日本基礎心理学会
若手研究者特別委員会

若手会について

基礎心若手会は、日本基礎心理学会に所属する若手の研究・教育活動や交流の支援を目的に2013年12月に設立された組織です。現在42歳以下の有志学会員11名で構成されています。若手会の活動理念は、「若手の研究・教育を促進する活動に取り組み、基礎心理学分野全体の競争力の向上に貢献」することで、柔らかい言葉で言えば「若手の得になるようなことをやろう」ということになります。

Twitter アカウント  @JPS_Wakate

【現メンバー】

2023年度のメンバーは有賀敦紀(中央大)、磯村朋子(名古屋大)、板口典弘(慶應大)*、今泉修(お茶の水女子大)、大北碧(甲南女子大)、温文(立教大)、小林恵(新潟大)、三枝千尋(花王)**、佐々木恭志郎(関西大)、佐藤弘美(千葉大)、中山遼平(東京大)、日高聡太(上智大)**、山田祐樹(九州大)、村井祐基(情報通信研究機構)、山本寿子(立命館大)です。また、若手会担当理事である石金浩史(専修大)の手厚いサポートを受けています。[**委員長、*副委員長 2021年12月〜]


【旧メンバー】

北川智利(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)[2013年度〜2016年度]

和田有史(立命館大)[2013年度〜2017年度]

原澤賢充(NHK技研)[2013年度〜2017年度]

小川洋和(関西学院大)[2014年度〜2018年度]

四本裕子(東京大)[2013年度〜2018年度]

牛谷智一(千葉大)[2015年度〜2019年度]

田谷修一郎(慶應義塾大)[2013年度〜2019年度]

市川寛子(東京理科大)[2016年度〜2020年度]

伊村知子(日本女子大)[2019年度〜2020年度]

白井述(新潟大)[2013~2021年度]

丹野貴行(明星大)[2018~2021年度]

※所属は委員最終年度のものです


活動報告

毎年開催される基礎心理学会の大会におけるサテライトオーラルセッションの運営・開催に加え,若手の進路指導調査や基礎心理学研究室を結ぶポータルサイトの開発・運営を行っております。詳しくは本ホームページおよび基礎心理学研究誌に掲載されました以下の活動報告に関する紹介記事をご参照ください。   

和田有史. (2015). 「若手研究者特別委員会」 の発足とその活動—第 33 回大会サテライトオーラルセッションを中心に—. 「基礎心理学研究, 34(1), 173-175.

四本裕子. (2015). 若手研究者特別委員会による博士号取得者進路調査. 「基礎心理学研究, 34(1), 176-179.

和田有史. (2016). 2015年度の 「若手研究者特別委員会」 の活動. 「基礎心理学研究, 34(2), 286-289.

田谷修一郎. (2017). 2016年度 「若手研究者特別委員会」 の活動. 「基礎心理学研究, 35(2), 178-182.

田谷修一郎. (2018). 企業が心理学に期待するもの,心理学が企業に貢献できること. 「基礎心理学研究, 36(2), 43-50.

山田祐樹. (2018). 2017年度 「若手研究者特別委員会」 の活動. 「基礎心理学研究, 36(2), 258-182.

Yamada, Y. (2019). Publish but perish regardless in Japan. 「Nature Human Behaviour, 3, 1035.

山田祐樹. (2021). 若手研究者特別委員会のこれまでとこれから. 「基礎心理学研究, 39(2), 213-215.

日高 聡太三枝 千尋. (2023). 若手研究者特別委員会の活動状況. 基礎心理学研究, 41(2), 144-145.


オーラルセッション

日本基礎心理学会に所属する若手に口頭発表を行う機会を与えると同時に、同世代の優れた研究に接する機会を設けることを目的として、2014年から基礎心理学会大会の前日(または初日)にオーラルセッションを行っています。そこで、学位未取得者および学位取得後10年以内の本学会会員を対象に、すでに査読付き学術論文として刊行されている研究とその後の発展についての発表を募集し、若手会のメンバーで審査し、評価の高かった8件をファイナリストとして採択しています。これまでのファイナリストは、修士課程の大学院生から博士研究員、准教授までバラエティに富んでいます。各発表の持ち時間を30分と長めに設定していることが本セッションの特徴で、充実した発表と質疑応答がなされています。聴講者には各発表についてフィードバック用紙の記入を依頼し、発表者にフロアの評価を伝えられるように工夫しています。さらに各聴講者の投票により、もっとも優れた発表を1件のみを選定し「The Young Psychonomic Scientist of the Year」として表彰します(開催回によって名称が変化することもあります)。

