大学院生:鶴田 菜摘 / 助教:フィオナ・スピレット / 教授:桐原 聡秀
大学院生:鶴田 菜摘 / 助教:フィオナ・スピレット / 教授:桐原 聡秀
粉体分散光造形プロセス
どのようにして多次元構造を製造するのか 論文
光硬化性樹脂に金属やセラミック粉体を混合し、光造形を実施すれば複合材料の構造体を精密成型できます。素材粉体を分散した液体樹脂を容器に入れ、沈殿しないように攪拌しながら紫外線レーザで描画し、任意形状の2次元断面を次々に積層すれば、複雑形状の3次元構造を精密に製造できます。プラスチック製の構造体に金属粉体を混合すれば強度が向上するだけでなく導電体として利用できますし、セラミック粉体を混合すれば絶縁性が向上し誘電体としても応用できます。樹脂による構造成形に加えて分散粒子による機能付与が実現します。
自転公転式ペースト素材調合
どのようにして多次元構造を製造するのか 論文
微粒子ペーストの調合には自転公転式の攪拌脱泡装置を活用します。固体微粒子と液体樹脂を混合して容器へ入れ、密封した状態で公転させますと、遠心分離により空気が抜けてゆきます。これと同時に容器を自転させますと、微粒子を樹脂へ混合分散することが可能です。微粒子の分散量を調節することで、力を加えると流動化し、力を抜くと固形化する、特殊なチクソ性流体が得られます。微粒子が半分以上の堆積を占める光硬化性の樹脂ペーストが調合でき、光造形を経て脱脂焼成により緻密な組織が得られる、最適なペースト素材なのです。
直接的セラミック光造形プロセス
どのようにして多次元構造を製造するのか 論文
光造形プロセスでは、成形と熱処理の段階的なプロセスが必須ですが、紫外線レーザの強度を増すと直接的な造形が可能です。波長の短い紫外線は微粒子の隙間を通り抜け、乱反射を繰り返しながら局所的に強度を増します。これは局在化と呼ばれる特殊な電磁波の共振現象であり、ペースト素材内部で温度が急激に上昇することを示します。この現象により樹脂成分を焼失させ、微粒子を焼結することができるるのです。レーザ走査により局所的な脱脂焼成を連続させて断面層を形成し、積層により層間を接合してゆけば構造体を成形できます。
誘電体構造マイクロ波制御
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
酸化チタンはチタニアとも呼ばれ、誘電体として電磁波を透過し伝播させます。同じく誘電体であるアクリル系の光硬化性樹脂に粉末を分散すれば、光造形により電磁波の制御構造が作成できます。構造を持たない塊ですと電波を吸収も反射もせずに透過させるだけです。しかし、周期的な配列を導入すると、電磁波の回折現象が生じ、構造に見合った波長の電波だけを反射する性質が生まれます。さらに、自己相似構造を導入すれば、大中小の様々な孔を多数あけられるため、内部表面積が幾何級数的に増加し、特定波長の電波を吸収する性質が生まれます。
金属ガラス製電磁波制御デバイス
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
金属ガラスとは複数種類の原子が混合されて、きれいに整列した結晶構造を全く持たない物質であり、高い強度や腐食へ耐性など様々な利点が生まれます。そのなかでも磁力をきれいに透過させる磁性体、即ち磁石を接触させると直ちに磁石になる金属ガラスに注目し、微粒子を光硬化性樹脂に分散して光造形を実施しました。加熱焼結すると金属ガラスが結晶化してしまうので、低融点の酸化物ガラスを繋ぎとして利用しました。微細な周期構造によりマイクロ波長の電磁波を回折できますし、磁場を加えると機能を発現する周波数が変化します。
テラヘルツ波共振誘電体パターン
多次元構造はどのように応用展開できるか
テラヘルツ波は遠赤外領域に含まれる電磁波であり、有機高分子の振動と同期することが知られています。これまで化学反応を制御するには生成物や反応物の量を増減させたり、温度を調節したり触媒を追加するなどが手段として用いられてきました。テラヘルツ波は波長と周波数を絞ると、意図した有機物の分子振動を励起できるので、これらの結合や分解などの反応にも寄与できる可能性があります。誘電体の薄膜を光造形し、液体や気体が流れる微細な溝をパターニングすれば、テラヘルツ波の共振を利用したセンサやリアクタが形成できます。
全固体電池用セラミックパーツ
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
リチウムランタンチタネートは固体でありながら、内部でリチウムイオンが移動する特殊な解質です。極薄のに伸ばした固体電解質に両面から孔を掘り、正負極の材料を入れ込めば電池が完成します。このとき、たくさんの孔をあけて表面積を大きくすれば、蓄電容量が大きくなり電池が長持ちします。さらに、電解質をより薄くして正負極間の距離を小さくすれば、イオン電導が容易になり充電時間を短縮できます。固体電解質の粉末を光硬化性樹脂に分散すれば、極薄のセラミックパーツを製造性良く、すなわち失敗することなく成形できます。
