや、さらなる大都会ニューヨークへ飛び立った。


きっとんとん~ニューヨークへ~


第二十三章『夢から現実へ』


よっちゃんは次々に夢を現実にし、一年と2ヶ月ほどのニューヨーク生活を終えて帰国した。


専門学校は、語学とヒップホップダンスを習う事が目的だった。ダンスを学び代表に選ばれた。そして、ペアを組んでダンスコンテストまで出場出来たそうだ。 貴重な体験をしながら、「自分のダンスが、ゲームソフトの中に入った」と誇らしげに話してくれた。「母さん、アメリカのゲームソフトに僕の名前が入れられんだよ。すごいことなんだよ」と言う。


輝いた目で喜びを伝えてくれる彼の顔を見ていたら、「これで良かったんだ」と思った。小さい頃から、じっくり冷静に考えるのだが、決断すると熱く燃え上がるようだ。


「自分で決めたことは、自分で責任をとるから心配しないでほしい」と言った。


「うん、分かったよ」と言ったら

「物分かりがよくなったねぇ~原始人から進化してるじゃん」とにこっと笑って「その調子~その調子♪」と私の頭を撫でた。


個性的なよっちゃんにはとても、私の頭脳ではついてゆけない。今は外資系のIT関係の会社に勤めている。服装も勤務時間も日本の企業より自由のようだ。自分に合った会社にお世話になれた。後は、自分に合ったパートナーを探して欲しいと思った。


彼が自由に夢にチャレンジしているうちに、長男次男は家庭を持ち、4男はお付き合いをしている女性がいた。ある日、よっちゃんから電話が入った。 「父さん母さん、僕はこれから彼女を探さなくてはいけないので、結婚はお先にどうぞと弟に伝えて…」


きっとんとん~お先にどうぞ~


第二十四章『運命的な出逢い』


主人と私に話した後に、「母さん、あきひさに代わってくれよ…」と言ったので「いいよ、どうして?」と聞いてみると、「ちょっと話したいことがあるから~」と答えた。


電話が切れたので、4男に聞いてみた。「何か言われた?」


「うん、父さんや母さんは上から順番に結婚してほしいらしいが、お前の方が早く出会いがあったんだから、気にしなくていいよ。お先にどうぞ!」と言われたそうだ。 そして、「のろのろしていると他の人にかっぱらわれるぞ!」とカツを入れられたということだった。


それを聞いて微妙な気持ちになった。


お正月に家族全員集まった時、よっちゃんだけ一人だと「寂しくならないんだろうか?」と心配した。母親の気持ちというのは「複雑だなあ~」と改めて感じるのだった。主人にそのまま話したら「お前はどこまで馬鹿なんだ。もう子供じゃあないんだ!ほおっとけ…」と叱られた。「何回言われたらわかるんだ!子供扱いするな」とまたもや叱られた。私は「男の子の母親って何て割りが合わないんだろう…」と独り言。息子に叱られ、主人に叱られる。怒られても、叱られても、それでも子供のことが心配になる。いつもやっかいな気持ちが、右往左往している。


そんな私をみていた主人は、三男に「いいか、弟が結婚する前に、パートナーを見つけて、一緒に住むようにせよ!結婚でも同棲でもそれは、自由。一日でも良いから、先にスタートするんだ~」と言った。


私は突然のその言葉に驚き、あっけにとられた。 よっちゃんは驚きながらも、「分かったよ。考えてみる」と答えた。不思議な事に、その後、よっちゃんに運命的な出逢いがあり、7ヶ月後に同棲した。


「えっ、同棲?」と私は驚いたが、主人は「相手のご両親が許して下されば、いいんじゃあないか?」という。幸いな事にご両親に許され、二人の生活が始まった。それは、4男の結婚式の2ヶ月前の事だった。


きっとんとん~念ずれば花開く~


第二十五章『プロポーズ大作戦』


昨年の秋に、よっちゃんから国際電話が入った。


「母さん、東京へ行かないの?」


「行くよ。孫に会いに行くよ」と答えた。


「じゃあ、あいが待っているから遊びに行ってやってくれない?」と言われた。


「えっ!私に?ところであんたは今、どこにいるの?」と聞いたら、


「ドイツだよ。もうすぐアメリカへ飛ぶよ」


「そんなぁ~あんたがいないのに~かわいそうよ~」と答えた。


「でも、あいが会いたがっているから行ってやってくれ」と言われた。


「嬉しいことだね。じゃあ、行くよ」と言い、東京へ向かった。


東京駅であいちゃんと待ち合わせをしてから、二人が住んでいる部屋に案内してもらった。落ち着いた空間だった。大学生の頃から大切にしている黒い犬の置物もちゃんと引っ越しして来ていた。


置物の黒い犬に「いつもよっちゃんの側にいてくれてありがとうね」と頭を撫でながら、お礼をいった。


部屋をみるとビリヤードがあったので驚いた。


「すごい!以前からビリヤードやってみたかったわ」と言うと「お母さん一緒に遊びましょう」とあいちゃんが、にっこり微笑んだ。


それから、二人は夢中で遊んだ。私は4人の息子達に心から感謝した。それぞれが姑を遊んでくれる嫁さんを連れて来てくれた。また、孫達も私を遊んでくれる。 ありがたや♪ありがたや♪


「今年の4月29日にあいちゃんにプロポーズするから~」と電話がかかってきた。


「良かったね!おめでとう」と言いながら嬉しい気持ちでいっぱいになった。プロポーズの言葉とその方法に感動したあいちゃんから、すぐによい返事をもらって、結婚することになった。


5月4日にあいちゃんのご両親にお目にかかり、一緒にお食事ができた。二人から、あいちゃんのお母さんと私に「母の日」のプレゼントを渡された。そして、出逢いから15ヶ月目の4月29日に「プロポーズ大作戦」と題してインターネットからプロポーズしたそうだ。よっちゃん流で、あいちゃんを感動させてからプロポーズをしたらしい。その様子をあいちゃんが、目をキラキラさせて話してくれた。


天国でひとつの魂だったものを、地上に降りるときに神様がふたつに切り離し、ぽんぽんと別の場所に投げ入れてしまう。ひとつの魂からできていた二人は、別々の時間に離れた場所で生まれ、やがていつか再び巡り会い恋におちる…。 というふうに、よっちゃんの「プロポーズ大作戦」が始まっていた。3日間考えたそうだ。


よっちゃんらしく、しっかり準備をして、しっかりとした人生設計で歩んでゆくことだろう。あいちゃん、よっちゃんをよろしくね(o^-')b また、一緒に遊びましょうねヽ(*^‐^)人(^-^*)ノ 乾杯(^-^)vおめでとう!再び、巡り会えて良かったねえ~。この感動をいつまでも忘れないで下さい。


きっとんとん~ヤッタァ(^-^)v~よっちゃんの巻おしまい(^-^)/~ 長編作品を最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

■第11話「おもしろばあちゃんと長男の嫁さん(2007.5.30~2007.6.6)全8

■第11話「おもしろばあちゃんと長男の嫁さん(2007.5.30~2007.6.6)全8


第一章『車のナンバー』


これから始まるのは、嫁姑物語。嫁さんの名前はちーこ、58歳。姑の名前はきよ92歳。ご主人は自営業。ちーこさんは大手の保険会社に勤めている。

このお嫁さんは、ご主人の両親に気に入られて、嫁いで来たのだった。本が大好きで、勉強家で物知りな姑だ。普通の家庭とちょっとちがう会話が交わされる。聞いていると思わずクスッと笑ってしまった。

たとえばこんなこぼれ話。嫁のちーこさんは、会社に勤めながら、趣味でヨガを教えていた。

ある日のこと。友人が三人来て、お茶を飲んだ後で「失礼します」と帰って行った。

「ちーこちゃん、あのナンバー9990の人は、土曜日にヨガに来ているね」と言われた。「そうだよ。おばあちゃんよくわかったね。どうして?」と聞くと、「うちに来てくれる人の車のナンバーは全部覚えているよ」と答えた。

「おばあちゃんってすごいね!数字に強いんだね」とちーこさんは、驚いた。「なんのなんの、これくらい大したことありませんよ」と一言。それだけではなかった。ご近所の車のナンバーを全部覚えていたのだった。どこどこの家は、先月新車を買ったとか軽自動車から普通車に買い換えたとか~。ちーこさんは、おばあちゃんの記憶力の良さにまたもや驚いた。


第二章『こんぶの種まき』


ちーこさんは、私の親友。家に伺った時、嫁姑の会話がおもしろかったのでメモしておいた。いつも、嫁姑戦争の悩みを聞いている私にとって、新鮮で心地良い会話だった。

「おばあちゃん、これから仕事だから、夕食の準備お願いね」と長男の嫁さんは、バタバタしながら、大きな声で話しかけた。「はい、わかりました」「あっ、そうそう、ご飯を炊く時に、こんぶを一切れ入れといてね」とおばあちゃんの耳に聞こえるように、ゆっくり話した。「はい、わかりました」

「ご飯が炊き上がっても、そのこんぶを捨てないでよ、私が食べるから~」「はい、わかりました」

「おばあちゃんは食べちゃダメよ。こんぶは堅いからおばあちゃんの歯では噛めないからね」と言うとまた「はい、わかりました」と答えた。

嫁さんは、まだ言い残した事があった。「あのね、おばあちゃん、こんぶは、花壇にまいたらいかんよ。こんぶをまいても、生えないからね。わかった!」と念を押した。

「もったいない、もったいない」と言ってなんでもかんでも花壇に蒔いてしまうおばあちゃんに注意した。「どっちが姑やわからへん」とおばあちゃんが呟いた。

「ほうやね。30年も一緒に暮らしているからねぇ~おばあちゃん、私が姑やがね!」と嫁さんが言った。「ほうやね~」といいながら二人は、目を合わせて笑った。嫁さんが「行ってきまぁす」と手を振ると、おばあちゃんはウィンクをした。


第三章『きよしちゃん』


92歳のおばあちゃんは、突然体調を悪くした時があった。「ちーこさん、私はもうダメかもしれません。遺言を書いたので、見ておいてね。あなたに世話になったから、100万円小遣いあげるから、好きなように使いなさい」と言ってくれた。

「本当?嬉しいわ~私ね、自分の部屋がほしいの。おばあちゃん作っていい?」と言うと「それなら100万円では足りないかもねぇ~足りなかったら言って下さい」「まあ、嬉しい!おばあちゃん大好き!」と嫁のちーこさんは、答えた。

翌朝、ちーこさんは、おばあちゃんの様子を見に行った。そっと、ドアを開けると今にも死にそうな顔をして「きよしちゃん~きよしちゃん~」とうなされていた。

「おばあちゃん、きよしちゃんって、あの歌手の氷川きよしのことなの?」

「そうです。ちーこさん、私はきよしちゃんが好きなんです」とおばあちゃんは言った。「じゃあ、氷川きよしさんのコンサートにいきましょ~長生きしないときよしちゃんに会えないよ」とちーこさんが語りかけた。

おばあちゃんは、ムクッと起き上がって、枕元にあった遺言書をビリビリ破り始めた。「おばあちゃん、せっかく書いたのに、何で破っちゃうの?」「きよしちゃんに会いたいから、私は死んでなんかいられません」と言い切った。

その後、不死鳥のように蘇り、氷川きよしのコンサートに出かけれるようになった。

コンサートから帰ってくると「きよしちゃんは、礼儀正しくて素晴らしい人だわ。素敵だわ」おばあちゃんね顔は、少女のように輝いていた。

ちーこさんは、ご主人に「ねえ、おばあちゃんね、あなたの名前を呼ばなくって、きよしちゃんって呼んでたんだよ。死にそうになった時にねえ~」と言った。

ご主人は、「ふーん」とただ一言だけ呟いた。


第四章『若返りの薬』


ある晴れた日、おばあちゃんは、いつものようにかかりつけの病院へ行った。すると診察を待っている患者さんは、口々に病院の噂をしていた。

「00病院は良かったよ。あそこの先生はやさしいわー」と聞くとすぐそこに行きたくなってしまう。

その日も病院のはしごをした。そして、いっぱい薬を抱えて帰ってきた。その顔は嬉しそうだった 。

長男の嫁さんは「そんなに嬉しがって、何かあったの?」

「そうや、いくつかの薬をもらったよ。」と言った。「ちーこさん、ちょっといらっしゃい」と呼ばれた。行ってみると、おばあちゃんは、薬をいっぱい持っていた。

「これは、若返りの薬なんだって!私も飲みますから、ちーこさんも飲みなさい」と言われた。お医者さんも、このおばあちゃんに、手を焼いているのかもしれない。

「えつ、おばあちゃんの薬を飲むの?」と呆れてしまった。その後、おばあちゃんは、病院で叱られたそうだ。「あちこち病院に行くんでしたら、ここにはもう来ないで下さい」と。


第五章『救急車』


ちーこさんは、仕事をしていて、ふと腕時計を忘れたことに気付いた。お昼休みに自宅へ帰った。ドアを開けると、「助けてぇ~助けてぇ~」という叫び声が聞こえてきた。

「あの声は、おばあちゃんだぁ~」と急いで家の中へと走った。ベランダで洗濯物を干す時に転んだらしい。顔中血だらけだった。

ちーこさんを見た途端「隣りの奥さん呼んでこい!」と叫んだ。おばあちゃんの頭の中には、長男や嫁の存在がないようだ。

隣りの奥さんが駆け付けて「おばあちゃん、もう大丈夫よ、私が来たから~」と言いながら、手早く顔の血を拭き取った。「早く、救急車を呼んで!」と言われて、慌てて電話した。

救急車をよぶのは、初めての経験なので動揺していた。救急車で運ばれたが、手当てをしてもらって、入院することもなく家に戻れた。

体調が悪くて買い物に行けなかった時も、隣りの奥さんに注文をして、買ってきてもらっていた。ちーこさんには、信じられない事だった。

おばあちゃんの頭の中には、「長男や嫁は働いているから、電話したらいかん」と思い込んでいるようだ。


第六章『浮気』


ある日のこと。おばあちゃんは、真剣な顔をして長男の嫁さんに話した。「あんた、絶対浮気せんといてね。私はあんたについて行くから~」

「おばあちゃん、何で急にそんなことを言うの?するわけないでしょ!」とちーこさんが言う。 「あんたは、頭もいいし、きれいだし~」とおばあちゃんは、心配そうだった。

50歳を過ぎて、誰からもきれいなんて言ってもらえないのに、姑からそんなことを言われて悪い気はしなかった。ちーこさんは92歳のこの姑とけんかしたことがない。おばあちゃんとうまくやるために結婚したようなものだと言っている。ムカムカしたこともあるが、おばあちゃんと一緒に旦那の悪口を言うとすっきりするらしい。

旦那さんにも、ちーこさんにもよく手紙が来る。おばあちゃんは「私には、誰からも手紙が来ない」と寂しそうにポツリと呟いた。

それを聞いたちーこさんは、早速自分の部屋へ行き、手紙を書き始めた。左手にペンを持ち、誰の字かわからないようにした。会社の近くから、投函した。

「そういえば、実家の母も91歳。母も寂しいかも~」と思い、実母にも手紙を書いた。

翌々日「ちーこさん、私に手紙が来たの。差出人の名前が無いけどあんたでしょ?」とおばあちゃんが、にこにこしながら言った。

「さぁ?誰でしょうねぇ~」と、とぼけて答えた。実母も手紙がきたと喜んで、電話をかけてきた。


第七章『義母と実母』


ちーこさんは、58歳。大手の保険会社に勤めて20年。昨年、勤続20年で、表彰され沖縄旅行を会社からプレゼントされた。これも、姑の協力があったからだった。女の子一人と男の子二人の子育てをしながらの会社勤めだった。

現在、姑92歳、実母91歳。二人は全く生き方が違う。姑は、舅が木工所を自営していた為に、経理を一切任されていた。請求書も住所録を見ないでも、暗記していたのでサッとやってしまう。仕事が手早く、頭のよい人だとちーこさんは驚いた。

実母は、すべてを兄嫁に任せて畑仕事に精を出している。義姉さんは「うちのことは心配しなくていいよ。おばあちゃんとは親子だからね」と言われた。ここには、嫁姑戦争は無く、もめたことは一度もない。

実母は、義姉に言われることを「うんうん、そうだね」と素直に聞いているだけだから、けんかにはならない。実母の愚痴を聞いたことがない。実父に仕えて、畑仕事と家事と子育てをやってきた専業主婦。

義母は、キャリアウーマン~自分の力で人生を果敢に切り開いてゆく。

実母は、その時の人生の流れに身を任せ、流されてゆく。

ちーこさんは「どっちが長生きをするのだろうか」とずっと二人の母を見てきたが、どちらも長生きをしている。

義母は、今でも家計を握り、長男の嫁であるちーこさんに渡していない。「惚けるといかんから」と言って、今でも、スーパーに歩いて買い物に行き、食事の準備をしている。嫁にとっては、ありがたいようなありがたくないような~複雑な気持ちだ。

目の前に老後のお手本が二人いるので、ありがたや、ありがたや~。

さてさて、ちーこさんはどちらのタイプのおばあちゃんになるのかしら?


第八章『夢中』


ちーこさんは、実母は義姉にお任せして、自分も義母と「親子になろう」と永年努力してきた。

会話は、嫁姑逆バージョンのようだけど、二人共それなりに気をつかいながら生活している。

92歳なので、ご飯の準備も洗濯も掃除も時間がかかる。忙しい時は、自分でやってしまいたいのだが、「ちーこさん、お願い!ご飯を作らせて下さい」とペコンと頭を下げられる。「惚けたらいかんでさせて下さい」と頼まれる。

先日も「おばあちゃん~洗濯物を籠に入れとくだけでいいよ。私が干すからね」と言ったら、「お願いですから、私に干させて下さい」と丁寧な言葉で返された。

ちーこさんは「おばあちゃんは、自分が惚けて、家族に迷惑をかけるのが一番怖いんだ。時間がかかっても、できるうちはやってもらおう」と心に決めた。遺言を書いては「きよしちゃんを見に行きたいから死んどれん」と言いながら、破ってしまう姿をみて、ときめきが命を繋げていることを知った。

「氷川きよしショー」は女性の平均寿命を延ばしているのかもしれない。一年に2回、名古屋と岐阜のコンサートに出かけて行く。娘さんに手を引かれながら~

帰って第一声が「きよしちゃんが、豆粒くらいにしか見えなんだ。もう、来年は、死んどるから行けれん」と言う。毎年、同じセリフを何回呟いたことだろうか~。今だに「死んだらきよしちゃんを見れなくなるから~」と言いながら、「氷川きよし」に夢中になってショーを見に出かけて行く。。

92歳の「ときめきばあちゃん」も凄いけど、これほど夢中にさせる「きよしちゃんパワー」は本当に凄いと思った。

ときめきばあちゃんは、今日も、家族の為にキッチンに立って、おいしい煮物の匂いに包まれている。

きっとんとん~きよしちゃんに夢中~おもしろばあちゃんと長男の嫁さんおしまい。最後まで楽しんでいただきありがとうございました。


■第12話「不思議少年A(2007.6.8~2007.6.19)全11

■第12話「不思議少年A(2007.6.8~2007.6.19)全11


第一章『光る石』


緑の山々に囲まれ、美しい川が流れている側に一軒の家があった。そこに、一人の男の子がいた。家の下の川で遊び、山の中で友達と遊び回る元気な子だった。

ある日、友達と一緒に川で遊んでいた。その時10歳のわんぱくざかりだった。川の中で小さな綺麗な石を見つけ、右手を高く上げて太陽の光に当てながら、見とれていた。

突然、友達が「わっ」と言って背中を押した。驚かすつもりだったそうだ。押された拍子に、手に持っていたキラキラ光る小さな石が、男の子の口に入ってしまった。背中を押されたショックで、何と男の子は、その光る石を飲み込んでしまったのだ。

「わっ、どうしょう、石を飲み込んでしまった」と思ったが、何故かその事を言えなかった。

友達を怒ることもできなかった。

それ以来、不思議な事が起きてくるようになった。亡くなった人の姿が見えたり、動物の霊が見えたりするようになってしまった。遊んでいても突然、「あそこに人が見える!」と言ったりしたので、友達が変に思うようになってしまった。だんだん一緒に遊ぶ子がなくなった。

それから、その男の子は「不思議少年」と呼ばれるようになった。

この物語は、こうして始まった。

不思議少年の家族は、祖父、祖母、父、母、兄の6人家族だ。父は自営業で母は父の仕事を手伝っていた。兄は、6歳年上で、不思議少年をかわいがってくれていた。

だんだん友達と遊ぶ事がなくなり、家にこもってゲームに夢中になっていった。お母さんは、心配でたまらなかった。


第二章『沖縄山村留学』


友達と関わることが少なくなった不思議少年は、だんだん家にこもるようになってきた。

小学校低学年までは、がき大将だったのに、誰とも遊べなくなってしまった。少年のことを考えるとお母さんは、途方に暮れた。

やっとの思いで小学校に行くと「お前、なんでいるんだ」と言われたり、女の子からは、叩かれたりした。みんなは、ストレスを少年にぶつけているような気がした。不思議少年は、先生にも、友達にも、学校にも馴染めなかった。

お父さんとお母さんは、この子の将来を不安に思った。少年が、小学校5年生になった時、この子を家から離して生活させてみようと考えた。

家族で相談し、少年に「沖縄山村留学」のことを話した。不思議少年は、未知なる世界へ、飛込む決意をした。

「お父さん、お母さん、おにいちゃん~、いってきます」と元気よく、家を出ていった。


第三章『不登校』


沖縄では、留学先のお父さんとお母さんが、優しかった。一緒に生活したのは、中学3年生の男子だった。一度に、兄が二人出来たような気持ちになった。ひとつの部屋に、三人が兄弟のように暮らし、かわいがってもらった。

小学校も楽しくて、一年間があっという間に過ぎ去った。時々、故郷のお父さんとお母さんが、会いにきてくれた。ホームシックにかかることもなかった。

不思議少年は、沖縄を愛し、ここでは、全く普通の小学生になっていた。自然の中で友達といっぱい遊べた。

この家には、いろいろな人々が訪れるので、だいぶ人に慣れて、話せるようになってきた。

沖縄山村留学を終えて、故郷に戻り、6年生に進級した。何とか無事、小学校を卒業した。

中学校に入って、宿泊研修があった。その時から、また、いじめが始まった。

「なんでお前がおるの!出て行け~」と言われたり、イカダからは突き落とされた。「こんな事されてまで学校に行きたくない」と思うようになった。

その日から、再び、不登校が始まった。


第四章『家庭教師』


不思議少年は、不登校になり、ゲームに夢中になっていった。月日はどんどん流れてゆく。

お父さんも、お母さんもまた、だんだん不安になってきた。特に、お母さんは、「心身ともに健康に」と、食事に気をつけたり、色々な学びに懸命だった。

そんな状態の時に、ミニバラの塾生が大学生となって、この不思議少年の家庭教師となった。

なみちゃんは、小学3年生からミニバラに関わってきた。はきはきして、明るくて、誰からも好かれる女の子だった。勉強もよく出来て、進学校から教師を目指して大学生となっていた。そして、お母さんに頼まれて、不思議少年の家庭教師となったのだった。

なみちゃんは、お母さんから事情を聞いて、私に電話してきた。

「もしもし、不登校の子の家庭教師になったのですが、どのように接したら良いのでしょうか?お母さんが、とても苦しんでいらっしゃいますので、先生のことをお話してもいいですか?」

「もちろん、いいよ。もし、良かったら私の講演会にきていただいてもいいよ。」と答えた。

お母さんは、私の講演を聞いて、涙を流されたそうだ。数日後、お母さんは、この不思議少年を連れて、ミニバラを訪れた。


第五章『出会い』


なみちゃんの紹介で、初めて、不思議少年とお母さんがミニバラに訪れた。お母さんは、今までの経過を話された。

「ありがとうございました。彼は、もう中学3年生ですので、これからは、自分で話してもらいます。終わる頃に電話しますので、迎えに来ていただきますか?」

「はい、わかりました。また迎えにきます」

しばらく、不思議少年は黙っていた。私が何者かを探っているようだった。「安心していいよ。私は怪しいものではないよ。子供達が幸せになれる道を探しているの。あなたの道を一緒に探そうね。私は、基本的には、子供がいうこと信じるよ」と不思議少年に言いました。

すると、突然話し始めた。学校でいじめられたこと、沖縄山村留学のこと、家族のことを次々話し始めた。信じられないくらいたくさんのことを話してくれた。

霊の話までしてくれた。このミニバラは、柳の下に立っている女神さまに守られていること、私のそばに白蛇がいて、私を守ってくれているという。

私は、「うん、うん、そうなの」と聞いていたのだが「白蛇が~」と少年が言った時「えー!」と思わず叫んでしまったのだ。


第六章『白蛇』


私は、不思議少年に「白蛇がそばにいて、見守っている」と言われて驚いた。

実は、一週間ほど前に、義父のお墓を掃除していたら、目の前に白蛇がいた。しばらくじっとしていて、ゆっくりと山の中に消えていった。

生まれて初めて白蛇を見たので、怖いというよりも、その姿の優雅さにうっとりした。帰ってすぐに、義母に白蛇の事を話した。

以外にも落ち着いた口調で「お父さんがあなたに会いたくなって、白蛇に姿を変えて出て来たんだよ。きっとね」と笑いながら話した。

「えー!そんなことあるのかしら?」と不思議に思った。

同じことを主人にも話したら、不思議にも義母と同じことを言った。

義父の法事が近付いていたので「なるほど」と思った。

私はこの出来事があったので、彼の言ってることを、そのまま信じることが出来た。

不思議少年は、私をじっと見て「白蛇が元気がなくて、くたばっているから、今度は、先生を川へつれてゆくね」と言った。「守る力が弱まると、先生が病気になるから」と教えてくれたので思わず「連れて行って下さい」と言ってしまった。

夜の8時から休むこともなく、夜中まで話し続けた。その顔は輝いていた。


第七章『水のパワー』


不思議少年は、私を守っている白蛇が元気がないからと言って、川へ案内してくれた。少年が住んでいる所は、美しい山々に囲まれた静かな環境だった。

家のすぐ下に、川が流れていた。川底が見えるほど、水が澄みきっていた。下に下りるのが大変だった。少年は、猿のようにスルスルすばやく下りて行った。

「ちょっと待ってよ。怖くて下りて行けないよ。高いから下を見ると、足が震えてしまうよ」と川に下りた少年に聞こえるように、大声で叫んだ。

「分かったよ。すぐ行くから動かないでね」と言ったかと思ったら、ひょいひょいと上がって来た。

「あんたは、人間じゃあないみたいね。ターザンかチンパンジィみたい~」と言ったら、笑い出した。

「危ないから、僕に掴まって~さあ、手を出して~」私は言われるままに手を出したら、ギュッと握って「下を見ないで~」と言われた。

まるで、私が子供で少年が大人のように思えた。自然児で、生き抜く頼もしさを感じることができた。「向こう岸に渡るから、水の流れに足をとられないで~」と注意された。川の水が胸の辺りまできていたが、少年がしっかり手を握ってくれていたので、怖くなかった。

やっと目的地についた。「さて、これからどうやって、くたばった白蛇を元気にするのかしら?」と思いながら、少年の指示を待った。ドキドキしながら~。


第八章『水龍』


不思議少年は、長い棒を持ったまま、川の流れをじっと見つめながら立っていた。

「ねぇ、何しているの?」と聞いたら「水龍が川を泳いでくるから、そのバワーを白蛇に入れるんだよ」と答えた。

「いつ、くるの?」「わからないよ」

「ちゃんと水龍がこの川を通るの?」

「わからないよ」と首を横に振った。

「いつ来るのかわからないのに、ずっと待ち続けるの?」「うん」と頷いた。

真剣に川を見つめる不思議少年を見た時「信じて待とう。いつまでも~」と川原に腰を下ろした。こんな経験は初めてだからドキドキしていた。

3時間くらい経った時、妹から携帯に「台風が近付いている」と電話があった。私は、驚いてすぐに、少年に伝えた。

「分かったよ」と頷いたが、身動きしなかった。

私も、待つしかなかった。すると、突然、持っていた棒がピクッと動き、少年の頭がカクッと下を向いた。一瞬のことだった。不思議な光景だった。そういえば、この川は5年前に、少年が小さな光る石を飲み込んだ川だ。それから、霊が見えるようになったということを思い出した。

「どうしたの?」「今、水龍が通ったよ。だから、白蛇も、元気になったよ」とにこやかに答えた。不思議なことに、メルヘンのような世界だった。

「もう、大丈夫だから帰ろう」と言って、私の手を引いて、急流を渡った。水の流れの強さに揺れながら、何とか無事に目的地に着くことができた。


第九章『野いちご』


深い川を不思議少年に、手を引かれながら、川原まで辿り着いた。ほっとしたら、台風が近付いてきて、雨が降り始めた。

「台風が来るから急ぎましょう」と言うと「うん」と少年は頷いた。

「あそこで手を洗って、口をすすいで~」と小さな声で言った。言われた通りにやったら、なんだか頭も身体もスッキリして来た。身体から元気パワーが出て来たような気がした。

ふと横をみると、、赤い実をつけた野いちごがいっぱいあった。

「ねえ、あの美味しそうな野いちごを塾生の為にとってもいい?」と聞くと「いいよ。どうぞ~」と言ってくれた。

喜んで「じゃあ、幼稚園の子と、小学生の子に持っててあげよう」と言い、鼻歌を歌いながら野いちごを摘んでいた。雨が少し降っているのに、全然気にならなかった。

その様子を楽しそうに見ていた少年は、突然、私に話しかけた。

「あのね。もうすぐ小鳥が餌を探してここに来るから、少し野いちご残しといて!」と頼んだ。

「あら、そうなの。小鳥さんの大好物だったのね」と答えてから、野いちごを摘むのをやめた。

「ありがとう。もうすぐ腹ぺこになって飛んで来るよ」と言った。

この子が不登校になっているのがわかるような気がした。今日一日、不思議少年とずっと一緒に行動していたら、私自身がどんどん元気になってきた。不思議少年は、大いなる自然の恵みを大切にしている心優しい少年だった。

不思議少年は、大切な忘れ物に気付かせてくれた。不思議な体験を味わった一日だった。


第十章『勉強』


心優しい少年は、なかなか学校に向かう気力が出てこなかった。カーテンを閉めて、一日中ゲームにひたりきっていた。

家庭教師のなみちゃんが来る時だけは勉強した。なみちゃんには、何でも話すことができた。

顔も、少しづつ良くなり、喜怒哀楽も表現できるようになっていった。部屋のカーテンも、あけれるようになってきた。

教室には入れなかったが、保健室登校出来るようになってきた。そして、ミニバラのイベントに参加して、男の子にも女の子にも話せるようになったのだ。

不思議少年は、だんだん霊的なことを話すことも少なくなった。よく笑うようになり、高校に行きたいと思うようになった。お母さんの顔も明るくなり、笑顔が戻ってきた。

勉強も、やっとやる気になってきた。


第十一章『普通少年』


少しづつだが、不思議少年は普通少年に変わっていった。小学生の頃は、白いモヤッとしたものが見えるようになり、だんだん亡くなった人の霊が見えるようになっていた。

遊んでいて、小鳥や犬の霊も連れて帰ったこともあるという。私は「どうしてそれが霊だとわかるの?」と聞いた。少年は、本物は抱くと体温があるが、霊は体温が無かった」と答えた。

信じられないような話だけど「なるほど」と思った。少年は、だんだん体調が悪くなったので、普通に戻ろうとコントロールするようになっていた。

成長していく中で、自分自身がうまくコントロール出来るようになった。そして、霊がついに見えなくなり、やっと、普通少年になった。

高校生になった時、ネットゲームをやって、仲間が出来た。学校より楽しかった。「なんで、こんな時間にゲームやってるの?学校は?」と聞かれ「学校休んだの。いじめられてるし、なんで高校に行かなければならないかわからないんだ」と答えた。色々悩んで、高校を休学していた。

28歳のその青年が「高校の勉強は、何の役もたたんけど、基礎学力がつくから、進路を変更する時に役に立つよ」と教えてくれた。インターネットでいい人と巡り合った。何でも話せた。ネット社会に入り、世界が広がった。

私は、少年の話を聞いて、インターネットの世界も、うまく利用すれば、素晴らしい世界なんだと知った。

こうして、不思議少年は、高校に復学して卒業することができた。友達も出来て、現在は料理人になる為に、専門学校で学んでいる。

先日、スーパーでお母さんとバッタリ会った。明るい笑顔で「息子が不登校だった頃の苦しみが嘘のようです」と言われた。子供は、一日一日成長し、輝ける存在だとしみじみ感じた。

きっとんとん~あれあれ普通少年になっちゃた~不思議少年おしまい(^-^)v


■第13話「世界に翔んだセニョリータ(2007.6.20~2007.07.13)全21

■第13話「世界に翔んだセニョリータ(2007.6.20~2007.07.13)全21


第一章『信じられないこと』


友達は、素晴らしい財産。幸いなことに、私には、随分年下の友達もいる。今回、主人公になるパトラちゃんは、私にとって大切な年下の友達だった。

彼女は、ツア-コンダクタ-で、今迄、53か国訪れていた。色々な国へ行くと、その国から手紙を送ってくれた。帰国すると、時々、会いに来てくれた。世界の国々の香りを届けてくれた。

「いつか、あなたを主人公にして物語を書きたいなぁ~」と言ったら「えー、楽しみだわ~」と答えてくれた。

「きっといつかは~」と思っていた。先月、友人から電話が入った。「あのう、あまり良いニュースではないの。パトラちゃんが亡くなったの」私は、自分の耳を疑った。イタリアへ行くと聞いてたから「飛行機事故なの」と思わず聞いた。

「ううん。病気でね」「病気?何の病気なの?」と尋ねると「癌みたいよ。イタリアから帰って、すぐに救急車で運ばれたそうなの。手遅れだったそうなの」と悲しそうな声だった。

