重岡 仁 (しげおか ひとし)
東京大学 公共政策大学院 教授
サイモンフレーザー大学 経済学部 准教授 (カナダ)
専門分野: 応用ミクロ経済学全般 (特に医療経済学)
研究概要: 専門は応用ミクロ経済学全般、特に医療経済学。医療制度設計、医療サービスの価格の弾力性、過剰医療等のテーマについて、政府統計、サーベイデータ、実験データ、民間データ等の様々なデータを用いた実証研究を行う。医療経済学以外にも、労働、教育、行動経済学に関して幅広く研究を行う。American Economic Review, American Economic Journal: Applied Economics, Review of Economics and Statistics , The Economic Journal, Journal of Health Economics等の国際的な経済学ジャーナルに論文を執筆。
プロフィール: 大阪府堺市出身。東京大学工学部卒。同大学院修士(工学)、コロンビア大学修了(国際関係)を経て、コロンビア大学にて経済学Ph.D.を取得。その後、カナダのサイモンフレーザー大学経済学部にて2012年9月から2021年8月まで研究と教育に従事。2021年9月より東京大学公共政策大学院に勤務。現在、American Economic Journal: Economic Policy, Journal of Health Economics, Japanese Economic Reviewの編集委員(アソシエイトエディター相当)を務める。全米経済研究所(NBER)、労働経済学研究所(IZA)、経済産業研究所(RIETI)、東京大学政策評価研究教育センター (CREPE)における研究員職を兼任。東京大学エコノミックコンサルティング株式会社(UTEcon)アドバイザー。2024年、日本経済学会より石川賞受賞 (受賞理由はこちら)。
より詳細なCVはこちら (2024年11月更新)
日本語による寄稿、取材等
内閣府 第7回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ 第5回 共通課題対策ワーキング・グループ
提出PDF, 2023.03.06政府統計の最大限活用急げ データが開く市場・政策
日本経済新聞 経済教室, 2023.03広がる子供の医療費無料化、過剰受診も 見直しは進まず
日本経済新聞 経済教室, 2023.02 (取材)無駄な医療費を増やす 「無償化」の思わぬ悪影響 子ども医療費無償化で「健康な子ども」の不要な受診が増える
東洋経済, 2021. 10対談:統計が果たすべき役割と改善
経済セミナー 2019年6・7月号医療改革に新たな視点(上) 「窓口負担ゼロ」効果は疑問
日本経済新聞 経済教室, 2018.12企業に向けた政策で高齢者就業は促進されるのか? (記事作成:尾崎大輔氏)
CREPEフロンティアレポートシリーズ CREPEFR-11, 2018東日本大震災の経験は人々の「リスク」に対する考え方をどう変えたか? (記事作成:尾崎大輔氏)
CREPEフロンティアレポートシリーズ CREPEFR-9, 2017医療・健康分野でのフィールド実験を進めるために
経済セミナー 2015年6・7月号医療費の「高齢者1割負担」がもたらすメリットとデメリット 医療需要も、料金に反応するのか?
日経ビジネス 気鋭の論点, 2014.02負担1割の70歳、患者行動の変化を分析
医療経営CBnews 2013.07海外論文Survey 失われた女性:その解決策とは?
経済セミナー 2010年2・3月号海外論文Survey 90年前のスペイン風邪はまだ終わっていないのか?
経済セミナー 2009年10・11月号
査読論文(原著は英語のページの方にあります)
AI, Skill, and Productivity: The Case of Taxi Drivers (with Kyogo Kanazawa, Daiji Kawaguchi, and Yasutora Watanabe)
Management Science, forthcoming
AIは仕事にどのような影響を与えるのでしょうか?特に、AIは生産性にどういった影響を与え、その影響は労働者のスキルレベルによってどのように異なるのでしょうか? 本研究では、タクシーに需要予測AIが導入された際の詳細なミクロデータを用いて、分析を行っています。
- 東京大学のプレスリリース: 日本語版, 英語版
- 共著者の川口氏、渡辺氏による解説記事 (日本語版, 英語版)
- メディア: 日経新聞Golfing CEOs (with Yutaro Izumi, and Masayuki Yagasaki)
Labour Economics (special issue), forthcoming.
