慶應・理科大数理オンラインセミナー

世話人

  • 内村朝樹(慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻博士年)

  • 金村佳範(慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻博士年) kana1118yoshi [at] keio.jp

  • 竹内裕隆(慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻博士年)

  • 関川隆太郎(東京理科大学理工学研究科奨励研究員)sekigawa.r [at] gmail.com

  • 吉崎彪雅(東京理科大学理工学研究科数学専攻博士3年)

  • 安藤遼哉(東京理科大学理工学研究科数学専攻博士1年)andou [at] ma.noda.tus.ac.jp


開催目的

オンライン主体の環境になってから、大学内で教員や学生間が気軽に交流出来る場が少なくなってしまいました。そこで、それらの代わりとなる場として、当セミナーを発足しました。昨年度は慶應数理内で主に行っていた本セミナーですが、今年度から所属を超えた研究交流が生まれることを目的として理科大と共同で行います。様々な研究分野の学生から専門家までを講演者に迎え、他分野を知る機会を提供するとともに、大学の枠を超えた共同研究を始めとした活発な研究活動の一助となる事を目的としています。

本オンラインセミナーの聴講を希望される方はお気軽にお問い合わせください。

録画をしている講演もありますので、もし録画を閲覧したい人がございましたら、金村までメールを送ってください。


今後の講演



過去の講演

講演者:荒武永史 (京都大学数理解析研究所)

日時:5月26日 16時30分

題目:代数のスペクトラムと代数付き空間の圏

アブストラクト:

可換環のZariskiスペクトラムの構成は、可換環の圏と局所環付き空間の圏の間の反変随伴を与えることがよく知られている。このような意味での「代数的構造のスペクトラム」について、他にも「可換環のPierceスペクトラム」「分配束の素フィルタースペクトラム」など多くの例が存在する。Michel Costeは、圏論的論理学の言葉を用いることで、これらのスペクトラムの構成を統一した。ここにおいては、可換環・局所環・局所環準同型といったクラスの三つ組の関係を圏論的に(あるいは論理学的に)うまく抽象化することが肝要である。Costeの研究は、実代数幾何学における「可換環の実スペクトラム」の発見などにも影響を及ぼした。しかし、Costeの構成はトポス理論を用いており難解かつ、構成の概略を述べた論文しか出版されておらず証明の詳細は世に出回っていない。

本講演では、Costeの枠組みを導入した後、講演者の研究(arXiv:2203.10711)によって得られたスペクトラムの別構成、およびその構成に基づくCoste随伴の別証明の概略を説明する。この構成はZariskiスペクトラムの構造層の構成の直接的な一般化になっており、随伴の証明も局所有限表示可能圏についての初等的考察の積み重ねで示せるため、Costeのオリジナルの構成よりも理解しやすい。さらに、代数のスペクトラムを「代数付き空間の相対スペクトラム」へと拡張することで、Coste随伴に現れる「局所代数付き空間の圏」の完備性を示すこともできる(実はこれは余完備でもある)。この結果は、局所環付き空間の圏の完備性(Gillam, 2011)をはるかに一般化するものであり、系として例えば「任意の茎が体になっている環付き空間」の圏が完備かつ余完備であることが従う。


講演者:安田昂平(東京理科大学)

日時:6月9日 16時30分

題目:Tree of primitive Pythagorean triples における 位置の判定法

アブストラクト:

3つの互いに素な自然数a,b,cがa^2+b^2=c^2を満たすとき、その組(a,b,c)を原始ピタゴラス数と呼ぶ。(3,4,5)を起点とし、ある3つの行列A,B,Cのどれかをかける操作を何度か繰り返すことで、任意の原始ピタゴラス数を生成することができる。これを一般的にTree of primitive Pythagorean triplesと呼ぶ。Tree of primitive Pythagorean triplesに関しては一度生成した原始ピタゴラス数が二度生成されることはない、原始ピタゴラス数以外の組が生成されることはない、ある操作を加えることで、3つの行列A,B,Cを1つの行列Pに統合することができるなど多くのことが知られている。ある原始ピタゴラス数(a,b,c)がTree of primitive Pythagorean triplesのどこに位置しているかは、先ほど述べた行列Pの逆行列をかける操作を(3,4,5)に到達するまで繰り返すことで知ることが出来る。これに関して、逆行列を掛け合わせることなく、簡素に(a,b,c)がTree of primitive Pythagorean triplesのどこに位置しているかを知る判定法の導出について研究を行っている。判定することは①(a,b,c)が左、中央、右のうち、どこに分岐しているか②(a,b,c)がTree of primitive Pythagorean triplesの何層目に存在しているかであり、前者はa/cの値によって容易に判定することができた。しかし、後者については不完全であり、自明な箇所に位置する原始ピタゴラス数のみ、数列を用いて判定することができた。今回はTree of primitive Pythagorean triplesの概要及び諸性質について説明を行った後、先に述べた判定法を紹介する。


