『貨幣をめぐる政治力学と経済理論:内生的貨幣供給説の意義と課題』
ドルを基軸通貨とするシステムの絶対性が,アメリカ合衆国の孤立志向、金の高騰,地域通貨や暗号資産のような多様な貨幣の登場などによって問い直されている。そのような今日の状況において,経済理論は貨幣をどのように捉え,歴史的視野の深みから現状の問題点を剔抉し,未来の社会についてその構想を示しうるのか。本共通論題は,貨幣をめぐる政治力学と経済理論を内生的貨幣供給説の意義と課題という側面に焦点を当てて議論するものとしたい。
貨幣の起源は歴史的に債権債務関係からであり,現物の同時的直接交換を起源に置くのはフィクションである,という見方が広がってきている。これは貨幣供給をめぐって外生説を批判する角度から内生説に基づき論じられていることが多い。そこで経済理論の側として,債権債務関係における貨幣の役割についてどのように説かれるべきか,この点を論ずる必要がある。
このような議論においては,債権債務の決済において現金を介しないものが念頭に置かれる。しかし,その際に利用される貨幣はいかにして定められるのか。国内決済については中央銀行制度の成立,国際決済については金本位制ないし基軸通貨制度の成立を重要な契機とみなすのが通例であろう。
しかし,前者について歴史的にみると各国・各地域においてその成立過程は様々であり,そこには政治的な権力関係の介在もあって,純粋な経済法則に基づくものとして理論化することは極めて難解な作業となっている。ましてや,後者に至っては国際政治の力学が関係しており,純粋に中立な貨幣の想定は不可能となっているようにみえる。
ただ,一方で債権債務を伴う交易における貨幣の設定は,経済的にみて必要不可欠なものであるからこそ登場してきたものであり,単なる政治力学に還元されるべきものではない。そのことは,貨幣の供給量の決定に関して,外生的に捉える見方に対して提示された内生的な見方の重要性を強調する議論もありうるだろう。そして,決済処理機構の成立過程を経済理論的に説くことによって,集中的な決済処理機構の成立やその特定権力による支配を必然視する見方から逃れた,新たな経済システムの構想を立てることも可能になりうる。
以上の点に鑑み,貨幣をめぐる政治力学の歴史と現状を考慮に入れて,これまでの経済学的貨幣論において主柱の一つをなしてきた内生的貨幣供給説の成果がいかなる意義と課題を有しているのかというテーマを,将来の経済システムの構想も視野に入れつつ議論するのが今回の目的である。
以上の趣旨にご賛同いただき,自薦・他薦を問わず,会員の皆様による報告者の積極的なご推薦をお待ち申し上げます。
第74回大会組織委員会