2020.8.30sun 18:00-23:00上映研究#0.2【光・音・うんこ エドワード・G・ロビンソン a.k.a 拒絶】by 異端審問: フィルム=ノワール研究所(担当・吉岡雅樹)
◼︎告知文書◼︎終了報告 ◼︎討議採録
『犯罪王リコ』Little Caesar 1931年/79分/アメリカ/WB監督:マーヴィン・ルロイ 原作:W.R.バーネット
『深夜の告白』Double Indemnity 1944年/107分/アメリカ/PP監督:ビリー・ワイルダー 原作:ジェームズ.M.ケイン
◉概要◉
「蛾は光を追う」という事態については、「アヴァンギャルド映画」の巨人スタン・ブラッケージ(1933-2003)がわざわざ言わずともおよそ目が見える人間ならば知っている。しかしブラッケージ曰く「蛾はメタファーなのだ。蛾は死ぬまで光にぶつかっていく …… そのパターンを音楽の用語に言いかえると、バロックということになる。蛾の飛行はバッハと非常によく調和する」。ことほどさように、「フィルム・ノワール」以前を再考する“0.Xシリーズ”の第二回は、「光」と「音」、そして「社会のクズ(パブリック・エネミー)」の三つ巴領土戦争(トライアングル)を視察します [*] 。この戦場では、我が国が誇る「映画文化」の至宝溝口健二(1898-1956)が言ったとされる箴言がこだますることになるでしょう(「作品なんてウンコみたいなもんですよ」「作品なんてウンコみたいなもんですよ」「作品なんてウンコみたいなもんですよ」…)。
『犯罪王リコ』は、トーキーの全面展開とともに促進された「ミュージカル映画」路線と同じく、「音」の威力が発揮された「ギャング映画」路線の嚆矢です。禁酒法時代(1920-1933)に増加したギャングの撲滅キャンペーンとして、悪の悲惨さをプロパガンダする目的もあったようです。つまり、「ギャング映画」の機関銃に代表される「音」の威力は、銃口から放たれる光(muzzle flash, 発火炎)と連動することによって、「ミュージカル映画」のような身体の運動ではなく、身体の拒絶を欲望していた。
拒絶に遭った身体は、否応なく顔で何かを言わんとする。「ギャング映画」を見ているとしばしば魅力的な顔のクローズアップと遭遇するのは、おそらく偶然ではありません。あるいは映画(「フィルム・ノワール」)における「ファム・ファタール」像を鮮烈に提示した『深夜の告白』において最も魅力的なクローズアップだと思われる瞬間もまた身体が拒絶される時ばかりだったことも関係があるのかもしれません。
両映画に出演する俳優エドワード・G・ロビンソン(1893-1973)は、『犯罪王リコ』ではアル・カポネ的権力者を、『深夜の告白』では詐欺を暴く調査員に扮しました。この対照的とも思える人間らを、彼はガマガエルとも称される強烈な顔で演じ、「ギャング映画」〜「フィルム・ノワール」の移行期、つまり1930〜1940年代の映画史に巨大な痕跡を残しました。そのロビンソンが赤狩りで悲惨な目に遭ったのち、現代史の異次元に突入することになる「1968」にどうなってしまったか。1969年に公開された『マッケンナの黄金』に出演しているロビンソンは、盲目の老人となっていた。その身体は「光」までも奪われた。
ギャング、調査員、障碍者。光、音、社会のクズ。映画、バッハ、蛾。『犯罪王リコ』以来、四年間で300本作られたといわれる「ギャング映画」。「善良な読者(映画なら観客)は犯罪者が大好き」(ベン・ヘクト)。「こいつはヒットするぞ」(ダリル・F・ザナック)。作品なんてウンコみたいなもんですよ、作品なんてウンコみたいなもんですよ、作品なんてウンコみたいなもんですよ…………………………………

