2026年3月11日(水) 東京大学本郷キャンパス C 会場(工学部6号館セミナー室AD)
第1セッション(9:20-10:40) 座長: 木村巌(富山大学)
On Diophantine Equation A^4+B^4+C^4=2n^2D^4
〇中尾寿康(元富士通株式会社)
平方因子を持たない正整数nに対して、Diophantine Equation A^4+B^4+C^4 = 2*n^2*D^4 の整数解(A,B,C,D)で、0<A≦B≦C, gcd(A,B,C,D)=1 となるものを求めたい. Noam Elkiesの論文[1]からヒントを得て、平方因子を持たない正整数n≦200でgcd(n,290)=1を満たすnで、これまで整数解が見つかっていなかった n=33,41,47,51,59,69,77,83,89,101,119,123,137,141,149,159,161,173,179,187,197 について、それぞれ無数の整数解を見つけることに成功したので、その方法を紹介する. 例えば、n=41のとき、92988^4+185585^4+200711^4=3362*30433^4, 35401855^4+40865628^4+53562031^4=3362*7822733^4, ... (References [1]Noam Elkies, "On A^4+B^4+C^4=D^4", Math Comp. 51(184), 824-835,1988).
クリフォード代数によるKaniの定理の拡張
〇守谷共起(三菱電機・情報技術総合研究所)
Kaniの定理は、4つのg次元アーベル多様体から構成される可換図式から2g 次元の同種写像を明示的に構成する定理である。本定理は同種写像暗号において重要な定理であり、安全性解析やプロトコルの構成への応用が知られている。本講演では、この Kaniの定理をクリフォード代数の理論に基づき一般化する新たな枠組みについて述べる。具体的には、2^(n+1)個のアーベル多様体から成る(n+1)次元立体型の可換図式から、2^n*g次元の同種写像を構成する方法を明示的に与える。
多変数多項式列のジェネリック性に関する予想の新たな判定法について
〇工藤桃成(福岡工業大学情報工学部), 横山和弘(立教大学理学部)
多変数多項式系の求解計算量を評価することは,計算代数をはじめ,暗号理論などの応用分野においても重要な課題である.一般には多変数多項式系の求解計算量を精緻に評価することは非常に難しいが,入力多項式列の半正則性や付随する先頭項イデアルの弱逆辞書式(weakly reverse lexicographic)性を仮定することで,グレブナー基底計算やXLといった求解法の計算量をある程度は評価できる場合がある.これらの仮定は,半正則性や弱逆辞書式性などの性質がジェネリックに成り立つという,可換代数・代数幾何における未解決予想(Froberg予想,Moreno-Socias予想など)に基づいている. 本講演では,パラメトリックグレブナー基底の理論を応用することで,そのような未解決予想が正しいか否かの新たな判定法を与える.さらに,その新たな判定法の証明と同様の議論によって,入力多項式列に付随する剰余環のクルル次元が1の場合における類似の予想に対する判定法も与える.時間があれば,我々の判定法を用いた計算機実験によってこれらの予想が正しいことが示された事例についても紹介したい.
種数4の超特別曲線は標数11以上10^6未満において存在する
〇大橋亮(東京大学大学院情報理工学系研究科)
超特別曲線は数論や代数幾何学における重要な研究対象の一つだが、種数g>3の超特別曲線が有限個の標数を除いて存在するか否かは未解決である。この問題に対する計算機を用いたアプローチとして、工藤-原下-Howe (2020)は種数4の超特別曲線が7 < p < 20000の範囲の標数において存在することを示した。彼らの手法はHowe曲線と呼ばれる特定のクラスの曲線に対象を限定し、その超特別性を種数2以下の曲線の超特別性に帰着させることにより、種数4の超特別曲線を構成するものであった。本講演では、さらに特殊な曲線のクラスとして、ヤコビ多様体がある楕円曲線4つの積に分解するようなHowe曲線に注目する。このような曲線に対象を制限することで、その超特別性は楕円曲線の超特異性のみに帰着されるため、工藤-原下-Howeの手法よりも効率的に種数4の超特別曲線を構成することが可能となる。主結果として、このような超特別曲線が20000 < p < 10^6の範囲の標数において存在することを計算機を用いて確認した。また、時間が許せば、種数5および種数6の超特別曲線の存在性についても議論する。
第2セッション(11:10-12:30) 座長: 青木 美穂(島根大学)
トーションパケットを用いた代数曲線の有理点の決定について
〇市川遼(東北大学大学院理学研究科数学専攻)
有理数体上の非特異滑らかな代数曲線の有理点を決定する問題は数論・数論幾何において重要な問題である。Coleman (1985), Stoll (2006), KatzとZureick-Brown (2013)はある条件下で有理点の個数の上限を与えた. 彼らの手法はColemanのp進積分に基づいている. この講演ではこれらの手法を用いないトーションパケットを用いた初等的手法を紹介する. また, この手法が適用できる代数曲線の例も紹介する.
