アブストラクト

12月3日(土)

14:10 -- 15:10 上野嘉夫(京都薬科大学)

統計多様体の余接バンドル上のハミルトン力学系 --対称性,簡約化の観点から--

統計多様体とは,あるパラメトリックな確率分布族の集合にFisher計量を印可した多様体である.これに対し,量子密度行列の集合にFisher計量を印可した多様体を量子統計多様体という.情報幾何とは統計多様体上で展開される幾何学である.統計多様体上の力学系には,学習理論や線形計画問題に関わるものが見出されている.また,偶数次元の統計多様体では,双対構造に由来するシンプレクティック構造によるハミルトン力学系の構成も行われてきた.本講演では,従来から着目されていなかった統計多様体の余接バンドル上でハミルトン系を構成し,統計多様体に特徴的な指数型,混合型,計量型測地線について議論する.またハミルトン系の簡約化(reduction)あるいはその逆操作である復元(reconstruction)により,測地線系の求積性についても議論する.統計多様体として,量子統計多様体とその「古典的対応物」である有限離散分布族の統計多様体をとりあげる.

15:30 -- 16:30 金子吉樹(早稲田大学)

Solutions of the tt*-Toda equations with integer Stokes data

tt*方程式は1991年にCecottiとVafaによって導入された方程式です。その中でも特に戸田タイプのtt*方程式について紹介します。tt*戸田方程式の解はGuest-Its-Linらによって解析されており、大域的な解に対する正則データ・漸近展開データ・Stokesデータの一対一対応が有名です。さらにこれらの解に対して、複素射影空間の量子コホモロジーが対応するという幾何学的な結果が発見されています。本公演では複素射影空間以外にもtt*戸田方程式の解に対応する例を紹介します。また他にも特殊な例として整数Stokesデータが挙げられます。この整数Stokesデータを特定し、これらの特徴について紹介します。整数Stokesデータに関する研究は波照間雄大氏との共同研究に基づきます。

16:50 -- 17:50 米倉和也(東北大学)

Classification of topologically nontrivial terms in action

Action functional of quantum field theory can contain terms which have nontrivial topological structure, such as Chern-Simons terms, Wess-Zumino-Witten terms and so on. I will discuss general classification of these terms. This talk explains the physics motivation of my work 2106.09270 in collaboration with mathematician Mayuko Yamashita.

12月4日(日)

10:00 -- 10:20 石川元稀(立命館大学)

Lagrangeのコマに付随する楕円ファイバー空間とそのモノドロミーについて

Lagrangeのコマは固定点の周りで回転する剛体の力学系で、特に固定点と重心を通る軸に関して回転対称性を持つものを言う。数学的には3次元回転群とそのLie環の半直積群のLie環の双対空間上でLie-Poisson構造に関するHamilton系として記述される。この力学系は完全積分可能系の典型例のひとつである。第一積分(保存量)を並べて得られるモーメント写像は楕円曲線を一般ファイバーとするファイバー空間を誘導する。

この楕円ファイバー空間について複素代数幾何的な観点から考察する。この講演ではこの楕円ファイバー空間の特異跡を分析した結果について述べる。またこの楕円ファイバー空間のモノドロミーがある程度決定されたので、その結果についても述べる。

10:30 -- 10:50 奥田太夏(東京理科大学)

複素2次元局所対称Kaehler多様体に対する変数分離変形量子化について

シンプレクティック多様体に対する変形量子化は非可換微分可能多様体を与える量子化手法として知られ,その構成法はこれまでにいくつかのアプローチが提唱されてきた.このうち局所対称Kaehler 多様体の場合に関連した先行研究として,佐古-鈴木-梅津および原-佐古による変数分離変形量子化の構成法が知られている.原-佐古の方法は任意の局所対称Kaehler 多様体上のstar 積を決定づける漸化式の存在性について言及したものであり,この漸化式の解からstar 積を与えることができる.一方で与えられた漸化式の解を得ることは一般に困難を極め,実際に漸化式が解かれたものは任意の複素1次元,$\mathbb{C}^N, \mathbb{C}P^N$ およ$\mathbb{C}H^N$ のみであった.本研究の主結果として,任意の複素2 次元に対する漸化式の解を与え,star 積を明示的に決定づけることに成功したので,本講演ではこの主結果について$\mathbb{C}^2$ に対する具体例を交えながら紹介する.また余裕があれば現時点で構成に至っていない非可換2 次元対称Kaehler 多様体についても別途お話させて頂きたい.なお本講演の内容は佐古彰史氏(東京理科大学)との共同研究に基づく.

