第11期(2020-2023)は、「多様な教職ルートの構造と実態に関する国際比較研究 」に取り組んでいます。
We are working on the comparative study of alternative pathways to teaching.
2023年
Panel Session at 33rd Annual Conference " What Do the Various Routes to Teaching Pose for Teacher Education?" (October 1, 2023)
第10期の課題研究Ⅲ部(国際比較・交流)は、多様な教職ルート(教壇に立つためのルート)に焦点を当てて、国際比較研究を進めています。第31回大会ではアメリカ・ノルウェー・中国・ドイツの多様な教職ルートの実態を議論し、第32回大会ではイギリスとオーストラリアの教員不足対応の実態を事例に、多様な教職ルートの背景の特徴を検討しました。第33回大会では、課題研究Ⅲ部でこれまで議論してきた各国の状況を整理し、多様な教職ルートの意味を考えてみたいと思います。
これまでの研究を通して、教員になるためのルートが複数あるという状況が多くの国で共通していることが明らかになりました。しかし、多様な教職ルートの構造を見ると、例えば「主流」としての教員養成がありながら、緊急的に必要な場合に備えた仕組みがある場合や、「主流」の教員養成では質的・量的な教員不足に対応できないことから、ある種の「傍系」が確立している場合等、いくつかの類型が確認できます。そこで、各国の多様な教職ルートの構造を類型化することを通して、世界的な動向を整理していきます。他方で、それぞれの国で多様な教職ルートが存在する背景には、単なる量的な教員不足というだけではなく、各国における学校教育や社会環境の変化への対応といった側面もあることが見えてきました。そうした各国の差異性に着目し、世界的な動向の背景にある各国独自のコンテクストも探っていきます。以上の各国の分析結果を踏まえた上で、多様な教職ルートの意味を考えるとともに、日本の教師教育の制度・実態を国際比較の枠組みから定位することを試みます。
司会:
佐藤仁(福岡大学)、矢野博之(大妻女子大学)
報告者:
小野瀬善行(宇都宮大学)、北田佳子(埼玉大学)、佐藤仁(福岡大学)、張揚(北海道大学)、辻野けんま(大阪公立大学)、中田麗子(信州大学)、原北祥悟(崇城大学)
Online Seminer "the Working Condition and Career of Teachers in the World" (June, 2023~)
NEW第5回:世界の先生の働き方とキャリアから日本を振り返るーアメリカを手がかりにー
日時:2023年8月5日(土)9:00am-10:00am
講演者:高岡加絵 さん(公立学校教諭として15年間(うち1年はアメリカの公立高校)勤務され、現在はミネソタ大学大学院博士課程に在籍されています。)
申込先:https://forms.gle/8mGaCuZwbge24Zmi7
チラシ:こちらをご覧ください。
NEW第4回:中国の先生の働き方とキャリア
日時:2023年7月29日(土)10:00am-11:00am
講演者:鄧絹 さん(北海道大学大学院を修了後、中国湖南省の普通科高等学校において日本語教師として3年間勤務。現在は一般行政職として働いておられます。)
申込先:https://forms.gle/r65Wm3rxKVNwtCre6
チラシ:こちらをご覧ください。
第3回:オーストラリアの先生の働き方とキャリア
日時:2023年7月7日(金)19:00pm-20:00pm
講演者:紙谷 淳子 さん(日本で教師を経験した後にオーストラリアに移住され、その後小学校に勤務し、現在は日本語を教えられています。)
申込先:https://forms.gle/D8KUqQsGdivxPMKT9
チラシ:こちらをご覧ください。
第2回:デンマークの先生の働き方とキャリア
日時:2023年6月30日(金)19:00pm-20:00pm
講演者:ピーターセン海老原さやか さん(日本で教師を経験した後にデンマークに移住され、現在は、特別支援学校に勤務されています。)
申込先:https://forms.gle/z7NXenrVya1Yqmdu8
チラシ:こちらをご覧ください。
第1回:アメリカ合衆国の先生の働き方とキャリア
日時:2023年6月24日(土)9:00am-10:00am
講演者:Kana Wong さん(ネバダ州で小学校の先生として勤務された後に、現在はカリフォルニア州にあるリーチ大学で教師教育に従事されています。)
申込先:https://forms.gle/4E1vHetMiPotKncu6
チラシ:こちらをご覧ください。
Seminer " How the Professional Standard of Teacher Should be? - An Analysis of Washington State's Case - " (March 11, 2023)
開催報告については、以下の広島大学EVRI(教育ヴィジョン研究センター)のホームページをご確認ください。
2022年
Panel Session at 32nd Annual Conference "The Issue of Teacher Shortage in the World: Inquiring the Foundation for Further Discussion" (September 18, 2022)