オーラルセッション 歴代ファイナリスト

2023年:The Young Psychonomic Scientist of the Year

樋口洋子(理化学研究所脳神経科学研究センター)

「視覚的統計学習の柔軟性」

このたびはThe Young Psychonomic Scientist of the Year 2023という栄えある賞をいただき、誠にありがとうございます。発表した研究をご指導くださいました柴田和久先生と齋木潤先生、いつも的確なご助言をくださる上田祥行さん、ともに研究を進めてくれたEthan Oblakさんに心よりお礼を申し上げます。議論に時間を割いてくださった柴田チームのみなさま、齋木研究室のみなさま、友人たちにも深く感謝をいたします。


私たちを取り巻く外部環境は特定の統計構造を持ち、ある物体や出来事は、似たような場所で似たような順番で現れる傾向にあります。そのような統計構造は気がつかないうちに学習され、私たちの行動を変えます。この学習を統計学習とよびます。今回の発表では、博士課程で行った三つの研究と、ポスドクになってから行った研究をまとめました。これらの知見は次のようなものです。統計学習は無自覚に起きる学習でありながらその獲得過程は柔軟で、外部環境の情報変動、取り組む課題、眼球運動に応じて学習が変わります。さらに、統計学習は時間とともに知らず知らずのうちに柔軟に変化していきます。ちなみに、統計学習の柔軟性を調べることは卒業研究のテーマでもありました。じつに十年以上、しつこく執念深く、このテーマに取り組んでいたことになります。今回、栄誉ある賞を賜ったことにより、長い旅路を歩んできたことが報われました。


私は出産・育児のための研究中断期間を取得しています。自身の体調不良や、子どもが保育園に入れないことが理由で、ほとんど研究が進められない時期もありました。本セッションへの応募の際、「博士号を2018年以降に取得した者」という資格を満たしていなかったのですが、研究中断期間を遡って応募資格者としてご審査いただき、発表の場に立つことができました。委員の先生方の柔軟なご対応に心よりお礼を申し上げます。数年ぶりに現地の学会で発表をし、みなさまと議論させていただくなかで、私は昔の自分と再会したように感じていました。すっかり忘れていたけれど私はとてもおしゃべりな性格で、自分の研究について話すことと、多くの方と議論することに喜びを感じる人間であったのだと思い出すことができました。「この場所に戻ってくることができた」という安心感、嬉しさを味わった経験は、今後の教育活動と社会貢献活動において必ず活かすことができると考えています。


現在も研究と育児を両立すべく奮闘中ですが、自分や後進たちが両方に楽しく邁進できるための道をこれからの研究生活の中で切り拓いていきます。そして、私はいつまでも自分自身で実験をして、しつこく執念深く、大事だと思うことを追究し続ける人間でありたいと思います。スーパーバイザーの柴田先生、齋木先生が自ら実験をしていらした背中を、私は決して忘れることはありません。 

ファイナリスト

竹林ひかり「局所方位統合の効率性」

近藤亮太「バーチャル身体の左右分裂による自己位置の拡張」

鎌谷美希「視覚的経験が遮蔽顔の認知に及ぼす影響」

岡崎聡「聴覚の時間感覚系解明のための等同時性曲線の導出」

向井香瑛「運動の自動模倣傾向の非線形な発達」

小林穂波「視覚採餌における最適意思決定と探索経験の影響」

綾瀬泉「自分の顔に自信が持てないのはなぜか?──顔不満足感の高い者における自己・他者顔の目の大きさ認知──」

佐良土晟「顔カテゴリー変化による知覚時間の伸長」

2022年:The Young Psychonomic Scientist of the Year

中村友哉(東京大学)

「傾き対比現象における閾上の見えの時間的形成過程」

この度は、The Young Psychonomic Scientist of the Year 2022という大変光栄な賞を賜り、ありがとうございます。若手研究者として抱いていた夢のひとつが叶って言葉にならないほどの喜びを感じています。久しぶりの対面開催ということで、貴重な機会をご準備いただいた若手の会の皆様に感謝申し上げます。

私が知覚心理学に興味をもったのは、意識の科学的研究として一定の地位を確立しており、かつ厳密でロバストな実験法・測定法を有している分野だと思ったからです。近年は意識研究においても神経科学的な方法論に基づく成果が増えていますが、そんな中だからこそむしろ、意識に上る現象そのものを重んじつつそれを心理物理学的に記述する必要性は際立つように感じています。

