実世界における人のさまざまな身体活動のメカニズムに関心があります.身体性認知科学の視座から,“できるようになる”背後の情報処理を検討しています.
※情報を知覚し,知識やイメージ(表象)等に基づき加工(認知)して行動に至るプロセスを「情報処理」と呼んでいます
特に,
集団の社会性・協調性
自律的な練習を通したスキル習得・熟達
を研究対象に理解やモデル化を目指します.
目的に応じて情報科学やスポーツ科学,集団行動学,心理学で用いられる手法(運動計測,心理学実験,統計モデリング,信号処理など)を用いて,文理融合のアプローチ研究を進めます.最近は,現場で運動計測を行う実験(フィールド実験)を導入しています.この手法により,科学と現場の接続および循環を図ります.
周辺分野も一目置くデータと成果を提供することで,異分野融合や新しいテーマの創発が期待されます.ある分野の視座だけでは議論が難しい身体活動の性質が分かれば,より良い支援に向けたヒントが見えてくるかもしれません.
集団の社会性・協調性
集団の社会性・協調性について検討しています.競技スポーツや遊びなどを対象に画像処理等で集団運動を計測・定量的に分析して,その特徴と情報処理との関連を,
具体的には
必要な知識や表象を構造化する情報の補完・共有・基盤化(チームメンタルモデルの構築)
状況に応じて味方を助けるように介入・調整して改善を図る役割(レジリエンス)の理解
味方や相手の動きに対する予測
を議論します.エスノグラフィのような定性的な現象記述では説明が難しい,複雑で動的な対人インタラクションを捉えます.
スポーツ科学,ネットワーク科学,機械学習・人工知能,集団行動学,身体教育学といった分野間の横串化や,現象が起こるプロセスを理解できる根拠の提供を実現して十分な科学的知見に基づき,現場での社会実装や還元を狙います.
国体成年女子選抜の協力による3 on 3バスケットボールのフィールド実験
保育園における集団遊びのフィールド実験
3人1組で1本のペンを動かす課題(なぞり課題)を用いた実験室実験
なぞり課題を用いたレジリエンスに関する数理・強化学習モデルの計算機シミュレーション
自律的な練習を通したスキル習得・熟達
どのように高度なスキルが習得・熟達されるかを検討します.運動計測してフォームを定量的に分析するだけでなく,ハイパフォーマンスを目指す過程の練習において
どのような着眼点を発見し,どのように身体を動かせば良いと考えていたか?
どのような飛躍を伴う発見や問題解決等があったか?
などの認知的側面もスコープに入れます.インタビューの回答や練習時のメモと,ハイパフォーマンスを達成できた・できなかった時のフォームとの関連をみることで,身体運動と思考のインタラクションからスキルが習得される可能性を検証します.身体運動が思考に影響を与え,更新された思考に基づき身体を動かすループが基盤にあると考えられます.
身体運動に焦点を当てるスポーツ科学や運動学と思考に重きを置く認知科学,一方のデータだけでは実現されない議論を行うことで,習得・熟達段階や個人に即した教育や支援が実現するかもしれません.
三次元モーションキャプチャを使用したジャグリングの運動計測
大学水泳部の練習で行った競泳の飛び込みの撮影
その他
サブテーマとして,学生指導や共同研究の一環で次のような研究にも携わっています.身体活動全般に関心があります.
プロスポーツのビックデータ解析
演劇などにおける表現者同士,観客,環境とのインタラクションが創造性に与える影響の検討
他者との同期運動効果を応用した人工エージェントの設計
社会的援助行動が起こる要因の特定や観察される行動の特徴分析
※2023年11月より,マイクロワールドなゲームやSNSのような世界における複雑な集団のインタラクションを分析して,小さく閉じた社会で意見や態度が画一化する現象(エコーチェンバー)の認知メカニズムを解明し,地域や身体に接地した情報のリテラシー教育に応用するJST RISTEX プロジェクトにも参画しています