女性CEOのビジネスネットワークは男性CEOに比べて小さいことが知られています。本研究では、TSR社が保有する日本企業約100万社の取引データを用い、CEOの多くが趣味としているゴルフを介して、女性CEOが男性のネットワークにつながることができるかを分析しました。Later-life Mortality and the Repeal of Federal Prohibition (with David Jacks, Krishna Pendakur, and Anthony Wray)
Journal of Public Economics, 238: 105192, 2024.
アメリカでは1920年から「禁酒法」といって、アルコール飲料の醸造、販売、運搬を禁止した「世界の大実験」と呼ばれる法律が施行されました。1933にその法律は終わりを告げます。そこで、飲酒が解禁になった際に妊娠していた母親から生まれた子供と、解禁の直前に生まれた子供を比較することで、妊娠中の母親の飲酒が、生まれた子供の将来の寿命に影響を与えるかを調べた研究です。Asymmetric Demand Response when Prices Increase and Decrease: The Case of Child Healthcare (with Toshiaki Iizuka)
The Review of Economics and Statistics, 105(5): 1325–1333, 2023.
モノの値段が200円から300円に上がった際に需要が「減る」量と、300円から200円に下がった際に需要が「増える」量は、古典的な従来の経済学では同じだと考えられてきました。果たしてそれは本当なのでしょうか。この仮説を子どもの医療サービスにおいて、分析しました。その結果、価格(=自己負担割合)上昇時(0%から30%)の需要減は、価格低下時(30%から0%)の需要増の2倍以上となりました。需要が価格に非対称に反応することを示唆しており、政策立案においても価格変化の方向性に留意する必要性を示しています。
Temporal Instability of Risk Preference among the Poor: Evidence from Payday Cycle (with Mika Akesaka, Peter Eibich, and Chie Hanaoka)
American Economic Journal: Applied Economics, 15(4): 68-99, 2023.
所得の低い人々は、月に1度支払われる年金等に強く依存しています。一方で、経済的な意思決定の多くは、その人がどの程度リスクを取る人なのか(リスク選好)に依存しています。そこで本研究は、年金の支払いの前後で、リスク選好が変わってしまうことで、最適な経済的な意思決定ができていないのではないか、ということをアメリカと日本のデータを用いて検証しました。Urban Mortality and the Repeal of Federal Prohibition (with David Jacks, and Krishna Pendakur)
Explorations in Economic History, 89: 101529, 2023.
アメリカでは1920年から「禁酒法」といって、アルコール飲料の醸造、販売、運搬を禁止した「世界の大実験」と呼ばれる法律が施行されました。1933にその法律は終わりを告げるのですが、禁酒法の終了後に飲酒が解禁になった際の、(乳幼児死亡以外の)成人の死亡、特に暴行、自殺、交通事故等による死亡に与えた影響を分析しています。Is Zero a Special Price? Evidence from Child Healthcare (with Toshiaki Iizuka)
American Economic Journal: Applied Economics, 14(4): 381–410, 2022.
「タダ(無料)」とは特別なのでしょうか。物やサービスの値段が、例えば105円から100円になるのと5円から0円になるのとでは、需要に与える影響が大きく異なると指摘されています(「ゼロ価格効果」)。レセプトデータを用いて、子どもの医療サービスにゼロ価格効果が果たしてあるのかを検証しています。その結果、「ゼロ価格」は特別な価格で、少額の定額負担(例:一回500円)と比べて、医療の利用を大幅に増やす、比較的健康な子供の利用を増やす、抗生物質の不適切な使用を増やす、どがわかりました。 少額の定額負担はこれらを減らすと同時に、医療費が高額となるリスクを大幅に軽減するメリットもあります。一方で、「ゼロ価格効果」の活用も望まれます。例えば、価値が高く利用を増やしたい医療は、あえて無償とすることで、利用を大幅に増やせます。小児の予防注射はその良い例です。 より一般的には、助成制度や価格設定において、タダと少額負担をたくみに使い分けることが重要となります。
- メディア: 日経新聞 , 東洋経済, 日経新聞(取材)
- 東京大学のプレスリリース: 日本語版, 日本語(詳細版), 英語版
- 共著者の飯塚氏による解説記事 (日本語版, 英語版)、解説ブログCOVID-19 Vaccination Mandates and Vaccine Uptake (with Alexander Karaivanov, Dongwoo Kim, and Shih En Lu)
Nature Human Behaviour, 2022. [ インパクトファクター 13.663 (2020)]
先進国の多くでは、飲食店や博物館等の室内施設に入る際に、コロナワクチン接種を受けたことを証明する必要があります(『ワクチンパスポート』と呼ばれる)。そこで本研究は、ワクチンパスポートを政府が導入すると宣言することにより、それまでコロナワクチンを受けてこなかったワクチン未接種者が、ワクチンを接種するようになるのか、について、カナダ、フランス、イタリア、ドイツのデータを用いて検証しました。この論文は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)等の行政機関やThe Economist等の雑誌や新聞に取り上げれました。
- メディア: 日経新聞
- 東京大学のプレスリリース: 日本語版, 日本語(詳細版), 英語版How Do Peers Impact Learning? An Experimental Investigation of Peer-to-peer Teaching and Ability Tracking (with Erik Kimbrough, and Andrew McGee)
Journal of Human Resources, 57: 304-339, 2022.
