酒谷 雄峰氏(京都府立医科大学)
タイトル:弦双対性に基づく超弦理論・超重力理論の定式化と最近の発展
アブスト:
超弦理論にはT双対性やU双対性と呼ばれる等価性(弦双対性)があり、これらは超弦理論の低エネルギー有効理論である超重力理論においてもグローバル対称性として現れる。近年、この弦双対性に基づく新たな幾何学が発展し、弦双対性を基本原理として超弦理論や超重力理論を再定式化する研究が進展している。本講演では、このアプローチの基本的なアイデアを紹介するとともに、それらがどのように応用されているかを概説する。
上村 尚平氏(奈良教育大学)
タイトル:大域的な離散対称性のゲージ化から得られる非可逆的選択則
アブスト:
対称性とは大雑把に言って作用を不変に保つような何らかの群作用のことである。素粒子の現象論においては対称性は理論に現れる場を分類し、その相互作用を制限することで重要な指針となっていた。近年、対称性の定義を拡大しようという試みが活発である。これらの文脈では対称性はもはや群作用とは直接的には関係づけられておらず、より一般の代数的な構造によって相互作用や相関関数が制限を受けることになる。このような一般化された非可逆的な対称性の起源は、弦のコンパクト化や大域的離散対称性のゲージ化など様々なものが知られている。この講義では非可逆的な対称性についてレビューし、特に群が非可換離散群 G を正規部分群として持ち、群 H と G の半直積で表されるような場合に、H についてゲージ化した際の選択則について議論する。もともとの群の多重項の効果によって選択則が共役類など簡単な代数では表されなくなる。このような場合の選択則が指標を用いて記述できることを示す。さらにそれを導く代数的な構造についても議論する。
セクション① 10:35-11:15
長谷川 球真(茨城大学)
タイトル:NS-NSセクターでの零質量閉弦の場の3点関数と有効作用
アブスト:閉弦の場の理論には閉弦の縫い合わせ方の任意性に起因する自由度が存在する。この自由度とは独立に超弦理論に特有のpicture changing演算子の位置座標の任意性による自由度がある。本発表では、NS-NSセクターでの零質量閉弦の場の3点関数におけるpicture changing演算子の自由度の働きについて説明し、得られた有効作用についてボソン弦における先行研究と比較することでその構造を明らかにする。
森本 尊(京都大学)
タイトル:高エネルギー重力散乱とアイコナル位相
アブスト:二つの粒子が重力で散乱する過程を場の理論で計算すると、高エネルギーではツリーレベルの答えがユニタリ性を破ってしまう。ところが、重力子を何度もやりとりするダイアグラムを足し上げると、振幅は一つの位相の指数関数にまとまり、ユニタリ性が回復する。この位相を微分すると、一般相対論から予言されるの光の曲がりと同じ散乱角が現れる。平坦な時空上のファインマン図から一般相対論の答えが出てくる仕組みを紹介する。
セクション② 15:35-16:35
小名木 俊輝(YITP)
タイトル:Universal Bounds on Transmission Coefficients in ICFT
アブスト:2次元のInterface Conformal Field Theory (ICFT) におけるエネルギー透過係数の普遍的なバウンドについてレビューを行い、最近の進展を紹介する。
李 亮(基礎物理学研究所)
タイトル:de Sitter/interface CFT and its g-function
アブスト:本研究ではColeman-De Luccia(CDL)インスタントンを用いて半径が異なるド・ジッター時空を結合し、de Sitter/interface CFT対応をbottom-upのアプローチで構成した。そこで、エントロピーを計算するためのextreme surfaceの処方箋をいくつかテストし、そのうち矛盾を引き起こすものが存在することがわかった。interfaceと垂直な部分系のエントロピーを矛盾を引き起こさない処方箋で計算することによって、g-functionを求めた。本公演はプレプリントarXiv:2608.26997 [hep-th]に基づく。
姉崎 光希(京都大学)
タイトル:非平衡系におけるSchwinger–Keldysh contourのホログラフィック処方(Review)
アブスト:非平衡系の実時間相関関数はSchwinger–Keldysh contour上の経路積分から得ることができる。これを重力双対で計算する従来法は、対象が熱平衡状態に限られる、あるいはEuclidean path integralで準備可能なより一般的な状態にも適用できるが実行が煩雑である、という問題を抱えていた。本発表では、重力双対解が動径方向に解析的でdynamical horizonを持つ非平衡系に対し、Schwinger–Keldysh contourの重力側での実現として動径方向の解析接続を考えることで、非平衡系の実時間相関関数を従来法よりも簡便に計算する方法を紹介する。また熱平衡状態および緩やかに変化する非平衡状態におけるスカラー演算子の2点関数を用いてこれを例示する。本発表はPaolo Glorioso, Michael Crossley, Hong Liu, "A prescription for holographic Schwinger-Keldysh contour in non-equilibrium systems," arXiv:1812.08785v1 [hep-th] に基づくレビュー発表である。
セクション③ 16:50-17:30
藤丸 大輔(YITP)
タイトル:エニオンから見るゲージ理論の新たな自己双対性
アブスト:ハミルトニアン形式の格子ゲージ理論は符号問題を回避できる枠組みとして期待されているものの、発展途上であり実用的な計算は困難である。本研究ではこの枠組みにおいてエニオンを用いた記述を行うことで磁場を対角化する新たな基底を構成し、従来の基底との変換として電磁双対変換を構成した。さらにこの構成を用いて特殊な系について自己双対点を発見した。
西木 結菜(京都大学)
タイトル:量子計算機のベンチマークとしての軸性アノマリー
アブスト:格子ゲージ理論の経路積分形式によるモンテカルロ計算では,有限密度や実時間発展の計算が符号問題によって困難になる.これに対して,Hamiltonian 形式で実時間発展を量子ゲートとして実行する量子計算が近年注目されている.しかし量子計算の結果には,Trotter 分解,ゲート雑音,ゲージ場の有限次元化,有限体積などに由来する誤差が含まれる.そのため,計算が正しいことを確かめる指標が必要になる.
