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(2025年3月21日制定)
あらゆる参加者が安心して研究交流を行える場を持続的に提供するためには、倫理綱領、ハラスメント防止策、セーファースペース・ポリシー/ガイドラインの整備などを通じて、誰もが守るべき事柄を明確にしておくことが望ましいと考えられます。
そこでインフォーマル政治研究会は、参加者に関連諸学会が定める倫理綱領の尊重・遵守を求めるとともに、独自のハラスメント防止宣言をまとめ、安心して参加できる研究会のためのガイドラインを定めることによって、多様な人びとがのびのびと交流できる場の創出と維持に努めます。
ここに掲げる本研究会の倫理ポリシーは、さまざまな機関・団体の先行する実践を参考にして策定したものであり、その内容は、研究会の内外に蓄積される各種の知見を踏まえて、絶えず改善を図っていきます。追加や修正が望ましいと思われる事柄については、どなたでも遠慮なく指摘してください。また、新たに同様の取り組みを始めようとする研究会等があれば、自由に参照してください。
非国家領域である学術コミュニティ内部での逸脱行動を抑制するためには、幅広い機関・団体が共通して定めている諸規範の参照を促し、ネットワーク型の自主規制・民間規制を機能させることが有効でありえます。
そこで本研究会は参加者に対し、「日本政治学会倫理綱領」、「日本選挙学会倫理綱領」、「日本国際政治学会倫理綱領」、「政治思想学会倫理綱領」、「日本哲学会研究倫理規程」、「日本言語学会倫理綱領」、「歴史学研究会倫理規程」、「日本文化人類学会倫理綱領」、「日本地理学会倫理綱領」、「社会政策学会倫理綱領」、「経済学史学会倫理綱領」、「日本経営学会倫理綱領」、「日本社会学会倫理綱領」、「日本心理学会倫理綱領」、「日本教育学会倫理綱領」、「日本NPO学会倫理細則」など、関連諸学会が定める倫理綱領の尊重・遵守を求めます。
機関・団体を横断して生じうる学術コミュニティ内部のハラスメント防止にとって、学会のレベルだけでなく、より身近な研究活動の舞台である研究会のレベルでも対策を講じていくことが、きわめて重要になります。
そこで本研究会は、下記の通りハラスメント防止宣言を掲げ、あらゆる参加者に周知します。また、この宣言に則った適切な対応を行うための持続的な体制構築に取り組みます。
インフォーマル政治研究会では、あらゆる参加者の尊厳と人権が侵害されることなく、誰もが安心して交流できる場を提供するため、ハラスメントの防止を強く呼びかけるとともに、相互に自由かつ平等な関係に基づいた、ハラスメントのない研究会活動の実現に向けて努力することを宣言します。
ここではハラスメントを、自他の教育・研究・職務にかかわる諸条件や特性、また、人種・民族・国籍・宗教・信条・年齢・性別・性自認・性的指向・身体的特徴・障害・疾病・経歴・社会的身分などを不当に利用し、相手方の意に反して不快・苦痛・不利益やそれらの脅威を与え、相手方の活動環境を悪化させるあらゆる言動、と定義します。
個別のケースがハラスメントに該当するか否かの判断は、公正な立場から、良識に照らして慎重に行う必要があるものの、インフォーマル政治研究会は一切のハラスメントを容認しません。研究会活動に伴うハラスメントの発生を未然に防ぐために注力し、ハラスメントが発生した場合(およびハラスメントの発生が疑われる場合)は、被害者の意思を尊重した適切な保護・救済と再発防止のために、必要な措置を迅速に講じます。
ハラスメント被害に遭うことやその恐れを抱くことは、特に大学院生をはじめとするアーリーキャリアの研究者にはかり知れない影響を及ぼし、その研究活動や人生設計を大きく左右しかねません(もちろんキャリアを積んだ研究者にとっても、ハラスメントは決して受け入れられるものではありません)。他方、過ちを避けられずにハラスメントの加害者になることも、取り返しのつかない損失につながりうるでしょう。各々の研究活動や研究者間の有意義な交流を妨げることなく、さまざまな研究の健全な発展を図るためには、研究会とその参加者がハラスメントを許さない姿勢を共有し、ハラスメントを防止するために重要となるポイントを確認しておくことが求められます。
そのためインフォーマル政治研究会では、各種のガイドラインやグッドプラクティスに学んで研究会の環境改善と啓発活動に取り組むと同時に、あらゆる参加者が自らの言動を省みて点検することや、ハラスメント防止に関する理解を深めること、所属する機関や団体における対応体制を把握しておくことなどを推奨します。