「えー~癌?信じられないわ。あんなに元気だったのに~」頭が真っ白になってしまった。彼女は、独身でまだ人生はこれからだと思っていた。

これからの彼女を見てから、物語を書こうと思っていた。電話を切った後、しばらくしてから、涙が溢れてきた。


第二章『田舎の国際人』


姿勢が良くて、スラリとした美人。ヘアスタイルがあの有名なクレオパトラに似ていたので、私は「パトラちゃん」と呼んでいた。

いつ会っても、ニコニコ元気パワーでいっぱいだった。世界中に友達がいて、誰からも愛されていた。

私は、彼女に会う度「いつまでも若くはいられないんだから、いい人見つけて結婚したら?」と言った。

「うーん。たくさん男の友達はいるけれど、恋人はいないわぁ~」と答えていた。

「あなたのような素敵で魅力的な女性が、なぜなんでしょうねぇ~」と呟くと、少し照れながら「なぜなんでしょうねぇ~」と私の言葉を繰り返した。

「ツアコンは、あなたにとって、天職で、きっと仕事が恋人であり、夫なのかもしれないねぇ~」と囁いた。「そうかもねぇ~でもね。愛する人が見つかれば結婚したいとは思っているよ~」

「そうなのね、じゃあ、あなたが結婚するまで長生きしなくっちゃ!」と笑いながら言った。

田舎に生まれたのだが、考えることが、地球規模で国際人だった。こういう女性が、子供達に色々なことを話したら、多くの子供達の目がきらきら輝くに違いない。

私は、若者が集まるミニバラのイベントに参加してもらった。もちろん、彼女が日本にいる時だけだったのだが~。講演会にも参加してもらった。心良く引き受けてくれて、すぐにみんなに溶け込んで、楽しんでくれた。

誰とでもすぐに馴染んで、楽しい会話を始める天才だった。いつも「すごいなぁ」と感心していた。馴れない年頃の男の子の心もしっかり掴んでいた。何分もしないうちに、いつしか男の子も一緒になって笑っている。

パトラちゃんは、私にとっては、若者に夢を与える「微笑み天使」のように見えた。どんな闇を持った子にも、楽しむことを教えてくれた。

話術がすごくて、ポンボンポンと自然に心が弾んでくる。彼女の話を聞いているうちに、いつの間にか、未知なる世界へと誘われていった。


第三章『イギリス留学』


数十年前のことを思い出していた。子供が風邪をひいたので、かかりつけの診療所に行った。

そこで、80歳くらいのおばあちゃんに話しかけられた。「うちの孫は、イギリスに留学しているんですよ」と言われた。「すごいですね。こんな田舎から、外国なんて素晴らしいですね」と少し驚きながら答えた。

すると、おばあちゃんは、嬉しそうにいっぱい話して下さった。「もうそろそろ帰って来ると思っていたんだけど、帰国が半年先になったんですよ」と淋しそうに溜め息をついた。

「そんなに、がっかりされないで、会えるのを楽しみにされたら~すごくたくさん勉強して、きっとすごい人になられますよ。長生きしてね」と言いながら、おばあちゃんの顔を見た。

それから、おばあちゃんの「孫自慢」が始まった。先程の顔とは、全く、別人のように嬉しそうな表情となり、話が弾んだ。

おばあちゃんは、急に改まって「あんたさんは、どちらさんやったね?」と聞かれたので、名前を言った。「そうかね、孫が日本に帰って来たら、会ってやって下さい」と言われた。

「はい、是非とも~私も英会話を勉強したいので、教えてもらおうかしら?」「是非、遊びに来て下さい」と笑顔で答えられた。

ただ、診療所で話しかけられただけのことだったのに、これがご縁となったのだ。このおばあちゃんの事が、私の心に残り、更に、何年か過ぎて、パトラちゃんと出会うこととなった。

「あっ、あの時のご自慢の孫さんが、この人だったんだぁ~」と気がついた時には、びっくりした。「ご縁がある人とは、いつかは巡り合うことになっているんだ」と確信した。

きっとんとん~あっ、あの時の話の中の人?~世界に翔んだセニョリータつづく(o^-')b


第四章『出会い』


月日が流れ、私は、子供達に英語力が必要だと強く感じるようになった。その頃は、まだこの辺りには、英会話教室はなかった。

まず、私自身が英会話を勉強しようと思った。その時は、4人の息子を育てながら、会社の仕事もしていたので、近くで学びたいと考えていた。

知り合いから聞いて、先生が見つかった。今後のレッスン予定を打ち合わせに行って驚いた。

イギリスに留学していた事、おばあちゃんの事を聞いているうちに、私の記憶が蘇って来た。「あっ、あの時のおばあちゃんのお孫さん?おばあちゃんはお元気ですか?」と尋ねると「今は、天国にいます」と、パトラちゃんは、上を指差し答えた。

「まあ、そうだったの?あれから、ずいぶん経ったんだわ」「そうですね。おばあちゃんにかわいがられていました。私がイギリスへ行く時も淋しがっていました」となつかしそうに話してくれた。

「おばあちゃんと孫」って暖かい関係で、聞いていると、思わず顔が緩んできてしまう。いつの日にか私にも「こんなに可愛く想う孫が出来るのだろいか」と未来を描き、微笑んだ。

パトラちゃんは、横浜に住んでいて、ツアコンの仕事をしていた。私が中学生の頃に、憧れていた仕事だった。「いいね。私にとっては、夢の世界だわ」と羨ましがったら「いえ、いえ、体力勝負ですよ。身体も、心も強くないとやっていけれませんよ」と凛とした返事だった。

仕事の内容を聞いていたら、私のようにドジでお人好しの者には勤まる仕事ではなかった。

パトラちゃんが、実家に帰って来た時に、英会話を教えてもらうことになった。「天国のおばあちゃん、ありがとうね。あなたの可愛いお孫さんに会えましたよ。繋いでくださってありがとうございました」と心の中で御礼を言った。


第五章『日本脱出』


パトラちゃんと出会ってから、三十年くらいの月日が流れた。あっという間の速さだった。昨年の一月に、パトラちゃんから、突然、携帯に電話が入った。「ちょっとお話があるから、お邪魔したいんですが~?」「いいですよ。今、家にいるから~大丈夫よ」と答えた。

車の音がしたから、出て見ると、にこにこしながら、手を振った。パトラちゃんは「はーい、こんにちは」と元気よく挨拶してくれた。「いつ、日本に帰ったの?」「先週帰って来たのよ」と答えた。「お帰りなさい」と合図をした。

外国に長く住んでいいるので、彼女は、日本人なんだけど、どこか、異国の雰囲気がする女性になっていた。

よく笑い、陽気な女性に成長していた。色々な話を聞いていたら、おかしくなって笑ってしまった。

「お話ってなあに?」「あっ、そうそう、3月23日に上海に行かない?」と聞かれた。

「上海に?」突然のお誘いに、私は、びっくりした。「仕事ばかりは、ダメよ!病気になってしまうよ。気分転換に日本脱出よ。私が連れ出してあげるわ」と微笑んだ。


第六章『面倒をみる』


「とってもお値打ちなプランなのよ」と目を輝かせて話してくれた。パンフレットを見ながら、心は、既に上海に翔んでいた。

説明を聞きながら、子供のように胸がワクワクしてきた。外国旅行の話をしているうちに、パトラちゃんの人柄に包まれ、心が熱くなってきた。

人の面倒をよくみる女性。なかなかできないことをサラリとやって、決して恩にきせない女性。他人のことを自分のことのように思って、行動する女性。

今の日本人が、どこかに忘れてきてしまった大切な義理、人情がある。外国に住んでいても、日本人の心を忘れなかった。同性でも、年下でもほれぼれした。

凛としていて、戦うべきところは、ちゃんと戦い、堂々としている。優しさの裏側に強さ、厳しさを持っていた。

こんな素敵な女性と上海への旅ができるなんて、私にとって夢のようだった。

「いいわね。申し込みするから、もう、この期間は仕事入れちゃダメだよ。分かった!充電しに行くのよ~」「うん。わかったよ。あなたに言われたとおりにするからね」と、私は頷いた。


第七章『友達』


いよいよ、パトラちゃんと上海へ翔んだ。「よく遊び、よく働く。メリハリをつけなくちゃね」と、彼女はいつも言う。私よりうんと若いのに、色々なことを教えてくれた。

私は、若者が「友達作り」が下手なので、パトラちゃんにたくさんのことを聞きたいと思っていた。パトラちゃんには、世界中に家族ように付き合ってくれる友達がいた。

ざっくばらんでまめなパトラちゃんは、誰からも愛され、人種が変わっても全く関係なかった。

どうやって、友達になってゆくのかを旅の道中で聞きたかった。パトラちゃんは、どんどん話してくれた。

私にとっては、未来に対する財産のような旅となった。


第八章『おしゃべり』


パトラちゃんは、友達作りの天才だ。この上海旅行の楽しみのひとつは、「おしゃべり」というごちそうだった。

ミニバラにやってくる若者は、ピュアな心を持った感受性の豊かな人が、多い。友達作りの苦手な人もやって来るし、人間関係で悩む人も多い。私は、耳をダンボのようにしてパトラちゃんのおしゃべりを聞いた。録音機を持って歩いて、ホテル、バスの中、部屋の中、どこでもチャンスがあれば、インタビューした。パトラちゃんは「芸能人になった気分ね」と、どんな時も、笑顔で答えてくれた。

彼女をずっと観察していると、まず笑顔が抜群に良い事。会話が楽しくてテンポが良い。相手の気持ちになって、「大丈夫?」とか「お先にどうぞ」と言ってくれる。まめでフットワークが軽い。

誰でもが真似することはできないかもしれないが、ひとつくらいは真似してみるのも良いと思った。一日が終わってほっとして、ふと彼女を見ると、イスに腰を掛けてペンを走らせている。

「何しているの?」と聞くと「お友達に絵葉書送るの」と言いながら、あっという間に書き上げた。「何でも早いねぇ」と驚いた顔して言ったら「いやいや、大した事を書いてないから~」とにっこり!

私は「なるほど~」と納得した。30年近くのお付き合いの中で、こうして外国からのハガキや手紙が、何通届いたことだろう~。苦しい時に、パトラちゃんからのハガキを眺めた日もあった。美しい外国の風景と楽しいメッセージに心が和んだ。

メールや電話の声は消えてしまうが、ハガキや手紙はいつまでも残る。パトラちゃんからの絵葉書はアルバムに貼り、手紙は大切に箱に入れてある。私にとって、パトラちゃんの存在が、愛そのものだった。


第九章『友達になる』


おしゃべりに夢中になっていた。タクシーの中も、バスの中もおしゃべりの花が咲いた。

自由行動が多いので、どこでも行けた。パトラちゃんは、ツアコンなので、私は、個人ガイド付きのようなものだった。どこでも、行きたい所へ行く事ができた。夢のような3日間だった。

「ねぇ、ゆみちゃんとので出会いは?」と聞くと笑いながら、答えてくれた。

「成田空港の荷物の所のカウンターよ。荷物の代わりに私が乗ってね。何キロかしら?と独り言をいったの」「そうだったの」とお茶目な彼女のその時の様子を瞼に浮かべた。

「体重は何キロ?これからどこへいらっしゃるの?」「イタリアよ。あなたも?」

「そうよ。私もイタリアよ。どこかで一緒にお茶でも飲みますか?」と愛そよく、答えてくれた。

この会話がきっかけで、友達になり、イタリアでの仕事も最高に楽しいものとなった。ホテルは違っていたのだが、ベニスで待ち合わせて、ショッピングを楽しんだ。


第十章『シドニーへお誘い』


パトラちゃんとゆみちゃんは、ちょっとしたきっかけで、友達になった。

ホテルは、違っていたが、観光コースが同じになったこともあった。

「ねぇ、ゆみちゃん、フィレンチェで一緒にお買い物しようよ。すごくいいお店知っているよ。」とにっこりしながら、話しかけた。

「OK。楽しみにしてるわ。自由行動があるからその時ね」とはじけるような笑顔で、手を振った。

二人は、ショッピングを楽しみながら、お互いに日本では味わえない解放感を感じた。ゆみちゃんは楽しくてたまらなかった。

「パトラちゃん、日本に帰ったら、シドニーに遊びにきてね。私たちには、子供がいないから、いつでもいいよ」と言った。パトラちゃんは、「じゃあ、行くわね。また、連絡するね」と、嬉しそうに答えた。ゆみちゃんは、ご主人と一緒に、シドニーに住んでいたのだった。


第十一章『愉快な仲間達』


パトラちゃんは、ゆみちゃんと出会ったばかりなのに、意気投合してしまった。ゆみちゃんは「必ず遊びに来てね」と言って、住所を手渡してくれた。

それから、3ヶ月後、オーストラリアで世界会議があったので、約束が果たせる時がきた。ゆみちゃんが住んでいるシドニーに向かって、飛行機が飛び立った。

ゆみちゃんの自宅に着いて、二人が再会した。ゆみちゃんも、ご主人も大喜び。歓迎パーティには、御主人の友達も参加してくれた。ホテルの支配人をしている人が「二人とも仲良しだけどお付き合いして何年になるんですか?」と聞いた。

二人はお互いに顔を見合わせ、「クスッ」と笑った。「まだ、三ヶ月よ」と、答えた。色々な人と話しているうちに、支配人と気が合い、おしゃべりに花が咲いた。パトラちゃんは、この地球で誰とでもおしゃべりできる妖精のようだった。


第十二章『家族』


オーストラリアのシドニーで家族のように歓迎され、また新しい友達も増えた。帰ろうとすると「もう帰るの?もっといればいいよ」とみんなが言ってくれた。

「もう、そろそろ仕事しないといけないわ」となごりおしいと思いながらも、帰国の準備をしていた。ゆみちゃんが「パトラちゃん、お願いがあるの。私一人娘なの。東京で一人暮ししている母が心配なの。今度は、東京に遊びに来てね。きっと、母は、あなたのこと大好きになると思うわ」

「そうなの。ゆみちゃんは、お母さんの介護で東京とシドニーを行ったり来たりしているの?」と聞いた。「そうよ。主人の仕事でまだ数年、こちらにいないといけないの」と寂しそうな顔をした。

「そんな顔しないで!私が、時々お母さんの所へ遊びに行くから~」と、パトラちゃんは、ゆみちゃんの肩をポンと軽く叩いた。ゆみちゃんは、パトラちゃんに優しい言葉をかけられて、涙ぐんだ。

夫を早く亡くしたゆみちゃんの母は、妹と一緒に東京で暮していた。しかし、妹の方が先に天国に行ってしまった。

母の姉は、アメリカのマイアミに住んでいるのが、高齢になり、帰国出来なくなってしまった。そして、一人娘は、オーストラリアへ~。

ついに、母は、日本で一人ぼっちになってしまった!ゆみちゃんは、そんな母が心配でたまらなかった。


第十三章『ベンツばあちゃん』


ゆみちゃんのお母さんに会う事を約束して、オーストラリアから帰国した。数日後、ゆみちゃんから電話が入った。

「何だか、賑やかね」と羨ましそうな声だった。「そうよ。両親、姉、義兄、姪、甥もいるわ」と答えた。「いいね。うちは、ママと二人っきりよ。パトラちゃん遊びにきてくれない?」と誘われた。

ゆみちゃんは、母にパトラちゃんのことをいつも話していたようだ。鎌倉の実家に遊びに行った時、ゆみちゃんのお母さんが「あっ、パトラちゃんだ、パトラちゃんだわ!」と言いながら、駆け寄って来て、パトラちゃんを抱き締めた。

80歳には見えなくて、美しい奥様という感じだった。パトラちゃんは「ママはいつも何やっているの?」と聞いた。「ピアノを弾いたり、お庭のお手入れよ。たまには、車にのって病院よ」

ベンツに乗って病院へお出かけ?一人暮らしのおばあちゃんが、出かける所は、病院だけだった。


第十四章『食事』


ゆみちゃんのお母さんは「賑やかっていいわね」と呟いた。「いつも、ひとりぼっちだから、あまりお食事が進まないのよ。さあ、今日は、パトラちゃんの為にロブスターも蟹も買ってあるわ」と弾んだ声で話した。

「そうだわ。税理士の岡先生もお呼びしようかしら?彼も、パトラちゃんに会いたがっていたから~いいかしら?」とパトラちゃんの方をみた。

「もちろん~いいわよ」と答えた。すぐに電話した。彼は、エプロンを持ってきて「よぉ!久しぶりだな~」と言って、キッチンに入って、大きなロブスターを持ち上げた。にこにこしながら、みんなで料理をした。

ゆみちゃんのお母さんは、この賑やかさを満喫し楽しんでいた。

「ママ、すごいね。こんなにたくさんいただけたの。いつもは、ほんのちょっとしかいただけないのにねぇ」ゆみちゃんはお母さんが、おいしそうに食事をしている様子を見て、幸せを感じていた。

パトラちゃんが、ここにいるだけで、みんなが元気になり、笑い声が家中にこだました。楽しい団欒のひとときだった。

ゆみちゃんの父が亡くなってから、父方の親戚も疎遠になり、寂しい毎日が続いていた。

ゆみちゃんは「ママ、パトラちゃんのお陰で、この家にも、賑やかな笑い声が聞こえたね。幸せね」と嬉しそうに話しかけた。「本当にそうだね。大勢でお食事できるって最高の幸せね」とぽつんと一言。

「パトラちゃん、ありがとう。最高の親孝行ができたわ」と言った。パトラちゃんは「親しい人とお食事が出来てご馳走もいっぱい、おしゃべりも最高のご馳走だったわ」と笑顔で答えた。

「パトラちゃん、また来てね。待ってるから~」とみんなに見送られた。


第十五章『世界的カウンセラー』


パトラちゃんと三泊四日の上海旅行で、彼女がツアコンをやりながら、いかに世界的なカウンセラーだったかを知った。

そして、ずっと寝食を共にしていると、彼女の人間性の高さに驚いた。

30年近くのお付き合いの中で、一度だけ彼女から相談を受けたことがあった。およそ、10年くらい前の事だった。エジプトでテロ事件が起きて、ツアコンダクターが殺された時だった。

ちょうど、私がエジプトから帰って来てから、事件が起きた。その頃、パトラちゃんは、エジプトの仕事が多かった。

「お話したいことがあるの。時間作ってもらえるかしら?」という電話が入った。パトラちゃんは、私にとって、とても大切な存在だ!

「もちろんよ。じゃあ、一緒にお食事しましょう」と言って、近くのレストランで待ち合わせた。いつもと違って、心配そうな顔をしていた。

「どうしたの?元気ないね。何か心配ごとでもあるの?」と聞くと「仕事が激減したの。このままだと、生活が不安なの」と呟いた。「そうね。確かにテロ事件の為に、海外旅行する人が減ったわね。でも、この状態がいつまでも続かないし、しばらくすれば、またエジプトツアーにも行けるようになるよ」と答えた。

「そしてね。もし、仕事が無くなったら、ミニバラの活動を手伝ってよ。夢が持てない若者が多いから、話を聞いてやってね。不登校、自傷行為をする子、いじめにあっている子、自殺未遂を繰返す子、他にも苦しんでいる若者がいっぱいいるの。助けるのを手伝ってよ」と私は、彼女の目を見て、真剣に懇願した。

「貴女は、英語も、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、日本語、いっぱい出来ることがあるの。そして、53か国の国を訪れた体験という財産があるのよ。まだあるわ。あなたは、世界中にお友達がいるわ。あなたにできることは、たくさんの人の心に愛と夢と希望を与えることよ」

パトラちゃんの心配事を聞いてから、彼女の素晴らしさを、感じるまま話した。お世辞をいう訳ではなく、ありのままの私の気持ちを伝えた。

パトラちゃんの目が、どんどん輝き、自信を取り戻してゆくのが、手に取るように分かった。彼女には、もうひとつの不安があった。

「私は、結婚していないから、仕事が無くなると、実家に迷惑かけることになるわ。」と言った。私は、笑いながら「何言ってるの。家族だもん、迷惑なんて思う訳ないじゃん。あなたは、世界に翔んで行ってしまうから、神様がちょっと休みなさいと、仕事を減らしたのよ。お父さん、お母さん、義兄さん、お姉さんにうんと甘えたらいいよ」

安心したのか、やっとパトラちゃんが笑い出した。


第十六章『実行力』


テロ事件が続いたので、パトラちゃんのツアコンの仕事が減り続けた。私と話してから、「時間が出来た時、ミニバラの活動お手伝いするわ」と言ってくれた。

「じゃあ、まず私に英会話と世界の教育状況を話してね。あなたのおしゃべりは、生で旬だから新鮮で楽しいからねぇ~」と頼んだ。「お安いご用ね。その他に何をやったらいいの?」

「あのね。あなたは美人でスタイルもいいし、トークも面白いから、講演会に出演してね。それから、イベントにも参加して、みんなと一緒に食事の準備をしたり、歌ったり、踊ったり、おしゃべりしたりするの。」

「えっ、おもしろそうね。私が、舞台に出るの?」と驚いた顔をして聞いた。 「もちろんそうだよ。大丈夫よ。リハーサルするからね」と今までの活動内容を説明した。

「長い間、おつきあいしてきたけど、詳しいことは知らなかったわ。すごい興味がある分野だわ。」と好奇心いっぱいだった。

初めての舞台のお客様は、1000人くらいだった。体験談を話してもらうことにした。彼女が、緊張気味だったので、私は、出番の前に背中を擦って「すべてはうまくいっている。きっとんとん」と言った。

初めての出演者には、必ずやるようにしている。「わぁ、気持ちいいな。落ち着いたわ」とにっこり!

初めての舞台を見事にこなしてくれて、大成功だった。他のスタッフとも仲良くなって、ひとつの輪ができた。「すごく緊張したけど、楽しかったわ」と興奮して話してくれた。彼女は、実行力のある素晴らしい女性だった。


第十七章『外国の家族』


月日が流れ、世界が少しづつ、落ち着きを取り戻していった。パトラちゃんの仕事もだんだん増えてきた。ミニバラの活動に参加しながらも、世界へ翔んだ。

ブラジルの家族も、彼女が遊びに来るのを待っていた。首を長くして、マーラ一家が待っていた。パトラちゃんは、英語、イタリア語、フランス語が話せた。それでも足りないと、ドイツに留学して、ドイツ語を学んだ。

その時、友達になったのがマーラだった。ブラジルの女の子で、銀行で働いてお金を貯め、ドイツ語を学びに来ていた。

すぐに、仲良くなって、一緒に勉強した。パトラちゃんは、ブラジルが大好きで、マーラちゃんちへよく遊びに行った。

お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さんとカイユ君がいつも待っていた。その当時、5歳だったカイユ君が今では大学生になっている。パトラちゃんが毎回ブラジルに訪れる時は、三か月滞在し、家族と一緒に生活をする。

マーラのお母さんが「パトラ、この上に建て増しして、あなたの部屋を作るから、ブラジルに来なさい。一緒に暮らそうよ」といつも言ってくれていた。

90日が過ぎて、日本に帰ろうとすると、みんなが「もっといて、もっといて~」と泣き出した。特に、カイユ君が大泣きをする。パトラちゃんが大好きなのだ。

「カイユ…!男の子だから泣かないでね。もう、大学生になったんだから、うちに遊びにおいでよ。約束だよ」と言うと、「うん。分かったよ。来年、日本に行くよ。ママ行っていい?」と聞いた。

「もちろんよ。パトラちゃん、カイユを頼むわよ」とウインクをした。 「OK。カイユ、日本で待ってるよ」と大きく手を振って別れた。

カイユくんは、今年の夏休みに、パトラちゃんに会いに、日本に来ることになっている。パトラちゃんが、今年、5月8日癌で亡くなったことをまだ知らない。マーラの家族も、誰も知らない。住所がわからなくて、連絡がとれないのだ。急病だったので、世界中の友達がまだ誰も知らない。

ツアコン仲間が、飛行機に乗って、パトラちゃんの外国の友達の住所を調べている最中だ。まずは、イタリアの友達、外国に住んでいる日本人の友人からのメッセージが届いた。


第十八章『コーヒーカップはどこに?』


私は、時々、パトラちゃんは「人間の領域を超えている女性だ」と思うことがあった。すべては、自然体で全然いばらない。

「私は特別だ」という意識も全くない。困っている人がいると、手をさしのべ、サラリと助けてくれる。そして、その時、助けたこともサラリと忘れてしまう。「あの時、助けてもらってありがとう」と言っても「えっ、そんな事あったっけ?」と言う。「過去のことは、もう忘れちゃったわ」とにっこり笑っておしまい~!

フットワークが軽くて、有言実行のタイプだった。「いいよ、わかった!やってみるよ」と言ったことは必ずやってくれて、解決してゆく。行動力は、女性を超えて男性的だった。相手と交渉する時は笑顔だけど、凛として、正しいと思ったことは一歩も引かない。だがいつも、交渉は成立させる。彼女には、摩訶不思議な力があるような気がしていた。

今から、数年前のことだった。私の親友が大変困っていた。娘さんが、フランスのニースに留学していたので、夫婦でフランスに出かけた。その時に、イタリアのフィレンツェに寄って「ジノリのコーヒーカップ」を注文した。「船便で3ヶ月以内に届きますよ」と店の人が説明してくれたので、喫茶店のオープンに間に合うはずだった。

ところが、半年過ぎても届かない。友人は困って、私に話してくれた。パトラちゃんが、丁度、イタリアのペルージアに住んでいた。私は、すぐに電話してみた。彼女は、イタリア語を勉強する為に、大学に行っていたので、なかなかつながらなかった。彼女のお姉さんに、事情を説明して、ファックスで連絡をとってもらうことになった。

お姉さんも、とてもきれいな方で、親切だった。長い間のお付き合いの中で、私の活動にも理解があった。家が自営業なので、ご主人もお父さん、お母さんも知っていた。

お姉さんから、電話が入った。「心配しないでね。妹がそこのお店のオーナーに話をつけてくれるそうよ」と言われた。友人も私も大喜び!そのコーヒーカップはお気に入りだったし、とても高価なものだった。

長い間、届かなかったコーヒーカップが、やっと友人の手元に届いた。ゆっくりと、船に乗って、日本に上陸した。

パトラちゃんの強い想いと愛の力で、イタリアからはるばる海を越えて、コーヒーカップがやってきた。今でも、友人の喫茶店でコーヒーカップが光を放っている。


第十九章『芸術品』


上海の旅で、飛行機の中、バスの中、ホテルとパトラちゃんのインタビューを続けていた。

ツアコンダクタ-の仕事の話、家族、友人、楽しかった思い出、これからの未来の話と次々に、おしゃべりが続くのだった。

スリランカの友人が,私に「僕の国は、貧しくて食べ物はみんなで分け合って食べるけど、おしゃべりというご馳走があるんだ」と言っていた。アベラトネのことばを思い出しながら彼女のおしゃべりを楽しんでいた。パトラちゃんと一緒にいると退屈することがない。

「あなたは、忙しいけど、ちゃんと遊ばないとだめだよ。地中海も見せたいし、イタリアのおいしいお店も連れて行きたいわ。ご主人が定年になったら、二人を世界中に連れて行ってあげるわ。もうすぐね。」私は、「うん、楽しみね」とにっこり頷いた。

上海の美術館に、たくさんの芸術品が展示してあった。学芸員が流暢な日本語で芸術品の説明を始めた。私は、ある芸術品の前で立ち止まり、釘付けになってしまった。他の人達は、サッと通り過ぎて、休憩所で中国茶を飲んでいる。

パトラちゃんが心配して「どうしたの?」と聞いてくれた。「あまりに素晴らしい芸術品なので感動して動けないの」と震える声で答えた。

「良いものに感動するって素晴らしいことよ!」と一緒に感動を味わった。呆然としている二人を見て、学芸員が近付いて来た。

「どうかされましたか?」と尋ねた。私は「あまりに素晴らしいので、ここから動けなくなりました」と答えると「そうですか~。この期間だけですが、この芸術品は、中国政府から許可が出ています」「えっ、どういう意味ですか?」と私は、驚いて聞き返した。「北京の万博の宣伝の為に、世界から訪れた人に譲っても良いと許可されたのです」と詳しく説明された。

「譲ってもらったら?この芸術品は、本物だから大丈夫よ。あなたは、みんなのドロドロした悩みをたくさん聞いてあげるんだから、こういう美しい芸術といつも触れていたほうがいいよ。私は、たくさんの国々を訪れているけど、これは素晴らしい芸術品よ」と熱心に話してくれた。

「でも、そんなにお金持ってないわ」とパトラちゃんに、財布を開いて見せた。笑いながら「あるじゃないの。ほらここよ」と一枚のカードを出した。


第二十章『カードで買い物』


上海旅行は、信じられないくらい格安だった。ホテルも良くて、食事もおいしくて、全部込みで三万二千円。パトラちゃんのお陰と感謝した。

「ほら、このお財布にゴールドカードが入っているよ」と、にこにこしながら差し出した。「でも、そのカードは私のではないわ。そのカードにサインすると、主人の通帳から落ちるの」と答えた。

「まあ、なんてラッキ-なんでしょう。ミニバラ研究所にしてから、10年って言ったでしょ!ご主人からのお祝いとしていただいちゃったら?」と笑いながら、言ってくれた。

「あなたの発想はすごいねぇ~。そんなこと思い付かなかったわ」

「人生楽しまなくっちゃ!こんなチャンスもう来ないよ。この芸術品との出会いを大切にしたらいいんじゃないの」と興奮しながら語った。

「でもねぇ、主人の趣味ではないしねぇ~。叱られそうだわ」と言いながら、迷っていた。

「大丈夫よ。叱られそうになったら、応援してあげるからね」と私の耳元に囁いた。

「じゃあ!人生悔いなしで行こう」と決心した。このカードで初めてサインをした。「やったー!」ふたりはVサインをした。無事、上海旅行を終えて帰国した。主人が駅まで迎えに来てくれた。「お帰り!寿司でも食べに行くか?女房の面倒をみてくれてありがとう」とパトラちゃんにお礼を言った。

お寿司屋さんについて、注文をした。パトラちゃんが、私に肘でつついて合図をした。「あのう…」と言いかけたら、主人が「変な物を買ったんじゃあないのか?」「えっ、どうしてわかるの?」と私は驚いた。「何かあったらいかんと思って、カードを渡したんだけど~」と首を傾げた。「芸術品買っちゃった!」と正直に言った。「馬鹿だなぁ~そんなもの偽物さ!」と強い口調で言った。私は動揺していた。

すると、パトラちゃんは、はっきりと「あれは、本物よ!いろいろな国で美しい芸術品を見て来たけど、光沢が本物よ。大丈夫!信じていいわ」と主人に詳しく説明してくれた。「よし、分かった!よかったな。良い芸術品に出会えて~。じゃあ、お帰り!乾杯」と言った。

一件落着!パトラちゃん、ありがとう。主人の寛大な心にありがとう。また、頑張る決意をした。


第二十一章『プロの仕事』


パトラちゃんは、家族や親戚、友人を世界へと連れ出した。海外旅行が苦手な人でも、彼女なら安心してついて行ける。親切で勉強家なので、何でも聞けば、優しく教えてもらえるからだ。

だから、リピーターが多い。今年の4月にも、人気のイタリア旅行にお客様を連れて行った。イタリアにも住んでいたので、イタリア語も流暢だ。

今回も、大好きなイタリアへ行けれる彼女は、元気よく飛行機で翔んだ。

ところが、日程が進むにつれてお腹が痛くて、激痛が走るようになった。今まで、健康であまり病気になったことがない。

どんなに痛くても、プロ意識が強いので、お客様の前では、にこにこしながら、案内して行った。

ホテルについて、自由時間の時に急いで病院にかけこんだ。すると、医師は「このまま入院して下さい。腫瘍があるかもしれません」と説明された。

「えっ、それは困ります。まだ仕事の途中です。どうか、痛み止めを下さい」と懇願した。「その身体では日本に帰るのは、無理ですよ」と心配そうな顔で、医師は語った。

「お客様を全員無事に日本に帰さなければなりません。それが私の仕事です」「うーん」としばらく考え込んだ。そして「よくわかりました。痛み止めを出しましょう」

痛み止めの薬を飲みながら、全員無事に日本に帰れた。お客様にねぎらいの言葉をかけて、仕事を見事にやり終えた。

「お姉さん、お腹が痛くて、早く歩けなかった。ごめんなさい。新幹線に乗り遅れたわ」「電車も一本遅れてしまったの、ごめんなさい」次々に入ってくるメールがおかしい。いつもの妹ではない!お姉さんとお母さんは胸騒ぎがした。急いで駅まで迎えにいく事にした。妹の事が心配で、握っているハンドルに冷や汗がにじんできた。

やっと見つけた妹の顔は蒼白!倒れ込むようにして車の中に入った。お母さんは娘の背中を擦り続けた。自宅についても、ただごとではない。すぐに救急車を呼んだ。その時、既に深夜になっていた。

病院に入院して、二週間後に、パトラちゃんは、永遠の眠りについた。岐阜から、世界に翔んで、みんなに幸せを運んだ風のセニョリータ~私も世界中にいるあなたの友達も、そしてあなたがもっとも愛した家族も、あなたのことは決して忘れない。ありがとう、パトラちゃん、ゆっくり休んでね。

きっとんとん~永遠に心の中で生きているわ~世界に翔んだセニョリータおしまい。最後まで読んで下さってありがとうございました。


■第14話「ちーママ奮闘記(2007.7.15~2007.7.26)全12章」

■第14話「ちーママ奮闘記(2007.7.15~2007.7.26)全12


第一章『初めての赤ちゃん』


山に囲まれ、周りは自然がいっぱいの広い敷地の真ん中に、大きな家が一軒建っている。同じ敷地内に、おばあちゃんの住んでいる家も、建っていた。

2軒の家がスープの冷めない距離にあった。このような雄大な自然に包まれて、家庭のドラマが始まった。

この大きな家に、初めての長男が誕生した。家族も親戚も大喜びだった。「なんてかわいい顔をしているんでしょう!」「賢そうな顔だねぇ」誰もが、初めての赤ちゃんに感動しながら、じっと赤ちゃんを覗き込んだ。

ちーママも、みんなにそう言われて、誇らしげだった。赤ちゃんは、よし君と呼ばれて、みんなから可愛がられた。言葉を覚えるのも早く、一歳三か月で「じいちゃん」とはっきり言えるようになった。

