非展示施設『バックヤード』改善計画


すべての動物たちが幸せにくらすために、バックヤードを改善したい

日本モンキーセンターには、動物病院に併設した『バックヤード』と呼ばれる、普段みなさまにはご覧いただけない非展示エリアがあります。ここには、障害などによって群れでの生活や通常の飼育設備でくらすことが難しい個体がいます。種によっては40年以上の寿命を持つ彼らだからこそ、それぞれの状況に合わせた特段のケアができる設備や環境が必要です。

また、展示エリアで群れと一緒にくらすことができない個体や、展示エリアに充分な飼育スペースがないために、ここでの生活を余儀なくされている個体もいます。社会性の維持のためにも、そうした個体については同じ種どうしや、ときには違う種の個体と一緒にくらせる環境をつくると同時に、別の施設の環境を整え、移動させる必要があります。

バックヤードは飼育動物たちの福祉を一番に考えたい施設です。そのために、動物たちの健康状態や群れづくりの進み具合などに合わせ、柔軟に対応できる設備を整える必要があります。また、こうした取り組みをとおして、命や動物福祉を伝える教育の場にもしたいと考えています。しかし私たちの力がおよばないため、これらの機能が充分に備わっているとはいえず、みなさまにお見せできないのが現状です。

動物たちにより良い環境を提供するために、みなさまのご支猿をよろしくお願いいたします。

障害個体のケアのためにリハビリセンターをつくりたい

障害により運動機能が低下した個体は、群れの仲間たちと同じ施設でくらすことが難しくなる場合があります。その場合、彼らはそれまでの群れや施設を離れ、治療やリハビリを受けます。そんな彼らが生活する空間には、運動機能の程度に合わせて空間の高さや広さ、複雑さを制限したり、回復具合に合わせて徐々に拡張したりする工夫が必要です。

一方で、バックヤードでの長期間の治療を終えて、展示エリアへ復帰する個体もいます。しかし、常に空調が管理されている屋内の病院と、外気にも触れる展示エリアの環境は大きく異なり、その急激な環境変化が原因で体調不良をおこしてしまった個体や、広い運動場に出ることで運動量が急に増え、治ったはずの骨折が再発してしまった個体もいました。彼らがよりスムーズに復帰するためには、外の環境や運動機能の増加に徐々に慣れるためのリハビリ施設が必要です。

シシオザルのシッコク ♂

ミナミブタオザルのサクラ♀

シロガオオマキザルのジュン♂

アヌビスヒヒのナオト♂ ― 動物の介護に必要なスペースを

昔はアルファオス(第1位)にもなりました。

寝たきりになりながらも、最後まで頑張って生きてくれました。

アヌビスヒヒの群れを展示している『ヒヒの城』でくらしてきたナオトは、23才のとき寝たきりの状態になりました。はじめは足の力が抜けるような様子が見られましたが、ふらつきながらも歩いていたので、薬や注射による治療や給餌の介助などを受けながらヒヒの城でのくらしを続けていました。しかし、約1年後には手足に麻痺が広がってしまい、群れでの生活がむずかしくなったため動物病院へ移動しました。その後ナオトは寝たきりとなり、治療とリハビリを続けましたが、2018年4月に25才をむかえる手前で衰弱により死亡しました。

入院室のケージはナオトを介護するには狭く、スタッフが中に入ることができませんでした。床ずれの進行を防ぐために、こまめに重たいナオトの体の向きを変えることが重要でしたが、そのためには一度、底に敷いていた分厚いマットごとナオトをケージの外に運ぶ必要がありました。寝たきりとはいえ嫌な事があれば噛みつく力はあったので、一方向からしか開かないケージでは治療のためにどうしても顔を奥に向けて寝かせるしかなく、3面が壁のケージの中で、ナオトは長い時間、外の景色が見られずにいました。また、ナオトが自力でつかまれる位置に棒などを取り付けて、少しでも身体を起こせるようにしたかったのですが、ケージの構造上、そうした改良は簡単にはできませんでした。ナオトが少しでも体を起こして座れるようにスタッフが椅子を作りましたが、そこにナオトを座らせるためには、スタッフにもナオトにも負荷がかかっていました。

高齢による身体の麻痺はナオトだけに起こる特殊な事例ではありません。誰にでも起こる可能性があります。動物にもスタッフにも負担が少ない環境で治療やリハビリができるような空間を整備したいです。

シロテテナガザルのジャス♂ - 復帰に必要なリハビリのための施設を

彼は3歳のときに右上腕部を檻に挟んで骨折してしまいました。おそらく、檻の外の葉っぱを取ろうとしたのだと思います。幸い、腕を切断することはありませんでしたが、骨を繋げるためにステンレスの棒を埋め込む手術を受け、1年以上の長い入院生活を送りました。