講演者:中瀬行裕(東京理科大学)

日時:6月23日 16時30分

題目:Lighthill方程式の数学解析による車両の騒音解析

アブストラクト:近年,車両の走行性能の発展に伴い空力音の騒音の軽減が課題である.新幹線を例に挙げると,走行性能は過去50年強で著しい発展を遂げた.しかし,同じ車両において速度を向上させても営業運転させる事は出来ない.これは法律により騒音の基準が制定されており,一定の基準数値以下に収める必要がある為である.解決策はシミュレーションの精度向上と車両形状の工夫である.騒音解析の一手段としてLighthill方程式が用いられている.Lighthill方程式は,1960年代に考案された方程式であり,NavierーStokes方程式と同等の厳密性を持ち,音響の理論に特化したものである.本方程式自体は閉じた方程式ではなく,予め解の大部分をNS(=NavierStokes)式で論証し,スケールを変えて音圧の周波数成分を抽出する必要がある.最近の研究では W. Layton と A. Novotnyの低マッハ数における理論がある.ただ,ここ数10年で進んでいる研究であるので,解の詳細についてはまだ分かっていない.今回Lighthill方程式の論証の為に NS方程式をPoisson 方程式と組合わせ,NavierーStokesーPoisson の系として体系的に論証する事や,シミュレーションを用い解の挙動を可視化する事で,騒音の発生原理と抑制の方法を数学的にアプローチする手法を導入した.今回のセミナーでは一連の概要と課題点について説明する.また特にPythonによる2次元のシミュレーションで現象の性質について可視化する試みも行っているので,併せて示す.


講演者:近田真治 (慶應義塾大学)

日時:7月7日 16時30分

題目: 荒川・金子ゼータ関数の0での微分値について

アブストラクト:

(Hurwitz 型の)荒川・金子ゼータ関数とは負の整数での特殊値に多重ポリBernoulli多項式が現れるような正則関数であり, Hurwitz ゼータ関数のある種の多重化とみなせる. Hurwitz ゼータ関数ではs=0での微分値に対数ガンマ関数が現れるというLerch の公式や, s=1でのLaurent 級数展開の定数項部分にディガンマ関数が現れるといった古典的な極限公式が知られている. さて, (Hurwitz 型の)荒川・金子ゼータ関数の場合にこれらの対数ガンマ関数やディガンマ関数に対応する関数は何であろうか?

本講演では(Hurwitz 型の)荒川・金子ゼータ関数の定義を若干修正して得られるゼータ関数のs=0での微分値を用いて, "荒川・金子ガンマ関数" というガンマ関数のある種の多重化である1変数関数を新たに定義し, Binet の公式の一般化にあたる積分表示や, 異なるインデックス間に成立する関係式の具体例を紹介する. また, 通常の(フルビッツ型の)荒川・金子ゼータ関数のs=0での微分値に現れる関数は "荒川・金子ポリガンマ関数" と呼ぶべきポリガンマ関数のある種の多重化が現れているということについて述べ, ポリガンマ関数で成り立っていた級数表示や積分表示・漸近展開などの諸性質が "荒川・金子ポリガンマ関数" の場合にも一般化されるということについて報告する.