じいちゃんの顔は、一瞬でほころび「おーおー、これでこの家の跡取りもできた!でかしたぞ~」と一人で、手を叩いて喜んだ。今は、天国だが、この頃は、まだ元気なじいちゃんだった。

ちーママは、育児に真剣だった。ベビーマッサージ、日光浴、絵本も毎日のように読み聞かせた。

積み木も上手に出来るようになり、新しい言葉を覚えると、それを上手に使い、周りを驚かせた。

若いパパとママは「うちの子は、天才だ」と思い込んだ。おじいちゃんもおばあちゃんも「さすがうちの孫じゃ」と喜んだ。

幼稚園も小学校も順調に進み、選手リレーに選ばれたり、応援団でも大活躍した。勉強もよく出来て、ほとんど100点だった。

パパも、ママも「なかなかやるねぇ~」と文武両道の長男に大きな期待をかけた。

その間に、弟と妹が生まれていた。ママは、どうしても、長男に期待をし、力を入れ込んだ。

ところが、中学に入学したよし君は、次々に事件に巻き込まれ、ママを泣かすことになった。


第二章『先生不信』


よし君は、両親の期待を背負いながらも、スクスク育っていった。

ところが、中学校に入学して間もない頃、いじめ事件が起きた。担任の先生が「これから、用紙を配りますので、本当のことを書いて下さい」と言いながら、話が続いた。

「A君がとか、B君とかが、◯◯◯しました。ではなくて、ちゃんと実名を入れて、本当にあったことを、そのまま書きなさい」と、大きな声で言った。

先生の話を聞いて、クラス全体がざわめいた。ひそひそ話も始まった。先生は、だんだん感情的になって「この学年は、どうなってるんだ。静かにしなさい。早く書け!」と怒鳴った。

楽しかった小学校生活とは、全く雰囲気が違っていた。よし君は、家でお父さんに、大声で怒鳴られたことがないので、びっくりした。

「書けた人から持って来なさい」と言われたので、出来た生徒から先生に渡した。「これは、決して、公表しない」と言われたので、みんなほっとした。

翌々日、信じられないことが起きた。何と生徒達が書いた作文が実名入りのまま、コピーされ、保護者に渡されたのだ!あれだけ「公表しないから~」と先生は言ったのに~。

生徒達は、先生不信に襲われた。「もう、先生なんか信じるものか」と心が、打ち砕かれたのだった。


第三章『ゴミ箱』


中学一年のよし君のクラスは、大揺れだった。 生徒も、保護者も火山が爆発したように、驚き、地震のように、揺れた。

職員室は、抗議の電話の応対に追われた。よし君のお母さんにも、同じクラスの保護者から電話が入った。

「もしもし、担任の先生からの通信読んだ?」「えっ、知らないわ!何かあったの?」と聞いた。「今ねぇ、いじめ事件で、クラスが大変なのよ」と興奮しながら、話し始めた。

「よし君も、先生から親に渡すように言われて、通信をもらっているはずよ」「どんなことが書かれていたの?」とドキドキしながら聞いた。

ちーママは、自分の耳を疑った。「実はね、あんたんちのよし君の名前も書かれているよ!」 「うちの子が?まさか~」と血の気が引いてゆくのを感じた。

電話が切れたので、すぐに長男の部屋へ走った。もう中学生になったんだからと思い、目を離していたのかもしれない。

パートで働いていて、毎日が、時間との戦いだった。息子は学校へ行っているので、今はいない。部屋中探し回った。通信はどこにもなかった。あきらめかけたその時、目の前にゴミ箱が~!「あっ!まさか~」クシャクシャにして、通信がゴミ箱に捨てられていた。ちーママは、ゴミ箱の中から、通信を取り出し、震える手で開いた。


第四章『反抗期』


ゴミ箱から、取り出した通信を読みながら、顔は青ざめ、頭はカッカとしてきた。確かに電話のとおり、よし君の名前も書かかれていた。

「あんなにかわいがって一生懸命育ててきたのに~どうして?みんなに良い子だと言われてきたのに~どうして?」色々な想いが頭を駆け巡り、いつしか涙がポトポト落ちて来た。

長男が、学校から帰ってくるのを待ち構えていた。「ただいま!腹減った。何か食い物ある?」と冷蔵庫を開けようとした。

ちーママは、答えようともせず、イライラしながら「ちょっと来なさい!聞きたいことがあるから~」と怒りながら言った。

よし君は「何だかいつもと様子が違う」と思いながら「やばいな」と心の中で思っていた。「そこに座りなさい!」学校から帰ったばかりで、クタクタのよし君はふて腐れた顔で、母親を睨み付けた。

「何ていう顔をしているの。学校からの通信をゴミ箱に捨ててどういうつもりなの?」と、怒りながら、強い口調で話した。

よし君は、何を聞いても黙っていた。そのうちに、キィキィ声で切れている自分が情けなくなり、シクシク泣き出した。その様子を見て、「ごめん…」とポツリと謝った。その言葉を聞いて、ちーままは「ワー!」と泣き出した。こうして、よし君の反抗期が始まった。


第五章『先生不信』


いじめ事件の真相は、詳しくわからないままだった。学校から、親の呼び出しはなかったので、よし君は、いじめグループではなかったようだ。

名前が書かれたのは、事実だったので、「もう、こういうことは、しないで!」と注意をした。何も言わず「うん」とたった一言呟いた。

ただ、よし君の心に、担任に対する不信感が芽生えた。「名前は、公表しないから」という約束が破られたことが、心に残った。

中学2年生の時にも、「先生不信」に陥った。体育の若い先生による「盗撮事件」が起きたのだ。思春期を迎え、デリケートな成長期に信じられないことが起きた。

女子の更衣室に盗撮する為のカメラが見つかった。何と、この中学校の新婚の男性教師が、警察につかまった。

新聞にも出て、その教師は、懲戒免職となった。学校も生徒も保護者も騒然となった。

またもや、「教師不信」となってしまった。

中学校に入学して、頑張ってゆくだろうと思っていたのだが、次々に色々な事件が降りかかって来た。ちーママは、心穏やかに過ごせる日がなくなってきた。


第六章『荒れる学年』


「先生を信用してたのに、何や、先生俺たちを裏切って!」色々なことが重なって、生徒達の先生に対する不信感がつのっていった。

だんだん雰囲気が悪くなり、学年全体が荒れ出した。

ある生徒が、学校へスタンガンを持って来て、ある子をターゲットにグループを組んで、いじめた。その子に水をかけ、その上、スタンガンで電気ショックを与えた。

学年主任の先生は、「この学年は大変です。次々問題を起こします」と頭を抱えて、保護者に話した。

「大変だ、大変だ。困った、困った~」と責任ある先生から、呟かれたので、それを聞いた保護者に「大変病」が伝染してしまった。

家に帰った母親が「うちの子の学年は、大変らしいわ。うちの子大丈夫かしら?」と父親に話す。

詳しい状況を知らない父親は、母親の口を通して学校の様子を知る。両親の会話を聞いていた子供は、更に学校不信で、心を痛めた。

母親から聞いた話を鵜呑みにして、短気な父親は、学校へ電話をする。更に先生は、「この学年の親は大変だ」と思い込み、悪循環した。

先生と生徒、生徒と親、親と先生、それぞれ信頼することができなくて、混乱した。よし君も、中学生活は楽しいはずだったのに、肝心の勉強にも身が入らなくなってしまった。部活にも、勉強にも集中出来なくなって、結局、ゲームに夢中になってしまった。


第七章『姑と小姑』


ちーママの涙には、長男のことの他にもあった。途中同居だった為、ライフスタイルの違いによって起きるさまざまな嫁姑のトラブルが起きていた。三人の子供達も、転校でそれぞれがストレスを感じていた。

舅が、入院中は、主人の姉も妹も協力してくれていた。ところが、舅が亡くなってから、色々な問題が起きた。姑が転んで肘を怪我した時のこと。パパが病院に送ってゆこうと準備をしていたのに、姑はすぐに娘に電話をして、病院へ行ってしまった。

同じ敷地内に住んでいるのに、姑の行動に、ちーママとパパは「どういうつもりなんだろう?」と、首をひねった。車で5分くらいの所に、義妹が住んでいるので、すぐに駆け付ける。そして、毎日のようにやって来る。離れに姑がいるので、本宅の方に「こんにちは」の挨拶もない。小姑の車が止まっていると、何故だか、ちーママの心が重くなり、沈んでいった。

姪が、2泊三日で泊まりに来た時も、何の挨拶もない。ちーママは、堪り兼ねて、姑に言った。「どうして、こんにちはとか、おじゃましますとか、ゆかちゃんは、挨拶に来ないんですか?高校生ですよ。」と聞いた。

姑は「親の躾が悪いんやわ」と答えた。「親の親はあなたでしょう!あなたが教えることよ」と心の中で叫んだが、その時は、何も言えなかった。

そのことを仕事から帰って来たパパに言った。

「お前の気持ちはわかった。僕からおふくろに話すから~」と言われたのでスッーとした。


第八章『自分が変わる』


ちーママは、思うようにいかないことばかりだと感じた。

パパに話すと、その時は、味方になってくれたような気がして嬉しいのだが、結局は、母親や妹の肩を持っている。

「まあ、そんなこと言うなよ~話しておくから~」と言うのだが、なかなかうまく話せない。

自分がシクシク泣いていては、3人の子供をちゃんと育ててゆけない。

次男ゆう君も、引っ越しによる精神的ストレスがかかって、自家中毒になってしまった。小学校に入学して、厳しい担任に当たり、体調を崩して学校を休んだ。一番下の妹のももちゃんも、引っ越しで幼稚園が遠くなってしまった。

幼稚園バスが、迎えに来てくれるので、そのまま変わらないことにした。だが、家から毎日、1時間くらいバスに揺られて登園することになってしまった。そのバスの中で、いじめられていた。担任の先生と相談をして、引っ越し先近くの幼稚園に変わった。

ちーママも、三人の子供達も、毎日、クタクタになってしまった。ちーママは、環境の変化と同時に、自分自身も変わらないと、やっていけないことに気付いた。

そして、決心をした。「運命は、自分が切り開こう。シクシク泣くのではなく、強くなろう!」と。


第九章『行動する』


ちーママは、行動することにした。同居することになった実家は、山と川に囲まれた田舎だった。

若い頃に、東京に住んでいたこともあって、思ったことは、ちゃんと言える方だった。

結婚して同居してからは、我慢して言いたいことも言えなくなって、涙もろくなっていた。そんな自分を反省した。

学校に対して、意見があっても、発言する人は少なかった。そこで、PTA役員を引き受け、地域の中にも積極的に入って、自分自身の友達も探した。役員をやっていく中で、だんだん親しい友人も出来た。そして、先生ともコミュニケーション取れるようになってきた。

ある友人から、ミニバラのことを聞いて、コラージュセラピーに興味を持った。

そして、家族全員でミニバラと関わることになったのだ。この時は、長男の受験問題、父親と息子の関係、嫁姑問題で頭がいっぱいの時だった。

コラージュ作品が早く出来た父親と中3の息子が外で、バスケットを一緒にやり始めた。

部屋から、その様子を目にしたちーママは、ハンカチで涙をそっと拭いた。「どうしたの?」と私が尋ねると「ゲームばっかりやって、ちっとも勉強やらない長男に、パパから注意してもらったんです。それから、息子が、父親と話さなくなってしまったの。こうして、一緒に遊ぶ姿を見るのは、何年ぶりでしょう~」「そうでしたか?うれし涙なんですね」と、私ももらい泣きしそうになった。


第十章『笑顔』


バスケットボールを父親と一緒にやったり、家族と一緒にコラージュをやったりしたことによって少しづつ笑顔が戻った。

外を見つめていたちーママも、涙を拭いて笑顔に変わった。この頃から、家庭が明るくなって来た。

母親として、愚痴ばかり言っていないで、思った通り行動してみようと決めた。

まず始めたのは、掃除だった。朝早く起きて、バス停とよし君が行きたいと思っている高校の門の前を掃除することにした。

朝4時に起きて、毎日続けた。冬は真っ暗なので、怖いから小6のゆう君を連れて行った。

「ゆう君、起きて!」と言うと、パッと起きて、服に着替えて車に乗った。車が走りだしとまた眠ってしまう。でも、ゆう君がいてくれたので、バス停と高校の周りを掃除出来た。

「よし君の為に、子供の為に」と頑張った。夜が明ける前から、頑張った。掃除をした後は、気持ちが良くて、心が落ち着いた。

お母さんの心が落ち着いてきたら、友達も増えて来た。姑や小姑にも、言うべきことは、きちんと伝えるようにした。姪も、おばあちゃんの所に遊びに来た時には、ちゃんと挨拶にくるようになってきた。


第十一章『変身』


中学3年生のよし君は、受験生なのに、なかなかゲームを卒業できなかった。ガミガミ言えば言うほど反抗してくる。イライラすると、壁に怒りをぶつけた。弟と妹がビクビクしていた。

ちーママは、自分が変身しなければならないことに、気付いた。まず、夫婦仲良くしようと思った。イライラして、パパに当たったり、嫁姑問題の愚痴も言った。

三人の子供をちゃんと成人させるには、夫婦が二人三脚で協力していかなければうまくいかないことに気付いたのだった。

ある朝のこと。超まじめなパパが、朝食のパンの耳をハートの形にして、ちーママのお皿にポンと乗せた。突然のことだったので、ちーママは「なあに?」と言ってお皿をみた。パンの耳ハートを見て、目が点になり、びっくりした。

でも、嬉しくて思わずにっこりして、パパの方を見た。お互いに目が合って、にっこり!

その様子をじっと見ていたよし君が、照れくさそうににっこり。ゆうくんも、ももちゃんもにこにこ顔になった。

シクシク、ガミガミちーママが変身して、にこにこママになった。イライラ家族がにっこり家族に変身した。


第十二章『戯れ合う』


よし君は、ゲームをやりながらも、高校進学のことが気になってきた。二学期に入り、具体的に決めなければならない。マイペースな彼も、少しあせりを感じながらも、母親に言われるとむかついた。

猛勉強までは、できないけれど、それなりにやるようになった。そして、将来のことを考えて、父親の母校に決めた。

パパは、喜んでいた。家庭の中が落ち着いてきた。よし君は、見事、希望校に合格した。家族にとって、初めての高校受験だったので、喜びに満ち溢れた。特に、ちーママは、色々なことを思い出して、胸がいっぱいになった。

今、まだ子育て進行中だが、三人とも大きく成長してくれた。長男よし君は、大学生となり、就職活動中。次男も希望高校に進学し、今年は、大学受験の為に毎日、猛勉強している。末っ子ももちゃんは、中学三年生で、高校受験の為に、塾に通っている。

ちーママも、三人の子供達のこれからの学費の為に、仕事を変えて、以前より、長く働いている。

毎日、姑のところに来ている小姑のことが、気にならなくなってきた。彼女の車が止まっていても、腹が立たなくて「姑の世話をしてもらってありがとう」という気持ちに変化した。

パパが、次男の毎日の塾通いを手伝ってくれるようになった。仕事から帰ってくると「さあ、行くぞ~」と言って車で送ってゆく。

パパは、朝5時45分に起きてパソコンチェック。6時に朝食、その後、一休みしてから会社へ行く。朝ご飯が終わってから、ももちゃんと戯れ合う。

「何やこの腹は?」と、ももちゃんが、手で触ると、パパは苦笑いしながら「うるさいなぁ~」と言う。テレビの前で、中3の娘と父親が戯れ合う姿を見て、ちーママは嬉しそうにじっと見ていた。

自分の少女時代には、考えられない光景だった。父親が厳しくて、そばに座った思い出はなかった。今年は、三人共、大きな試練を超えなければならない。楽しそうな家族を見ていると、何とか乗り切れそうな気がして来た。

我が家は今日も、ハードルを超える為に、それぞれが暑い夏に燃えている。

きっとんとん~さあ、頑張ろう~ちーママ奮闘記おしまい


■第15話「長男物語(2007.7.27~2007.8.19)全20章」

■第15話「長男物語(2007.7.27~2007.8.19)全20


第一章『長男誕生』


赤ちゃんのささやき

おぎぁ-

この広い世界に元気よく飛び出した

10ヶ月もおなかの中でがまんしたんだよ、ぼく~

だから、今度はおもいっきり、あばれるんだ

ママのおなかと違って、ここはとっても広いんだもの

ぼくはどんな男の子になろうかな?

あばれんぼうでとても強いぼく

それとも、おとなしくてやさしいぼくかな?

僕の足も、おててもとっても太いんだ

それにおめめもパッチリだから

この足で広い地球を駆け回り

この目で色々なことを見つめて発見するんだ

いつかきっと

この手で幸せにつかむんだ

パパが出張して帰ってくるころには

僕はもっと大きくなっているんだ

パパ

いってらっしゃーい(^-^)/~

ママと二人で

ババの帰りを待っているよ

ねぇ、ママ~


第二章『親ばかママ』


ママのつぶやき

こうちゃんが、おなかの中で大きく育っている時は、とても暑い日が続いている真夏だったのよ。

丁度、お盆がきたので、パパは出張から帰って来て、おうちにいたの。だから、ママは、パパの側で「こうちゃんが、早く生まれて来ないかな?」と首を長くして待っていたのよ。

ママがおなかが大きいので、せっかくのお盆なのに、パパはどこにも出かけられずに、ちょっぴりつまらなさそう~。パパが8ミリを出して来て、大きなおなかを撮っていたわ。

高校野球を見ながら「明日生まれてほしいわ。パパが、21日からまた、出張だから早く生まれてね」とおなかに話しかけていたのよ。

私の声がちゃんと聞こえていたのかしら?高校野球の準決勝を見ていたら、急におなかが突っばってきて、ママの願い通りに産声をあげたの。昭和47年8月20日、午後8時20分。体重3050g、身長50cm 。

パパとおばあちゃん達に見守られて、元気な男の子が誕生♪

初めての赤ちゃん誕生で、私の世界観が、すっかり変わっちゃったのよ。

赤ちゃんを見て「世界一ハンサム!」と思い込む「親バカママ」になっちゃったの。きっと、誰もが「うちの赤ちゃんが、一番可愛い!」と、思うんだね。だから、子育てを一生懸命頑張れるのかしら?


第三章『仕事と子育て』


長男が生まれて、一か月間、実家に帰った。初孫なので、父も母も大喜びだった。近所の人達も入れ替わり立ち替わり、赤ちゃんを見に来てくれた。

赤ちゃん誕生は、周りの人々に、大きな感動と、幸せを運んだ。「赤ちゃんの顔を、見ているだけで幸せよ!まあ、こんなに小さな足、こんなに小さな手!」赤ちゃんが、目を開いただけでも「わあ、目を開けた!」と、大騒ぎで喜んだ。

今までは、自分の時間は、自分に使うことができたが、この時から、すべて赤ちゃんが、最優先になった。たくさんおっぱいを飲む子で、母乳だけではとても、足りなかった。三時間おきに、母乳をやっても、夜泣きをした。

私は、寝不足になり、へとへとだった。検診の時に質問したら「もうそろそろ、ミルクも足してあげてください」と言われた。

それから、赤ちゃんは、ぐっすり眠ってくれた。母乳とミルクで、スクスク育った。生後2ヶ月になった時、社長である舅から、電話が入った。「もう、そろそろ、会社に出て来て、仕事をしなさい」という内容だった。

生まれる寸前まで、会社で経理をしていたが、お産ということで、他の人に仕事を引き継いでいた。私は、その頃、若くて、甘く考えていた。赤ちゃんを育てなければいけないので、仕事は、休めると思っていたのだ。

主人は、営業なので、出張ばかりしていた。この電話の時も、家にはいなかった。新米ママなのに、会社で、仕事をしなければならない。突然、不安が襲ってきた。「育児と仕事をどうやって両立してゆくの?」と考えると、夜も、ぐっすり眠ることが、できなくなった。

「子育てをしながら、仕事はできます。昔の人は、歩き始めて危ないと、柱にくくりつけて、仕事をしたものです。うちの母さんも、三人の子供を育てながら、仕事をしてきました」と舅は、私に説明された。

私は、現実に目が覚めた。その日から、社長のベンツが、家の前に止まり「仕事の時間です」と、背広姿の舅が、玄関に現れた。


第四章『兄弟』


仕事と育児で悩みながらも、どうにか切り抜けていた。長男を筆頭に次男、三男、四男と生まれた。

主人は、相変わらず出張が多くて、家を開けた。私は、幼い長男を頼りにしていた。

4人とも、歯並びが悪かった為、車で1時間もかかる歯医者に、通わなければならなかった。町にでると、沢山の店が並んでいるので、ついつい見たくなって、お店に入ろうとすると「ママ、ダメでしょ!今日は、歯医者にきたんだから~」と、スカートを引っ張られた。

ハッと気付いて「ごめんね」とあやまって、歩き出した。どこへいくのも4人連れて歩いた。6才、5才、3才と赤ちゃんをおんぶして出かけた。

長男は、いつもお父さんがわりなので、年齢よりもしっかりしていた。

大雨が降り、雷がなった時も、弟達の子守をしてくれた。なるべく、事務の仕事を家に持って来てやっていたが、どうしても、会社へ行かなければならない時があった。

どしゃぶりで雷が、あまりにひどかったので、会社から、慌てて帰った。それまで、長男が、子守りをしていた。怖くても、我慢をしていたのだが、私の顔を見た途端、弟達が大声で泣き出した。

「ワァーン~こわかったよぉ~」と大泣きをした。それまで泣かずに我慢していた長男もつられて泣き出した。

「ありがとう、おにいちゃん、よく頑張ってくれたね」と私は、4人を代わる代わる抱き締めた。


第五章『パパがいない』


この「ときめき千夜一夜物語」の中で、どこの家庭でも、起きうる物語を書いてきた。今回は、ほとんど出張で、父親不在の我が家の実話物語。「結婚しても、子供がいても、年を取っても、生涯仕事を持って生きていたい」という夢を持った私自身が、四苦八苦する姿をそのまま書くことにした。仕事を持ちながら、子育てしているあなた、パパのいない家庭のあなた、悩めるあなたに送るエールメッセージになると嬉しいな!

我が家の周りの家は、殆ど自営業で、今から35年前、とっても景気が良かった。冬になると、週末はスキー、夏は海へとご近所は、家族揃って出かけて行く。

小学生になった長男は「どうして、みんなは、スキーや旅行にいくのに、うちは行けないの?」と私に聞いた。「ごめんね。パパは、営業のお仕事だから、お客様に合わせなければならないの」

「パパは、お休みにゴルフに行くんでしょ!パパだけ遊んでるの?」という疑問を持っていた。主人は、ゴルフの前の日は、ご機嫌よく「打ちっぱなし」に出かけた。にこにこ出かける姿を見て、パパだけ遊んでいると思ったに違いない。

「あのね。こうちゃんは、パパがゴルフで遊んでいると思っているかもしれないけど、お客様の接待なのよ」と説明した。「接待?」「お客様にゴルフで楽しんでもらって、商品の注文をいただくのよ」と長男が納得してくれるまで、話をした。

ある日、次男や三男が「いいな、いいな、みんなスキーに行っちゃったよ。僕んちだけ行けない。つまんないよなぁ」とぶつぶつ言っていた。長男が、二人の側へ行って「パパがお仕事でいないから行けないし、まだあきひさが小さいからダメなんだって!やんちゃいうとママが困るから言うな!」と強い口調で言った。弟達は、叱られて小さくなった。まだ二才になったばかりの四男は、きょとんとしていた。

この様子を見ていた私は「ごめんね。あきちゃんがもう少し大きくなるまで待ってくれる?パパに話してみるからね。スキーに連れていってもらおうね」と4人の息子に話した。

「ママ~本当?僕んちもスキーに行けるの?」とみんなの顔が、一瞬で輝いた。「うん、もう少し待っててね。ちゃんと、ママがパパに話すから~約束するよ」

「ゆびきり、げんまん、うそついたら、はりせーんぼん♪」と子供達と約束した。それから、三年後、やっと主人が家族サービスしてくれて、家族でスキーに行くことが出来た。


第六章『ライバル意識』


長男は、おっとりマイペース、次男は、活発で行動的、三男は、ユニークで、時代の最先端を目指す個性派、四男は、困っている人の為、行動する福祉系。

それぞれの個性を出しながら、少しづつ成長した。一番頭を痛めたことは、同性でライバル意識が強かったことだった。

特に、長男と次男が、年子だったので、困った時もあった。長男が、年長になった時、自転車の輪が取れて、大喜びをした。「乗れた…」と長男が喜び「良かったねぇ~」と、私は、拍手をした。

すると、次男が「僕もわっぱとるぅ~」とただをこねた。「まだ年中なので、来年ね!」と言い聞かせても、聞かない。パパに頼んで、両輪をはずしてもらった。

それから何回でも、倒れては起き、また、倒れては起きる。そして、細い道から落ちて泣いている。

長男が「なおゆきが田んぼに落ちたよぉ~」と呼びに来た。とんで行くと、自転車ごと田んぼに落ちて泣いている。

「どうして、ママの言うことを聞いてくれないの?」というと「大きい兄ちゃんが、乗れたんだから、ぼくだって!」

「なっちゃんは、まだ小さいから、来年は、乗れるよ」と説明したが、「また練習する」と聞かなかった。


第七章『兄弟げんか』


何回も転び、怪我をしながらも、頑張ってその日のうちに、自転車のわっぱ無しで、乗れるようになってしまった。次男には、決めたらやり抜く意志の強さが出ていた。

長男と私は、驚きながらも「よく頑張ったね、すごいな」と言いながら、拍手をした。

鉄棒で、長男がやっと「さかあがり」が出来るようになると、次男も出来、竹上りが出来るようになると、次男も出来てしまった。それをまた、三男がじっと見ている。

お兄ちゃんを褒めると「僕だって出来たよ」と言う。褒め方がとても、難しかった。

雨の日には、兄弟げんかが多くなった。布団を敷いて、すもうごっこ、プロレスごっこ、ウルトラマンごっこを、やって遊んでいた。最初は、仲良く遊んでいるので「よしよしこの調子~」と私は、喜んでいた。

ところが、しばらくすると「わぁー」と誰かが、泣き出してしまう。「お兄ちゃん、どうして弟に、手加減してあげないの?」と、つい怒ってしまった。

「だって、手加減したら、僕が負けてしまうよ。弟になんか負けたくない」と私に叱られて、悔し涙を出した。

負けて泣く弟達、叱られて悔し涙の長男!雨の日の子守は大変だった。しばらくすると、泣きやんで「今度は野球をしよう~」と部屋の中で、野球が始まった。

初めは、手加減しているが、そのうち真剣勝負!「ガッシャーン!」と物凄い音と共に悲鳴が聞こえた。慌てて飛んで行った。

応接間のシャンデリアに、野球のボールが当たって、落ちて割れてしまった。子供達は、びっくりして、小さい弟は泣いていた。私は驚いて、怒ってしまった。運良く、四人とも怪我は無かった。長男小学二年生、次男小学一年生、三男4才、四男1才だった。


第八章『爆発』


毎日のように、兄弟げんかをしながらも、いざという時には、兄弟が団結していた。長男は、弟がいじめられている時は、助けて守った。学校から帰ってくると「大きい兄ちゃんに、助けてもらった」と言っていた。小学校の高学年になってから、身長もグンと伸びていたので、頼もしい存在となっていた。

小学校低学年の時の長男は、足が遅くて「かめ」と言って馬鹿にされたこともあった。だが「がんばれよ」と励ましてくれた友達もあった。

この友達の励ましの言葉が、きっかけとなり、かけっこの練習をするようになり、どんどん足が速くなっていった。

4年生になって、スポーツ少年団のサッカーに入団した。私の生活は、更に忙しくなっていった。日曜日を家事にあてていたのに、ほとんどサッカーの試合で、つぶれてしまった。子供達は、精神的に強くなるためにも、空手にも入っていた。

日曜日になるたび、遠い試合会場まで、運転して連れて行かなければならなかった。

そして、更に私を追い詰めた出来事が起きてしまった。主人が、学校のPTA会長に選ばれてしまった。

ほとんど家に居なかった主人なのに、PTA会長?大勢の役員の人々が、寒い2月の夜に、何回も我が家に訪れた。「会長を引き受けてもらうまで通います」と~。

「ほとんど家にいてくれませんので~」と言って断ったが、受け付けてもらえなかった。主人が居る時に、また大勢の人々が、押し寄せた。遂に、主人が、引き受けざるをえなかった。

私は、更に追い詰められた。仕事、育児、スポーツ少年団の試合、学校のPTA会長、地域の行事などに追われて、精神的にまいってしまった。そして、爆発してしまった。


第九章『自己との対話』


すべてに疲れてしまった。話す相手がいない苦しさと、孤独感に襲われた。睡眠不足も、加わって身体もだるくて、やる気が起きてこない。

友達とおしゃべりする時間もなく、ただひたすら、やらなければならないことを、やってゆくしかなかった。毎日が、時間との戦いでもあった。

疲れが、ピークにきたと、感じた時があった。一人で、四人をお風呂に入れた時のことだった。四男が、まだ赤ちゃんで、抱っこして、湯船に浸かっていた。ふと「今、私の心臓が突然止まってしまったら、この子達はどうするのだろうか?パパはいないし、夜だし~」という気持ちが頭をかすめた。

その瞬間、手から赤ちゃんが滑り落ちて「ドボーン」と湯の中に消えた。

三才のよっちゃんが「ママ!赤ちゃんがおちた-」と叫んだ。

私は「ハッ」として、我にかえり、湯船の中で拾い上げた。私の心臓が、躍っていた。赤ちゃんは、溺れかけたが「ギャー」と泣いたので、ほっとした。

色々なことが、重なって私の顔から、次第に笑顔が消えていった。自分自身で、自分を支えきれなくなった。「もう、だめだ。一人では何もかもできない!」

四人の子供達の寝顔を見ていたら、涙が次々にこぼれ落ちてきた。「ごめんね。ママ、もう、疲れちゃったの。死にたくなっちゃったの。もう、生きてゆく元気がないの。怒ってばかりでごめんなさいね。悪いママだね」

眠っている子供達の頭を撫でながら、一人一人に囁いた。涙が塩辛かった。涙が、こんなにたくさんどこにあるのだろう?今まで我慢していたものが、涙となって溢れ出した。

泣き続けながら、いつの間にか、ノートに自分の気持ちを書き綴っていた。自分と対話していた。「そうだ、パパに手紙を書こう~」


第十章『優勝』


長男が、お腹に宿った時から、育児日記を書き始めていた。同時に、自分を成長させる為に「育自日記」を書き続けた。苦しそうな私の顔を見て「ママ、大丈夫?」と、長男から言われた。

「大丈夫よ」と涙を浮かべながら、答えていた。お兄ちゃんが、言う言葉を真似して「ママ、大丈夫?」と、小さな弟達も言う。「うん、大丈夫よ」と答えた。

今、こうして、振り返ってみると、育児ノイローゼだったかも知れない。もしも、その時、心療内科に行っていれば「うつ病」と言われたかもしれない。

しかし、私は、この時、決心したことがあった。今のこの苦しみを正直に書き綴り、子育てが終わったら、私と同じように悩んでいる人の話を聞いて、助けてあげれる人になろう。この時、洗面所の冷たい水で、顔を洗った。そして、私は、高い志を抱いた。愛とは?、結婚とは?仕事とは?生きるとは?などと、自分の疑問に対する答えを求めて、読書をしながら、自分の想いを記録した。

悲しい涙を、喜びの涙に変えていくことにした。我慢していないで、思ったことを言うことにした。自分が追い詰められて苦しいことや、子供達の成長ぶりを手紙に書いて、そっと、パパの出張カバンに入れた。「気付いてくれますように~」という祈りを込めて、洗面道具の中に、入れた。

ある時は手紙、ある時は子供達の写真、ある時は子供達の声を録音したカセットテープ~。

母親が変われば、子供も変わる。「かめ」と友達から言われ、悔しい想いをした長男が、スポーツ少年団が主催するマラソン大会で、優勝した。私は、喜びの涙を流した。空手の試合でも、賞が取れて、大きな大会に出れるようになった。

一つのことに自信を持った長男は、勉強も頑張り、読書感想文も入賞した。

「道ができる 新しい流れが起きる 夢に続く為 私は翔る 」という文字が私に勇気を与えた。


第十一章『対話』


私自身の気力、体力の限界を感じてから「このままではいけない」と思うようになっていた。

子供達を怒りすぎたり、仕事が手につかなくなったりしていたことを反省した。母親自身が幸せでないと、家の中が火が消えたように暗くなってしまう。すべて私がやろうと頑張っても限界があることに気付いた。

長男が、運動、勉強に頑張るようになり、児童会長にもなっていた。私は、長男に「お父さんが仕事で家にいない事が多いので、母さん疲れちゃったの。」「どうしたらいいと思う?」と相談をした。

「じゃあ、お父さんが出張から帰ったら、家族会議をしよう」と提案した。私は、びっくりした。私の頭では「家族会議」ということは思い付かなかった。主人とゆっくり話し合おうとは思っていたのだが、日常の雑務に追われ、時間がなかなか取れないでいた。

「そうだね、それは、いいアイデァだね、やってみようか?」と笑顔で答えた。「うん、僕が議長をやるよ。なおゆきは5年生、よしひとは3年生、あきひさは年長だから、何とか会議が開けると思う」「そうね、やれるかもね。お父さんには私から話してみるわ」と言った。

仕事と家庭の両立で苦しんでいた私にとって、長男のこの言葉によって、救われた。気力が失われていた私の心に、元気という気持ちが戻ってきた。

幼稚園までは、「パパ、ママ」と言っていた子供達が小学校に入ってからは、「お父さん、お母さん」と呼ぶようになっていた。子供達は日に日に成長してゆく存在なのだとこの時、痛感したのだった。