[*本宣言文の作成にあたっては、「日本哲学会ハラスメント防止ガイドライン」、「表象文化論学会ハラスメントに対する取り組み」、「歴史学関係学会ハラスメント防止宣言」、「日本18世紀学会ハラスメント防止に向けた取り組み」、「ジェンダー法学会ハラスメント防止宣言」、「日本平和学会ハラスメントに対する取り組み・相談窓口」、「日本EU学会ハラスメント防止宣言」、「日本NPO学会ハラスメント対策実施規程」、「日本教育心理学会ハラスメント防止への取り組み」、「OPTFハラスメント予防・対応規程」などを参考にしました。]
ハラスメント防止宣言に則った適切な対応を行うため、以下のa~cに該当する場合は、幹事のいずれかに相談してください。直接の相談が難しい場合は、信頼できるメンバーを介するなどして幹事に告知してください。
a. 本研究会の活動にかかわって、ハラスメントだと思われる言動を経験した(または見聞きした)。
b. 本研究会の活動にかかわって、直ちにハラスメントだとは言えないものの、止めてほしい言動がある。
c. 本研究会の活動において、研究会外で発生したハラスメントによる影響が及ぶことを懸念している。
幹事は相談者の意思を尊重し、プライバシーを保護しながら、関係者への聞き取りを行うなどして調査・検討を進め、必要な措置を講じます。事情に応じて幹事以外のメンバーに協力を要請したり、対応を委嘱したりするケースもありえますが、相談内容が意に反して第三者(別の幹事を含む)に知られることはありません。
本研究会はあらゆる人びとにとって「セーファースペース」であること、つまり、可能な限り誰であっても安心して参加できる、アクセスのしやすい場であることを目指します。セーファースペースは、どのような参加者も失礼な振る舞いに遭ったり差別・排除・攻撃されたりすることなく、互いへの敬意に基づいた対話や意見交換をできる場です。また、各々が有する特性を理由として恐怖や不安を覚えるとか、歓迎されていないように感じるなどといったことがない場です。万人が完全に安心して参加できる場はあくまで理想だと言えますが、真に自由で公正な学術研究を推進するためには、多様な人びとのパースペクティブを包摂できる、理想的な場に近づける努力を怠るべきではありません。どんな人でも「参加/発表してよかった」「また参加/発表したい」と思ってもらえるように、本研究会は、異なる人びとが「楽しく」研究の話をできる空間づくりに努めます。
研究会をセーファースペースにしていくためには、社会全体と学術コミュニティの内部においてより脆弱であったり周辺化されたりしている人びとが、気持ちよく研究会に加わり、自由な発言を行えるように、適切な保護やサポートをするべきです。人種、ジェンダー、年齢、障害などを理由にして、存在を軽んじられたり、いないことにされたり、過小評価されたり、罵倒されたり、威圧されたりするようなことは、あってはなりません。また、大学院生であること、アーリーキャリアであること、不安定雇用(ノンテニュア)であること、研究教育機関に所属していない独立研究者であることなどを理由として同様の目に遭うことも、やはりあってはなりません。
本研究会は、多様なテーマに関して多様なアプローチを用いる研究者の参加や発表・議論を歓迎すると同時に、あらゆる参加者や発表・議論の内容が他者に対する基本的な敬意を備えていることを求めます。さまざまなパースペクティブからの自由な発言と活発な対話を奨励する一方で、そこに特定の個人や集団にとっての脅威が伴うことを許容しません。ハラスメントには該当しない言動であっても、誰かに居心地の悪さを感じさせる振る舞いは、セーファースペースを実現するために自制・抑止するべきだと考えます。
具体的な研究会活動のプロセスにおいて、さまざまな参加者にセーファースペースの実現に向けた責任ある行動を促すためには、いくつかのポイントに関するガイドラインが有用でしょう。人びとのあいだに構造的な優位と劣位を生む特定社会の下では、学術的な議論が行われる場もまた、必ずしも中立的とは言えません。構造的劣位にあるマイノリティの存在は認識されにくく、そうした人びとのパースペクティブは不当に排除されやすいですが、構造的優位にあるマジョリティの側は、しばしば、そのことに気づいてさえいないのです。セーファースペース・ガイドラインは、マジョリティが意識しにくいバイアスやバリアへの注意を促して、よく知らない事柄について学ぶことを後押しする手段となります。また、ある特性において周辺化されている人も別の特性に関してはそうではないことから、自分とは異なる特性を持つ相手との持続的な相互学習プロセスへの参画を呼びかける、「招待状」でもあります。あなたが誰であっても、本研究会に参加される前には、必ず以下のガイドラインに目を通すようにしてください。
