私の研究内容は,多重連結領域における函数論(複素解析)と,その関数の流体力学への適用です.複素解析は古くから研究されている分野ですが,今もなお数値計算・理論の両面で発展が続いている分野になります.私はその中でも,考えている領域の中に複数の障害物・空洞が含まれるような,多重連結領域において定義される解析的な函数に興味を持っています.そこで定義される函数,D.Crowdyにより構築されたSchottky-Klein prime 関数を用いることで,様々な流体・電磁気の問題に対し,新しい解法を提案することが可能になります.以下,いくつかのこれまでの研究をピックアップします.
なお,上記のSchottky-Klein prime 関数はGithubのコードがあります.私は,このGithubのコードを少し改良したこちらのコードをPathに追加して実装しています.
多重連結領域におけるVan der Pauw法
Fay's trisecant identity とその証明のために重要な包絡線のMatlab codeはこちら.
多重連結領域の等角写像を用いた流体計算
ヒートシンク内のフィン配列は,限られた空間で高い熱輸送量を実現するために利用されますが,その性能はフィン間および shroud 内部で形成される流れ場に強く依存します.特に,流れが十分に発達した領域では,速度分布および圧力損失が幾何形状のみから決定されるため,厳密な解析解が得られれば,設計や最適化に極めて有用な情報を提供します.
単純なチャネル形状に対しては fully developed flow の解析がよく知られていますが,フィンが周期的に配置され,さらに shroud によって上側に境界がある系は,境界形状の複雑さから解析的取り扱いが困難であるという問題がありました.こうした構造では.支配方程式が複雑な境界条件を伴い,従来手法では正確な速度分布や圧力勾配を得ることが難しいという制約がありました.
超撥水チャネルに刻まれた溝構造は,液体と気体の界面における有効なすべり条件によって流動抵抗を低減させます.数学的には,この流れ場は溝上の固体領域では no-slip,気相領域では shear-free を課した混合境界値問題として定式化されます.しかし,実際には圧力条件により液体が溝内部へ部分的に侵入し,気相領域が縮小するため,境界形状が未知要素を含むより複雑な問題になります.
従来は,完全に乾いた(dry)場合や完全に液体が満たした場合といった状態については解析解が得られていましたが,中間的な部分侵入状態を厳密に扱う理論は十分に整備されていませんでした.本研究では,この partially invaded な構成に対して,Stokes 方程式と混合境界条件からなる問題の厳密解を多重連結領域の函数論を用いて導出し,有効すべり長の定量的評価を行います.これにより,中間状態の流動特性を統一的に扱うための解析的枠組みを提供しました.
流れの計算コードはこちら.