特別講演・市民公開講座

日 時:10 月 14 日(土) 13:00~14:00

会 場:東北大学・青葉山新キャンパス 青葉山コモンズ・大講義室

講演者

古谷 哲也 教授

東京農工大学 農学部共同獣医学科

獣医伝染病学研究室

講演演題

「マラリア原虫と病原ウイルスの両方に抗活性を持つ漢方植物抽出物質の検出」

要 旨

マラリアは 2012 年に世界で 60 万人以上の死亡者を出している。その中で、薬剤耐性マラリア原虫の出現は大きな問題であり、現在 WHO で推奨されているアルテミシニン混合療法に対する耐性原虫も深刻な問題となっており、新たな抗マラリア薬の開発が重要である。

植物抽出物は化学療法薬の重要な供給源であり、主要な抗マラリア薬のほとんどは植物抽出物か、あるいは、その化合物誘導体である。一方で、これらには抗ウイルス作用を持つ薬剤もあり、アルテミシニン、クロロキン等の薬剤は、マラリア原虫とウイルスの両方に対する有効性が確認され、既に認可されている化学療法薬の、抗ウイルス・抗寄生虫の両方に対する効果の可能性を示している。

今回私たちは、動物に既に使用されている漢方植物抽出サプリメント・ライブラリを用い、Plasmodium falciparum による In vitro アッセイによって、抗マラリア作用を持つ抽出物を検出したところ、明らかな抗マラリア作用を持つ漢方サプリメントが 3 種類検出された(図 1)。その中の 1 つである D3 のカラム分画により、抗 P. falciparum 特異活性の顕著な上昇が確認され、NMR と質量分析器を用いた構造解析により複数の化合物の構造を同定したが、市販精製物による特異活性は、分画からの顕著な上昇が認められなかった。また、クロロキン耐性 P. falciparum 株を用いたアッセイでは、耐性株で感受性株より有意に高い IC50 が検出されたため、D3 の薬剤作用機序は、クロロキンと少なくとも一部が共通である可能性が考えられた。一方、D3 を用いて猫のコロナウイルス(図 2)や A 型インフルエンザウイルスに対する活性を測定したところ、明らかな抗ウイルス作用が検出され、比較的良好な安全性も確認された。現在、D3 の分画による化合物の構造解析を進める一方で、他の漢方抽出物に対する同様の解析を行って行く予定である。

図1.漢方抽出物の抗マラリア活性

(Endo T et al., Parasitol. Int. 2022. 87:102532)

図2.D3 の抗猫コロナウイルス活性

(Nishijima R et al., J.Vet.Med. Sci. 2023. 85:443)

大会事務局

東北大学大学院農学研究科 動物環境管理学分野

宮城県大崎市鳴子温泉字蓬田232-3 複合生態フィールド教育研究センター

連絡先:kita.parasit.eisei "A" gmail.com("A" をアットマークへ置き換えて送信ください.)