能は、室町時代(14世紀)に成立し、約600年の歴史ある日本の代表的な古典芸能です。能面と装束を用い、人間の哀しみや怒り、恋慕の想いなどを能舞台上で表現します。
狂言は、中世の庶民の日常生活を面白おかしく演じます。「太郎冠者(たろうかじゃ)」を始め、様々な明るいキャラクターの登場人物が特徴的です。
●間狂言(あいきょうげん) 狂言方が、能の中の登場人物の一員として出る役。アイと略称する。前・後場のつなぎに出る語り間、能の戯曲的進行に直接関係する会釈間とに大別される。また替間のように、ほとんど独立した形で挿入されるものもある。扮する人物は多く所の者(東北)であり、太刀持(望月)・能力(道成寺)・強力(安宅)・早打(鉢木)・追手(国栖)・船頭(船弁慶)・官人(鶴亀)・末社の神や仙人(石橋)・動物の精(江島の替間)・木葉天狗(鞍馬天狗)・下人(大原御幸)・下女(正尊)の類である。間狂言に対して、独立して演ずる本狂言という。
●扇(おうぎ) 能では石橋の獅子の如き例を除き、ほとんど扇を手にして登場する。他に持物のあるときでも、懐中あるいは腰にさして出る。畳んだとき先の広がった中啓と、普通の常の扇とがある。常の扇は素袍男のみ用いる。囃子、地謡、後見などはすべて常の扇を携える。
●後見(こうけん) 登場人物の演技を後見し、装束を直したり、作り物や小道具を扱ったりする役。シテ方から一〜三人出る。芝居の黒子とは違い、シテに事故の生じたとき、ただちに代理すべき役で、本来は舞台監督的職能を持つ。三役も、それぞれ後見を出すことがある。
●仕舞(しまい) 能の一部分(クセ・キリ・段・道行など)だけを、シテ一人で(まれにはツレ・子方を伴うこともある)面も装束もつけず、囃子も用いず、地謡だけで紋服、袴のまま演ずること。
●能狂言(のうきょうげん) 能楽における狂言のこと。歌舞伎狂言などと区別するためにとくに能狂言と称えられたが、現在では単に狂言と呼ぶ方が普通である。
●袴能(はかまのう) 夏季などに、面・装束をつけずに紋服・袴で一番の能を演ずること。
●白式(はくしき) 常の装束の替りに、着付・袴類・上衣類一式を白地あるいは白地に銀の模様のものにかえる特殊演出。清高な感じが強調され、演出も位が重くなる(白翁・融(とおる)白式・船弁慶白式)。なお鷺(さぎ)の如く本来白一式の能も、太夫以外は何か一色入れるしきたりで、弟子家が白づくめで演じるときは「白式」の小書をつけねばならなかった。
●運(はこ)び 運歩のこと。能における基本的で重要な歩行の演技。いわゆる摺足で出して爪先を上げ、またおろす。自然の歩き方を分解し誇張したもの。曲により、役柄・心持により、それぞれ運びが違うが、特殊なものに痩女(やせおんな)の足(求塚(もとめづか))・盲目足(めくらあし)(弱法師)・鬼足(黒塚(くろづか))・狐足(小鍛冶(こかじ))などがあるが、流儀によっては用いない。
●半幕(はんまく) 重い能や特殊演出の能で、後見が揚幕(あげまく)の裾を巻き上げて、後シテの下半身(床几にかけているときは全身)を見せるやり方。石橋・清経恋ノ音取・船弁慶の小書のときなど。一たん揚幕をおろし、改めて本幕に上げ、シテは橋掛りへ出る。
●直面(ひためん) 能の登場人物が、面をつけず素顔のままのこと。この場合も素顔を一つの面として扱い(化粧はしない)、顔面でことさらな表情を作らない。
●本幕(ほんまく) シテ・ツレ・子方・ワキ・狂言などの登退場の際、揚幕を上まで一ぱいに上げること。
●面当(めんあて) 面の裏につける当て物。紙に綿をシンとして枕型につくる。その都度面に貼りつけて用いる。面との折り合いをよくし、発声を楽にするのが目的。流儀・演者によっては用いない。
●面箱(めんばこ) 面を入れる箱。翁のときは舞台に持ち出し禁止舞台の上で面の出し入れをする。
●物着(ものぎ) シテ(ワキ・ツレ・子方も)が能の途中で舞台上にあって装束の一部を着かえ、小道具をつけたりすること。ほとんど後見座にクツロイで行なわれるが、舞台中央(松風(まつかぜ))のこともある。中には中入をやめて物着にする小書(井筒)もあり、物着をやめて中入する曲(葵上 空(くう)ノ祈(いのり))もある。