第11期の課題研究Ⅲ部(国際比較・交流)は、多様な教職ルート(教壇に立つためのルート)に焦点を当てて、国際比較研究を進めています。第31回大会では、アメリカ・ノルウェー・中国・ドイツの多様な教職ルートの実態を議論しました。その中で、各国に共通する背景として教員不足の問題が浮かび上がってきました。わが国でも、2022年1月に教員不足に関する調査結果(文部科学省)が示され、その内容をめぐって様々な議論が展開されています。しかし、一言で「教員不足」と言っても、何をもって「不足」としているのかという点において共通理解が曖昧であるために、論点が錯綜しているようにも見えます。教員不足は、教員定数に対する量的な問題なのでしょうか。そうではなく、普通免許状を有していない教員が数多く配置されているという問題なのでしょうか。こうした教員不足を議論するための足場をある程度固めた上で、教職ルートの多様化を含めた具体的な方策のあり方を検討する必要があると考えます。そこで本課題研究では、教員不足に対する問題認識が各国・地域によってどのように異なっているのか(もしくは共通しているのか)を明らかにしていきます。そして、国際比較分析を通して、教員不足を議論するための足場を検討していきます。
司会:
佐藤仁(福岡大学)、矢野博之(大妻女子大学)
登壇者:
国際動向および日本:佐藤仁(福岡大学)、原北祥吾(崇城大学)
オーストラリア:伊井義人(大阪公立大学)
イギリス:植田みどり(国立教育政策研究所)*非会員
指定討論:
辻野けんま(大阪公立大学)
*開催報告については、日本教師教育学会年報第32号(2023)をご覧ください。
International Seminar "The Popularity of Teaching Profession and Its Reality in Finland" (August 30, 2022)
開催趣旨:
日本教師教育学会課題研究Ⅲ部では、本年度、「諸外国の教員不足を考える」をテーマに連続セミナーを企画し、教員不足の背景や対応といった課題を国際比較の観点から考えています。第2回目は、フィンランドに焦点を当てます。周知のとおり、フィンランドでは教職の人気が高く、教員不足が問題視されることはほとんどありません。その教職人気の背景には、社会的地位(修士号が必要)、職業的安定性、学校の働きやすさ、教育に対する社会の関心といった、様々な要因が複雑に絡み合った構造があります。他方で、2022年4月に教師による大規模なストライキが行われており、学校現場の実態に揺らぎが見られます。そこで、本セミナーでは、フィンランドの2名の研究者を招き、フィンランドの教職人気の構造的な特質と学校現場の実態を報告していただきます。
報告者:
「What makes teacher education attractive in Finland?」 Jari Lavonen(ヘルシンキ大学・教授)
「今日のフィンランド教員の現在地:トレンドと課題」 矢田 匠(フィンランド国立教育研究所・博士研究員)
チラシ:
開催報告:
Lavonen氏からは、なぜフィンランドでは教職という仕事、そして教員養成プログラムの人気が高いのかということに対して、多様な角度から説明いただきました。例えば、教員養成のカリキュラムという観点からは、研究に基づく教師教育という理念が共有されており、教育学部と理学部等の協働による修士レベルのプログラムの存在や、ヘルシンキ大学を事例とした実践的教育(教育実習等)やカリキュラムの工夫が紹介されました。また、教師が働く環境として、「firendly」という特徴を挙げて、教師の自律性が尊重されていることや、教師間や保護者との協働の存在が指摘されました。他方で、課題としては、教師間の協働には改善の余地があることや、継続的学習の充実といった点が挙げられました。次に、矢田氏からは、フィンランド全体の文化的側面を前提に、教師の実態に関して、特に学校組織論と教師のキャリアの二点から説明がありました。まずフィンランドの文化的側面として、合理性、個人の選択の尊重、権力との距離の近さが挙げられました。それをベースに、教員のキャリアが流動的であることの具体例が示されました。例えば、教員になった後に、一度教職を離れて、民間企業や大学での経験を積んで、また教職に復帰するケースや、一度校長になってから、大学での研究を進め、現場の教員として学校に復帰する事例などが挙げられ、多様な教職キャリアの姿が示されました。フィンランドの教員が抱えている課題としては、協働の文化醸成の必要性に加え、賃上げとウェルビーングを背景としたストライキの事例を通して、雇用問題も挙げられました。ディスカッションでは、フロアーからの質問を踏まえながら、教師の自律性の確保をどうするのか、フィンランドの事例から一般化できるものをどう学べるのか、協働の充実をどうするのか、といった論点に関して議論が進みました。
Seminar "The Background of Teacher Supply and Demand in South Korea: Focusing on the Historical Overview of Teacher Preparation System" (June 11, 2022)
開催趣旨:
