JOHN KAMITSUKA
PIANO RECITAL 2018
IN HOSEN GAKUEN RISU- INTER
IN HOSEN GAKUEN RISU- INTER
2018年6月2日(土) 4時限目。ロングホームルームの時間に、続々と生徒たちが体育館に集まってきました。10分前まで体育の授業を行っていた体育館(宝仙ホール)に世界的に活躍されているピアニスト ジョン・カミツカさんを招いてのピアノリサイタル。中学生と高校2年生が集合し、一流ピアニストの本物の音楽に触れることができました。
このイベントは今年度から理数インターに赴任されたピーター先生のご提案がきっかけでした。日系三世のアメリカ人であるカミツカさんは、世界的に活躍されているピアニスト。ピーター先生とカミツカさんはともに宣教師の親を持ち、北海道で出会った幼なじみとのこと。お二人の「本物の音楽を聴かせたい」という熱い思いから、この素敵なリサイタルが実現しました。カミツカさん招聘にあたっては理数インター父母会費より一部費用を支援いたしました。
ピタゴラ取材班によるリサイタルin宝仙ホールの取材、そしてピタゴラ通信Vol.17に掲載できなかったカミツカさんとピーター先生へのインタビューを理数インター父母会広報誌「ピタゴラ通信WEB号外版」としてお届けします!
土曜日の4時間目。休み時間に続々と集まった生徒たちは体育座りで鑑賞です。
まずはピーター先生から、「今日体験してほしいのは情操教育です。情操教育とは心を豊かにする教育です。ジョンはバッハやドビュッシーのような偉大な作曲家たちの音楽の魂を皆さんの心に届ける道具になりきろうとしているのです。今日のリサイタルは私たちの心を豊かにする肥やしになりますように。」というお話がありました。
続いて音楽の渋谷先生から演奏曲の内容や曲の成り立ち、拍手のタイミングなどのご説明をいただきました。カミツカさんご自身が、曲についての説明もしてくださるなど、「情操教育」「授業の一環」ならでは。初めて本物のクラッシック音楽に触れる生徒たちも多いということに配慮したとてもやさしいアプローチです。
カミツカさんの演奏が始まると、水を打ったように静まり、ピアノの音色が体を突き抜けます。生徒たちも思い思いの姿勢をとり、時には音楽にあわせ体を揺らしたりしながら楽しんでいました。
ドイツ出身のバロック音楽の巨匠バッハ。19世紀後半から20世紀にかけての二人の特徴的な作曲家、フランスのドビュッシー、ロシアのラフマニノフ、曲調が大きく違う三人の作曲家の曲に触れることができました。同じピアノから流れる音とは思えないほどそれぞれの雰囲気が違い、圧倒されます。凄い!の一言です。アンコールは、ショパンの「別れの曲」。ピアノの美しい音を満喫しました。
最後に生徒代表から、「まさか学校でこんな演奏を聴かせていただけるなんて、本当に驚きましたし、感動しました。また機会があれば聴かせていただければいいなと思いました。本当にありがとうございました。」と挨拶がありました。
演奏会後、カミツカさんの周りに生徒が何人か集まってきました。サインのお願いに気さくに応えたり、「ショパンの革命を弾いてください」というリクエストに、「何年も弾いてないからなぁ」と言いながらも、特徴的な導入部分をさらっと弾いてくださったり、とてもフレンドリーに接してくださるカミツカさんでした。
生徒たちにもまたとない経験になったことと思います。
Mr.JOHN KAMITUKA(Pianist)
演奏会後、カミツカさんとピーター先生にインタビューすることができました。一流の表現者、そしてピアノを教える教育者ならではのメッセージをお届けします。
司会: このリサイタルはピーター先生の発案だそうですが、なぜこのような機会を作ろうと思ったのですか?
ピーター先生: ジョンとは幼馴染みで、20年付き合っていて、リサイタルも毎年聴きに行きます。クラッシックはそんなに詳しくないのですが、本物の音楽家がつくる音楽は違うんだ!ということを生徒に伝えたいと思い、宝仙学園に雇われる前から右田先生に相談し、右田先生が「それは面白い!」となって話が進んでいきました。
カミツカさん: 今大問題だと思っているのが、テレビが白黒→カラー→デジタル、そしてインターネット、ソーシャルメディアとなっていくそのペースがあまりに早くて、社会が理解できていないと思っています。バーチャルリアリティと、本物のリアリティの違いや、本物に触れる経験、生の経験がどんどんなくなってしまい、違いがわからない状態になっているのではと心配しています。例えば、有名なマンハッタンの夜景はコンピューターや写真で見たことありますよね。皆さんの中にもイメージがありますよね。しかし、現地に行き、その場で見ると全く違います。
ピーター先生: 本物ということだね。
カミツカさん: 本物の前に立つと全く違います。子ども達に本当の生のものを経験してほしい。演奏しているとき、私は聴いている人の心の響き、それに集中しようとしています。そうすると、人間として感じるものがあると思います。あまり音楽に興味の無い人でも、あの大きな体育館の多くの生徒から5人だけでも何か経験して感じてくれればと思っています。本物の経験をさせる努力が大切なのです。
ピーター先生: 授業で、「こういうピアノのリサイタル聴いたことがある?」と聞いてみたのですが数人ですね。生徒のほとんどにとって初めてのクラッシックピアノのリサイタルでしょう。
司会: 今日の選曲はどのような意図があるのですか?
