ホームセンターでの話です。
ドリルを買いに来た人は、何が欲しいのでしょうか?
ちょっと考えてみてください。
ドリルを買いに来た人が欲しいのは、やっぱりドリルでしょうか?
それともほかの何かが欲しくてドリルを買いに来たのでしょうか?
ドリルを買うという行為を楽しんでいるのかもしれません。
ドリルのパワフルな振動を味わいたいのかもしれません。
もちろん、ドリルを買いに来た人が欲しいのは、一つではないかもしれません。
ただ、一つだけ確実なのは、ドリルを買いに来た人が欲しいのは、穴であるということです。
有名なマーケティングの格言です。
ドリルの場合と同じように、建物についても考えてみましょう。
病院に来た人が欲しいのは、_____ではなく、_____である。
学校に来た人が欲しいのは、_____ではなく、_____である。
リゾートホテルに来た人が欲しいのは、_____ではなく、_____である。
病院に来た人が欲しいのは、薬、医者、レントゲンの機械など、いろいろありそうですが、一番求めているものは何でしょう。
学校に来た人が欲しいのは、教え方の上手な教師かもしれません…
リゾートホテルに来た人は、何を求めてリゾートホテルまで来たんでしょうね。
はじめの下線を埋めてみました。
病院に来た人が欲しいのは、 病室や医者や薬 ではなく、_____である。
学校に来た人が欲しいのは、 教室や教科書 ではなく、_____である。
リゾートホテルに来た人が欲しいのは、 ロビーや客室 ではなく、_____である。
そうなのです、ドリルを買いに来た人が、ドリルを欲しくてドリルを買いに来たのではないのと同じです。
病院に来た人は、病室にわざわざ泊まりに来たわけではありませんよね。ましてやお医者さんとおしゃべりに来たわけでもありません。
学校に来た人は、教室で眠たい授業を受けに来たわけでもなければ、高いのにあまり使わない教科書を買いに来たわけでもありません。
リゾートホテルに来た人が欲しいのは、自分の家が何軒も入ってしまいそうな広いロビーを見に来たわけではないのです。
後半の下線も埋めてみました。
病院に来た人が欲しいのは、 病室や医者や薬 ではなく、 元気な体 である。
学校に来た人が欲しいのは、 教室や教科書 ではなく、 新たな能力 である。
リゾートホテルに来た人が欲しいのは、 ロビーや客室 ではなく、 非日常な体験 である。
いかがでしょうか。
建物の目的という考え方が何となくわかってきましたか?
それでは、次の3つの建物の目的は何かすぐわかるのではないでしょうか。
保育園に来た人が欲しいのは、_____ではなく、_____である。
オフィスに来た人が欲しいのは、_____ではなく、_____である。
電車の駅に来た人が欲しいのは、_____ではなく、_____である。
そうですね。
もちろん保育園に来た人は保育園の給食を食べてもらいたいのが一番の理由、ではありませんね。
オフィスに来た人は、座り心地の良い椅子と、後ろを人が通らない席は欲しいかもしれませんが、きっとそれを一番求めているわけでなないでしょう。
電車の駅に来た人が欲しいのは、迷路のような乗り換えや座っている人が心底うらやましい満員電車ではないことは確かでしょう。
では一体それらの建物に来た人が一番求めているものは何でしょうか。
それでは、答えです。
答えは以下以外にもきっとあるでしょうが、一般的にはこのような目的かな、と考えたものです。
保育園に来た人が欲しいのは、 保育室や遊具 ではなく、 安心 である。
オフィスに来た人が欲しいのは、 机や椅子 ではなく、 価値の創出 である。
電車の駅に来た人が欲しいのは、 改札やベンチ ではなく、 電車内への移動 である。
建物の目的を見てきました。
いかがでしたでしょうか。
建物の目的は紹介されてきましたが、設備の目的が紹介されてきませんでしたね。
実は、設備の目的は、建物の目的と同じなのです。
例えば、保育園の安心を作ることを目的とした設備として、消火設備や衛生設備があります。十分な明るさを得るには照明は欠かせませんし、熱中症予防に空調は欠かせません。衛生的な安心のために、清潔なトイレや水道、換気設備も活躍します。また、オフィスでの価値創出を目的とした設備として、空調や照明、換気設備や音響設備があります。
設備は私たちの気づかないところで働いているので、普段私たちはあまり気にしないのです。というか、気づかないのです。
私たちが建物に求めることを実現しようと、気づかれないようにしっかりとサポートしてくれている頼もしい存在。それが建築設備なのです。
次のページでは、建築設備で建物の目的を達成している具体的な方法を見ていきます。