わが国では、2022年に入って、教員不足の問題が国の議論としてクローズアップされてきました。しかし、諸外国・地域に目を向ければ、教員不足は新しい問題ではなく、教員政策の中心的なテーマとして存在してきました。そこで、日本教師教育学会課題研究Ⅲ部では、本年度、「諸外国の教員不足を考える」をテーマに連続セミナーを企画し、教員不足の背景や対応といった課題を国際比較の観点から考えてみたいと思います。第1回目は、韓国に焦点を当てます。韓国は、世界的な潮流とは異なり、教員不足が問題になっていない国の一つとされています。その背景には、給与や職業としての安定性を特徴とする教職の社会的地位が挙げられますが、他方で教員養成機関の選抜度の高さや計画養成といった教員養成制度の観点も無視することはできません。こうした韓国の教員養成制度を理解するためには、どのような経緯から現在に至っているのかという、歴史的連続性や経路依存性を踏まえることが重要です。そこで、本セミナーでは現在、「教員養成の理念と制度に関する日韓比較史研究」(科研・基盤C)に取り組んでいる2名による報告を踏まえ、「韓国ではなぜ教員不足が問題になっていないのか」という点に関して、特に教員養成制度の歴史的展開を紐解くことで検討していきたいと思います。
報告者:
「韓国における教員養成前史と教員不足問題-植民地期の実態」 山下 達也(明治大学)
「韓国ではなぜ教員不足が問題になっていないのか―教員政策をめぐる論点」 田中 光晴(文部科学省/国立教育政策研究所フェロー)
開催報告:
まず山下氏からは、植民地期における教員養成制度の内実について、当時の教員確保のルートである①朝鮮での養成、②教員試験、③日本「内地」からの招聘の三つの仕組みの説明がありました。その背景として、初等教育の普及・拡大に伴う、教員需要の高まりが挙げられました。ただし、3つのルートを通しても、教員不足が解消されないまま、1940年代には教員不足が深刻化していくことになります。山下氏の報告を受けて、次に田中氏から現代に至るまでの教員の需要と供給の状況(制度・政策を含む)が報告されました。大きく時期を4つに分け、第二次世界大戦終了後からの児童数増加による教員不足の状況、1970年代からの児童数減少による教員の過剰供給の状況、1990年代の児童数減少と公務員改革による教員の供給不足および供給の調整方策の展開、そして2010年代以降の児童数減少と公務員改革による教員の供給調整という流れが示されました。その上で、現在の状況について、教員養成機関(大学)への入学における競争の存在、教員の労働環境改善、専門性向上の機会の確保といった方策を背景に、教員不足が生じていない点が指摘されました。ディスカッションでは、教員の需要と供給へのインパクトとしての公務員改革といった外的要因、教員志願者数の維持を支える「働きやすい環境」の実態、韓国の大学院における教師教育の内実、教員養成に対する国コントロールといった点に関する質問が出されました。特に、実態に関しては、東京韓国教育院の河光民院長にお話しいただくことで、より詳細な情報を共有することができました。
2021年
Panel Session at JSSTE 31st Annual Conference "The Various Aspects of Alternative Pathways to Teaching in the World" (October 3, 2021)
日本教師教育学会第31回大会の課題研究において、Ⅲ部のテーマである「多様な教職ルートの構造と実態に関する国際比較研究」に関し、1年目の研究成果としてまずは諸外国の多様な教職ルートの諸相を比較検討しました。以下、4つの報告をベースに議論を進めました。ディスカッションでは、各国において教職ルートが多様化する背景として、教員不足による人材確保の必要性や、教師教育の高度化の一方で多様な人材を惹きつける目的等があることが指摘されました。
・「アメリカ合衆国における多様な教職ルートの現状と課題」小野瀬善行(宇都宮大学)
・「ノルウェーにおける教員養成の高度化と多様化」中田麗子(信州大学)
・「中国における「特職教師」政策の実施背景と現状について―農村地域における教員不足の問題に着目して―」張揚(北海道大学)
・「ドイツにおける教師教育の変容ー難民の教員養成からの示唆ー」辻野けんま(大阪市立大学)
*開催報告については、日本教師教育学会年報第31号(2022)をご覧ください。
Seminar "Thinking the Future of Comparative Study and International Exchange in JSSTE" ( March 29, 2021)
本公開研究会では、第11期(2020-2023)の「国際比較・交流」をどのように進めていくのか、ということを議論するために、これまでの日本教師教育学会の国際比較研究や国際交流活動を振り返り、今後の方向性を検討することを目的として、以下の3つの報告をベースに議論を進めました。報告の後は、フロアーとの質疑応答を交えながら、国際比較研究の対象国の拡大や国際交流活動の充実(セミナー等の充実)といった論点が出されました。
・「日本教師教育学会における国際比較研究の動向と特徴:大会発表および『日本教師教育学会年報』の分析から」渡邉晶帆(福岡大学大学院・院生)
・「国際研究交流部・第10期報告:学会としての国際研究交流の現在とこれから」矢野博之(大妻女子大学)
・「国際比較研究・国際交流の今後の可能性:『教師教育研究ハンドブック』と諸外国におけるハンドブックの比較分析から」佐藤仁(福岡大学)