スナメリのストランディング調査
スナメリは沿岸性のため,日本国内では,鯨類の中で最も漂着記録が多い種となっています.三重・愛知の両県だけで,年間平均90件ほどスナメリのストランディングがあり,伊勢湾・三河湾ストランディングネットワークがその対応にあたっています.
【注意点】
・死亡した個体は.人にも有害な病原体を保有している可能性がありますので,絶対に素手では触れないようにしてください.
・スナメリは,法令により許可なく標本を所持することが禁止されている種です.ストランディングした個体を扱って研究等を行う場合には,農林水産大臣の許可が必要であり,調査後には水産庁への報告が義務付けられています*.
*詳細は農林水産省Webページの「水産資源保護法施行規則の一部を改正する省令の制定について」をご覧ください.
調査のための簡易マニュアル
海岸等でスナメリの死体を発見した場合には,当該個体に関する各種データの記録や研究用試料の採取を行う必要があります.
このときの手順や重要なポイントを整理したものとして,試行的に簡易マニュアルを作成しました.現場での調査に携行しやすいよう,プラスチック製の下敷き形式としています.
ボタンをクリックすると,PDF形式でダウンロードできますので,適宜ご利用ください.
なお,本マニュアルはA4サイズの下敷きとして作成しているため,PDFを印刷して使用する場合には,裏面上段に記載しているスケール(28cm)が実際の長さと一致しない場合がありますので,あらかじめご了承ください.
(参考)簡易マニュアルの内容
・調査上の注意
・調査道具の例
・発見状況の記録
・場所の記録
・個体の撮影
・状態評価
・各部位の計測・その他の特徴の記録
・試料の採取
・死体の処理
ネズミイルカ科に属するスナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)は,突出したくちばし(吻)を持たず,丸い頭をしているのが特徴です.
また,背びれがなく,代わりに「キール」と呼ばれる隆起部が背中の正中線に沿って見られます.
体色は出生直後は濃い灰色ですが,成長に伴って明るい灰色へと変化していきます.
(イラスト:永島徹)
鯨類の仲間は,腹側から見たときの生殖溝と肛門の位置関係で,雌雄を判別することができます.
スナメリも同様で,メスには生殖溝をはさんで1対の乳溝が見られます.オスでは生殖溝からペニスが突出することもあります.
スナメリの仔どもは,体長約80cmで出生します.
新生仔では,体側部に複数の在胎痕(胎児しわ)が認められるほか,上顎に洞毛が残っていること,舌縁辺にフリンジ状の構造が見られること,さらに,へその緒が突出していることなどの特徴が見られる場合があります.
伊勢湾・三河湾では,5~6月に新生仔のストランディングが多いことがわかっています.
スナメリは,中国から日本にかけての浅海や河川に生息しています.沿岸性がきわめて強いため,漁業,海上交通,開発など,様々な人間活動の影響を受けやすい種であると考えられています.
国際自然保護連合(IUCN)の「レッドリスト」では,絶滅危惧種(EN)に指定されています.
伊勢湾を泳ぐスナメリ
三重県津市町屋海岸沖
日本沿岸のスナメリは,①仙台湾〜東京湾,②伊勢湾・三河湾,③瀬戸内海〜響灘,④有明海〜橘湾,⑤大村湾の5つの地域個体群に分かれており,各個体群は遺伝的に独立していると考えられています(Yoshida et al. 2001).そのため,地域ごとに適切な保全管理をする必要があります.
伊勢湾・三河湾のスナメリ個体群は,2014年に実施された航空機による広域調査において,約3,900頭と推定されています(小川ら 2017).しかし,本海域における個体群の動向を把握するためには,今後も継続的なモニタリングを行い,注意深く評価していくことが重要です.
長期的なストランディング調査は,死亡個体の発生状況や生物学的情報を蓄積することができ,沿岸域に生息するスナメリ個体群の状態を把握するうえで,重要なモニタリング手法の一つとされています.
5つの地域個体群
Yoshida, H., Yoshioka, M., Chow, S. & Shirakihara, M., 2001. Population structure of finless porpoise (Neophocaena phocaenoides) in coastal water of Japan based on mitochondrial DNA sequences. J. Mammal., 82(1), 123-130.
小川奈津子,吉田英可,中村玄,加藤秀弘,2017.伊勢湾・三河湾におけるスナメリの個体数と分布.水産海洋研究,81(1),29-35.