日本カズオ・イシグロ研究会例会
Regular Meetings
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第三回例会を日本女子大学文学部英文学科との共催で開催いたします。
二つの研究発表と清華大学Anni Shen准教授の特別講演をハイブリッドで行いますので、例会、懇親会参加のご予定を2026年6月7日(日)までに、以下のフォームからお知らせください。
*第三回例会・懇親会 参加申込みフォーム https://forms.gle/SkQHbkHuqRiHLYBe6
(1) 日時:2026年6月13日(土)14:00-17:30
(2) 場所:日本女子大学 目白キャンパス新泉山館1階大会議室
*右の地図の赤枠の建物が新泉山館です。
(3) 例会スケジュール
14:00 開会の辞
14:10-14:50 研究発表① 福山孝子
15:00-15:40 研究発表② 奥畑豊
15:50-17:20 特別講演 Anni Shen
17:20-17:30 事務連絡など
18:00- 懇親会(あえん目白店)
発表要旨
【研究発表①】「内臓に潜む毒の隠蔽――“A Family Supper”からThe Buried Giantへ」
発表者: 福山 孝子(一橋大学大学院言語社会研究科博士課程)司会:麻生えりか(青山学院大学教授)
カズオ・イシグロの最初期の短編 “A Family Supper” は、フグの調理法で始まる。猛毒の潜む内臓を慎重に除去する必要があること、毒が漏れ出たかどうかは外からはわからないことが語られる。内臓と隠された毒の表象は、様々に変形されつつ彼の後の作品に現れるが、The Buried Giantにおいては作品全体を通して複数の意味をもって多用される。人類の歴史において殺戮は繰り返され、戦後、忌まわしい過去の克服のために様々な政治的忘却が試みられたが戦火が絶えることはない。忘却への洞察力が問われている。この発表では、内臓とそこに潜む毒の表象を多層的に変化させるイシグロの手法によって、忘却をめぐる複雑な心理への成熟した理解が可能になることを論じる。
【研究発表②】「エコー・チェンバーの外部へ――イシグロとリベラリズムのパラドックス」
発表者:奥畑 豊(日本女子大学文学部英文学科准教授)司会:三村尚央(千葉工業大学教授)
カズオ・イシグロが政治的にリベラルであることに誰しも異論はないだろう。しかし、『東洋経済オンライン』に公開された2021年のインタヴューにおいて、イシグロは左派やリベラル派が一種のエコー・チェンバー現象に陥っていると自己批判を展開している。彼は社会の分断が加速する中でむしろリベラル派の方がエコー・チェンバーの外に飛び出して「他者」と対峙すべきだと説いた上で、反リベラル的な言説の存在を受け入れることこそが真の「多様性」であると言う。この一見危うい主張は、かつてポパーやロールズが考察した(リベラリズムの貫徹が逆にリベラリズムを瓦解させてしまうという)「寛容のパラドックス」を彷彿とさせる。本発表では先のインタヴューを手掛かりにイシグロ作品を再考し、リベラリズムが本質的に抱える自己矛盾について彼がどのように考えていたのかを明らかにしたい。
Bio: Anni Shen is Associate Professor of English at the Department of Foreign Languages and Literatures, Tsinghua University, China. She teaches English literature, with research interests in modern and contemporary English fiction and film. Her work has been published in journals such as Critique, Adaptation, CLIO, and Life Writing. https://www.dfll.tsinghua.edu.cn/dfllen/info/1081/1302.htm
【特別講演】“Kazuo Ishiguro’s Development of the Dream Technique.”
講演者:Anni SHEN(清華大学准教授) 司会: 田尻芳樹(東京大学教授)
Abstract: Kazuo Ishiguro’s The Unconsoled is often regarded as the high point of his avant-garde, modernist experimentation. Yet his subsequent works mark a notable shift away from purely experimental form toward a more calibrated negotiation between realism and the surreal. Drawing on archival materials from the Harry Ransom Center, this talk explores Ishiguro’s sustained engagement with Franz Kafka’s “dream technique” and examines how he adapts and transforms it within his own narrative practice. In this talk, I argue that, rather than abandoning experimentation, Ishiguro refines it by integrating oneiric logic with techniques derived from cinema, developing a distinctive mode of narrative appropriation. Focusing on the pivotal decade of the 1990s, it traces this evolution across three major novels—The Unconsoled, When We Were Orphans, and Never Let Me Go—to show how dream structures become increasingly embedded within ostensibly realist frameworks. In doing so, I situate Ishiguro’s “dream technique” as a dynamic, intermedial strategy that mediates between literary modernism, cinematic form, and the demands of contemporary fiction.