そして骨折が治り、ようやく退院できたのも束の間、なんと今度は別の箇所を骨折してしまいました。長い入院生活で太陽の光を充分に浴びられず、狭いケージ内でろくに運動もできなかったため、退院後の急激な運動量の増加に骨が耐え切れなかったことが原因だと思われます。

2度目の骨折治療後は、退院後の施設にスタッフがリハビリ空間を手作りし、そこで徐々に身体を慣らしていけたので、現在は問題なく運動できるようになりました。

まずはケガをしないことが一番ですが、今後同じような境遇の個体が治療を終えた際に、安全に展示エリアへの復帰ができるような施設が必要です。ジャスの場合は、退院後の施設にリハビリ空間をつくれる広さがありましたが、そうした余裕がない施設もあるので、バックヤードにも徐々に運動範囲を広げていけるようなリハビリ用施設を整備したいです。

2度目の入院。両腕と鎖骨が折れていました。

リハビリ終了まで10ヶ月かかりました。よく頑張ってくれました。

もっと広い空間でのくらしと、ひとりぼっちをなくすための環境整備

展示エリアで群れと一緒にくらすことができない個体は、バックヤードの狭いケージでの単独生活を余儀なくされています。霊長類の多くは仲間とコミュニケーションをとってくらす動物です。仲間と毛づくろいをしたり、けんかしたり、あそんだりします。そのため、バックヤードにおいても可能な限り他の個体と一緒にくらせるように、群れづくりの取り組みを進めてきました。

しかし、それぞれのケージが独立しているため、それまでのケージから他の個体がいるケージへ移動させるときは、麻酔や捕獲が必要となり、動物たちに負担をかけてしまいます。また、ひとつひとつのケージが狭く、個体どうしの距離が近くなってしまうため、まだギクシャクしている初期段階で闘争が起きやすくなることもあります。

安全に群れづくりを進めるためには、ケージとケージの間に動物専用の通路をつくったり、それぞれのパーソナルスペースを充分に確保したりできるような広い空間を用意する必要があります。

フクロテナガザルのキウイ♂

ミナミブタオザルのアルム♂(左)とサブロウ♂(右)

ヤクシマザルのダイブ♂、タッチ♂、タイマイ♂、タマゴ♂(左から順)

シロテテナガザルのイレブン♂ - 陽の光をあびて、仲間とくらせる環境を

陽の光を充分に浴びていないため、顔が日焼けしておらず、色が薄いです。

おもちゃや飼育スタッフが遊び相手です。

イレブンは2010年にバックヤードのケージのなかで生まれました。それから約10年、展示エリアにスペースが確保できなかったことと、鼠経ヘルニアを患ってしまったことにより、一度も施設の外でのくらしを経験することなく現在までくらしてきました。

鼠経ヘルニアを患っていることに配慮する必要がありますが、彼には陽の光を充分に浴び、外の空気をたくさん吸える環境を提供したいです。

敷地面積が限られているため、建物の屋上部分に陽の光りが入り、風が通る運動場を建設し、現在くらしているケージから通路を繋げることで運動場に出られる施設をつくりたいです。

また、長年ひとりぼっちだったイレブンが他の個体と一緒に生活できるようにもしたいです。別々にくらしていた個体どうしが一緒にくらせるようになるまでには、檻やフェンス越しに互いの姿を見られたり、触ったりできる期間が必要です。そこでいい関係になってはじめて、同じ空間での生活に挑戦します。このステップをスムーズに進めるために、空間を区切れたり繋げたりできる施設も作りたいです。

71頭のカニクイザル - 温度管理のできる快適な施設を

バックヤードには71頭のカニクイザルがくらしています。以前は『カニクイザルの山』と呼ばれる施設で展示していましたが、特定外来生物に指定された際、脱走を懸念してバックヤードにあった四方天井すべてをフェンスで囲われた施設に群れごと移動しました。彼らがくらしている施設には屋内施設がなく、雨よけ程度の屋根はあるものの、365日24時間屋外でのみ生活しています。特に冬場は、少しでも温度が保てるように飼育スタッフ総出で施設の周囲に風よけ用のついたてを立て、毎年ギリギリ凌いでいます。広さも71頭がくらすのに充分とは決していえません。

彼らが1年をとおして快適に生活できるよう、広い屋内施設を併設したいです。

『バックヤード』でも動物たちが少しでも楽しくくらせるよう、飼育スタッフが日々エンリッチメントをおこなっています。(写真はカニクイザルのお正月の様子)


皆さまのあたたかいご支猿をよろしくお願いいたします。