手紙、カセットテープ、写真というように、出張カバンに入れたことで、主人も父親として自覚してくれたのかもしれない。快く「家族会議に参加する」と返事をした。


第十二章『家族会議』


長男の提案で、家族会議をすることになった。三男と四男は、何が始まるのかと興味しんしんだった。

「家族会議を始めます」と、少し緊張した顔で長男が言った。「お母さんが、毎日大変なので、みんな協力してください。…」という言葉から始まった。

児童会長として頑張っていることが、議事進行してゆく姿を見て、感じられた。ゲームでけんかをしないこと。それぞれが、ひとつづつお手伝いをすること。このように、約束事が決められた。

お父さんにもお願い事があった。スキーに連れて行って欲しいこと。お盆休みか、お正月休みに家族旅行がしたいこと。主人は、子供達の発言を聞いて「分かった!これまで、仕事が忙しかったから、スキーにも、旅行にも連れて行けなかったなぁ~。あきひさも大きくなったので、今年から行くことにしよう」と答えてくれた。

子供達は、大喜びだった。喜んだ顔を見ていたら、私まで、何だか嬉しくなった。

ふと、主人の顔を見ると、子供達の顔を見ながら、にこにこしていた。やっと、お父さんらしい顔になっていた。

「では、これで、初めての家族会議を終わります。みんな、今日決めた事は、ちゃんと守って下さい。また、何かあったら、家族会議をやります」という長男の挨拶で、無事終わった。

「こうちゃん、ありがとう。家族旅行楽しみね」「うん」と頷いた。「あなた、ありがとう。仕事の方は、大丈夫なの?」と聞く「子供達と約束したから、何とかするさ」と一言。ありがたやありがたや~。


第十三章『家族旅行』


家族会議で決めたことをそのまま実行した。主人は、会社の仕事とのバランスをとりながらも、家族との約束は守ってくれた。

家族のことは、ほとんど何も協力していなかった主人が、少しづつ変化した。スポーツ少年団の役員の仕事も引き受けてくれ、サッカーにも空手の試合にも出来るだけ参加するようになった。嬉しい事だったが、そのことによって、大役まで当たってしまった。

次々、会長という大役をこなしてゆかねばならなくなった。更にまた忙しさが加速した。

子供達のことを全く知らなかった主人が、こうして、色々な事に関わるようになって、担任の先生、校長先生がどんな人なのかわかるようになった。

子供達と繋がった。地域と繋がった。学校と繋がった。そして、やっと、私の心と繋がった。

ついに、家族全員で旅行に出かけられるようになった。

ある日、外人の友人が、長男をアメリカに連れてゆきたいと言ってくれた。ホームステイを経験させた方が良いと言ってくれたので、彼女に託した。

そして、小6で長男は、アメリカへ旅立った。


第十四章『親離れ』


長男は、家族から離れ、日本から離れて、異国の文化に触れた。メリーさんは、小学生、中学生を12人くらい連れて、アメリカの地を踏んだ。

信頼している友人なので、安心して子供を預けた。だが、初めてのホームステイなので、健康のことが心配だった。

「母親から離れて暮らすのだから、自立させるチャンスです。自分で考えて行動できるようにする為に、外国に連れてゆきます。特別な用事がない限り、電話はかけてこないで下さい~」と日本での説明会の時に、詳しく話された。

私も長男もメリー先生に言われたことは、ちゃんと守っていた。三週間後、元気よく、アメリカから帰国した。

帰ってきてから、何だか雰囲気が変わってきた。それまでは、物静かな子供だったが、明るくなり、よく笑い、よく歌を歌うようになった。

「アメリカの人は、陽気で、道でも歌を歌ったり、楽器を弾いたりしていたよ」と話してくれた。くっついている時は、よく兄弟げんかをしていたが、こうして離れてみると、お互いに協力できるようになり、けんかの回数が減ってきた。

これは、嬉しい事だった。しばらくしてから、ホームステイした子供と、親の交流会が開かれた。

それぞれが楽しかった思い出話をしてくれたので、その時の様子がよくわかった。

反省点として、メリー先生は、親に話された。「電話はしないで下さいと、お願いしておきましたが、何回もしてきたお母さんがいます。何の為にお金を使って、外国まで行かせたのですか?アメリカまで、お母さんが電話で指示していては、自分で考える力はつきませんよ~」と。

日本のお母さんに、「子供を信頼してほしい」と話された。この出来事をきっかけに、長男は親離れを、私は、子離れを考えるようになった。

きっとんとん~日本のお母さんは?~長男物語つづく~明日をお楽しみに。


第十五章『ホームステイ』


小さな町で、小さな小学校、小さな地域から出た事もない長男が、都会の年上の中学生と一緒に、ホームステイを経験することは、勇気が必要だった。

交流会の後で、メリー先生は、私に話された。「サナエ、あなたの息子は、よくがんばったよ。私の注意をよく守りました。まず、一番年下なのに、よくみんなのことを思って、行動出来ました。私の荷物まで持ってくれたのですよ。とても、助かりました。お金も、自分で計算して、ドルを持ち、計画的にお土産を買っていました。私が、教えてないのに、リストを書いて、チェックしてましたよ。そしてね。お父さんのことを尊敬し、敬語を使っていましたよ。大変、感心しました~」

メリー先生は、流暢な日本語で、次々に、長男の事を褒められた。本人のいる前で、褒められたので、大きな自信に繋がったのではないかと思った。

先生の言葉の中で、一番嬉しかったのは、「父親を尊敬している」という一言だった。

私は、子供達の目に「お父さんの存在」が、どのように写っているのかを、心配していた。特に、長男が父親代わりに、私や弟達を支えていたので、メリーさんの言葉は、嬉しかった。

うちでの様子と外での様子が、違うことを知った。何も出来ないと思っていたのに、自分で考えて行動していたようだ。

親元から離れても、何とかやっていけれる子に育ってくれたことに、感動した。こうして、親以外に、子供を育ててもらえる友人を持てた事に、心から感謝した。


第十六章『先生は人気者』


小学校は、友達ともよく遊び、楽しい時を過ごした。特に6年生の担任の村瀬先生は、子供達に人気があった。背が高くて、なかなかのハンサムだった。

学級通信も、自分色がはっきり出ている内容で、私の目には斬新に写った。そこには、先生自身の事も、書かれていた。

恋愛中で彼女のことも、紹介してあった。結婚についても、通信に載せてあった。子供達も、先生の結婚式を自分のことのように、楽しみにしていた。

誰もが、先生のことが大好きで、クラスがひとつにまとまり、男の子も女の子も仲が良かった。

クラスが団結している姿が、運動会や授業参観でも見られた。騎馬戦、選手リレー、35人36脚と、どのプログラムにも、お互いに励まし合う姿に感動した。

足の遅い子に声をかけながら、「いち、に、いち、に~」と息を合わせる子供達の姿を見て、いつの間にか、親達も大声をあげて、一緒に応援していた。

先生の結婚式には、親達が車を出して、子供達を乗せて行った。自宅は、川のすぐ近くの2階建ての日本家屋だった。先生は、子供達の顔を見て、笑顔になり、好奇心旺盛な子供達の質問に照れながら答えられた。幸せ一杯のひとときだった。

児童会長をしている時の事だった。学校から帰る途中に、中学生と擦れ違った時「中学校に来たら、いじめてやるからな!」と言われた。こうして、中学校に入学する日を迎えた。親子共々、生まれて初めて「いじめ問題」を体験することになった。


第十七章『いじめ』


新しい中学校の制服を着て、友達と元気良く「行って来ます!」と学校に向かった。初めての中学校で、親も子も、喜びと緊張に包まれた。

入学してから、数日後、学校に行こうとすると「お腹が痛い」と言い出した。トイレによく行くようになり、だんだん笑顔が消えていった。何だか様子がおかしい~。

「どうかしたの?」と聞いても「別に、何でもないよ」と答えた。学校も休まず行っていたが、私の妹にポロリと、「学校で、先輩にいじめられている」と呟いたそうだ。いじめを予告されていたこと。入学式当日からいじめられていたこと。仕返しが怖いから、親には言えなかったことなど、妹から聞いた。

このままだと、不登校になってしまうと思い、主人に相談した。主人は、本人に詳しい話を聞いてから、すぐに担任の先生に相談した。校長先生も熱心な方で、事情を聞いて下さった。

「すぐに事実を掴み、対応致します。」と頭を下げられた。校長先生は、行動が早かった。。朝早く、登校されたり、休み時間を巡回されたりして、いじめを受けていた現場を押さえられた。

いじめていた子達は、サッカー部の先輩だったようだ。本人と親に注意されて、いじめ問題は、間もなく解決した。いじめられていたのは、長男だけではなかった。

このことがきっかけとなり、「三年生になったら、生徒会長に立候補して、いじめのない中学校にしたい」と思ったそうだ。


第十八章『兄弟げんか』


中学一年生でいじめられた長男は、生徒会活動に関心を持った。色々な体験を積み重ねながら、先輩達の活動を見ていたようだ。

子供達の不登校、いじめ問題も、増えてきていた。だが、この頃の先生は頼り甲斐があった。校長先生も、担任の先生も、熱心で、家庭との連絡をまめにとって下さった。学校での様子が、親にもよく伝わってきた。

学級通信も毎日のように渡されたし、生徒達も、毎日生活ノートを提出していた。先生も毎日、赤ペンで、生徒のノートに、コメントを書き込まれた。親も、「読んでいます」という印鑑を押して、時々感想を書き入れた。

このように、担任の先生や友達の応援もあって、生徒会長になるという夢が実現した。

だが、喜んだのもつかの間だった。運動会、文化祭、試験勉強と次々に試練を味わった。学校から帰ってくるのも、遅くなった。長男は、クタクタに疲れていた。

そんな兄の気持ちを知らない次男が、何か一言、長男に向かって言ったようだ。

ムカついた長男が、急に怒り出した。次男は、びっくりして、裸足で家の外に逃げ出し、それを長男が裸足で追いかけた。私は、ただならぬ兄弟げんかに驚き、二人を裸足で追いかけた。ダンプカーが、急に飛び出してきた二人をひきそうになった。運転手は、急ブレーキを踏んで「危ない!バカヤロー!」と大声で怒鳴った。あわや、目の前で、二人の息子を失うところだった。


第十九章『4人兄弟』


ダンプカーに、はねられかけたが、間一髪で子供達の命が助かった。私の心臓は止まりそうだった。

私は大声で「二人共、家に戻りなさい!」と怒鳴った。二人も、ダンプカーのお兄さんに怒鳴られてびっくりしていた。

長男は中3、次男は中2で、身長も同じくらいになっていた。ちょっとした言葉が長男の勘に触ったらしい。

二人共、私の身長を超えていたので、正座をさせて、話した。「なおゆきは、お兄ちゃんに向かって、生意気なことは、言っちゃいけないの。あなたは、大きい兄ちゃんのお陰でここまで大きくなれたのよ」と、今までのことを詳しく話した。

「どんなことがあっても。四人の生まれた順序は変わらないわ。大きい兄ちゃんは、一番上なのよ」と、コンコンとお説教した。

それから、弟達は、兄に対して、言葉に気をつけるようになっていった。「親子兄弟仲良くする」を我が家の家訓に付け加えることにした。


第二十章『自立』


時には、兄弟喧嘩をしながら、また、仲良く遊びながら、ぞれぞれが、大人になっていった。

子供達は、毎日「お母さん、お母さん…」と何十回も、私を呼んだ。それを聞いた主人は「この人は、お前達のお手伝いさんではないぞ!ぼくの女房だ。悔しかったら、早くいい人を探して来い」と話した。

私は、この言葉を聞いて感謝した。仕事でほとんど家にいなかった主人が、父親の出番の時には、ちゃんと責任を果たしてくれるようになった。

長男が中3の時に「僕に過度の期待をしないで欲しい」と。そして、将来の仕事についても「お父さんは、自由に仕事を選んでもいいと、口では言っているけど、本心は、会社を継いで欲しいと思っているんだ」と言った。

子供の言葉は、真実をついてくる。主人は、父親らしく、私は、母親らしくなる為に、努力した。

高校、大学、会社も、自分で決めて、就職した。その後、主人の会社に入り、現在、後継者として、学びながら、仕事に励んでいる。伴侶も自分で決めて自立し、男の子と女の子に恵まれた。

今、会社の東京営業所で家族と共に、暮らしている。長男の家族が健康で幸せに暮らしてくれる事を願ってやまない。

8月20日は、35歳の誕生日(^-^)v

おめでとう♪♪♪

きっとんとん~35歳の誕生日おめでとう~長男物語おしまい~



■第16話「さわやかパパ物語(2007.8.21~2007.9.2)全11章」

■第16話「さわやかパパ物語(2007.8.21~2007.9.2)全11


第一章『プロポーズ』


この物語の登場人物を紹介しよう。

パパ 太郎 ママ 小百合 長女 ゆか 長男 たくま

脱サラした太郎が、奥さんと子供を抱え、貯金0から会社を立ち上げ、社長として成長してゆく姿を描いてゆく。危機をどのように乗り切り、夫として、父親として、経営者としてさわやかに生きてきたかを探ってみたい。

夫を陰で支え、経営者として成功させたママの言葉にも、注目していただきたい。

この物語で、初めてお父さんが主役となる。

太郎は、技術屋である。設計の仕事で、会社に勤めていた。山奥の旧家の長男なのだ。仕事も、結婚も、長男という立場を忘れた事がなかった。

恋愛をして、結婚しようと思っていた女性がいたのだが、どうしても、決断できなかった。今ひとつ、しっくりいかなくて、結局、別れた。太郎は、長男という責任感が強くて、母親と上手くやっていけれる女性を求めていたことに気付いた。

ふと、営業事務をやっている小百合という20歳の女性が気になった。仕事ぶりを見ていると、きちんと丁寧にこなしていた。部署は違っていたが、同じ会社なので、話すことはできた。思い切って、会社の忘年会を、民宿をしている実家でやることにした。

事務の女の子も誘い、その中に小百合もいた。太郎は母親に「あのチビの女の子どお?」と耳打ちした。母親が「いいんじゃあない」と答えたので、太郎の心は「この子と結婚しよう」と決まった。

付き合ってもいないのに、勝手に思い込んだ。行動は迅速!お正月に実家に誘い、近くの神社に初もうで。その後、鬼岩公園の帰りに、車の中で「結婚しよう」とプロポーズ。なんと不思議なことに、小百合は「はい」と答えた。こうして、とんとんびょうしに話が進み、忘年会から4ヶ月後、桜の季節に、実家で挙式となった。花婿24歳、花嫁21歳だった。


第二章『結婚』


プロポーズされてから、あっという間に結婚式の当日となった。小百合は、早くこの家を出たかった。信仰心の熱い父親と母親なのに、口喧嘩が絶えなかった。姉と妹は、小百合ほど繊細ではなかったので、明るく過ごしていた。

ところが、小百合は、家が揉める度に、静かで穏やかな家庭が羨ましかった。結婚したら、絶対に守ろうと自分の心に誓った事があった。

(1)子供達の前で決して夫婦喧嘩をしないこと。(2)主人を立て、主人に逆らわないこと。

この二つのことを、密かに心に刻んでいた。ゆったりとした両親に憧れ、穏やかな男性を求めていた。

恋愛経験もなく、突然のプロポーズだったが、小百合の心の奥に隠されていたウェディングベルが鳴ったのだ。

当日は、白無垢姿の美しい花嫁さんを一目見ようと、沢山の村の人達が押し寄せた。すごい山奥の一軒家で、道が狭い為、細い畔道を花嫁さんは、トボトボ歩かなければならなかった。この時、初めて、嫁ぐ実感がして、父母を恋しく想った。

雷が鳴って、雨が止んだ時だったので、まるで狐のお嫁入りみたいだった。

太郎は、こんな山奥に来てくれた花嫁さんを、愛しく想い、大切にする事を決意した。


第三章『独立』


田舎の長男なので、結婚式は、太郎の自宅で行われた。花嫁衣装の小百合を見て、太郎はその美しさに、心を奪われ、幸せに満ち溢れた。

小百合は、太郎のご両親のゆったりして、にこやかな雰囲気が好きだった。太郎は、母親と小百合の何げない会話から「きっと上手くいく」と確信した。

無事、結婚式を終えた。そして、太郎の会社の近くのアパートに住むことになった。古くて、おんぼろアパートだけど、小百合は、文句ひとつ言わなかった。太郎は「すまないね。頑張って仕事して、もっといい所に住めるようにするから」と言った。

「大丈夫よ。きれいに掃除をするわ」と言って、すぐに動き出した。「素直な女の子だなぁ~」と感心した。交際期間があまりにも短かったので、こうして、お互いに新鮮な愛を育み始めたのだった。

ある日、太郎は、仕事の事で、社長と口論になった。「俺の言うことが、聞けないのなら、お前はくびだ!」と怒鳴られた。太郎は、腹が決まったので、翌日、会社に辞表を出した。

この時には、既に、女の子が生まれて、パパになっていた。26歳のさわやかパパは「ゆかちゃん、パパねぇ~社長と喧嘩して会社止めちゃったよ。今度は、パパが社長になるからな」と赤ちゃんに話しかけた。

ママにも、本当のことを話した。パパは、困った顔をして「どうして、止めちゃったの、明日から生活どうなるの?」と責められると思った。

意外なことに「いやだったんだから、やめたんでしょ。パパなら大丈夫よ」とサラリと笑顔で答えてくれた。

ママのこの一言で、新しく会社を立上げる決心をして、銀行から60万円借入れ、独立した。


第四章『内職』


貯金はあまりなかったが、技術屋だから何とかなると思い込んでいた。最初は、友人と一緒に仕事を始めたのだが、上手くいかずに、一年も立たないうちに、相手が辞めてしまった。

すぐに、お客様が見つかると思っていたが、現実は甘くはなかった。今まで、経験のある仕事は、ほとんどなくて、やったことがない仕事ばかりが舞い込んで来た。しかし、家族を食べさせてゆくには、仕事を受けるしかない。もう、後ろを振り向かないで、前に進んで行くしかない。長女の下に長男たくまが生まれていた。

慣れない仕事なので、土日も出勤した。子供達と遊ぶ時間もなかった。子供達の寝顔を見ながら「悪いパパだね。遊んでやれないけど、おおきくなったら、一緒に飲みに行こうな」

パパが帰ってきても、まだ小さいので、よそのおじさんだと思って、赤ちゃんは「ワァー」と泣き出した。

ママは「たくま!わるいおじちゃんじゃないよ。あなたのパパよ」と話しかけた。そのうちに、赤ちゃんは、泣きやんだ。

仕事も少なく、充分な生活費も稼げなかった。一か月、10万円くらいしか渡せない。サラリーマンの時の方が、給料が多かった。だが、ママは、不平不満を言わずに、内職を始めたのだった。小さい子供を二人見ながら、黙々と内職していた

パパも、早く帰ってきた時は、内職を手伝い、二人で頑張った。一個やって◯◯銭の世界だった。


第五章『育児』


内職は、少しでも生活費にと、色々なことをした。袋はり、部品の組み立て、封筒書きというように、単純作業だが手間がかかる。だが、手に入るお金は、僅かな金額だった。それを、みじめなことだという考えは、ママには全くなかった。

パパは、慌てず、騒がず、きちんと静かに仕事をこなしていくママの姿に心を打たれた。

「よし、今は、仕事が少ないけれど、頼まれた仕事は、きちんとやろう。そして、三年後には、社員を抱えれるようにしよう~」と心の中で、目標を持った。

それからは、休む暇もなく働き続けた。新しい仕事を引き受けた時は、徹夜したこともある。それを、辛いと思ったことは、一度もなかった。

自宅とは、別の所に事務所を借りていたので、子供達と接する時間がほとんど無くなってきた。金銭的な苦労をママにさせたくなかった。がむしゃらに働いたが、誰からも文句を言われなかったので、すこぶる調子が良くなった。パパは、一途なところががあるので、上司と合わなかった。それが、ストレスとなり、会社を止めたのだ。

一匹狼となったが、自分の技術を磨き、取引先をどんどん増やして行った。だんだん一人では、こなせないくらい仕事量が増えてきた。三年後に、目標通り、社員を抱えた。

幼い子供を抱えたママを全く手伝うことが出来なくなってしまった。オシメを変えた事もないし、ミルクもやったこともない。「パパと遊びたい」という子供と、遊ぶ時間もなかった。さわやかパパは、育児を手伝うことが出来なかったことを反省している。

「仕事」と言って、夜はお客様相手に、柳が瀬で飲み歩く事もたびたびあった。飲み屋のママにも、もてるので悪い気分ではなかった。そちらのママは「社長さん、社長さん~」と甘い声でチヤホヤしてくれる。若いパパは、飲んだ後、静かに帰宅して、うちのママと子供達の寝顔をみ見て、胸がいっぱいになった。


第六章『社長』


社員が少しづつ増えていった。経理をする人が必要となったので、内職をやっていたママに頼んだ。

「仕事が増えてきたので社員を増やしたよ。経理をやってくれないか?」と言ってみた。育児と内職に追われていたので、断わられると思った。

夕食のあと片付けをしていたが、パパの方を向いて「いいよ」と一言。意外な返事に驚いた。「本当にいいのか?助かるよ」と言うと、笑顔で「パパも頑張っているから、私も頑張るわ」と答えた。

本当に嬉しかった。ぺらぺらしゃべるわけでもなく、必要なことだけ話すタイプだった。

一生懸命仕事をして、人脈を作り、お酒も大好きになった。交際範囲を広げ、健康の為にも、ゴルフにも熱をあげた。

子供達やママの寝顔しか見れない時もあった。若くても、一応会社の社長なので、セミナーや講演会に出席して、経営者として学んだ。

「社長」という言葉が、ある時は心地よい響きとなったが、またある時は、大変なストレスとなった。


第七章『反抗』


仕事を一生懸命やっているうちに、二人の子供は、スクスク育ってくれた。たくまは、小学校は、野球をやり、中学、高校は、陸上部のキャプテンをやった。スポーツ少年だった。

ところが、中学2年生に反抗期を迎えた。母親に対しての口の聞き方がひどかった。

パパは、滅多に怒ったことはないのだが、この時ばかりは、我慢出来なかった。父親の出番だと思った。

いきなり「たくま!ちょっと来い」と呼び付けた。ふてくされた顔で、廊下に出たら、真っ赤な顔をした父親が立っていた。「さっきの言葉は、なんや!いいかげんにしておけ!」と、大声で怒鳴った。彼は、身長も伸びて、父親と同じくらいだった。

たくまの顔は、みるみる赤くなって、こぶしをあげた。今にもなぐりかかりそうになり、ぶるぶる手が震えていた。父親はひるまなかった。瞬間に「殺されるかもしれない」という想いがよぎったが「やれるものならやってみよ!」と叫んだ。

子供に迎合せずに、父親の威厳を感じさせた。その気迫に押されて、こぶしを上げた手を下ろし、そのまま、後ろを向いて、思いっきり、壁を殴った。「バカーン!」という音と共に、壁に大きな穴が開いた。壁には、今でもその跡を残している。「夜中に金属バットで殺さんといてくれよ」と、言うと「そんなことはするか!」と答えた。

その後、反抗期を終えてからは、母親にも父親にも、敬語を使うようになった。真剣に向き合ったので「これでよかったのかな」と、今でも懐かしく思い出す事がある。


第八章『娘の結婚』


仕事が軌道に乗ってきた時にふと気付くと、娘のゆかが大学生になっていた。特別にかわいがってきた訳でもなかったが突然「フランスに語学留学したい」と言われた時には、手放すのが心配だった。

特に、反対した訳でもなかったので、彼女は、さっと一年間、フランスへ行ってしまった。しばらくしてから、娘のことが心配になり、夫婦でフランスのニースに飛んだ。

まじめに学んでいることを知り、胸をなでおろした。親子三人で、楽しいひとときを過ごす事ができた。

飛行機がフランスを離陸した時、真っ暗な陸地を見下ろし、こんな見知らぬ異国に娘をおいてゆくのかと、胸がいっぱいになってしまった。

留学を終えて、大学を卒業してから、ママが始めた喫茶店を手伝った。しばらく、会社も家庭も平穏だった。

ある日「お父さん、私、結婚するから~」と娘から告げられた時には、愕然とした。どんな男を連れてきたとしても、ショックには変わりなかった。結婚することが決まった時は、やけ酒を飲んだ。

今まで、朝帰りしたのが二回だけ。一回目は、若い時だったが、飲み屋のマスターと徹マンしたが、この時、初めて女房に叱られた。そして、今回、娘の結婚話におもしろくなくってやけ酒をあおった。

飲み屋のママとカラオケへ行って、飲んで歌いまくり、朝まで遊んだ。この時も叱られた。「いつまでやけ酒のんでるの?飲酒運転はだめよ!」と釘を刺された。娘を持った父親というものは、やるせないものだ。やっと美しい花が咲きかけようとしたところなのに……。あーあ、寂しいなぁ~悔しいなぁ~とパパは独り言~。


第九章『初孫』


やけ酒を飲んで、どうにか娘の結婚を受け入れなければならない気持ちになってきた。

「彼はね。お父さんと似ているのよ~」と娘に言われた時は、複雑な気持ちだった。何だかショックだった!変な感じがして「そんなことあるか!」と思った。結婚が決まって、よくフィアンセが来るようになり、一緒に食事をしたり、飲んだりするようになった。「なるほど僕に似ているところがある」と悔しいような嬉しいような、微妙な気持ちに襲われた。

いよいよ、結婚式の当日となった。美しい花嫁衣装に身を包まれた娘が眩しいくらいだった。「人前で絶対泣かないぞ」と堅く心に誓った。

涙を出したら溢れ出して止まらないだろう~こんなめでたい席でそんなみっともないことは止めよう。喜びの席なんだから、娘に恥をかかせてはいけない~

さわやかパパの心は、グチャグチャになりそうだった。必死でこらえていたのに、鼻水がでてきた。鼻を噛んだら落ちついて来た。

無事結婚式が終わった。ほっとして、肩の力が抜けた。

その後、初孫が誕生した。子供のオシメが変えたことがないというのに、孫のオシメは変えることが出来た。娘は平気で「お父さん、オシメかえて」と簡単に頼んだ。「育児って、大変だなぁ」と、初めて、自分達を育ててくれた実母に想いを馳せた。「おふくろは、僕を頭に、4人の息子を育ててくれたんだなぁ~」と感謝の気持ちでいっぱいになった。

初孫で感動したのだが、それからも、次々に男の子が生まれ、かわいかった娘も、今では、立派な三人の男の子の母親となった。娘は、実家に頼る事なく、育児をしているが、これもまた、嬉しいやら~寂しいやら、複雑な気持ちなのだ。


第十章『夫婦愛』


二人の子供が、大人になり、娘は、結婚して、子育てに励んでいる。息子は、東京の大学院を卒業して、就職した。父親とは違う道を選んだが、芸術的な才能を磨きながら、仕事に力を入れている。

これで、それぞれが道を選び、歩み続けているので安心だ。父親としての第一段階を終わり、第2段階に入ったようだ。

子供の前では、パパ、ママと呼び合っていたが、孫ができてからは、なんだか照れくさい。

女房は、子供達のママから、喫茶店を経営するママに変身した。会社の経理は、結婚以来、任せている。喫茶店は、ビジネスというよりは、趣味でやっているようなものだ。

芯がつよいので、彼女に何回も助けられたような気がする。急に、社員にやめられ、困っていたが「いいんやないの。やめたい人なら、やめたって~またいい人が、きっと入ってくるよ。0から始めたんだから、また、やり直せばいいんじゃないの」と一言。

「あっ、そうか!そうだったなぁ~0どころか、マイナスから始めたんだから~こわいものはないなぁ」と、思い直し、勇気を出した。社長は、どこまでいっても孤独なものだ。

こんな時に「どうするの!」と責められたら、間違いなく、自信をなくしていたに違いない。そして、ありがたいことに自由に遊ばせてくれた。お陰で、毎週ゴルフに行けたので、グングン上達して、ハンディ「7」までになった。仕事もゴルフも楽しくなってきた。


第十一章『見守る』


大きくても、小さくてもビジネスは、厳しいものである。自分自身の会社は、不況の波にさらされながらも、それなりに頑張ってきた。ところが、女房が始めた喫茶店の方が少々気になるようになってきたのだ。

最初は、主婦層だったので、安心していたのだが、だんだんいろいろな人々が訪れるようになって来た。子育てをやってきたママが、お店のママになったので、全くの素人で、他人を疑うことを知らない。

「おっとと、何だかあの人うさんくさいぞ。オーナーの主人だとわかっているのに、ちゃんと目を合わせて挨拶をしない。挙動不信のところがある」とママに注意をしたこともある。

だが信じる事しか知らないママは「パパ、大丈夫よ。みんなを救う立派な先生よ」と言うのだ。また、ある時は「あの女性は誰だ。何だかあやしい匂いがするぞ」と言うと「有名な作家さんよ。ほら、素晴らしい絵も買ってお店に飾ったわ」と嬉しそうに答える。

恋と同じで、夢中になってしまっては、何を言おうが聴く耳をもたない。「仕方ない。しばらくは、ママを信じて、見守ることにしよう」と心に決めた。

ゆるぎない信念を持ち、「喫茶店を開く」という夢を実現したのだから、静かに見守ることにした。しかし、やはり、心配は的中した。初めて、ママもおかしいと気付いた。

「パパの言うとおりだったわ。私は、他人を疑うことを知らなかったわ」と一言呟いて、落ち込んだ。しばらくの間、体調も悪くなり、仕事をするのも辛そうだった。

「人の心なんて簡単にはわからないさ。子供達のママが喫茶店のママになったんだから、痛い目にあっても仕方ないよ。また、頑張ればいいよ」と励ました。パパのこの一言で、またママは元気を取り戻し、仕事に励んだ。庭には、美しいバラを植えて、お客様に喜んでいただくように、毎日手入れしていた。

お花が好きな人、コーヒーが好きな人、音楽が好きな人、ゆっくりしたい人達がまた喫茶店を訪れてくれるようになった。ママは、苦い思いをしたお陰で、経営者としても成長できた。夫婦でありながら、お互いに経営者として、仕事に励む毎日が続いている。


第十二章『さわやかパパ物語編集後記』


ミニバラでは、嫁舅戦争、夫婦喧嘩、離婚、家庭崩壊など家族問題と長年関わってきた。今の私の夢は、ラブラブ夫婦が増える事だ。

両親の争い事を見て育った青年が「結婚なんてしたくない。父親の怒鳴り声と母親の愚痴を聞くのに疲れた」とポツリと呟いた。その顔は、とっても寂しげだった。

若い素敵な女性が「結婚したいけど頼りになる男性がいない」とやはり寂しげに囁いた。

さわやかパパとママのラブラブ夫婦が、こうした若者達の憧れになる事を願って、この物語を書いてきた。

女性が仕事を持ちながら、家庭を築こうとすると夫の協力が必要となる。

夫が仕事で力を存分に発揮しようと思うと妻の協力が不可欠となる。

お互いに、困難にぶつかった時に支え合い、喜びを分かち合える存在。

さわやかパパとママは、呼吸がぴったり合っている。さわやかさと温かさが、自然にまわりを包みこんでくれる。

ママは、喫茶店を日曜日休みにした。二人の子供達が巣立った今、夫婦の時間を大切にすることにした。パパは、日曜日は、初めてママを独占できると大喜びである。さわやかパパの心には、今日も笑顔の花が咲いている。

きっとんとん~最後まで読んでいただいてありがとうございました。


■第17話「天才マリア物語(2007.9.5~2007.9.17)全11章」

■第17話「天才マリア物語(2007.9.5~2007.9.17)全11


『あらすじ』


はるばるトルコから、日本にやってきたかわいいお嫁さんが主人公の物語です。

登場人物

父親 河本りょう

母親 マリア

長男 ナオキ

長女 サミラ

名古屋に住んでいて、お友達もいっぱいで、明るい四人家族です。

現在、ナオキ君は、有名な病院のお医者さん、サミラちゃんは、外国の大学院で美容整形を学んでいる。子供達が、巣立った今、リョウさんとマリアさんは、楽しい毎日を過ごしています。

最近国際結婚も増えてきました。そこで、このご夫婦の子育てや仕事、恋愛について書いてみたいと思いました。天才を育てた「天才マリア物語」がいよいよ始まります。どうぞお楽しみ下さいませ。


第一章『入院』


リョウは、エンジニアで、その時30歳だった。眼鏡をかけて、面長で優しい顔立ちだった。

岐阜県出身で、四人兄弟の末っ子なので、自由の身だった。

マリアは、6人兄妹でやはり、自由の身だった。彼女は、大きな病院の婦長として働いていた。目鼻立ちがはっきりした美人だった。そこへ、リョウが、工場で怪我をして、入院してきたのだった。彼は、日本から、トルコの会社へ赴任していた。

リョウは、美人を見るとつい「好きだよ…」と軽く言ってしまう。それほど、異国の女性は、美しいし、楽しくわくわくさせてくれる。

病院へ入院して、一番嬉しかった事は、美しい看護師さんに世話をしてもらえることだった。

きれいな看護師さんに声をかけた。

「はじめまして。きれいですね。僕は、あなたのことが好きです。電話番号を教えてくださいm(_ _)m。」

マリアは、看護師の仕事の関係で、アメリカに留学する予定だった。あまりに唐突な言葉にびっくり!だが、どういうわけか、電話番号をサラサラ書いてしまった。

こうして、二人はリョウの入院によって、運命的に出会ったのだった。


第二章『退院プロポーズ』


リョウは、マリア婦長に一目ぼれしてしまった。看護師の間で、噂になっていた。「注射が怖いというワガママな日本人がいる」とリポートに書かれていた。

マリアは、テキパキと仕事をこなしながら、リョウのカルテとリポートを熱心に目を通した。

リョウは、マリアを見ると「あなたは美しい。あなたの目は、誰よりも美しい」と英語でアプローチしていた。

マリア婦長は、患者からこんなに情熱的に、声をかけられたことがなかったので、びっくりしていた。そして、この言葉をまともに受け止めていた。

マリア婦長は「注射が怖いのですか?」と、リョウに聞いた。彼女は、リョウに話しかけながら、アルコールで消毒をし、「なぜ嫌いなの?」と言った。

リョウは「痛いからいやだ」と言った。マリア婦長は「注射痛かったの?」と笑いながらウィンクした。

「えっ!?」「注射終わってるのよ」と。さすが婦長さん~。リョウは、また恋の虜になってしまった。

次の日が退院の日だった。リョウは「おなかが痛い」と言ってごねていた。検査をしても異常がなかった。

「原因は何ですか?」とマリア婦長は尋ねた。リョウは「あなたです。僕と結婚してくれませんか?」と言った。マリア婦長は、あっけにとられた。


第三章『電話番号』


マリア婦長は、心臓が破裂するくらいに驚いた。「結婚?」と呟いた。 「そうだよ」とリョウは答えた。

マリア婦長の頭は、パニックになってしまった。仕事でアメリカに行く準備を始めていた。仕事に打ち込み、仕事に生きがいを見出だし、猛烈に勉強していた。

若い女性なら、誰でも甘い恋愛を夢見るのだが、彼女は、そんな暇はなかった。

仕事の現実の中に生きていたし、婦長という立場は、責任が重かったので、ウキウキしている気分にはなれなかった。

「早すぎるんではありませんか?私は、仕事でアメリカに行かなければなりません」と断った。こんな一言でめげるようなリョウではなかった。彼は、外国にきて嬉しくて堪らなく、ウキウキ気分だからだ。