懇親会
懇親会に参加ご希望の方は6月7日までに第三回例会参加と併せてお申し込みください。
会場:「あえん目白店」トラッド目白2階 https://www.aen-restaurant.jp/mejiro/index.html
参加費:5000円(学生3000円) *参加費は当日受付でお支払いいただきますので現金をご用意ください。
日時:2025年11月8日(土)10:30-17:00(ハイブリッド開催)
場所:長崎大学 文教キャンパス 環境科学部 大学教育イノベーションセンター
教養教育講義棟 3階 A-33
第二回例会 スケジュール
10:30 開会の辞 鈴木章能(長崎大学教授)
10:35-12:00 第1部 トークセッション 映画『遠い山なみの光』を語る
聞き手:安元哲男(ながさき・愛の映画祭実行委員会)・川﨑綾子(メトロ書店代表取締役社長)
映画『遠い山なみの光』について、原作との比較、解説とともに、さまざまな角度から作品の魅力に迫りました。フロアの皆さまにも開かれた自由なご発言、意見交換の場となりました。
13:00-14:30 第2部 研究発表「カズオ・イシグロと長崎」
三村尚央(千葉工業大学教授) 司会 荘中孝之(京都女子大学教授)
「経験していない記憶を受け継ぐ 初期短編小説に描かれた長崎」
菅野素子(鶴見大学教授) 司会 池園宏(山口大学教授)
「ピーター・コズミンスキー、吉田喜重から石川慶監督へ
――小説A Pale View of Hills映画化までの道のり」
加藤めぐみ(都留文科大学教授) 司会 奥畑豊(日本女子大学准教授)
「『遠い山なみの光』における長崎の幽霊と幻の「ゴースト・プロジェクト」」
14:50-15:50 第3部 座談会 「映画『遠い山なみの光』とメディア」
進行役 加藤めぐみ(都留文科大学教授)
山田貴己(長崎新聞社 取締役編集局長)「長崎新聞社と映画『遠い山なみの光』」
上野暖登(NHK長崎記者)「カンヌでの映画『遠い山なみの光』」
鹿児島有里(フリーランス編集者)「『女たちの遠い夏』から『遠い山なみの光』へ」(オンライン参加)
『遠い山なみの光』の映画化の最新情報を日本で一番早く発信し続けてきた長崎新聞社、カンヌでのインタビューを全国に届けたNHK長崎、イシグロのデビュー作であるA Pale View of Hillsを『遠い山なみの光』という邦題で世に問うた編集者。それぞれの担当者から映画『遠い山なみの光』が長崎、そして全国に巻き起こしている新たなカズオ・イシグロ旋風について語りつくしていただきました。
16:00-16:45 第4部 招待発表 「アダプテーションの臨界点――石川慶監督作品をめぐって」
志村三代子(日本大学芸術学部映画学科教授) 司会 徐一然(北京大学講師)
「石川慶監督の登場は、日本映画史における“事件だ”」と映画評論家 荻野洋一に言わしめた長編映画デビュー作『愚行録』(2018)にはじまり、『蜜蜂と遠雷』(2020)、『ある男』(2023)、そして『遠い山なみの光』(2025)にいたるまで、石川慶監督は一貫して小説を映画化することで、原作にまったく新たな息吹を注いでこられました。監督のアダプテーションの魅力を、日本映画研究者の視点から解説いただきました。
16:45-16:50 閉会の辞 田尻芳樹(東京大学教授)(オンライン参加)
11月9日 10:00-15:00 「長崎 イシグロゆかりの地」をめぐるツアー
2024年11月8日、カズオ・イシグロ氏の古希の誕生日に長崎の旧石黒邸で発足した日本カズオ・イシグロ研究会。その記念すべき第一回例会では、カズオ・イシグロ長編小説デビュー作であり、石川慶監督による映画化で今年、話題を呼んでいる『遠い山なみの光』を中心に扱いました。研究発表、講演会、トークを通じて皆さまの作品への理解を深めていただけたことと存じます。ハイブリッドでの開催となり対面で30名、オンラインで30名、懇親会にも14名の方々にご参加いただきました。
日時:2025年6月22日(日)14:00-17:00
場所:東大駒場キャンパス 18号館 1階メディアラボ2(ハイブリッド開催)
スケジュール:
14:00-14:10 代表幹事 田尻芳樹(東京大学教授)からのご挨拶
14:10-14:50 【研究発表】肖軼群(しょういつぐん)(京都大学大学院博士課程) 司会 三村尚央(千葉工業大学教授)
「囚われの親──カズオ・イシグロ作品における『抗う子供』」
15:00-16:00 【講演会】菅野素子(鶴見大学教授)司会 荘中孝之(京都女子大学教授)
「やがて来る映画に向けて──カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』のアダプテーションについて」
16:10-16:40 【トーク】田尻芳樹「『遠い山なみの光』についてのトリビア――lanternの意味を探る 」
16:40-17:00 【オープンディスカッション】 進行 加藤めぐみ(都留文科大学教授)「会員の皆様からの声をきく」
17:30- 懇親会 フランス料理「ルヴェソンヴェール駒場」
第1回例会
研究発表・講演会 要旨
【研究発表】肖軼群(しょういつぐん)(京都大学大学院博士課程)
