私たちの身の回りに存在する物は、全て原子によって構成されています。 したがって、個々の物体の性質(物性)は これら原子の並び方や 原子自身の持つ性質により決定づけられます。 例えば、炭素(C)のみで構成される有名な物質としてダイヤモンドと黒鉛があります。どちらも、炭素のみですが、その並びである「構造」が違うことで、大変固いダイヤモンドと、剥げやすく柔らかい黒鉛の性質が出てくるのです。このように、原子の並びである「構造」を決定することが、物性を理解する上で大変重要です。このような、物質の構造から物性の発現機構を調べる研究を、「構造物性研究」と呼びます。
巨大磁気抵抗効果、巨大電気磁気効果、高温超伝導、重い電子状態といった、数々の興味深い物性を示すことで、近年注目を集めている 強相関電子系と呼ばれる物質群では、 原子を構成している電子の持つ内部自由度 (電荷・スピン・軌道・多極子)の秩序構造が 物性に決定的な役割を果たすことが 分かってきました。 このため物性物理の研究分野では、この電子の持つ内部自由度の秩序構造を調べることが 重要な研究テーマとなっています。 本グループでは、放射光の持つ特徴を最大限利用する「共鳴X線散乱」手法を駆使し、通常の実験手法では観測することが難しい電荷・軌道・スピン・多極子の秩序構造を調べることで、物性発現のミクロなメカニズムを解明する研究を推進しています。
共鳴X線散乱手法は、物性を担っている電子状態が観測できる強力な手法であるが、次世代の放射光源の特徴である光の位相が揃ったコヒーレント光、光の位相が制御された渦ビームなどを本手法と組み合わせることで、新しい電子状態の観測を目指す。
*コヒーレントX線回折イメージング
*マルチスケール軟X線回折顕微鏡
Development of Multi-scale Soft X-ray Diffraction Microscope for Observing Spin Textures", Y. Ishii, Y. Kozuka, Y. Yamasaki, and H. Nakao, JPS Conf. Proc. 38, 011190:1-5 (2023).
*走査型軟X線回折イメージング
Phase-separated state in the bilayer manganite investigated by scanning-type resonant soft X-ray scattering", H. Nakao, Y. Sawata, M. Mizumaki, Y. Yamasaki, H. Kuwahara, and T. Saitoh, J. Phys.: Conf. Ser. 3010, 012159:1-5 (2025).