固体酸化物燃料電池ジルコニア電極
多次元構造はどのように応用展開できるか
酸化ジルコニウムに少量の酸化イットリウムを混合すると、原子の配列である結晶として物質は安定しますが、本来は酸素原子が入るべきところが空孔になり、そのような個所が多数存在できるようになります。この物質へ電圧をかけると酸素イオンが静電気力を受け、さきほどの空孔を飛び石のように伝いながら移動します。この固体電解質を光造形すれば、表面積の大きなセラミック電極を作製できます。電極表面に移動してきた酸素を水素と結合させると、水の電気分解の逆反応により電力が生み出され、固体酸化物燃料電池として機能します。
軽量高強度チタニウム合金部品
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
チタニウム合金の粉末を光硬化性樹脂へ分散し、複雑な成型した光造形構造を電気炉で焼結すれば、鋳造や粉体成形などの従来手法で製造した部品と同様の強度を引き出せます。合金部品の内部へ多数の空洞を導入して軽量化を図り、それらをつなぐ格子を筋交いとして強度を高めることも可能です。チタニウム合金部品の内部へ導入する格子について、その長さと太さの比率を系統的に変化させれば、力学シミュレーションを併用することで、軽量化と高強度化を両立しつつ方向に応じて部品の性質を変化させるなど、様々な応用展開が見込めます。
応力分布制御フラクタルパターン
多次元構造はどのように応用展開できるか
やわらかい純アルミニウム板の表面へ、純銅粉末を分散した光硬化性樹脂を塗り、紫外線レーザで描画すれば幾何学模様が描けます。この部品を真空中で加熱できる電気炉へ投入し、アルミニウムと銅が反応する温度まで加熱すると、硬い金属間化合物のパターンを焼き付けできます。化合物のパターンは自己相似性を示すフラクタルパターンであり、周期配列のように応力集中する箇所が見られないため、力がほぼ均一に分散するので壊れにくくなります。使用後は表面パターンだけを削り取れば、金属地金が得られますのでリサイクルも容易です。
制御セラミック分散型金属基複合材料
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
複合材料には多種類の素材が混合されており、新機能を創り出すため考えられたものです。たとえば、基本となる金属相の内部へセラミック相を分散すれば、耐熱性と高強度を併せ持つ複合材料が創成できます。通常は分散層が無秩序に混合されますが、光造形を用いてセラミック格子を成形し、その隙間に金属粉体を詰め込み加熱すれば、新しい形態の複合材料が得られます。すなわち、熱伝導の性能が異なる金属とセラミックス素材を混在し分布させれば、熱の流れを自在に制御できるため、摩擦熱を効率的に解消するなどの応用展開が可能です。
高屈折率セラミック耐熱部品造形
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
炭化ケイ素は耐熱セラミック材料であり、宇宙ロケットのエンジン部品にも使われています。この微粒子を光硬化性の液体樹脂に混合し、紫外線レーザを照射して造形を試みたことがありました。すると、微粒子の表面で光の反射が極めて大きく、樹脂を固めることが出来ず造形が遂行できませんでした。そこで別の高分子を利用して微粒子の繋ぎとし、紫外線波長の数倍大きい複合粒子を作製し利用したところ、隙間を光が伝播し樹脂が硬化しました。樹脂へ分散しているのは微粒子ですから、脱脂焼成により緻密なセラミック組織へ転換できます。
自己相似固有振動モード型音響構造体
多次元構造はどのように応用展開できるか
人間の耳内には聴覚神経が多数配列されており、場所により波長の異なる音を感じています。音が複数の波長の重ね合わせで構成されると、広い範囲の聴覚神経を緩やかに刺激するので心地良いと感じます。反対に限定された波長のみで構成された音は、特定の聴覚神経を鋭く刺激するため耳障りが悪いと感じるでしょう。音響構造として笛を設計する際に、内部に自己相似上の凹凸を付けると、様々な大きさの渦が形成され、これらの振動の合成により音が創り出すされます。セラミック製の笛を光造形し、心地よい音色を出す楽器ができあがりました。
ヘルムホルツ連成共鳴音響吸収体
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
ヘルムホルツ共鳴器は特定波長の音を吸収する装置です。内部空洞の堆積や開口部分の寸法などで、吸収する音響周波数が決まります。これでは共鳴空洞に固有の音しか吸収できないので、複数のヘルムホルツ共鳴器を連携させて、音響制御するセラミック構造を光造形しました。すなわち、それぞれの空洞が連結すれば、音波の連成振動が形成されるので、複数の固有振動を生み出せます。光造形したセラミック共鳴器は耐熱性も高く、広帯域の吸音スペクトル示すため、工業用ガスバーナーの先端に設置すれば、様々な騒音を効率よく吸収できます。