11:00 -- 11:20 菅野聡(筑波大学)

ゲージ場の行列正則化とSeiberg-Witten map

行列正則化は弦理論やM理論の行列模型による定式化において重要な役割を果たす。また、通常の空間の場の理論から非可換空間上の場の理論を構成する手法としても有用である。行列正則化はBT量子化の手法を用いて、ベクトル束の切断で記述できる場に適用できることが知られている。しかし、ゲージ場はベクトル束の接続であり通常の行列正則化を適用することができない。我々はSeiberg-Witten mapを用いたゲージ場の行列正則化の新たな手法を提案する。本発表は足立宏幸氏、伊敷吾郎氏との共同研究に基づく。


11:30 -- 11:50 原子秀一(東京大学)

The modular class using the Schouten bracket on a rho-manifold

It is known that the modular class of a (higher) Poisson manifold is generalized to an orientable supermanifold with a Q-structure. Meanwhile, as one generalization of a commutative superalgebra, we have a rho-commutative algebra. A rho-commutative algebra is an algebra graded by an abelian group whose commutativity is determined by a function called a commutation factor. In the same way as we obtain a supermanifold as a locally ringed space, we obtain the concepts of rho-manifolds by locally replacing the functional algebra with a rho-commutative algebra. In this talk, we will discuss the property of the modular class using the Schouten bracket in this version.

12:00 -- 12:20 岡本幸大(京都大学)

単位余法束のLegendre接触ホモロジーのトポロジー的表示に向けて

Legendre接触ホモロジーはsymplectic field theoryの一部であり、Legendre部分多様体のアイソトピー不変量として研究されてきた。しかし具体例に関する計算は低次元(Legendre結び目)を除くと未だ少ない。Ekholm, Ngらは、$\mathbb{R}^3$内の結び目の単位余法束(これは$\mathbb{R}^3$の単位余接束のLegendre部分多様体である)のLegendre接触ホモロジーに対して、次数$0$の部分がトポロジー的な表示を持つことを示した。本講演ではこの考察を結び目に限らない一般のコンパクト部分多様体へ拡張し、講演者がストリングトポロジーを利用して構成した次数付$\mathbb{R}$-代数との関係について説明する。


14:00 -- 15:00 吉田尚彦(明治大学)

格子点の数え上げとRiemann-Roch指数

コンパクトなLagrangeトーラスファイバー束の全空間上に前量子化束がある時、Riemann-Roch指数はBohr-Sommerfeldファイバーの個数と一致することが知られている。本講演では、この定理について、底空間の「格子点」の数え上げと交叉理論の観点からシンプルな証明を紹介する。本講演は、Yael Karshon(Univ. of Toronto)とMark Hamilton(Univ. of Mount Allison)との共同研究に基づく。

15:30 -- 16:30 佐古彰史(東京理科大学)

ポアソン代数の量子化の全体の構造と量子化の逆問題

量子化された空間の古典極限が我々の住むリーマン多様体やそれを底空間にもつ接ベクトル束などのファイバー束であると予想される.従って量子化された空間の逆問題として古典的なポアソン多様体を見つける方法は重要である.特に物理理論が代数をなすなら表現として常に行列模型が現れるので,行列模型とその古典極限を特定する問題に着目する.加群の圏の部分圏として,ポアソン代数とその量子化された空間全体からなる「量子化の全体のなす圏」を考えることが可能である。その圏を用いた古典極限についていくつか提案し議論する.その古典極限の定義を用いて,行列正則化の逆問題についての圏論的なアプローチを考察する.特にリー代数の表現の列から古典極限を対応させる方法について議論する。