(1)相互の尊重
あらゆる参加者は互いを対等な存在として扱い、基本的な敬意をもって接するべきである。誰が相手であっても、見下したり侮ったりするような言動をするべきではない。誰であっても、正当な理由なく、発言を遮られたり妨げられたりするべきではない。
研究会における発言機会は対等な参加者間で分け合うべき限られた資源であり、少数の人ばかり長く多く話すことは望ましくない。あなたが比較的年長であったりキャリアを積んでいたりするため、発言時間が長くなりがちだったり発言頻度が多くなりがちだったりする場合は、できるだけ簡潔に話せるよう発言方法を工夫したり、積極的に他の参加者に発言を促したりするなど、参加のあり方を見直してみることが望ましい。
参加者間で意見の対立が生じた場合は、異なるバックグラウンドやパースペクティブを有する他者への尊重に基づき、開かれた姿勢で対話を行うべきである。自身の考えや立場は丁寧に説明することを心がけ、相手から寄せられた意見にも真摯に向き合うことが望ましい。
研究をめぐる相互批判は健全な態度と方法で行われる限りにおいて不可欠と言えるが、批判的なコメントは研究のさらなる発展を共通目的として抱く対等な人びと(ピア)のあいだで、敬意を失うことなく交わすべきものである。あなたが比較的年長であることやキャリアを積んでいること、豊富な専門知識を有していることなどは、他の参加者を嘲笑したり、相手が求めていない「指導」を与えたりしてよい理由にはならない。誰かを貶めたりディスカレッジしたりするのではない、建設的なコミュニケーションを意識するべきである。
多様なパースペクティブからの自由な発言と活発な対話が行われることは望ましいが、同時にその場(オンライン空間を含む)にいる人びとが脅威や苦痛、フラッシュバックなどによる心理的負担を感じることのないように、取り上げるトピック、内容、表現、話し方などについて、十分配慮しなければならない。たとえば深刻な差別や暴力にかかわるテーマを扱うなど、自身の発表が誰かに脅威や苦痛、心理的負担を与えるかもしれないと感じたら、前もって司会者または幹事に相談するべきである。また、幹事は発表者と事前に連絡を取る際に、発表のテーマと内容に倫理的な懸念点がないかどうかを、可能な範囲で確認しておくことが望ましい。
他者への敬意を欠いた言動、他者を脅かしかねない言動、ハラスメントになりうる言動などが行われた場合、司会者または幹事は速やかに介入して当該の言動を止め、研究会の倫理ポリシーに則った言動を求めるべきである。これらの言動にさらされたり気づいたりした参加者や、その他の懸念がある参加者は、躊躇せず司会者または幹事に伝えることが望ましい。
(2)多様性の重視
研究会の活動全般にわたって、異なる特性を有する参加者の多様なパースペクティブを、できる限り包摂することが求められる。たとえばジェンダー、出身大学、所属機関、居住地、専門分野、研究手法、キャリアなどの点において、決まった特性を有する一部の人びとのパースペクティブが偏重されないように、十分配慮すべきである。
幹事の選任にあたっては、可能な範囲で多様なパースペクティブを反映しやすい構成にすることを目指すべきである。幹事は相互尊重に基づいて共同で業務を遂行し、さまざまな参加者が活動しやすい研究会運営のために努力することが求められる。
ただし、どのような組み合わせであっても、少数の幹事に期待できる代表性は限られている。ハラスメント防止の取り組みをはじめとする各種の業務を適切に行うため、幹事は自分たちと異なる特性を有する参加者の意向・意見を積極的に聴取し、必要な場合は業務への協力要請や業務の委嘱を行うべきである。幹事以外の参加者は、こうした場合に可能な範囲で幹事と協働することが望ましい。
学会公募企画への応募や合評会等の開催にあたって登壇者の人選を検討する際には、男性ばかりの「マネル」となることを極力避けるなど、多様性確保の観点を必ず考慮に入れるべきである。
(3)合理的配慮の原則