講演者:森祥仁(東北大学)

日時:7月21日 16時30分

題目:量子不変量の関係式

アブストラクト:

今回の講演では量子トポロジーについてお話ししようと思います.量子トポロジーとは3次元多様体の量子不変量を研究する分野で,代表的な不変量として Witten–Reshetikhin–Turaev (WRT) 不変量があります.この不変量は量子群と呼ばれる代数の表現を用いて構成される点が特徴的です.しかし,WRT 不変量は量子群を十分に活用できているとは言えません.というのも,WRT 不変量は WRT 関手の線形和として定義されますが,整数でない複素数で添字付けられる表現に対しては WRT 関手が 0 になるからです.Geer, Patureau-Mirand, Turaev は非整数で添字付けられる表現を使えるような関手(CGPT関手)を構成し, Costantino–Geer–Patureau-Mirand が CGPT 関手を用いて3次元多様体の新たな不変量を構成しました.

講演の前半では上述した不変量を紹介し,後半では WRT 関手と CGPT 関手の関係式について講演者が得た結果を紹介しようと思います.


講演者:杉本恭司(東京理科大学)

日時:10月12日 16時30分

題目:絶対単純パラエルミート対称空間の等長変換群

アブストラクト:

本講演の内容は下川拓哉氏との共同研究に基づく. 不変パラ複素構造と不変パラエルミート計量を兼ね備えた対称空間をパラエルミート対称空間という. ここで, パラエルミート計量はリーマン計量ではない擬リーマン計量で, 特にニュートラル計量である. 本講演では, パラエルミート対称空間の入門的な内容と, 絶対単純パラエルミート対称空間の等長変換群の決定方法について述べる.


講演者:鹿島 柾(慶應義塾大学)

日時:11月2日 16時30分

題目:グラフの彩色及び関連する概念

アブストラクト:

グラフとは, 頂点集合とその接続関係を表す辺集合の組によって表現される, 離散数学における基本的な対象の一つである. グラフの頂点に色を塗り, 辺で隣接するどの2頂点にも同色が現れないようにするという問題をグラフの彩色問題といい, 四色定理などはグラフの彩色問題における広く知られた結果である. グラフの彩色問題はそれ自身について現在でも盛んに研究がされている一方で, グラフの彩色を拡張した様々な概念が導入され研究されてきた経緯がある. 本講演では, グラフの彩色を拡張した概念のいくつかについて概略を説明し, それらの研究として行われてきたことについて講演者の研究の結果も含めて紹介する.


講演者:中林裕介(東京理科大学)

日時:11月25日 16時30分

題目:実な双二次体の基本単数について

アブストラクト:

平方因子を持たない整数a,bに対して、Q(√a,√b)の形をした四次体を双二次体という。1943年に黒田によって実な双2次体の基本単数は7種類である事が示され、1957年に久保田はそれぞれを基本単数として持つ代数体の無限族の存在を示した。また、2019年にDummitとKisilevskyは中間体の基本単数の符号を考える事で、特殊な場合の双二次体について基本単数の決定とそれを持つ無限族を構成した。

今回の講演では、DummitとKisilevskyの論文中で考察されていない場合の基本単数と無限族について述べる。また、講演者が得た基本単数の判定法についても述べる。


講演者:松本雄也(東京理科大学)

日時:12月7日 16時30分

題目:K3曲面への有限群作用と μ_p, α_p 作用

アブストラクト:

K3曲面とは楕円曲線の2次元類似(の1つ)であり,さまざまな側面から研究されている.今回は有限群の作用について考える.標数0のK3曲面に関する結果で,標数p>0では一般に成り立たないものがある:「大域2次微分形式を保つ有限群作用による商はK3曲面に双有理同値になる」ことはその例である.講演者は,有限群ではなくμ_pの作用を考えると,「」が証明も含めてほぼそのまま成り立つことを発見した.今回のセミナーではK3曲面の導入から始めて,上記のことを含めたμ_pやα_pなど有限群スキームの作用に関する研究結果を紹介したい.


