大学院入試で北村を指導教員として希望される方に向けて,研究指導に関する情報提供を行うことを目的としています.
経済学は学部と大学院で教育内容にギャップがあります.
学部教育では,幅広い教養を身につけることを重視されています.すでに明らかになっている経済学的な分析結果について,数学が苦手な人向けにわかりやすく説明する授業が多く,知識を得るという側面が強いです.プロの研究者が使う高度な分析ツールを修得して,卒業論文を執筆することが必ずしも求められないため,教員の専門から多少離れた内容であっても,学生がやりたい研究テーマを設定できることが多いです.学部の北村ゼミでは,そうした運用をしています.
一方,大学院教育では,学術的な研究が重視されます.まだ明らかになっていない事象に関して,専門家レベルの分析をすることが院生に求められます.このため,1年目は分析ツールを身につけることを重視した教育内容になっています.学部の感覚で大学院に進むと大きなギャップを感じることもあるかもしれません.
また,大学院では,指導教員が指導可能と考える範囲の研究内容でないと適切な指導が難しくなります.このため,大学院の入試では研究内容が指導可能であるかも重視しています.言い換えると志願者の意欲や能力が高くても,研究内容が指導不可能と判断されると合格は難しくなります.
ゲーム理論を中心とする産業組織論の分析ツールを利用した理論分析の論文を執筆することを念頭においた指導をおこなっています.実証分析の指導はおこなっていません.
入学段階で分析ツールを習得している必要はありませんが,私の指導では数学的な内容の課題をこなすことで,分析ツールの修得を目指します.実証分析はパソコン上で行うのが基本で,結果を出す上で自分で計算する必要はありませんが,理論分析では自分で手を動かして解くという作業が必要となります.上手く解けるように理論モデルを設定する必要がありますし,理論分析で論文を書くのは困難が伴いやすいと思われます.また,分析ツールの習得にはそれなりの時間をかける必要があります.こうした部分は,他の院生よりも負担が重たいかもしれません.
産業組織の分野の研究は,英文雑誌に掲載されており,日本語の文献だけで研究をするのは難しいです.必要に応じて,英語の文献をチェックすることも求められます.最近はAIを利用して論文を読む人もいるようですし,昔よりはハードルは下がっているかもしれません.
上記の内容から,簡単とは言えない部分がありますが,分析を通じて経済学的な視点から社会を分析する素養は身につくと思います.私自身は,分析を通じて新しい知見を得ることを生きがいにしています.
研究業績一覧の中の日本語文献を確認することで,研究内容を把握することができると思います.数式の意味は大学院2年目から分かる内容ですし,今は分からなくても気にする必要はありません.
私自身の大学院での学びは,非常に刺激的でした.皆さんにとってもそうした経験ができるよう尽力したいと考えています.