どのような特性を有する人にも等しく参加の機会をもたらせるように努めるべきである。参加を妨げるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としている人から申し出があった場合には、可能な範囲での柔軟な対応、すなわち合理的配慮を行わなければならない。重すぎない負担によって対応可能であるにもかかわらず合理的配慮を行わないことは差別的取り扱いであり、許されない。
合理的配慮は本人の意思の尊重を前提とするものであり、その内容は本人との対話を重ねながら、必要とされる対応とそのために引き受けられる負担の程度をすり合わせることで定まる。外見から障害があることを判別できないなど、もっぱら自分にとっての都合から相手が求めている対応の必要性に疑問を向けるべきではない。また、対応する側が一方的に合理的配慮の内容を決めたり、どれだけ負担が生じるとしても十全な対応をしなければならないと考えたりすることは、適切でない。
合理的配慮の内容は、対応を必要とする人が有する特性や、個別の場面・状況に応じて異なる。そのため、配慮内容は本人の意思や場面・状況を確認しながら、適宜見直しを行うべきである。
ケースによっては合理的配慮の申し出そのものにバリアが存在し、本人から申し出ることが容易でない可能性も考えられる。司会者または幹事は、この可能性について十分留意することが望ましい。その他の参加者は、同じ場(オンライン空間を含む)にいる自分とは異なる人びとが潜在的に多様なニーズを抱えている点を意識し、他者の尊重に基づいて、ニーズ充足に寄与する可能な範囲での協力を惜しまないことが望ましい。
(4)一般的に可能な配慮
合理的配慮は本人からの申し出を起点とするが、どのような特性を有する人でも参加しやすい場をつくるために、一般的に配慮できる事柄もある。発表のアクセシビリティを高めることは、その1つだろう。このために、できるだけ事前に資料を配布したり、より視認性・可読性の高いデザインを用いて資料作成と発表を行ったり、写真や図表の説明を口頭で補ったりする工夫を推奨する。
研究会を対面方式(またはハイブリッド方式)で開催する場合、その会場が車椅子でもアクセスしやすい場所であるかを確認しておき、アクセスしにくい場所であれば、その点を事前に周知するとともに、必要とする人への手助けを行うべきである。
研究会を対面方式(またはハイブリッド方式)で開催する場合、その会場付近に障害やジェンダーにかかわらず使用しやすいトイレがあるかを確認しておき、トイレの場所をわかりやすく周知するべきである。
(5)プライバシー保護
誰かの性自認(ジェンダーアイデンティティ)を本人以外が一方的に判断することは、可能でも望ましくもない。名前や外見などから相手の性自認を取り違えて接してしまうミスジェンダリングを避けるため、よく知らない人物に言及したり、不特定多数がいる場(オンライン空間を含む)で誰かを名指したり、誰かに呼びかけたりする場合には、できるだけジェンダー中立的な表現を用いるべきである。
自分に関するどのような情報をどこまで公開するかは、本人が決めることである。プライバシーにかかわる情報全般について、本人に情報提供を強いるべきではないし、本人が望まないかたちで第三者に明かすべきでもない。アウティングは許されない。また、本人の同意を得ないまま写真や動画を撮影したり、それらをソーシャルメディアなどで公表したりするべきではない。
(6)その他
政治のインフォーマルな部分や社会に遍在するインフォーマルな政治に注目しようとする本研究会の特徴ゆえに、セーファースペースの実現を妨げない発表や議論のあり方に関して、とりわけ留意するべき事柄がありうる(たとえば日常生活と密接にかかわるインフォーマルな政治が扱われることから、具体的事例を論じる際に提示される画像やインタビューの内容が参加者のフラッシュバックを引き起こす可能性は、相対的に高いかもしれない)。あらゆる参加者がこの点を意識し、望ましい研究会活動の姿について随時話し合い、継続的な改善を図るべきである。
[*本ポリシー/ガイドラインの作成にあたっては、「MAP UKによるセーファースペース・ポリシーとその解題の翻訳(対訳版)」、内閣府リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」、障害学会「合理的配慮等に関するガイドライン1.0」などを参考にしました。]