非線形音響効果は「音響流:音による流れ」「音響放射力:音が物体を押す力」「パラメトリック結合波:音の非線形干渉によって生じる二次音」が代表的なものとして知られています.我々のチームでは上記の通りこれらの物理的効果を最大限に活用した応用システムの研究に取り組んでおり,単に「すでに知られている効果をどう活用するか」といった視点にとどまらず「ある効果の物理的本質は何か」という観点を大切にしながら新しい切り口でのシステムの構築に取り組んでいます.
以下,最近の研究例について簡単に紹介します:
・「渦ビーム対を用いた波長より大きな物体の音響浮揚」
音響浮揚において,波長より大きな物体をリアルタイムで空中操作することは難しい問題ですが,これを「中央に物体のトラップ領域を有する音場を2組の渦状音響ビームの対を干渉させることで形成する」という方略で実現しました(Momoki+2026 ).これによって「大きな軽量物体」を空中で操る新しい音響技術の発展が期待されます.
・「放射角度を制御したパラメトリック音提示によるパーソナル立体音響」
パラメトリック音の「自己復調」(変調した超音波ビームが空中で「自発的に」復調される現象)を利用した「超指向性可聴音提示」は古くからおこなわれていますが,このヒトに対する放射角度,および音源の方向による主観的音像の空間移動効果について,心理物理実験によりモデルを構築し,個人差がかなり小さいことを明らかにしました(Momoki+2025 ).これにより,小規模なパラメトリック音源群によって立体音響を楽しむことができるようなシステムの実現が期待されます.
・「容器内液体に対する特定モードでのスロッシング誘起」
非線形音響効果のうち,物体に力を発生させる「音響放射力」については現状のデバイスでは数10mN(数gf)程度と非常に弱く,機械的なアクチュエーションの対象はごく軽量の物体に制限されていました.しかし,アクチュエーション対象が共振系である場合はこの限りではなく,放射力の「時空間的分解能の高さ」を生かし,数100gの容器内液体を非接触で大振幅加振することに成功しました(Hijikata+2024 ).
・「収束超音波による2段階触覚フィードバックを有する空中押しボタン」
上述の通り,空中超音波フェーズドアレイは音響放射力による「見えない非接触触覚提示装置」としてもともとは開発がすすめられたもので,「現在では空中超音波ハプティクス」という触覚研究の一つの大きな分野を形成しています.日常的に触覚を活用する場面として「入力した実感を伴った押しボタン」が挙げられますが,これを空中超音波で実現する研究において「入力感」の触覚的表現には課題がありました.この研究では空中の指先の上下動作に対し,仮想的なボタンに「触れた瞬間」と「指を持ち上げた瞬間」の両方にごく短い時間の超音波振動を加えることで,一方だけに加えた場合と比較して飛躍的に「入力感」を向上できることを明らかにしました(Sugawara+2025 ).