講演者:金子千奈(東京理科大学)

日時:1月11日 16時30分

題目:三次曲面の自己同型とoctanomial標準形

アブストラクト:

P^3内のなめらかな三次曲面は,1849年のCayleyとSalmonによる27本の直線の発見に始まる古典的な対象であるが,今もなお活発に研究されている.2019年に,DolgachevとDuncanにより,正標数の場合も含めた代数閉体上における三次曲面の自己同型群の分類が発表された.彼らは次のような方針で三次曲面の自己同型群を調べた.なめらかな三次曲面の自己同型群は,E_6-格子のWeyl群の部分群となる.Weyl群の共役類Cに属するような自己同型を持つ曲面をC-曲面といい,三次曲面のモジュライ空間内でC-曲面(の同型類)を集めた部分集合を階層Cという.階層の間には共役を法とした包含関係があるが,これは曲面の特殊化に対応し,従ってモジュライ空間に曲面の特殊化に関する階層構造が入る.そこで各階層における曲面の自己同型群を決定し,さらにその標準形を与えた.

しかし,DolgachevとDuncanによって与えられたこの標準形たちは,各階層ごとに独立しており,幾何的な階層の特殊化を保たない.標数0の場合の三次曲面の標準形としてはSylvester型が有名だが,正標数の場合も含めたより良い標準形として,2019年にPanizzut, Sertöz, Sturmfelsによって導入された octanomial型がある.

そこで講演者は,モジュライ空間の各階層のoctanomial標準形であって,階層の特殊化を保つものを部分的に与えた.本講演では,ここでの三次曲面のモジュライ空間の階層構造を導入し,E_6格子の組み合わせ論を用いて各階層のoctanomial標準形を見つける計算の概略を紹介する.

2021年度の講演(慶應数理オンラインセミナー)

折り畳んであります。右側の矢印をクリックまたはタップして展開してください。)

昨年度のHP:https://sites.google.com/keio.jp/mathscionlineseminar/


講演者:紅村冬大(慶應義塾大学)

日時:4月20日16時30分

題目:Analysis of the Cuntz algebras using the polycyclic monoids

概要:作用素環論は関数解析の一分野であり,主に非可換かつ無限次元の代数を扱う.作用素環には多種多様なものがあり,全ての作用素環に共通する理論を構築することは困難である.そこで,統一的な解析が可能で且つなるべく広範な作用素環のクラスを考えることが重要となるが,そのような作用素環のクラスとして発表者はエタール亜群や逆半群から得られる作用素環に注目して研究を行っている.本発表ではクンツ環と呼ばれる重要な作用素環を例にとり,どのようにして作用素環の構造を逆半群によって解析するか説明する.特に,クンツ環のイデアルや部分環の構造と多重巡回半群(polycyclic monoid)の構造との関係について説明する.なお,本発表の一部は発表者のpreprint(arXiv:2007.11456)に基づく.


講演者:臺信直人(慶應義塾大学)

日時:4月27日16時30分

題目:保型形式に伴う法p表現に付随する代数体のイデアル類群について

概要:代数体のイデアル類群とは、その代数体の数とイデアルのずれを測るような有限群であり、整数論における重要な研究対象である。一方で、有理数体上定義された楕円曲線Eに対しTate-Shafarevich群という群が定義され、この群とEから生じるある代数体K(E)のイデアル類群を関係づけるような研究が古くからなされてきた。ここで代数体K(E)は楕円曲線Eに付随するGalois表現というものから生じる代数体と捉えることができる。有理数体上の楕円曲線は重さ2の保型形式と対応し、一般に重さが2よりも大きい保型形式に対しても同様のGalois表現が付随することが知られている。本発表では楕円曲線よりも一般に、保型形式fに付随するGalois表現ρから生じる代数体K(f)に対して、ρの(Bloch-Katoの)Tate-Shafarevich群とK(f)のイデアル類群とを結びつけるような結果について、発表者によって得られたものを紹介する。


講演者:橋本悠香(慶應義塾大学)

日時:5月11日16時30分

題目:Reproducing kernel Hilbert C*-moduleのデータ解析への応用

概要:RKHM (Reproducing kernel Hilbert C*-module)はRKHS (Reproducing kernel Hilbert space)の一般化であり,C*環に値を持つ内積の構造を持つ.RKHSは,その表現能力の高さと計算可能性から,データ解析への応用がさかんに研究されてきた.しかし,RKHMはこれまでに理論的な研究がメインであり,データ解析の枠組みでRKHMが用いられたケースは非常に少ない.本発表では,RKHMをデータ解析へ応用するための基本的な性質を示す.その上で,C*環に値を持つ内積を利用することで,関数データの構造を記述し抽出することができることを紹介する.


