近年の猛暑傾向に伴い、熱中症の発生が急増したことで、脱水症に対する意識は高まったが、一般には脱水症と熱中症が混同されている傾向がある。熱中症は「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」と定義され、脱水症はその機序のひとつだが、脱水症自体は暑熱環境であるか否かにかかわらず発生する体液量の異常であり、熱中症とは分けて捉える必要がある。高齢者のほとんどは季節にかかわらず慢性的に脱水傾向にあると言える。
健康な状態では、尿や便、汗だけでなく、呼気や粘膜、皮膚から意識しないうちに失われる不感蒸泄をあわせて、成人では1日に約2,500mLもの水分が失われる。その一方で、食物から1,000mL、飲料から1,200mLの水分を摂取し、さらに栄養素の代謝の際に生じる代謝水として300mL程度が産生されることで水分の出納バランスを保っている。しかし、激しい運動や暑熱環境下、発熱などによる発汗量の急激な増加や、下痢や嘔吐による体液喪失量の増加、飲食による水分摂取の著しい低下、薬剤摂取(SGLT2阻害薬、利尿薬、便秘薬、経腸栄養剤など)に よる影響などにより、前述の調節力をもってしても是正できない範囲となると、水分のINとOUTのバランスが崩れ脱水症となる。
1日のうちの体重の変化は1.4kg以内が正常範囲とされているので、この範囲を超えて大幅に変動する場合には、何らかの体液の量的な異常が存在する。
日常の体重から正常の変動範囲を超えて体重が減少していれば、体液が喪失した状態、すなわち脱水症と考えられる。「正常の変動範囲を超えて」について、正常時の体重からの体重減少率が 3%未満であれば、脱水症がないか軽度、3~9%が中等度、10%以上が重度の脱水症と分類される。
脱水症はその成因により慢性型と急性型に分類される。慢性型は体液量が少ない高齢者に起こりやすく、長期にわたる摂食量および飲水量の低下や、湿度の低下に伴う不感蒸泄の増加などが原因と考えられている。急性型は、暑熱環境で起こる熱中症や、感染症で起こる下痢、嘔吐、発汗などに伴う大量の体液喪失が主要因。
成人では脱水症により細胞外液が喪失しても、すぐに細胞内液から体液が移動して細胞外液を補正するが、細胞内液が少ない高齢者や、細胞外液が多い小児では脱水症に陥りやすくなる。また、環境面では、発汗により体液喪失が増加する高温状態だけでなく、不感蒸泄が増加する乾燥状態も要因のひとつ。
脱水症で出現しやすいのが、脳、消化器、筋肉の症状。脳の水分が枯渇すると立ちくらみや頭痛、集中力低下、意識消失がみられ、消化器の水分が低下すると、食欲低下や悪心、下痢、便秘といった症状がみられる。筋肉では筋肉痛やしびれ、麻痺、こむら返りなどの症状がみられる。
爪を押した後に色が白色からピンクに戻るまでの時間(毛細血管再充満時間)の確認などは比較的実施しやすい方法。高齢者の場合、皮膚をつまんだ際の戻りの低下や 口腔内の乾燥、手足の冷感などがよく観察される。
また、小児や高齢者では、脱水症の症状に伴う兆候に特に注意が必要。小児では、諸症状の発現を言葉で表現することができないので、急に元気がなくなる、機嫌が悪い、食欲がないという様子が観察される。高齢者では、認知機能や記憶力の低下、日中に眠くなるなど生活リズムの変化、突然暴れたり大声を出すといった症状が出現することがある。また、加齢とともに汗腺の機能が低下し、脇の下と額にだけ汗をかくようになるので、正常な高齢者は、脇の下が湿っている。脇の下が乾燥している高齢者は、脱水の進行が疑われる。
脱水の種類
体液は水だけではなく、いろいろな電解質を含んでいる。なかでもナトリウムイオン(Na+)は、浸透圧の調整に重要である。
脱水は、①水分だけが減る場合(水欠乏性脱水)、②水とナトリウムイオンの両方が減る場合(混合性脱水)、③水とイオンと両方が減った時に水のみを補給した場合(ナトリウム欠乏性脱水)の3つに分けられる。