本大会で発表した研究も元をたどれば神経科学(とくにサルの電気生理学)の研究から着想を得ました。意識を生み出す過程を追跡したいときに、心理学は最終的な行動出力のみに頼らざるを得ないのに対し、神経科学は出力に至るまでの表象の変化を直接測定できるという利点があります。一方で、そのダイナミクスが結局意識とどう結びついているのか、意識にとってアクセス可能であるかは、心理学を使ってヒトの実験参加者に意識内容を何らかの形で報告してもらわない限り分かりません。このジレンマと格闘した結果、心理学的方法で無理やり変化途中の表象にアクセスするという考えにたどり着きました。とはいえ、まだまだ意識を生み出す過程という大きな問題にとっては小さな小さな一歩と言わざるをえません。諦めることなくこれからも研究を着実に前に進めていきたいと思っております。

最後に、学部生の頃から長きにわたってお世話になっている指導教員の村上郁也教授にこの場を借りて感謝申し上げます。実験の組み立て方から論文執筆、学会発表といった研究のいろはを全てご教授くださりました。また、同じく東京大学村上研究室の皆様にも、本研究に関する議論にとても長い時間を割いていただいたことを感謝いたします。皆様のご助力なしでは到底受賞できませんでした。今後も、自分の面白いと思ったことを徹底的に追究していきながらも、基礎心理学研究の発展に貢献できるように精進してまいります。

ファイナリスト

小林勇輝「マルコフ確率場を用いた明度知覚モデルを改良する - 単純な仮定による明度錯視予測性能の向上 -」

田中拓海「課題非関連な感覚フィードバックが反応を促進するメカニズム」

女川 亮司「選ばないことは難しい:複数の選択肢がある中での時間制約下での意思決定」

宇野究人「視聴覚入力の時間統合における感覚間協応の役割」

米満文哉「“不気味の谷”越えが生む陥穽:顔アイデンティティが重複した集団への印象形成とその関連要因の検討」

2021年: The Best Online Presenter

(2021年も「オンライン若手セッション」としてオンライン上で実施しました)

村井祐基(カリフォルニア大学バークレー校)

「世界の「いま」が本当に見えているのか ―事前情報に基づく知覚の安定化―」

この度はオンライン若手セッションの最優秀賞に選んでいただきありがとうございました。発表動画をご視聴いただいた皆さま、困難な状況の中オンラインセッションを開催していただいた若手委員会の先生方に心から感謝申し上げます。また素晴らしい研究の数々を発表された他のファイナリストの皆さんには大きな刺激を受け、改めて研究への意欲が湧いてきました。ありがとうございました。

動画でのトークが初めてということもあり右も左もわからない状態でしたが、質疑がない分丁寧に、多様な背景をもつオーディエンスを意識してお話をしたつもりです。ただ少し抑制的すぎた気もしています。リアルタイムに相手の顔が見える通常の学会を懐かしく思う気持ちもありつつ、オンライン学会の利点も理解でき、今後の学会や発表のあり方がどうなってゆくのか、一研究者として期待と不安の両方をかかえています。

さて私が視覚研究に興味を持ったのは、「見る」ということを不思議に感じた素朴な体験からでした。例えばメガネをかけはじめた子どもの頃、はっきり見えているメガネのフレームの中の世界が、ほんとうにきちんとその外にも広がっているのか不安に感じた時期がありました。あるいは私たちは背中のうしろ側は見えていないわけですが、今見ている世界がきちんと視野の外にも広がっていると思っています。つまり、われわれが日々見て感じているものは、周囲にひろがる広大な四次元世界という海のなかにぽつぽつと点在する浮島のようなものに過ぎません。にも関わらず、私たちは決して一度に認識することのできないどこまでも広がる連続して一貫した世界の存在をみな信じています。この知覚体験と世界についての「信念」の間のギャップをどう埋めるのか、それはもちろん知覚だけの問題ではなく、記憶や、学習や、生得的に獲得している認知様式が組み合わさって成立する、生存に適応的な緻密で複雑なシステムなわけです。今回の発表は、私たちの視覚系は過去の経験と整合性がつくように現在の知覚を柔軟に変化させている、という内容でしたが、これは私たちの脳が過去と現在は連続しているのだという信念をもとに、今ここに存在する知覚を能動的に組み替えていくひとつの計算理論なのだと思っています。

今回の受賞は、UCバークレーのWhitney先生はじめ研究室のみなさんや、博士の頃渡米を勧めていただいた東大の四本先生、いつも快く背中を押してくださる阪大の北澤先生など多くの方のサポートがあってのことです。様々な出会いに感謝し、また受賞の責任を感じながら、これからも自分が楽しめそしてみなさんにも興味を持っていただける、そんな研究を続けていければと思っています。