学校のクラスメートが本人の学力や将来の賃金等の様々なアウトカムに影響を与えることが知られています(ピア効果)。そのメカニズムの一つは、優秀なクラスメートに教えてもらうことです。一方で、最近は同じ学力の学生同士の方が先生も教えやすく、学生同士も気軽に話しやすく学びやすいのでは、という理由等で、習熟度(成績)別にクラス分けをする政策が多く取り入れられています。しかし、習熟度別にクラスを分けると、学力の低い生徒は一つのクラスに集められてしまうので、優秀なクラスメートから学ぶ機会が失われてしまうのではないか、それによって成績がむしろ下がるのでは、という仮説をラボ実験で得られたデータを用いて検証した論文です。Infant Mortality and the Repeal of Federal Prohibition (with David Jacks, and Krishna Pendakur)
The Economic Journal, 131(639): 2955–2983, 2021.
アメリカでは1920年から「禁酒法」といって、アルコール飲料の醸造、販売、運搬を禁止した「世界の大実験」と呼ばれる法律が施行されました。1933にその法律は終わりを告げるのですが、飲酒が解禁になることで、妊婦を含めた人々のアルコールの消費量が増え、乳幼児の死亡が増えるのでは、という仮説を検証した論文です。Face Masks, Public Policies and Slowing the Spread of COVID-19: Evidence from Canada (with Alexander Karaivanov, Shih En Lu, Cong Chen, and Stephanie Pamplona)
Journal of Health Economics, 78 102475, 2021.
室内でのマスク着用を義務化する政策が、コロナ感染者数や死亡者数の増加を抑制する効果があるのかを、カナダのデータを用いて検証した論文です。この結果は、WHO(世界保健機関)、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)、カナダ政府、バンクーバー市議会等の行政機関や、世界各地の様々な新聞や雑誌(Nature等)で取り上げられました。Income-comparison Attitudes in the United States and the United Kingdom: Evidence from Discrete-choice Experiments (with Katsunori Yamada)
Journal of Economic Behavior & Organization, 164: 414-438, 2019.
人間は周りの人々の所得が自分より高いことを妬む性質があることが知られています。そういった性質がイギリスやアメリカという同じ英語圏でも違った文化を持つ国でどれほど違うのかを、離散選択実験という手法を用いて検証した論文です。自ら作成したオンラインのサーベイ実験で得たデータを使っています。Do Risk Preferences Change? Evidence from the Great East Japan Earthquake (with Chie Hanaoka, and Yasutora Watanabe)
American Economic Journal: Applied Economics, 10(2): 298-330, 2018. 第4回ヤフー株式会社金融統括本部優秀論文賞
経済的な意思決定の多くは、その人がどの程度リスクを取る人なのか(リスク選好)に依存しています。これまで経済学では、リスク選好は生まれながらにおおよそ一定だと考えられてきましたが、人生を揺るがすほどの強い恐怖に曝されることで変わってしまうのかもしれません。そこで、2011年の東日本大震災がリスク選好を変えるのか、その場合はよりリスクを好むようになるのか、それともリスクを嫌がるようになるのか、またその影響は短期ですぐに消えるものなのか、それとも長期で残り続けるものなのか、といった問いを検証しています。震災前から収集されていたパネル調査を用いて分析しています。
- メディア: 日本語一般向け記事The Effectiveness of Demand-side Government Intervention to Promote Elderly Employment: Evidence from Japan (with Ayako Kondo)
Industrial and Labor Relations Review, 70(4), 1008-1026, 2017.
