石割研で現在行っている研究のうち、既に論文化され、公開して差し支えない研究内容について紹介しています。このページの内容以外にも、様々なチャレンジングな研究を行っておりますので、興味のある方は是非一度研究室にお越しください(お問い合わせはこちらまで)。
私たちは、独自の分子設計理念により、分子の表と裏に異なる置換基や機能を配置した「二面性分子」を設計・合成しています。剛直なπ共役骨格に立体的な方向性を与えることで、分子の表裏を明確に区別するとともに、キラリティ、自己集合、表面吸着、電荷・スピン輸送といった多様な機能を引き出すことができます。
「分子の表と裏をつくり分ける」というシンプルな発想から、二面性ラダーポリマー、分子集合体、表面・界面、太陽電池、スピントロニクスへと研究を広げています。分子の形と向きを精密に制御することで、従来の平面的な分子設計では実現できなかった新しい材料機能の創出を目指します。
私たちは、分子の表と裏に異なる置換基をもつ二面性モノマーを高分子化し、二面性π共役ポリマーの創製と機能開拓を進めています。まず、キラルな二面性インダセノジチオフェンを主鎖に組み込んだπ共役ポリマーを開発し、塗布形成した薄膜が約70%の高いキラリティ誘起スピン選択性(CISS)を示すことを明らかにしました。
さらに、この分子設計を剛直なラダー骨格へと発展させ、異なる機能をもつ二つの面が主鎖に沿って規則正しく並んだ「二面性ラダーポリマー」を開発しました。その合成には、エナンチオピュアなC₂対称キラルモノマーによって連結方向を幾何学的に制御する"キラリティ支援合成(chirality-assisted synthesis)"を用いています。(キラリティ支援合成を実際のブロックを用いて説明した動画を下に掲載しておきました。)
得られたキラル二面性ラダーポリマーは、一方向に巻いたらせん状の高次構造へと自己集合し、その構造を高温でも保持します。また、90%を超える顕著なCISS特性を示しました。分子の表裏、配列、キラリティ、骨格の剛直性を精密に制御することで、従来の高分子にはない自己集合構造や電子・スピン輸送機能の創出を目指しています。
・Chem. Commun. 2024, 60, 10870–10873 (DOI: 10.1039/D4CC03292F).
=> プレスリリース「塗るだけで高効率スピン偏極電流を発生させる 新しいキラル半導体高分子を開発」
=> 「化学と工業」のディビジョントピックスとして紹介 "優れたCISS特性を示すキラル二面性π共役ポリマー"
・Nat. Commun. 2026, 17, 7602 (DOI:10.1038/s41467-026-76059-5). Open Access
=> プレスリリース「\これまでにない形の高分子材料!/ 表と裏が別構造!?「二面性ラダーポリマー」を開発」
二面性分子の一方の面を半導体表面に結合させ、もう一方の面に電荷輸送や界面制御の機能をもたせることで、太陽電池の界面材料として応用しています。
特にペロブスカイト太陽電池では、分子の表裏、キラリティ、π共役構造を精密に設計することにより、表面欠陥の不動態化、正孔輸送、界面での分子配列を同時に制御します。さらに、CISS効果を利用したスピン選択的な電荷輸送が、太陽電池特性に与える影響についても研究しています。
・Angew. Chem. Int. Ed. 2026, 65, e18505 (DOI:10.1002/anie.202518505).
=> JSTプレスリリース「左右の手のように異なる“キラル”分子構造が、太陽電池の性能を高める鍵に~CISS効果によるスピン選択的電荷輸送を活用した新たな戦略を提案~」Selected as "Hot Paper"
・Small 2026, 22, e75074 (DOI:10.1002/smll.75074).
=> プレスリリース「"スピンの向き"を選ぶ仕組みに迫る!不斉誘起スピン選択性を示す キラル二面性の正孔輸送材料を開発」
・ACS Appl. Mater. Interfaces 2023, 15, 6708–6715 (DOI: 10.1021/acsami.2c18446).