ファイナリスト

前澤知輝「空間更新課題における視聴覚作業記憶の共通性」

二瓶正登「恐怖条件づけのデータを用いた連合学習モデルの定量的評価」

立花良 「VR実験における視聴覚刺激呈示の正確性と精度:方法論研究からの再現性向上」

鶴見周摩「注意の瞬きは生後1歳未満の乳児でも生じる」

女川亮司「複数の潜在的目標が存在する状況での運動制御の柔軟性」

近藤亮太「スクランブル身体による全身所有感から身体部位所有感の分離」

2020年:The Best Online Presenter

(2020年は「オンライン若手セッション」としてオンライン上で実施しました)

中島悠介(中央大学,日本学術振興会)

「視覚運動処理における周辺抑制の初期発達過程」

この度は,オンライン若手セッションの最優秀賞を頂きありがとうございます。ほかのファイナリストの方々が素晴らしい発表をされており,その中から選んでいただいたことを大変光栄に思います。発表動画を視聴していただいた皆様,また,例年とは状況が異なる中,このような場を設けていただいた若手委員会の先生方に感謝申し上げます。

今年はオンライン開催ということで,例年の会場の緊張感を味わえなかったのは残念でしたが,それでもやはりこの若手セッションは特別だと感じました。それは,これほど多くの方々に自分の研究を直接審査してもらうという機会がほかにはないからだと思います。基礎心理学の中でも分野が近い方から遠い方まで,また研究を始めたばかりの学生の方からベテランの先生方までいらっしゃる中,発表を聞いていただいた全員に自分の研究のインパクトが伝わるよう,今の自分ができることをすべて詰め込んで発表動画を作成しました。

今回私が発表したのは乳児の視覚発達についての研究です。私たちには乳児期の記憶がありませんので,その頃の主観的な視覚体験は誰もが経験しているはずですが,どのようなものか知る人はいません。そういう意味で乳児の知覚は未知であり,それを探求すること自体とても興味深いものです。一方,私自身は,もともと成人対象の視覚研究を行っていたこともあり,乳児の知覚の性質を明らかにするだけでなく,そこからより一般的な成人の知覚の理解に寄与できるようにすることを常に心がけています。大きな観点からいうと,乳児研究は知覚システム全般の理解のための一つの手法という位置づけです。例えば,ある機能やメカニズムが“ない”状態を示すことで,“ある”状態では明確でなかったその役割をあぶりだせますし,乳児の神経科学的知見と照らし合わせて,その機能の神経基盤を推測することもできます。知覚認知の研究は,心理学や神経科学などが制約を与え合う形で発展してきましたが,乳児研究もその一端を担っていて,そこに乳児研究の重要な役割があると思います。今回の発表で,成人対象の研究を行っている方々などにも,実は同じような問題を扱っているということがお伝えできたならば幸いです。

今回この賞を頂くことができたのは,研究室の方々のおかげです。山口先生と金沢先生には,いつも丁寧なご指導でサポートをしていただきながら,自由に研究を行わせていただき大変感謝しています。研究室のメンバーにも実験補助,研究の議論から発表練習までいつもお世話になっています。本当にありがとうございます。

この賞を頂いたことに責任を感じながら,これからも心理学の前進に寄与できるような研究を続けていきたいと思います。

ファイナリスト

中山遼平「運動物体の位置の知覚におけるトップダウン注意の役割」

金子沙永「カラフルな世界をもたらす脳活動:定常視覚誘発電位を使った脳内色表現の検討」

岡崎聡 「聴覚の同時性の範囲が周波数次元で従う数式」

川口ゆり「大型類人猿の乳児特徴に対する認知」

小林穂波「Investigating visual attention with statistical modeling: The time course of contextual cueing」

近藤亮太「手足のみの視覚・運動同期による透明身体への所有感生成」

福田実奈「コーヒーの風味が反応時間に及ぼす影響 ー古典的条件づけの役割に着目して」

2019年: The Best Presenter

(2019年は「学生オーラルセッション」として大学院生までのメンバーで実施しました)

鶴見周摩(中央大学)

「高速逐次視覚呈示課題(RSVP)を用いた乳児の顔検出能力の検討」

このたびは学生オーラルセッションのThe Best Presenterに選んでいただきありがとうございます。研究室の先輩方が若手オーラルセッションの場で熱い発表をしているのを見るたびに、いつか自分もこの場で発表したいと思っておりました。今回はその夢が叶い、さらに賞も手にすることができたこと大変光栄に思います。