最も多いのは、②の混合性脱水。脱水では、水やナトリウムイオンの減少によって浸透圧も変化する。
高張性脱水(水分欠乏型)
○水分>電解質で失われている。
○細胞内から外へ水分が移動し、細胞内が脱水状態になる。
○原因:水分摂取不足、発熱・発汗、軽度下痢=水だけ失う疾患
いちばん多いのは、水の摂取不足。大量の汗をかいた時にも起こる。また、尿崩症や、利尿薬を服用している場合に、腎臓での水の再吸収が障害されて水分を多く含んだ尿が多量に出てしまうため、脱水になることもある。尿崩症とは、抗利尿ホルモンの不足により、溶質の少ない低比重の尿を慢性的に大量に排出し、脱水と極度の口渇を伴う状態のこと。
水分摂取が不足したり、大量の汗をかいたりすると、細胞外液の水分が少なくなる。その結果、細胞外液のナトリウムイオン濃度が高しない浸透圧が増加する。すると、浸透圧を元に戻そうとして細胞の中の水分が細胞の外に出ていき、細胞は脱水状態になってしまう。濃い塩水に細胞を入れると、細胞から水が出てしぼんでしまうのと同じメカニズム。このように水分の欠乏が主で、相対的に細胞外液のナトリウムイオンの濃度が増して浸透圧が高くなる脱水を、「高張(こうちょう)性脱水」と呼ぶ。
低張性脱水(Na欠乏型)
○電解質>水分で失われている。
○細胞外から内へ水分が移動し、細胞外液が脱水状態になる。
○原因:利尿剤、激しい下痢
※嘔吐、下痢に水のみを摂取すると低張性脱水となる。
ナトリウム欠乏性脱水は、高温下での作業や激しい運動によって大量の汗をかいた時などに、水分と一緒にナトリウムイオンが体外に出てしまっているにもかかわらず、水分だけを補給すると起こる。また、嘔吐や下痢、熱傷でも、水分だけでなく電解質が失われるために電解質の補給が不十分だとナトリウム欠乏性脱水が起こることがある。
細胞を薄い食塩水につけると、パンパンに膨らむ。これは細胞内液の電解質の濃度が高いため、細胞内に入ってきてしまうことによって起こる現象である。同じように、細胞外液のナトリウムイオンが失われた場合に水だけを補給すると、浸透圧が下がり、「低張(ていちょう)性脱水」の状態になる。この時は、細胞外液と細胞内液の電解質濃度を等しくしようとして水が細胞外液から細胞内に移動する。その結果、脱水による細胞外液の減少はますます助長され、細胞内液の電解質濃度が低下してしまうことになる。
なお、水分とナトリウムイオンの両方が失われる混合性脱水で、浸透圧が変わらない場合は「等張(とうちょう)性脱水」と呼ぶ。
人間が生きていくうえで、体液の浸透圧を一定に保つことが極めて大切。
脱水の観察のポイントは?
脱水症状の観察にあたっては、水分の欠乏による脱水か、それともナトリウムイオン等、電解質の欠乏を伴う脱水かを見極めることが大切である。
体液には血液も含まれるから、脱水によって血圧は下がる。特に、ナトリウム欠乏性脱水では、細胞外液中の水分が細胞内に移動するために循環血液量の減少が大きく、血圧低下はより著しく現れる。それに伴い、心臓が末梢組織に必要な酸素を供給するために収縮を速めるため、頻脈になる。また、血液が濃縮するために粘度が高くなり、ヘマトクリット値が上がる。
水欠乏性脱水では、のどの渇き、体温上昇、発熱などを伴い、尿量が著しく減少する。舌や脇の下など、いつもは湿っている場所が乾いているかどうかが、脱水の有無をみるよい目安になる。皮膚の張りはなくなり、しわが目立つようになる。
一方、ナトリウム欠乏性脱水ではのどの渇きは無い。尿量も変化はないか、多少減少する程度。意識障害などの神経症状が出ることが特徴。嘔吐、頭痛に加え、重症になると昏睡状態に陥いる。放置すると循環血液量が減り、ショックになってしまう。
なお、熱中症ではその程度で低張性脱水、高張性脱水、等張性脱水であったりするが、実際は等張性脱水である事が多い。