3次元ラリタ=シュウィンガー理論のアノマリ流入
本研究では、ゲージ対称性を持つ3次元のラリタ=シュウィンガー場の異常流入を研究した。Wittenはディラックフェルミオンの分配関数のアノマリ位相がディラック作用素のη不変量の指数関数であり、それがディラック作用素の行列式直線束の切断と見做せることを発見した。それと同様の方法でラリタ=シュウィンガー理論のアノマリ位相はラリタ=シュウィンガ演算子のη不変量の指数関数であり、それがラリタ=シュウィンガー演算子の行列式直線束の切断であることが分かる。Dai-Freed理論によると、(d+1)次元多様体の境界にAtiyah-Patodi-Singer(APS)境界条件が課されている時、その(d+1)次元多様体上のディラック作用素のη不変量の指数関数はd次元境界多様体上のディラック作用素の行列式直線束の切断である。さらにWitten米倉により、(d+1)次元多様体の境界にカイラル境界条件を課すと、その境界局在モードとしてd次無質量ディラックフェルミオン系が現れ、さらに(d+1)次元バルクの経路積分の位相はAPS境界条件のもとでの(d+1)次元ディラック作用素のη不変量の指数関数と一致し、(d+1)次元バルクの経路積分をd次元無質量ディラックフェルミオンの分配関数とみなすことができる(アノマリ流入)。
アノマリ流入の方法をラリタ=シュウィンガ理論に適用するためには、(d+1)次元多様体上の場の理論で適切な境界条件のもとでその経路積分が境界d次元多様体上のラリタ=シュウィンガ演算子の行列式直線束になるものを見つける必要がある。上述の見方では、アノマリは行列式直線束のホロノミーであるので、本研究ではラリタ=シュウィンガ演算子とスピン3/2ディラック作用素の行列式直線束のホロノミーを比較した。Atiyah-Patodi-Singerにより、あるヒルベルト空間を固定し、そのヒルベルト空間上に作用する自己双対フリードホルム作用素全体の集合にギャップ位相を導入すると、同じ固有値を持つ2つの自己双対フリードホルム作用素についてのη不変量の差は、それらの自己双対フリードホルム作用素を繋ぐ自己双対フリードホルム作用素全体のなす位相空間上のパスによって与えられるスペクトル流で与えられ、スペクトル流はホモトピー同値な2つのパスについては同じ値を与える。特に自己双対フリードホルム演算子についての行列式直線束のホロノミーはスペクトル流で与えられる。そこで特にスピン3/2場の完備化によって得られるヒルベルト空間に作用する自己双対フリードホルム作用素全体の集合にギャップ位相を与え、その空間におけるラリタ=シュウィンガー演算子とディラック作用素のゲージ微分同相によって与えられるパスについてのスペクトル流を比較した。ゲージ微分同相によって与えられるラリタ=シュウィンガー演算子とディラック作用素のパスは始点と終点が共に一致しないので、これらのスペクトル流をホモトピー同値の方法で比較するために、ラリタ=シュウィンガー演算子のパスとディラック作用素のパスの、始点を繋ぐパスと、終点を繋ぐパスを構成した。始点を繋ぐパスと終点を繋ぐパスのスペクトル流が互いにキャンセルすることを示し、ゲージ微分同相についてのラリタ=シュウィンガー演算子のパスとディラック作用素のパスについてのスペクトル流が一致することを示した。
最後に、どのようなゲージ群を持つ3次元スピン多様体上でも、ゲージ微分同型変換の大域的な異常は存在しないことを示した。また、$Omega_4^{{rm Pin}^+}(pt)=mathbb{Z}_{16}$の生成子に対応するラリタ・シュヴィンガー理論のアノマリは$exp(3ipi /8)$であることを確認した。
T-duality, complex structures and instantons
近年、T双対性共変な場の理論の定式化が進展している。弦の標的空間を倍化するdoubled formalismはその一例である。本講演ではT双対性に共変的な幾何構造とボルンシグマ模型におけるインスタントンについて紹介する。
ランダムテンソルの固有値分布 — なぜ積分できるんだろう —
行列模型の解析において固有値分布は重要であり,特にWignerの半円則は有名である.この講演ではランダムテンソルの固有値分布の厳密な表式を求める.まず問題を場の理論の分配関数の計算に書き直す.面白いことに,この分配関数は非自明な積分の後に厳密な表式が求まる.伊藤先生との共同研究であるインスタントン計算において厳密な表式が得られた事実と重なるが,その計算では局所化がその後判明した.ランダムテンソルの固有値分布においても同様な展開があると面白いが,現時点ではこの可積分性の理由は不明である.