今回発表させていただいた研究のきっかけは、生まれたばかりの赤ちゃんでも我々大人と同じように目に映る様々な視覚情報を瞬時に処理できているのか疑問に思ったのが始まりです。実験に来る赤ちゃんと遊んでいると、時々彼らが多くのイベントに圧倒されている様子がうかがえます。例えば、人が増えるごとに新しく来た人を凝視したり、おもちゃを複数差し出すとどれに注意すればいいのかきょろきょろと目を動かしたりします。我々は瞬時に必要な情報を選択できますが、まだ赤ちゃんにはそのような高次な能力は備わっていないように感じました。しかし、実際RSVP課題(Rapid serial visual presentation)を用いて実験を行ってみると7-8ヶ月頃の赤ちゃんであれば大人と同じように短時間(100ms)で特定の情報を処理できることがわかりました。7ヶ月以前の赤ちゃんでは困難でしたが、たった1ヶ月経つだけでこれだけの能力に変化があることに驚き、赤ちゃんの発達的変化に魅了されました。言葉が通じない赤ちゃんをみるとどうしても劣っているように感じることが多いかもしれませんが、実際はそうでもないことが多くの研究からわかってきています。赤ちゃんの知覚発達研究からより多くのことを発見して、心理学分野に貢献できればと日々思っています。少しでも乳児期の素晴らしい能力の発達に興味を持っていただけたらとても幸いです。

本研究は決して一人の力では成し遂げられませんでした。研究室の先輩方をはじめ、指導教授の山口先生には計画立案から論文執筆までご指導いただきました。金沢先生とは普段から多くの心理学全般について議論をさせていただいており、そのような議論によって新規性の高い実験に結び付いたと感じています。また、RSVP課題を赤ちゃんでやりたいという無茶な提案にも関わらず親身にご指導いただいた河原先生には感謝しきれません。この場を借りてお礼申し上げます。

これからもインパクトのある研究をしていきたいと思っています。The Best Presenterの名に恥じぬ研究者になるよう努力いたします!

ファイナリスト

前澤知輝「晴眼者の反響定位による標的距離推定と過大/過小推定バイアス」

女川亮司「時間制約に応じた応答方略選択における不確実性回避行動」

米満文哉「なぜ一休さんはクリエイティブなのか―閉眼による創造的思考の促進―」

小林勇輝「上向きの面は暗く見える:上方光源の仮定が明度知覚に及ぼす影響」

藤井香月「鳥類におけるオブジェクトベースの注意の検討」

2018年: The Young Psychonomic Scientist of the Year

高橋康介(中京大学)

「☺は笑っていますか?絵文字の表情認知に関する文化比較研究」

光栄にもThe Young Psychonomic Scientist of the Year 2018を頂くことができました。この研究は私一人では到底実現不可能です。一緒にやってきた島田さん(帝京科学大学)、大石さん(東京外国語大学)、錢さん(九州大学)たち、そして我々の目指すものを理解して拾ってくれた科研費新学術の多元質感知(特にNTT西田さん)、顔身体学、さらにはフィールドワークでお世話になったすべての人のおかげです。本当にありがとうございます。顔身体学の領域代表山口真美先生には、基礎心理学という枠を明らかに飛び出してしまっている我々の活動を今現在でも暖かくサポートして頂いております。大変感謝しています。

基礎心理学会の大会にはこれまで何度も参加しているのですが、主な目的が錯視・錯聴コンテストだったので実は今までは非会員で、今年の春頃にようやく会員になりました。会員になった年に、若手オーラルセッションに出場できる最終年だということを知り(記憶が曖昧ですが、若手オーラルセッションに出場できる最終年だから会員になったというのが正しい因果関係かもしれません)、応募するべきかどうか悩みましたが、最終的にはガッツリ応募しました。おそらく多くの方がご承知の通り、私本人について言えば、若手とみなせるかどうかギリギリということなのですが(実際に会場でも何度もツッコミを頂きましたが・・・)、せっかく出場するからには全力で挑もうと心に決め、トークでは現在の自分が皆様にお伝えできる最大限のことをお伝えしたつもりです。

さて、受賞はとても嬉しいことなのですが、正直に言うと応募の最大のモチベーションは、多くの人に我々の研究活動を知って欲しいというものでした。研究の中身だけでなく、島田さんたちと一緒に築いてきた「フィールド実験」という研究活動そのものについても伝えたい。そういう思いから、若手オーラルセッションの主旨とは多少ずれる発表となってしまったかもしれません。この点は申し訳ありませんでした。そんな発表ではありましたが、私自身が研究活動を心から楽しんでいる姿が少しでも伝わったならとても嬉しいです。

