私たちの身の回りには、鉄やニッケルをベースにした合金が多く使われています。これらは少量の他元素を混ぜて性能を調整しますが、近年は複数の元素をほぼ同じ割合で混ぜ合わせた「ハイエントロピー合金」が世界的に注目されています。ハイエントロピー合金は、構造材料、生体材料、触媒、 熱電材料など、幅広い分野で優れた性能を示します。さらに、複数の機能を同時に持つ「多機能材料」としても期待されています。
超伝導の分野でも、ハイエントロピー合金は非常にユニークです。 例えば、地球中心部のような超高圧をかけても超伝導が壊れないものや、実用化に重要な臨界電流密度が非常に大きいものが報告されています。私たちは特に体心立方(bcc)構造のハイエントロピー合金超伝導体に注目し、
Hf21Nb25Ti15V15Zr24
Al-Nb-Ti-V-Zr
HfMoNbTiZr
Ti-Hf-Nb-Ta-Re
など、新しい超伝導体を次々と発見してきました。さらに、硬さと超伝導を両立する多機能材料の研究も進めています。
ハイエントロピー合金は多元素から構成されるため、複数の構造が同時に現れることがあります。その一つが共晶構造と呼ばれる微細な組織です。私たちは、共晶構造をもつ NbScTiZr 合金について、
熱処理温度を上げると格子ひずみが増加
それに伴い超伝導転移温度が上昇
することを明らかにしました。また、熱処理していない試料では、臨界電流密度が 1 MA/cm2(2 K)を超えることを発見し、世界トップクラスの性能を示すことがわかりました。最近では、Hf-Nb-Sc-Ti-Zr が NbTi に匹敵する臨界電流密度を示すことも発見し、将来的には核融合炉や宇宙空間での応用も期待できます。
FeCoNi は軟磁性材料として知られていますが、これに他の元素を加えてハイエントロピー化すると、磁性が大きく変化します。私たちは、
FeCoNiPd:さらに保磁力が小さく、実用レベルの軟磁性体
FeCoNiTi:FeCoNi 系で最も高い保磁力を示す材料
を発見しました。さらに、Ti-Nb-Cr-Ru 合金では、 クロムが強磁性を示すというハイエントロピー合金では世界初の現象を見つけました。クロムは通常反強磁性ですが、ハイエントロピー合金という“自由度の高い舞台”では、まったく新しい磁性が生まれることがあります。
このように、ハイエントロピー合金は予想外の磁気現象が生まれる宝庫であり、研究の面白さが詰まっています。
これまでに、
Ce3Pd20As6
CeCd3P3
Fe3Ga0.35Ge1.65
など、多くの新物質を発見してきました。Co6.2Ga3.8-xGex では、 低温ながらネオジム磁石を超える巨大保磁力を示すことを発見しました。三角格子やカゴメ格子が形成される特殊な構造が、この特性に関係していると考えています。