バイオセラミック人工骨
多次元構造はどのように応用展開できるか
ハイドロキシアパタイトはリン酸カルシウム化合物であり、人体骨とほぼ同じ成分で構成されています。粒子径が10ミクロン程度のハイドロキシアパタイト粉末を光硬化性樹脂に分散すれば立体構造として造形できます。このとき、骨内部の海綿構造における生体液の循環挙動を流体シミュレーションで解析すれば、良好な骨接合を誘導することが可能です。造形した構造体を電気炉で加熱し、粉体成分を焼結すればバイオセラミックインプラントが完成します。図のように海綿骨に傾斜構造を導入すれば、生体液の空間的な流動を制御できます。
代謝型バイオセラミック製インプラント
多次元構造はどのように応用展開できるか
ベータ型リン酸三カルシウムは人工骨用のバイオセラミックとして活用されており、特徴的なことは人間の体内において細胞の働きにより退社することです。すなわち、インプラントとして埋入した際には人工物ですが、徐々に生体成分へと置き換わり、やがて人体骨そのものへと変化します。光造形法を用いて人工海綿骨インプラントを形成する際に、スキャフォードと呼ばれる細胞の足場となる格子パターンを形成しました。内部における生体液の流動プロファイルをより自然な形へ近づけるために、ゆらぎ構造を導入して凹凸を付与しています。
セラミック製人工歯冠インプラント
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
セラミック製人工歯冠は白く半透明であることから、審美性を追及するために開発が進められていますが、金属アレルギーを発症しない歯科用インプラントとしても利用されています。光造形樹脂へ酸化アルミニウムや酸化ジルコニウムの微粒子を分散し、光造形した部品を電気炉で焼成すればセラミックインプラントが製造できます。このとき、分散するセラミック微粒子の粒度分布を制御し、様々な大きさの粒を最適な比率で混合すれば、液体樹脂中の固体成分の堆積率を向上できるため、焼結処理における収縮を最小限に抑えることが可能です。
木質素材分散バイオプラスチック
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
光硬化性樹脂には大鋸屑など木質素材を分散することも可能です。彫刻や家具などをコンピュータグラフィックで設計して、意匠性あふれる工芸品を創り出しても良いですし、地中や地上に造形物を設置してコンクリートを流し込み、建築構造を生み出す木枠としても利用できます。近年では生体分解性のポリ乳酸樹脂も開発されており、土中の有機物として微生物により有機物の循環に組み入れることもできます。また、高強度を示すセルロースナノファイバーなど、自然由来の分散成分も開発されており木質造形パーツの用途はさらに広がりそうです。
ゆらぎ表面人工岩石オブジェクト
多次元構造はどのように応用展開できるか 論文
自然界には様々なゆらぎ構造が含まれており、これらの複雑な振動をフーリエ変換したとき、振動数と振幅は反比例することが知られています。この事実を逆転すると、滑らかな平面や曲面を逆フーリエ変換して、ゆらぎを与えることができます。例えば球体や円柱などの幾何学構造へゆらぎを与えて、自然な凹凸を有するオブジェを作製すれば、公園や庭園などの景観をデザインできます。さらに、オブジェ表面の水流を制御し、雨水がくまなく構造を濡らすように設計を変更すれば、苔や草花などが生育しやすい環境を創り出すことも可能です。
超大型光造形プリンタプロセス
将来はどのような多次元構造を実現させたいか
近い将来に実現したいと考えている産業プロセスは超大型光造形です。微粒子を分散した光硬化性の樹脂ペーストをガラスパイプの表面に落とし、ローラのように平板へ塗りつつ、内側から紫外線ダイオードで光照射します。断面パターンを形成しながら、未硬化のペースト素材は吸引し、高強度の紫外線をランプから照射しつつ、樹脂成分の焼失と微粒子の焼成を連続的に達成するものです。プリンタヘッドを移動させることで積層造形が達成されますので、地面に設置したステージ上で大型のセラミック部品を成形することが可能になるでしょう。
過酷環境ドローン巨大構造施工
将来はどのような多次元構造を実現させたいか
超大型の光造形プロセスが実現した暁には、それらを空間的に組み上げて、更なる巨大構造物を組み上げる必要があります。その実現にはドローン施工が最適と考えています。ドローンはプロペラ飛行するタイプが一般的ですが、多脚型の躯体も幅広く製造販売されています。この多脚型ドローンに光造形部品を背負わせ、超高所や過酷環境の施工現場へ投入し、構造物を組み上げつつ溶接接合すれば良いと考えました。部品を効率的に組み上げるために、接続部分に勘合構造を設けることも、アディティブマニュファクチャリングならば容易です。