2024/1/12 Fri.
能登半島地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
被災地域の一日でも早い復旧を心よりお祈り申し上げます。
かくいう僕の妻も阪神大震災の被災地に当時住んでいましたので、火の海を鮮明に覚えてるようです。
毎日ニュースを見ながら他人事ではないと感じています。
迷惑がかからない範囲で出来る限りの支援を行いたいと思っています。
さて、今回の震災を踏まえて、お客様からご相談がありました。
「数回にわたる地震後の大地震だったため、耐震等級3でも倒壊した建物がある」とお聞きしたようで(僕のほうでは被害の確認はできておりませんが)、
これから新築を検討するに際しての耐震性能に対する見解を教えてほしいとのことでしたので
頑張って長文を書いて回答しました。
こちらでもご紹介しておこうと思います。
以下メールの内容です。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
〇〇様
ご連絡ありがとうございます。
メールで解説しづらい内容ではありますが、できるだけわかりやすく記載してみます。
まず結論を述べておきます。
★許容応力度計算による耐震等級3の確保は、
しておけば絶対安心というものではなく、「最低限」必要なもの、という捉え方が正しいと思っています。
また、理論上は繰り返しの地震(一定規模以下)にも耐えうる構造になります。
では解説していきます。
前提知識として、耐震性能を確認する方法が木造住宅規模では主に3つあります。
①仕様規定(壁量計算) → 建築基準法レベル(新耐震基準)
②性能表示計算(壁量計算) → 長期優良住宅レベル(耐震等級1~3)
③許容応力度計算(ルート1計算とも呼ばれます) →構造計算による耐震等級1~3
https://quohome.com/story/?p=8611
〇〇様が耳にされた「耐震等級3の家が倒壊した」という情報について、
この家の耐震性能がどれに該当するか判断しかねますが、
おそらく②の性能表示計算による等級3だと予想します。
そう予想した根拠は、
③の許容応力度計算をされた木造2階建て・平屋建ての住宅については昨年の新築棟数の3%にも満たないはず、
だからです。
もしかしたら1%もないかもしれません。(この辺は僕の勝手な肌感です)
僕も〇〇工務店様も③を必ずお勧めしていますが、
なぜ③の採用棟数がこんなに低いのか?
ということを説明しだすと長くなってしまいますので、
住宅業界全体とお施主様のリテラシーの低さが原因、という言葉で一旦片付けてきます。
また、①~③、又はそれ以降の構造計算についても、構造設計者によって内容が「ピンキリ」です。
計算の内容が曖昧だったり、間違ったまま見落とされているものもあるでしょう。
審査機関がチェックしているのでは?と思われるかもしれませんが、
審査機関は基本的には提出図書の校閲を行うところ、と捉えて頂いたほうが良いかもしれません。
審査機関が計算内容の正確性を担保してくれる、と勘違いしているプロも多いのですが、実は違うのです。
ここも掘り下げると長くなりますので、割愛します。
では仮に、正確に計算された②の性能表示計算の耐震等級3の建物があるとして、
それでは不充分なのか?
結論、不充分です。
ただ、①に比べると圧倒的に安全性能が向上しますので、
まず②を!という業界の雰囲気がこの過去5~10年間ぐらいです。
もちろん②さえしておけば充分で、③までは必要ない、とされている住宅会社さんもあります。
とはいえ、この②でさえ全体の新築戸建て棟数の3割にも満たないはずです。(これも僕の肌感です)
ではなぜ②でも不充分なのか?
ここを説明するのも長くなりますが、大事なところなので書きます。
まず、①と②は「構造計算」には該当しません。
これを勘違いしている建築士や住宅会社も多いです。
構造計算っぽいことはするのですが、
四則演算を使った簡易チェックと表現したほうが正しいかもしれません。
何より根拠が不充分なんです。
少し専門的なお話になりますが、
建物の安全性能を確認する際、
地震などの外力<建物がそれに耐える力
という式が成り立つかどうかを確認します。
これは①でも②でも、
③以上の構造計算(ルート2と呼ばれる許容応力度'等'計算、ルート3と呼ばれる保有水平耐力計算など)についても
同じです。
たしか高校物理で習うニュートンの運動方程式は、
F=ma
すなわち
力=重さ×加速度
です。
耐震設計に言葉を置き換えると、
地震力=建物の重さ×地震加速度(gal)
(※厳密にはもう少し複雑ですが、わかりやすく省略しています)
こんな感じの式だと捉えて頂いて差し障りありません。
ではお話を戻します。
不充分な原因、それは
①と②は「建物の重さ」が曖昧だからです。
簡単にチェックできるように、①・②には「重い屋根」と「軽い屋根」の二種類の概念しかありません。
瓦屋根を採用すると「重い屋根」、
スレート瓦やガルバリウム鋼板を採用すると「軽い屋根」
になります。
また、太陽光パネルを載せると「重い屋根」になります。
では瓦屋根に太陽光パネルを載せると・・・?