高齢化の進展とともに、公的年金をはじめとする社会保障財政への懸念と、生産年齢人口の減少による人手不足が問題になっています。そこで、日本政府は高齢者になるべく長く働いてもらうために、様々な政策を取ってきました。まず、2001年に、公的年金の支給開始年齢引き上げをスタートさせ、次に2006年に高年齢者雇用安定法(高年法)を改正し、企業に高齢者の雇用を確保すること(年金支給開始年齢までの定年年齢引き上げ、継続雇用、あるいは定年廃止のいずれか)を義務化しました。この論文では、これらの政策によって、60代前半の労働者が本当に長く働くようになったかを分析しました。
- メディア: 日本語一般向け記事The Effect of Patient Cost-sharing on Utilization, Health and Risk Protection
American Economic Review, 104(7): 2152-2184, 2014.
医療費の抑制は政府にとって緊急の課題ですが、その一つの手法として、患者の窓口負担を増やすことが挙げられます。しかし、患者の窓口負担を増やすことには、利点と難点の両方があります。利点は、窓口負担が増えることで、患者の無駄な医療サービスの利用を抑制できる点です。一方で、多くの窓口負担を強いることで患者が必要な治療を受けずに症状が悪化し、より深刻で費用のかかる病状に陥る可能性があります。また、もう1つの難点は、多くの窓口負担を強いると、病気の際にも突然の大きな支出を避けることができおかげで、他の消費を大幅に減らさずに済む(消費の平準化)という、保険の本来の利点が損なわれる点が挙げられます。そこで、70歳を境に自己負担額が3割から1割に下がる当時の日本の医療制度に注目し、70歳を境に高齢者の受診行動がどのように変わり、上記の利点と難点のどちらが上回りそうかを、分析した研究です。
- メディア: 日経ビジネスSupplier-induced Demand for Newborn Treatment: Evidence from Japan (with Kiyohide Fushimi, MD)
Journal of Health Economics, 35: 162-178, 2014.
金銭的なインセンティブが人々の行動を変えることは知られていますが、同様のことは病院や医師についても成り立つのでしょうか。日本の診療報酬(病院や医者に支払われる金額)制度は、これまで治療をすればするほど、治療した分の代金を支払われる出来高払いであったために、余分な治療や薬が処方される過剰医療が指摘されてきました。そこで、政府は2003年から、病気の種類ごとに一定の額を支払う定額報酬(実際は日ごとの定額)を段階的に導入しました。そこで、本研究では新生児医療に注目し、この制度変更によって財政的に大きく損失を受けそうな病院ほど、その損失を取り戻せるように治療のやり方を変えるか、といったことを分析しました。Effects of Universal Health Insurance on Health Care Utilization, and Supply-Side Responses: Evidence from Japan (with Ayako Kondo)
Journal of Public Economics, 99: 1-23, 2013.