講演者:冨田拓希(慶應義塾大学)

日時:5月18日16時30分

題目:絶対ゼータ関数について

概要:絶対ゼータ関数とは、F_1スキームと呼ばれる幾何的対象に付随するゼータ関数として導入されたものであり、有限体F_p上の代数方程式の解の個数の母関数である合同ゼータ関数を“p→1とした極限”として定義される関数である。F_1や絶対ゼータ関数についての理論は、Riemann予想への強力なアプローチを与える可能性があると示唆されており、現在様々な候補が提案されている発展途上の理論である。本発表の前半では、F_1や絶対ゼータ関数についての理論の背景について説明する。本発表の後半では、絶対ゼータ関数がある無限積構造 (絶対Euler積) を持つであろうという黒川の示唆について紹介し、それに関して発表者が得た結果について紹介する。


講演者:齋藤陽平(慶應義塾大学)

日時:5月24日17時30分

題目:Borel-Weil-Bottの定理

概要:Lie群の表現論において既約表現は構成要素として重要な役割を果たす。特に、対象のLie群がコンパクトである場合、Hillbert空間への表現は既約表現の直和に分解される。コンパクトな連結半単純Lie群の既約表現は、Cartanの定理によりどのようなものが存在するかが決定されており、Borel-Weilの定理によりそれらが旗多様体上の正則バンドルの切断の上に表現されることが分かっている。Borel-Weil-Bottの定理はさらに高次のコホモロジーへの表現の様子を記述する。この定理は高次のコホモロジーを理解するという意味で代数幾何的にも意味のある定理であり、非コンパクトなLie群の離散系列表現を考えるうえでも一つの視点を与えている。今回の講演ではBorel-Weil-Bottの定理の証明のスケッチを述べ、離散系列との関連を説明する。


講演者:内村朝樹(慶應義塾大学)

日時:6月1日16時30分

題目:Cuntz-Pimsner環の性質と双圏論的アプローチ

概要:C*環論において, 何らかの数学的対象からC*環を構成し, 出来上がったC*環の性質を構成材料の性質で特徴付ける研究がよくなされている. C*環とその上のヒルベルト加群から構成されるCuntz-Pimsner環は, Zとの接合積C*環やCuntz-Krieger環など, 広範なクラスのC*環を含む興味深い対象である. 本発表の前半では, Cuntz-Pimsner環の構成方法を説明し, その性質を構成材料であるC*環とヒルベルト加群の性質で特徴付ける. 本発表の後半では, C*環のなす双圏においてCuntz-Pimsner環がある図式の余極限となっていることを説明し, この事実を踏まえてCuntz-Pimsner環を拡張する研究について紹介する.


講演者:松村英樹(慶應義塾大学)

日時:6月9日17時

題目:Rational points on hyperelliptic curves

概要:整数論において、与えられた代数方程式の有理数解を決定する問題は古代ギリシャ時代から研究されてきた。 これは、現代的には、代数曲線の有理点集合を決定する幾何学的な問題と見なすことができる。 本講演の前半では、超楕円曲線の有理点問題の応用として、 「周の長さ同士が等しく、また面積同士が等しい有理直角三角形と有理二等辺三角形の組は相似を除いてただ1組しか存在しない」 という定理を紹介する。後半では、超楕円曲線のある種の無限族の有理点集合の決定に関する結果を紹介する。 前半の内容及び後半の内容の一部は平川義之輔氏との共同研究である。


講演者:吉田匠(慶應義塾大学)

日時:6月15日16時30分

題目:X_0(49)の2次のツイストにおけるBSD予想について

概要:楕円曲線はフェルマーの最終定理の証明や合同数問題などに関わる重要な代数曲線である。しかし、楕円曲線の有理点集合の構造が一般にどのようになっているかは、現在でも完全にはわかっておらず、研究が盛んに行われている。本講演の前半では、楕円曲線の有理点やL関数についての概説と、その重要な予想であるBSD予想(Birch-Swinnerton-Dyer予想)について紹介する。後半では、具体的な楕円曲線(すなわちモジュラー曲線X_0(49)の2次のツイスト)におけるBSD予想について発表者が得た定理を紹介する。


講演者:三家雅弘(慶應義塾大学)

