建物の目的の達成を目指すとき、建物にとって建築設備は欠かすことのできないパートナーです。
ただ、建物の目的を達成しようとするときに、どのような建築設備をどのように使えば良いのでしょうか?
建物の目的をじっくり考えるところから始めてみましょう。
病院を例に、どんな設備をどう使えば建物の目的を達成できるか考えてみましょう。
まずは、建物の目的から考えてみましょう。
もちろん病院の目的は、狭いベッドでもお医者さんでもありません。
病院の目的は、_____である。
話は変わりますが、私の友人に製薬会社の研究員がいます。
薬のない病を治療するための薬やより効果のある薬、より副作用の少ない薬などを生み出そうと、日々奮闘しているようです。
そんな彼と話していた時に彼の口から出てきた一言です。
「薬の目的は、普段の体に近づけることなんだ。」
普段体の調子のことはあまり気にしませんが、気にしなくてよいような体でいられることが理想的なことなんですね。
さて、病院の目的について考えてみます。
病院の目的は、以下のような答えを考えてみました。
病院の目的は、 元気な体に戻ること である。
診療科によっては少し違う答えになるでしょうが、ざっくり言えば上記のような目的になるかと思います。
では次に、その目的を達成する方法を、フレームに基づいて考えていきます。
設備のフレームは、環境工学のフレームでもあり、人の感覚器官のフレームでもありました。
設備は人に直結しているのですね。
設備と人の関係は深いので、人と環境との関係をフレームごとに考えていくと、設備での解決方法を考案しやすくなります。
それでは、引き続き病院を例に、建物の目的を達成するための設備の使い方を考えていきます。
病院の目的は、 元気な体に戻ること である。そのために…
人と環境との関係
設備での解決方法
光環境
豊かな自然を窓から眺められると回復が早くなることが、研究から明らかになりました。
だから、窓の外を見られるような部屋のレイアウトにしました。また、4床室の廊下側の人も光を感じられるよう、ライトシェルフを採用しました。
音環境
静かに眠られると回復が早くなることが、研究により明らかにされました。
そのため、廊下の音が響かないよう壁に吸音材を用いるとともに、特に安静の必要な方の部屋にはクロストークを避けるために換気・空調のダクトを独立させました。
空気質
手術室の空気にはウィルス等の拡散してほしくない物質が含まれている可能性があります。
そのため、手術室を負圧とし、手術室の空気は浄化してから屋外に廃棄することとしました。
温熱環境
室温が高いほど、人の行動は多くなることが、研究で明らかにされました。
行動が多いほどロコモーティブシンドロームを予防でき、また、運動するほど血液の循環量を増やすことができ回復が早くなるため、冬の設定室温を少し高めにしました。
設備を考える上では、人と環境との関係について幅広く知っていることが大切なようです。
ただ、自分も一人の人です。
自分の体験は最もイメージしやすい「人と環境との関係」だと思います。
また、おじいちゃん・おばあちゃん、お父さん・お母さんなどの家族のこぼす環境に対する不満も、自分以外の感じ方をしている人にとっての「人と環境との関係」ですね。
では、もう一つ具体例を挙げて考えてみます。
次は老人保健施設です。
老人保健施設の目的から考えてみましょう。
老人保健施設の目的は、 元気に過ごすこと である。
日々の生活でのサポートを受けながら、周囲の人たちとのコミュニケーションを楽しむのが、老人保健施設の目的のように思います。
それでは、設備としてどのようなサポートができるでしょうか。
人と環境との関係
設備での解決方法
光環境
日中明るくて夜暗いという屋外の光環境は、体内時計を正すのに効果があることが研究により明らかにされています。
だから、色と明るさを変えられるLED照明を採用して、朝と昼は青白さのある色にして明るさを強くし、夕方以降は暖色系の色にして明るさも弱めることにしました。
音環境
日中はにぎやかであるほうが、脳への刺激が多く、認知症の進行を遅らせられることが明らかにされました。
そのため、窓を開ける時間を定め、外の子供の声や学校のチャイム、車の音や電車の音などを聞こえるようにしました。その一方で、夏の日射により室内が厚くなるのを抑えられるよう、日射による熱の侵入を防ぎやすいタイプの窓ガラスを採用することにしました。
空気質
種々のにおいは、ストレスになることが知られています。
そのため、トイレや浴室だけでなく、各個室にも外向きの換気扇を設置し、個室を負圧とすることにしました。
温熱環境
室温が高いほど、人の行動は多くなることが、研究で明らかにされました。
行動が多いほどロコモーティブシンドロームを予防できるため、冬の設定室温を少し高めにしました。
人と環境との関係は、設備で建物の目的を達成するうえで重要ですね。
ただ、まだあまりよく知らない、という方もいるかもしれません。
そこで、光環境と温熱環境を例にして、人と環境との関係をいくつか挙げてみます。
考えるヒントとして、朝・昼・夜という時間帯をフレームに用いています。
朝
強い光を浴びると体内時計がリセットされて、目覚めが良くなります。
暗いところから明るいところに急に移動すると、そのまぶしさに数秒間順応できません。
(タイマーで点灯する照明や、タイマーで開くカーテンは、朝の目覚めに効きそうです。)
昼
視線から約30°の範囲内に光源があると、まぶしく感じます。
作業が細かいほど手元の照度は明るいほうが良いです。
(視線の方向と直交する蛍光灯や、直接蛍光灯を見えなくするルーバーは、生産性を高めてくれそうです。)
夜
食事が暖色系で照明されると、一層おいしく見えます。
明るいところから暗いところに移動して30分くらいすると、暗さに順応して多少辺りが見えるようになります。
(レストランの暖色系のスポット照明や、蓄光塗料の塗布された蛍光灯は夕方~夜の生活を快適にしてくれそうです。)
朝
明け方の体温が最も低く、日中に向かって高くなるので、朝部屋が暖かいと、起きやすいです。
(タイマーで開始する暖房運転があると、冬でも安心して布団から出られそうです。)
昼
男性の方が女性より代謝量が多いため発熱が多く、暑く感じやすいです。
加齢に伴い筋肉量が落ち発熱量が減るのに加え、体温調節も鈍くなります。
(温熱環境を調節しやすい放射冷暖房や、滞在時間や属性に応じた空調の吹き分けは、エアコンの室温設定を下げたい夫と上げたい妻の夫婦喧嘩を減らすことに役立つかもしれません。)
夜
体からの放熱量が多いほうが寝つきやすいです。
足が冷えると手足などの末梢の血流量が減り、放熱量が減り、寝つきが悪くなりやすいです。
(予め布団を温めておける電気毛布や、予め体温を下げておけるぬるめのお風呂は、寝付きやすさに効いてきそうです。)
いかがでしたでしょうか。
毎日のように体験していることや、よく見聞きしていることを具体的に書いているだけ、と感じるかもしれません。
まさにその通りなのです。
人と環境との関係や建築設備というのは、それくらい日常の生活や行動に近い存在なのです。
それでは、次は課題のページです。