本発表では,その指標として軸性アノマリーを用いる研究を紹介する.軸性アノマリーの係数は厳密に決まっているので,古典計算と比べなくても量子計算の結果を検証できる.格子上では Nielsen–Ninomiya の定理によりカイラル対称性が破れるが,Ginsparg–Wilson 関係を満たすフェルミオンを用いると,ハミルトニアンと可換な軸性電荷を構成できる.この保存軸性電荷を使うと,電場を加えた直後から正しいアノマリーによる電荷生成率が得られる.その結果,量子回路を浅く保つことができる.最後に,1+1次元 $\mathbb{Z}_N$ 格子ゲージ理論をイオントラップ量子計算機で計算し,誤差緩和なしでアノマリー係数 $1/\pi$ を再現した結果を紹介する.
1.前田潤(京都大学)
タイトル:三次元ゲージ理論におけるスピン不純物の臨界現象
アブスト:量子臨界系に不純物欠陥を導入すると、欠陥上に繰り込み群流れが誘起され、新たな赤外固定点に流れる場合がある。このような赤外固定点は欠陥共形場理論(defect CFT)によって記述されることが知られている。本研究では、三次元 N フレーバーゲージ理論に SU(N) スピン不純物を導入した模型を考える。近年発展しているアノマリーの理論と、ラージ N 展開などの手法を組み合わせることで、この模型の赤外固定点に現れる defect CFT の性質を調べる。
2.和田辰也(YITP)
タイトル:Hamiltonian 形式による 1+1 次元 SU(2)_k 格子ゲージ理論と Wilson フェルミオンの有限密度系の量子回路化
アブスト:Hamiltonian 形式の格子ゲージ理論を量子計算機で扱うには、ゲージ場の無限次元ヒルベルト空間を有限次元に切断する必要がある。本研究では、量子群 SU(2)_k による切断を用い、有限密度のフェルミオンを含む 1+1 次元の模型を調べた。整数 k が大きいほど切断は緩くなり、k\to\infty で通常の SU(2) に戻る。量子実機での実行に向けた準備として、模型に対応する量子回路を構築し、小規模な系で古典計算による厳密対角化と、量子回路の雑音のない古典エミュレーションを行い、両者の定量的な一致を確認した。さらに、有限密度における通常の SU(2) との一致の度合いと、そのサイト数依存性を調べた。エネルギーと結合の尺度を合わせて比較すると、k=2という強い切断でも、基底エネルギーは通常の SU(2) と約 1% 以内で一致した。この一致の度合いに、3〜6 サイトの範囲で変化は見られなかった。一方、ゲージ場の状態分布にはkによる違いが残った。最後に、開境界条件を課した小規模な系で得られた結果を踏まえ、量子群による切断が基底エネルギーとゲージ場の状態分布に与える影響の違い、および構築した量子回路を用いた有限密度格子ゲージ理論の量子シミュレーションの可能性について議論する。
3.橋本幸征(名古屋大学)
タイトル:量子カオスと量子最適輸送
アブスト:本ポスターは arXiv:2608.27350 のレビューである。古典カオスは、位相空間上の近接する軌道の指数関数的な発散を測るLyapunov指数によって特徴づけることができる。しかし、状態の波動的性質や位相空間の非可換性により、この枠組みを量子カオスに直接拡張することは困難である。本論文はこの問題に対して量子最適輸送を用いた量子版のLyapunov指数を定義する。そして、半古典領域において古典的な大域的膨張率と一致することを示す。この結果は、量子最適輸送が量子カオス理論を統一的に記述する数学的基盤となることを示唆する。
4.服部暁翼(大阪大学)
タイトル:EFTで解き明かす有限幅ニューラルネットワークの統計力学(Review)
アブスト:ニューラルネットワークは中間層の幅を無限大とする極限で中心極限定理が発動し、出力関数の確率分布がガウス過程に収束する。これは場の量子論における自由場と等価であるが、特徴量表現が固定化される限界を持つ。現実の強力な表現能力は、有限幅による中心極限定理の破れ、すなわち相互作用に由来する。
本発表では、この有限幅NNの出力分布をウィルソン流の有効場の理論(EFT)と摂動論を用いて定式化した研究(Halverson et al.)を紹介する。重み初期化の反転対称性とスケーリング解析により、複雑な有限幅効果が単一の4点結合定数を持つ最小有効理論へと美しく帰着されることを示す。さらに、4点相関関数の実測値から決定した を用いてファインマン図から未知の6点相関関数を理論予言し、数値シミュレーションと高精度に一致することを実証する。