進行中の研究課題

マイクロノズル性能に関するファシリティエフェクト

地上試験では宇宙空間を模擬すべく,100万分の1気圧程度の高真空を作り出します.しかしその真空度も実際の宇宙環境には及びません.その圧力差が微小推力ノズルの性能に影響を及ぼし,地上試験と宇宙作動でギャップが現れます.本研究ではそのギャップを定量的に明らかにし,地上試験と宇宙性能を結ぶ補正即の構築を目指します.本研究は実験と数値計算の両手法を用いて進めています.

代表的実績

ThrustMeasurement
図:真空チェンバ内部に設置されたノズル及び推力測定系(Nishii et al., Journal of Propulsion and Power, 38, 2022)

イオンスラスタに関するファシリティエフェクト

電気推進機の一種であるイオンスラスタは電気推進機の中でも1000-10000 sという高い比推力が特徴です.イオンスラスタに関してもファシリティエフェクトが問題となっており,①高い背景圧によるCEXイオンの生成,②0Vの地上試験装置によるイオンプルーム中和過程の変化,③放出されたイオンビームによるバックスパッタがあげられます.地上でのイオンスラスタの作動をシミュレーションし,地上で起こる現象の理解,宇宙との差の定量化を目指します.本研究は米国イリノイ大学と共同で行っています.

代表的業績

CEX
図:宇宙空間(上)および真空槽(下)におけるCEXイオン密度(Nishii et al., Journal of Propulsion and Power, 40, 2024)

過去に実施された研究課題

小型化学推進機に向けた金属燃焼場の観測

小型推進機は相乗り打ち上げ・ISS放出など安全性が特に求められます.安全な推進剤・機構を用いることが前提となっています.そのため化学反応を用いる化学推進はほとんど利用されていません.金属ー水のハイブリッドロケットを代表として,搭載時は非常に安全だが使用時には大きな推進力を生み出せる推進機を模索しています.金属火炎は3000 Kもの高い温度に到達しますが,酸化金属の沸点はそれ以上で,すぐに「凝縮燃焼生成物:CCP」が生成してしまいます.CCPが火炎内でどのように生成するか,どのように移動するのかを調査することが金属燃料推進機を実現するうえで重要です.

代表的業績

図:空気(),酸素(中),水蒸気()下で燃焼するマグネシウムプレートの火炎温度(上)とCCP密度(下)(Nishii and Koizumi, Combustion and Flame, 262, 2024)

宇宙推進用マイクロノズルにおける希薄飽和蒸気流れ

超小型宇宙機の推進剤として、「水」が注目を集めています。水はその安全性と、低圧で液体であることから、搭載に必要な構造質量が抑えられ、結果として小型であるほど従来推進剤を上回る性能が期待されます。液体で貯蔵された水は蒸発ののち気体状態で放出されますが、低圧(~1 kPa)の蒸気圧であることと、沸点に近い状態であることから、ノズルにおける超音速流れは理想化された予測式に従いません。実験的に推力測定を行うことと、凝縮を含めた一次元CFD計算によって、超音速流れによって発生している現象を理解し、水スラスタの性能予測・向上に貢献します。

代表的業績

WaterThruster
図:蒸気供給系及びノズルのセットアップ(Nishii et al., Journal of Propulsion and Power, 37, 2021)

推進剤供給のための微小重力下における液滴蒸発

上述の通り水は超小型宇宙機の推進剤として注目されているだけでなく、人間の生活との親和性から、将来的な有人宇宙活動の推進剤としても有望です。ガスジェット推進だけでなく、様々な化学・電気推進への利用も考えられています。一方、宇宙の特に微小重力環境は水の蒸発に影響を与え、流量コントロール、特に適切に蒸気と液体を分離できるかという点に与える影響は重要です。急に低圧環境にされされる液滴は、核沸騰形態によって蒸発し、蒸発室内で飛散します。表面張力が顕在化する微小重力環境では、液滴の飛散が液体と蒸発室壁面との接触を増加させることで、蒸発を促進させる効果も存在することがあきらかになりました。

代表的業績

WaterEvap
図:微小重力下で蒸発する液滴(Nishii et al., Acta Astronautica, 186, 2021)

宇宙機用水推進機の開発・実証

NASA Altemis-1計画の一環で放出されたCubeSatのうちの一つである、”EQUULEUS”に搭載された水推進系”AQUARIUS”を開発しました。地上試験にて安定した作動およびミッション要求に対応する性能を得られること確認しています。本推進機は「気化室」と呼ばれる空間を持ち周期的に水を噴射ー蒸発させることで、非常に信頼性の高い気液分離機構を持ちます。本推進機は2022年10月に打ち上げられ、宇宙作動が確認されました。

代表的業績

図: 開発・実証を行った宇宙推進機: AQUARIUS