日時:6月22日16時30分

題目:グラフのタフネスとハミルトン閉路の存在性

概要:グラフのハミルトン閉路とは、そのグラフの全ての頂点を通る閉路のことである。与えられたグラフがハミルトン閉路を持つかを判定する効率のよい方法は知られておらず、ハミルトン閉路はグラフ理論における研究対象のひとつとなっている。グラフのタフネスとは、そのグラフの頂点分離集合を用いて定義される不変量である。ハミルトン閉路を持つグラフは、タフネスが1以上であることが知られている。この命題の逆は成り立たないが、「ある定数tが存在して、タフネスがt以上となるグラフはハミルトン閉路を持つ」ことがChvatalにより予想されており、現在も未解決である。本発表では、Chvatalの予想に関連するいくつかの定理について、発表者が得た結果も含めて紹介する。


講演者:富岡駿允(慶應義塾大学)

日時:6月29日16時30分

題目:Adiabatic theorem for fermions on a lattice

概要:量子力学において系の時間発展を求めることは,ハミルトニアンによって定まる微分方程式を解くことに相当するが,多体系などの複雑な系においてはこの微分方程式を解くのは一般には難しい.そこで,簡略化された,しかし系の振る舞いがよく分かるような方程式を代わりに考えるということがしばしば行われている.この代わりの方程式の解が元の時間発展の解をどれくらいの精度で近似できているかを評価する定理を断熱定理 ( adiabatic theorem ) という.断熱定理には,定理の仮定や近似の評価に関して様々なバージョンが知られている.本講演では,量子力学の数学的側面に関する導入から始め,私が現在読んでいる論文 arXiv:1707.01852 で証明されている格子上のフェルミオンのなす多体系における断熱定理について紹介する.


講演者:伊縫寛治(慶應義塾大学)

日時:7月6日16時30分

題目:カーネル法の基礎と応用

概要:近年の機械学習の発展に伴い, カーネル法と呼ばれる統計的手法も発展してきている. カーネル法とは, 正定値カーネルと呼ばれる関数を用いてデータを高次元の空間に変換し統計的推定を行う手法のことである. カーネル法は1990年代に登場して以来, 様々な分野に応用されてきているが, 特に近年は時系列データの解析にカーネル法を応用する研究がみられるようになった. しかし, この分野では最近考えられた手法であるために, まだ数学的基礎がまだ確立された分野であるとは言えず, 数学的正当化が必要である. そこで, 本講演ではカーネル法の時系列データの解析への応用を理解するための数学的基礎と講演者の近年の研究を紹介する. 具体的には, 初めにカーネル法の数学的基礎にあたる再生核ヒルベルト空間論の初歩を説明したあと, 時系列データの解析 の数学的基礎にあたるエルゴード理論の初歩を説明する. 最後に, 最近得られた得られた講演者の結果を紹介する.


講演者:須田颯(慶應義塾大学)

日時:7月16日16時30分

題目:確率調和振動子鎖におけるエネルギー超拡散について

概要:近年の数値実験により, 一次元非線形系では熱の異常輸送やそれに対応したエネルギー超拡散が広く見られることが知られている. このような現象を数学的に解析するためには, 確率調和振動子鎖と呼ばれる微視的数理モデルが用いられている.

本講演では, 確率調和振動子鎖におけるエネルギー超拡散の厳密な導出結果をいくつか紹介する. それに先立ち, ミクロ系からマクロ系の時間発展法則を導くスケール極限の枠組みについても簡単に説明する.


講演者:米山慎太郎(慶應義塾大学)

日時:10月9日16時

題目:調査観察研究における統計的推測での課題とその解決法についての概要

概要:アンケート調査のように,研究者が処置の割り付けをコントロールできない研究を調査観察研究と呼ぶ.調査観察研究において統計的推測を行う場合,様々な問題に直面する.調査観察研究で処置の効果を推定する場合,処置群と対照群の単純な差は両群の共変量分布の違いにも由来するとも考えられるため,共変量分布を調整する必要がある.また,調査観察研究により得られたデータには欠測がある場合も多く,適切に統計的推測を行うにはその調整も行わなければならない.