仕事も、ちゃんとこなし、積極的に食いついていく強いパワーを持っていた。ところが、注射が怖いという子供のような無邪気なところもあった。

美しい女性に弱かった。外国の女性を見る度に、映画の主人公になったような気分で恋してしまう。浮かれ浮かれてしまうのだった。

マリア婦長に断られているのに「じゃあ、エアポートにお見送りに行きたい。是非、電話番号を教えて下さい」と~。彼は、いつも素敵なロマンを求めていた。


第四章『検査』


「10日間入院していて、お付き合いもしていないのに、プロポーズするなんて~!」と、マリア婦長は、ふと思った。24歳になっても、一度も、男の人とお付き合いしたことがなかったので、どういうことなのかさっばりわからなかった。

足の親指を怪我して入院し、退院が決まったいうのに「おなかが痛い」とただをこねる。仕方がないので「それでは、検査しましょう」と医者は言った。

検査の結果が出た。マリア婦長は「全然どこも悪くありません」と、はっきりした口調で話した。リョウは、「あなたに、是非また会いたいのです。アメリカに行かれる時、お花を持って、お見送りに行きます。その為にも、あなたの電話番号を教えて下さい」と頼んだ。

彼の目は真剣で、澄んでいた。マリア婦長の心は、揺れていた。アメリカにいく為に、病院を掛け持ちして働き、資金を作っていた。恋愛どころではなかった。

「電話番号?」「はい、あなたの家の電話番号を教えて下さい」とリョウは、大きな声で言った。彼女は、困った。

「わかりました。私は家族と一緒にいます。さあ、書きましょう」とさらさらと書いた。それは。デタラメの番号だった。


第五章『嘘』


マリア婦長は、電話番号も、適当な番号を教え、もうひとつ、嘘をついていた。アメリカへ行く為に、一生懸命働き、資金を貯めていた。そして、テストに合格する為に一生懸命勉強していた。これは、本当のことだった。

たが、もうひとついいかげんな嘘をついた。余りに突然、リョウからプロポーズされたので、つい口から出てしまった。 「私には、結婚を約束しているフィアンセがいます」と言ってしまった。

リョウは、諦めた。婚約者がいては、どうにもならない。あっさり「そうですか?それは残念ですね。お幸せになって下さい。僕は、エアポートにお花を持って、お見送りに行きたかった。残念です」と言って、「お世話になりました。ありがとうございました」と会釈をした。

怪我が治って、翌日退院していった。リョウは、自分の子供のことを考えた。「僕に似たら、可愛くない。目鼻だちがぱっちりして、優秀な子がいいな」と勝手に夢をみていた。マリア婦長は、リョウの理想の女性だった。

顔立ちも美しく、気品に満ち溢れ、頭も良さそうだった。真剣に仕事に取り組み、向学心が強く、笑顔が素晴らしかった。そっけなく、振られてしまったのだか、美しい女性を見ると、また元気になった。

アラブ系の女性は、髪の毛を見せたらダメなので、チャドルをかぶっている。スカーフで顔が見えるか見えないかだが、それがまた美しいのだ。

マリア婦長を諦めたが、美しい女性に、かたっぱしから声をかけていった。アフガン、アラビアの国の男性は、パーティで美しい女性を見つけると後をつけていって家を確かめる。みそめたら、人を介して「お嫁さんにきて下さい」と、申し込むという。

リョウは、日本人なのだが、外国生活が長い為に外国人的な感覚になっていた。また、この国が好きで、すっかり馴染んでいたのだろう。

マリア婦長は、退院して目の前から消えたリョウの一言が心に残った。

「お花を持って、エアポートにお見送りに行きたかった」

リョウの誠実さとこの言葉が、大切な宝物となった。


第六章『バッタリ運命』


そのまま、リョウと会うことはなくなった。

マリア婦長は、仕事と勉強に明け暮れした。生活は、充実していた。

資金も準備が出来て、テストにも合格して、半年後にアメリカに立つことがやっと決まった。

長年の夢が叶うことになり、気分は最高だった。そんな彼女を友達が「マリア、お買い物に行きましょ~」と誘ってくれた。

友達と一緒にデパートを歩いていたら「お久し振りですね~」と声をかけられた。ふと、振り向くと、2年前に入院していたリョウが立っていた。「アメリカから帰られたんですか?結婚なされたんですか?」と聞かれた。

「いいえ、アメリカは半年後ですし、結婚はしていません」と、突然聞かれたので、とっさに答えてしまった。「あっ、そうだ。この人には、婚約者がいると言って断ったんだわ」と二年前のことを思い出したのだった。

友達が「良さそうな人ね。今度のキャロルの誕生日パーティにお誘いしたら?」と耳打ちした。

リョウもその時、友達と一緒だった。「よろしかったら、私達のパーティに来ませんか?」と誘った。「喜んで~」と笑顔でリョウは答えた。男の人に、自分の住んでいる所の電話番号を渡したことはないが、この時初めて、自分の電話番号をリョウに教えた。マリアは、パーティを心待ちにしていた。約束もしていない二人が、偶然デパートで、バッタリ出会ったことに運命を感じていた。


第七章『日本』


友人の誕生日パーティにリョウは、友人二人と一緒にやって来た。友達がいっぱい集まって、キャロルの誕生日を祝った。マリアは、リョウとダンスをしたり、おしゃべりをしたりして、楽しんだ。アメリカで勉強して、助産婦の資格を取るつもりでいたので、ボーイフレンドは、一人もいなかった。

友達が「悪い人じゃあなさそうね。付き合ってみたら?」と小さな声で囁いた。

その友達は、占いを信じていた。コーヒーカップの模様から、占うようだった。マリアを占い師の所へ連れて行った。「あなたは、舟みたいな国で暮らすことになりますよ」とマリアに告げられた。

友達は「キャー、リョウの国は、海に囲まれた舟のような形の国よ。日本よ!」と言った。その友達の言葉がマリアの心に響き渡った。「もしかしたら、私の運命かも~」と想うようになっていた。一か月後にアメリカに行かなければならなかった。マリアの心はゆらゆら揺れた。

お正月に、友達と旅行した。イスファーンに出かけたのだが、ある宮殿で、また偶然、リョウ達とバッタリ出会ってしまったのだ。「どこのホテルに?」と聞かれても答えなかった。「あなた達のホテルは?」と聞いた。マリアたちは、安いホテルに泊まっていた。彼らは、一流ホテルだった。

デパートで偶然、バッタリ再会したり、旅先でも、こうして偶然、バッタリ出会ってしまった。

今まで、運命を信じていなかったが、今回は密かに信じた。「アメリカ行き」が「日本行き」に変わるかもしれない。マリアは、そんな予感がした。


第八章『宗教』


旅先で偶然、リョウに出会えたことが、マリアの心に運命を感じさせた。彼らのホテルに、みんなで、遊びにいった。

リョウは、礼儀正しく、楽しく色々な所を案内してくれた。友達に「素敵な人ね。お付き合いしてみたら?」と進められた。

その後「キァバレー」に誘われた。日本のキャバレーとは、少し違って、一流の歌手が歌いに来るところだった。マリアは、そういう所は、初めてなので友達も一緒に誘って出かけた。二人だけのデートはほとんどなかった。

結婚のことを考えると、宗教の問題がある。マリアの国では、何の宗教も持たない人は、「人間じゃあない」と思われている。マリアの両親は、特に信心深い方だった。

日本のリョウの家は、仏教だが、彼自身は特に、宗教にこだわっていなかった。マリアも両親ほど、信仰している訳ではなかった。

ある日、彼女はリョウがイスラム教の本を読んでいるのに気付いて「宗教は何ですか?」と尋ねた。「家は仏教ですが、僕は、イスラム教になっても良いと思って、今勉強しています」と答えた。

この時、初めてマリアは「この人と結婚してもいいな~」と思った。そして、両親に彼のことを紹介しようと決心した。


第九章『結婚』


マリアは、「あなたのことを私の両親に紹介したいんですけど~」と話すと、リョウは喜んだ。

とても美しい景色に包まれた大きなお屋敷だった。プールもあって、ペルシア絨毯が敷き詰められていた。リョウは、だんだん緊張してきたが、マリアが明るくて、面白い話をしてくれたので、笑ったら、気分が軽くなった。

付き合った期間は、短かったが、出会った瞬間から一目惚れだったから、「結婚」のことは、考えていた。どんな質問をされるのだろうか?

家族団欒の後に、マリアのお母さんが質問をした。「あなたの宗教は何ですか?」と聞かれたので「イスラム教を学んでいますので、たぶんそうなると思います」と答えた。お母さんは喜んで「そうだったら、結婚に何の問題もありません」とあっさりと答えた。どこの大学出身かも聞かなかった。

お父さんは、マリアに向かって「あなたはこの方をどう思いますか?」と聞いた。「はい、よい人だと思います。結婚しても良いと思っています。私は、アメリカに行って、勉強するつもりでいましたが、リョウの国,日本に行っても良いと思っています」と父親の目を見て話した。

「私は、あなたのこと信じています。ちゃんと仕事も技術も持っているから、もしも、離婚ということになっても、一人で暮らしていけますね」と言われ「はい、大丈夫です」と答えた。「私達は、リョウさんに今日会ったばかりで何もわかりません。人間的によい人であなたが尊敬できる男性だったら何も反対しません」

「大使館で彼の経歴を調べてもらいますが、あなたが、自分で責任とって生きていけれるならば、どこの国に暮らしていても自由です」と、父親は、きっぱりとした口調で娘に話した。

「娘が遠い国に、嫁ぐことは喜びと同時に寂しさもあることだろう」と、リョウは、察した。


第十章『結婚式』


お互いの両親の承諾を得て、二人は結婚式をあげることになった。式の時には必ず宗教のことを尋ねられる。

マリアは、そのことが気になって心配だった。式の時に「あなたは、イスラム教ですか?」と聞かれたら「はい」と答えて欲しいとリョウに伝えた。何でも聞かれた時には「バレー」て言っておけば、結婚式は、スムースに進行されることも話しておいた。

お互いに生まれた国が違うので、文化やしきたりが違っている。それを乗り越えて結婚しようとすれば、いくつものハードルを超えなければならない。最初のハードルが宗教の違いだった。そこで、リョウは、イスラム教の勉強をしてきた。

結婚式は、親戚と縁ある人々が、たくさんお祝いに駆け付けた。マリアも、美しい花嫁となり、人生のパートナーとして、リョウと共に歩むこととなった。

日本のお母さんが、マリアの家に訪れた最初の言葉が忘れれない。「こちらで、こんな立派な家、広々とした敷地で生活していたのね」と驚き「ごめんなさい。日本は、狭くて、小さな家に住むことになるわ。本当にごめんなさい」と何回も謝られた」

マリアは、「かまいません。リョウさんと一緒なら、どこでも大丈夫です」と明るい声で答えたので、リョウの母親は安心した。

「あなたは神様みたいなひとですね」と、マリアの目をじっと見つめていた。

こうして、みんなの祝福に包まれて、二人にとっても、記念すべき日となった。


第十一章『舟の形の国へ』


無事、結婚式を終えて、二人の新婚生活がスタートした。しばらくしてから、仕事の都合で、リョウは、日本に帰ることになった。家族との別れは寂しかったが、マリアは覚悟をしていたので、日本へ行くことはそんなに辛くはなかった。

日本に来て、少しづつ生活に慣れて来た時に、初めての赤ちゃんを身籠もった。マリアもリョウも嬉しくてたまらなかった。「赤ちゃんが生まれれば、パパが外国に出張しても寂しくないわ」と喜んだ。

日本に来て、慣れない生活の中で、哀しいこともあったが、いやなことはすぐに忘れるという性格だったので、少しづつ日本人の友達が出来た。

リョウは、マリアのことを「悪いことはすぐに忘れ、根に持たない。いいことだけしか思わない。コッコッコッと鳴き、2、3歩歩いたらすぐに忘れるにわとりみたい」と言っている。

リョウのお母さんが訪れた時には、財布ごと渡して「これでお買い物お願いします」と言う。「えっ~この財布?」と姑は驚いた。「あなたの息子が働いていただいたお金ですから、自由に使って下さい」と言うのだった。この時も「あなたは神様みたいな人ね」と囁いた。

だがどれだけリョウが「家計簿をつけたら?」と言っても、「頭の中の家計簿につけたから~」と答えてやらなかった。頭の中にパソコンのように記録された。彼女は、頭脳明晰の天才だった。

彼女のお腹から生まれた男の子は18歳の時「日本の天才」として本に載った。現役で東大の医学部に入り、現在外科医である。二人目の女の子も天才でアメリカの大学を卒業し、現在、カナダの大学院で学んでいる。

リョウが一目惚れした天才マリアは、二人の天才を地球上に生み出した。

きっとんとん~天才マリア物語~おしまい~


■第18話「さくらの人生いろいろ(2007.9.20~2007.11.3)全26章」

■第18話「さくらの人生いろいろ(2007.9.20~2007.11.3)全26


『あらすじ』


テーマ:「さくらの人生いろいろ」

登場人物

父親:けんじ

母親:さくら

長男:ゆきひろ

次男:ゆうた

姑 :たみばあさん

舅 :よしじいさん

さくらは「和食レストラン:木の子」をご主人と一緒に経営しています。気が優しい舅と気が強い姑に囲まれて、四苦八苦しながらも、現在にいたっています。今では、信じられないほど優しくなった姑との会話が、家族の心に灯をともしています。

お店を持ちながら、子育てをし、嫁姑戦争を繰り広げながらも、子供たちを大切に育ててあげた「さくらの人生いろいろ」です。

家族関係で悩んでいる方々の道標になると信じながら書いてゆきますね。どうか最後までごゆっくりお楽しみ下さいますように~(o^-')b


第一章『電話』


さくらは、19歳。ある会社のOLである。高校を卒業し、社会人となって、2年目となった。さくらの他に、ひとつ先輩のなみこがいる。

独身は、この二人だけなので、男性社員も優しくて、大切に接してくれるので、居心地がすこぶる良かった。

さくらは、男の人が怖かった。高校2年生から交際していたとしおが、暴力的で、怖い体験をしたからだった。クラスの他の男の子と話す事も許されず、女の子の友達とどこかに出かけても叱られてしまう。

家には、毎日、電話がかかってくる。今のように携帯電話が無いので、母親が「また、彼から電話よ」と言って繋いでくれる。

最初は喜んでいた母親が、だんだん心配するようになってきた。さくらの様子が楽しそうに見えなかったからだ。「うまくいってないの?」と母親はさくらに聞いた。「ううん、そんなことないよ」と答えた。

本当のことが言えなかった。あまり心配かけたくなかったのだ。本当は、彼の束縛の為に、だんだん高校生活が、味気無いものになり、全然楽しくなかった。だが、初めて男の子と付き合ったので別れ方がわからない。

高校卒業して、就職が決まって、それぞれが違う会社に入社した。別れるチャンスがやっと訪れた。電話で「別れたい~」と言った。「何言ってんだ。俺は別れないぞ」と怒ってしまった。「堤防まで出てこい。話をつけよう!」

さくらは、両親には何も言わないで「ちょっと近くまで行って来る。友達と会って来るから~」と言い残して、自転車に乗った。

近くの堤防で、彼の姿を見つけた。不機嫌そうな顔で立っていた。「どうして、そんなことを言うのだ!俺は別れないぞ。なんだその顔は!」と怒り出した。怖くて涙がこぼれた。「なぜこの人と付き合って来たのだろう?」と頭が真っ白になってしまった。

やっとのことで「別れたい~」と力をふり絞って一言言えた。彼の顔は真っ青になり、唇を震わせながら、自転車の籠から、包丁を取り出し「別れるならお前を殺す!」と怒鳴った。

さくらは、恐怖で呆然とした。


第二章『別れ』


さくらは、焦った。相手は興奮して青ざめ、包丁を持った手は、小刻みに震えていた。「おまえを殺す」と怒鳴った顔は、引きつっていた。

このままだと本当に殺されてしまうと思った。「冷静に、冷静に」と心の中で呟いた。すると、付き合い始めた頃の楽しかった思い出が頭をよぎった。

突然、さくらの泣き顔が、笑顔に変わった。

「ありがとう、としお君。初めて男の子とつきあったから、あなたを怒らせてしまうのね。ごめんなさい」とペコンと頭を下げた。

咄嗟にさくらの口から「ごめんなさい」が出た。興奮していたとしおは我にかえった。そして、包丁を持った手を下ろした。「悪かった。さくらと別れたくなかったんだ。わかった!つい、カッとしてしまったんだ。ごめん!」と謝った。

辺り一面が暗くなってきた。「遅くなってしまったなぁ~家まで送っていくよ」と言って、自転車に乗った。さくらは、思わず「うん、ありがとう」と言って、自転車に乗った。

堤防を10分くらい走ったら、家に着いた。

「これで、もう会えないんだな。元気でな!」という一言を残して風のように去った。さくらは、なんだか映画をみているような気分だった。ふと気がついた時、自分が生きていることを実感した。

こうして、高校生の恋愛がひとつ終わった。男の人に対する恐怖心が、さくらの胸に中に、ひとつ刻まれた。


第三章『就職』


高校を卒業して、就職した会社は、電車とバスを乗り継いで、通勤した。この会社の男の人は、親切で優しかった。仕事も慣れてきて、先輩のなみこに褒められることもあった。

そこへ、お客様として現れたのが、けんじだった。背が高くて、顔は童顔だが、感じの良い話し方だった。かっこつけずに田舎弁で話しかけてきた。付き合ってもいないのに、さくらは「この人!」と何か直感が走った。

就職して、半年後に電話がかかった。会社の電話に出るとけんじだった。「どこかで会わへん?」と誘われた。「えっ!」と聞くと「どこだったらわかる?」と機関銃のように次々に聞いてきた。「分かるのは市役所だけよ」と答えた。

「じゃあ、今度の日曜日に、市役所前に迎えに行くから…」と言って、電話が切れた。仕事の話から始まったのに、デートすることになってしまった。何だか不思議な気分だった。

日曜日に初めてデートしたのだが「本当に私なのかしら?」「もしかしたら、先輩のなみこさんと間違えていないかしら?」と思っていた。けんじを待っている時、不安が押し寄せてきた。

市役所前で待っていたら、けんじの車が泊まった。真っ先に「私で良かったんですか?なみこさんではない?」と聞いた。けんじは、にこっと笑って「僕が会いたかったのは、さくらさん、あなた…!」と答えてくれたので、ほっとした。

二人は、伊吹山にドライブした。青空でさわやかな笑顔をみせてくれるけんじに、さくらは、安心感を抱いた。「何か食べたい?」ときかれたので「うん」と頷いた。初めてのデートなのに、そんな気がしなかった。

無口な人だと思っていたのに、良く話して、面白かった。ほとんどが仕事の話だったが、楽しかった。食事をしている時、ふと見ると、ナイフとフォークを器用に使いこなしていた。「この人は、手先が器用なんだ」と思った。この日をきっかけに、たびたびデートするようになった。


第四章『親戚』


白いワーゲンに乗って、迎えに来てくれるけんじは、いつも優しかった。さくらは、会社で仕事をしていても、電話が鳴るたびにドキドキしていた。お客様が入って来ると「けんじさんかしら?」と、ときめいた。

特に「付き合おう」と言われたこともなく、ロマンチックなシーンも全くなかった。「映画見にいこう」「ラーメン食べにいこう」というように自然体だった。会ってもほとんど仕事の話だった。

仕事の話を夢中にしているけんじの顔がかわいかった。さくらは、自分が19歳だったので、二つか三つ上だと思っていた。「けんじさんは、何歳なの?」と聞くと「26歳だよ。どうして?」と答えた。

「えっ、私より6つも上なんですか?もっと若く見えるんですもの~」とさくらは、びっくりした。彼女は、まだ結婚のことは、考えていなかった。だが、けんじは、自営業で親から仕事を引き継いだので、一緒に商売を繁栄させてくれるパートナーを探していた。

営業のたかしから、さくらのことを色々聞いていた。「計算も早くて、テキパキと仕事をこなして、笑顔がかわいい」と評判がいいことがわかった。たかしが「嫁さんにすると、あんたんとこの店が繁盛しますよ」と言っていた。けんじは「僕が探していたのは、この女性だ」と思った。

三年過ぎ、愛を告白するシーンもなく、プロポーズされた覚えもなく、自然の流れで、結婚した。結婚式は、ホテルではなく、レストランだった。新婚旅行は、外国ではなく、北海道だった。

けんじの父親は、7人兄弟で3男、母親は、9人姉妹の長女だった。母親の方が権力が強くて、すべてをしきっていた。全員が夫婦で出席されたので、さくらは親戚の多いのにも驚いた。その親戚が、みんな近くに住んでいるということが、色々なトラブルのもととなってゆくことを、この時はまだ想像も出来なかった。


第五章『新婚旅行』


さくらの家の方は、都会でもあり、親戚付き合いは少ない方だった。けんじの方は、叔父さんや叔母さんがいっぱいいて、顔と名前が覚えられない。「誰が誰だかわかんない~」と呟いたら「そんなにいっぺんに覚えなくていいよ。そのうちわかるようになるさ」と慰めてくれた。

結婚式を終えて、新婚旅行に旅立った。けんじは、式を終えてほっとしたこともあり、上機嫌だった。さくらは、ほっとしたのだが、何か寂しさと不安を感じていた。「あんなにたくさんの親戚が、まわりにいて、果たしてうまくつきあっていけるのだろうか?全く違う仕事なのに、旅行から帰って、出来るのだろうか?」

次々に不安が襲ってくるのだった。けんじは、さくらのことが心配になってきた。「どうしたの?」と聞くと、涙を浮かべて「お母さんたちと同居してやっていけるか心配だわ」と答えた。

けんじは「だいじょうだよ。僕が味方だから~」と力強く答えた。さくらの心は少し安心して、北海道旅行を楽しんだ。

新婚旅行の最終日に、さくらがしくしく泣いている。けんじは、不思議な気持ちになって「どうして泣いているの?」と聞いたら「早くお姉ちゃんやお兄ちゃんやお父ちゃん、お母ちゃん、おばあちゃんのいる家へ帰りたぁい~」と、ぽつんと言った。「えっ、君は、僕と結婚したんだから、帰るのは、僕の家だよ~」と、けんじが言うと「わぁー…!」と、さくらは、泣き崩れた。彼女は、末っ子で家族みんなからかわいがられ、甘えて育っていた。この時、初めて、自分の帰らなければならない家が違うことを、実感したのだった。


第六章『住まい』


新婚旅行で、空港に降りて、家に向かった。実家に帰るならば、明るいネオンの方なのに、嫁ぎ先へ帰るのに、どんどん暗い方へ車が走って行く。実家から、どんどん離れて行く。どこまでの田舎なのだろう~。

さくらの心の中には、不安の嵐が吹き荒れた。一時間半くらい走ってやっと家に着いた。家のあかりは、すべて消され、義父と義母の部屋だけ電気がついていた。もしも、ここが実家だったら、どの部屋にも電気をつけて、みんなが玄関で迎えてくれるでしょう。

部屋の中から、「お帰り。五目ご飯があるから食べんさい」と言われたが「おなかが空いてないので、いいんです」と、答えた。

新婚旅行で疲れていたさくらは、もう寝たいだけだった。「おやすみなさい」と言って、床についた。けんじは、明日の仕事をし始めた。

「もう、明日から仕事なんだわ!」と心が動揺した。住まいは、離れもなく、お風呂も食事もすべて一緒という同居だった。新婚さんというには、あまりにも、甘くない生活が待っていたのだ。住まいも同居で、その上、自営業で仕事も一緒にやらなければならなかった。末っ子で、甘えて育ってきたさくらにとって、波乱万丈な人生のスタートとなった。

きっとんとん~さくらな人生いろいろ~また明日ね(o^-')b


第七章『給料』


新婚旅行のあくる朝、さくらが目を覚まし、キッチンに入っていったら、そこには誰もいなかった。親戚のマツタケ狩りのお手伝いに行ってきたそうだ。

ひとりぼっちになり、淋しくて淋しくて「うちに帰りたい」と独り言を言いながら泣いた。倉庫を改造して作った部屋に馴染めなかった。全部の雰囲気が、生まれ育った家とは違っていた。

しばらくしてから、自営業の事務の仕事をするように言われ、やり始めたのだが、すべてがいい加減だった。さくらは、びっくり仰天!けんじは給料がなく、保険にも入っていなかった。出かける時は、母親からお小遣いをもらうというのだった。

「給料が無いなんて嫌だわ。これからどうやって生活するの?私が事務になったから、全員給料制にしてもいい?お兄さんだって家庭があるんだからその方が良いと思うわ」とさくらが言った。「じゃあ、おやじとおふくろに言っておくよ」と答えてくれた。舅は「お前に任せるよ」と言った。「おふくろ、さくらに何もかも渡してやってくれ。兄貴たちも俺も全員給料を出すようにするからな」とけんじが言った途端、姑の機嫌が悪くなった。

「なんで、今まで、わっちが全部やってきたのに、嫁さんに渡さなあかんのや」と怒り出した。すべてお金を握ってきた姑には、想像もしていなかった出来事だったので、カンカンに怒り出した。

だが、やるべきことを次々にテキパキとこなしてゆくさくらだった。婚姻届もいつになっても出されない。何でも呑気なのだ。その上、すべてにおいて無頓着だった。信じられないことばかり、驚くばかりだった。

姑は、次々、今までのやり方をかえてゆくさくらのことを、苦々しく思っているのだろう。来る日も来る日も姑の妹たちが、立ち代わり入れ代わりに訪れてくる。仕事が終わって、夕ご飯が済んだ頃になると、けんじの兄一家が、お風呂に入りにくるのだった。親戚が、近いので、毎日、誰かがやってくるのだった。そして、お茶を出したり、果物を出して、おもてなしをしなければならなかった。

数ヵ月後に、何だか気持ち悪くて、体調が良くなかった。「もしかしたら?」さくらは、赤ちゃんがお腹にいることを気付いた。毎晩、疲れ切っていたが、新しい生命の誕生に心が熱くなっていった。


第八章『女の意地』

財布を握っていた姑は、嫁が経理をやるようになって、喜ぶどころかイライラし始めた。

レストラン「木の子」は、姑のたみばあさんが、仕切ってきたのだった。ところが、嫁のさくらは、事務も出来るし、料理もプロ級の腕前だったので、口が出せなくなってしまった。

妊娠してつわりもあったが、仕事が大好きな彼女は、休まず働いた。たみばあさんは、さくらと口も聞かなくなってしまった。ドアを閉める時は、「バッターン」と閉める。一週間たっても、さくらが作った料理に手を付けなかった。あまりの激しさにさくらは「何か私がお母さんの気にさわったことを言いましたか?すみませんでした」と頭を下げた。それでも、なお、気持ちが治まらないらしく、よその会社に勤め出したのだ。

けんじも父親であるよしじいさんもほっとした。たみばあさんは、料理は手早く作れるが、大ざっぱだった。心は、悪い人ではないが、気性が激しく、言葉がきついので、お客様を怒らせたこともあった。女の意地があって、謝ることが出来ない人だった。

意地があって、近くの会社に通い出したが、自営業を仕切っていた彼女は、長くは続かなかった。

さくらに、借金も渡されたので、どうやって返済するか、寝ても覚めても考え続けた。

お腹の赤ちゃんの存在が、この時のさくらの心を支え続けた。翌年10月に、かわいい男の子が、誕生した。家中、大喜びだった。


第九章『子守り』


毎日の生活に追われていた。長男が生れてから、更に、忙しくなった。 ある日のこと。家事をしていたら、外から大きな声がする。

まっかな顔をして、怒鳴りながら家に入ってきたのだ。さくらの胸は、ドキドキした。

赤ちゃんの世話をしている時のことだった。「おまはんは、何をしとったんや!」と頭ごなしに叱られた。「えっ、何か?」

「外を見てみんさい。雨がふっとるやろ!」と、大声で怒鳴られた。実家でこんな叱られ方をがない。「洗濯物が濡れとるわ。子守しながらでも、ちゃんとやりんさい」とプンプンでした。


第十章『おばあちゃん』


急に降り出した雨で、洗濯物が濡れてしまったことを、姑に叱られたさくらは、ショックを受けた。「すみませんでした」と頭を下げてから、二階へ上がった。廊下から、南の方を向いて「おかあちゃん~」と言いながら、泣き出した。

「おかあちゃんだったら、あんなにこわい顔して怒鳴らないよね。いいわ、また、洗い直せばいいわって言うよね」と実家のある方向に向かってしくしく泣き出した。

慣れない仕事、慣れない育児、慣れない同居生活。すべてに疲れ切ってしまった。そんな毎日を暮らしていた時、実家の祖母から電話が入った。

「もしもし、さくらか?元気かね」その声を聞いた途端「おばあちゃん~」と一声出しただけで、胸が詰まって「わぁ~」と泣き出してしまった。

あくる日、また祖母から電話が入った。「おばあちゃん、どこにいるの?」「バス停まで迎えに来ておくれ」と言った。さくらは、驚いた。高齢の祖母が、電車とバスに乗り継いで、遠方からやって来たのだった。

母は、勤めているから、黙ってさくらの顔を見に来たのだった。「そんなに、いつも泣いてばかりいたら、子供が弱い子になってしまう。メソメソ泣いていかん~」と言いながら、さくらの背中をさすった。

「おばあちゃん、ありがとう」落ち着いたさくらに、笑顔が戻ってきた。励まし続けてくれた祖母は、96歳まで生きてくれた。


第十一章『嫁姑戦争』


仕事は、だんだん慣れてきて、さくらは、お客様にもかわいがっていただけるようになってきた。

姑は、相変わらず「おまはんなんかに、面倒見てもらいたくない」と平気で言ってくる。身体も疲れて、子供の世話に疲れていた時に言われたので「そんなら、義姉さんに面倒見てもらって下さい」と言ってしまった。

「あんなところへ行ったら、毎日けんかばっかりするわ」と、かんかんに怒って、ドアを「バタン」と閉めて、自分の部屋に入ってしまった。

さくらは「しまった。やっちゃった」と頭をかかえてしまった。あくる日から、ご飯も食べないし、挨拶しても返事もしてくれない。

家族中が、重い空気を感じていた。嫁姑戦争が静かに始まっていることがわかってしまう。姑は、近くにいる姉妹に電話をかけまくった。

ついに、叔父さんとなのる人が、さくらに話があると、家に訪ねてきた。「あんたも大変だろうが、ここはひとつ、私の顔を立てると思って、ばあさんに頭を下げてもらえんやろうか?」と頼まれた。舅も、けんじも驚いて目を合わせた。

「あの人は言い出したら聞かへんのや」と舅も言った。けんじの顔をみたら「すまん」という表情をしていた。さくらは「わかりました」といって姑の部屋へ向かった。

「おかあさん、入っていいですか?」と聞くと、低い声で「入りんさい」と答えた。「口答えをしてすみませんでした。これから気をつけます」と、正座をして、手をついてあやまった。

姑は、勝ち誇ったような顔をして「これからは、気をつけんさい」と言った。さくらは、自分の部屋へ入って、泣き崩れた。「涙はこれっきりにしよう。もうあのばあさんの為に泣くのはやめよう。こんなばからしいことはない」と心に決めた。少し強くなって二人目の男の子の赤ちゃんを生んだ。


第十二章『孫』


仕事も家事もすべて、さくらの手に渡った。そして、お店のお金まで姑の自由にならなかった。悔しさ、情けなさが体中に染み込んだ。朝起きると、畑仕事に出掛けていった。

さくらは、二人目を出産してから、この家を出て行かないことを心に誓った。

それまでは、辛いことがあるたびに「ここから出たい」と思っていた。二人の息子達の寝顔を見て、「ここで頑張ろう」と決めた。けんじは、いい人なんだけど、母親のことになると、逃げ腰になってしまう。

さくらは、ふたりの子供達の顔をじっと見つめ、姑の気持ちを想った。「そうだ、この子達の子守をしてもらうことにしよう」と考えた。おばあちゃんと孫は、きっとよい関係になるだろう~。

ある日「お母さん、私は仕事をしなければなりませんので、二人の子供の面倒を見ていただけませんか?」とお願いをした。そして、ペコンと頭を下げた。

姑はにっこり。「そうか、そんなに頼みんさるなら、見てやってもいいんな」と低い声でつぶやいた。

畑仕事ばかりやって、愚痴ばかり言っていた、姑が生き生きしてきた。慣れた手つきで、孫の世話をするようになった。

「ばあちゃん、ばあちゃん」と、二人の子供達が次第に、なついていった。

さくらは、少し淋しい気持ちになったが、ほんの少し、身体から毒矢が抜けてゆくような気がした。


第十三章『長男と次男』


さくらは、子育てを姑に手伝ってもらいながら、仕事に励んだ。姑は、孫がなつくようになったので、かわいくてたまらないようだった。

「おまはんには、何も勝てるもんがなくなった。仕事も家のことも、何も勝てれん。畑仕事だけは、おまはんには負けん」と呟いた。さくらは「まるでライバルみたい」とひそかに闘志を燃やした。