カミツカさん: 5月のニューヨークでのリサイタルの曲の中から選びました。今回は限られた時間ということもあり、その中で異なるタイプの曲を経験させたかった。例えばバッハの曲は不思議で、どんな楽器で演奏しても、バイオリンでもトランペットでもザイロフォンでもマリンバでもバッハというエッセンスが残ります。何故だかはわかりませんが。一方、ショパン、例えば今回のアンコールの「別れの曲」はピアノで聴くとすごくきれいでしょ?でも、あの曲はオーケストラで演奏するとすごく気持ちが悪い。ショパンはすごいピアニストだったので、ピアノという楽器をよく知っていたのだと思います。ピアノの音は消えていくんです。ピアノは弦を叩く打楽器だからひとつずつなくなっていく音を計算して感じて作曲していたんだと思います。でも例えばバイオリンで弾くと音が消えないで残る。だから「うー。気持ち悪い」って感じになります。あの曲はピアノのための曲。でもバッハにはそういう曲はほとんどありません。
司会: 先ほど生徒へのサインを左手でされていましたが、左利きなのですか?ピアノは右手を多く使うと思うのですが左利きで苦労することはありますか?
カミツカさん: ピアノを弾くとき一番何が大切かというと、右が左を助けるんです。右手と左手は喧嘩せず、バランスをとって演奏します。右とか左とかの意識が残っているのはよくないですね。ちょっと踏み込んだ話になりますが、ピアノやチェロは座って演奏しますね。ピアノは腰で弾くんです。腰が一番大切。人生を乗せているのは椅子でしょ。その椅子からひとつになって両手はただ鍵盤を触っているだけです。お相撲さんでもそうでしょ。腕だけで突っ張りしても効かないですね。足腰が強くないとだめです。ピアノも同じで、弾いているときに見える部分はあまり関係無いんです。見える部分から何かをすると逆に怪我をしたり、長持ちしない。
ピーター先生: 演奏中はいつも目を閉じていますよね。自分では気にしていませんか?
カミツカさん: 気にしていませんが、見なくても弾けないとプロじゃないですね。鍵盤の位置は決まっているでしょ。サッカーのプロ選手だって試合中誰がどこにいるか知っていてパスを出しますよね。体でわかっていないとプロじゃないですね。
司会: 曲によって音調が違い、幅のある素敵な音だと感じました。あのように奏でられるようになるにはやはり練習ですか?
カミツカさん: 練習ですね。弾いているときは体の中で聴いている音楽に応えているだけです。それとね、音楽は時間のかかる技術です。弾いたもの、弾いているもの、次に弾くもの、その三つの耳が必要なのです。リサイタルの前は10時間くらい練習室にいます。私はピアノの先生としてのレッスンもしていますが、自分のコンサートが近くなるとレッスンをしません。生徒に教えるのもパワーを使いますので。教えるときは、先生は生徒の立場に入り込んで、生徒のところまでいって、そこで先生の経験をもって生徒を手伝ってあげる。先生と生徒の距離があると伝わりませんね。でもそれは先生にとっても、すごくエネルギーがいることなのです。一緒になって、でも先生は経験があって勉強をしているから生徒を手伝えるでしょ。
司会: すごいですね。そういう先生に教わりたかったです。教育者としてひとりの生徒と関わるのと、今日のように大勢の生徒に聞かせるのは少し違うと思うのですが……
カミツカさん: でも全部やらないと、食べていけないから(笑)。社会は、音楽を「好き」です。でも「必要」とは思っていないでしょ。社会はそこまでいっていない。だから芸術家は自分から人を育てないといけないですね。今は有名なオーケストラでも採算が取れない時代です。チケットを売るだけでは駄目なのです。ベルリンフィルハーモニーでも国から援助をもらっています。厳しいですね。だから全部やります。
司会: 今日のリサイタルは感動しました。湖がひろがるような、心が洗われるような気持ちになりました。ありがとうございました。
ピーター先生: 僕も同じようにイメージがふわーってなりますね。
カミツカさん: イメージはそれぞれですね。だから僕は本当に好きな本が映画になったときは見たくない。自分でイメージしたものがあるから。音楽もそれとちょっと似ているかもしれない。
司会: 理数インターの生徒たちへのメッセージはありますか?
カミツカさん: メッセージはプログラムに書きましたが、音楽は一番古い言語だということを考えて欲しいですね。そして国際的な。コミュニケーションだと思います。
司会: 今日は素敵な演奏とお話をありがとうございました。