エゾカサネカンザシ
Hydroides ezoensis Okuda, 1934
レア度:いつでも見られる
形態:鰓を広げた幅で2~3㎝程度の個体が多い。カンザシゴカイ類はふつう、石などの表面に石灰質の棲管を作り着生生活を営む。また虫体の一部が変形し、棲管の蓋(鰓蓋)として用いている。この棲管の形状や、虫体そのもの、鰓蓋の形態が分類形質となる。まず、本種の作る棲管は白くて細長く、ぐにゃぐにゃと蛇行することが多く、表面には2本の溝が走る。虫体の鰓糸(棲管から伸びる足のようなもの)は白、黒、茶色の縞模様。これより先は20~50倍の実体顕微鏡が必須だが、ぼてっとした鰓蓋は上下に2重になる。上側のもの(上部盃状体(はいじょうたい))には30個程度の棘が花弁状に並び、その1本1本の内側に3~6個の小突起があることが特徴。外観が似ており、本種に酷似したホソトゲカンザシゴカイ H. fusicola は、上部盃状体の棘の内側には1棘があるのみである点で異なる(今島, 1986)。
生息域:九州以北に分布。石の下や貝殻の上などに着生しており、群棲するものもよく見かける。今島(1996)では、葛登支の隣、茂辺地で見られるカンザシゴカイ類は本種のみとされている。
生態:幼生はトロコフォア幼生、ネクトキータ幼生を経て、生後10日ほどで着底する。着底後に棲管を作り、頭部がふさふさに分枝し、殻蓋も備える幼虫となる。生後4か月で管は2.5㎝程度になる(Miura & Kajihara, 1981)。
その他:カキやホヤの体表に着生するため、餌を巡る競争などを介した、水産資源への悪影響が懸念されている。東京湾などで、本種は近縁な2種と混ざって生息するが、そもそもこれらの分類が難しいため、その正確な評価までは至っていない(西・田中, 2006)。
引用文献:
今島実, 1986. 3. 管棲多毛類 in 付着生物研究会(編) 付着生物研究法-種類査定・調査法ー. 恒星社厚生閣 pp. 53-70.
Miura, T. & Kajihara, T., 1981. The development of a serpulid worm, Hydroides ezoensis (Annelida, Polychaeta). Proc. Jap. Soc. Zool. No.20, pp. 7-12.
西栄二郎・田中克彦, 2006. 要注意外来生物としての多毛類カンザシゴカイの分類について. 神奈川自然史資料 27: 83-86.