「囚われの親──カズオ・イシグロ作品における『抗う子供』」
本稿は、カズオ・イシグロの処女作『遠い山なみの光』におけるマリコの人物像を再解釈することを出発点とし、その後の長編作品における子供の描かれ方の変遷を考察するものである。先行研究において、マリコは母親に敵対する存在と見なされてきた。しかし、猫に新しい家を探し、危険の象徴である蜘蛛に立ち向かう彼女の行動は、母親が他の男性によって家庭から「連れ去られる」ことを防ぎ、現在の生活を守ろうとする意志の表れと読める。すなわちマリコは、単に母親に反発しているのではなく、むしろ母親をその過ちから救い出そうとする存在として捉え直すことができる。
次に、この「親救出」という主題が、その後のイシグロ作品でいかに変奏されているかを論じる。『充たされざる者』では少年ボリスがアパートに逃げ込んだ両親を救うべく暴漢に立ち向かい、『忘れられた巨人』では少年エドウィンが攫われた母親を救出する幻想に囚われる。これら本筋とは必ずしも直結しない挿話に繰り返し現れる、弱き親を救おうとする子供の幻想は、『遠い山なみの光』のマリコの物語にその原型を見出すことができよう。
最後に、本稿ではこれらの「親救出」の物語に共通する、反教養小説的な特質を指摘したい。精神的に成熟し、社会における自己の立ち位置を確立していく過程を描く教養小説とは対照的に、イシグロ作品の子供たちは成長を遂げることがない。彼らの幻想からは、性的な暴力や自らの無力さといった過酷な現実が巧妙に排除されている。その結果、彼らの子供時代の終焉は、精神的な成長によってではなく、「親救出」という幻想の破綻によって、突然もたらされるのである。では、イシグロはなぜ、子供の虚しい抵抗とその挫折を描き続けるのか。本稿の結論として、この「親救出」の物語は、達成不可能な目標を掲げ、それに向かって努力を続ける人間の姿を通して、変えがたい現実の中にある人間の尊厳を肯定するという、イシグロ文学に通底する本質を体現しているのではないだろうか。
【講演会】菅野素子(鶴見大学教授)
「やがて来る映画に向けて──カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』のアダプテーションについて」
本発表では、米国テキサス大学ハリー・ランサム・センターが所蔵する「カズオ・イシグロ・ペーパーズ」に収められている『遠い山なみの光』(A Pale View of Hills, 1982年)の映画脚本を取り上げて、これまでにどのような映画化(アダプテーション)案があったのかを紹介します。同センターのアーカイブ資料によると、1980年代には英国の映像作家ピーター・コズミンスキーが、1990年代には日本の吉田喜重が、そして2000年代にはふたたびコズミンスキーがカナダの映画プロデューサーと組んで映画化を進めていました。映画アダプテーションがなかなか日の目を見ない中、2005年8月にはラジオ・ドラマ版がBBCラジオ4で放送されました。つまり、映画本編としては今年2025年9月に封切りとなる石川慶監督の作品が初お目見えですが、その映画にはすでに原作小説の他にもアダプテーションの先行テクストが存在する、とも言えます。
「どれひとつとして、映画になっていない」――2014年、アーカイブ資料に添えた黄色い付箋メモにイシグロは記しました。どの脚本案にもかなり積極的に関わっていたイシグロが晴れの日を迎えるのは、もうすぐです。
日本カズオ・イシグロ研究会 第一回例会 2025/6/22 アルバム
transcultural perspectives on digital inequality
at Oxford Brookes University on July 7th, 2024
Japanese Perspectives on Kazuo Ishiguro
(Palgrave, 2024) 出版記念会
2024年5月25日 東京大学駒場キャンパス18号館4階
Kazuo Ishiguro Klara and the Sun Workshop at Tsuru University on November 5th, 2022
イベントの写真を上に追加して説明を記入します
“Artificial Friend in Japan”
@LOVOT MUSEUM on November 3rd, 2022
イベントの写真を上に追加して説明を記入します
@Murakami Haruki Library October 30, 2022
イベントの写真を上に追加して説明を記入します
Kazuo Ishiguro and International Crisis: A Global Seminar
“Ishiguro’s Childhood Garden: A Special Broadcast from Nagasaki”
on July 20th, 2020
TWENTY-FIRST CENTURY PERSPECTIVES
ON KAZUO ISHIGURO
on February 1st, 2020 @University of Wolverhampton