Numerical Evaluation of the Kubota-Leopoldt p-adic L-Function at Positive Integers
○梅田京汰(富山大学理工学研究科), 木村巌(富山大学学術研究部理学系)
Kubota-Leopoldtのp進L関数は,DirichletのL関数の非正整数点での値(それらは一般化Bernoulli数で与えられる)をp進的に補間するp進有理型関数であり,Kubota-Leopoldtにより1964年に導入された.Kubota-Leopoldtのp進L関数の正の整数点での値は,ごく限られた場合に無理性が証明され,また,p進Beilinson予想などでその重要性が予想されているものの,未解明の点が多い.本講演では,いくつかの方法,特にJ. Diamondの公式に基づいた正の整数点での値の数値計算の結果と,主に2での値についての観察を報告する.
新たに定義したCHL圏に関する数値計算的知見と構造的予想 ― 一般化Collatz問題への応用 ―
◯藤井大輔(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
本発表では、発表者が博士論文において新たに導入したCHL圏について、数値計算に基づいて観察された性質と、それにより得られた構造的予想を紹介する。CHL圏は、Collatz予想のHasseによる一般化とLagariasの局所化の手法を統合的に記述するために定義された圏であり、一般化Collatz写像を大域体の整数環上で統一的に扱う枠組みを与える。本発表では、この新たな圏構造に対して、具体的な代数体および関数体の場合に数値実験を行い、射や分解の振る舞いに関する経験的事実を整理する。これらの観察結果から導かれる構造予想を提示するとともに、その一部について得られている部分的な結果を述べ、博士論文全体における本研究の位置づけを明確にする。
数論電卓NZMATHによる離散対数表
〇田中覚 (東京都立産業技術高等専門学校), 中村憲(東京都立大学)
NZMATHはPythonによる数論ソフトである. 最新の実装では 素数pを法とした原始根の計算に, 既存のp-1の素因数分解を用いる方法以外に, 定義に従う方法, Lagrangeの定理を援用する方法等を実装し, 付録としてp<1000000までの素数原始根表を作成した. 次に指数表(離散対数表)の作成を試みた. その表の性格から離散対数表の時間計算量は法pに従うが, 法pが十分小さくても領域計算量は無視できないほど大きくなる. そこで, 実際の表はp<2000までの収録とし, 生成アルゴリズムそのものも表として提供することとした. またENTTAKAGIで数論算法入門ノートを記述する中で判明した既存のNZMATHの修整や機能向上した事項について本発表で幾つか紹介する.
