レア度:たまに見られる
形態:笠型の貝殻をもつ。貝殻は1.5㎝程度で、頂点が貝殻の中心からずれているため、左右非対称である。表面には隆起した太いすじが並び、その間は篭目状となる。内面は艶やかな紫黒色。外套腔という肺に相当する器官をもつため、空気呼吸ができる(鰓呼吸もできる)。したがって、貝殻はカサガイ類そっくりだが、陸棲のカタツムリに近縁である。
生息域:北海道南部以南の西太平洋に広く分布し、潮間帯の岩礁に生息する。葛登支では沖合の岩盤や巨石に付着している。
生態:決まった休息場所(帰家習性)をもつことで有名 (Abe 1940)。ほとんどの個体は半径5㎝以内で活動しており、家から離しても、半径5cm 以内であれば高確率で戻ることができる (大串 1955)。繁殖期は春~初夏。交尾を仕掛ける個体は、他個体を追いかけて、その貝殻を自分の貝殻で押す。すると押された個体は振り返って貝殻を持ち上げるので、交尾が始まる (Hirano & Inaba 1980)。親貝はゼラチン質の卵塊を輪っか状に産み付け、そこから浮遊幼生がふ化する (網尾 1955)。 植食性。
その他:英名を false limpet(カサガイもどき)という。カサガイ類(→カサガイ目)は、空気呼吸も体内受精もしない。
引用文献:
Abe, N. 1940. The homing, spawning and other habits of a limpet, Siphonaria japonica Donovan. The Science reports of the Tohoku University. Fourth series (Biology), 15: 59–95.
網尾勝. 1955. 二三の海産腹足類 (Pulmonata, Opisthobranchiata) の卵並びに仔貝の浮泛性について. 農林省水産講習所研究報告, 4: 239–244.
大串龍一. 1955. 潮間帯にすむ笠貝の習性: II. 2 種の笠貝の帰家行動の解析. 日本生態学会誌, 5: 31–35.
Hirano, Y., & Inaba, A. 1980. Siphonaria (pulmonate limpet) survey of Japan-I. Observations on the behavior of Siphonaria japonica during breeding season. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 25: 323–334.