・Sustainable Energy Fuels 2024, 8, 4453–4460 (DOI:10.1039/D4SE01096E).
複数の接着部位を同一面に集めた二面性分子は、表面に安定して吸着する「分子三脚」として機能します。接着面とは反対側にさまざまな官能基を配置できるため、分子の向きや配列を保ちながら、表面に新しい化学的・電子的機能を付与できます。
・Chem. Eur. J. 2025, 31, e202404750 (DOI:10.1002/chem.202404750).
主鎖に沿って二本以上の化学結合を有するラダーポリマーは、多重の化学結合に由来する優れた熱安定性・力学特性を示すと期待されています。これまでに合成されてきたラダーポリマーは極めて剛直な主鎖構造を持つものばかりですが、もし柔軟なラダーポリマーが合成できればこれらの性質に加えて制限された二次元的なコンフォメーション挙動に基づく特異な物性発現が期待できます。これまでに、Tröger’s base骨格を主鎖に持つ剛直なラダーポリマー中のTröger’s base骨格のアミナール部位を開裂させ、環反転可能な1,5-ジアザシクロオクタン(DACO)骨格へと変換し、柔軟性ラダーポリマーを合成する新手法を見出しました(ACS Macro Lett. 2017, 6, 775)。この変換反応に伴い主鎖面に沿った構造等価性(対称性)も獲得できます。一連の反応は水・酸素存在下、貧溶媒を反応溶媒として用いても進行するため、自立膜の状態でも反応前の形状を保ったまま簡便に目的のラダーポリマーが得られます。また、反応後に生成する二級アミン部位に種々の官能基を導入することも可能です。この合成手法は構造明確な柔軟性ラダーポリマーを合成する初の手法として、Synfacts誌にて「Mission Accomplished: Synthesis of ‘Flexible’ Ladder Polymers」としてハイライトされるなど、国際的にも高く評価されました。
また、得られたDACO含有ラダーポリマーはルイス酸の配位と脱離に基づき、配座柔軟性が大きく変化する刺激応答性を持つ事も見出しました。DACO類にBPh2Clというルイス酸を作用させると、DACOの二つの窒素原子がホウ素で架橋され、Tröger’s baseのアミナール炭素がホウ素で置換された構造を持つ、Bora Tröger’s base構造が形成される事を見出しました。さらに、このBora Tröger’s base構造は配座変化を起こさない剛直な構造であることを各種測定により明らかにしました。この配位したホウ素は塩基性水溶液で処理する事により容易に脱離し、元の配座柔軟なDACO類に容易に戻る事から、DACOラダーポリマーは、ルイス酸の配位と脱離に基づき、配座柔軟性がスイッチ可能である事を見出しました(Polym. Chem. 2020, 11, 3690)。このような配座柔軟性スイッチングが可能なポリマーはこれまでに存在せず、新しい刺激応答性材料としての機能が期待できます。現在、配座柔軟性スイッチングに基づく物性変化について研究を進めています。
しかし、前述の方法(ACS Macro Lett. 2017)では、原料であるTröger’s base含有ラダーポリマーに対してメチル化を行った際に、二つのメチル基のどちらがメチル化されるは制御不可能であり、実は、構造上にランダム性が生じる事になります。また、Nアルキル基として導入出来ていた置換基もメチル基だけでした。最近我々は、様々なアルキルハライドを用いて、段階的にSN2反応と開環反応を行う事で、メチル基以外にも、ベンジル誘導体、アリル基、カルボニル基などの様々なアルキル基を窒素原子上に持つDACO含有ラダーポリマーが得られる事を見出しました。このとき、二つの窒素に同じアルキル基を導入する事により、非常に構造対称性の高いDACOラダーポリマーが得られるようになりました(Polym. Chem. 2020, 11, 236)。現在、この対称性DACOラダーポリマーの物性調査などを進めています。
参考文献
• ACS Macro Lett. 2017, 6, 775–780 (DOI: 10.1021/acsmacrolett.7b00385).