さくらの夫は、次男だが、両親の面倒をみるために、同居している。姑はいつも長男をみて「お前は何をやってもダメやな。弟の方がよう間に合うし、誰からもかわいがられるので、商売向きや。かあちゃんは、弟のけんじに老後の面倒をみてもらうから~」と息子達が小さい頃から言っていたそうだ。親が、自分の為に子供を選んでいた。

けんじは、こうして育ったので「僕がかあちゃんの面倒をみる」といつも言っていたそうだ。そして、長男が結婚したら、弟と一緒に家を出て、新しい家を建てた。

長男は、大人になった今も、母親とあまり口をきかない。いつも、弟と比較されてきたから、兄弟があまりうまくいっていない。

偶然だが、さくらにも二人の男の子が生まれた。姑と長男との関係を目の当たりにしたさくらは、自分の子育てを考えた。長男と次男と分け隔てしないようにしよう。比較をするようなことはしないようにしよう。

姑は、誰に対しても言いたい放題の人で、相手がどんな気持ちになるのかなんておかまいなしだった。さくらも、この姑のお陰で、随分鍛えられ、強くなってきた。

赤ちゃんは、寝ているので、なるべく長男と遊ぶように心掛けた。病院に行く時も買い物に行く時も「おばあちゃんを、呼んできてね」と長男に言った。「おばあちゃん、お出かけだよ」と、嬉しそうに走って行った。


第十四章『反省』


姑に子守を任せてから、段々機嫌が良くなり、嫁姑戦争も少しづつ、下火になってきた。しかし、相変わらず、姑は言葉が汚くて、さくらが「ハッ」とすることがあった。

子供たちが、小学校になると「千円やるから、しゃべれ」と姑が息子に話している光景をみてしまった。驚いてさくらは、言った。

「子供が話したくなるようなそんなおばあちゃんになってもらわないとね。そんなふうにお金やるから話せなんて言わないで下さい」と怒ってしまった。

「おまはんは、きつい嫁やなぁ~。こんなに可愛がって育ててやったのに、学校であったことも、何にも話してくれないんやで~」とため息をついた。孫がだんだん大きくなって、手が離れてしまい淋しくなったのかもしれない。

さくらは「おばあさん、二人とも男の子だから、だんだん話さなくなってもしかたがないでしょ」と言った。「でも、けんじは、男の子だったけれど、何でも話してくれたで~」と昔をなつかしく思い出しながら語った。だから、きっと次男をかわいがり、長男に愛情をかけなかったのだろう。次男は自分の思い通りになる子供だったのかもしれない。

さくらは、長男に目をかけ、手をかけ、愛情をいっぱい注いだ。下の子に手をかけて、上をひがませてはいけないと思っていた。皮肉なもので、長男に気を使って育てたら、次男が愛情不足になったかもしれないと反省した。二人とも同じようにかわいいのに~。

次男が長男に気を使い、母親の隣の助手席には、絶対座らなかった。お兄ちゃんに遠慮して、小さくなっていた。長男は、明るく伸び伸びと、元気いっぱいに育った。次男は、気管支が弱いし、お腹も弱くて、病気がちだった。姑のようになりたくないと思って、一生懸命育ててきたのだが、次男が愛情不足だったかもしれないと、さくらは、反省したのだった。


第十五章『夫婦』


さくらは、息子達を差別をしたり、比較をしたりしないように、育ててきたつもりだつたが、弟がひがんだところがあるような気がしてきた。

小さい頃は、おちょけて面白い子だったが、だんだんしゃべらなくなってきたし、勉強もしなくなってきた。

姑は、さくらの夫ばかりかわいがってきたので、長男である義兄とうまくいっていない。だから、「あんな育て方はしたくない」と思った。頑張って育ててきたはずなのに、子育ての難しさが身にしみた。自分が母親として未熟なんだと痛感した。

そんなさくらの気持ちは関係なく、姑はおじいさんのことを、ボロンクソにけなしてしまうのだ。それも孫がご飯を食べているというのに~。

夫婦げんかは、日常茶飯事だった。「おまはんのことなんか、好きでも嫌いでもないのに、結婚してやったんや」とみんなの前で平気で言った。

舅も夫も何も言わなくて、黙々とご飯を食べている。

重い雰囲気となって、ご飯が美味しくない。さくらは、我慢ができなかった。「おばあさん、お願いですから、食事の時に夫婦喧嘩しないで下さい」と言った。「なんであかんのや~」とご機嫌斜めになってしまった。

「子供達が聞いていますから~」とさくらは、答えた。「おまはんは、ほんとにきつい嫁やな。老後は、おまはんなんかの世話になりたくないわ」と怒って自分の部屋に行ってしまった。舅は「あれに逆らうとワァというで、黙っていたほうがいいよ」とさくらの耳元に囁いた。


第十六章『束縛』


帰って来た時には、必ず玄関の所のマッサージをする電気の椅子に座っていた。「ただいま」と気分よく帰っても、怒ったような顔をして、「遅かったやないか」と叱られるのだ。

「お帰りなさい」という優しい一言がほしかった。二人の息子に「どこまで行ってきたんや。何を食べてきたんや。おもしろかったか」と次々に質問している。

毎回、聞かれることは決まっているので、家の近くに来ると、車の中で打ち合わせをした。

美味しいご馳走を食べてきた時も、「うどんたべたよ」とか「ラーメン、そば食べた」と、答える事にしていた。

高いものを食べると贅沢だと叱られるから、車の中で打ち合わせをしなければならなかった。

さくらは、食べ物も着る服も、姑に気を使い、くたくたに疲れてしまう。自由がなく、いつも呼吸が苦しくなるほどの束縛を感じていた。

子供達もだんだん大きくなって、おばあちゃんとおかあさんとの関係に、子供なりに神経を使っていた。

舅と夫のけんじは、何を言われても、姑には逆らわなかった。さくらは、仕方がないとあきらめながらも、淋しさを感じていた。二人の息子達は、母親が、頑張る背中を見て、成長していった。


第十七章『運命的な出会い』


長男のゆきひろは、すくすくと元気良く成長し、高校受験もスムースにいき、希望校に入学できた。ところが、次男のゆうたは、身体が弱く、さくらは、心配だった。感性も鋭くて、家族のトラブルにも、敏感なところがあった。

さくらは、夫婦の会話、嫁姑の会話などに、気を使った。ゆうたは、中学生になって、身長は伸びたが、だんだん目付きが鋭く、無口になっていった。

勉強もだんだんしなくなり、学校で教科書を開かなくなってしまった。学校から、電話があると、さくらは「今度は何をしたのだろう」とドキドキしてしまう。「このままでは、ゆうたは、高校に入れなくなってしまう」あせる気持ちを押さえながら、毎日を過ごしていたという。

その頃、ミニバラの活動のことが、さくらの耳に飛び込んだ。「何とかミニバラにご縁があるように~」と、彼女は念じていた。「念ずれば花開く」の言葉通りのことが起きた。

近くのコンビニで、ばったり、私に出会った。さくらは「あの子です。ほら」と目で合図をした。私は「こんにちは、大きくなったね」と笑顔で挨拶をした。

照れ臭そうな顔をして、ペコンとおじぎをした。確かに彼の目は、鋭かった。この時が、ミニバラとの運命的な出会いとなった。


第十八章『獅子座流星群』


さくらは、切羽詰まっていた。目に涙を浮かべながら「なぜだかわからないけど、突然勉強しなくなり、成績表は、坂を転げるように、落ちてしまったわ。私には、なぜだかわからないので、助けて欲しいの」とた頼まれた、兄のゆきひろと息子が同級生だったので、さくらの家の事情は、察していた。

「わかったわ。なんとか探ってみるわ。お母さん、彼のことをできるだけ教えて欲しいの。ゆうた君は、何が好きなのかしら?」と尋ねた。「ゆうたは、絵が好きだわ」と答えた。

「そうなの?ミニバラは、画家さんにも支援して頂いているので、本物があるわ。絵を見に来させてね」「わかったわ。それと星を見ることも好きよ」とさくらは、だんだん笑顔になってきた。

「大丈夫よ。お母さん、三十年待ってね。今14歳 、まだ間に合うわ」と私は、明るい口調で言った。

数日後、電話が入った。「ゆうたが本物の絵が見たいと言いました」と嬉しそうな声だった。「まあ、よかった。まずはじめの一歩だね」と答えた。

お母さんと一緒に現れたゆうたは、普通の中学生だが、感性の鋭さを漂わせていた。そして、その目は、人間不信を物語っていた。話かけても、殆どしゃべらず、首を振るだけだった。その顔は、無表情ではあったが、何が救いを求めているようだった。

「こんど凄く綺麗な獅子座流星群が見えるみたいよ。私と一緒に見ない?」と聞くと、黙って首を縦に振った。

当日になったら、ミニバラにやって来た。一晩中、夜空を見上げる彼の姿を見た時、未来に無限の可能性を感じた。「よし、私の命が有る限り、この子の未来に寄り添うことにしよう」と心に決めた。この日は、彼はミニバラに泊まり、学校にいく為に、朝早く帰って行った。「ありがとうございました」と、爽やかな顔をして、自転車で帰っていった。その後ろ姿に何かしら縁を感じた。

獅子座流星群と共に現れた少年となった。


第十九章『喜怒哀楽』


一緒に獅子座流星群を見てから、ゆうたは、少しづつ話すようになった。そして、卓球やバスケも仲間とやるようになってきた。

成績を上げないと高校へは行けない。主人と息子にも協力してもらった。息子のガールフレンドにも、事情を話して、英語を教えてもらうことにした。学習面は、彼等に任せ、精神面は、私が担当した。

カラオケ、ボーリング、ライブにも連れていった。無表情だった顔が、笑顔も見られるようになってきた。「楽しかった?」ときいたら「うん」と返事ができた。

私は、嬉しかった。心を閉ざし、睨み付ける目付きで、一言も話さなかったゆうたが、笑顔で返事ができたことに、感動をした。ひとすじの光が見えてきた

さくらに、その変化を伝えると、電話の声が明るくなった。その数日後、中学校のゆうたの担任から、電話が入った。

さくらは「学校から」と聞くと、胸がドキドキした。今までに一度も良い話はなかった。震える手で受話器を握った。「もしもし、お母さん?ゆうたくんが、授業中に初めて教科書を開きましたよ」と、明るく、はずんだ先生の声がした。

さくらは嬉しくて「ありがとうございました」と受話器を持ちながら、深々と頭を下げた。

ゆうたは、一歩づつ自分の道を歩き出した。


第二十章『未来人』


勉強に取り組もうとする姿勢が見えてきた。顔の表情が変化し、ほんの少し目付きが優しくなる時があった。音楽を聞いている時だった。

「だれの歌を聞いているの?」と聞くと「椎名林檎」と答えた。

「私も聞いてみたいな」と言うと、CDを差し出した。「あげるよ」と一言だけ~。早速、聞いてみると、若者の気持ちが一杯詰まった歌だった。胸が一杯になって、涙がこぼれ落ちた。曲と歌詞に感動してしまった。

「ありがとう。感動したわ。凄く良かったわ」と言うと「これもいいよ」と本を差し出した。その中のひとつの文章にも感動した。「凄いね。あなたは、あんな難しい本を読んでいるんだね。今は、学校のテストの点数は取れないけど、あなたの未来は明るいよ」と笑顔で話した。

ほんの少し、彼の気持ちがわかり、ほんの少し、彼が、何を考えているのか理解出来てきた。

ゆうたのお母さんに、すぐに電話をした。「さくらさん、長生きしてね。彼は学校の成績は悪いかもしれないけど、何かやってくれる未来人だよ。今ではなくて、未来を楽しみにしててね」と言いました。

「わかりました。長生きして、楽しみにします」と笑い出した。私と彼のお母さんの会話を聞いていたゆうたは、苦笑いをした。

彼の目を見るとキラキラと輝いていた。その顔は素直で、少年らしかった。そして、認められことが嬉かったようだ。


第二十一章『馬鹿』


ゆうたは、少しだが話をしてくれるようになってきた。

ある日のこと。私に時間ができた。「ゆうたくん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、聞いていいかしら?」と尋ねた。

彼は「うん」と一言言った。「あのね。中学になってから、どうして勉強しないと決めたの?」と聞いた。しばらく考えこんでいた。「話してみようかやめようか」迷っているようだった。重い口が開き始めた。

「5時間目の数学の時間だった。給食の後だったので、お腹がふくれて、眠かった。うとうとした時のことだった。先生にあてられてしまったんだ」とため息をついた。

「まあ、大変~それから?」と聞いた。

「答が間違っていたんだ」

「そうだったの。うとうとしてたから、仕方ないよね」とつぶやいた。

「でも、その時、馬鹿だなと言われ、笑われた」

「まあ、悔しかったでしょう」といった。

「数学の先生のアシスタントの先生まで笑ったんだ。クラス全員の前で、馬鹿だと言われたんだ」と下を向いて、ポツリと呟いた。

私は、その時のクラスの雰囲気や先生の様子が瞼に浮かんだ。彼のくやしさが身にしみた。「ごめんなさい!」と言って、頭を下げた。「感じやすい年頃の男の子に、そんなことを言うなんてねぇ~。先生を許してね。あなたは馬鹿じゃないよ」と言って、背中をさすった、。悔しさが背中に漂っていた。

「別に水谷先生があやまることないよ」と言った。「大人も時々失敗するからね」と返事をした。

それから、彼は元気になり、ほんの少し、勉強するようになっていった。さくら母さんの顔に笑顔が戻って来た。


第二十二章『コラージュセラピー』


ゆうたは、やっと心の内を話してくれた。彼が勉強をしなくなったきっかけのひとつは、わかった。学習ノートに「勉強しないと決めた」と書いてあった。さくら母さんが、ゆうたのノートを見せてくれた。

「うーん。彼はいったん決めたことは、やり抜くのね」と私が尋ねると「主人にそっくりで、気難しいんです」と答えた。

しばらくしてから「ゆうたくん、コラージュ作ってみたら~」と言ったら「うん、やってみる」と言った。

「えらい!ゆうたくん、変わってきたね。素直になったよ」と言ったらニコッと笑った。その顔は、凄く魅力的だった。

「あんた、いい男だから、きっともてるようになるよ。」

それから、夢中になって、コラージュを作り始め、一生懸命に考えながら作成した。

私は、完成した作品をみて驚いた。彼は、強い意志力を持ち、精神的レベルが、高いことがわかった。

だが、人間不信が現れ、大人を信じていないようだった。時間が必要だと感じた。

「ゆうたくん、あなたには、素晴らしい能力があるわ。あなたの中には、宝島があるけど、まだ自分の素晴らしさに気付いていないわ。ちょっと時間がかかるわよ」と言った。「とにかく自信を持ってね」と付け加えた。まず、「私が彼に信頼されれば、彼は変われる」と思った。コラージュからのメッセージだった。


第二十三章『大晦日』


ゆうたは、中学3年生になっていた。まだ、志望校が決まらない。さくら母さんは、気が気ではなかった。周りの子達は、行きたい高校目指して頑張っていた。

「もう、この子はどういうつもりなんだろう?」と段々心配になってきた。

ある朝、チャイムがなったので、玄関に出ていくと、さくら母さんが立っていた。「どうしたの?」と尋ねると「ゆうたがいける高校がないんです」とワァと泣き出した。

「まあ、落ち着いて落ち着いて~」と私は言った。次男のゆうたのことで頭がいっぱいになったので、最近では嫁姑問題が静まっていた。

さくらかあさんは、ゆうたの成績のことを気にしていた。

「わかりました。高校合格作戦を立てましょう」と笑顔で答えた。

「もうすぐ大晦日です。間に合うんでしょうか?」と不安そうだった。

「大丈夫よ。大晦日だから奇跡を起こすのよ」と言ったら、驚いた顔で笑い出した。


第二十四章『お年玉』


さくら母さんは、どうにかして、ゆうたが高校生になれないものかと、必死だった。私も作戦を練った。

ゆうたは、身体は大きくなったが、まだかわいいところがあった。そのことが,ひとつのなぞ解きヒントだった。理由があって、勉強しなくなったんだから、理由があれば勉強したくなるはずだ。

毎晩、考えた。全く勉強やらなくなった中学三年生の男の子にやる気を与えるには、どうしたらよいか~

「大晦日に除夜の鐘の音を聞きながら、勉強すれば、2年勉強したことになるよ。そしたら、高校合格するかもしれないね」と言った。ゆうたは「ぼくは、全く勉強しなかったから、大晦日に勉強してみる」と言った。

ゆうたの一言を聞いて「ぼくも~」と四人が手を上げた。「じゃあ、みんなでがんばりましょう」と約束をした。

大晦日当日。五人が一生懸命勉強した。除夜の鐘がなり始めた。さくら母さんは、みんなに年越そばを持ってあらわれた。主人は五人分のお年玉を持ってきた。

「さあ、約束を守れたから、そばを食べる時間だよ。」と私は言った。

今度は主人が「よく頑張ったからお年玉を一人づつあげるよ。正座をして、並びなさい」と言った。


第二十五章『達成感』


中学3年生の5人の男の子が、一生懸命勉強した。除夜の鐘を聞きながら、黙って、一心に勉強した。どの子の顔も真剣だった。ほれぼれするくらいいい顔だった。

「終わった。2年間勉強した。よし!」と言って、さくら母さんの作ってくれた、年越しそばをおいしそうに食べた。

そして、主人の言葉に従って、正座して一列に並んだ。主人もきちんと正座して「これからお年玉を渡すが、その前に去年の反省と今年の抱負を言え」と厳しい口調で言った。みんなは「えー、そんなこと言うの?」とざわめいた。

「いいぞ。お年玉いらないものは、おめでとうございますだけでいいぞ」と笑いながら言った。「わぁ~お年玉ほしいよぉ」と、またまたざわめいた。「おまえたち、男だぞ。しっかり自分の考えくらい言え」っカツを入れた。

見ているとおかしくて、さくら母さんも、笑い出した。主人のその様子を見ていて、私もおかしくなった。全く四人の息子達にやったように、彼等に、言っていたからだ。そこには、他人だけど、彼等の未来を想う父親の愛があった。私は感動した。5人の中学生達も、真剣に叱る主人を見て、感動したのだろう。

全員がそれぞれ、去年の反省と今年の抱負を語った。主人は「おめでとう。頑張りなさい。高校生になるんだよ」と一人一人に丁寧に言葉をかけた。どの子も全身で喜びをあらわした。

寒い風をきって、深夜に自転車に乗って帰って行った。「ありがとう」の言葉を残して~。彼等の後ろ姿を見送ったとき、全員が高校合格するような気がした。

ふと、さくら母さんの顔を見ると笑顔の中に涙が光っていた。「大丈夫よ。まだ少し時間があるわ。今晩、目覚めたから勉強するよ。合格するから大丈夫よ」と声をかけた。みんな私より大きくなってしまったけど、心はまだ純粋だから、真心を持って接すれば奇跡は起きると確信したのだった。主人に「貴方は真の教育者ね」と笑いながら言ったら「やつらを何とかしたいと思っただけさ」と照れ笑い。

さくら母さんも「ゆうたが勉強している姿が見れて、胸がいっぱいでした。ありがとうございました」と頭を下げられた。 「あの温かい年越しそばを食べたから、全員合格よ。愛がいっぱい詰まっているからね」とさくら母さんに言いながら、握手をした。


第二十六章『合格』


受験の日が近づいてきた。さくら母さんは、不安でたまらなかった。他の子は、次々に私立高校が合格してゆく。

ゆうたは、県立しか受けれなかった。口には出さなかったけど、受験生である本人は、やるせない思いだった。

だんだん機嫌が悪くなっていった。私は、さくら母さんから、家庭での様子を電話で聞いた。

「心配しすぎて、いろいろ言ってしまうので、ゆうたの機嫌が更に悪くなってしまいます」と言われた。「すみませんが、彼を焦らせないでね」と頼んだ。「ゆうた君の都合の良い時に、一度伺います」と言って、電話を切った。

彼の部屋に入った時、意外にも不安な気持ちを、素直に話してくれた。「じゃあね。一緒にイメージトレーニングしてみましょう」と言うと「何すればいいの?」と聞いた。

私は嬉しかった。「もしかしたら、素直にやってくれるかもしれない」と思ったからだ。

「あのね、今までゆうた君が、ヤッタァって、凄く嬉しかったことを思いだしてみて~」と言ったら「部活のバスケで試合に勝った時だった」と答えた。「あっ、そうなの。目を閉じて、シュートが決まったところを、イメージしてみてね。仲間が喜び、声援が聞こえてくるよ。出来るかな?」

「うん、出来たよ」と嬉しそうに答えた。「あたなは、随分成長したんだね。こんなに素直に私を信じてくれて~こんな嬉しいことはない」とにっこり。「もう、大丈夫よ。これを毎日やれば合格するわ。おめでとう」と言うと「まだ受かってないよ」と笑った。「笑う角には福来たり」さくら母さんもゆうたの笑顔を見て落ち着いた。

受験が終わって、全員が合格だった。さくら母さんの目から嬉し涙がこぼれ落ちた。

現在は、長男は公務員となり、次男は大学を卒業し、また専門家になる為に学び続けている。さくらは、育児を終え、ご主人と一緒に仕事をしながら、姑の介護に追われている。優しかった舅は、先に天国に旅立った。あんなに激しく嫁いびりをしてきた姑が「おまはんのお陰で、わっちは幸せ。ありがとう。すまんなも」と手を合わせる毎日が続いている。「あっ、おばあさんのオムツをかえる時間やわ」と、急ぎ足で帰ってゆく。まだまださくらの人生街道は、続いている。

きっとんとん~さくらの人生いろいろ~おしまい~長い物語を最後まで読んでいただいてありがとうございました。


■第19話「ドラえもん家族(2007.11.6~2007.11.23)全15章」

■第19話「ドラえもん家族(2007.11.6~2007.11.23)全15


『あらすじ』


これからはじまる家族は、ドラえもんのようなお母さんの物語です。

父親 公務員

母親 会社員

長女 りつこ

長男 まさと

姑 たえ

目の不自由な姑と嫁が喧嘩したり、協力したりして、二人の子供を育てる家族模様を描きます。

嫁と姑の間でオロオロする父親の姿も見られます。ほんとおもしろ家族です。楽しんでいただけたらうれしいなぁ~。


第一章『結婚』


せいこは、この物語の主人公である。普段は、おとなしいが、話し出すと無茶苦茶おもしろい。ドラえもんに出てくる「どこでもドア」を持っているように、どこでも簡単に出かけてしまう。

周りのみんなは、彼女のことを「ドラえもん」と呼んでいた。本人も、ドラえもんが大好きなので、結婚したら「ドラえもん家族」になろうと思っていた。楽しくて夢のある家族になりたいと願っていたのだ。

小柄だが、パワフルで、音楽大好き人間で、周りを驚かせていた。父親が経営している会社で経理を任されていた。父親でもある社長の心も支えるほど、真剣に仕事に情熱をそそいでいた。

ある日「お前もそろそろ年頃だが、誰か付き合っている人がいるんか?」と、突然聞かれた。仕事で精一杯の彼女にそんな人はいなかった。

「いないわ。全くね。優しくて、しっかりした男性なら誰でもいいわ」と笑いながら答えた。

「そうか、それなら、信頼している人に頼んでみよう」と言った。父親は行動が早かった。

本当に探してきて「一度会ってみないか?」と言われて、会うことにした。イメージどおりの人だったので「この人とだったら、ドラえもん家族になれそう~」と直感で感じて、結婚した。


第二章『夫と姑』


エィヤッと流れに乗って、せいこは結婚した。夫は、公務員で物静かで誠実な人だった。

姑は、目が不自由だったが、自分のことは、自分でできた。一人息子なので、母親思いだった。

そんな親子関係の間に入って生活したら、けんかが絶えないと思い、今まで通り勤めることにした。

実家の会社に通うのに一時間かかったが、仕事が好きだったので、苦にはならなかった。

好きな仕事をして、収入が得られ、懐が温かくなる。こんな良いことはない。結婚しても、住む所が変わっただけで、せいこ自身は、明るく楽しかった。

夫は、優しいので、何も言わなかった。ところが、姑はちっとも、家にいない嫁に不満を抱くようになっていった。

会社から帰って来ると、奥歯にものが挟まったようなことを言われる。「もう、ほんと、このばあさん何が言いたいんだぁ~」と、ムカついたが、何も言えなかった。


第三章『孫』


姑の機嫌は、あまり良くなかったが、せいこは一生懸命働き、良い嫁になろうと努力した。

毎日が、目が回るくらい忙しかった。だが、会社勤めといっても、毎日両親の顔がみれるので、姑にどんな嫌みを言われても、耐えることができた。

しばらくすると、体調を崩した。母親に「おめでたじゃあないの?」と言われ、病院へいった。「おめでたですよ」とお医者さんはにっこり!

せいこは、初めてのお産なので、不安そうに口を開いた。「あのう、先生、仕事は続けてもいいですか?」と聞いた。

「あまり無理はいけませんが、続けてもいいですよ。ご自分の体調を加減しながら、やって下さい」と言われ、ほっとした。

あの姑と、朝から晩まで一緒にと思っただけでも、冷や汗が出てくる。夫に、妊娠したことを話したけれど、大喜びすることもなく「あっ、そう」と一言。物静かなのはいいけど、もう少し、喜んで欲しかった。姑は「生まれたら誰が、面倒をみるの?」と一言。

せいこは「おめでとう、よかったね」という温かい一言がほしかった。実家は、大喜びだった。

「まあ、嬉しい。孫の顔がみれる」と赤ちゃん誕生を心待ちにしてくれた。


第四章『赤ちゃん誕生』


つわりもおさまって、せいこは、体調が良くなってきているのを感じていた。夫は、優しいのだが、女心がわかるような男性ではなかった。

何もいわないが、真面目でリッブサービスもない。一生懸命作った料理をペロリときれいに食べてくれるが「ご馳走様でした」もないし「おいしかったよ」もなかった。

何だか作りがいがなくて「ご馳走様とかおいしかったとか、たまには言ってよ」とプンプンご機嫌斜めになってしまう。

本来は、明るくおもしろいせいこだけど、家庭では、イライラがつのってきた。

だんだんお腹が大きくなって、身体も疲れやすい。大きなお腹は、周りの妊婦さん達とは違っていた。

病院で医師から「双子ですよ。頑張って下さい」と言われ、唖然とした。初めての出産で不安だった所に双子ということを知り、喜びと不安がごちゃまぜになってしまった。

夫に相談すると「おふくろさんに手伝ってもらうばいいんじゃあないの」と言われた。せいこにとっては、信じられない言葉だった。

目が不自由な姑に、赤ちゃんの子育てに参加してもらうなんて!せいこには、考えられないことだった。


第五章『喜びと悲しみ』


小柄なせいこのお腹がどんどん大きくなってきた。何をしようとしても、えらくなってきた。せいこは、お腹を優しくさすりながら「早く出て来てね。ママはしんどいよ」と言った。赤ちゃんは、あたかもママの声が聞こえたかのように、お腹を蹴った。

「まあ、元気な赤ちゃんだわ」と嬉しくなってきた。双子ちゃんが、生まれてくるのが、待ち遠しい。

二卵性双生児と言われていたので、男の子と女の子の赤ちゃんの準備をしていた。せいこは、指折り数えて待っていた。

とうとう、出産の日を迎えて、無事、二人の赤ちゃんが誕生した。家族中が大喜びだった。無口の夫が「よく頑張ったね」と優しい言葉をかけてくれたので、胸がいっぱいになった。

ほっとして、その夜は、ぐっすり眠れた。だが翌日、異変が起きた。二人の赤ちゃんのうち、男の子の方が、24時間生きて天国へ行ってしまった。せいこは、泣き崩れた。昨日は、出産の喜びに包まれたのに、一転して悲しみの淵に立たされてしまった。


第六章『戸籍に名前をしるす』


喜びと悲しみが一度に押し寄せた。あの明るかったせいこにとって、赤ちゃんの死は、大きな試練となった。ドラえもんのように、ひょうきんで、周りのみんなを楽しませていたせいこは、号泣していた。

母が、娘を心配して、励ましてくれた。「一人は天国に召されたけれど、もう一人は、命を与えられたんだよ。感謝をして、一生懸命育てなさい。その娘が、二人分生きてくれるよ。天国に行った男の子がまた生まれ変わってくるよ」と言いながら、せいこの背中をさすった。

いくつになっても、母親はありがたい存在だ。特に初めてのお産の時の母親の存在は大きいもの。せいこも、母のこの一言に支えられ、少しづつ、元気になっていった。

赤ちゃんは、ゆかりと名付けられた。24時間以上生きていたので、亡くなった赤ちゃんもゆうたと名付けた。戸籍に彼の存在がしるされた。

ゆかちゃんは、ゆうた君の命をもらったかのように、元気にすくすく育った。それまで、姑は、嫁にきつく当たっていたが、孫が生まれてからは、少し様子が変わってきた。孫がかわいくてならないようだった。赤ちゃん誕生によって、家に笑い声が戻ってきた。


第七章『生まれ変わり』


せいこは、会社から育児休暇をとって、子育てに専念した。孫が生まれてから、姑も時々、せいこに声をかけるようになってきた。姑は、目が不自由なだが、光のあるところでは、かすかに見えるようだった。

「スクスク大きくなってきたねぇ」と話しかけた。せいこは、姑がほんの少しは、目が見えることに初めて気付いた。

夫が「おふくろに、育児を手伝ってもらえばいい」と言った意味が少しわかってきた。孫を追いかけてゆくことは出来ないが、孫を見ていることは出来るのかもしれない。せいこの中に、仕事を続けれるのかもしれないという希望の光がみえたような気がした。

ゆかりは、健やかに、優しい女の子に成長していった。育児に慣れてきた頃に、亡くなった男の子が、また生まれ変わってくるような気がした。

せいこは、亡くなった赤ちゃんの冥福を、毎日祈った。そして「早く生まれ変わって来てね」と話しかけた。日が経つにつれて、せいこの哀しみも、少しづつやわらいできた。

それから、数年の月日が流れて、せいこの願いどおり、男の子の赤ちゃんが産声をあげた。元気な赤ちゃんが、家族の一員に加わり、ドラえもん家族が誕生した。

赤ちゃんの泣き声とゆかりのおしゃべりで、急に賑やか家族にと変化していった。


第八章『仕事と育児』

せいこは、二人の子供の育児と家事に追われる毎日だった。夫は、仕事人間なので、子供の世話はしてくれない。あまり会話が盛り上がる夫婦ではないが、ひとりで、明るくふるまっていた。

だが、家からあまり出ないで、姑と同じ屋根の下で、同じ空気を吸っていると、だんだん落ち込んでいき、あの陽気なせいこが、光を失っていった。

何をしていても、だんだん笑えなくなってしまった。「これではいけない。プラス思考にしなければと思っても、どんどんマイナス思考になってしまう」と心の中でもあせってしまった。

二人の子供を寝かした後で、鏡をみると、疲れた顔が写っていた。せいこは、このままの生活ではいけないと、しみじみと感じていた。

思い切って、夫に話してみることにした。 「あのう、ちょっと話があるんだけど~」 「何かあったのか?」と心配そうに聞いた。

「家にいると、このまま、うつ病になってしまいそうなの」と切実な気持ちで相談した。 「ママが、病気になったら大変だよ。じゃあ、下の子供をおふくろを頼んでみよう」と答えた。


第九章『知恵を出す』


せいこは、我慢していても幸せになれないことに気付いた。無口で仕事人間の夫にも、自分の気持ちを理解してもらわないとやっていけれない。自分のご機嫌が悪くなると、罪もない子供達に当たってしまう。

一筋縄ではいかない姑に勝てるわけもない。にげるが勝ちかな?接触事故を起こさない為にも、距離をおくしかない。何をやっても、孫はかわいいけど、嫁のやる事は、気に入らないのである。困った時には、知恵を出そう。子供をちゃんと育てる為に知恵を出そう。こう言って、自分に言い聞かせた。

夫が姑に話してくれた事によって、少し前進した。下の男の子を姑に世話をしてもらって、せいこがゆかりを連れて仕事にでることにした。

せいこは、不安と喜びが入り交じったが、これで家からでれるという言い知れぬ解放感を味わった。

もともとエネルギッシュでフットワークが軽い女性なので、じっとしているのが苦手だった。「嫁というもんは、黙って家事と育児を真面目にやればよい」という考え方の姑は、せいこが苦手だった。

赤ちゃんをこの姑に預けるのは、心配でたまらなかったが、そうするしか方法がなかった。何が幸いするかわからない。孫を育てる責任を持たされた姑は、喜びに包まれ、目が不自由なことも感じさせなかった。人間の可能性とは底しれないものがあることを学んだ。

下の子供は「てつや」ってつけたら、「てっちゃん」と呼ばれ、みんなから可愛がられた。

せいこは、こうして、知恵を絞って、育児と仕事を両立することによって、この家から、新しくスタートすることができた。


第十章『不幸は突然やってくる』


せいこは、ゆかりを連れて、幼稚園に送ってから、会社に入る。一日仕事をして、娘を迎えに行ってから、スーパーに寄って買い物をしてから帰宅をする。そして、急いで夕食の準備をし、赤ちゃんの世話をする。

あれもこれもしなければならないので、部屋の中でも小走りをして、家事と育児をこなした。どんなに忙しくても、家を出て働けるという幸せを手に入れたのだった。

「おかあさん、ありがとうこざいました。てつやは変わったことはありませんでしたか?」と義母に尋ねた。「べつに何もありませんよ」と答えた。姑も、子守を任せられるようになってから、生き生きしてきた。二人の子供は、夫婦にとっても、嫁姑にとっても福の神だった。けんかの回数も、ぐんと減って、幸せに満ち溢れていた。

せいこは、赤ちゃんを置いて仕事に出かける時は、後ろ髪をひかれる想いだった。帰宅して、無事だとほっとした。

会社に復帰して、経理の仕事に慣れてきた。実の両親にも会えるので、明るく元気でおもしさも戻ってきた。

そんなある日のことだった。父親が癌であることを、母親から聞いた。あと数カ月の命だった。この時が一つ目の不幸の始まりだった。


第十一章『ピンチに立つ』


せいこは、姑と実母に助けられながら、仕事と育児を何とか両立させてきた。だが、父親が癌の宣告をされてから、あっというまに亡くなってしまった。悲しむ暇もなく、経理の仕事に追われた。

