(2019~)
自閉スペクトラム症(以下,ASD)児は社会的コミュニケーションなどの問題だけでなく,運動面にも問題を有することが指摘されています。私は臨床経験の中で,頻回にヒトやモノとのぶつかるために怪我をしてしまうASD児を散見したことをきっかけに,彼らの知覚運動協応(視覚や触覚などの知覚に由来する情報を継続的な動作の制御に利用すること)に関心を持ちました。
知覚運動協応に関連する複数の先行研究によれば,ASD児は「身体と環境の空間関係の知覚」や「先を見越した運動計画」の問題を有していることを踏まえて,私は新たな実験課題の作成,および実験を進めてきました。
実験の結果,ASD児は目の前のモノ(情報)に注意を向けやすく,継続的な動作の中で知覚できる情報が少ないために,結果的に衝突してしまうことが分かりました。彼らが安全に日常生活を送るためには,衝突の可能性が高い部分をできるだけ早く特定することが重要と考えられます。
現在は,このASD児にみられる知覚運動協応の問題に対する介入方略の検証中です。また、実験装置についても改良を重ねているところです。
(2022~)
本研究テーマでは,神経発達症を対象として運動学習や適応行動、ASD/ADHD特性と注意機能の関連性を検証しています。
これまでに、ADHD児に対する治療薬の一つのグアンファシン塩酸塩(インチュニブ)の服用によって易疲労性や身体不活動を呈した症例における、運動技能の獲得過程に関する症例報告を行いました。GXR服用後に易疲労性や身体不活動は認められましたが、興味深いことに運動技能の改善も同時に認められました。易疲労性や身体不活動の所見は過度な服薬効果と考えられますが、一方で注意機能の改善は運動技能獲得に良好な影響を及ぼしていたとも考えられます。
上記の症例報告を通して、注意機能が運動学習や運動制御に果たす役割や、日常生活や社会生活で必要となる適応行動スキルとの関連性について興味を持ちました。
現在は、注意機能評価における応答性について数理モデルに基づいた解析を行い、注意の選択プロセスとASD/ADHD特性の関連性や、注意機能と適応行動の関連性のデータ収集を行っています。また、内部モデルに基づいた運動学習過程での注意機能の役割について、今後研究をスタートする予定です。
(2017~)
社会適応とは集団の一員としての意識や配慮といった社会生活を営むうえで重要な因子です。障がいを持つ子どもにおいても、社会適応能力を身に着けることは重要でああると考えています。
これまでに修士課程では、脳性麻痺や筋ジストロフィー、二分脊椎などの肢体不自由児における社会適応に関する研究に取り組みました。社会適応を身に着けるうえで、特に重要なキーワードとして「親子分離」を取り上げていました。
そこで、親子分離型の肢体不自由児療育キャンプのご理解とご協力を得て、社会適応能力を評価可能な質問紙の妥当性評価や、社会適応能力に対する親子分離経験の寄与、そして親子分離経験による脳性麻痺児の社会適応能力の変化を検証しました。また、保護者を対象としたアンケート記述をもとに、質的研究法を用いて親子分離機会の意義についての考察を行ってきました。
現在は、神経発達症児の社会適応に関する研究を進めています。
(2025~)
包括的支援とは、お子さん本人への読み書き・学習支援だけでなく、保護者への心理的サポートまでを統合したアプローチのことです。読み書き障害(ディスレクシア等)を持つ子どもにおいても、子ども自身への直接的な支援にとどまらず、ご家族全体の心のケアや支援環境を整えることが重要であると考えています。
これまでの読み書き障害に関する支援では、言語聴覚士(ST)や作業療法士(OT)によるお子さんへの個別的な読み書き訓練が中心に行われており、保護者支援の重要性が指摘されつつも実証的な研究は限られていました。特に、保護者の方の育児ストレスや心理的要因が、お子さんの読み書き能力の向上にどのように連動するのかという持続的な効果についての検証は十分ではありませんでした。
そこで、医療・福祉施設と連携し、お子さんへの個別支援(ST/OT)に加えて、保護者を対象としたペアレントトレーニング等の心理支援を組み合わせた多面的な支援モデルを構築し、お子さんの読み書き能力や発達特性の変化と、保護者の育児ストレスの軽減効果などを総合的に検証しています。また、支援に関わる専門職へのインタビュー調査や保護者を対象としたアンケート調査を実施し、現場での実現可能性や課題についても検討を進めています。
(2024~)
姿勢制御や動作制御(歩行、立ち上がり、リーチ動作など)は、人間が自立した日常生活を送り、身体活動を広げるうえで基礎となる極めて重要な身体機能です。発達期にある脳性麻痺児から、加齢や神経変性に伴うパーキンソン病患者・高齢者に至るまで、運動障害や姿勢維持困難は日常生活の質(QOL)や活動性に大きく影響します。
これまでに、多様な疾患患者を対象に、姿勢・運動制御の神経・生体メカニズムの解明と、各種リハビリテーション介入の効果検証に取り組んできました。立ち上がりや歩行、上肢動作における筋シナジー(協調運動構造)や重心運動の解析を通じ、病態や薬剤、理学療法・徒手療法の介入が動作・身体機能に与える影響を明らかにしてきました。
現在は、これらの運動解析や生体メカニズムの知見に基づき、多様な疾患やライフステージに応じた客観的な運動評価手法の開発、および客観的根拠(エビデンス)に基づくリハビリテーション介入アプローチの確立を目指しています。