A quantum Poisson-Lie T-duality
Poisson-Lie (PL) T-duality is a duality of sigma models, which is based on Drinfeld doubles. It extends usual Abelian T-duality and provides a variety of dual maps of classical equations of motion. Its quantum aspects, however, have not been clear. By studying the PL T-duality associated with the six-dimensional Drinfeld doubles, as the simplest examples, we find a duality which maps a WZNW model into itself and induces a non-local automorphism of the affine Lie algebra. This map can be promoted to an exact isomorphism of the conformal field theory, which implies the quantum equivalence of the dual pair.
How Bethe ansatz works for non-quantum integrable model
The Bethe ansatz provides is a renowned powerful method for exactly solving the quantum integrable models. Over the past decades, it has been found that the Bethe ansatz also emerges in many apparently non-quantum integrable models, and provides amazing power to solve the models. In this talk, we will provide an overview on how Bethe ansatz appears and works in various contexts of non-quantum integrable models, including ordinary differential equation (ODE), non-linear sigma model in AdS spacetime and so on.
Subregion Complementarity in AdS/CFT
量子重力の模型としてAdS/CFT対応を考える。重力理論は有限だが大きなNを持つholographic CFTのlarge N expansion とした時の低エネルギー有効理論とみなせる。しかし、”horizon”がある場合には、非摂動的量子重力効果(finite N効果)により重力理論が破綻することを示す。この"horizon"は、Rindler時空のように時空のsubregionをとった場合にも表れ、この破綻は、entanglement wedge reconstructionやsubregion dualityの破れと直結している。(JLMSの議論もこれにより正当化できない。)また、Black hole complementarityのRindler時空上での類似である Subregion complementarityがAdS/CFTにはあることを示す。
On Liouville irregular states and the AGT correspondence
TBA
AGT対応は4次元N=2超対称場の理論の分配関数と2次元 Liouville CFTの相関関数が一致するというもので、特に2次元側で irregular state というものを考えると、4次元側でArgyres-Douglas理論が現れることが知られています。このトークでは、5, 6年前に伊藤さんからいただいたご質問がきっかけとなって始まった、AGT対応とArgyres-Douglas理論に関する最近の仕事についてお話しします。
Fermi-Gas Approach to Supersymmetric Localization
超対称局所化によって無限次元の経路積分が有限次元の行列積分に落ちる場合があります。運が良ければ、この行列積分がさらに理想フェルミ気体の分配関数とみなすことができ、厳密な解析が可能となります。行列積分をフェルミ気体に書き直すテクニックを復習して、時間があれば最近のSchur指数や相関関数への応用を議論したいと思います。
Argyres-Douglas理論の自由場表示
Argyres-Douglas理論は、ラグランジアンでの表示を持たない強結合なN=2 SCFTと認識されています。元々、Seiberg-Witten理論での特別な特異点として発見されましたが、現在ではそれ以外にも様々な視点が見つかっています。Argyres-Douglas理論を理解する試みとして、本講演では、①Argyres-Douglas理論にフローするようなゲージ理論、②Adjoint chiral multipletに「双対な」Argyres-Douglas理論、の2点について紹介したいと思います。
BFSS行列模型におけるカオス的な不安定性
近年、カオス的な散乱 (chaotic scattering) が弦理論の枠組みの中で研究され始めている。カオス的な散乱は、ある有限領域のポテンシャルによる粒子の散乱を考えたとき、その運動が厳密に解けない場合に起きる。慣れ親しんでいる``解けるポテンシャルによる散乱''よりも一般的な問題設定であり、ポテンシャル中の散乱領域における粒子のカオス的な運動に特徴がある。
本講演では、簡単な具体例として4丘ポテンシャル模型 (four-hill potential model)におけるカオス的な散乱について解説し、初期値空間における自己相似構造(フラクタル)の発現、時間の遅れ関数におけるカントール集合とそのフラクタル次元の計算法について説明する。そして、超弦理論を非摂動論的に定式化する有力候補の一つである Banks-Fischler-Shenker-Susskind (BFSS) 行列模型におけるカオス的な散乱の応用として、メンブレイン不安定性とカオスの関係を議論する。