=> Selected as "Synfacts of the Month" and top cover (DOI: 10.1055/s-0036-1591240).
=> 「化学と工業」のディビジョントピックスとして紹介(日本語での紹介記事)
• Polym. Chem. 2020, 11, 3690–3694. (DOI: 10.1039/D0PY00603C)
=> Selected as Cover Art.
• Polym. Chem. 2020, 11, 236–240. (DOI: 10.1039/C9PY01104H)
=> Invited to an “Polymer Chemistry Emerging Investigator 2020 Issue”
=> Selected as Cover Art.
古くからセカンドメッセンジャーとしての機能が知られている細胞内のカルシウムイオン(Ca2+ )イメージングのための蛍光カルシウム指示薬は多数あるものの、近年新たに情報伝達物質として注目されている細胞外のCaの動態をイメージングする手段はありませんでした。細胞外Ca2+ イメージングのためには、細胞外Ca2+ 濃度であるmMオーダーの解離定数を有し、細胞外領域でも拡散しない仕組みが必要です。我々は、生体系の細胞外Ca2+ センシングタンパク質(CaSR)の「連続するカルボン酸構造によるCaセンシング機構」をヒントに、カルボン酸を有する最も汎用的な高分子「ポリアクリル酸(PAA)」及びそのゲル(g-PAA)をベースとし、凝集誘起発光(AIE)色素(テトラフェニルエテン: TPE)と組み合わせたカルシウムイオンセンサー(PAA-TPEx、g-PAA-TPEx)を開発しました(Sci. Rep. 2016, 6, 24275)。汎用的なビニルポリマーからなるこのシステムは、TPE含有量を変化させるだけでCa2+ に対する感度を調整可能であり、シート状に成型加工して用いることができるなどの高分子ならではの特徴をもっています。現在は、このg-PAA-TPEの応用研究や、より高い時空間分解能を及び生体適合性持つPAA-TPExの開発(ACS Macro Lett. 2018, 7, 711)に取り組んでいます。
参考文献
• Sci. Rep. 2016, 6, 24275 (DOI: 10.1038/srep24275). "Open Access"
=> プレスリリース:紙おむつの材料から新しいカルシウムセンサーを開発
=> Chem Station: カルシウムイオン濃度をモニターできるゲル状センサー
• ACS Macro Lett. 2018, 7, 711–715. (DOI:10.1021/acsmacrolett.8b00291)
上記のPAA-TPEの研究を通じ、Ca2+センサー以外にも凝集誘起発光性(AIE)物質に関する発展研究や共同研究を展開中です。東京大学 柴山 充弘 教授と共同で、静的光散乱を用いて上記のPAA-TPEに対してCa2+応答時の挙動を解明し、メゾスコピックな凝集状態と蛍光挙動の相関を明らかにしました(Macromolecules 2017, 50, 5940)。現在、AIE性のポリマーは多数報告されていますが、静的光散乱を用いて溶液中のメゾ構造の解析を行った研究はこれが初めての例になります。また、台湾国立交通大学 杉山輝樹 教授、増原 宏 教授との共同研究により、光ピンセットを用いたAIE性分子の発光制御にも成功しました(Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 7063)。高知工科大学 林 正太郎 講師と共同で新しいAIE分子群の合成し、その応用研究を展開中です(Tetrahedron 2019, 75, 1079)。他にもAIE物質に関して様々な研究を現在進行中であり、ここで順次紹介していく予定です。
共鳴発光による蛍光湿度センサー
参考文献
• Macromolecules 2017, 50, 5940–5945. (DOI: 10.1021/acs.macromol.7b00883) 柴山先生との共著論文
• Tetrahedron 2019, 75, 1079–1084. (DOI: 10.1016/j.tet.2019.01.012) 林先生との共著論文.
• Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 7063–7068. (DOI: 10.1002/anie.201916240) 増原先生, 杉山先生との共著論文.
• Mater. Chem. Front., 2021, 5, 799–803. (DOI: 10.1039/D0QM00722F) 山本先生(筑波大)との共著論文.