カタツムリの交尾
以前のウェブサイトが表示されない?ようなので移行中 m(_ _)m
せっかくナショジオからリンクをしてもらっていたのに・・・・「カタツムリの交尾」の紹介を始める前に、カタツムリを飼ってる方、もしくはよく見かける方へ以下のお願いがございます。
<カタツムリを飼い、愛でていらっしゃる皆さまへ>
私は現在、恋矢に含まれているタンパクについて調べたいと思っているのですが、そのためには大量の恋矢(数百本)が必要です。そこで、もしご家庭で不要な恋矢、物置に眠っている恋矢がありましたらご提供いただけないでしょうか。
ご提供いただける場合は、木村一貴・k.kimura.000@gmail.com までご連絡ください。
タッパー等に恋矢を入れて東北大学・千葉研究室に送るというお手間を頂くことになると思います。
**現在(2024.10.5)募集中です!よろしくお願いいたします**
<カタツムリの飼育はしてない、けどよく見かける方へ>
私は現在、カタツムリの交尾行動や恋矢の研究をしています。そこで、もし10匹~の生きたカタツムリを身近な場所で簡単に採集できるようでしたら、ご提供いただけないでしょうか。
ご提供いただける場合は、木村一貴・k.kimura.000@gmail.com までご連絡ください。
カタツムリをティッシュでくるんで、タッパー等に入れて東北大学・千葉研究室に送るというお手間を頂くことになると思います。
**現在(2024.10.5)募集中です!よろしくお願いいたします**
それでは、以下より「カタツムリの交尾」に関する紹介です。
<カタツムリって?>
カタツムリ、ここでは陸棲の軟体動物をこう呼んでます。つまりナメクジも含めてカタツムリと呼んじゃってます。カタツムリには多くの種類があり、世界に3万5000種、日本には800種を超えるカタツムリがいると考えられています。
カタツムリには雌雄同体・雌雄異体の2つのグループがあります。厳密に言うと、カタツムリは3つのグループに大別でき、そのうち2つは雌雄異体・1つは雌雄同体という構成になっています。雌雄同体のグループは有肺類と呼ばれることが多いです。
その雌雄同体である有肺類の一部では、交尾の際に、ダート・シューティングと呼ばれる奇妙な行動をします。ここでは、そのダート・シューティングについて紹介していきます。(どんなカタツムリにも当てはまる内容ばかりではありません。)
<殻が巻く方向って?>
予備知識として巻き方についてですが、カタツムリには右巻きのものと左巻きのものがいます(左上図)。殻の口が見えるようにした時、口が右に来るものが右巻きです。そして生殖器につながる生殖口は、右巻きのものは体の右側にあります。
ですので、交尾の際にはお互いに体の右側を近づけます。海外で見かける機会がある、頬どうしを触れ合わせる挨拶、そのような形で密着することになります(左下図)。
<ダート・シューティングって?>
ではダート・シューティングとはどのようなものかというと
交尾の時に、ラブダート(Love dart、恋矢:レンシという別名もある)と呼ばれる硬い槍状のもの(右上図)をパートナーにグサッっと刺す、という行動です。
ラブダートを出している所(右下図):体から飛び出してる白い棒みたいなのがラブダートです。この種類は左巻きで、体の左側にある生殖口から飛び出てます。生殖口の奥側に恋矢嚢(れんしのう)というラブダートを生成・保持しておくための袋があります。この種類では、前回の交尾で使用したラブダートをいずれ排出してしまいます。これはちょうどその時の写真です。
<グサッっと刺すって?>
ダート・シューティングをする種類は雌雄同体です。つまり、体内にオスの部分とメスの部分が存在します。1回の交尾で、お互いにラブダートを刺しあい、そしてお互いにオス生殖器を挿入しあいます(下図)。
ここでは少しつついて距離を空けさせていますが、実際は密着しながら行います。ですので、正にラブダートで刺しているところには気付きにくいです。手前側の白いのがラブダートであり、けっこう大きなものが刺さるということが判ると思います。そして奥側の灰色の管がオス生殖器です。よく見ると2本あって、互いに挿入しています。いずれ左側のカタツムリはラブダートを体内に戻します。
精子はオス生殖器によって相手に渡されます。ですので、ダート・シューティングは交尾の核心と言える「配偶子(精子や卵)の輸送」に無関係の行動と見なせます。
この種類(ヒダリマキマイマイ)での交尾のステップとしては
(1)求愛行動、ボディタッチを頻繁にします。 (2)ダート・シューティング開始。ほぼ同時にオス生殖器の挿入開始。 (3)ダート・シューティング終了。 (4)精包(精子が詰まった袋)をパートナーに渡す。 (5)オス生殖器の挿入終了。
というものです。
