集団生活する魚類では、集団の仲間と部外者を区別する必要があります。たとえば、協同繁殖魚Neolamprologus pulcherは、一つの巣の中に繁殖ペアと、成長後も巣にとどまって防衛や子の世話をするヘルパー、稚魚からなる30個体以上の集団で生活しています。彼らは顔の模様の違いで仲間と部外者を正確に見分けることができるのですが、その認知プロセスがヒトの顔の識別と似ているのか、違うのかを実験から明らかにしています。
そのほか、鏡像が自分だとわかるホンソメワケベラを使って、鏡で自分の姿を知った個体に自分の写真を見せたときに、それが自分と判断する手がかりは何であるか調ました。どうやら、彼らもヒトと同じように顔で写真の人物が自分であると判断しているようです。
N. pulcherの顔認知様式
(a) 顔の倒立効果 N. pulcherもヒトと同じように正立顔(上下正しい向き)は識別できますが、倒立顔の識別が困難です。これは単に模様の色や形といった一要素の違いでなく、要素同士の位置関係といった全体的な印象が重要であることを示しています。 (b) 顔の異人種効果 ヒトでは見慣れない別人種の顔の識別が難しいように、N. pulcherも顔の模様の基本パターンが異なる別地域の個体は識別が苦手なようです。
私が顔認知研究の対象としているN. pulcherは、個体ごとに異なる顔の模様を持ちます。しかし、タンガニイカ湖に生息するすべてのシクリッドがこのような明確な顔の模様の違いを持つわけではありませんし、またN. pulcherにおいても幼魚は模様をもっていません。
個体ごとに異なる模様を持つのはどのような種であるか検証することで、その機能と進化プロセスの解明に取り組んでいます。
タンガニイカシクリッドとその顔の模様
N. pulcherとその近縁種であるN. savoryiは顔に模様を持っています(写真: a, b)。しかし、タンガニイカ湖のシクリッドにおいてはN. caudopunctatusなど顔の模様に明瞭なバリエーションを持たない種が多数派です(写真: c)。
種間摂餌連合とは、2種以上の動物が一団となって摂餌する行動様式です。これまでアマゾンの小河川や島嶼のサンゴ礁域などで数多く報告されていますが、日本のような温帯域での実態は明らかになっていませんでした。
実は、私が現在いる佐渡島でもキュウセンがクロダイやヒメジといったベントス(底生動物)食性の魚と摂餌連合を形成する様子が観察されています。キュウセンがどのような基準で摂餌連合の相手を選んでいるのか、お互いにどのようなメリットがあるのかを検証しています。
クロダイとキュウセンの摂餌連合
砂の中に潜む餌をとるクロダイと、その下に潜り込んで舞い上がった小さな底生生物を食べるキュウセン