今度は、社長をついだ弟(長男)までも、癌で亡くなってしまった。その後、もうひとりの弟(次男)が、会社を立て直し、継続してゆく道しか残されていなかった。弟が引き継ぎ、懸命に仕事に励んだ。

しかし、繊維関係だったので、時代が悪くて、経済のブラックホールに落ちてしまった。

究極の選択に追い詰められて、ついに、自己破産となった。せいこは、その処理に飛び回った。おろおろしている母を支え、社長である弟を励まし続けた。

勇猛果敢にテキパキと仕事をこなし、すべてを失ってしまった母を支えた。「母さん、お疲れ様でした。何もかも失ってしまったけれど、命までも取られないから、大丈夫よ」と笑ったら、泣いていた母も「夫も息子も会社も財産もすべて無くしたけれど、今晩から社員の給料のことを考えなくてもいいわ。いつも、今月払えるかどうかビクビクしていたの。ひとつ楽になったわ」とため息をつきながら泣き笑い。

「もう、これ以上悪いことは起きないわ。もう取られるものは何もないから、こわくない。命さえあれば、未来がある。夜明けが来ない夜はない」と言いながら、せいこは、溢れる涙をハンカチで拭いた。

そして「母さん、頑張ろうね。孫の為にも長生きしてね」と母親の手をしっかり握りしめた。


第十二章『思い出』


せいこは、何もかも無くしてしまった母親の事を想っていた。恋愛で結婚し、自営業はマイナスから立ち上げた。借金をしてスタートしたので、父も母も仕事に追われる毎日だった。若い従業員を寮に住ませていたので、食事の世話もしなくてはならなかった。

彼女は、子供の頃から母親の働く姿しか見ていない。小さい頃は、近所の人や寮にいる若いおねえちゃんや、おにいちゃんに遊んでもらったり、ご飯を食べさせてもらったりした。三人姉弟は、こうして、周りの人々や従業員にかわいがられ、愛されて育った。仕事で忙しい親は、かまってくれない。せいこは、明るく誰にでもすぐになつく子供だったようだ。

会社が上手く回るようになって、利益が上がってきたら、父親は、好きなことに夢中になってしまったそうだ。「娘は大変苦労をした」と母方の祖父が語っていた。

祖父のところに遊びに行くと「お母ちゃんは、自営業の所へ行って苦労したから、せいこは真面目で誠実な公務員と結婚しなさい。おじいちゃんが探してやるからな」といつも言っていた。

せいこが大人になったので、本当に、祖父が結婚相手を見つけてきたのだった。その人が、今の夫なのだから、本当に不思議な気がしてる。

おじいちゃんやおばあちゃんに愛された子供は、守りがあるので、幸福になれると昔からいわれている。せいこも、そうだった。彼女にピッタリのお婿さんをおじいちゃんが連れてきてくれたのだ。

「そうだ、おじいちゃんが選んでくれた人と私は結婚したわ。おかあさん、きっと、これから幸せになれるわ」

思い出に浸っていたせいこは、笑顔で母親を励ました。


第十三章『地域と子供』


せいこは、母親を尊敬している。男の人でも出来ないくらいの仕事量をこなしていた。三人の子育て、仕事、住み込みの従業員の世話など、どのひとつでも大変なことだった。ところが、その頃は、地域の人の心が温かく、自分の子供と同じように面倒を見てくれる人が多かった。

母親は、身を粉にして働いたが、時代の流れの中で会社を無くしてしまった。「大切な人、大切な財産が消えてしまったから、もう何も怖いものは無い。私に残された時間を人様のお役にたてれるよう生きたい」と言って、毎朝、近所の公園の掃除を続けている。もうすぐ80才になるが、掃除を始めてから10年になった。

「よく続いているねぇ」とせいこが言うと「毎日の日課になっているから、別にたいしたことないよ」とサラリと答えた。

「お母さん、他人からみると不幸の固まりのように見えるけど、大丈夫?」と聞いた。外見では、元気そうに見えても、本当の哀しみは、味わった人でないとわからないよ」と静かにポツリと呟いた。母親は「三人の子供達は、地域で見守って、育ててもらった」とよく言う。

「今度は、私が地域に恩返しをする番よ。せいこの二人の子供達もみんなに育ててもらったんだよ」とにっこり笑った。せいこも母親と同じように仕事をしながら、生きてきた。

二人の子供達も、姑、主人、両親、地域の人々のお陰で、社会人となった。


第十四章『女の戦い』


せいこは、姑の助けをかりながら、仕事と両立してきた

だが、彼女の人生を変えた一瞬があった。姑には、心から感謝しているのだが、ある一言でせいこの気持ちが凍りついた。

夫を無くし、息子を無くし、会社を無くして、絶望の淵に立たされていた母の悪口を言われた時のことだった。

何を言われても、それまで我慢してきたが、実家の悪口を言われては、もう、プッツン切れてしまった。

夫の前で、母親と妻がぶつかり、喧嘩が始まった。明るく屈託のない妻が涙をこぼしながら、自分の母親と口論している。目の前で、女の戦いが始まった。どちらの味方も出来なかった。情けないが、あまりの激しさに圧倒されてしまった。

姑は「あんたなんか、出ていけぇ~」と叫んだ。言われた嫁は、姑の顔を「パチン」と殴った。「そんなに言うんなら、この家から、出て行くわ!」と言った。

それから、信じられないことが起きた。目が見えないはずの母親が、嫁の腕に噛み付いて離さない。「やめてぇ~、何するの?痛い!」と叫んで母親を押し倒した。倒れた母親は「鬼嫁!」と叫び、嫁は「鬼ばばぁ!」と叫んだ。

せいこの夫は、誠実で真面目に働く優しい人物。これが夢が幻かとあっけにとられてしまった。

この女の戦い以来、二人は、口を聞かなくなってしまった。「私は、新しい家を建てて、この家を出ていくわ。二人の子供も、社会人になったから、私は私の人生を生きて行くわ」と夫に話した。「わかった、お前が好きなように生きてくれ」とあっさり言った。


第十五章『夢に見た家』


せいこは、一大決心をしてすぐに行動に移した。今まで、夢見た家の図面を書いて、建築家に渡した。知り合いの人だったので、彼女の気持ちを大切にし、夢の実現に力を貸してもらった。

せいこは、誰にでも好かれる性格だったので、困ったことが起きると、誰かが助けてくれた。友人は、何にも勝る財産だと思った。

色々苦労はあったが、苦労を笑いに変えてしまう天才だった。すべてを笑い話に変えてしまうので、多くの人々の心に灯をつけてゆく。

育児も、たくさんの人の助けを借りたから、これからは、好きな事をしながら、社会に恩返しをしてゆくと笑い飛ばす。実母は、公園掃除を、毎日黙々と実践している。せいこは、大好きな音楽で、みんなを楽しませている。どんなに、苦しいときも辛い時も、ピアノを弾くことによって救われた。

年頃になった娘や息子と、上手くいかなくなった時も、ピアノを弾きながら、心を落ち着かせた。そして、自分の気持ちを手紙に書いて、心を通わせた。嫁姑戦争の時も、夫に詫びる気持ちを、手紙に託した。そして、家族の絆を深めることが出来た。

夢見たみた素晴らしい家が完成し、娘も息子も結婚して、孫も誕生した。

息子一家は、姑と同居してくれて「ばあちゃん、ばあちゃん」と仲良く暮らしている。姑は、せいこをいじめたけれど、孫の嫁はかわいがってくれている。

結婚した娘は、身重なのに、母親のせいこの家にいつも遊びにやってくる。夫は、二軒の家を行ったり来たりするドラえもんだ。せいこの夢を何でも叶える道具をポケットから出すから、ドラえもんというニックネームをつけられたそうだ。

新しい家にみんなを招き、ホームコンサートをして、たくさんの人と喜びを分かち合っている。明日は、有名な女性の祝賀会で、演奏することになっている。来月生まれる赤ちゃんの為にも、晴れの舞台で、心に響くメロディを演奏しようと、今日も練習に励んでいる。

夢見たかわいい家から、今もきっとピアノの音が、聴こえていることだろう。


■第20話「おばあちゃんの子育て(2007.11.26~2007.12.19)全15章」

■第20話「おばあちゃんの子育て(2007.11.26~2007.12.19)全15


『あらすじ』


お母さんは、夫を病気で亡くしました。その後、彼女は、この二人の小さな子供を連れて実家に戻ることが許されませんでした。

泣く泣く小さな子供を残し、後髪を引かれる想いで、東京の実家へ戻りました。

おじいちゃんとおばあちゃんは、お母さんがまだ30代に入ったばかりだったので、新しい人生が待っているかもしれないと思われたのかも知れませんね。

おじいちゃんが先に亡くなり、昨年おばあちゃんが亡くなりましたから、残念ながら、インタビューできません。

おじいちゃんとおばあちゃんの手塩にかけた二人の孫は、結婚しました。愛する人が見つかり、幸せになりました。

そこで、今回「おばあちゃんの子育て」としました。

少し視点を変えて、おばあちゃんと孫の物語をスタートします。どうか、最後までごゆっくりおつきあいくださいませ。


第一章『お母さんはどこに』


きょうから「おばあちゃんの子育て」がはじまります。

登場人物

姉 みーちゃん

弟 いちろうくん

恋人 しんちゃん

おばあちゃん

おじいちゃん

みーちゃんが、まだ小さい頃、お父さんは病気で亡くなり、まだ若かった母は、実家に戻された。

小さい二人の子供を置いて、家を出なければならなかった。それは、身を引き裂かれるくらい辛いことだった。

みーちゃんは「おかあさんはどこにいるの」と泣きながら、おばあちゃんに聞いた。もっと小さかった弟は、「ママ、ママ」と叫んだ。

おばあちゃんは、二人の頭をさすりながら「さあ、これからは、おばあちゃんがママだよ」と元気な声で言った。


第二章『授業参観日』


みーちゃんは、小学三年生、弟の一郎君は、小学一年生になった。おじいちゃんと、おばあちゃんが力を合わせて、一生懸命育てた。

おじいちゃんは、会社員だったが、息子が急死してしまったので、孫が大人になるまでの、経済的なことを考えるようになった。

おばあちゃんも、息子が亡くなったこと、嫁が実家に戻ったことで、心がパニックになってしまう時があった。

みーちゃんは、おばあちゃんの気持ちを考えると、子供らしく出来なかったという。やんちゃいったり、べたべた甘えることもできなかった。

おばあちゃんは、この孫を大学だすまで「死ねない」と凛としていた。その姿は子供には頼もしかった。

時々、苛々して、大きな声で怒った。おばあちゃんに「絶対逆らえない」と、みーちゃんは思った。

授業参観日のことだった。「おまえんち、おとうさんもおかあさんもおらへんなぁ~おばあちゃんが来るのか」とからかわれた。

「いやだなあ~あんなこと言わなくていいのに~」と思ったけど、おばあちゃんのがんばりをみていると、何をいわれても気にしないと決めた。


第三章『厳しい躾』


おじいちゃんとおばあちゃんは、二人の孫に寂しい想いをさせないように、色々な所へ連れていってくれた。

みーちゃんが、1番嬉しかったのは、プール付きの温泉に行ったことだった。

熱海の温泉だった。水着に着替えて、弟と一緒にはしゃいだ。キャーキャー遊んでいる時は、寂しさを忘れることができた。

いつも、おばあちゃんが恐くて、甘えられないみーちゃんも、こんな楽しい旅行では、甘えることができた。

弟の一郎くんは、まだ小さいので、やんちゃしたり、上手に甘えたりしていた。いい子して、子供らしくない、みーちゃんのことが、おじいちゃんの心配の種だった。

こうして、旅に連れてくると、みーちゃんは、喜んで、はしゃぎ回る。余程、楽しいのだろう。おじいちゃんは、孫達がはしゃぎ、走り回っている姿を見て、涙ぐんだ。

おばあちゃんの口癖は「素直にならんといかん。みんなにかわいがられんといかん。嘘ついたらあかんで」だった。

子供の躾は、厳しくて、ドカーン、ぴしゃり、と言ったら、後はそれが出来るように、チェックした。黙って見守ってくれた。

きっとんとん~おばあちゃんの子育て~つづく


第四章『お母さんに会いたい』


みーちゃんが、小学4年生の夏休みのことだった。おばあちゃんがいないすきに、小銭をいっぱい持って、弟の手をひいて家を抜け出した。家の近くの公衆電話から、東京のお母さんの勤務先に電話した。

「お母さんが出てくれますように~」と祈るような気持ちで、電話した。

やっと、お母さんに代わって「お母さん?みーちゃんよ。一郎もここにいるよ。お母さんに会いたいよ」と言っただけなのに、電話がすぐに切れてしまった。

手に持っていたお金を全部いれたのに、東京は遠くて、あっという間にプツンと切れた。「ああ、お母さんの声をもっと聞きたかったのに~」

「おねえちゃん、ぼく、お母さんの声聞いてないよぉ~」と弟が泣き出した。

「ごめんね。お金が足りなかったの。ごめんね」みーちゃんも泣きたくなった。「あのね。東京のお母さんに電話したことは、おじいちゃん、おばあちゃんには内緒だよ」と言った。

それから、しばらく経ってから、突然、東京の母方のおばあちゃんが、迎えに来てくれた。お母さんが心配して、おばあちゃんに話したそうだ。

名古屋のおじいちゃんとおばあちゃんは、みーちゃんが、東京のお母さんに内緒で電話したことを知った。

すごく叱られると思ったのに「お母さんに会っておいで~」と言ってくれた。二人は、大喜びだった。


第五章『東京ばあちゃん』


東京のおばあちゃんが、迎えに来てくれたので、二人とも、お母さんに会える喜びで胸がはずんだ。嬉しくてたまらなかった。だが、母方の祖母の心の内は、複雑だった。

娘が、かわいい子供と離れ離れで暮らすのは、かわいそうだと思っていた。だが、嫁ぎ先が、娘と孫の将来の事を思って決断された事だ。あきらめるしかない。

久しぶりに見る孫達の成長ぶりに、驚いた。みーちゃんが、おばあちゃんに気を使って、話しかけた。「おばあちゃん、ごめんなさい。私が、寂しくて電話しちゃったの。心配かけて、本当にごめんなさい」と、ペコンと頭を下げた。「おばあちゃん、ねえちゃんを怒らないで!ぼくが、かあちゃんに会いたかったんだ」と泣きながら、みーちゃんをかばった。

「一郎、違うよ。ねえちゃんだよ」と怒った。「まあ、まあ。父さんも母さんもいないのに、いい子に育っているんだね。姉弟が助け合って、仲良しなんだねぇ~。名古屋のおじいちゃんとおばあちゃんのお陰だね」と東京ばあちゃんは、にっこり微笑んだ。

東京の家に着いたが、お母さんがいない。いつも、家にいると思っていたのに~。「お母さんはどこにいるの?」と聞いた。「お父さんが生きているうちは、家にいて、あなたたちの面倒が見れたんだけどね。今は、母さんは、毎日お仕事しなくちゃいけないのよ」と、言葉を続けた。「あなたたちと住みたくても、なかなかできないの」とため息をついた。

東京ばあちゃんの言っている意味が、子供心に響いた。お母さんに会える喜びの灯がだんだん小さくなってゆく気がした。何となくそんな気がした。

夜になって、やっとお母さんが、帰ってきた。仕事で疲れているようだった。「寂しい想いをさせてごめんね。二人とも大きくなったね。母さんも会えて嬉しいよ」と言った途端、涙が溢れ出した。三人が抱き合って泣いた。

その様子を、陰から見ていた東京ばあちゃんも、そっと涙を浮かべた。それから、一週間、東京にいた。でも、お母さんは、朝早くから、仕事に出て行ってしまった。そして、夜遅くまで働いた。ここにいても、名古屋にいる時より、もっと寂しかった。「一郎、名古屋ばあちゃんのところに帰ろう。二人でね」とみーちゃんは、弟の顔を見て言った。「うん」と幼い一郎は、頷いた。


第六章『名古屋ばあちゃん』


お母さんは、二人の子供の寝顔を見ながら、心から「ごめんね。折角、東京まで来てくれたのに、お仕事で遊んでやれなくて~」と謝った。

二人は、お母さんの帰りを待っていましたが、待ちくたびれて、いつの間にか、眠ってしまった。

お母さんは、涙をぐっとこらえ「この子達を、預けたのだから、東京へ連れ戻すわけには、いかないわ。決心したことなんだから~」と、きっぱりと、自分自身に言い聞かせた。本心は、この子達と暮らしたい。だが、今の状態でな引き取る訳にはいかない。

お母さんは、来る日も来る日も,葛藤が続いた。だが「一日でも早く名古屋に帰した方が、この子達の為だ」と考えるようになった。

みーちゃんは、お母さんのこの気持ちを感じた。そして、弟に「名古屋ばあちゃんの所に帰ろ」って言った。

みーちゃんは、みんなに「ありがとう」と小さな声で、言えた。

弟を連れて、東京から名古屋に向かった。おじいちゃんとおばあちゃんが迎えに来ていた。

名古屋に着いて、おばあちゃんの顔をみた途端、ほっとしたら、涙が溢れ出した。「おばあちゃん、ごめんなさい」と言ったら、おばあちゃんは、二人を黙って抱きしめた。


第七章『おばあちゃんの入院』


東京のお母さんに会いに行ったことで、みーちゃんは、すっきりした。一郎君は、小さいのでまだよくわかりません。

ただ、お母さんと別れる時に「ママー、ママー」と泣いていた。みーちゃんの耳に、弟の泣き声が、今でも残っている。

みーちゃんが、小学5年生の時、おばあちゃんが、突然入院した。息子の急死、嫁がいなくなる、二人の孫の世話、自分の仕事。

おばあちゃんは、毎日が時間との戦いだったので、無理をしていたのかもしれません。

学校が終わると、洗濯を取り込み、夕ごはんの準備をした。おばあちゃんが、いつもやっていたように、毎日作った。まだ、小学生なので目だま焼き、豚のみそづけを焼くだけだった。

毎日、弟と二人が歩いて病院まで、おばあちゃんに会いに行った。おばあちゃんは、泣いているような、笑っているような表情だった。

いつも、二人の孫を褒めながら「ありがとう、気をつけて帰らないかんよ、朝ちゃんと起きてね、おじいちゃんの言うこと守らなあかんよ」と、話した。


第八章『おじいちゃんのプレゼント』

半月で、おばあちゃんは、退院できた。みーちゃんと一郎君にとっては、長い月日に感じられた。

家に帰っても、しばらくは、みーちゃんが、家事をした。おばあちゃんが、また無理をして、入院したら困ると頑張った。

おばあちゃんは「みーちゃんは、がんばりやさんだね。ありがとうね。みーちゃんのおかげで、退院できたよ」と言った。

「うん、おうちの仕事って、たくさんあるってわかったよ」とみーちゃんは、呟いた。おばあちゃんは、孫の顔を見るのが1番の幸せだと気付いた。

そこへ、おじいちゃんがニコニコしながら、入ってきた。「おまえ達は、よく頑張ったからごほうびを買ってきたよ。おいで」と二人の手を引いていった。

「なあに?」と聞いても「見てのお楽しみ~」と言うだけだった。

外に出たら、とってもかわいいウサギが2匹いた。二人は、おおはしゃぎ。「わぁい、うさぎだぁ」おじいちゃんは「おばあちゃんが入院中によく手伝いしてくれたね、ありがとう。これは、ご褒美だよ」と言いながら、孫達の頭を撫でた。


第九章『友達』


二匹のウサギは、二人の友達になった。名前は「ウッチャンとサッチャン」にした。学校から、帰ると、すぐに、ウサギに話しかけた。

一郎くんが、最初に帰ってきた。「ただいま、餌ちゃんと食べた?もっとほしい?」と聞いた。

ウサギは、何にも言わないけど「おばあちゃん、ウッチャンとサッチャンがお腹空いてるって言ってるよ」と大きな声で叫んだ。

おばあちゃんは「はい、はい」と笑顔でウサギの餌を渡した。「ありがとう、おばあちゃん。えらくない?」と心配そうに聞いた。

「大丈夫だよ。あんたたちの元気な顔を見たら、病気がどこかへ吹っ飛んだよ」「そう、良かったね」と一郎君はニッコリ微笑んだ。

おばあちゃんは「孫と、ウサギの世話があるから、病気なんかになっていられない」と笑った。一郎君は安心した。

「ウッチャンとサッチャンは、おばあちゃんのお友達だね。ぼくとお姉ちゃんが、学校行ったら、遊べばいいね」とVサインを出した。おばあちゃんも笑いながらVサインを出した。そこへ、みーちゃんが、泣きそうな顔をして、帰ってきた。


第十章『授業参観日』


みーちゃんは、元気がなかった。夕ごはん食べている時も、元気がなかった。

おばあちゃんは心配して聞いた。「学校で何かあったのかい」と言うと「ううん、何もない」と答えた。

本当は、男の子にいやなことを言われたのだった。でも、みーちゃんは、言えなかった。

おばあちゃんは「みーちゃんの顔に書いてあるよ、いやなことがあったってね」みーちゃんは、思わず顔に手をやった。その様子があまりにかわいかったので、思わずにっこり微笑んだ。

みーちゃんは「おまえは、母さんがいない。だから、授業参観日には誰がくるんや、またばあさん~」と言われ、泣きそうになったのだ。

「涙は、すっきりさせるから~」と教えた。今まで我慢してきた涙が、溢れだした。おばあちゃんは、「よしよし」と背中を撫でてくれた。

おばあちゃんの手は温かかった。


第十一章『子供らしさ』


みーちゃんは、少しづつ、おばあちゃんに甘えるようになった。お父さんの突然の死と、お母さんが家からいなくたって以来、甘えることが出来なくなっていた。

おばあちゃんは、突然、子育てしなければならなくなった。そんなとまどいの中で、ついつい愚痴が出てしまうこともあった。いらいらして、罪もない小さな孫に当たる時もあった。

そんなおばあちゃんの顔色をうかがうみーちゃんだった。小学生なのに「おばあちゃんに心配かけちゃいけない」と思っていた。「いい子でなくちゃいけない」とも思っていた。

でも、おばあちゃんに、学校であったいやなことを、泣きながら話す事ができた。話してしまったら、すっきりした。先生の事、友達の事も話した。

おばあちゃんは「うんうん、そうか」と聞いてくれた。みーちゃんは、ほっとした。おばあちゃんが、背中をなでてくれた時は、とってもいい気分だった。泣いた涙が、湯気になってしまうほど、ほんわか、心があつくなった。

その時「お母さんは、いなくなったけど、おばあちゃんがいる。今日から、おばあちゃんの事をお母さんだと思えばいいんだ」と、小さな胸に決めた。

その日から、みーちゃんは子供らしく、元気になった。お姉ちゃんが明るくなったので、弟の一郎君も、ますます元気になった。

一郎くんは、誰もいない家でも「ただいまぁ」と言った。ランドセルを置いて、すぐに、ウッチャン、サッチャンの所へ行って、おしゃべりをする。二匹のウサギは、長い耳を立てて黙って聞いてくれる。

「あのね、僕のねえちゃんね、もういじめられなくなったんだよ。すごいでしょ!強くなったんだよ」と話した。「おばあちゃんは、お仕事だよ。一緒にあそぼ」とウサギと遊び出した。仕事から帰ってきたおじいちゃんが、こっそり見ていた。「この孫達が大学卒業するまで生きていてやれるだろうか?」とふと思った。


第十二章『初恋』


おじいちゃんは、色々と考えていた。息子を突然亡くしたので、人生計画が狂ってしまった。会社に勤めていたが、将来を考えて、不労所得が得られるようにした。今まで働いてきた蓄えでマンションを建てて、家賃収入が入るようにした。

自分がいなくなっても、孫達が大学を卒業して、社会人になるまでの教育費を確保しなければならなかった。

おじいちゃんは、年をとってきたので、いつも、妻と孫が困らないようにと、頭を巡らせていたのだった。

よく考えてから「よし!よし!」と決断すると、それを実行する。男らしく行動するので、みんなもびっくりしてしまう。

そんなおじいちゃんとおばあちゃんに、愛をそそがれ、二人は健やかに育てられた。

みーちゃんは、中学一年になった。隣の学区の男の子が気になっていた。小学6年生の時に塾が一緒でよくからかわれた。みーちゃんは、男の子より背が高かったので「のっぽさん」と言って、からかわれた。

アキクンと呼ばれていて、運よく、中学校は、一緒になった。みーちゃんは、学校が大好きになっていった。こうして、みーちゃんの初恋が始まった。


第十三章『心配かけて』


みーちゃんをからかっていたけど、アキクンは、優しかった。

「あっ、しまった。消しゴム忘れちゃった」みーちゃんは、困っていた。すると「どうしたんだ?」とアキクンが近づいてきた。「忘れ物したの。困っちゃった」と答えると「ほれ、貸してやるよ。俺、二つ持っているから~」と言いながら、ぽんと渡した。

いつも、いじめっ子みたいだったけど、彼のやさしい心に感動した。やっとのことで「ありがとう」と言えた。

それから、みんなで公園で遊んだ。みんなでおしゃべりをしたり、歌ったりした。楽しくて時間を忘れてしまった。

あたりが、少し暗くなってしまった。

おじいちゃんとおばあちゃんは、心配で心配でたまらなかった。「どうしよう?まだみーちゃんが帰ってこないわ」「そうだな、心配だから探してくる。ばあさんは、一郎を見なさい」と言い残し、自転車に乗った。

やっと見つかった。「いつまで遊んでいるんだ」と子供達を叱り飛ばした。「こんな所でこんな時間までいちゃいかん。お母さんが心配しているよ。みんな早く帰りなさい」とおじいちゃんは、言った。「ごめんなさい。心配かけてごめんなさい」「いいよ。無事だったんだから~。さあ、帰ろう。ばあさんが心配しているから~」と優しかった。みーちゃんは、ほっとした。


第十四章『悲しい別れ』


みーちゃんは、学校が楽しくてたまらなかった。「今日もアキクンに会える」と思いながら、鏡を見て、少しでも綺麗になりたくて、髪をといていた。

おばあちゃんが、そっと近づいてきた。みーちゃんが、オシャレしていたら、鏡におばあちゃんが映った。「何よ。びっくりさせないでよ」と言った。

おばあちゃんは、にこにこしながら「命短し、恋せよ乙女~」と歌い出した。「オシャレするってことは、みーちゃんもお年頃だね。中学生だもんねぇ。月日の流れは早いもんだ」と孫の成長を喜んだ。

ヘアスタイルや服装を気にするようになった。ところが、アキクンの態度が急に変わった。

中学生なのに、タバコを吸って先生に叱られたり、友達と喧嘩するようになった。

みーちゃんが、心配して「アキクンどうしたの?何かあったの?」と聞いても「うるせいなぁ~お前に関係ねえだろ」と睨みつけた。イライラした怖い顔になった。みーちゃんは泣きそうになった。

しばらくして、アキクンが、学校からいなくなってしまった。お父さんとお母さんが、離婚して、お母さんと一緒に引越しして行ったそうだ。

みーちゃんの初恋は、こうして、シャボン玉のように、はかなく消えた。みーちゃんは、何も力になれなかった自分を責めた。「アキクンごめんね」と言いながら、しくしく泣いていた。

おばあちゃんが、いつの間にかやってきて、みーちゃんの背中を「よし、よし」と言いながら、撫でていた。


第十五章『自立』


みーちゃんと一郎君は、おじいちゃんとおばあちゃんの愛に包まれて、成長していった。一郎君は、思春期を迎え、やんちゃした時期もあったが、友達に支えられた。

おじいちゃんは、亡くなる前に、家賃収入が入るようにしておいた。おばあちゃんは、その収入で、二人の孫を大学まで卒業させることができた。

おばあちゃんは「この子達が自立するまでは、死ねない」と、口癖のように言っていた。

二人がやっと社会人になった頃から「ばあちゃんはもう年をとったわ。そろそろお別れしなければならない時がきたようだ。みーちゃん、一郎、ばあちゃんが、いなくなっても、二人が助け合い、仲良く生きて行くんだよ。わかったかね」と言った。

二人は、涙を流しながら「ばあちゃん、死なないで」と言い続けた。

おばあちゃんは、優しい笑顔を残して、この世を去った。

二人だけになってしまって、寂しかったが、その後、一郎君は、恋が実って結婚した。

みーちゃんも、今年の11月11日に、愛する人と結婚した。沖縄での結婚式だった。

結婚相手のしんちゃんは、沖縄の人で明るくて、海のように深く優しい心で、みーちゃんを包み込んでくれた。

みーちゃんにも、一郎君にも、新しい家族ができた。天国のおじいちゃんとおばあちゃんは、きっとほっとしていることだろう。

おじいちゃん、おばあちゃんありがとう~。

きっとんとん~おばあちゃんの子育て~おしまい。ありがとうございました。


『おばあちゃんの子育てを終えて 編集後記』


長い間「おばあちゃんの子育て」読んでいただいてありがとうございました。

みーちゃんからのコメントです。

毎日、寒い日が続きますがお元気ですか?