日本では皆が医療保険に加入している皆保険が今では当たり前になっています。しかし、アメリカでも皆保険に近づいたのはつい最近ですし、途上国では皆保険からはまだ程遠いところにあります。そういう日本も皆保険を実現できたのは1961年でした。そこで本研究では、皆保険の導入によって、医療需要がどのように増えたか、また医療の供給側(医者数、ベッド数、病院数等)がどのように変化したかを分析しました。
Working Papers(概要)
“Invisible Killer”: Seasonal Allergy and Accidents (with Mika Akesaka)
世界中少なくとも4億人の花粉症患者がいるにもかかわらず、花粉が人々の経済活動に与える影響について、驚くほど研究が進んでいません。日本耳鼻咽喉科学会の報告によると、我が国の花粉症患者は、1998年19.6%、2008年29.8%、2019年42.5%と過去20年間で急増しています。温暖化の影響を受けて、今後さらなる花粉量および患者数の増加が見込まれています。ところが日本政府の花粉対策予算は、例年約1億円と非常に少額です。花粉対策が軽視される原因として、その経済損失が定量化されていない点が挙げらます。そこで本研究では、2007-2019年の日本で発生した救急搬送全件を収録したデータを用いて、花粉量の増加が、交通事故や労災事故等の事故数に与える影響を推定しました。また、その結果に、ケガや死亡時の保険補償金額を掛け合わせることで、花粉による経済損失額を推計しました。
- メディア: 日経新聞, NTTDocomo, 東洋経済 (共著者の明坂氏による解説), 日経MJCEO Gender Bias in the Formation of Firm-to-Firm Transactions (with Yutaro Izumi, and Masayuki Yagasaki)
CEOに占める女性の割合は低い。しかし、ビジネス環境において彼女たちが直面する障壁はまだ十分に理解されていません。本研究では、TSR社が保有する日本企業約100万社の取引データを用い、CEOのビジネス・ネットワーク形成におけるジェンダー・バイアスについて調べました。その結果、CEOが同性同士の場合は、異性同士である場合に比べて、5%ほど有意に取引をする確率が高いことがわかりました。また、CEO自身が取引に強く関与していると推測される中小企業で特にその傾向が強く、大企業が関与する取引ではその傾向は見られませんでした。CEOの多くが男性である現状では、このような同性を好む傾向(同性バイアス)は、男性CEOに比べて女性の取引機会を減少させると考えられます。次に、このような同性バイアスがなぜ生じるかについて、内閣府と共同でCEOへのアンケート調査を行いました。その結果、1)男性CEOが女性CEOと知り合う機会があまりない、2)男性CEOが女性CEOよりも男性CEOとの交流をより好む、の2点が観測され、これらの要因が同性バイアスを発生させていると考えられます。
- Economic & Social Research No.43, 2024年2月発行 (共著者の矢ヶ崎氏による解説)Education and Later-life Mortality: Evidence from a School Reform in Japan (with Kazuya Masuda)
教育と健康には正の関係があり、教育水準の高い人ほど長生きすることが知られています。ただ、これがただの相関(Correlation)なのか、因果関係(Causation)なのか、については未だよくわかっていません。本研究では、日本における1947年の教育基本法の制定の際に、義務教育が小学校から中学校修了へと改正されたことに注目し、影響を受けた層と受けなかった層を比較することで、教育が寿命に与える影響を調べました。Policy Diffusion Through Elections (with Yasutora Watanabe)
日本では、医療費の自己負担率は原則3割と定められているが、子どもに対しては多くの自治体が助成を行い3割分を負担して、医療費を「タダ」にしている。本論文では、こうした子供医療費助成の受給資格年齢の拡大(例えば、小学修了→中学修了)が、首長選挙の前後で行われること、また、単に選挙のタイミングで広がるのではなく、その市町村の無償化の対象年齢が、周囲の市区町村より低い選挙の場合に広がることを示しました。すなわち、首長が選挙への悪影響を恐れ、周囲の市区町村に追いつこうとすることで、こうした政策が地理的にどんどん波及していくさまを示しました。また、前回選挙で対抗馬がいたり、首長が多選であったりする場合に特にその傾向が強いことがわかりました。
- メディア: 日経新聞
Long-term Consequences of Growing up in a Recession on Risk Preferences
経済的な意思決定の多くは、その人がどの程度リスクを取る人なのか(リスク選好)に依存していますが、ではそのリスク選好が人々によって異なる理由はなぜでしょうか。リスク選好の違いがどこから生まれてきているのか、については実はほとんどわかっていません。そこで本研究は、思春期の景気状況が、成人したあとのリスク選好に影響を与えているのでは、という仮説を検証した論文です。School Entry Cutoff Date and the Timing of Births
4月生まれの方が3月生まれより学校の成績やその後就職した後の賃金が高いことがいくつかの研究で示されています。そこで、親が子供の将来を考えて、4/1生まれ(年少)ではなく4/2生まれ(年長)になるようにするか、その場合は、4/1以前ではなく4/2以降に帝王切開を予定するか、を日本の出生票やレセプトデータを用いて分析しました。少子化対策として、ある日付以降に生まれた子供には補助金を出すと言った政策は世界で行われており、そういった「短期」の金銭的なインセンティブに出産のタイミングが影響されることは知られていました。本研究ではより長期のインセンティブ、つまり生まれてくる子供の将来の成績、といったことまで影響するのかを調べました。
2024年10月に更新