本発表では,まずデータサイエンスや統計科学について概観し,さらに調査観察研究における統計的因果推論や欠測データの調整法について説明を行う.また,発表者のこれまでの研究結果である,Missing Not At Random (MNAR)と呼ばれる欠測がある場合における処置効果の推定法をについて述べ,そのシミュレーション実験の結果を示す.


講演者:安藤遼哉(東京理科大学)

日時:10月13日18時

題目:Weakly proregular sequence and Čech, local cohomology

概要:このセミナーでは,Schenzelによる弱副正則列(weakly proregular sequence)を紹介する.これはNoether環において局所コホモロジーとČechコホモロジーの間に同型が存在するという定理を非Noether環に拡張するために導入されたもので,Schenzelはこれらのコホモロジーを定義する点列a_1,...,a_rが弱副正則列であるとき,かつそのときに限り,これらのコホモロジーの間に関手的な同型が存在することを証明した.この観点において,上に述べたNoether環における事実は,Noether環上の任意の点列は弱副正則である,という形で理解できる.

Schenzelは導来圏の言葉を用いて証明を行ったが,本セミナーでは講演者のプレプリント(arXiv:2105.07652)に基づいて,Abel 圏の言葉のみを用いて説明する.


講演者:徳田悠貴(慶應義塾大学)

日時:10月20日17時

題目:標数pの手法について

概要:正標数の環では, Frobenius写像と呼ばれるp乗写像が環準同型となる. このFrobenius写像を用いて, 1980年後半にHochster, Hunekeらによって正標数の環における密着閉包の理論が創設された. 更にその後2000年代に入ると, MMPに登場する標数0の特異点とFrobenius写像で定義される正標数の特異点が, pに関する正標数還元を通じて対応することが知られるようになり, 現在でもその精密化に関する研究が盛んに行われている. 本講演では, まずFrobenius写像による正標数の環の理論の概説を行い, その後標数0の特異点との対応のついて紹介する.


講演者:三浦大地(慶應義塾大学)

日時:10月20日17時50分

題目:トロピカル曲線上のRiemann-Roch理論

概要:トロピカル幾何学とは,代数幾何学の組み合わせ的な類似物を研究する分野である.代数幾何学では多項式と代数多様体を考えるが,トロピカル幾何学ではそれらの"組み合わせ的影"である区分的線形関数とトロピカル多様体について考える.特に,1次元のトロピカル多様体であるトロピカル曲線は距離付きグラフとして実現され,いくつか代数幾何学と類似の結果が成り立っている.本講演ではそのうちのひとつとして,Baker-Norine,Gathmann-Kerber,Mikhalkin-Zharkovらによる,トロピカル曲線上のRiemann-Rochの定理を紹介する.


講演者:竹内愛理(Karlsruhe Institute of Technology)

日時:11月3日17時

題目:可積分ビリヤード系と等角変換

概要:古典力学におけるビリヤードの可積分性は最初にG. D. Birkhoffにって研究され、後にY. Sinaiによってカオス的挙動やエルゴード性が調べられた。L. Boltzmannは中心力の存在下でビリヤード系を提案し、中心を通らない直線の反射壁を持つそのようなビリヤードはエルゴード的であると予想した。近年、中心力の特別なケースであるケプラーポテンシャルの下ではそのようなビリヤードはエルゴード的ではなく、むしろ可積分であるということがGallavotti-Jauslionにより示された。この講演では、等角写像によってBoltzmannの可積分ビリヤード系を含む様々な可積分ビリヤード系が対応付けられることを示し、ケプラーポテンシャルの下でのより一般的な反射壁を持つビリヤードの可積分性を導く。また、等角写像はtwo-center problemと可分なハミルトニアン系を対応付け、それによりtwo-center problemによるポテンシャル下での可積分なビリヤードを構成することが可能になる。この講演はUniversity of AugsburgのLei Zhao氏との共同研究に基づく。


講演者:鈴木新太郎(慶應義塾大学)

日時:11月10日17時

題目:β-変換のエルゴード理論

概要:β-変換は単位閉区間上で定義される区分的線形拡大写像の典型例として知られており, 底をβ>1とするある種の数の展開(β-展開)を与える力学系として, そのエルゴード理論的性質およびβの代数的性質との関連について研究が盛んに行われている.

