研究内容

分子ツールを用いた

生物間相互作用の理解

変動する自然環境下で、多様な生物はどのように相互作用し、バランスを保ちながら共存しているのでしょうか。ゲノムに刻まれた配列情報とその機能に着目し、最新の分子ツールを生態学に取り入れることで、生物間相互作用の多様性とその維持機構の解明に取り組んでいます

植物のトランスクリプトーム解析

遺伝子発現は全ての生命活動の出発点となります。RNA-seqによるトランスクリプトーム解析はこの遺伝子発現を全遺伝子について網羅的に測定する技術です。この手法を使うことで、変動する環境や生物に植物がどのように応答しているのかを機能の面から網羅的にとらえます。また、配列情報の比較から多様性や進化の理解につなげることが可能です。

 日本に自生し多年生常緑の草本であるアブラナ科ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)は、分子生物学のモデル植物であるシロイヌナズナに近縁です。そのため、ゲノム配列や遺伝子機能の情報を利用でき、トランスクリプトーム解析などの研究に最適です。これまで配列情報を用いた地域適応や集団分化の研究もおこなわれてきました(Honjo et al. 2019)。

 私たちは、ハクサンハタザオを用いて、自然環境下でのトランスクリプトーム解析をすることで、自然環境下での植物の季節応答や環境適応、生物間相互作用の研究を行っています。

ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)

開花個体

植物-ウイルスの相互作用

自然生態系では野生植物に顕著な病徴を示さずウイルスが広く感染していることが分かってきました。野生植物を対象にし、これまで農作物と病原ウイルスでは知られていなかった相互作用の解明に取り組んでいます。

 アブラナ科ハクサンハタザオには、カブモザイクウイルス(TuMV: Turnip mosaic virus)が3年以上にわたり顕著な病徴を示さず感染していることが分かってきました(Honjo et al. 2020 ISME J)。また、カブモザイクウイルスの増殖は、温度依存的で冬に抑制され、春先の温度上昇とともに全身に広がります。トランスクリプトーム解析からは、植物が季節により異なる防御機構でウイルスに対抗している可能性が明らかになりました。春にはサリチル酸応答遺伝子が、秋にはRNAサイレンシングに関わる遺伝子の発現が感染個体で上昇しています。

 網羅的なウイルスの検出を行うため、従来のpolyA配列をターゲットにしたRNA-seq法ではなく、rRNAを除去したRNAを対象にしたRNA-seq手法を確立しました(Nagano & Honjo et al. 2015)。この手法を用いて、ハクサンハタザオの野生集団では、カブモザイクウイルスに以外にもキュウリモザイクウイルス(CMV: Cucumber mosaic virus)、アブラナ萎黄ウイルス (BrYV: Brassica yellow virus)、Arabidopsis halleri partitivirus 1の重複感染が見られることもわかってきました(Kamitani et al. 2016)。

ハクサンハタザオのカブモザイクウイルス感染個体と非感染個体

Honjo et al. (2020) ISEM J