「もっと重い屋根」という区分はございません。
変わらず「重い屋根」のままです。
屋根以外でも、現実世界の建物重量は当然変わってきます。
モルタル塗りの外壁なのか、窯業系サイディングなのか、金属サイディングなのか、木板張りなのか・・・
雪は多い地域なのか、風が強い地域なのか・・・・
その他の条件がいずれであっても、①・②で計算するなら屋根の仕様でしか重量が決まらないのです。
え・・・?と思いますよね。
先ほどの式を思い出してください。
地震力=建物の重さ×地震加速度(gal)※
地震力は建物の重さによって大きくなっていくのに、根拠となる建物重量が曖昧なんです。
これが、①又は②の耐震等級3でも不十分と考える理由です。
③以降の、いわゆる構造計算と呼ばれる手法については建物の重量を詳細に、緻密に拾って合算します。
雪、風、屋根、外装材、内装材、断熱材、その他追加の設備や、部屋の使い方による重量の差なども考慮して、
全部を合算するので、
地震力の根拠がしっかりとありますよね。
③以降の計算でなければ、実態に即した計算になっているかどうかすら怪しいのです。
ここまでが、
①・②だと不充分で、
なおかつ「耐震等級3の建物でも倒壊した原因」と予想される事の一つではないかと考えられます。
ただどの構造計算手法についても
地盤が壊れないことを大前提としていますから、
今回のように地盤の隆起や液状化などが顕著に確認された震災では
計算された地震力の根拠が正確であったとしても、倒壊する可能性はあります。
ここまでが「耐震等級3の建物でも倒壊した原因」に対しての考察でした。
ここからは、じゃあ③の許容応力度計算の耐震等級3を確保すれば安心なの?という疑問について解説していきます。
仮に今回の被災地に③許容応力度計算の耐震等級3の家が建っていたとして、
それが倒壊しなかったかどうか?
これはわかりません。
先ほど挙げた地盤ごと破壊されてしまうケースがあるからです。
じゃあ次に、
地盤に問題なければ倒壊しないのか?
これもわかりません。
なぜなら大地震を想定した構造計算を行っていないからです。
え・・?地震力から建物の耐震性能を計算したんじゃないの?
と思われるでしょうから、ここを解説していきます。
先ほどの式をまた思い出しますね。
③許容応力度計算の耐震等級3の構造計算を行うとき、
地震力=建物の重さ×地震加速度(gal)※
の地震加速度は300galを想定して計算をします。
専門用語で言うと「標準せん断力係数Co」です。
これが0.2×1.5(等級3)で0.3になります。
阪神大震災レベルで800galと言われてますから、
これに比べるとかなり低い数字で計算していますよね。
じゃあ全然ダメじゃん・・・と思われると思います。
これは、そうではなくて、
③の許容応力度計算では、
「建物の耐用年数内に度々遭遇する地震に対して損傷せずに使用できるかどうか」
を確認しているんです。
これを損傷限界と呼びます。
各部材耐力には、
弾性域と塑性域と呼ばれる耐力範囲があります。
弾性域範囲内では、
加わった力が0に戻ると、部材も元の形状に戻ります。
塑性域範囲では、
加わった力が0に戻っても、部材は変形したまま(ダメージが残ったまま)です。
フックの法則というものです。
③の許容応力度計算は、弾性域(に安全率をかけたもの)で計算をします。
300galの地震(大雑把に言えば震度6)が何度起こったとしても、理論上は何の修繕も無しに使用し続けられる耐震設計の計算
と言い換えることができます。
じゃあそれ以上の地震が起こったら?
耐えるかもしれませんし、耐えれないかもしれません。
計算をしていないので何とも言えません。
ただ「何の修繕も無しに使用続けられる地震規模」は超えていますから、
倒壊はしなかったとしても、どこかは壊れると予想できます。
もちろん、このCoという係数を上げて計算することも可能ですが、
Coを0.8とか1.0以上で計算をすると・・・まず成り立つかどうかも疑問ですが
ものすごく太い柱や大きい梁が必要になってくるのは確実です。
ではこの大地震に対しての安全性の確認はどうやって行うのか?