[*] 本上映研究は本来、“0.Xシリーズ”第一回として予定されていた。この旨は下記告知でも述べた通り。上映研究#0.1【死は許されぬ、黒いボガート+黒い電話】


◉上映作品◉
■『犯罪王リコ』Little Caesar1931/アメリカ/79min/モノクロ/1.20 : 1/ファースト・ナショナル製作、ワーナー・ブラザーズ配給製作:ハル・B・ウォレス『マルタの鷹』『私は殺される』、ダリル.F.ザナック『怒りの葡萄』『史上最大の作戦』原作:W.R.バーネット『リトル・シーザー』(1929刊) 『ハイ・シエラ』『拳銃貸します』脚本:フランシス・エドワード・ファラゴー『フランケンシュタイン』『鉄青年』脚色:ロバート・N・リー『暗黒街』、ロバート・ロード『立ち上がる米国』『飢ゆるアメリカ』監督:マーヴィン・ルロイ『仮面の米国』『ゴールド・ディガーズ』『哀愁』『東京上空三十秒』撮影: トニー・ゴーディオ『虎鮫』『ハイ・シエラ』編集:レイ・カーティス『暁の偵察』『潜航決戦隊』音楽:エルノ・ラペー『アイアン・ホース』『第七天国』出演:エドワード.G.ロビンソン、ダグラス・フェアバンクス・Jr、グレンダ・ファレル
□ 四大傑作の一つ 戦慄的巨編出現夜のアメリカの大統領。犯罪を犯罪と思はぬ剛腹な暗黒街の王者。人々は未だ曾て、想像もしなかったこの大殺人鬼の跳梁に愕然とし、激烈なる戦慄恐怖に、思はず顔を蔽ふであ[ママ]アル・カポネを瞠着たらしむるエドワード・ロビンスン氏の悪黨振り。蓋し他の追随を許さざる物凄さ!「地獄の一丁目」を凌ぐこと優に數倍。(『キネマ旬報』1931.9号広告より引用。太字原文)
□ 眞物のアル・カポンが見てびつくりしたアル・カポン暴露映畫。シカゴ暗黒街をえぐつて完璧。(『SP』17号1931より引用)
■『深夜の告白』Double Indemnity1944/アメリカ/107min/モノクロ/1.37 : 1/パラマウント・ピクチャーズ製作配給製作総指揮:バディ・G・デジルヴァ『テンプルの愛国者』『誰が為に鐘は鳴る』製作:ジョセフ・シストロム『ウェーク島攻防戦』『太平洋の虎鮫』原作:ジェームズ・M・ケイン『殺人保険』(1943刊)  『ミルドレッド・ピアース』『間奏曲』脚本:レイモンド・チャンドラー『青い戦慄』『見知らぬ乗客』、ビリー・ワイルダー監督:ビリー・ワイルダー『ニノチカ』(脚本)『サンセット大通り』『お熱いのがお好き』撮影:ジョン・F・サイツ『黙示録の四騎士』『夜は千の眼を持つ』編集:ドーン・ハリソン 『サンセット大通り』『お熱いのがお好き』音楽:ミクロス・ローザ『アスファルト・ジャングル』『ベン・ハー』出演:バーバラ・スタンウィック、フレッド・マクマレイ、エドワード・G・ロビンソン、ジーン・ヘザー、トム・パワーズ他
□ 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」で知られるハードボイルド作家、ジェイムズ・M・ケインの中編小説「倍額保険」を、ドイツ映画界出身のビリー・ワイルダー監督が映画化して成功を収め、ハリウッドにおける彼の映画作家としての地位を確立した名作。脚色はワイルダーとレイモンド・チャンドラーが共同で手がけたが、初めて映画の脚本作りに携わったチャンドラーは、その勝手がなかなかつかめなかったうえ、ワイルダーともまるで反りが合わず、拷問にも等しい苦痛を味わったと後に語っている。ヒロイン役のバーバラ・スタンウィックは、自分のすぐ隣で夫が殺されても平然と顔色一つ変えず、さらには主人公のウォルターだけでなく、義理の娘の婚約者にも貪欲に食指を伸ばすという、冷酷非情な悪女を憎たらしいほど貫禄たっぷりに演じ、男を破滅に導く宿命の女(ファム・ファタール)の一つの典型像を作り上げた。また、後に同じケイン原作の『ミルドレッド・ピアス』(45・未)や、『潜行者』(47)を製作する映画プロデューサーのジェリー・ウォルドは、本作を見て「これから先、私が作る映画はみな回想形式にするぞ」と述べたという。宿命の女に魅せられ、破滅の道を辿ることになった男性主人公が、憂愁と諦観の念を色濃く湛えながら、もはや決定的に取り返しのつかない過去を回想するというフィルム・ノワールの運命論的スタイルは、ここで早くも確立され、その後、『まわり道』(45・未)、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(46・未)、『過去を逃れて』(47・未)、『上海から来た女』(48)ほか、数々の作品に引き継がれていくことになる。(『フィルム・ノワールの光と影』1999より抜粋引用)

◉主催◉
異端審問: フィルム=ノワール研究所 (吉岡雅樹[日本映画大学・瀆神]、山本桜子[ファシスト党〈我々団〉])

◉日程◉
2020年8月30日(日) 18:00-23:0017:30 開場18:00 上映『深夜の告白』(107分)20:10 上映『犯罪王リコ』(79分)21:00 基調報告&解説&自由討議23:00 閉場

◉場所◉
BAKENEKOBOOKsふるほんどらねこ堂(犬派の君には狂狷舎)1600004東京都新宿区四谷4-28-7吉岡ビル7F「珈琲と本 あひる社 絵本の国支部」最寄駅: 四谷三丁目駅[丸ノ内線]~徒歩7分新宿御苑前駅[丸ノ内線]~徒歩6分新宿駅[JR]~徒歩19分


◉協力◉
あひる社

※本回はこれまでと異なり上映順序が製作年度と逆となっております。ご注意ください※どなたでも参加可能です※資料代のみ頂戴いたします