本講演ではβ-変換を通じてエルゴード理論に関する基本的な用語の解説を行う. またβ-変換に関するいくつかの先行研究を紹介した後, 最近講演者により得られた結果について紹介する.


講演者:橋本七海(慶應義塾大学)

日時:11月24日17時

題目:A Proof of the Gelfand-Naimark Theorem for Abelian C*-Algebras

概要:作用素環論は, 量子力学を数学的に定式化するという目的でvon Neumannらによって研究が始められたもので, 数学の中でも比較的新しい研究分野である. 作用素環論は, 複素数体上の無限次元の線形代数学と言えるため, 関数解析学に属する分野として捉えられている. しかし, その手法や応用については, K-理論, 非可換幾何, 表現論, 力学系, 場の量子論など, 数学・物理のあらゆる分野と相互的に関わり合いながら発展してきた分野である.

作用素環はC*-環とvon Neumann環に分かれるが, 発表者は現在, 前者についての研究を行っている. 作用素環の研究では分類理論が中心的な話題であり, C*-環の構造についてはさまざまな研究が行われてきた. 本講演では, その中でも非常に重要な結果であるGelfand-Naimarkの定理について紹介し, その証明を与えることを目標にする.

なお, 本講演は, 関数解析学を専門としないような方も興味が持てるよう, C*-環の定義や例といった入門的な内容から取り扱うことを予定している.


講演者:程島一佐(慶應義塾大学)

日時:11月24日17時50分

題目:ヒルベルト空間上での作用素の極分解

概要: 線形代数には固有値, 共役転置, 極分解 (行列において, ユニタリー行列と半正定値エル ミート行列の積に分解すること) などの概念がある. 一方, 関数解析は無限次元の線形代数と言われている. 特に, 多元環やC*環では, 有限次元の線形代数における類似概念を参考にして定義されている概念が多くある.

この講演では, 関数解析のトピックの 1 つとして, 多元環や C*環の解説を行いながら, 行列における様々な概念との比較をする. より詳しくは, 固有値や共役転置の一般化にあた るスペクトラム, 対合の説明を行い, ヒルベルト空間上の作用素の極分解ができることを示す.


講演者:工藤勇(北海道大学)

日時:12月1日17時

題目:直線配置の実現空間とその既約性

概要:超平面配置における位相不変量が組合せ論的に決定できるか、という問いは超平面配置の研究において主たる問題意識の一つである。

今セミナーではこれについて線形代数の初等的な知識のみを仮定した上で、超平面配置の入門的内容から出発して解説することを目的とする。具体的には超平面配置における諸定義などの入門的な内容と具体例から始め、組合せ論的手法の契機となったOrlik-Solomon代数とそれにより得られる結果について解説する。最終的にNazir-Yoshinagaにより行われた、直線配置のモジュライ空間に対する組合せ論的な考察について時間の許す限りで説明を行う。


講演者:長田翔太(九州大学)

日時:12月8日17時

題目:行列式点過程とその周辺

概要:点過程とは非負整数値Radon測度に値をとる確率変数であり,空間上のモノの配置や空間上を運動する粒子のスナップショットなどのランダムな粒子配置を表現する.行列式点過程は正定値核で決定される点過程であり,反発力が働く粒子系を表す.本講演では,行列式点過程の性質および求積法への応用について紹介する.


講演者:石井竣(数理解析研究所)

日時:12月22日17時

題目:虚数乗法を持つ楕円曲線引く原点に付随する外Galois表現

概要:楕円曲線引く原点の(幾何的)基本群に付随する外Galois表現は, 楕円曲線のTate加群に付随するGalois表現の非可換化と見做せるような対象である. 本講演では, 虚数乗法という特別な対称性を持つ楕円曲線から原点を引いて得られる双曲的曲線に付随する副$p$外Galois表現がどのような数論的性質を持っているかについて講演者が行った観察を, 射影直線引く3点に付随する副$p$外Galois表現に対して行われた先行研究と比較しながら紹介する.

また本講演ではなるべく専門外の方々, また学部生の方々にも興味を持っていただけるよう, 楕円曲線, 虚数乗法, また外Galois表現について出来るだけ初歩から解説する予定である.