これは保有水平耐力計算(ルート3)以降の構造計算が必要になります。
計算時のCoは1.0(1000gal)です。
内容としては、「大地震が起こった際に建物が倒壊しないかどうかの確認」です。
「いろんなところが壊れて継続使用は困難になるかもしれないけれど、倒壊しないので人命は助かる」
という目的の計算です。
これを安全限界と呼び、
先ほどの損傷限界の確認を一次設計、
安全限界の確認を二次設計と呼びます。
〇〇様が必要と感じるなら、二次設計まで行うと良いと思います。
別費用になりますが弊社でも計算可能です。
ただ新築の木造2階戸建て住宅でルート3計算を行った事例は物凄く少ない・・・もしかしたら前例が無いかもしれません。
ではさらにここからもう少し、解説を発展させます。
許容応力度計算(ルート1)で300gal、
保有水平耐力計算(ルート3)で1000galでした。
今回の能登半島地震は最大加速度3000galほど、と言われています。
ここでまた、え・・・?ルート1もルート3も意味ないんじゃ・・と思われますよね。
普通はそう思います。
東日本大震災も最大加速度3000galほどでした。
では観測点付近の被害状況はどうだったかというと、わずか3棟ほどの倒壊だったんです。
別のエリアで600gal程だったところのほうが被害は大きく、150棟ぐらいの倒壊でした。
これ、何が違うかというと「周期」の違いです。
ルート1もルート3も他の構造計算も、
一つの計算方法を除いて他は全て「定常計算」という考え方になります。
最大値がかかる瞬間の外力<耐力
の式が成り立つかどうかの計算ですね。
つまり時間軸の概念がありません。
ですから、
ルート1、もしくはルート1+ルート3で計算した建物が
3000galほどの地震に耐えられるかどうか、わからないのです。
耐えられないでしょう、ではなく、耐えられる可能性も充分あるのです。
で、除く一つの構造計算というのは「時刻歴応答解析」と呼ばれる構造解析です。
これは高さ60mを超える超高層建築のときにしか採用されないような計算方法です。
これは「非定常計算」と呼ばれ、時間軸の概念があります。
なんだか、不安しか残らないな・・・という感想だと思いますが、
この「時刻歴応答解析」と似たようなことを行う方法があります(弊社でも可能です。)
それがウォールスタットです。
https://www.rish.kyoto-u.ac.jp/~nakagawa/
ウォールスタットは、
阪神大震災などの地震波を設定して、実際に建物を揺らしてみるシミュレーションツールです。
まとめます。
絶対的な安心をご提供することはできかねます。すみません。
ただ、可能な限り対策を練ることは可能です。
具体的なご提案としては
先述した「許容応力度計算+ウォールスタット」です。
弊社では地盤に関しての知識も他社に比べると持ち合わせていると思っています。
「地盤保証がつく=安全な地盤」ではないことをご認識ください。
地盤を読んで対策を講じることも建築士の職責なのですが、それを知らないプロも多いのが業界の暗いところです。
また、今回のように3000gal程の大地震が発生すると、
毎回と言っていいほどプロの中から構造計算不要論者が出てきます。
地震による災害を自動車事故と例えると、
耐震性能は「エアバッグ」だと考えていただくと腹落ちしやすいはずです。
自動車事故も様々ですよね。
エアバッグがきちんと機能する事故もあれば、
可能性が低いかもしれませんが、
エアバッグがまったく役に立たないような大型トレーラーとの衝突、
水没事故など。
この、「可能性が低いかもしれない事故」がなんだか頻繁に各地で起こっている・・・のが
今回のような震災です。
エアバッグが機能しない事故が頻繁に起こっているからといって
エアバッグはもういらない、
外した分、車の価格を安くしてください、
という考えと、
大地震と耐震性能不要論は近いような感じがするな、といつも思っています。
以上です。
長文になってしまいました。
直接かZOOMででも解説するほうがわかりやすいかもしれません。
ご確認よろしくお願い致します。
Ms構造設計の佐藤さんが一般の方向けにわかりやすくYouTubeで情報発信をされています。
https://www.youtube.com/watch?v=fCp74dNvw9M
書籍も比較的とっつきやすいです。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------