「善く(ブエン)生きる(ビビール)」ための

経済を考えるブックフェア

―人間中心主義から生命中心主義へー

ブックフェアについて

十九世紀の産業革命以降、「動力化」、「近代化」の名のもとに、人類はエネルギー資源を開発して経済成長をめざし、私たちの生活の物質的な豊かさを求めてきました。

二十世紀後半には、こうした資源や自然を切り崩すことを基盤とした、いわゆる採取型の経済開発の推進には、矛盾や疑問が投げかけられるようになりました。市場経済と競争の理念に基づいた、開発一辺倒の生活様式は、物質的欲求は満たしても、環境破壊や健康被害をもたらすことによって、必ずしも「豊かなくらし」をもたらすとは限らないことに、気づかされるようになったのです。そして、人間開発(human development)や等身大の発展(development at human scale)や、地球環境にやさしい、持続可能な発展(sustainable development)などの新しい発展概念が生まれました。

二十一世紀の今も、依然として私たちは地球・自然と人間の共生という課題に直面しています。「脱成長」や「脱開発」の思想が芽生える一方で、実践や運動の中から、オルタナティブな経済や生活様式をめざす哲学が生まれてきました。これが、「社会的・連帯経済」や、ブエン・ビビール、倫理的消費という考え方です。背景には、グローバル化が進む中で、一層貧困や社会的排除、さらには経済的利害に由来する暴力的な行為が解決されないばかりか、世界のある地域では一層深刻になっているという現実があります。そうした現実に対して新しい生き方の方向を求める動きが生まれてきました。

これまで、誰しもが「より良い生活」を求めて発展を模索してきましたが、そこには物質的な豊かさや便利さ、人よりも「豊かでありたい」という価値観がありました。しかしそれは、モノ・カネという面では豊になっても、精神的な安定や、貨幣価値では測れない自然との調和や社会的紐帯の再構築のためには不十分でした。オルタナティブな経済システムや生活様式を問う試みに共通してあるのは、人と人、人と地域社会、人と自然との間でどのような関係性を作りながら真の豊かさを求めるか、という新しい問題意識です。「(他人より)良い生活」を求めるのではなく、社会・自然との調和において「善く生きる」こと、そして、生命の価値を中心に据える考え方です。

現在の市場経済システムにありながら、はたして私たちは倫理的価値や関係性を重視した生き方を実現することは可能でしょうか。あるいは既存のシステムをどのように変えてゆくことが可能でしょうか。欧州やラテンアメリカの思想と実践にはオルタナティブな経済を追求した考え方や経験が豊富にあります。日本でも共通、共鳴する考え方と実践があります。そこには現在の市場経済中心の価値観を変えてゆくためのヒントがあります。

本ブックフェアでは、「連帯経済」を理解するための理論や思想に関する本、その実践である協同組合運動、フェア・トレード、地産地消などを扱った本を集めました。これらの本を手掛かりに、オルタナティブな経済の可能性をみなさんと考えてみたいと思います。

本イベントは2017年116日(月)から11月24日(金)に上智大学四ツ谷キャンパス中央図書館1F展示スペースで行われたものです。