プロトン(水素の陽イオン)が伝導するプロトン伝導体や酸化物イオン伝導体などのイオン伝導体の研究を行っています.イオン伝導体は燃料電池,二次電池などに応用できる材料です.しかしながら,既知のイオン伝導体のイオン伝導度は未だ十分ではありません.我々は結晶構造に立脚した新規高イオン伝導体の探索・設計・開発などを進めています.また,構造と物性の関係を詳細に解明し,次世代のセラミックス材料開発を目指した研究を進めています.
高温・低温におけるその場中性子・X線回折測定
セラミックス材料の多くは,高温で使用し合成も高温で行います.このようなセラミックス材料の特性や合成法について明らかにするためには,高温状態の結晶構造(さらには電子密度分布や核密度分布)を解明することがとても重要です.高温における興味深い結晶構造の振る舞いを発見しています(Journal of Solid State Chemistry 2024など).
一方で,プロトンは空間的に広がった分布を示すので,室温や高温でプロトンの位置と占有率を決めることは容易ではありません.そこで,我々は極低温数Kにおいて,中性子回折実験を行うことで,プロトンの位置と占有率の精密化を行い,材料設計に役立てています(Journal of the American Chemical Society 2024など).
高イオン伝導度の構造的要因解明
イオン伝導度は結晶構造と密接な関係があるため,高いイオン伝導度が発現する要因を結晶構造の情報から議論することができます. 実は結晶構造解析を行うだけなら誰でも簡単にできるのですが,”正しく”構造を明らかにし,高いイオン伝導度の真の要因を明らかにすることは簡単ではありません.我々は低温から高温まで回折データを取得することで,様々な材料の構造を解析し,高イオン伝導度の構造的要因を解明しています(Journal of the American Chemical Society 2024など).最近では,局所構造解析を行い,平均構造だけの枠を超えた新しい材料設計に役立てています.
本質的な酸素空孔,ドナードーピングに基づく新規高イオン伝導体の開発
ほとんどのプロトン伝導体の設計戦略はホストカチオンより価数の低いカチオン(アクセプター)を添加するアクセプタードーピングといわれる戦略です.しかし,アクセプターは有効電荷がマイナスであるため,電荷がプラスであるプロトンを捕捉(トラップ)してしまう「プロトントラップ」という現象が広く知られています.この課題を解決するべく,我々は母物質に存在する酸素空孔である「本質的な酸素空孔」に基づいた,アクセプタードーピングとは異なる材料設計を行って新規高プロトン伝導体を発見しています(Nature Communications 2023など).
高イオン伝導性複合アニオンの探索
一般的なセラミックス材料は,酸素のアニオン(酸化物イオン)とカチオンから構成されます.一方,「複合アニオン」は酸化物イオンとハロゲン等のアニオンを二種以上含み,多様な構造を取ることから,最近注目されています.最近,我々は酸素とハロゲンのアニオンからなる複合アニオンにおいて高い酸化物イオン伝導度が発現することを見出しました.
中性子散乱を利用したダイナミクス解析
中性子散乱には,弾性散乱,非弾性散乱,準弾性散乱があります.弾性散乱はいわゆる中性子回折パターンです.準弾性散乱は,原子の拡散などのダイナミクスの情報が得られます.また,X線や電子線と比べると,中性子は軽元素,特に水素の観測に適しています.これらの特徴を生かし,中性子準弾性散乱を用いてプロトン伝導体のダイナミクスの解析を行っています.
機械学習ポテンシャルを利用した高速スクリーニングによる新材料探索
独自に開発したスクリプトを用いてHigh throughput screening (HTS)を行い,新材料を探索しています.思いがけない材料が見つかることもあります.