研究テーマ
研究テーマ
研究領域は,計算社会科学,計量書誌学(Science of Science),マーケティングサイエンス,通信工学と様々ですが,「人や機械が相互作用する集団を複雑系/ネットワーク科学の観点から解析し,制御する」という目的とアプローチは一貫しています.この目的の達成に向け,「データ分析(統計分析・機械学習)」と「シミュレーション(主にエージェントモデル)」の手法を用いて研究を進めています(下図).
「協力関係がいかに形成され,維持されるのか?」という問題は進化生物学/複雑系における重要な問題です.本論文では協力集団の形成メカニズムについて,従来のエージェントモデルをより単純化し,ゲーム理論の枠組みと物理モデルを組み合わせた数理モデルを提案しました.このモデルは極めて単純であるにも関わらず,協力集団の形成と崩壊のダイナミクスを再現し,既存研究の課題であったその発生条件を明らかにしました (Nishimoto, 2013), (Ito, 2018), (Nishimoto, 2023).
人々はSNSのフォロー関係更新など,日常的に関わる相手を選択しており,この「パートナー選択」と呼ばれる行動は社会から利己的個体を排除し,協力を促進するために重要とされてきました.しかし近年,利己的行動は資源の乏しさに起因し,パートナー選択は集団における資源格差を拡大させる可能性が被験者実験により指摘されています.現在,強化学習エージェントによる シミュレーションにより「協力の促進と格差拡大」という一見相反する現象のメカニズムを探求しています(Nishimoto, 2025).
近年,LLMエージェントの集団と人間が協力して課題を解決するアーキテクチャが提案されています.これまでに得られた研究成果に加え,社会科学や心理学の知見を応用し,個体間に安定的な協力関係を形成するためのプロトコル設計を目指して研究を進めています.
LLMエージェントの会話形式がEl farol bar問題の協調に与える影響分析(Asada, 2025)
通信遅延がLLMエージェント間の囚人のジレンマゲームの協力形成に与える影響分析(西本, 発表予定)
協力関係の形成に関して,シミュレーションだけではなく実際のデータを用いた分析も進めています.論文や特許に関する大量の出版情報を用いて,異なる科学分野の研究者が協力が研究インパクトへ与える影響や,科学分野の成長に関して分析しています.
Circular Economy分野における異分野研究者の協力分析(Nishimoto, 2025)
計算社会科学の手法を用いて,人々の消費行動の分析を行なっています.
K-POP音楽のリスニング行動の分析(Nakamura, 2025)
大河ドラマの放映がWikipediaの歴史記事に与える影響の分析(西本, 2023)
ID-POSデータを用いた顧客間の社会ネットワーク推定(Nishimoto, 2024) など
従来,小売におけるデータ分析は顧客の購買履歴(POSデータ)を中心に行われてきました.一方近年では,Amazon GOなど,店舗内での顧客行動のデータ(動線など)を取得することができる店舗が増えています.こういった店舗向けに,動線データと顧客の購買品目に基づいて,顧客購買行動を分類・可視化するための技術を開発しました(Kim, 2024).
従来,通信ネットワークはハードウェアを中心に構成されてきました(特に光通信ネットワーク).これをソフトウェア中心に構成し直し,より柔軟かつインテリジェントに制御することを目的とした研究開発を行ってきました.
光ネットワークの一種であるPassive Optical Network(PON)は多数のユーザ端末を少数の装置で収容できることから,通信局舎とユーザを結ぶアクセスネットワーク(フレッツ光など)で広く使用されています.PONを柔軟・インテリジェントに制御するために,SDN/NFVといった仮想化技術をPON-OLT装置(L2転送を担う局舎装置)に適用する検討・技術開発を行ってきました.具体的には,
PON-OLTをNFV化した際のアーキテクチャ提案・実装(Nishimoto, 2017a)(Nishimoto, 2020)他
仮想化したPONネットワーク向けの帯域制御アルゴリズム(Nishimoto, 2017b)
仮想化PONネットワークにおける制御メッセージの帯域圧縮(Nishimoto, 2021a)
OpenFlowとOSSを活用したZero Touch Provisioning方式の提案(Nishimoto, 2021b)などです.
Open Networking Foundation(ONF)にて,仮想化した光アクセスネットワーク(PON)をSDN制御するためのコントローラ(SDNコントローラ)の開発に携わりました.コントローラの導入には,性能評価のために大量の通信装置(OLT/ONU)を用意する必要があり,導入障壁となっていました.この課題を解決するため,大量のOLT/ONUの挙動を模擬するためのソフトウェア・エミュレータ(Broadband Simulator/BBSim)を開発しました.BBSimはOSSとして公開されており,ONF以外にも,学術研究やブラジルにおけるOpenRANプロジェクトのプラットフォームの一つとして使用されています.
エッジコンピューティングのユースケースの一つとして,工場に配置されたIoTセンサやアクチュエータをエッジサーバからリアルタイム制御することが検討されています.しかし一方で,大量のセンサ/アクチュエータを収容すると,ゲートウェイ部分における極短時間における遅延の増大(マイクロ・バースト)が懸念されます.本研究では,センサから定期的に送信されるメッセージをエッジ側でキャプチャし,その受信時刻の揺らぎからマイクロバーストを検知する手法を提案しました(Nishimoto, 2024).
IOWN構想の主要技術要素の一つであるAPNのアクセスネットワークにおける初期検討(主にユースケース提案)や,Photonic-Gatewayの制御アーキテクチャ検討に携わりました(Ou, 2022).