2019年10月14日の熊本日日新聞に以下の見出しでショッキングな記事が掲載された.
その内容については「その1」で紹介した.
熊本日日新聞の記事概要
代表研究者の清水教授によると,これまでの調査から,2016年4月の熊本地震では布田川断層帯の布田川区間はひずみが完全に解消した,一方,日奈久断層帯は限られた断層崩壊にとどまり,周期的な大地震を引き起こすひずみが依然として残っている.
地層を確認するトレンチ(溝)調査やボーリング調査などの結果,日奈久断層帯での大地震の間隔を推定した結果,「日奈久断層帯は近い将来もう一度大地震を起こす」(清水教授)と考えられる.マグニチュード(M)は最大規模8.1で,熊本地震のM6.5とM7.3を上回ると予想される.
左図は,日奈久断層帯の全区間が崩壊した時に予想される県内各地の震度(熊本日日新聞のWeb画像を利用)
この記事が熊本日日新聞に掲載された1ヶ月後の11月15日, NHK熊本のローカル番組(くまもとの風)でも,九州大学地震火山観測研究センター長の清水教授が生出演して,以下のタイトルで放送が行われた.調査の結果から,地震が明日起こってもおかしくない状態であり,海岸近くで起これば前回と異なり津波の可能性もあるとのことであった.また,前回の地震では旧耐震基準の家でもで筋交いを入れて補強された家は被害がなかったことなどが紹介され,早急な対策が必要との見解が述べられていた(11月16日(土)朝に再放送された).
放送内容の概略の紹介がNHKのホームページにあるのではないかと調べたが,上図と次図が掲載されているだけである.左から,調査団,調査用トレンチ,地震後の3年間の布田川断層,日奈久断層の変化の様子を示した図と思われる.
熊本日日新聞およびNHKの番組では,トレンチ調査の結果を踏まえて説明がなされていた.そこでトレンチ調査とは如何なるものなのかを知るためにネットを調べると,そのものずばりの以下の記事が見つかった.
調査が実施されたトレンチの位置
山出トレンチ
熊本県上益城郡甲佐町白旗山出
南部田トレンチ
熊本県宇城市小川町南部田
トレンチ調査
活断層は空中写真,地表地質踏査,ボーリング調 査,反射法地震探査などで位置を絞り込む.
トレンチ調査では,活断層を横切るように掘削し,地面を数メートル掘り下げる.面積は,普通,数m〜十数m四方程度である.こうして新鮮な断層面を露出させ,壁面に現れる 断層及び地層のズレや変形を観察する.
その結果,以下の知見が得られる.
1)活断層はいつ動いたのか
2)活断層は何 年周期で活動を繰り返しているのか
3)活断層は1回にどれ くらい動いたのか
一個の活 断層において複数のトレンチ調査を実施することによって,デー タを増強して精度を高め,これらを総合的に解析することによって,活動予測や地震規模の評価,予測が可能になる.
資料1の解説文を引用させてもらった.
トレンチの壁面では,地表のわずかなたわみが観察された場所のちょうど真下に,地層を大きくずらす断層が複数見つかった.図2では,地層が写真の右(東)側から左(西)側に向かって傾斜していくとともに,赤矢印で示した断層によって,ずらされている様子が観察できる.また,下の地層ほど,断層沿いで食い違う量が大きくなっている.川の流れによって運ばれてきた砂や泥でできているこれらの地層は,下から順に堆積していく.したがって,
一番下の焦げ茶色の地層(図2中の③)は,年代測定の結果,約1万5千年前の地層であることが判明した.地層と断層の関係を詳細に観察した結果,この地層が堆積した後に,合計5回の地震が起こったことが推定された.
図2 山出トレンチの北壁面 赤矢印が断層、白矢印は炭素を多く含む焦げ茶色の地層(腐植質シルト層)を示します。
別資料(資料2)には,約4m 地面を掘り下げたと記載されている.
宇城市小川町南部田地区は,熊本地震では活動していない区間に属している。南部田地区でも,同様にトレンチ調査が行われた(図3).こちらのトレンチ壁面でも,東側から西側に地層が傾きながら下がり,途中で明瞭な断層によってずらされている様子が観察された.詳細な壁面観察と地層の年代測定の結果,約1万8千年前から現在までの間に,合計6回の地震が起こったことが推定された.
資料1より引用
図3 南部田トレンチ北壁面 一般公開時の様子
図3については論文に正面から撮った写真が「活断層研究」に載せられているので,以下に示した.
宮下 由香里, 白濱 吉起, 東郷 徹宏, 吾妻 崇, 亀高 正男, 鈴木 悠爾, 酒井 亨, 杉田 匠平, 松浦 一樹, 熊本県日奈久断層帯におけるトレンチ調査 , 活断層研究, 2017, 2017 巻, 46 号, p. 5-7
グリッドは鉛直1m×水平1m
産総研地質調査総合センター活断層・火山研究部門では,文部科学省委託業務「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」の一環として,熊本県日奈久断層帯の調査を実施している.
活断層調査の実態や意義を知ってもらうため,2017年2月11日(土),12日(日)に地元の方々に向けに,日奈久断層帯・高野−白旗区間の熊本県上益城郡甲佐町白旗山出において実施中のトレンチ調査の一般公開を行っている.2日間で,マスコミの方々も含め,およそ230人以上の見学者があったと記載されている.図2はトレンチ調査の説明に使用できるような教科書的資料と言えそうである.
詳細については資料を見て欲しい.
(2019.11.19)