ブログ毎日チェックしていましたよ。

遂に、最終回になりましたね。

色々、ありがとうございました。

おじいちゃんおばあちゃんが、子育てされている方が、このブログで励まされているということを知り、何だか今までの苦労も報われた気がしています。

天国のおじいちゃんもおばあちゃんも、喜んでいると思います。

しんちゃんも、読むのを楽しみにしていました。

ブログを見ながら、辛かった思い出、楽しかった思い出が蘇り、ジーン、ホロリとすることもありました。

難しい世の中、家族の在り方も様々ですが、次の時代を支える子供達が、大人に愛され、健やかにそして、安心して生きていける世の中になるとよいなあと思います。ありがとうございました。

みーちゃんからの嬉しいメッセージでした。ありがとうございます。

今日、仕事先の友人が「毎日、ブログ見ています。みーちゃん、幸せになってよかったね」と喜んでくださいました。ここには、暖炉もあり、孫達が、この暖かい部屋に遊びにくるそうです。ステキなお部屋には、愛のエネルギーが満ち溢れていました。

幸せいっぱい、愛いっぱい~

きっとよくなる、きっとんとん



■第21話「シェリの愉快な仲間達(2007.12.23~2007.12.31)全10章」

■第21話「シェリの愉快な仲間達(2007.12.23~2007.12.31)全10


『あらすじ』


シェリ美容室の樋口先生を中心に、美容師さん達が繰り広げる愉快な物語です。

美容室なのに、美容師さんも、お客様も何だか家族のような雰囲気なのです。猫も犬も、お客様に愛嬌をふりまき、みんなから喜ばれています。

私も、この美容室に何十年もお世話になっています。ある時、高校でいじめにあって、中退した若者の将来を考えていました。

彼は「美容師になりたい」という夢を抱いていました。私は、何とかして、彼の夢を実現するよう、働きかけていました。

ふと、アットホームなこの美容室だったら、傷ついた彼の心に希望の光が差し込むかもしれないと思いました。

樋口先生にお願いし、面接をしていただきました。彼にとって、主任が、若い男性だったこともラッキーでした。

温かい心と、きめ細かい指導力の先生を、中心にドラマが始まります。

三人の子供を育てながら、美容室を経営する女性の人生模様をお楽しみ下さい。


第一章『シェリ美容室誕生』


夢みる少女に、尊敬するお姉さんがいた。姉は、美容師となり、仕事に情熱を燃やしていた。そんな姉を誇りに思い、ひそかに憧れていた。

進路を決めなければならない時がきた。迷わず美容師になることを決めた。姉は、美容師として成功し、美容院を経営していた。妹の千鶴子は、姉に厳しく教育された。

姉は「あなたの技術は、もう一人前よ。美容師としても、もう、教えることはないわ。お店を持ったらどうかしら?」と真剣な顔で、話した。

千鶴子は、飛び上がるほど嬉しかった。「はい、ありがとうございます。考えさせていただきます」と、感動しながら答えた。

とんとん拍子に、話が進み、新しい美容室を持つ事ができた。名前は「シェリ美容室」とした。

色々な名前を考えた。

「愛おしい、愛する」という意味があるフランス語で「シェリ」という言葉が目に入った。声に出して「シェリ美容室」と言ってみた。優しさと愛らしさが感じられた。

直感で「あっ!この名前がいいわ」と呟いた。

お客様に愛される美容室に、お客様がお手入れしやすいヘアスタイルに仕上げたい。そんな熱い想いがいっぱいだった。


第二章『美容の女神様』


女の子二人と男の子一人を授かった。夫は会社員だが、妻の仕事の理解者でもあり、支援者でもあった。

子育てにも、美容室経営にも協力的だ。千鶴子は「なんて素晴らしいパートナーに恵まれたのだろう。私は何て運がいいのだろう」といつも、夫に感謝している。

足元である家庭が、ゆるぎないものであるからこそ、仕事に打ち込める。三人の子供を保育園に預けて、仕事が出来たので、今でも、保育園、学校の先生方に感謝している。

今、こうして、笑顔で喜びを持って、お客様に接することができるのも、ウパーリ美容室の御蔭だとしみじみ感じている。ここで師匠である姉に学んだからだ。

ただ美容師として技術を教えられただけでなく、一人の人間として、どう生きたらよいのかを教えられた。スタッフや周りの人々に、人間学を教えて、自らも実践する教育者でもあった。

千鶴子にとって、姉は「美容の女神様」だった。誰に対しても、愛の心で接し、誰に対しても、面倒見の良い人だった。

「ちーちゃん、お店は、もう息子に任せたから、時間が出来たわ。貴女も少しは、お休みをとって、二人でゆっくりお茶でも飲みましょうよ」と笑顔で語ってくれた。

「そうね。私も、主任がしっかりしてきてくれたから、お休みを取れるようにするわ」と答えた。美容姉妹は、今まで、無我夢中で働いてきた日々を振り返り、少し人生を楽しむことを考えていた。千鶴子も姉と一緒に時間が持てることにワクワクしていた。

ところが、その姉が、先月25日に帰らぬ人となってしまった。


第三章『アットホーム』


千鶴子には、何より嬉しいことがある。厳しかった姉の教えを守ってきたら、本当に困った時には、誰かに助けられる。今年の出来事を象徴する漢字に「偽」が選ばれた。何と言う情けない日本になってしまったのだろう。

この言葉とは、反対の「真心をもって」を胸に刻み生きている。これも、偉大なる姉の教えのひとつなのだ。真心を持って仕事をしていると、自然にスタッフは、ひとつの大きな家族のような気持ちになる。

姉の葬儀には、スタッフと、入ったばかりの矢崎君まで、出席してくれて、悲しみを分かち合った。主任は、身内のように、千鶴子先生の悲しみを包み込んで、支えたのだ。

千鶴子は、この時ほど嬉しかったことはなかった。18才から面倒見てきた男の子が、大人になり結婚し家庭を持ち、主任に成長してくれた。

彼は、突然の訃報に襲われた千鶴子先生に寄り添い、優しい言葉をかけて、身内のように振る舞ってくれた。日々心掛けて、実践してきたことを、主任を含め、スタッフ全員が身につけてきているようだ。

「お姉さん、貴女の御蔭でシェリ美容室も、ここまで成長できました。ありがとうございました。これからも、あなたの教えを守り、スタッフと共に、精進いたします。どうかゆっくりお休み下さい」と手を合わせた。

「ちーちゃん、よく頑張ったわね。私はいつもあなたの傍で、見守っていますよ。だから、泣かないでね。いつも、笑顔を忘れないでね」という声が聞こえたような気がした。


第四章『タマチャンカウンセラー』


シェリ美容室には、愉快なタマチャンカウンセラーがいる。千鶴子先生が愛情が深く、猫が一匹いるのに、また、4匹も捨て猫を拾ってきてしまった。

家族に相談し、タマチャンカウンセラーに相談をした。この美容室では、1番の年長者であり、聞き上手なのだ。

「先生、大丈夫よ。私、猫も大好きだから、お手伝いしますよ。喜んで~」といってくれた。先生の胸がスーとした。

家族の了解、シェリの愉快な仲間達の協力を得て、ご近所周りをして、猫の事をお願いした。「猫が4匹家族の仲間に加わりました。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」と、頭を下げて回った。猫1匹に犬1匹いるところに、また、猫が4匹増えたのだ。タマチャンは「ああ、忙し忙し。猫マンションを作らなくっちゃ」と言いながら、先生と一緒に、住む所や、餌を準備した。美容室の裏に猫マンションを準備した。4匹が入れる小屋に、寒いので、毛布や布団ですっぽり覆うことにした。

捨て猫達は、大喜びだった。タマチャンは「あんたたちは、いい人に拾われたねぇ~運がよかったねぇ~」と猫の頭を撫でながら、話しかけた。

「先生、この子達に名前を付けましょ」と言った。「そうね。それは、いい考えだわ」とにっこり笑顔。

シェリの愉快な仲間達は、猫の話題が花ざかり。お客様まで巻き込んで、ワイワイガヤガヤ。笑い声やらため息やら、美容室は、おしゃべりが満開となった。

特に、タマチャンは、お客様の話を「うん、うん」と聞きながら、どんどん自分のペースに持ってゆく達人だ。

猫の話題になると、話に熱が入る。「猫の名前は、みーちゃん、チャコちゃん、シロチャン。この3匹は男の子でね、ココチャンは女の子なの~」と話し出した。

さあ、さあ、タマチャンが話し出すと、どこまでも声が響き、おしゃべりが止まらなくなった。そして、シェリ美容室のお客様の心に灯をともし、笑いの渦に巻き込んだ。


第五章『姑と二人三脚』


シェリ美容室は、個性的な美容師ばかりだ。仕事が大好きという人が多いような気がする。その中に山下さんがいる。みんなからヤマチャンと呼ばれている。物知り博士のヤマチャンは、どちらかというと、宝塚系の顔立ちで、よく見るとふっくら美人である。

子供が三人いて、今年成人式を迎えた綺麗な女の子がいる。この美容室で着物を着付けしてもらい、ヘアスタイルもお気に入りのに決めた。ヤマチャンは娘の晴れ姿を見て、胸がジーンと熱くなった。子供達が、こうして無事成人式を迎えることが出来たのも、姑の御蔭だと感謝している。

三人の子供を授かり、仕事を続けてこれたのも、姑と二人三脚できたからだと思っている。どこでも、嫁姑戦争という現実があるのに、ヤマチャンちは、大きな喧嘩をしたことがない。

なぜだろう?一緒に暮らせば、争い事は、日常茶飯事。嫁と姑が二人三脚できたには、何かコツがあるに違いない。

なんとヤマチャンは、笑いながら、あっけんからんと答えてくれる。「お互いに、干渉しないもんねぇ~。おばあちゃんがどこへ行こうが、何をしようが自由よ。だから、私も干渉された事がないわ」と笑顔がこぼれた。

お客さんに、話しかけながらも、手早くカットしていく。慣れた手つきでお客様に満足していただけるヘアスタイルに仕上げていく。ヤマチャンの立っている右側の壁には、成人式の時の着物姿の娘の写真が、母に微笑みかけている。写真を貼った先生の、スタッフに対する思いやりが伝わってくる。


第六章『野球少年の変身』


小さい頃から、野球が大好きな少年がいた。クリクリ坊主頭の少年は、グローブとボールをいつも持っていた。二人の弟といつもキャッチボールをして遊んでいた。妹は「お兄ちゃん、私も遊んで」と傍にくる。「わかったよ、後でね」と言って、妹の面倒もみる優しい兄ちゃんだ。

野球少年は、すくすく育ち、高校生となった。高校も野球部に入部し、希望に胸を膨らませた。

ところが、2年生になって、体調が悪くなり、部活を時々休むようになった。だが、友達に励まされ、頑張れるようになった。元気になった彼に監督から背番号が渡された。頑張ってきた野球少年にとって、それは、大きなご褒美だった。

皮肉にも、そのことが原因で、いじめが始まった。しごきがひどく、クタクタニなり、心身共に、ボロボロになってしまった。ついに、人間不信に陥った。「このままでは、僕はダメになってしまう。高校をやめよう」と決心して、両親に話した。

両親は驚いたが、息子の言葉を信じた。高校に行かなくなった野球少年は、自分の部屋に篭り、悶々としていた。もうすぐ三年生という時に、高校を断念したのだった。自分の将来の事、幸福、人生について、考えこんだ。にこにこ野球少年の顔が、苦悩に満ちた感じやすい若者の顔に変わった。人の言葉に傷ついた若者は、信頼出来る大人を探していた。この胸の痛みを分かってくれる大人を探していた。母親がミニバラの事を話してくれた。9ヶ月間、部屋に篭っていたからか、感性が研ぎ澄まされていた。

「一人で悩んでいても仕方がない。この人だったら信頼できる。この人だったら、何でも話せる。この人だったら、何とかしてくれる」と、ピーンときたそうだ。

全部話してくれた時、笑顔が戻った。話しているうちに「美容師になりたい」という夢に気付いた。素直な野球少年は、私のアドバイス通りに行動し、シェリ美容室にお世話になることになった。先生は、ミニバラの活動の理解者だった。

母親を信じた彼は、私を信じてくれて、私が信じている先生の元で、自分の未来をつかもうとしている。人間不信に陥った野球少年が、癒しの美容師を目指して蘇った。こうして、みんなの笑顔に育まれ、彼にも幸運の女神様が微笑んだ。


第七章『主任のロマンス』


千鶴子先生は、心配していたことがあった。18才からお店に来ている主任の事だった。スタッフの女性群は、全員結婚しているし、お客様も奥様が多い。ここで真面目に仕事しているだけでは、恋愛のチャンスは訪れない。

「ねぇ、主任って彼女いるのかしら?」と物知り博士のヤマチャンに聞いた。「先生、主任は、真面目で遊ばないから、青い目の友達はいましたが、帰国してしまいましたよ。友達はいますが、恋人はいませんねぇ」と博士のような口調で答えた。「あら、そうなの。それは心配だわ」とため息をついた。

先生は、男性であるご主人の力を借りることにした。男としての主任の未来に、何か力になれそうな気がしたからだ。「ねぇ、あなた、主任の事で相談があるの」と事情を話した。「じゃあ、焼肉でも食べながら、一杯飲むか」と言われた。「まあ、嬉しいわ。社員教育お願いね」と先生は、ご主人に頭を下げた。

ある日、主任を誘って焼肉を食べに行った。「君、お酒強いね。女にも強くならんと、人生楽しくないよ。いずれ、このお店の経営にも力を発揮してもらわんといかん。先生を助けてもらいたいからねぇ~」と話し始めた。「いいか、真面目に仕事しているだけでは、いい女をゲットできないぞ。飲みに行ったり、遊びに出ていかないと、家庭が持てないよ。30才を越えたのだから、大人の恋愛をするんだ。わかったかい」と優しく恋愛論と経営論を解いた。

主任は、お酒も回って上機嫌になった。「解りました。飲みに行って、ステキな彼女をゲットして、近いうちに結婚します」と答えてしまった。先生は大喜びで「おめでとう」と拍手した。

「先生、まだ早過ぎます。僕、まだ彼女、誰もいないんです」としょんぼり。「何言ってんの。きっと見つかりますよ。主任はイケメンだもん」と肩をポンと叩いた。

主任は、純粋で素直だから、その気になった。スタッフも気付き始めた。「何だか、主任の雰囲気が変わってきたね。恋人ができたのかしら?」とザワザワしてきた。主任は、なかなか話さない。

先生は、彼の顔色を見ていて、大人の恋が始まっていると思った。主任は「先生、僕、結婚します。彼女が同居してくれると言っています。母が亡くなって、父一人なので、助かります。看護士の仕事をしていますので、共働きでステキな家庭を作ります。先生とご主人のような夫婦になりたいと思っています」とはっきりと言った。「まあ、ふわふわしたロマンスの話は聞けなかったね。しっとりとした落ち着いた恋愛だったのね。今時の若者とは違ったわね。おめでとう。本当に良かった。ご縁があった人なんですから、大切にね」と念を押した。

プロポーズの言葉も、デイトコースも、口説いたセリフも、誰にも教えてくれないけど、気が合ったのは確かだ。恥ずかしそうに「彼女は、サルサダンスが踊れるんですよ」と一言呟いた。彼女は、真面目な主任をロマンスの世界へと、踊らせたのだろう。


第八章『やっこ姫』

しっかり者の千鶴子先生の長女が、やっこ姫。彼女は、物静かで、おっとりしているので「お姫様みたい」と言われている。

高校3年生になった時、突然「お母さん、私ね、お母さんと一緒の仕事するわ」と言った。「まあ、本当?うれしいねぇ」と、先生は答えた。

美容師の資格をとってから、母と同じ道を選んだ。母が尊敬する師について、7年間修業した。一人前になって、母の美容室に入社することになった。

結婚して、二人女の子が生まれていた。朝、9時半に出勤して、3時に帰っていく。ここのスタッフはみんな、家庭と仕事を両立している先輩ばかりだ。休日は、やっこ姫の父親の出番。妻と娘の為に子守をかって出ている。

「じいちゃん、あそぼ。早く、おそとであそぼ」とかわいい声につられて、一緒に遊びだす。顔もにこにこほころんで「よし、よし、何して遊ぼうかな?」と、幼い孫と相談している。

困った時は、みんなが助けてくれるから、おっとりしてても大丈夫。夫婦も仲良く、忙しい毎日でも、何とか切り抜けている。

経営者の娘であるのに、不思議なくらい謙虚で控えめなところがある。スタッフは、「痒いところに手が届くよく気がつく姫」と、やっこ姫の事を言っている。小学4年生と3才の女の子の育児真っ最中のママである。フレーフレーやっこ姫!


第九章『ポップミワチャン』


「ちょこちょこネズミのように、よく動き、仕事をしているあの女の子はだあれ?」「女の子?いえいえそれは違います。あの人の子供は、もう高校生よ。」と、お店はおしゃべりの花ざかり。

顔立ちは面長で、スラリとしているから、後ろ姿は、まるで女学生のよう。2人の子供を持つ母親には、とても見えない。働く女性は、若く見えるものだ。

ミワチャンは、ポップを書くのが大好き。だから、お店の案内や、広告はすべて彼女の書いたもの。

絵や文字も優しくて、誰の心もとらえる。先生は「ミワチャンがいてくれるから、お店は大助かりだわ。お抱えアーチストを持っているようだわ」と大喜び。

「ミワチャン、年末年始のお知らせ書いといてね」と頼んだ。「はい、解りました」と言って、頭の中でイメージする。

頼まれた事は、必ずやり通す。彼女は、先生の同級生のお嬢さん。田舎の方が安心できるということで、ご両親の進めでこの美容室に勤めることになった。毎日、30分以上かけて通勤している。真面目に仕事に打ち込む姿は、彼女を一層若くさせるのだろう。年末の通勤ラッシュにも負けないで今日も、マイカーのハンドルを握って、岐阜市を駆け抜けて走る。

シェリ美容室の壁のネズミが、お客様に微笑み、メッセージを伝えている。ネズミ年の来年は、更なる活躍が、期待されるミワチャンだ。


第十章『ムードメーカーアラチャン』


どんなグループも、どんな会社でも、必ずムードメーカーの人がいる。アラチャンは、スタッフの誰よりも早く、お店に出勤してくる。何でも、チャッチャカやっている。営業も出来るワーキングガールだ。

ご主人が、大工さんなので、この美容室の改造も、スタッフの家の増築も、おてのものだった。「口から生まれて来た」と、誰もが認めている。

二人の子供は、独立し、現在、娘一家と暮らしている。幸せを絵に書いたような顔で、お店のムードを高めている。

ちょっと、みんなより早く出ているので、懐があたたかいのか、気前が良いという。「ちょっと、みんなお腹すいてなぁい。マック買ってきたから、どうぞ召し上がれ。先生もどうぞ」とにっこり笑顔。

「アラチャン、ダメよ。せっかく早く出て、働いても、おごってばかりいたら、お金たまらないよ」と、先生が釘を刺す。

「はい、そうですね」と素直に反省するが、また、忘れておごってしまう。あっけんからんとしているアラチャンなのだ。

アラチャンが、シャンプーしてくれると、とっても気持ちいい。指に力があるから「頭のてっぺんが痒いわ」と言うと、力を入れてマッサージ。「まだ、どこか痒いところございませんか?」と聞いてくれる。私は、お湯があたると痒くなってしまう。彼女の手にかかると、とっても気持ちいい。

そして、リップサービスを忘れない。「水谷先生のCDも本もいただきましたが、とても、良かったわ。2枚目のCDも買いましたが、2冊目の本はいつ出ますか?」と、次々に質問攻めだ。

「まあ、ありがとうございます。自費出版だと200万円かかるそうよ。ミニバラには、今は、そんな大金ないから、いつかね」と約束すると「200万円はないけど、200円ならありますよ」という返事。これを聞いたスタッフも、お客様も、ドッと笑った。さてさて、私をその気にさせてくれるアラチャンの為にも、文学少女になりきって、書き続けていこう。幻の本を求め、幻の文学を求め、いつかアラチャンが「アッ」と驚く本を書こう。アラチャンの口から飛び出す言葉が、みんなの背中を押していく。

こうして、千鶴子先生を囲んで、来年もお客様の心に花を咲かせるお店になることだろう。シェリーの愉快な仲間達が世界一幸せになりますように~。


■第22話「きっとんとんの不思議世界(2008.1.2~2008.1.12)全10章」

■第22話「きっとんとんの不思議世界(2008.1.2~2008.1.12)全10


第一章『きっとちゃん誕生』


これは、昭和の物語です。

ある小さな村に小さな小さな女の子が生まれました。この家には、大きいばあちゃんと小さいばあちゃん、そして、おじいちゃんと若夫婦が住んでいました。この小さな命は、馬小屋の隣の部屋で誕生しました。

茶色の美しい馬が、あたかもこの命の誕生を祝福するかのように「ヒヒヒーン、きっとんとん~」と鳴きました。

この子が、お母ちゃんのお腹に宿った時、二人のおばあちゃんは、怒りました。「何や、もう赤子ができたんか?お前が、働き者だと聞いたから、もらってやったのに~」とブツブツ言いました。

親同士がが決めた結婚だったので、妻をかばって優しくしてくれる夫ではありません。お母ちゃんは、誰にも辛い気持ちを話すことができなくて、思い詰めていました。

「ねえ、とんとん、私の話を聞いてくれますか?」と美しい馬に語りかけました。馬は、ウンウンと頷くように、お母ちゃんの顔を見ました。

「このお腹の赤ちゃんは、誰からも祝福されないの。だからね、生んだらいけないと思い、わざと階段を上がったり下りたりしたの。それでも、まだ私のお腹で生きてるの。お風呂で転んだけど流産しないの。おいしいものも食べさせてもらえなくて、栄養が取れないのに、それでも、私のお腹の中で生き続けているわ。きっと生かされているんだね。きっと生まれるべくして、この子は生まれるんだね。とんとん、お前だけでもこの子の誕生を祝ってね」と馬の目を見つめながら、頼みました。

馬のとんとんは「ヒンヒン、わかったよ。きっと、とんとん拍子に生まれてくるよ。きっとよくなる、きっとんとん」と大きな声で鳴いたのです。

小さいばあちゃんは、馬と何か話しているお母ちゃんを見て「わしの悪口を言っているに違いない。可愛くない嫁じゃ」と小言を言いながら「そこで何しといるんや!早く働きんさい」と叱りました。

二人のばあちゃんと一人のおじいちゃんにいつも見張られ、叱られるお手伝いさんのようでした。

結婚してからびくびくしていて、一度も笑ったことがありません。お母ちゃんは、もらわれ子だったので、義親にも義母にも「お父ちゃん、お母ちゃん」と甘えた記憶がなかったのです。子供がなかった夫婦が、友達に頼んでもらいました。よそから子供をもらうと、赤ちゃんが生まれるという言い伝えがあったそうです。お母ちゃんを養女にもらったら、次々に五人も赤ちゃんが生まれました。

お母ちゃんは、弟や妹の面倒を見たり、家の仕事を手伝う働き者でした。子供の頃から働き者として、村中の評判となりました。年頃になると、美しくなり「うちの嫁になってほしい」とひくてあまたでした。

お母ちゃんの義父とお父ちゃんの父親が決めた結婚でした。こうして、山田家に嫁ぎ、昭和の時代のネズミ年に、ネズミのような小さな女の子を生みました。お母ちゃんは、いつも「きっとよくなる」と信じていましたので、この子を「きっとちゃん」と名付けました。


第二章『短い命』


あれだけ怒っていたばあちゃん達が、きっとちゃんが生まれてから、嘘のように可愛がってくれました。「わっちが、赤ん坊をみるから、おまはんは、向こうへ行って、仕事しんさい」とお母ちゃんから、赤ちゃんを引き取って、連れて行ってしまいました。

ゆっくりオッパイもやれないので、きっとちゃんの体重が増えません。お母ちゃんは、だんだん心配になってきました。

大きいばあちゃんは「お寺の住職さんに、この子の未来を見てもらおう」ときっとちゃんを抱いてお寺に向かいました。お寺は、占いもやっていました。

「この赤ん坊は、あんまり乳を飲まないんです。おっさま、どうなんやろ?」と心配そうに尋ねました。「そうかな。ばあさん、そりゃあ、心配なことですなぁ。どれどれ見てみよう」と鉛筆と紙を取り出しました。

「それでは、赤ちゃんの名前と生年月日を言って下さい」と言いました。大きいばあちゃんは、ハキハキと答えました。

住職は、おもむろに答えて「ばあさん、この赤ちゃんは、長生き出来ませんぞ。三つまで生きれたらいいほうだなぁ」と小声で言いました。

大きいばあちゃんは、びっくりしました。「なっ、何と言われましたか?短い命なんですか?」

慌てて家に帰ると泣きながら「この赤ん坊は、三つまでしか生きられないとおっさまに言われたんだ」と家族に話しました。


第三章『生きている』



家族は、住職の話を信じて哀しみました。色は白く、栄養失調のような赤ちゃんを見て、誰もが、そう思ったに違いありません。

ただお母ちゃんは、何とか母乳が出るように、努力をして、きっとちゃんに飲ませました。努力の甲斐があって、少しづつ体重が増えていきました。足も少しふっくらとしてきて、一歳を過ぎて歩けるようになりました。

家族は、大喜びです。「きっとちゃんが歩いた、歩いた」と手を叩いてはしゃぎました。もうすぐ二歳になろうとした時に、妹が生まれました。それから、また弟と妹が生まれ、三人のお姉ちゃんとなりました。

小学一年生になった夏休み。台風の後で、川底の様子が変化していました。子供達は、それに気付きませんでした。一年生のきっとちゃんは、上級生に連れられて来ていました。

水着に着替えると、準備体操にしてから、川に入りました。嬉しくて急いで、浅いはずの川に入りました。

いつもだったら、浅いはずでした。きっとちゃんは、深みにはまって、足を取られてしまいました。「キャー」と言ったまま、水の中へ~。

ぶくぶくと、だんだん沈んで行く中で「おかあちゃーん」と言いたいけど、言えません。気を失いかけたその時、水面から光が差し込み「しっかりしろ」と、大人の人の手で、引っ張り出されました。

水をたくさん飲んでいて、気を失っていましたが、しばらくして気がつきました。「ここはどこ?」と聞くと「河原だよ。助かってよかったね。きっとちゃんは、川で溺れたんだよ」と、男の子が、教えてくれました。

「きっとちゃんは、生きている」と、風が囁いてくれました。


第四章『本が大好き』


きっとちゃんは、川で溺れてから、色々な事を考えるようになりました。まだ、小学生なのに、物思いにふけるようになってきました。川の流れを見つめたり、空に浮かぶ雲を見て、ぼんやり考え込むようになりました。

溺れた川に行き、平らな石を探して、向こう岸まで届くように、飛び石をやりました。誰もいない川で、黙々と石を投げ続けました。水の表面をかするように飛んで行く石をじっと見ながら、向こう岸に届くのを祈っていました。なかなか、届きません。何回も何回も、何日も何日もただ黙々と飛び石をやっていました。投げる時に、向こう岸に届きますようにと、いつしか「きっとんとん、きっとんとーん」と、言っていました。

ある時「私は、何故生まれたのだろう。私は、何故生きているのだろう」と、子供なりに、一生懸命考えていました。

大きな石の上に座り、傍に転がっていた石を溺れた場所に投げました。「何故なの?きっとんとん」と言いながら、石を投げました。溺れた所に石が落ちて「ポッチャン」という音と共に、さざ波が広がってゆきました。何もなかった川面に、波が広がったのです。何回も何回もやっているうちに気付きました。

「私は何かをする為に生まれたから、溺れても死ななかった。三つまでしか生きられないと言われていても、死ななかった」とハッと気付きました。石でもさざ波を起こした。私でも何かを起こせる。石も投げ続けたら、一回だけ向こう岸まで飛んだ。何をするのか今はわからない。わからないから本を読もう。

それから、きっとちゃんは、黙って本を読むようになりました。おじいちゃんもおばあちゃんも本が大好きだったから、家には、いっぱい本がありました。

きっとちゃんは、本が大好きになり、本が1番のお友達になりました。


第五章『スカートめくり』


小学校で、スカートめくりが流行しました。休み時間になると、男の子達が、女の子のスカートをめくって「パンツが見えた」と言って、ワァーワァーはやしたてました。

きっとちゃんは、無口でおとなしかったので、男の子達が、目をつけました。強くて、男の子に「何するの?先生に言ってやる」と、男の子を押し倒す女の子は、やられませんでした。

きっとちゃんは、男の子が怖くて、びくびくしていました。いじめられても、青白い顔をして、メソメソ泣いているだけです。男の子は、おもしろがって、からかいました。「やぁい、泣き虫!やぁい、弱虫」と言いました。

給食の時間になると、きっとちゃんの器に、脱脂粉乳のミルクを、いっぱい入れました。その頃は、給食を全部食べないと、遊びに行けませんでした。みんなは、食べ終わるとすぐに「ごちそうさま」と言って、外に遊びに行きました。

先生は、一人になったきっとちゃんに「もっと早く食べるようにしなさいね。お昼休みが終わってしまいますよ」と、注意しました。大嫌いなミルクを、ポンポンに入れられていることも、休み時間に、スカートめくりされていることも、話せません。

学校からの帰り道に「きっとちゃんだけ残れ」と、5、6人の男の子に、囲まれました。他の女の子は、いなくなり、ブルブル震えていました。右手には、お寺の階段があり、左手には、川が流れていました。逃げる勇気もなくて、その場で立ちすくみました。


第六章『笑わない少女』


男の子に取り囲まれ、震えていると、和君が「きっとちゃんが好きな子は、誰なんや?みんなに教えろ」と言いました。きっとちゃんは「男の子なんて、大嫌い!いたずらするし、野蛮人。弱い者をいじめて、嫌がることばかりするから、みんな大嫌い!」と心の中で叫んでいました。でも、勇気がなくて言えません。「エーン、エーン」と泣き出しました。「とし君がお前の事好きなんだって」と、みんながはやしたてました。

きっとちゃんは、一分でも早く、男の子達から、逃げ出したくて、いちもくさんに走り出しました。走るのは、得意なので、涙を拭き拭き、走りました。後ろから「やぁい、泣き虫」という声がしました。

学校でいじめられていることも、「学校なんて大嫌い」だと思っている事も、誰にも言えませんでした。

「ただいま」と帰ったら、弟な妹の面倒をみなければなりません。お風呂を沸かすのも、きっとちゃんの仕事でした。薪に火をつけ、無くなりかけると、また、薪を入れて燃やし続けます。

この時間に本を読んでいても、叱られることはありません。お風呂を沸かしながら、本が読めるとても楽しい時間です。この頃のきっとちゃんは、学校ではいじめられて、楽しくないし、家でも、叱られてばかりで、全然楽しくありませんでした。

お父ちゃんもお母ちゃんも、新しい商売を始めたばかりで、一日も休まずに働いていました。お母ちゃんは、嫁舅問題があって、きっとちゃんに、愚痴をこぼしていたのです。だから、きっとちゃんは「学校へ行きたくない」と言えません。これ以上、お母ちゃんに辛い想いをさせられないと、心の扉を静かに閉めてしまいました。

ただ、読書している時は、本の世界に入ってしまい、お母ちゃんがお手伝いを頼んでも聞こえません。「また、本を読んでる。早く手伝って!」と叱られてばかりでした。それ以来、きっとちゃんは、笑わない少女になってしまいました。


第七章『迷子になって』


物静かで、笑わない少女は、なかなか友達の輪に入っていけません。みんなが、ペラペラお喋りをして、楽しく笑っているのを見ると「何であんなにおもしろいのだろう?何であんなに楽しいのだろう?」と不思議な気持ちでした。

いつも、お母ちゃんが話しかけて、かわいがっていた馬のとんとんは、新しい商売の資金作りの為に、売られることになりました。

お母ちゃんは、とんとんのお陰で、姑のいじめにも耐えることが出来たと思いました。「とんとん、ありがとう。お前は黙って私の話を聞いてくれたね。お前のお陰で、身体の弱いきっとちゃんも、育てる事が出来たよ」と優しく頭を撫でました。

きっとちゃんは、隣の部屋で、その言葉を聞いていました。お母ちゃんの姿が、見えなくなるのを確かめてから、とんとんの側へ行きました。「とんとん、ありがとう。私も、とんとんが大切な友達だったよ。淋しくなるけど、元気でね。ありがとう」と言って、とんとんをさすりました。「ヒヒヒーン」と哀しそうに鳴きました。数日後、とんとんは、いなくなりました。

きっとちゃんは、何も話さず、笑顔もありません。心配した親戚のおばさんが「姉様、きっとちゃんは、子供らしくないよ。何だか様子がおかしいよ」と、お母ちゃんに言いました。「はっちゃんもそう思うかね。ちっとも、笑わなくてねぇ。~」と、心配そうに、答えました。「もうすぐ、岐阜祭があるから、きっとちゃんを祭に連れて行くわね。うちの子供達と一緒にね」と、ニコニコしながら、話しました。

きっとちゃんは、町のお祭りは、初めてです。ドキドキして、緊張しました。人がいっぱいいる柳ヶ瀬という所にも行き、丸物という百貨店の屋上にも、上がりました。そこは、遊園地になっていていて、大勢の家族連れで賑わっていました。生まれて初めての遊園地なので、夢中になって、夢の世界に入り込んでしまいました。ふと、気がつくと、周りは知らない人ばかり。おじさんも、おばさんも、従姉妹達の姿が、どこにもありません。きっとちゃんは「迷子になっちゃった!」としくしく泣き出しました。


第八章『トラウマ』

きっとちゃんは、怖くてたまらなかった。川で溺れた時と同じように、底無し沼に落ちていくようなショックを受けていました。泣いていたら、馬のとんとんが「大丈夫だよ、きっとんとん」と、後ろで鳴いているような気がしました。

ふと、後ろを振り返ると、おじさんとおばさんと従姉妹達が、ほっとした顔で立っていました。

「本当に、見つかってよかったわ。突然、きっとちゃんの姿が見えなくって、みんなで探していたの。あまりたくさんのひとで、なかなか見つからなかったのよ。ごめんね。怖かったでしょ!」とおばさんが、抱きしめてくれました。

うれしくて「ワァーン、怖かった。もう、おうちに帰れないと思った」と大声で泣きました。

迷子になったこの時の恐怖心が、トラウマとなって残りました。小さな村に住んでいたきっとちゃんは、初めて、賑やかな繁華街を歩き、違う世界にきたような、新しい経験をしました。沢山の人が集まる活気に、ワクワクした感動を覚えました。

怖い思いもしましたが、いつかは、小さな村から、町に出ることを夢見るようになりました。


第九章『きっとちゃんはどこに』


いじめにあったこと、川で溺れたこと、迷子になったことなど怖い体験が、きっとちゃんの心に残りました。眠っている時も、夢の中でうなされることもありました。

きっとちゃんは、おじいちゃんが大好きでした、。可愛がってくれた大きいばあちゃんは、亡くなったので、おじいちゃんが遊んでくれました。小さいばあちゃんは、お裁縫をしていて、あまり遊んでくれません。だから、おじいちゃんが、戦国時代の秀吉や、信長の話をしてくれました。まるで、友達だったような口調で、歴史の中の人の事を、語り始めます。

おじいちゃんが語りだすと、きっとちゃんは、その時代の中に入り込んでしまいました。まるで、歴史の旅をしているようでした。

おじいちゃんのお陰で、いやなことや、怖かった事を忘れ、物語の世界へと誘いこまれていきました。楽しくてワクワクして聞いていました。お父ちゃんとお母ちゃんは、休むことなく、働き続けました。両親の働く姿は覚えていますが、遊んだ思い出はありません。

馬のとんとんが、いなくなってしまい、遊ぶ友達もいなくて、急に寂しくなりました。ふと、二階の窓から、外をみると、屋根の上に布団がいっぱい干してありました。

窓から外に出て、恐る恐る大屋根に上りました。そこに敷いてある布団の上に寝てみました。何と気持ちが良いことでしょう。青い空に、白い雲がぽっかり浮かんでいます。白い雲が、馬の形に見えてきました。とんとんが「きっとよくなる、きっとんとん、とんとん拍子」と話しかけたような気がしました。屋根の上で寝転んで、馬の形をした雲と話しているうちに、いつしか深い眠りに入っていました。妹や弟が「お姉ちゃんがいなくなった」と大騒ぎをしていました。仕事をしていた両親も、心配しながら、探し始めました。その時、きっとちゃんは、大屋根の上でスヤスヤ夢心地でした。


第十章『魔法の言葉』


この頃から、きっとちゃんは「不思議世界」を持っようになりました。誰も信じてくれないので、誰にも話しませんでした。

きっとちゃんが生まれた時に、隣の馬小屋で「ヒヒヒーン、きっとんとん」と、とんとんが鳴きました。その言葉が、心に刻み込まれていたのです。不思議な事に、この言葉を言うと、次々に、夢が現実になっていきました。

6才の時「先生になりたい、きっとんとん。10才の時、この人と結婚したい、きっとんとん。この人に作詞作曲してほしい、きっとんとん。本を出したい、きっとんとん。CDを作りたい、きっとんとん。会社を経営したい、きっとんとん~~~」と言った事が、振り返ってみると、次々に実現していました。

単純で疑わなくて、信じて実行したから、魔法の言葉を、天が与えて下さったのかもしれません。

大人になったきっとちゃんは、困った人がいると「あのね、きっとんとんっていうと、困ったことが起こらないよ」「あのね、きっとんとんと言うと夢が実現するよ。毎日信じてちゃんと声を出していうとね」と悩める人々に言いました。困った人、悩んだ人は、信じて毎日実行しました。

きっとちゃんの所へ、御礼の手紙やハガキ、メールが、毎日届くようになりました。口コミで静かにジワジワと、確実に伝わっていきました。今度は、手紙だけでなく「きっとちゃんに会いたくて、逢いたくて」と遠方からも、人々が訪れるようになりました。きっとちゃんは、その人達の為に「一休庵」を建てました。一休さんが、大好きだったからです。この部屋の後ろに山があり、前には川が流れ、おいしい空気と、夜には満天の星が見えます。この部屋には、レントゲンも検査室もないけれど「真心」という薬箱があります。美しい自然、馬のとんとん、犬のラブチャン、猫のララとルーラが、のんびりくつろいでいます。子供だったきっとちゃんは、きっと母ちゃんになり、今ではきっとばあちゃんになりました。

きっとばあちゃんは、子供の頃からの大きな夢に向かって、一歩を踏み出す決意をしました。80才になった時に「一休庵に、魔法使いのおばあさんがいるよ。会ってみたいな」と子供達から言われたいという「幻想的な夢」です。子供達が、ドキドキして、目がキラキラ輝くのを見たいからです。夢ある不思議世界、真心溢れる愛の世界を、作り出すために、きっとちゃんは「きっとんとん」を広めています。