我々の研究はいまだに終りが見えません。タンザニアやカメルーンでは☺がどうして笑って見えないのか、あるいはそもそも☺は顔に見えないのか。逆に言えば、なぜ一部の人には☺がいとも簡単に笑顔に見えてしまうのか。顔認識の根本に関わるこの問題に結論を出すには、今後も相当の研究を必要とするでしょう。 むしろフィールドに行くたびに新しい謎がどんどん生まれるという状況です。このような状況で、仲間たちと一緒に次はどういう手でアプローチしようかとか、実験というものは一体何なんだろうかとか、これは人類学的にも面白いとか、さまざまな(本当に)アツい議論を重ねながら、それでも心から楽しみながら、ゆっくりと研究を進めている最中です。

これからはThe Young Psychonomic Scientist of the Year 2018の名に恥じぬよう、そしていつまでも若々しい気持ち保ちながら、新しいことに挑戦し続けたいと思います。

科研費新学術 多元質感知: http://shitsukan.jp/ISST/

科研費新学術 顔身体学: http://kao-shintai.jp/

ファイナリスト

楊嘉楽「Pre-constancy Vision in Infants」

中島悠介「パブロフ型条件づけを用いた方位残効の座標系の検討」

横山武昌「共同注意現象は空間処理資源を消費せずに生起する」

篠崎淳「視聴覚音声統合における機能的結合への母語の影響」

津田裕之「質感記憶の恒常性」

佐々木恭志郎「不気味の谷の引き金となる潜在的脅威への回避反応」

板口典弘「統合失調症傾向と行為予測障害:運動計算論の観点から」

2017年: The Young Psychonomic Scientist of the Year

武藤拓之(大阪大学)

「身体化された空間的視点取得──運動シミュレーション説の証拠──」

初めて私がこのオーラルセッションに聴衆として参加したのは2016年の冬のことでした。既に査読誌への掲載が決定している自慢の論文を引っ提げてエントリーした気鋭の若手研究者たちの中で,厳しい審査を経て勝ち残った8名のファイナリストのみに登壇が許されたこのセッションが,面白くないはずはありません。研究の質の高さ,作り込まれた分かりやすいプレゼンテーション,会場の真剣な空気,そしてにじみ出る研究への愛。それらはまさしく「基礎心理学者の天下一武道会」と呼ばれるのに相応しいもので,当時博士後期課程1年であった私が受けた衝撃と感銘は今でも鮮明に覚えています。「いつか自分もこの場所で発表したい」と思わずにはいられませんでした。そして2017年の冬,念願叶って私はこの場所に立つことができました。

この憧れの舞台にファイナリストとして登壇できたというだけでも誇らしいことですが,さらにThe Young Psychonomic Scientist of the Year 2017の称号まで頂けたことを大変光栄に思います。カクテルセッションで結果が発表された時には,驚きと嬉しさのあまり震えが止まりませんでした。この場を設けてくださった若手特別委員会の皆様,本気で勝負してくださったファイナリストの皆様,そして真剣に発表を聴いてくださった聴衆の皆様に,この場を借りて感謝申し上げます。聴衆の皆様から頂いた,愛にあふれたコメントの数々は,全てありがたく読ませて頂きました。

今回私が発表した研究は,人が自分とは異なる視点に立って物の見え方を想像する時に,その視点の位置まで自分の身体を移動させるようなイメージを用いているということを実証した研究です。この研究は,私が大学院に進学して最初に着手した研究ですが,論文になるまでの道のりは長く,今年の5月にようやくJournal of Experimental Psychology: Human Perception and Performanceに採択されました。私にとって特に思い入れの強いこの研究がようやく日の目を見るようになったことは感慨深くもありますが,これは私にとって,あくまでも心理学者としての最初の一歩に過ぎません。二歩目,三歩目もしっかり踏み出せるよう,今後とも精進し続けます。

2016年の私のように,今年のオーラルセッションを聴いて,「自分もこの場所で発表したい」と思った人がいれば嬉しく思います。来年も若手の底力を見せてやりましょう。

ファイナリスト

上田竜平「浮気欲求の顕在的・潜在的抑制機構の関係性」

大北碧「イヌにおけるヒト視線の機能の解明」

吉本早苗「視覚的不快感の時間特性」

横山武昌「Appetitive-aversive competition in visual selective attention」

寺尾勘太「Prediction error theory in insects; comparative analyses produce insights for general learning rules」

中山遼平「視覚刺激の意識的検出における加速度情報の役割」

中島亮一「ある空間位置に向き続けた注意はその位置での変化検出処理を促進する」

2016年: The Young Psychonomic Scientist of the Year

林大輔(東京大学)

