(2019~)
自閉スペクトラム症(以下,ASD)児は社会的コミュニケーションなどの問題だけでなく,運動面にも問題を有することが指摘されています。私は臨床経験の中で,頻回にヒトやモノとのぶつかるために怪我をしてしまうASD児を散見したことをきっかけに,彼らの知覚運動協応(視覚や触覚などの知覚に由来する情報を継続的な動作の制御に利用すること)に関心を持ちました。
知覚運動協応に関連する複数の先行研究によれば,ASD児は「身体と環境の空間関係の知覚」や「先を見越した運動計画」の問題を有していることを踏まえて,私は新たな実験課題の作成,および実験を進めてきました。
実験の結果,ASD児は目の前のモノ(情報)に注意を向けやすく,継続的な動作の中で知覚できる情報が少ないために,結果的に衝突してしまうことが分かりました。彼らが安全に日常生活を送るためには,衝突の可能性が高い部分をできるだけ早く特定することが重要と考えられます。
現在は,このASD児にみられる知覚運動協応の問題に対する介入方略の検証中です。また、実験装置についても改良を重ねているところです。
Kikuchi, K., Honda, M., Baba, Y., Kita, Y., & Higuchi, T. (2024). Difficulties in perceptual–motor coordination of reaching behavior in children with autism spectrum disorder. Cortex, 180, 111-125.
Kikuchi, K., & Higuchi, T. (2024). Autistic traits in neurotypical adults are related to impaired perceptual–motor coordination. Discover Psychology, 4(1), 47.
菊地謙, & 樋口貴広. (2023). 自閉スペクトラム症における先を見越した知覚判断に基づいた運動計画能力の解明: 若齢成人を対象とした検討. 発達研究: 発達科学研究教育センター紀要, 37, 9-22.
(2022~)
本研究テーマでは,神経発達症を対象として運動学習や適応行動、ASD/ADHD特性と注意機能の関連性を検証しています。
これまでに、ADHD児に対する治療薬の一つのグアンファシン塩酸塩(インチュニブ)の服用によって易疲労性や身体不活動を呈した症例における、運動技能の獲得過程に関する症例報告を行いました。GXR服用後に易疲労性や身体不活動は認められましたが、興味深いことに運動技能の改善も同時に認められました。易疲労性や身体不活動の所見は過度な服薬効果と考えられますが、一方で注意機能の改善は運動技能獲得に良好な影響を及ぼしていたとも考えられます。
上記の症例報告を通して、注意機能が運動学習や運動制御に果たす役割や、日常生活や社会生活で必要となる適応行動スキルとの関連性について興味を持ちました。
現在は、注意機能評価における応答性について数理モデルに基づいた解析を行い、注意の選択プロセスとASD/ADHD特性の関連性や、注意機能と適応行動の関連性のデータ収集を行っています。また、内部モデルに基づいた運動学習過程での注意機能の役割について、今後研究をスタートする予定です。
Kikuchi, K., Hayashi, M., & Honda, M. (2024). Progress in cardiorespiratory fitness and motor coordination skills in children with attention-deficit/hyperactivity disorder with easy fatigue and physical inactivity due to the side effects of guanfacine extended-release. Brain and Development Case Reports, 2(2), 100017.
(2017~)
社会適応とは集団の一員としての意識や配慮といった社会生活を営むうえで重要な因子です。障がいを持つ子どもにおいても、社会適応能力を身に着けることは重要でああると考えています。
これまでに修士課程では、脳性麻痺や筋ジストロフィー、二分脊椎などの肢体不自由児における社会適応に関する研究に取り組みました。社会適応を身に着けるうえで、特に重要なキーワードとして「親子分離」を取り上げていました。
そこで、親子分離型の肢体不自由児療育キャンプのご理解とご協力を得て、社会適応能力を評価可能な質問紙の妥当性評価や、社会適応能力に対する親子分離経験の寄与、そして親子分離経験による脳性麻痺児の社会適応能力の変化を検証しました。また、保護者を対象としたアンケート記述をもとに、質的研究法を用いて親子分離機会の意義についての考察を行ってきました。
現在は、神経発達症児の社会適応に関する研究を進めています。
菊地謙, 菊地真実, & 新田收. (2024). 肢体不自由児の親子分離療育キャンプへの参加意義―保護者へのアンケート自由記述回答の分析を通して―. 野外教育研究, 2025_0005.
菊地謙, & 新田收. (2021). 肢体不自由児におけるASA旭出式社会適応スキル検査の基準関連妥当性および関連因子の検討. 小児保健研究, 80(5), 594-603.
菊地謙, 新田收, & 松浦孝明. (2020). 親子分離経験が脳性麻痺児の社会適応能力に与える影響. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 57(11), 1090-1098.