第3セッション(13:50-15:10) 座長: 小貫啓史(東京大学)
UOVに対するKipnis-Shamir攻撃と特異点攻撃の関係性について
〇稲川佳汰(東京都立大学大学院), 鈴木俊博(東京都立大学大学院), 伊藤琢真(情報通信研究機構), 内山成憲(東京都立大学)
現在、量子計算機を用いた攻撃に対しても安全性を保持する耐量子計算機暗号の研究が進められており、その中の1つにMQ問題(多変数二次多項式問題)の困難性に基づくUOV署名方式がある。この方式は、構造の単純さと署名効率の良さから代表的な署名方式として注目されている。本講演では、UOV署名方式に対する代表的な鍵復元攻撃である、Kipnis-Shamir攻撃と特異点攻撃の関係性について予想を立て、実験を通して考察を行った結果、およびこの予想が成り立つと仮定した上でKipnis-Shamir攻撃の改良を行ったことについて述べる。
DES暗号とAES暗号の安全性の統計的検証
○藤井里恵(お茶の水女子大学大学院), 古川早紀(東洋英和女学院中学部高等部), 萩田真理子(お茶の水女子大学)
本講演では、暗号アルゴリズムの統計的性質に着目し、類似した平文集合を AES 暗号および DES 暗号で変換した際に得られる χ^2 値の挙動を比較・検討した結果を紹介する。AES では特定の条件下で χ^2 値が 0 となる現象が確認されており、これは暗号内部の構造的特徴と関係していることを示した。また、構造の異なる暗号方式である DES については同様の統計的現象が生じないことを数値実験により検証した。さらに、初期転置や鍵スケジュールといった要素を変更した場合の影響を調べ、どの構成要素が統計的性質に寄与しているかを比較した。χ^2 値は分布の偏りを検出する指標であり、値が大きい場合には暗号の安全性が低いことを示唆するが、値が小さい場合でも安全性が保証されるわけではない。本発表では、この点を踏まえて χ^2 値による評価の位置づけを考察する。
超特異アーベル曲面間の(2,2)-同種写像グラフにおけるgood extension辺による連結性判定アルゴリズム
〇井上雅大(東京大学工学部), 大橋亮(東京大学大学院情報理工学系研究科), 高木剛(東京大学大学院情報理工学系研究科)
超特別(or 超特異かつ非超特別)なアーベル曲面間の(2,2)-同種写像グラフに基づいた暗号学的ハッシュ関数が提案されている. これらの同種写像グラフは15-正則かつ連結であり, 頂点数Nは基礎体の標数pに対してO(p^3)(or O(p^6))である. 入力に応じてグラフ上の辺を疑似ランダムウォークすることでハッシュ関数は構成されるが, そこでの衝突の原因となるサイクルを回避するため, 各ステップでgood extensionと呼ばれる8本の辺のみが選択される. このように辺の選択を制限した上で, 各グラフ上で任意の頂点から任意の頂点へ到達可能であることが予想されているが, 未証明である. ここで, 予想を確かめる基本的な方法としては, N通りの始点から全ての頂点へgood extensionパスで到達可能なことを幅優先探索で確かめるO(N^2)のアルゴリズムが考えられる. 一方, 本研究ではgood extensionグラフという新たなグラフを定義し, 上記の予想をO(N)の計算量で確かめるアルゴリズムを提案する. これらのアルゴリズムをRustを用いて標準的なPCを用いて実装したところ, 現時点で超特別な場合, 3089以下の素数pについて判定でき, p=3089付近では約5h要した.
2次元同種写像を用いた耐量子安全なコミットメントスキームの構成
〇松浦栄亮(情報セキュリティ大学院大学), 黒澤敦(情報セキュリティ大学院大学), 有田正剛(情報セキュリティ大学院大学)
量子計算機開発の発展により、RSA暗号や楕円曲線暗号の安全性が低下する将来を見据え、耐量子性を持つ同種写像ベースのコミットメントスキームを提案する。コミットメントスキームとは電子投票やブロックチェーンなどに活用される暗号プリミティブであり、同種写像ベースのコミットメントスキームの先行研究として、CGLハッシュ関数を利用したスキームが提案されている. しかし, 当該スキームは同種写像計算の回数がメッセージ長に比例して増え、開始曲線の生成にTrusted Setupを必要とする, あるいは衝突を起こしにくい特定の曲線を指定するなどの制約が必要だった。そこで、本研究ではKaniの補題に基づく2次元同種写像を用いて、Smoothでない次数でも効率的に表現・評価できる利点を活かし、さらにDeuring対応により次数にメッセージを埋め込む設計をした。また安全性要件を満たすために、トーション点の利用でプロトコルを調整し、結果として自己準同型環が既知な開始曲線を用いてもTrusted Setupを必要としない、新たな同種写像ベースのコミットメントスキームを構成した。
○ は登壇者
日本応用数理学会「数論アルゴリズムとその応用」(JANT)