「知覚される方位を持たない刺激によるコントラスト検出の促進」

この度はThe Young Psychonomic Scientist of the Year 2016に選んでいただき、ありがとうございました。今回発表させていただいた研究は、学部3年生の時に実験を始めてから、博士3年生になるまで実験を積み重ね、ようやく論文化された思い入れの強い研究です。今回でこの研究について対外発表するのも最後であろうと思っていたタイミングで、このような素晴らしい賞をいただけて、本当に嬉しいです。

私は知覚、特に視覚を専門に研究を行っています。学部3年生の時、漠然と「意識みたいなものに興味があります」と言った私に、「縦縞と横縞を足し合わせると同心円になる」という図形を、指導教員であった村上先生が教えてくださいました。その図形の面白さに心惹かれるとともに、意識のようなよく分からないものを知りたいと思った時に、視覚刺激を用いたアプローチができるのだと驚いた覚えがあります。それからは、主に心理物理学的手法を用いて実験を行っています。物理的な刺激と意識的な知覚の関係を記述することで、その間に存在している目には見えない処理にアプローチでき、潜在的にどのような表象が存在しているのかを明らかにできることに魅力を感じています。「ある人がどのような世界を見ているのか」を知ることは、「ヒトの心」なるよく分からないものを知る1つのやり方だと思いますし、「その背後にはどのような処理が存在しているのか」を知るためには、心理物理学的な手法がとても有用なアプローチになりうると考えています。

学部生の実験演習のTAをしていると、知覚についての実験は、どちらかと言えば難しいし面白くない、と考えている学生が多いように感じます。自分の行っている研究も、マニアックだと言われてしまいがちではあります。ですが、日常当たり前に感じている知覚システムに潜む面白さ、心理物理学的手法の美しさなど、知覚心理学には楽しさが溢れています。今回、基礎心理学会の皆様から、普段自分が面白いと思って行っている研究に対して、分かりやすかった、面白かったと言っていただけたことが、自信にもなりましたし、大きな励みになりました。

僕は人間が好きで、面白いと思って、日々研究をしています。これからも、自分が面白いと思える研究をしていきたいですし、それを他の方々と共有して、一緒に面白がれたら本当に幸せだなと感じます。またいつか、サテライトオーラルセッションで新しい研究の発表をして、皆様と面白がりたいです。

ファイナリスト

中村哲之「ニワトリにおけるエビングハウス逆錯視」

若生遼「Characteristics of haptic peripersonal spatial representation of object relations」

三好清文「非注意は既知感を生じさせる」

村井祐基「Optimal encoding of event duration: Modality-dependence of the central tendency」

小林恵「若年成人顔への知覚狭小化の通文化性とその神経基盤」

佐藤佑介「体操選手におけるとび1回ひねり遂行中の視線移動パターン」

Qi Li「Dynamic control of information in visual working memory maintenance」

2015年: The Young Psychonomic Scientist of the Year

寺尾将彦(山口大学)

「追跡眼球運動による眼球運動と反対方向の運動への強調効果」

この度はThe Young Psychonomic Scientist of the Year 2015 に選んでいただきありがとうございます。私は視覚の研究者でして、脳内の不安定な視覚信号がどのような計算過程を経て普段の視覚体験や視覚情報を利用した行動制御に利用されているのかについて、システム全体の機能レベルで理解することを基本的な研究テーマとしています。理想としては、ただの現象記述的なレベルにとどまらず、メカニズムの理解まで踏み込める堅牢で説得力のある証拠をソリッドでスマートな心理物理実験で集めていきたいと考えています。また、そこで得られた知見を神経機構と関連付けることができればすっきり気持ちいいと感じますし、既知の神経機構ではまだ説明がつかなければ、よりエキサイティングだなあと感じます。

本サテライトセッションでは基礎心理学領域の広い背景の方々から、発表に対する方法的な問題から成果に関する感想まで、忌憚のない様々なコメントを口頭や書面でいただけました。これは賞をいただけたことよりも貴重な財産です。ただ、残念なことに、近年の基礎心理学界隈では高次機能の研究に多くの人の興味が移り、基礎的な感覚や知覚をやっている若い同世代の人が少なくなっているように感じます。実際、私が基礎心の年次大会で発表しても隣近のポスターのように人が集まることは少ないですし(これは私の力不足によるところが大きいのでしょうが)、また、現在のところ基礎心には多くの人に同時に宣伝できる口頭発表の機会はありません。勿論、より新しいテーマに積極的に挑戦することこそ若手の健全的な態度なのですが、一見やり尽くされたと思われる領域でも、古くから存在するにもかかわらず説明されていない問題はそこらじゅうに転がっていますし、それらは今だからこそ解ける問題なのかもしれません。実際、今でも感覚知覚領域でhigh-profileな研究はしばしば報告されます。何よりも、自分が面白いと思っていることが国内の同世代の方と共有できないのはそれなりに寂しいことでして、今回賞をいただけたことで、自分が面白がっていることを基礎心の方々と多少なりとも共有することができたのかなと少し励みになりました。応募要項を読み返しますともうしばらくは再度応募することが可能なようですので、今後もまた参加させていただけたらと思います。