(3)以降もオス生殖器の挿入は続きます。というか時間としては(4)以降がメインです。ダート・シューティング後、10時間以上挿入してる、なんて種類もいます。
<写真じゃわからないよ?>
判りやすい動画をいくつか紹介します。
・求愛
相手の体を舐める。自分の体、特に生殖口(生殖器の入口)を相手の体にこすりつける。以上のような行動が典型的な要素です。
・ダート・シューティング
これは共同研究者の方が発表した論文中の動画です。この種類ですと、ガラス上で交尾をさせたところを裏から見ることでなんとか判るものなのです。グサグサ何度も刺しているのを確認できたと思います。種類によっては何と25分間に3000回以上刺すのです。
ナショナルジオグラフィックで紹介していただいた記事+動画です。
体に比べて大きなラブダートを持つ種類で、交尾相手の体を貫いてしまう、激しいダート・シューティングだと言えます。
<ラブダートの形>
ラブダートで刺す、というだけでも奇妙な感じだと思われますが、このラブダートには様々な形のものがあります。ある種類はシンプルな円錐状のラブダートを持っています。なので断面は円形になります。しかしある種類では、断面が手裏剣みたいな形をしたラブダートを持っています(左図、Koene & Schulenburg 2005)。
ラブダートの全体像・断面にいろんなタイプがあることが判ると思います。
<何故、カタツムリはこんな行動をするの?>
18世紀半ば、その理由に言及した最初の人物がいました。「ラブダートを刺すことによって相手を刺激し興奮させる、そして自身との交尾を促している。」、その人物はそのように考えました。そしてそのことを、ギリシャ神話に現れる神エロスが矢で他の神を射抜き、恋に落とすことになぞらえて表現したのです。実際に、偶然昔の人がカタツムリの矢を見たことが神話に影響した可能性もあるのかも知れません。しかし、残念ながら、カタツムリが神エロスと同様の力を備えているというこの説は現在では否定されています。
これも→ステキな恋矢イラスト
代わって、「ラブダートを刺すことによって相手を操作し、自身の子どもを産むように仕向けている」という説が有力視されています。
ラブダートにはある特別な粘液が付着しており、刺すことによって相手の体内にその粘液が送り込まれることが明らかにされました。そして、その粘液は相手の体内で作用して、渡した精子をより多く受精に使わせているようなのです。実は、カタツムリの中には交尾の後でせっかく受け取った精子をほとんど消化してしまうものがいます。精子を渡した方としたらたまったものではありません。そこでラブダートで粘液を送り込み、渡した精子の消化を妨害しているようなのです。結果として消化されずに生き残る精子が増えるのに伴い、受精の可能性が増えたと考えられます。
このようなことが起こる背景として、精子と卵との間で生産するためのコストが異なることが重要だと言えます。卵には栄養がたくさん含まれています。ですので生産するコストは大きいです。一方、精子は栄養なんてほとんど含まれていないので大量に作ることが可能です。つまり、雌雄同体ではあるものの、自身の精子をどんどん渡してどんどん使ってもらった方が多数の子供を残せます。しかしこのことは相手にも同様だと言えますから、渡した精子を素直に利用してくれず消化してしまう種類が多くいるのでしょう。
更に、私たちの研究によって、ダート・シューティングによる相手の操作は精子消化の妨害にとどまらないことが明らかになりました。送り込んだ粘液は、相手の性欲を減退させるようなのです。そうすることで、相手が再度交尾して自分以外のカタツムリから精子を受け取るのを阻止しているのです。
つまり少なくとも、精子消化妨害と性欲減退という2つの効果を介して、自身の精子の受精成功率を高めていると考えられます。
ラブダートに刺されることによりできた傷は病気への感染率を高めたり、大きな傷の場合は死に繋がることもあると考えられています。しかし、相手が被るコストなどお構いなしに、カタツムリたちは、自身の子供を産ませるべくラブダートを撃ち込んでいるのでしょう。
ただし、この説が有力視されてはいますが、本当にラブダートを刺すことで相手を操作しているのかどうかを証明するためには、まだ調べなければならないことがあります。そして現在、私はこの説を確かめるべく研究を進めています。
つづく
続きや詳しい内容を 東海大出版「貝のストーリー:貝的生活をめぐる7つの謎解き」の第1章「暴走する愛ーカタツムリの交尾と愛の矢」にて解説しています。興味を持たれましたら、ぜひご覧いただければと思います。
と言っても現在入手不可能なのかも知れませんので、なるべくこの記事を充実させたいと思います。
(last update: 29 Nov 2019)