量子系や固い物質(hard condensed matter)と古典系や柔らかい物質(soft condensed matter)の境界領域の研究を行っています。
これまでの研究では特に、トポロジカル物質の理論の拡張とその古典系への応用に関する研究を行ってきました。
トポロジカル物質では、その表面にエッジモードと呼ばれるギャップレス状態が出現することが知られていますが、私たちの研究では、エッジモードの古典系での実現可能性や従来の物質では見られないような古典非平衡系特有のエッジモードの存在を理論的に明らかにしてきました。
魚や鳥の群れのように、自発的に運動する物体の集団をアクティブマターと呼びます。アクティブマターは生物のモデルとして重要なだけでなく、平衡系では見られないような相転移などが生じることが知られ、非平衡現象の研究舞台としても注目を集めています。
私たちの研究では、アクティブマターを用いて、典型的なトポロジカル物質である量子異常ホール系の対応物が構成できることを示しました。このようなトポロジカルなアクティブマターは、カゴメ格子の格子点上に柱を並べ、アクティブな粒子の流れを流れを制御することにより実現できます。
また、アクティブマターは自律運動をする際に、内部に蓄えたエネルギーを消費しているため、常にエネルギー散逸のある非平衡な系であると言えます。このような散逸(すなわち非エルミート性)を利用したエッジモードが実現できる可能性も明らかにしました。
論文:Phys. Rev. Lett. 123, 205502 (2019), Nat. Commun. 11, 5745 (2020)
レビュー:arXiv:2407.16143
通常の量子力学ではハミルトニアンはエルミート共役に対して対称なエルミート性を持ちます。しかしながら、エネルギーの保存しない開放系などでは、ハミルトニアンは非エルミートになりえます。また、古典系の線形ダイナミクスを実効的なシュレディンガー方程式とみなした際も、対応する実効ハミルトニアンは非エルミートとなることがほとんどです。このような非エルミートなハミルトニアンに対し、近年トポロジーの理論を拡張する研究が盛んに行われています。
私たちの研究では、非エルミート系に特有な例外点を利用したエッジモード(例外エッジモード)の存在を明らかにしました。これは、バルクのトポロジーに保護された従来的なトポロジカルエッジモードとは異なり、エッジのトポロジーに保護されたエッジモードと言えます。さらに、例外エッジモードの光学デバイスやアクティブマターへの応用も議論しています。
また、熱ゆらぎが無視できないメゾスコピックな古典系は確率的なダイナミクスでモデル化されますが、そのような確率的なダイナミクスに特有なトポロジカル現象も明らかにしました。特に、確率的なダイナミクスを記述する確率遷移行列の固有値に対して、その巻き付きの有無と緩和時間のサイズ依存性などの対応を数学的に示しました。
論文:Nat. Commun. 11, 5745 (2020), Phys. Rev. B 105, 235426 (2022), Phys. Rev. Lett. 132, 046602 (2024), arXiv:2405.00458
従来のトポロジカル物質の理論は線形な方程式とそのハミルトニアンの固有値、固有状態の性質に基づいて、トポロジカル指数の定義やそのエッジモードの対応(バルクエッジ対応)が議論されてきました。一方で、古典系や量子多体系では、しばしば支配方程式が非線形になります。そのような非線形系において、トポロジカル物質の理論が拡張可能であるかどうかは自明ではありませんが、すでに多くの古典系の実験でトポロジカルエッジモードが観測されていることから、方程式の線形性に依存しないトポロジーの定義が可能であることが期待されます。
私たちの研究では、非線形系に固有値、固有状態の定義を拡張することで、非線形系を特徴付けるトポロジカル指数を提案し、そのバルクエッジ対応を解析してきました。さらに、非線形力学系の分野でよく知られていた同期現象やカオスとトポロジカルエッジモードの間の思いがけないつながりを発見しました。
論文:Phys. Rev. Research 4, 023211 (2022), Nat. Phys. 20, 1164-1170 (2024), Nat. Commun. 16, 422 (2025), arXiv:2501.10087