ファイナリスト

久方瑠美「位置知覚に影響をあたえる運動情報」

横山武昌「直視の無意識知覚処理」

峯知里「Value-driven attentional capture - 生起要因の検討 -」

大塚由美子「視線知覚の2重経路モデルの検証:眼球の偏位と顔向き手がかり統合の線形性」

中島亮一「放射線科医の病変検出特性 –読影専門家はあらゆる病変を同等に検出できるのか?−」

伊村知子「チンパンジーにおける大きさの平均の知覚」

佐々木恭志郎「感情の後付け:運動動作は画像の感情評価を遡及的に変容させる」

2014年: The Young Psychonomic Scientist of the Year

浅野倫子(立教大学)「色字共感覚の文字習得過程仮説」

私にとってこの賞は格別なものです。その理由はいくつもあります。まず、静かな熱気にあふれる会場のその場で、聴衆の方々から直接研究を評価して頂いた、ということです。セッション中は聴衆全員に評価用紙が配られます。そして皆、少しでも発表者の若手のためになるようにと、良い点も悪い点も率直に評価し、様々な視点からコメントを書き込みます。そのような中での発表はかなりの緊張感に満ちたものでしたが、そのぶん高い評価を頂けた喜びもひとしおでした。聴衆の方々から頂いた手書きコメントの束の重みは忘れられません。また、出場者が本気で勝負する場で受賞できたことを誇りに思っています。実はかなり軽い気持ちで参加を申し込んだため、その後ようやく事の「本気度」の高さに気づいたとき、思わず背筋が伸びたのを覚えています(このセッションが一部で「基礎心理学者の天下一武道会」と呼ばれているらしきことを知ったのは、さらにその1年以上後のことでした)。出場者皆が「自分の研究が一番面白い」という自負を持ち(そして本当にどの研究も面白く)、負けたときは本気で悔しがる、でも互いの健闘はしっかり讃える、そんな青春漫画のような清々しい場です。

私がこの賞を頂いたのは、任期つきの現職に就いて1年目のことでした。現職では周囲の方々にも仕事環境にも大変恵まれていて、当時は(今もそうなのですが)所属先への愛着を深める一方で、任期つきであり、長くはいられないことの悲しさも感じ始めていました。その中でこの若手に対する賞には、「ごちゃごちゃ考えていないで自分の研究を続けよう。そうすれば誰かが評価してくれるから。」と背中を押してもらったような気がします。同僚の先生方は私の受賞をとても喜んでくださり、後日所属先内でも研究発表の場を設けてくださるなど、おかげさまでさらに背中を押してもらえる出来事も続きました。若手の職というのは任期つきが多いのが現状で、私以外にも、精神的にも他の面でも不安定な日々を過ごしている人は多いことと思います。でもこうやって若手を応援してくださる方々もたくさんいる、と勇気付けられるありがたい機会でした。賞を頂いたことに心から感謝申し上げます。応援して頂いた分、The Young Psychonomic Scientist of the Year 2014 という称号には責任もあると感じています。これから先、「あのとき彼女を応援した甲斐があったよね」、「今後活躍する、イキのいい基礎心理学の若手を見たいなら、あのオーラルセッションに行くのが一番!」と言って頂けるよう、今後もこつこつ努力いたします。

ファイナリスト

温 文 「なぜ私は写真写りが悪いのか?自己顔の再認バイアス」

井手正和 「触覚誘導性視覚マスキング」

大塚由美子 「正立・倒立顔における視線知覚の恒常性」

吉本早苗 「環境座標系における運動知覚」

Hsin-Ni Ho 「色と温度の相互作用:赤い物体よりも青い物体に触れたときのほうが温かく感じやすい」

竹島康博 「Hemispheric Asymmetry in the Auditory Facilitation Effect in Dual-Stream Rapid Serial Visual Presentation Tasks」

中島亮一 「横目観察では視覚処理が妨害される」